艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第三十九話 クソ親父

 

 

 

 

 

 まったく今日は散々だったわ。

 朝潮が壊れたのを私のせいにされたし、八駆の部屋から出た途端に朝風たちに捕まって、輪形陣でお祝いされるしで踏んだり蹴ったりよ。 

 なんとか離脱して先生の部屋に逃げ込んだはいいけど、それから一切外に出ることができなかったわ。

 だってあの子達、消灯時間まで私を探し回ってたんだもの。

 おかげで夕飯の買い出しができなくて、冷蔵庫の中身で何を作るか悩む羽目になっちゃった。

 そのせいか知らないけど、先生が妙に落ち込んでるわ。  

 

 「朝潮に知られた……」

 

 知られた?もしかして、部屋の中での先生を?

 べつにいいんじゃない?

 だってあの子、幻滅するどころか逆に憧れてたんだから。

 って言うか、夕飯がないかもしれないことに落ち込んでたんじゃなかったんだ。

 

 「そんなにショックなら直したら?ハッキリ言って、朝潮じゃなきゃドン引きするレベルで酷いわよ?」

 「お前がベラベラ喋るんが悪いんじゃろうが。それにお前、オレと同じ布団で寝ちょることも言うたんじゃろ?」

 「言ったけど……」

 

 あの子、それに関しては知ってるっぽかったわよ?

 だって過剰反応しなかったもん。

 って言うか、知られたからって気にすることないじゃない。何もないんだし。

 私が子供の頃から、同じテントや部屋で寝てたんだから今さらでしょう?

 

 「誤解したじゃろうのぉ。お前が夜一人で寝れさえすりゃあ、ここに住まわせんでも済んだのに」

 「べ、べつに一人でも平気だし!先生が寂しがっちゃいけないから、一緒の部屋に居てあげてるのよ?」

 「ほう?第一駆逐隊の部屋は空いちょるけぇ、今日からでも使ってええんぞ?」

 「遠慮しとく。掃除とか面倒くさいもん」

 

 そう、掃除が面倒だから部屋を使わないの。

 けっして、夜を一人で過ごすのが怖いわけじゃないし、誰かに抱きついてじゃないと寝られないからでもないわ。

 

 「まあ、ええわい。腹減ったけぇ、なんか適当に作ってくれんか?」

 「たまには先生が作ってよ。いつも私じゃない」

 「家賃替わりじゃボケ」

 

 何が家賃よ。

 先生の部屋と言っても、鎮守府の施設の一部じゃない。

 まあ、寮と違ってセキュリティは万全だし間取りは広いし、台所とか生活に必要なものはほとんどあるから、ちょっとくらい家賃を払ってもいいかな~なんて思うことはあるわ。払ったことはないけどね。

 

 「はいはい、わかりました。で?何が食べたいのよ」

 「酒のつまみになりゃあ、なんでもええ」

 「なんでもいいが一番困るの!同じことを何回言わせるのよクソ親父!」

 「……じゃあ、卵焼き」

 「またぁ!?先生って、何食べたいか困ったら絶対に卵焼きって言うよね!」

 「お前が何が食いたいか言えっちゅうたんじゃろが!言うたんじゃけぇさっさと作れや!」

 

 さっさと作れですって?

 ええいいわよ。作ってやろうじゃない。卵焼き食いすぎて高血圧になっちゃえバカ親父!

 

 「……べつに、困ったわけじゃないけぇの」

 「何よ、急に」

 「死んだ女房が作ってくれる卵焼きが、好物じゃった」

 「そう……」

 

 先生の奥さんが作ってくれた料理の味を思い出すことなんて、時間が経ちすぎて私にはもうできないけど、先生にとっては忘れたくても忘れられない味なんでしょうね。

 でも……。

 

 「私が作った卵焼きなんて、奥さんの卵焼きとは程遠いでしょ。ほら、何て言ったっけ、あの卵焼きをやたらと作りまくってる軽空母。あの子に作ってもらった方が……」

 「お前が作ったんでええ。瑞鳳のは、旨すぎる」

 「本当に、いいの?」

 「ああ。お前の卵焼きは、女房が作ってくれた卵焼きによう似ちょる」

 「それは……」

 

 先生の注文を聞いてたからでしょ。

 ほら、最近は減ったけど、先生って私が卵焼きを作る度に、やれ甘すぎるとか、やれ塩辛いとか文句言ってたじゃない?それに合わせている内に、先生好みの味になったってだけよ。

 けっして、奥さんの味付けに近くなったわけじゃないわ。

 

 「はい。できたわよ」

 「大根おろしがない」

 「そもそも、買い出しに行ってないから大根がないの。文句ばっか言ってないで食え」

 「チッ……」

 

 舌打ちするな。

 どうせ酒のつまみなんだから、大根おろしがなくたって食べられるでしょうが。

 

 「そういえば、第一艦隊の奴らとはどうだ?上手くやっちょるか?」

 「それなりにね。初日に長門以外は工廠送りにしたから、露骨に不満顔もしなくなったわ」

 「そうか、ならええ」

 

 一応、心配してくれてたのかな。

 私がついついやり過ぎちゃうのは、今も昔も先生の悩みの種の一つだもんね。

 

 「ごめんなさい……」

 「なんや急に。気色悪いのぉ」

 「だってその……。ちゃんと謝ってなかったから」

 

 私は先生に迷惑ばかりかけてる。

 そもそも、先生が提督にならなくちゃいけなくなったのも、私の我が儘のせい。

 先生と離れたくなかった私が、元帥さんから提督になってくれと頼まれた時に、これ幸いと自分を人質にして先生の退路を塞いだの。

 そのせいで先生は、ただ戦うよりも辛い想いをすることになった。

 

 「ねぇ、私って、ここを出た方が良い?」

 「……お前がそうしたいんなら、そうせぇ」

 

 本音を言えば嫌。部屋を移りたくない。

 たまに家事が面倒臭くなることはあるけど、私はここで、ずっと先生と一緒に暮らしたい。

 先生と喧嘩したいし、隣で寝たい。

 

 「私がいなくなったら、ご飯はどうするの?掃除や洗濯は?ちゃんとできる?」

 「お前は俺のオカンか。それくらい……」

 

 できるのは知ってる。

 先生は男料理だけど一通り作れるし、掃除も毎日じゃないけどやる。それはわかってる。

 でも、毎日私がやってるレベルではやらない。

 そもそも時間がないもの。

 提督業をこなしながら、私がやってるレベルで家事をするなんて不可能よ。

 

 「じゃけどまあ、お前がおりゃあ家事をせんでええけぇ、おってくれた方が助かるっちゃぁ助かる」

 「じゃあ、出ていかない」

 「……好きにせぇ」

 

 この問答も何度目かしらね。

 先生はことあるごとに私を追い出そうとするけど、結局は折れてここに住まわせてくれる。

 前の朝潮と婚約した時は本気で追い出そうとしたけど、籍を入れるまでって条件で残らせてくれた。

 私が夜、一人で眠れなくなったことに責任を感じてるってのもあるんでしょうけどね。

 

 「今日……さ。朝潮に言われたの」

 「何をだ?」

 「先生が私の前で平気でオナラをするのは、それだけ気心が知れてる仲だからだ。って」

 

 言われてハッとしたわ。

 たしかに昔、ここで一緒に暮らし始めるまではそんなことしなかった。

 でも、口喧嘩するようになったくらいから、先生は私に遠慮しなくなったわ。

 今思うとその頃にようやく、私を家族として認めてくれるようになったのかもしれない。

 もっとも、デリカシーの欠片もない認め方だけどね。

 

 「気心もクソも、お前は俺の味の好みから下着の色まで知っちょろうが」

 「ええ、知ってるわ。下着は白より黒の方が好きとか、未だにナスビとモツの類いが苦手とかぜ~んぶね。さすがに性感帯は知らないけど」

 「知られてたまるか!お前をそんな目で見たこたぁ一度もないわい!」

 「え~?本当にないのぉ?私、肉体年齢の割に発育は良い方なのよ?」

 

 身長は152cmで平均に近いし、胸だって高低差15cmのCカップ。腰だってくびれてるし、お尻も大きすぎず、かと言って小さすぎもしない。

 自慢じゃないけど、この年代なら理想的なプロポーションだと思うわ。

 もちろん、街を歩けば誰もが振り向くレベルの美少女ってのも忘れちゃダメね。

 

 「俺ぁ、凹凸の少ない体型の方が好みなんじゃが?」

 「ロリコンだもんね~。でもさ、奥さんはそんな体型じゃなかったじゃない」

 

 先生の亡くなった奥さんは、良く言えば普通の体型だった。

 突出した魅力はなかったけど、見ていて安心するような体つきだったっけ。少なくとも、先生が言ってた好みには当てはまらないわ。

 あ、でも、首筋はやたらとエロかった気がする。

 

 「アイツは性格以外は、どこにでもおる普通の女じゃったけぇな。っつうかええ加減、奥さんっちゅう呼び方やめちゃれぇや」

 「じゃあ、なんて呼べば良いのよ。お姉ちゃんとか?」

 

 それは歳が離れすぎてたからキツイでしょ。だって、先生と同い年だったじゃない。

 ってことは、当時の私と一回り以上歳が離れてたってことよ?そこまで歳上の人をお姉ちゃんって呼ぶのは抵抗が……。

 

 「お母さん。って、呼べばええじゃろうが。アイツもそう呼ばれたがっちょったし」

 「いや、それは……」

 

 できるわけないじゃない。

 あの頃は両親を失って間もなかったし、自分を厄介者だって思ってた。あそこにいちゃいけないって思ってたわ。

 そりゃあ、あの人は私を実の子供のように扱ってくれたけど、迷惑しかかけなかった私がお母さんなんて呼んで良いとは思えない。

 それに、あの人をお母さんって呼んじゃったら……。

 

 「先生のことも、お父さんって呼ばなくちゃいけなくなるじゃない」

 

 そう呼ばれたら、先生だって辛いでしょ?

 自分のことをお父さんって呼ぶ私を、戦場に出さなきゃいけなくなるのよ?

 いや、呼びたくないわけじゃないのよ?

 ここまで育ててくれたのは先生だし、私も父親みたいに想ってるから、どうしてもって言うなら呼んであげても良いの。

 でもお父さんって呼んじゃったら、たぶん私は今まで以上に甘えちゃう。

 そう!甘えちゃうのよ!

 だから呼べないの。呼びたいけど、絶対に呼ぶわけにはいかないの!

 

 「まあ、お前にお父さんって呼ばれるのも気持ちが悪いか」

 「はぁ!?ちょっとそれどういう意味よ!私ほど器量良しで性格も良くて家事も完璧にできる最高の娘なんてそうそう居ないでしょうが!」

 「相変わらず、自己評価がバカ高いのぉ、お前は」

 「ふんだ!こっちだって、先生みたいなオッサンをお父さんなんて呼びたくないわよ!」

 「なぁあ!?俺ほど稼ぎも良くて地位も高くてオマケに二枚目な父親なんぞそうそうおらんじゃろうが!」

 「どこが二枚目よ!良いとこ三枚目じゃない!」

 

 自己評価が高いのはどっちだクソ親父。

 そりゃあ、不細工じゃないわよ?

 でもイケメンって言うほどでもないわ。物凄く贔屓目に見て三枚目の上。もしくは二枚目の下ってとこかしら。

 

 「チッ、昔しゃあ気弱で臆病じゃったのに、なんでこんなひねくれた娘に育ったんかのぉ」

 「性格がひねくれたオッサンと一緒にいたせいよ」

 「俺のどこが……!いや、そうじゃな。すまん」

 

 おろ?どうして急にしおらしくなった?

 もしかして、意外と気にしてたの?

 こりゃあまいったわね。私がこんな性格になったのは100%先生のせいだけど、別に責めた訳じゃなかったんだけどな……。

 

 「気にしないでよ。先生と一緒に居なきゃ、今頃野垂れ死にしてるか色街で体を売ってるかのどっちかだったわ」

 

 あの頃はそれが普通だった。

 死体に見えないほど壊れた死体が転がってるのや、食うに困って盗みを働くなんて可愛い方で、酷いのになると殺人や徒党を組んで避難所なんかの食料を強奪する奴らまでいたわ。

 女で多かったのは売春ね。

 その頃は行政どころか政府もまともに機能してなかったから、力のない女は子供から大人まで女を武器にして食い扶持を確保してたわ。

 ゴールデンウィークとか言って浮かれてる今の一般人が信じられないくらいよ。

 ここ何年かは戦況が安定してるけど、一応、今も戦争中なのよ?

 

 「そういえばなんでお前、俺の事を先生って呼ぶようになったんじゃったか。最初はおじさんって呼んじょったろ?」

 「ん~……なんでだっけ。忘れちゃったわ」

 

 嘘よ。本当は憶えてる。

 それは、私に生き方と戦い方を教えてくれたのが先生だからよ。

 隊長とどっちか迷ったけど、当時の私は軍人じゃなかったから先生で落ち着いたの。

 もちろん、お父さんって呼ぼうと思ったこともあるわ。

 

 「そう言えば、チラッと聞いたんじゃが……。お前、角とええ仲なんか?」

 「は、はぁ!?ないわよ!っつうか、誰から聞いたのよ!」

 「門戸が、「神風にも、ついに貰い手ができましたな」と、ついこの前言うちょった」

 

 左門兄、なんて余計なことを言ってくれたのよ。

 話の出所はたぶん……いえ、間違いなく奇兵隊の暇人ども。

 先生が相手を角千代って特定していることから、あの時の動画も見せられた可能性が高いわ。

 

 「で?どうなんや?付きおぅちょるんか?」

 「付き合って……ない」

 

 うん、嘘は言ってない。

 お互いに憎からず想ってるけど、明確に好きだって言い合ったこともないし、キスだってしたことない。その先なんて全くないわ。

 だから付き合ってるとは言い難い。

 暇さえあれば一緒に居るし、執務室で昼寝しない時は角千代の膝枕で寝てるけど、けっして付き合ってないわ。

 だいたい……。

 

 「もし、私とアイツがそういう仲になったら、先生は許さないでしょ?」

 「そんなこたぁ……」

 

 ない?

 でも、複雑なんじゃない?

 角千代はあんな見た目だけど、先生と左門兄に次いで強い。二人が直接関わっていない今では、実質奇兵隊のNo.1と言って良い。

 もし先生にオカルトじみた能力がなければ、角千代の方が強いかもしれないって言われてるくらいよ。

 そんなアイツと、私が付き合ってるかもしれない話を聞いて、娘を嫁に出す父親みたいな気持ちになってくれたんじゃないかしら。

 

 「アイツならまあ……。じゃけど見た目がなぁ」

 「ふむ、つまり、反対する要素は見た目だけなわけね?」

 「そりゃあそうじゃが……。って、やっぱりそういう仲なんか!?」

 「秘密。先生には、当分教えてあげない」

 「怪しいのぉ。ホンマに何もないんか?」

 

 私自身、アイツのことが好きなのかわかんない状態だしね。

 だから今は、ハッキリと言ってあげない。

 自分の想いがハッキリして、面と向かって先生のことをお父さんって呼べるその日まで、私は秘密にし続ける。

 だから今は……。

 

 「本当にないわよ。クソ親父」

 

 で、勘弁してちょうだい。

 ねえ、私の、二人目のお父さん。

 






次回は((( ;゚Д゚)))オッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイ

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