艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第四十話 こんどこそ、沈めてやる

 

 

 

 五月に入り、すべての準備を完了した横須賀艦隊は、艦隊単位で横須賀鎮守府から陸路や空路で輸送されて大湊警備府に集結しました。

 ここで舞鶴鎮守府からの艦隊と合流して、前線基地となる単冠湾泊地に発つ予定だそうです。

 私たち第八駆逐隊は作戦に直接関わりませんが、金髪さんが操船する哨戒艇とともに大湊でしばらく待機の後、出港します。

 ちなみに、北方攻略の作戦は三段構え。

 

 第一段階として、単冠湾泊地から軽巡洋艦を旗艦に、駆逐艦と海防艦で編成された対潜艦隊が先行して潜水艦を掃討。

 そして第二段階。

 横須賀と舞鶴の合同艦隊である第3、第4艦隊で道中の水上及び空母機動部隊を殲滅。

 殲滅が完了次第、第三段階に移行し、敵旗艦と思われる港湾棲姫を主力の横須賀第1、第2艦隊で叩くと言うのが作戦の概要です。

 

 私たち第八駆逐隊は、作戦が第二段階に入った時点で大湊を哨戒艇に乗って出港。

 千島列島とアリューシャン列島の中間地点に哨戒艇を浮かべて、戦艦棲姫の出現を待ちます。

 その段取りの最終確認を、大湊の執務室で神風さんと長門さん、そして我々第八駆逐隊の面々は、大湊提督と秘書艦の千歳さんを交えて行おうとしたのですが……。

 

 「とりあえず、オッパイを揉ませてくれ」

 

 会って早々に大湊提督が放った言葉を聞いて、右手で顔を覆ってため息をついた千歳さん以外の全員が硬直しました。

 ここで言うオッパイとは、海軍の暗号でも何でもなく胸。つまり、艦娘に関わる人たちがオブラートに包んで言うところの胸部装甲のことですよね?

 ちなみに自虐になってしまいますが、このメンツの中でオッパイと呼べるほどの豊かさを持つのは長門さんと千歳さんの二人だけです。

 

 「長門、全主砲一斉射。総旗艦命令よ」

 「できるわけがないだろう。相手は大湊の提督だし、艤装も装備していない」

 「なんで装備してないのよ!大湊の提督が変態レベルのオッパイ星人だってのは有名な話でしょ!?」

 

 オッパイ星人ってなんですか?

 オッパイ星の住人だからオッパイ星人なのですか?

 と、言うことは、大湊提督は宇宙人?

 ですが私には、病的と言えるほど色白な肌と、肩にかかるくらいの長髪が印象的な地球人の男性にしか見えません。

 

 「それはそうだが……。さすがに初対面で堂々とセクハラをしてくるとは思ってなかった」

 

 それはそうですよね。

 初対面でオッパイを揉ませろなんて言う人は稀です。

 もしいたら即通報、からの逮捕です。

 そんな大湊提督が放置されているなんて、大湊の憲兵さんは職務を放棄しているのでしょうか。

 

 「揉まれないまでも、視姦されるのは良い気分じゃないわね」

 「大丈夫じゃなぁい?神風さんと長門さんはともかくぅ、私たちは目立って膨らんでるわけでもないからぁ。満潮ちゃんは特に」

 「とりあえず喧嘩売られてるのはわかった。表に出なさい荒潮」

 

 喧嘩しないでください。

 それより、どうして荒潮さんは神風さんを除外したのでしょうか。見た感じ、神風さんも私たちと似たようなものですよ?

 

 「そこの、二番目に小さい君は見る目がないな。彼女はああ見えて、トップ83、アンダー68のCカップ。俗に言う、着やせするタイプだ」

 

 ツッコミどころが多い。

 まず、私はここにいるメンツで一番身長が低いです。

 なぜか満潮さんが「え?私って朝潮より小さいの?」などと言いながら絶望していますが、満潮さんの方が10cmも高いです。まさか、身長ではなく胸の大きさですか?

 次に、顔を真っ赤にして「な……!」とか言いながら胸を両腕でガードした神風さんのバストサイズについてですが、どうやって知ったんですか?

 そして最後に、どうしてツッコミ担当ではない私がツッコンで、本来はツッコミ担当の満潮さんがツッコまないんですか?

 

 「僕レベルのオッパイソムリエにかかれば、服の上からバストサイズを言い当てることなど造作もない。ついでに言うと、彼女のオッパイは半球型。ボールを半分にカットしたような形だ。日本のみならずアジア各国で人気の高い良いオッパイだよ。今はC止まりだが、艦娘を辞めれば最低でもE、場合によってはFまで成長するだろう。だが、身に付けている下着がよろしくない。サラシでは形が崩れてしまいかねないから、ちゃんとサイズのあったブラジャーに換えるのをお薦めする。持っていないなら、僕のブラジャーコレクションから好きなのを選んで持って帰って良いよ。それと、そこのあらあら言っている子以外は今の内から巨乳になるのは諦めておいた方が精神衛生上よろしい。育ったとしても精々B止まりだ。特に、頭にドーナツをつけている子は絶望的だな。将来性どころか希望もない。甲板胸確定だ。だが、どうしても巨乳になりたいと言うなら豊胸手術と言う手もある。良い医者を知っているから、こんど紹介し……よぅ!?どうして殴ったんだ千歳!親父にだって殴られたことないのに!」

 「殴ってなぜ悪いか……!じゃない!いい加減にしてください提督!彼女たちは横須賀提督の肝いりですよ!?そんな彼女たちを辱しめるなんて……横須賀と戦争する気ですか!」

 

 止めるのが遅いです千歳さん。

 私と大潮さんは少しムカついた程度ですが、自分の胸を事細かに解説され、あまつさえダメ出しまでされた神風さんは抜刀して「ぶっ殺してやる!」と叫んでいます。

 長門さんが咄嗟に羽交い締めにしなければ、刃傷沙汰は確実でしたね。

 さらに酷い状態なのが満潮さんです。

 いや、本当に大丈夫ですか?

 白目を剥いて口から泡まで吹いて、チーン……と、効果音が鳴った気さえする絶望っぷりなんですが……。

 

 「満潮ちゃん……。元気出してぇ?ほら、胸がない子の方が好きって人がぁ、世の中には沢山いるでしょぉ?うちの司令官とか」

 「そうだよ満潮!中途半端に有るより無い方が(いさぎよ)いよ!男らしいよ!」

 

 それはフォローしているんですか?

 逆に追い討ちになってません?

 だってほら、満潮さんが血の涙を流しながら歯軋りしてますよ?

 

 「だったらここは、満潮さんが愛してやまない私も励ました方が良いですよね。満潮さんより幼い体つきの私が、満潮さんより胸の有ることがわかって安心……どころか優越感に浸っていますが、それでも満潮さんを励まさないと。ほら、私は胸が有りますから精神的に余裕がありますし、巨乳は無理でも満潮さんと違ってBくらいには育つそうですし、希望がないとも言われてませんから平気ですけど、大湊提督の心ない言葉の刃に無い胸を余計にでもえぐられた満潮さんは傷付いていますから」

 

 満潮さん。元気出してください!

 オッパイが欲しくなったら私のを揉ませてあげますから!

 

 「朝潮ちゃん。心の声と台詞が逆」

 「今のが完全にトドメになったわねぇ。満潮ちゃんがどっかのボクサーみたいに、真っ白に燃え尽きてるわぁ」

 

 あぁ、申し訳ありません。

 未熟な私が満潮さんよりは有ると言われてちょっとだけ嬉しくなったばかりに、満潮さんの心に消えることのない傷痕をつけて……いやいや、悪いのは大湊提督であって私じゃありません。

 そして、そんな茶番を終えた私たちは哨戒艇に乗り込み、第二段階開始の号令とともに出撃した第3、第4艦隊の出撃から半日遅れて出港しました。

 

 「ねぇ、朝潮ちゃん。満潮ちゃんは、まだダメそぉ?」

 「ダメですね。未だにチーン……って、感じです」

 

 哨戒艇の後部デッキの手摺に、背中をぬいぐるみの熊さんみたいに預けて虚空を見つめています。

 これが基となって、変なトラウマやコンプレックスにならなければ良いのですが……。

 あ、でも、悪いのはあくまで大湊提督です。

 大湊提督が変態レベルのオッパイ星人でなければ、満潮さんが精神的に轟沈することはありませんでした。

 

 「提督になる人ってぇ、決まって変な人ばかりよねぇ。ねぇ大潮ちゃん、佐世保はたしか、シスコンなのよねぇ?」

 「大潮は会ったことないけど、朝姉の話じゃそうらしいよ。なんでも、会って早々に「俺のことはお兄ちゃんと呼ぶように」って、言われたんだってさ」

 

 なるほど。

 うちの司令官以外の提督は変態ばかりなのですね。

 そう考えると、私は恵まれています。

 命の恩人かつ、素敵でカッコよくて性格も非の打ち所がなく、さらにニオイまで最高。これでは、他の鎮守府の艦娘から恨まれてしまいそうです。

 

 「いや、うちの司令官も変態だから」

 「佐世保のシスコン、横須賀のロリコン、大湊のオッパイ星人って呼ばれててぇ、お近づきになりたくない提督不動のトップ3よぉ」

 

 トップ3とは凄いじゃないですか!

 きっと佐世保と大湊を押さえて司令官がNo.1に違いありません!

 さすがは私の司令官。

 この朝潮、とっても誇らしいです!

 

 「満潮姉ぇ、大丈夫?」

 「だいじょばない……。それより悪いわね、アンタ達までこっちに付き合わせちゃって」

 「いいのよ。私たちだって無関係じゃないし」

 

 いつの間にか話せるまでに回復していた満潮さんが、後部デッキからやや下を見ながら話しかけているのは哨戒艇の護衛として同行している第九駆逐隊の旗艦、朝雲さんですね。

 同じ朝潮型の艦娘で、私と同じ制服に長めのツインテール。性格は、満潮さんより少し緩めのツンデレだそうです。

 ちなみにですが、哨戒艇の前方には山雲さん。後方に夏雲さん。朝雲さんの反対、哨戒艇の左側には峯雲さんが配置につき、輪形陣を形成して随伴しています。

 四人とは何度か話したことはあるのですが、四人ともどこか遠慮気味で、仲がいいかと聞かれれば微妙ですね。

 

 「絶対に朝潮姉ぇの仇、取ってよね!……って朝潮の前で言うのも変な気分だけど」

 

 私も妙な気分です。

 朝潮である私が朝潮の仇を討つなんて、事情を知らない人が聞いたらきっと訳が分からないと思います。

 

 「鎮守府に帰ったら間宮羊羹を一棹丸々あげるわ。だから、護衛頑張ってね」

 「ホントに!?満潮姉ぇったら太っ腹♪もらっといたげる♪」

 

 間宮羊羹と言いますと、神風さんが部屋に逃げ込んで来た日に満潮さんが振る舞ってくれた、この世の物とは思えないほど美味しかったあの羊羹ですよね?

 いいなぁ。

 私ももう一度、間宮羊羹が食べたいです。

 

 「それにしても、この哨戒艇って凄いわね。司令官の私物?」

 「私物と言うか、私物化ね。船体にちゃんと、『哨戒艇』って書いてあるでしょ?哨戒艇だから、維持費とかは鎮守府の経費で落としてるらしいわ」

 

 満潮さんが朝雲さんに説明した通り、私たちが乗り込んでいる、船体の横に『哨戒艇』と書かれたクルーザーは司令官が私物化しているものです。

 一般的にサロンクルーザーと呼ばれる物で、大きさは40フィート。内装は控えめですが、シャワー、トイレ、キッチンカウンターを完備した『哨戒艇』と銘打っているだけのクルーザーです。

 後部デッキには艤装の収納スペースまであり、同行しているモヒカンさんと金髪さん曰く、あちこちに銃火器や弾薬も隠しているらしいです。

 

 「あ、それ知ってる。職権乱用って言うのよね」

 

 まあそう言わないでください朝雲さん。そのおかげで、待機中も不自由しなくて済むんですから。

 私たちが、ですが。

 

 「ハイエースにしてもそうだけど、ちょっと酷いわよね。鎮守府の外には、何軒かお店も構えてるみたいだし」

 「あ!それ聞いたことある!着任したての辰見少佐と、あの赤い人も一緒に行ったらしいわよ!」

 「昔からの部下だし、お酒飲みながら昔話に花を咲かせたんじゃない?」

 「そうかなぁ……、夜の街に女連れだよ?怪しすぎない?」

 

 たしかに怪しいですね。

 昔話なら鎮守府でもできますし、お酒ならお部屋でも飲めます。おのれ神風さん。私に内緒で、司令官と夜のデートまでしていたとは。

 

 「満潮ちゃん、朝潮ちゃん。ちょっといい?」

 

 満潮さんと朝雲さんが、司令官の公私混同について話していたら、荒潮さんが思い詰めたような顔をして割って入りました。

 どうしたんでしょう。こんなに悲しそう……いえ、怯えている荒潮さんを見るのは始めてです。

 

 「私は聞かない方がいい感じ?」

 「ええ、ごめんね。朝雲ちゃん」

 「わかった。気にしないで荒潮姉ぇ」

 

 朝雲さんが哨戒艇から離れて護衛に専念しだすと、私と満潮さんは荒潮さんに促されて船内に入りました。

 そこには四人掛けのテーブルを中央に、左右にベッドにもなるソファーが並べられています。

 入り口から見て右の一番奥には大潮さんがすでに座っていますね。

 

 「どうしたのよ、妙に真剣な顔しちゃって」

 「私の奥の手について、朝潮ちゃんに話しておくことにしたの」

 

 ああ、たまに会話に出て来てたアレですか。

 結局どんなものなんでしょう?他の艦娘に見られたくないってことは知っていますが。

 

 「荒潮、話す気になったの?」

 「ええ、大潮ちゃんも一緒にいて?」

 「ん。わかった」

 

 私の対面に座った荒潮さんのテンションが低い。

 なんだか、空気も重いです。

 もしかして、本当は話したくない事なんじゃないでしょうか。

 

 「朝潮ちゃんは、艦娘の力の源がなんなのか知ってる?」

 

 力の源?

 そういえば知らないですね。

 座学でも習った覚えがありません。

 座学ではただ、艦娘は妖精さんが作り出す艤装を扱えるから、深海棲艦に対抗できるんだ。とだけ、教えられました。

 それより、なんだか口調が変わってません?

 

 「驚かないで聞いてね。艦娘の力の源。装甲や脚なんかの元となる艦力(かんりき)は、艤装の核として使われている深海棲艦の核から作られるの」

 

 ふむふむ。

 つまり、私たち艦娘は敵である深海棲艦の力を借りて、深海棲艦と戦っていると言う事ですね。

 

 「核自体に意思がないのは確認されてるから、深海棲艦に精神が汚染されるとかはないわ。だから、そこは安心していい」

 「はあ……」

 

 心配はしないですが、今の話を聞いて座学で教えられなかった理由がわかりました。

 艦娘の大半が仇としている深海棲艦を、背中に背負って戦ってるなんて教えられるわけがありませんものね。

 

 「ただ、そのせいかどうかはわからないんだけど、艤装は使用者の精神状態によって形状が変わることがあるの」

 「形状が変わる?」

 「ええ、例えば恨みや悲しみなんていう、負の感情が一定値を超えると艤装が深海棲艦のソレに変化し始めるわ」

 

 ちょっと待ってください?

 恨みとかの負の感情で、艤装の形状が深海棲艦みたいになるなら、艦娘のほとんどは深海棲艦みたいな外見をしているのでは?

 だって、ほとんどの艦娘は深海棲艦を恨んでるのですから。

 

 「朝潮ちゃんの言いたいことはわかるわ。だけど言ったでしょ?一定値を超えるとって。その一定値のハードルが高すぎるから、例えば恨んだりしただけじゃ変化しないのよ」

 

 恨むだけじゃ変わらない?

 ですが、私のようにその時のことを覚えていないのならまだしも、例えば肉親を殺された瞬間を覚えている人の恨みは尋常じゃないはずです。そんな恨みでも、変化しないのですか?

 

 「艤装が変化するラインはね?簡単に言うと、精神が崩壊した時。そんな状態で、作戦の遂行なんて出来ると思う?」

 

 精神が崩壊するほど恨んでようやく?

 無理でしょうね。そんな状態では、日常生活すら不可能なはずです。

 

 「私は、その精神が崩壊した状態に意図的になることが出来るの。スイッチを切り替えるみたいにね」

 

 それは凄いと言うかなんと言うか……。

 通常の状態と精神が崩壊した状態を行き来するなんて精神衛生上よろしくなさすぎるでしょうに……。

 あれ?でも、艤装が変化するラインに到達できると言う事は、荒潮さんの奥の手とはまさか……。

 

 「もうわかったでしょ?私の奥の手は『深海棲艦化』、縮めて『深化(しんか)』と呼んでいる艤装の裏技よ」

 「それって、体に負担はないんですか?」

 「もちろん負担は大きいわ。使用した後は丸三日は寝込んじゃうし、気分も落ちっぱなしになる。でも、メリットは大きいわ。短時間ではあるけれど、駆逐棲姫と同等のスペックに跳ね上がるんだから」

 

 それではおいそれと使えませんね。正しく奥の手です。

 さらに、打ち明けてくれたことで、他の艦娘の前で使えない理由にも察しがつきました。

 

 「本当は前もって見せておきたかったんだけど、姿も性格も普段とは似ても似つかなくなっちゃうから、見せる勇気が出なくて……」

 「どうして、ですか?」

 「朝潮ちゃんに嫌われたくなかったの。深海棲艦を恨んでない子は稀だから……」

 

 だから、私も荒潮さんを嫌うと?

 そんな事はあり得ません。

 だって、荒潮さんは私に凄く優しいですし、甘えさせてくれる大好きなお姉ちゃんなんですよ?

 それなのに、そんな心配をされていたなんて残念です。私は、荒潮さんに信用されてなかったんですね。

 そりゃあ付き合いも短いですし、戦闘では未だに足手纏いですから信用されてないのもわかります。

 ですが、今の荒潮さんを見てると腹が立ってきます。

 いつもの余裕綽々な荒潮さんはどこへ行ったんですか?

 どうして、そんなに不安そうな顔をしてるんですか?体育座りして遠慮気味に私の様子を窺う荒潮さんなんか見たくありません。

 

 「荒潮さんは、私をバカにしてるんですか?」

 「え?そんな事ないわ!私は……」

 「いいえ、バカにしてます!私がその程度の事で荒潮さんを嫌うわけないじゃないですか!私は満潮さんが普段甘えさせてくれない分、荒潮さんに甘えるんです!例え荒潮さんが私を嫌っても離れてあげません!」

 「朝潮ちゃん……」

 「いいですか?私はこう見えて甘えたがりなんです。見た目が深海棲艦みたいになったくらいで、甘えさせてくれる荒潮さんを嫌ってなんてあげません。むしろ、深化した荒潮さんに甘えてみたいです!」

 「いやぁ、あの状態の荒潮に甘えるのは無理だと思うよ」

 「言葉通じないしね」

 「それでもです!」

 

 荒潮さんの顔から笑顔が消えたくらいですから、本当は言いたくなんてなかったのでしょう。

 それでも、討伐を確実にするために私に話してくれたんだと思います。

 ならばこの朝潮、荒潮さんの覚悟をしかと受け取ります。

 今度からは、荒潮さんが嫌がっても纏わり付いてあげます!

 

 「ありがとう、朝潮ちゃん」

 

 うっすら涙を浮かべた荒潮さんに、私はテーブル越しに抱き寄せられました。

 顔を埋めた荒潮さんの胸から聞こえる心臓の鼓動がすごく速い。

 やっぱり怖かったんですね。

 辛かったんですね。

 

 「まあ、荒潮は敵に突っ込んで撹乱するのが役目だし、スペックを上げる手段があるなら使わない手はないわ。特に、今回は相手が相手だし」

 「満潮ちゃんもありがと。いつも以上に暴走しちゃうと思うけど、フォローよろしくね」

 「なっ!?アンタが素直にお願いしてくるなんて頭でも打ったんじゃない!?雪が降るわよ雪が!」

 

 満潮さんほど珍しくはありませんよ?

 まあ、作戦海域は北方ですから、本当に雪くらい降るかも知れませんが。

 

 「大潮ちゃんも、迷惑かけちゃうかもしれないけど、お願いね?」

 「心配しなくても、会敵した途端に暴走する前提で作戦を考えてるから安心して良いよ。むしろ、暴走してくれなきゃ前提が崩れちゃう」

 

 大潮さんがヤレヤレと言わんばかりに両手の平を上に向けて首を振るのを見て、荒潮さんの鼓動がゆっくりになってきました。

 よかった。ようやく安心したみたいです。

 

 「だから、隊列も今回は変えるよ。変えるって言っても、大潮と荒潮の順番を逆にするだけだけどね」

 

 そうしないと、荒潮さんが会敵と同時に暴走しちゃったら大潮さんが突き飛ばされかねないですもんね。

 

 「戦術も変わるよ。前衛を荒潮一人に任せて、残りの三人で援護する」

 

 大潮さんの説明によりますと、敵が周囲に気を散らせば荒潮さんが痛打を与え、荒潮さんに集中しすぎれば、他が砲撃と魚雷で敵の隙を突く。

 そうやって徐々に、でも確実に仕留めるそうです。

 問題があるとすれば……。

 

 「私、荒潮さんに当てない自信が……」

 

 敵のすぐ近くを動き回る荒潮さんに当てないように砲撃なんて、私からすればそれが一番難しいです。

 もし当ててしまったらと思うと……。

 

 「大丈夫よぉ。私ぃ、朝潮ちゃんの撃った弾なら喜んで当たりに行くわぁ♪」

 

 いや、当たりに来ないでください。

 ちゃんと、荒潮さんを避けて当てるよう努力しますから。

 でも、荒潮さんも普段の調子に戻ってよかったです。

 だから、そろそろ放してもらえませんか?作戦について話しているのに、荒潮さんの胸に顔を埋めながらと言うのは恰好がつきません。

 大潮さんと満潮さんも、いい加減にツッコンでくれません?

 満潮さんは、顎に手を当てて何か考えているようですが、今はツッコミの方が大事です!

 

 「あ、そうだ。討伐が成功したら、司令官が好きな物を食べさせてくれるって言ってたから頑張ろ!」

 「ふん、そんなご褒美がなくても頑張るけどね」

 「じゃあ、満潮ちゃんはご褒美なしでいいのねぇ?」

 「満潮の分も大潮たちで楽しんでくるから♪」

 「いや!なくても頑張るってだけで、ご褒美が欲しくないわけじゃないのよ!?」

 

 ふむ。

 ご褒美に食事ですか。

 司令官を囲んでみんなと一緒に食べるのも良いですが、司令官と二人っきりでの食事も悪くありませんね。

 いえ、むしろそっちの方が良いです。

 前回の朝食デートでの失敗を挽回しなければ!

 

 「朝潮ちゃんが食べたいのはぁ、司令官本人よねぇ?」

 「朝潮ちゃんやらしい~」

 「まあ思春期だしね。でも、司令官が捕まりかねないからやめときなさい」

 

 三人は何を言ってるんですか?

 司令官は食べ物ではありません。荒潮さんに教えていただいた事が本当なら、食べられるのは私の方です。

 

 「荒潮。アンタ、どんだけ片寄った性教育してんのよ」

 「そ、そんなに怖い顔しないでよ満潮ちゃん。さ、最近流行りの凌辱系をメインに教えてるだけよぉ」

 「流行りじゃなくてアンタの性癖でしょうが!」

 

 はて?

 私が荒潮さんに習ったことは間違いなのですか?

 司令官は嫌がる子に無理矢理意味深なことをするのがお好きだと習ったので、嫌じゃなくても嫌がる練習をしていたのですが……。

 

 『そろそろ作戦海域に到着っすよ~。第八駆逐隊の皆さんは、第二種戦闘配置に移行してくださいっす』

 

 毎度恒例の口喧嘩を聞くのに飽きてきた頃、スピーカーを通して作戦海域が近い事をモヒカンさんが伝えてくれました。第二種戦闘配置だから、戦闘準備ですね。

 いつでも第一種の臨戦態勢へ移行できるように、艤装の調整や弾薬の確認等の準備を行うんです。

 タイムスケジュール通りなら、作戦はすでに第二段階の中盤に入ったくらい。予定通りに進めば、明日には第三段階に移行して戦闘配置も一種に引き上げられるはずです。

 

 「いよいよですね」

 

 まだ準備の段階だと言うのに、心臓の鼓動が速くなり手が震えています。

 緊張してる?それとも怖い?

 どちらも違う気がします。しいて言うなら怒りでしょうか。

 そう、私は怒っている。

 私の司令官に危害を加えようとしたアイツを、()()()()()()()()()()

 大潮が立てた作戦の穴に満潮は気づいているようだけど、そうなった場合は私自らやってやる。

 そして……。

 

 「こんどこそ、沈めてやる」

 

 

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