艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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対窮奇戦ラストです( ・∋・)


第四十四話 また、会いましょう

 

 これは視線?誰かに見られてる?

 大潮さんは前を向いているし、満潮さんは後ろに居ますから、後ろからの視線じゃありません。

 前の方からです。

 もしかして、今はまだ肉眼では米粒ほどにしか見えない戦艦棲姫から?

 でも、なぜ私を見ている?

 深化した荒潮さんを艤装の巨腕で殴り飛ばす際も、そっちはまるで見ていませんでした。

 いや、それも気になりますが、今は体の自由が利かなくなったことの方が気になります。

 

 「また、体を借りるわね」

 

 ついには私の口が、勝手に訳のわからないことを言い出しました。

 誰かに体を乗っ取られた?

 だとしたら、誰に?

 

 「大潮と満潮は重巡の相手をしなさい。アイツは、窮奇は私が引き付けます」

 「はぁ?キュウキ?キュウキって何よ。それにアンタ……」

 「問答をしている時間はありません。それに、満潮ならその方が効率が良いとわかるでしょう?」

 

 違う。

 違います満潮さん。

 今喋ったのは私じゃありません。

 私の体を使う、私の知らない誰かです。

 

 「……わかった。大潮!二人でネ級を叩くわよ!」

 「二人とも何言ってるの!?朝潮ちゃん一人でアイツの相手なんて……」

 「アイツは朝潮を狙ってる。だったら、朝潮が逃げ回ってくれている内にネ級を沈めて、前後から奴を挟撃するわ」

 

 逃げ回る?

 この人はそれで終わるつもりなんてありません。

 戦う気満々です。

 口に出さずとも、それくらいは何故かわかります。

 もしかして、私と彼女は感情を共有しているのでしょうか。

 

 『あぁ……。アサシオ、アサシオアサシオアサシオアサシオ!』

 

 二人と別れるなり、()()()()()()()()が通信装置を通して鼓膜を震わせました。

 どうやって通信に割り込んだ?

 まさか、チャンネルなど関係なく全周波数で通信を垂れ流している?

 

 『やっと会えた!ずっと逢いたかった!もう一度、あなたと踊りたかった!』

 

 会いたかった?私に?

 私はあなたなど知りません。

 深海棲艦型録で戦艦棲姫は見たことがありますが、あなたのように気持ちの悪い視線を送ってくる深海棲艦に会うのは始めてです。

 

 「私も会いたかったです。お前はあの人の敵。あの人を危険に晒す、私の敵です!」

 『あぁ、嬉しい……。あなたも私と同じ気持ちだったのね』

 

 ズレてる。

 が、二人の会話を聞いた私の率直な感想です。

 私の体を使う誰かは彼女を憎んでいる。恨んでいる。

 司令官との幸せな時間を唐突に奪ったあなたを、沈めたいほど怨んでいます。

 対して、彼女は求めている。

 私じゃない私を求めています。

 まるで愛する人と再会したかのように、幸せな気持ちでいっぱいのように感じます。

 

 「『戦闘勝法(せんとうしょうほう)』より、対窮奇戦を検索……完了。ダウンロード」

 

 私じゃない私の言葉に導かれるように、頭の中に資料室のような部屋が現れました。

 そして書棚から一冊の本が飛び出して開いたページに、()()()の戦闘海域が三次元的に浮かび上がり、その時取った針路や攻撃、さらに彼女からの砲撃が着弾した地点が表示されました。

 

 「次いで作戦時間を30分に設定。現環境及び、現性能で可能な戦術へとアップデート開始……」

 

 戦闘海域に線や点がいくつも表示されては消えていく。

 彼女が言った通りなら、現在進行形で戦術を練っています。しかも、無数の本が飛び出ては戦術を吐き出し、使えそうな戦術も加わっています。

 

 「完了。インストール開始……」

 

 幾通りもの、彼女たちの針路や攻撃タイミング、着弾地点が書き込まれた本が閉じ、光の粒になって消え始めました。

 これがこの人の戦闘法?

 もしこの通りになるなら、今の時点で戦闘は終了しています。

 

 「完了。駆逐艦 朝潮!突撃します!」

 

 彼女は初手で、右斜め45度へと飛魚で跳躍。

 数瞬置いて、さっきまで彼女がいた地点に敵の砲撃が着弾しました。

 本当に予想通りになっています。

 今も彼女は、敵が砲撃するよりも早く動き、最短距離で敵との距離を詰めています。

 

 『素晴らしい!やっぱりあなたは素晴らしいわ!あの時と同じで、私が描く未来の先を走ってる!』

 「誉めても、私があげられるのは砲弾だけですよ」

 

 距離が500mまで詰まるなり、彼女は砲撃を開始しました。

 しかも、敵の顔面付近を集中的に。

 おそらく、目眩ましも兼ねているのでしょう。

 

 「魚雷。一番、二番、発射」

 

 魚雷を発射すると、今度は敵の後ろに回り始めました。

 今撃った魚雷が回避された場合、後ろから脚技で急接近して戦舞台を仕掛けるつもりですね。

 ですが変です。

 艤装の足は見えていますが、敵本体の足が見えません。艤装だけ残して消えた?どこに……。

 

 「そんな……!」

 「どう?あなたを見て思い出したから、私なりに真似をしてみたの♪」

 

 消えたんではありませんでした。

 敵は艤装の右腕に腰掛けていたんです。

 そして信じられないことに、敵は飛びました。

 ええ、飛んだと表現した方が良いでしょう。

 なにせ敵は、進行方向とは逆に撃った砲撃の反動で飛び、500mもの距離を一瞬で詰めたんですから。

 

 「なんて出鱈目な!それでも戦艦ですか!」

 「ええ、私は戦艦。駆逐艦のあなたに恋い焦がれる、しがない一戦艦よ」

 

 たった一手で、私じゃない私が立てた作戦が狂いました。

 戦艦があんな移動法を使うなんて聞いたことも見たこともないし、想定もしていない。

 故に、これから敵が取る行動の予測がつきません。

 

 「でも、この距離ならば……!」

 

 敵は10mもない至近距離。

 ならばと、戦舞台に持ち込むために航行手段を水切りに変更したのですが、艤装の左腕が海面を叩いて水柱を立て、こちらのバランスを大きく崩しました。

 

 「くっ……!」

 

 私じゃない私が焦ってる。

 策を潰されたから焦ってる?手も足も出ないから焦ってる?

 いいえ、どちらも違う気がします。

 時間を……気にしている?

 まだ会敵してから15分足らずしか経っていないのに、どうしてこんなに、気が散るレベルで気にするのですか?

 

 「どうしよう……。満潮ほど頭が良くない私じゃあ、この状況をすぐには修正できない……」

 

 どうやら、この人の戦闘勝法とやらは前もって経験した状況を分析し、要所要所を組み合わせて現状に当てはめて使うもののようですね。

 それなら確かに、似たような状況かつ、出鱈目なことをしない相手なら威力を発揮するでしょう。

 ですが、今回は相手が悪かった。

 今も気色の悪い笑みを浮かべて砲撃を繰り返している敵は、思いつきで飛魚の真似事をするような戦艦です。

 そんな奴を初見で攻略するのは、彼女にはできないのでしょう。

 

 「修正できないのなら!」

 

 回避で手一杯だった彼女は、飛魚4回で50mほどの距離を空けて反撃に出ました。

 なんとももどかしいですね。

 距離を空けすぎればこちらの攻撃は威力が下がります。かと言って、近すぎても先ほどのように敵の艤装にバランスを崩される。

 神風さんに戦舞台を初めてやられた時は無敵に思えましたが、意外と対抗策があるんですね。

 

 「よし!なんとかなる!この体の性能なら、真っ当にやり合えます!」

 

 本当にそうでしょうか。

 確かに、彼女は敵の砲撃を回避して反撃もできています。今なんて、ほぼ狙いなどつけずに撃った魚雷の一発が直撃しました。

 でも違和感がある。

 避け方が大袈裟な気がするんです。

 私はあんなに大きく避けたりしません。あんなタイミングで捻り独楽は使いませんし、あそこで水切りを使うくらいなら艦首を立てて減速し、即面舵を切ります。

 もしかしてこの人、咄嗟の判断力に欠けるんじゃ……。

 

 「そんな……馬鹿な!」

 『あぁ……良いわね。その顔。とぉっても素敵♪』

 

 またも、敵が出鱈目なことをやってくれました。

 何をしたかと言いますと、再び艤装の右腕に抱き抱えられた敵は、砲撃の反動で真上に飛んだのです。

 しかも、飛魚とは比べ物にならない、300m近い高高度へと。

 冷静に考えれば、わざわざ敵自らが海から離れて性能を落としてくれたのでチャンスなのですが、彼女はパニックになっているようです。

 迎撃のために腕を振り上げる様子もないので、頭上から来るであろう砲撃を如何にして避けるかばかり考えてるんじゃないでしょうか。

 

 『さあ、踊ってちょうだい。これが私の、『落下星』よ』

 

 わかりやすくて良いですが、名前の付け方が安直です。

 もっと捻れなかったんですか?

 は、置いといて。

 パニックになった彼女は、文字通り落下してくる砲弾の雨をなんとか回避し続けています。

 し続けていますが……。

 こんなにも連続で脚技を使っていては、燃料より先に体が……。

 

 「あ……!」

 

 案の定でした。

 彼女は落下星を避けきりましたが、直後に海面に倒れてしまいました。

 足が痙攣していますから、体が限界を迎えたようです。私の体なんですから、もうちょっと丁寧に扱ってくれません?

 

 「人間が言うところの、チェックメイトと言うヤツかしら」

 「その……ようですね」

 

 着水し、ゆっくりと近づきながら言った敵に、彼女は冷静に答えました。

 諦めている感じじゃありませんね。

 反撃の機会をうかがっていると言うよりは、何かを待っているような……。

 あ、そういうことですか。

 

 「おいババア。私の朝潮ちゃんに近づくんじゃねぇ」

 

 彼女が待っていたのは荒潮さんでした。

 中破してボロボロなのに、荒潮さんは飛魚だけでなく敵が使った砲撃の反動を利用した移動法まで使って敵に体当たりしてくれたんです。

 

 「同胞だと思って手心を加えてやったのに、まだ私に逆らうのか?」

 「当たり前だろクソッタレ!舐めた真似しくさってくれたお礼に、全殺しにしてやらぁぁぁぁぁ!」

 

 く、口が悪い……。

 深化した荒潮さんが、ここまで口が悪くなるとは思っていませんでした。

 ですが、今はありがたいです。

 荒潮さんが敵と戦ってくれているうちに……。

 あれ?どこを狙っているんですか?

 砲撃にしても雷撃にしても、今撃つと荒潮さんまで巻き込んでしまいますよ?

 

 「私は帰るんだ……。帰って司令官に褒めてもらうの。頭を撫でてもらうの」

 

 彼女は撃つ気だ。

 正に肉薄と言って良い距離で砲雷撃を繰り返している荒潮さんのことなど考えず、荒潮さんごと敵を沈めるつもりでいます。

 

 「キスもしてもらおう。籍を入れるまでとは言わさず、今度こそ抱いてもらおう。そのために……」

 

 彼女は自分勝手だ。

 自分の欲を満たすことしか考えていない。

 荒潮さんが沈んだら司令官が悲しむのに、そんなことは一切考えていません。

 彼女は司令官を求めるあまり、司令官の気持ちをないがしろにしています。

 そんな人を司令官に会わせるわけにはいきません。

 そんな人に、荒潮さんを犠牲には……。

 

 「させません!荒潮さん!避けてください!」

 

 魚雷を放つのと同時になってしまいましたが、なんとか荒潮さんに忠告できました。

 体の主導権も戻ったようです。

 ですが、足から腰にかけて鈍痛が響いて立つことができません。浮いているのが精一杯ですね。

 

 『ナイスだぜ朝潮ちゃん!あとは、私が……!』

 

 魚雷が着弾し、敵が爆炎に包まれているのに、荒潮さんは追撃する気満々のようです。

 これで決まってくれれば最高なのですが……。

 

 『四凶(しきょう)が一角。窮奇の名をもって命じる。ただちに、全戦闘行為を停止せよ』

 

 荒潮さんが魚雷を放つ寸前に、通信装置を通してとは言え他の雑音が一切邪魔せず、敵の声が不自然なほどハッキリと聴こえました。

 すると荒潮さんは、糸が切れた操り人形のように海面へと崩れ落ちました。

 いったい何が……。

 敵の命令で、荒潮さんが戦闘行為どころか全行動を停止しました。

 

 「さて、邪魔が入ってしまったけど続き……を?」

 

 目の前まで来た敵……窮奇は、私の顔をマジマジと見るばかりでそれ以上のことをしようとしません。

 私の顔に何かついているのでしょうか。

 私が撃った魚雷で吹き飛んだと思われる、艤装の右腕を心配したほうが良いのでは?

 と言うかそもそも、どうしてこんな間近に窮奇がいる?

 どうして私は、立つこともできないくらい消耗しているんでしたっけ?

 

 「あなたは誰?アサシオは?どこに行ったの?」

 「わ、私が朝潮ですが……」

 「あら、あなたもアサシオという名前なのね。でも、彼女と同じで愛らしいけど、あなたは私のアサシオじゃないわ」

 

 訳がわかりません。

 もしかして、あなたは先代のことを言っているのですか?

 

 「なる……ほどね。わかったわ。帰るぞ鼬。今日はここまでだ」

 

 相も変わらず、私は訳がわかっていませんが、窮奇は構わず鼬とやら……おそらく、今も私から見て右方約3kmの海域で満潮さんと戦っている重巡洋艦に声をかけました。

 まさか、見逃された?

 どうして?深海棲艦は、問答無用で人を殺す悪魔みたいな奴らじゃないんですか?

 

 「チッ、いつまで遊んでいる気だ」

 

 何を、する気ですか?

 まさか撃つ気ですか?味方ごと?

 いや、間違いありません。

 窮奇は私と満潮さんが戦っている海域の間に入り、主砲の仰角を調整し始めましたもの。

 でも、どうしてわざわざ、私に背中を向けた?

 もしかして、主砲の余波から私を庇うためですか?

 背中から私に撃たれる危険を冒してまで、なんでそんなことを……。

 いやいや、そんなことを考えている暇はありません。

 満潮さんに、狙われていることを報せないと。

 

 「満潮さん!跳んでください!」

 『わかってる!』

 

 さすがは満潮さん。

 私が忠告せずとも、窮奇に狙われているとわかっていたみたいです。

 どうしてこちらを見ずに察知できたのかは謎ですが、着弾による爆風に若干煽られたものの見事に回避しました。

 もっとも、満潮さんが離れた隙をついて、重巡洋艦と窮奇が合流してしまいましたが。

 

 「申し訳ありません。あの駆逐艦、想定以上に手強くて……」

 「言い訳はいい。聖地を攻めていた艦隊の射程に入る前に帰るぞ」

 

 棲地を攻めていた艦隊と言いますと、神風さんの艦隊ですね。

 窮奇は全周波数で通信を垂れ流していましたから、それを受信してこちらに向かっているのでしょう。

 実際、北の空に艦載機群が見えてきてますし。

 

 「ねぇ、お嬢ちゃん。良いものを見せてあげましょうか」

 「良いもの……ですか?」

 「そう。たしか、人間が夏に上げるとか言う……。ねぇ鼬、アレはなんて言うんだったかしら」

 「花火、ではないでしょうか」

 「ああ、そうそう。その花火を見せてあげるわ♪オマケに、流れ星も見せちゃう♪」

 

 どうやって?

 まさか、砲撃でとか言いませんよね?

 いやいや、ご冗談を。今は真っ昼間ですよ?

 深海棲艦だから知らないのかもしれませんが、花火も流れ星も夜に見るものです。

 今の時間ではどうあがいても見え……。

 

 「さあ、私の『流星群』で、華々しく散りなさい」

 

 ました。

 ただし全く美しくなく、風情もなにもない非情な光景です。

 ですが窮奇が言った通り、私の目に映ったのは間違いなく花火と流れ星。

 窮奇の砲撃が上空で弧を描き、艦載機群の上で無数に分裂して当たって、炎の花と燃え落ちる流れ星を作り出したんです。

 そして窮奇は……。

 

 「じゃあね、アサシオ。また、会いましょう」

 

 と言い残して、重巡洋艦を伴って南東へと去っていきました。

 作戦の失敗……いえ、敗北という事実だけを、私の心に刻み付けて。

 

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