とりあえず、この話含めて三話連続で新作です。
第三十五話 ホント、私とは大違いね
ええっと、どうして私はこんなところに居るんでしたっけ。
たしか、司令官に執務室に呼び出されて、深海棲艦から逃げながら太平洋を日本へ向かって横断中の船舶の救助を命じられたのは覚えているのですが、どうして
『アテンションプリーズかも!当機はまもなく、救出目標上空を通過するかも!』
語尾のせいで曖昧になってます。
は、置いといて、たった今スピーカーを通してアナウンスしてくれたのは、水上機母艦の秋津洲さん。
なんでも、私たちがなんやかんやの末に、艤装を装備して押し込まれた二式大艇の操縦ができるのが彼女だけだそうで……じゃない!
とんでもない文言が交じってませんでした!?
「救出目標上空を通過ってことは……。相変わらず、秋津洲さんは敵中突破が好きなのね」
ほうほう。
満潮さんは、以前にも秋津洲さんが操縦する二式大艇に乗ったことがあるんですね。
私は二式大艇どころか飛行機に乗るのも初めてですが、他の軍用機も、壁際に艤装を背負ったまま座れるスペースが設けてあるんですか?
「まあ、今回は前と違って空母はいないって話だから……」
「でも大潮ちゃん。空母はいなくてもぉ、対空射撃はあるはずよぉ?」
以前は空母がいる中を突っ切ったんですか?
よくそれで無事でしたね。
いや、それ以前に、敵中を突破したあとどうやって抜錨するのですか?
まさかとは思いますが、私たちが搭乗する際に開いていた、二式大艇のお尻から飛び降りるんじゃないですよね?
「ねぇ、あれってぇ、どう見ても民間の船じゃないわよねぇ?」
「うん。どう見ても軍用。しかも、揚陸艦だね」
ちなみに揚陸艦とは、人や物資の輸送を目的とした艦船のうち、岸壁などの港湾設備に頼ることなく自力で揚陸する能力を持ち、海岸に直接、もしくは自らに積載したヘリコプターやホバークラフト、上陸用舟艇を介して歩兵及び戦闘車両などを上陸させる艦船のことです。
つまり、私たちが助けに来たのは軍人さんと言うことですね。
「軽巡棲姫1に駆逐棲姫2。あとはナ級が3か。戦力はあっちの方が上ね」
あれが姫級。
深海棲艦でも上位に位置する艦級ですか。
しかも、それが三隻。ナ級も、重巡の火力に雷巡の雷装、軽巡の耐久・対空・装甲を併せ持つと言う、艦種詐欺だと言いたくなるような駆逐艦だと聞いた覚えがありますので、満潮さんが言った通り数字上の戦力は完全にあちらが上です。
でもまあ、こちらには……。
「秋津洲、『R1』と連絡は取れたの?」
『取れてないかも。あちこち被弾してるかもだし、通信装置も壊れてるかも?』
「言い方が曖昧すぎる。罰として、帰ったらこの二式大艇はスクラップね」
『酷いかも!?お嬢の悪魔!』
全身真っ赤な悪魔がいます。
性格は破綻していますが、戦力的には百万の味方を得たようなものです。
「大潮。あなたたち第八駆逐隊はナ級を気にせず、R1に迫ってる姫級を足止めしなさい。可能なら、撃破してもかまわない」
「それは、神風さんが一人でナ級三隻を相手にする。ってことですか?」
「そうよ。私とあなたたちの戦闘力の差を鑑みたら妥当でしょ?」
そうなんですか?
三人とも黙っていますが、特に反論はないようなので妥当なんでしょうね。
それにその方法なら、私たちが受け持つ方は四対三。私を戦力に数えて良いかは微妙ですが、数的には優位に立てます…·…って、あれ?機体が妙に揺れている気が……。
『当機はただ今、敵防空圏を突破中かも!総員、舌を噛んじゃダメかも!』
「総員、万が一に備えて装甲を張りなさい!空中でも、機銃弾くらいならなんとか防げる!」
神風さんに言われて慌てて装甲を張りましたが、本当に防げるんですか?
そりゃあ、全くないよりはマシなのでしょうが、艦娘、特に駆逐艦の装甲は、海から離れると文字通りの紙装甲なんですよね?
『お嬢!敵防空圏を突破!抜錨準備をしてほしいかも!』
「わかった。後部デッキを開けて!」
そうこうしている内に突破しましたか。
掠ったような衝撃は何度かありましたが、直撃弾は一発もなかったようです。
これは運が良かったのでしょうか。
それとも、かもかも言ってる秋津洲さんの操縦技術が想像以上に卓越していたからかも?
「私から出るわ。秋津洲は私たちが全員降りたら上空にて待機。間違っても、置いて帰るんじゃないわよ!」
『了解かも!』
言うや否や、海面スレスレを飛行する二式大艇から、神風さんが後ろ向きで飛び出しました。
ダイビングで言うところのジャイアントストライドエントリー、それを後ろ向きでやった感じでしょうか。
「大潮たちも出るよ!」
「りょ~かぁい♪ぜぇんぶ私が沈めちゃうんだからぁ♪」
続いて大潮さん、荒潮さんの順で飛び出しました。
次は私の番ですが、上手くやれるでしょうか。
「朝潮!手摺に掴まりなさい!秋津洲さん!一度上昇して!」
『かも!?りょ、了解かも!』
満潮さんの指示で、後部デッキを開けたまま二式大艇が上昇しました。
満潮さんは何を考えているのでしょう。
まだ距離はあるようですが、これでは大潮さんと荒潮さんが、二人で姫級三隻の相手をすることになりますよ?それに、満潮さんの行動は予定外だったらしく、通信装置を通して大潮さんが怒ってます。
「そのまま左旋回!後に、敵艦隊とR1の間に割り込んで!」
『敵の正面に!?んな無茶な!撃墜されちゃうかも!』
「良いからやって!私と朝潮を降ろしたら、秋津洲さんは再度上昇して!」
『う~……。死んだら満潮ちゃんを恨んでやるかも!』
本当に、満潮さんは何を考えているんですか?
私と満潮さん、それに後ろから来る大潮さんと荒潮さんで、敵を挟撃するつもりなんですか?
「全感覚、全神経を解放。コネクト開始」
二式大艇が再度降下を開始すると同時に、手摺に掴まったまま満潮さんが目を閉じました。
こんな時に何を?
もう数十秒後には、敵艦隊の前を横切るのに……。
「コネクト完了。総員、指示を待ちなさい」
「え?あの……」
指示を待て?総員?
満潮さんの言っていることが、何一つ理解できないのですが……。
『満潮ちゃん!』
「ええ、わかってる。朝潮から出なさい。そして着水と同時に、狙いなんてつけなくていいから左方に雷撃」
「で、でも、それでは後方から向かっている二人に魚雷が……」
「あの二人なら大丈夫。だから、言うことを聞いて」
「わかり……ました」
満潮さんの指示に従うこと自体に不満はありません。
ですが、これは満潮さんの独断専行なのでは?
だって今も、大潮さんが「降りるな!」と言ってますし、荒潮さんも、「何考えてるの!?」と、音割れがするほど叫んでいます。
「今よ!行きなさい!」
「は、はい!」
それなのに、満潮さんは二人を無視して、私に出ろと命じました。
満潮さんの考えがわからなすぎて、初めての割に上手く着水できたとか、言われた通り魚雷を撃てたなどの感想を抱く余裕もありません。
「アンタはそのまま、軽巡棲姫を沈めなさい。駆逐棲姫と大潮たちは、私が抑える」
「ですが……!」
「グダグダ言ってないでやれ!アンタは、司令官の役にたちたいんでしょ!」
そう言い残して、200mほど前方に着水した満潮さんが、自らと軽巡棲姫の間に砲撃で水柱の壁を作りながら後方へと向かって行きました。
駆逐棲姫はわかりますが、どうして大潮さんたちまで?それでは満潮さんが、大潮さんたちと敵対することになるんじゃ……。
「くっ……。考え事をしてるって言うのに!」
敵は関係なく砲撃してきました。
避けるほどでもない砲撃でしたが、右に舵を切ったせいで満潮さんとの距離が開いてしまいました。
私が満潮さんに追い付くには、軽巡棲姫を倒さなければなりません。
「ならば、沈めるのみ!」
私は大きく左に旋回し、軽巡棲姫と反航戦を開始しました。
さて、どうやって倒す?
訓練の空き時間に頭に叩き込んだ深海棲艦型録によると、敵のスペックは完全に私より上。勝っているのは速力と機動力くらいのもの。
ですが、二つも勝っているのなら……。
「充分すぎます!」
私はすれ違ったあとに捻り駒で急反転。からの、飛魚3回で敵の背後を取りました。
見様見真似のわりに上手くできました。
これで敵の砲撃、及び雷撃の頻度は減る。
なぜなら深海棲艦も、艦娘と同じで下半身の動きに融通が利かないのですから。
「一発秘中!肉薄するわ!」
あとは確実に当てられる距離まで接近し、私が持てる全ての火力を叩き込むだけ。
ですが、敵も、そうはさせまいと舵を切り、なんとか射線を確保して砲撃してきます。
「もう何回か飛魚で……。ダメですね。距離がありすぎます」
飛魚で跳べる最大距離は約10m。
さらに、私が確実に当てられる距離となると100m前後。
なので、私と敵との距離は約300m離れていますので、最低でも二十回は跳ばないといけません。
せめて、この距離でも当てられるほどの砲撃精度が私にもあれば……。
「どうやら、砲撃は私の方が上手いみたいね」
はあ、そうですか……って!今のは誰?私が言った?
ですが、私にしゃべった覚えはありません。なのに、どうして……。
「満潮が何を考えているかはわからないけど、姫級撃破が最低条件なら、ここからは私がやるわ」
また、私が勝手にしゃべった。
それと同時に、視界が遠くなった気がします。さらに、体の自由も利かなくなっている。
まるで、誰かに体を乗っ取られたような感じです。
「なんだ。私よりずっと上手いじゃない」
私は……。いえ、私の体を使う何者かは、左右に舵を切って狙いを定めさせまいとする軽巡棲姫に、なんなく砲撃を命中させ続けています。
その数、20発。
内、一発も外していません。
いや、ただ当てていたわけではありません。一発当てるごとに減速し、距離を開けつつ撃っていました。
20発目を撃ち終わった今は、軽く500mは開いています。
これではまるで、砲撃精度を確認していたかのような……。
「トドメです。魚雷、一番から四番!発射!」
この魚雷も全弾命中。
どうやら私の体を使っている誰かは、ただ砲撃していただけではなくトドメの魚雷を避けられないように、敵の速度まで殺していたようです。
「軽巡棲姫をこうもアッサリと……。ホント、私とは大違いね」
何が違うのですか?
今の結果は、あなただから出来たのではないのですか?
少なくとも私には、あんな500mもの距離から正確に敵を砲撃するなんて芸当は出来ません。
それなのに、どうしてあなたは、
どうして、あなたは……。
「あれ?なんでしたっけ」
何かを言おうとしたのですが、何を言おうとしたのか思い出せません。
それ以前に、軽巡棲姫はどこに?ああそうだ、沈めたんでしたっけ。でも、誰が……。
ん?後ろからこっちに向かっているのは大潮さん?
その後ろには、両肩に気を失っていると思われる満潮さんと荒潮さんを担いだ神風さんが続いていますね。
四人がこちらに来ていると言うことは、他の敵艦も撃破できたと考えて良いのでしょう。
「朝潮ちゃん!無事!?」
「あ、大潮さん。はい、私は平気です」
「よかった……。満潮のせいで、朝潮ちゃんを危ない目に遭わせちゃってごめんね。満潮はちゃんと、大潮がお仕置きしといたから」
「は、はあ……」
確かに満潮さんの独断専行のせいで、私は軽巡棲姫と一対一で戦う羽目になりましたが、それは必要なことだったからです。
だってこれで、満潮さんが提示した条件はクリアできたはずなんですから。
「あ、あの、二人はどうしたんですか?怪我もしているようですが……」
「荒潮は満潮にやられた。満潮は、さっき言ったように大潮がお仕置きしたよ」
さすがに距離があるので詳細までは見えませんが、満潮さんの様子を見る限り、お仕置きと言って良いレベルを越えているような気がするのですが……。
「ちょっと大潮!怪我させた妹の面倒くらい、あなたが見なさいよ!」
そうこうしている内に、神風さんが追い付きました。
やっぱり、お仕置きなんてレベルじゃありませんでした。
満潮さんは大破。荒潮さんも、中破以上は確実です。
それに対して、大潮さんはほぼ無傷。制服が少々焦げている程度です。
もしかして三人は、駆逐棲姫二隻を相手しながら、本気で喧嘩してたんじゃ……。
「あれ?連れて来てくれたんですか?他に敵の反応もありませんから、あのまま浮かせといても良かったのに」
「それ、本気で言ってるの?本気で言ってるんなら、今ここであなたの性根を叩き直すわよ」
「冗談ですよ。それよりほら、R1から誰かこっちに来てますよ?」
神風さんの視線をかわすように、大潮さんが顔を向けて促したのでつられて見てみると、たしかに誰かがこちらに向かって来ています。
アレは……艦娘、ですよね?
彼女はくすんだ茶色の髪と瞳で、後ろ髪を二房の三つ編みにしていて、その頭にスッポリとフードを被っています。
絵本で見た赤ずきんちゃんみたいな感じですね。
ただし、黒系統の色で統一されていますので、赤頭巾ちゃんと言うよりは黒頭巾ちゃんですが。
「久しぶりねシャドー1。無事でなによりだわ」
「お久しぶりであります。お嬢。救援、感謝いたします」
シャドー1?
変わった艦名ですね。
もしかして米国艦なのでしょうか。
いやでも、神風さんのことをお嬢と呼びましたし、お互いに顔見知りのようです。
そんな私の疑問を察してくれたのか、黒頭巾ちゃんは私に
「お初にお目にかかります。本艦は奇兵隊実働部隊、『影』所属。コールサイン、シャドー1。陸軍特種船の神州丸です。以後、お見知り置きを」
と、抑揚のない声で自己紹介してくださいました。
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