艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第五章 朝潮、演習
第四十七話 やるからには、全力で事に当たるわよ!


 

 

 

 

 

 てるてる坊主てる坊主。明日天気にしておくれ。

 なんて歌、今時の子は歌うのかしら。

 あら嫌だ。

 今時の子なんて、おばさんみたいな言い方よね。

 私は若い!だって、私はまだ二十二だもの!

 長門や鳳翔さんに比べたらぜんっぜん若いわ。

 特に、私が横になっているソファーの右斜め前方にある執務机で、仏頂面して判子押し続けてるオッサンよりはね。

 

 「お前も訓練くらいしたらどうだ?他の駆逐艦たちは、絶好の訓練日和だと言って訓練に励んでいるぞ?」

 

 若い子は元気ね~。

 雨の日は訓練に最適。そう思ってた時期が、私にもありました。だけど、そういうのはとっくに卒業したの……て、まぁたババ臭いこと考えちゃった。

 

 「嫌よ。先生だって、私が雨嫌いなの知ってるでしょ?」

 「だからって執務室でくつろぐんじゃない。仕事の邪魔だ」

 「先生が書類仕事ねぇ……。深海棲艦相手に日本刀振り回してた頃が嘘みたいだわ」

 「私もそう思うが、そういう訳にもいかん。それに、今の戦況では、私はただの足手纏いだ」

 

 それもそうか。

 いくら先生でも、洋上じゃ駆逐艦にすら勝てないでしょうし……って、なるかクソ親父。

 私、知ってるのよ?

 先生が大本営のなんとかって工作艦に、内火艇ユニットの改良型の制作を依頼してるってことをね。

 それが、先生が満足するレベルで完成すれば、先生からしたら空母だろうが戦艦だろうが人と大差ないってことも。

 と、ツッコンだところで誤魔化されるのが落ちだから話題変えよっと。

 

 「朝潮の調子はどう?改二になったんでしょ?」

 「気になるのか?」

 「べつに?ちょっと聞いてみただけ」

 

 嘘です。

 滅茶苦茶気になってます。

 だって、新参どもには次々と改二が実装されてるのに、かれこれ十年近く艦娘やってる私には改二が実装されてないのよ?

 ズルくない!?

 私ってただでさえ古いから艤装はボロボロだし、見た目だって艦娘になった当時からほとんど変わってないのよ?だから正直飽きた!

 それなのに、今の若い子たちは改二になったらスペックは上がるし制服は変わるし体だって成長するんでしょ?

 ぶっちゃけ羨ましいわよ!妬ましいわよ!

 私にも改二はよ!

 

 「前みたいに襲うなよ?」

 「心配しなくても、私はそこまで暇じゃない」

 「暇をもて余しているように見えるが?」

 

 ええ、暇よ?それが何か?

 どうせ、襲うなよって言ったのは方便で、本当は襲わせたいんでしょ?

 でも残念でした。

 そうは問屋が卸さないわ。今のところ、あの子には何一つ見せる気はないんだから。

 

 「あと、お前が朝潮に見せてないのは『稲妻(いなづま)』と『紅備え(あかぞなえ)』くらいか?」

 「ええ、そうよ」

 

 うっそで~す。

 もう一つありまーす。

 だけど、私がその三つを見せる事なんてそうそうないわ。

 この間の大規模作戦でも結局使わなかったし、紅備えと最後の一つはタイマン専用と言って良い。

 そもそも、最低でも私が追っていた駆逐古鬼レベルの奴が相手じゃなきゃ、私がその二つを使うことなんてないわ。

 

 「まさか、見せろとか言わないわよね?」

 「見せてやってくれんか?」

 

 嫌です~だ!

 朝潮が私に土下座して師事を乞うなら考えないでもないけど……いや、そうされても見せるのは稲妻までね。

 紅備えは体への反動が脚技の比じゃないし、最後の一つは朝潮じゃあ使う手段がない。

 それに……。

 

 「私が要らなくなっちゃいそうだから嫌」

 「そんなことはない」

 

 本当かしら。

 朝潮の戦闘センスは私の比じゃない。

 もしも紅備えまで覚えたら、性能の差も相まってきっと私以上の艦娘になるわ。

 そうなったら、私なんて要らない。

 私みたいな我が儘娘より、従順な朝潮を使った方が良いに決まってるもの。

 

 「お前がいなくなったら、飯に困る」

 「ふぅん。ご飯に困らなくなったら要らないんだ」

 「そうは言ってない。何を拗ねてるんだお前は」

 「拗ねてない」

 

 そう、拗ねてない。

 寂しくなっただけよ。

 先生に必要とされなくなったら行き場がない。どこに行ったらいいのかわからなくなる。

 だから、力がなかった頃は先生の身の回りの世話を焼いた。力を手に入れてからは、強くなることに奔走した。

 そうして出来上がったのが、今の私なの。

 先生のために、今の私になったの。

 それなのに要らないなんて言われたら、きっと無駄に歩いてるとこを角千代に拾われて、そのまま部屋に転がり込むのが落ちだわ。

 

 「……二ヶ月後に、呉に行く用がある。その時に、墓参りに行くぞ」

 「何よ、藪から棒に。私は行かないって毎年……」

 「駄目だ。今年は一緒に来い」

 

 二ヶ月後って言ったら、ちょうどお盆の時期か。

 呉を敵視してる先生が呉に何の用があるのかも気にはなるけど、今は私をお墓参りに連れて行こうとする理由の方が気になるわ。

 だって、毎年断ってるのよ?

 そりゃあ私だって、短い間とは言えお世話になったんだから、線香の一本くらいあげたいわ。

 だけど、私は先生の本当の家族じゃない。

 先生の家族と関わりが深かった左門兄や、角千代と飛車丸でさえ遠慮するのに、赤の他人の私が行って良いとは思えないの。

 年に一度の、家族水入らずを邪魔したくないのよ。

 

 「お前の気持ちは知っているし、感謝もしている。だが、もう良いんじゃないか?」

 「良く……ない」

 

 先生は私を家族と想ってくれてる。

 私だってそうよ。口には絶対に出さないけど、先生のことを父親みたいに想ってる。

 でも無理なの。踏ん切りがつかないのよ。

 

 「どうしても、嫌か?」

 「嫌な訳じゃない!嫌じゃないの!」

 「そうか。なら決定だ。今年は、お前も墓参りに連れて行く」

 「ちょっ!勝手に決めないで……!」

 

 いや、待てよ?

 これは良いチャンスかもしれない。

 私にとってじゃなくて、あの死に損ないにとってのね。

 

 「私の代わりに、朝潮を連れて行きなさいよ」

 「朝潮を?どうしてだ?」

 「どうしても!良いじゃない!デートの口実にできるでしょ!?」

 

 アイツには、先生ともっと一緒にいたかったって未練がある。

 その場の雰囲気次第で既成事実を作ろうとするかもしれないけど、朝潮も先生に惚れてるっぽいからそうなっても良し。朝潮が膜を失うだけで誰も損しないわ。

 

 「お前、デートの意味を知ってるか?」

 「そのくらい、私だって知ってるわよ。バカにしてんの?」

 「バカにされるような事を言ってるんだぞ?自覚ないのか?」

 

 はて?私、そんなに変なこと言った?

 あ、もしかしてデートする場所が変なのかしら。

 う~ん。

 自分がデートに誘われたとして、行き先が霊園だって言われたら……うん、ないわね。

 ぶっちゃけドン引きよ。

 それでもし、「将来はここに一緒に入ってくれ」な~んて言われようもんなら、棺桶に詰めて頭の病院に速達で送りつけるわ。

 

 「先生、デートの行き先くらい選ぼ?さすがに、旅行を兼ねたデートで霊園はないわ」

 「お前が言ったんだろうが。その歳で呆けてるのか?」

 「呆けてないわよ!だいたい、そのネタは前回使ったから禁止!」

 「前回ってなんだ?」

 「知らないわよ!何言ってんの!?」

 

 ちょっと理不尽過ぎたかしら。

 いやいや、良いわよねこれくらい。

 元はと言えば、先生が私をバカにしたのが悪いんだから。

 

 「だが、朝潮を連れて行くのは良いが、なんと説明すれば良いだろうか」

 「誰のお墓か、とか?」

 「いや、女房と娘。ついでに義父にだ。正直に未来の嫁……は、早すぎるか。恋人……でもないな。惚れてる子が妥当か……」

 「妥当か……。じゃないでしょ。久しぶりに先生と会ったと思ったら見ず知らずの子供連れて来てて、しかも未来の嫁さんとか惚れてる子です。なんて紹介されでもしたら、あの奥さんのことだから化けて出るかもよ?」

 「アイツならやりそうだな……」

 

 先生の亡くなった奥さんってハチャメチャな人だったからねぇ。それこそ、気に入らないことがあったら化けて出るくらいは平気でやりそうなくらい、性格が破綻してたわ。

 

 「お前の倍。いや、3倍増しのお転婆だったからな」

 「ちょっと待って?その言い方だと、私もお転婆ってことにならない?」

 「そう言ってるんだが?」

 「だが?じゃないでしょ!奥さんはその通り……って言うか、お転婆なんて言葉じゃ生易しすぎる人だったけど、私は物静かでおしとやかな子でしょうが!」

 「真逆じゃないか?」

 「うっさいロリコン!例え、万が一真逆でもロリコンよりはマシよ!」

 「見くびるなよ神風。私はロリコンはロリコンでも、ただのロリコンではない」

 

 なぜ、そのセリフでキリッとした顔ができる?

 それに何?そのポーズ。

 机に両肘を立てて寄りかかり、両手で口元を隠しちゃってさ。もしかして、ゲ○ドウのポーズってやつ?

 

 「私は朝潮に特化したロリコンだ。そこら辺にいる、少女と見れば見境なしに興奮する変態共と一緒にするな!」

 「結局ロリコンじゃない!声を大にして言っていいセリフじゃないわよこの変態!」

 

 ダメね。完全に手遅れ。

 このオッサン、手の施しようがないわ。

 こんな状態でお墓参りなんてしたら、本当に奥さんが化けて出て来るかもしれないわ。

 いや、化けて出る程度じゃ済まないかもしれない。

 あの奥さんなら、愛した旦那がロリコンになってるなんて知ったら祟り殺すくらいしかねない。マジで。

 

 「あ、お墓参りはとりあえず置いといて。毛嫌いしてる呉に何しに行くの?ついに戦争?」

 「するわけないだろう。毎年恒例の駆逐艦演習大会。通称『D-1』が、今年は呉で開催なんだ」

 

 あ~それでか。

 たしかにお盆と時期も重なるし、呉からなら霊園まで車で3時間ちょっとくらいだもんね。

 一日早く横須賀を出れば、小旅行もできそうだわ。

 

 「ここ数年は五駆と六駆を交代で出してたけど、今年はどの駆逐隊を出すの?やっぱ八駆?」

 「そのつもりだ。それに加えて、今年はお前にエキシビションマッチに出てもらう」

 「え?やだ」

 

 って言うなり、先生が心底呆れた顔して「はぁ……」って、大きなため息ついちゃった。

 でも、本当に嫌なんだもん。

 私の技は実戦、しかも殺し合い専用と言っても過言じゃないわ。

 そんなモノを、演習なんてお遊びで使う気になんなくてさぁ。

 あ、だけど……。

 

 「ちなみに、相手は?」

 「陽炎型八番艦の雪風だ。呉の提督は夕立とやらせたがっていたが、嫌がらせを兼ねてお前をねじ込んだ」

 「あっそ。だったら夕立とやらにしなさいよ。呉の提督は夕立がご所望なんでしょ?」

 「先代の夕立ならともかく、今の夕立は駄目だ」

 「どうして?」

 「戦い方がえげつない。はっきり言って18禁だ」

 「例えば?」

 「アイツは人型の上位艦種を特に好むんだが、魚雷を敵の○という○に突っ込んだ上で一斉に爆発させるのは当たり前だな。酷いのになると、敵を○○○にした上で男でも萎えてしまうような○○を繰り返した上で、生かしたまま少しづつ○○」

 「○○って……まさか」

 「言葉通りだ。アイツが言うには、戦艦が一番美味いらしい」

 

 そ、そんな危ない奴がいるとは思わなかった。

 昔どっかで聞いた噂の、艦娘を貪り食う深海棲艦みたいな奴ね。

 その話が本当なら、確かに演習なんてさせられないわ。

 先生は嫌がらせを兼ねてとか言ってたけど、実際は雪風とか言う奴とやり合える駆逐艦が、夕立以外では私しかいないからでしょう。

 そのついでに、稲妻と紅備えを朝潮に見させる気なんだわ。

 

 「どうしても嫌か?陽炎型は、夕雲型と並んで最新鋭と言える艦型だ。その最新鋭の雪風を、最古豪のお前が倒すのはお前好みの展開だと思ったんだが」

 

 たしかに、私好みの展開だわ。

 三年前に敵艦隊を素通りさせるなんて間抜けをやらかした呉提督のお気に入りっぽい雪風を私が倒せば、アイツの供養にもなるかもしれない。

 だけど、先生の思惑に乗せられっぱなしなのは気に入らないわ。

 

 「出ても良い。でも、報酬が欲しいわ」

 「わかった。何がいい?」

 

 意外と素直ね。

 私がこう出るのは予想済みだったって訳か。だったら……。

 

 「長船。先生が手に入れたって言う、上杉家秘蔵のヤツ」

 「アレは大太刀だ。お前では扱いきれ……」

 「じゃあ出ない。他を当たって」

 

 フフフ♪悩んでる悩んでる♪

 そりゃあ惜しいわよねぇ。

 先生がいくらで手に入れたかは知らないけど、私が報酬として寄越せと言った刀は最上大業物十四工に数えられる備前国長船兼光作の大太刀。

 しかも、上杉家に伝わっていた三本の内の一本(残り二本はいずれも重要文化財)だもんね。

 

 「………わかった。その代わり、絶対に出ろ」

 「商談成立♪その雪風ってのが、私に本気を出させることを祈ってなさい」

 

 よし!長船ゲット!

 いやぁ~、私って先生の影響もあるんでしょうけど、刃物を集めるのが趣味なのよ。

 抜き身の刀身を眺めてるだけで二時間は軽く潰せるわ。

 

 「ん?この気配は……」

 

 気配?

 確かに誰かがここに近づいてるみたいだけど、私には誰だか判別できないわね……て、そんなことができるのは私が知る限り先生だけか。

 あ、ノックした。

 いちいちノックするなんて律儀な人ね。

 執務室だからって遠慮する事ないのよ?どうせ変態しか居ないんだから。

 

 「任務の報告にまいりました!入ってもよろしいでしょうか!」

 

 この声は……朝潮かな?

 あの姉妹って声が似てるから、パッと聞いただけじゃあ誰が誰だかわかんないのよね。

 

 「構わない。入りなさい」

 

 うわぁ、何が「入りなさい」よ。

 いい歳したオッサンが格好つけちゃってまぁ……。

 しかも、また例のポーズしてるし。もしかして、そのポーズ気に入ってるの?

 あ、わかった。そのポーズで口元がニヤケてるのを隠してるのか。

 

 「失礼します!」

 

 カタッ苦しい。

 真面目なのは評価するけど、敬礼までしなくてよくない?敬礼したって、先生は口元を隠すのに必死だから答礼できないわよ?

 しかも、緊張でもしてるのか顔が若干強張ってる。口の端なんかヒクヒクしてるわ。

 で、対する先生は……。

 

 「……」

 

 改二になって少し身長が伸び、どう見ても小学生くらいだった改装前に比べて少し大人っぽくなっている。

 長い黒髪と、真面目を体現するような佇まいの朝潮はまさに正統派美少女と言っていい。

 制服も大潮達と同じ、白の長袖ブラウスに黒のサロペットスカート。襟元の赤いリボンタイが黒の割合が多い制服の中でいいアクセントとなっている。

 うん、控えめに言って天使だ。

 

 な~んて、考えてそうな顔してるわ。

 鼻から上はキリッとしてるけど、手で隠されてる口元はもうデレッデレ!涎まで垂らしそうな勢いね。

 

 「ご苦労だった。大潮はどうした?君が来るとは思ってなかったから驚いた」

 

 うわぁ、今「君」って言った?

 言ったわよね?

 他の艦娘どころか私に対してもお前呼ばわりなのに、朝潮に対しては「君」?ちょっと扱いが違いすぎない?

 

 「大潮さんは、他の二人と納品に行ってます。それで私が代わりに来たのですが……。出過ぎた真似でしたでしょうか」

 

 これでもかと言うほど、わかりやすくションボリしちゃった。

 納品って事は輸送任務かしら。

 それくらいの任務なら、別に誰が報告に来たって構わないんだから気にすることないのに。

 

 「いや、別に構わない。言い方が悪かったな。すまん」

 

 と、口では平静を保ってるけど、腰が半分椅子から浮いてるわよ?

 私がいなかったら飛びついて、頭を「よーしよしよし!」って感じで撫で回してたんじゃない?

 

 「数は間違いないな?」

 「はい!何度も確認しました!間違いなく、てるてる坊主300個制作任務、完了です!」

 

 「てるてる坊主!?任務って、てるてる坊主作ってたの!?」

 「よろしい、朝潮が確認したのなら安心、確実だな」

 

 私には訓練しろとか言っておきながら、この子達にはそんな物作らせてたの!?しかも300個も!

 何に使うのよそんな物。

 いや、晴天祈願に使うのはわかるわよ?

 でもさ、晴れなかったらどうするつもり?

 童謡のてるてる坊主の三番の歌詞を知ってるの?

 雨がやまなかったら首をちょん切るのよ!?

 300個ものてるてる坊主が斬首されてる光景って軽くホラーでしょ!

 

 「お褒めにあずかり光栄です!」

 「無視するな!納品って事は売るのよね!?てるてる坊主なんて売れるの!?」

 「あ、神風さんじゃないですか。いたんですね」

 

 さも、今気づいた風な顔して言うな!

 それとも、本当に私に気づいてなかったんじゃないでしょうね。

 

 「うちの駆逐艦達が作ったてるてる坊主は、大きなお友達に飛ぶように売れる横須賀鎮守府の名物だ」

 

 買いに来る奴って先生の同類よね!?

 しかもそれって、300人のロリコンが買いに来れる範囲にいるってことじゃない。超怖いんだけど!

 

 「ちなみに、一個千五百円だ。お前も買うか?」

 

 オマケに無駄に高いっ!

 てるてる坊主が一個千五百円!?ボッタクリにもほどがあるでしょ!そんな値段でてるてる坊主を買おうとする奴は間違いなく異常者だわ!

 って言うか……。

 

 「よくそんな値段で売れるわね!艦娘が手渡しで売ったりでもしてるの!?」

 「そんな危険な事をさせるわけないだろう。売ってるのは憲兵だ」

 

 憲兵さぁぁぁぁん!

 憲兵さんなにしてんの!?

 買いに来た奴ら間違いなく危険人物よ!?取り締まりなさいよ!捕まえて牢屋にぶち込みなさいよ!

 

 「作った駆逐艦のブロマイド付きだからな。そういえば、たまに長門によく似た奴が買いに来ると言っていたな」

 「それ、間違いなくうちの長門!」

 

 アイツって、普段は武人然としてるけど、実際は可愛いもの好きの先生並みのロリコンなのよ。

 そんなに駆逐艦が好き!?って、何度ツッコンだかわからなくなるくらいツッコンだわ。

 そもそも、ブロマイドなんて売っていいの?肖像権とか大丈夫!?

 

 「あ、ちなみに目元、もしくは口元は隠してるからな」

 「余計いかがわしいわ!」

 

 鎮守府を風俗にしたいのかこのオッサン!

 あれでしょ?風俗店とかで泡姫を選ぶ時の写真みたいに、手で目元や口元だけ隠してる感じなんでしょ?

 普通にアウトでしょ!よく今まで問題にならなかったわね!

 

 「顔を半分隠してるとは言え、知らない人に写真を持たれるのは恥ずかしいですね……」

 

 いや、それが普通よ。

 私なら恥ずかしいで留まらず気持ち悪いわ。

 何に使われるかわかったもんじゃないし。いや、使い道なんて一つしかないか……。何とは言わないけど。

 

 「心配するな朝潮。写真に写ってるのは、すべてコスプレした憲兵だ」

 「あ、なら安心ですね」

 「安心じゃない!」

 

 憲兵さんのコスプレ写真を駆逐艦の写真と偽って売ってたの?詐欺じゃん!左門兄が言うところのパネマジじゃん!

 まあ、変態が詐欺に引っかかろうと知った事じゃないけど、鎮守府内に駆逐艦のコスプレする憲兵がいるって言う知りたくもない衝撃の事実を知っちゃったじゃない!

 って言うか、私の中で憲兵さんの株が大暴落したんだけど!?

 

 「朝潮の写真は、私がアルバムにして大切に保管している」

 「そこまで私の事を……。朝潮、感激いたしました!」

 

 いや気持ち悪いでしょ。

 感激する要素皆無じゃない?と言うか、そのアルバムの写真はいつ撮ったの?まさか、隠し撮りとかじゃないわよね?

 

 「朝潮……」

 「司令官……」

 

 なんだこの雰囲気。

 もしかして、私って邪魔者?私が居るのに、二人だけで桃色空間作られると不愉快極まりないんですが。

 

 「ねえ、私が居るの忘れてない?」

 「「……」」

 

 いやいや、なんで二人とも「いつから居た?」みたいな感じで見てくるの?

 殴るわよ?

 いや、暴れるわよ?いい?それ以上、その目で私を見たら暴れるからね!

 と、思ったけど……。

 

 「はぁ……。もういい。部屋に戻って昼寝する」

 

 場違い感がハンパないわ。

 部屋に戻って、くだんのアルバムを探し出して燃やしてやる。私を蚊帳の外にした事を後悔させてやるんだから。

 

 「あ!申し訳ありません司令官。私もこれで失礼します!」

 

 なんで?

 折角気を使ってあげたんだから、二人で話でもすればいいのに。なんなら、行くところまで行っちゃっても良いわよ?

 

 「わかった。また、いつでも来なさい」

 

 来てくれの間違いじゃなくて?朝潮が帰るって言った途端に、露骨に残念そうな顔になっちゃってるじゃない。

 

 「はい!では失礼します!」

 

 律儀に敬礼して、朝潮は私の後を追うように執務室を出た。

 ところで、執務室を出る時も敬礼ってしなきゃ駄目なの?私、そういう事したことないわよ?

 

 「……」

 「何?女に見つめられて喜ぶ趣味はないんだけど」

 「私にも、女性を見つめて喜ぶ趣味はありません」

 

 だったらなんで、執務室を出てからずぅぅぅっと、私の後頭部に視線を送ってるのよ。

 何か文句でもあるの?

 何か話があるから、私について出て来たんじゃないの?それとも、私から振ってあげようか?

 

 「ねえ朝潮、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 「何でしょうか」

 

 キョトンって擬音が聞こえそうなほど不思議そうね。小首までかしげちゃって。

 こういう仕草をされると、同性でも可愛いって思っちゃうから不思議よねぇ。男同士の場合は知らないけど。

 

 「あなたって、先生の家族のことは知ってる?」

 「田舎で暮らしているという弟さんのことしか知りません。その人と神風さん以外にも、ご家族がいらっしゃるのですか?」

 「へぇ、先生は話してないんだ……って、ちょっと待て。今、私も含めなかった?」

 「含めましたが?」

 「たが?じゃない!私と先生は家族じゃないの!」

 

 家族みたいに想ってくれてるし想ってるけど、あくまで()()()()()()

 本当の家族じゃないわ。

 実際、血なんて欠片も繋がってないしね。

 

 「えっと……。反抗期なんですか?」

 「反抗期なんてとっくに終わってるわよ。そうじゃなくて……」

 「まさか、養女だから。なんて、くだらない理由で言ってるんですか?」

 「今、何て言った?」

 「くだらないと言いました」

 

 なるほど。

 私が先生の家族に気兼ねしてることや、先生の重荷が増えないようにってお父さんと呼ばないのも、あなたからしたらくだらない理由って訳ね。

 ふざけんなクソガキ。

 

 「そんなに怖い顔をしないでください。噛みつかれそうです」

 「噛みつこうとしてんのよ。喧嘩売られたんだから当然でしょうが」

 「私が喧嘩を売った?ご冗談を。喧嘩を売られたのは私の方です」

 「は?」

 

 この子、何言ってんの?

 私の方が売ったって言うけど、私は喧嘩を売った覚えなんてないわ。

 アイツの若年性痴呆症がうつったのかしら。

 

 「私は昔、司令官に助けていただいたことがあります。艦娘になったのも、その時の恩返しがしたかったからです」

 「ふぅん。で?それがどうしたってのよ。あなたが艦娘になった理由が、どうやったら私が喧嘩を売ったってことになるのよ」

 「まあ、最後まで聞いてください。先に言ったのはあくまで建前です。本当は、初恋の人であるあの人に会いたかったから、私は艦娘になったんです。なのに、あの人にはすでに神風さんがいました。ええ、嫉妬しました。今だってしてます。神風さんの家族自慢を聞くたびに、歯が砕けてしまうんじゃないかと思うくらい、歯ぎしりしてしまいます」

 「私は家族自慢なんて……!」

 「してます。神風さんに自覚はないようですが、司令官のことを話す時の神風さんは嬉しそうで、誇らしそうで、司令官のことを父親以上に想ってるんだと嫌でも思い知らされるんです。司令官のことをお慕いしてる私からすれば、神風さんの無自覚父親自慢は喧嘩を売られているのと同じです」

 「そ、そんなことは……」

 

 ないこともない……かな。

 先生の話をする時は愚痴でもテンションが上がるし、何より楽しいわ。

 先生に惚れてるこの子には、私の愚痴は自慢だととられても仕方ないのかもしれない。

 

 「ねえ、一緒にお墓参りに行ってくれ。って、言われたらどうする?」

 「お墓参り?誰のですか?」

 「先生の奥さんと本当の娘さん。それと、奥さんのお父さん」

 「その人たちは……」

 「初期の空襲でね。酷い死に方だったわ」

 

 私はその時、先生に連れられて役場に養子縁組の手続きをしに行ってたから事なきを得たけど、先生の家族はそうじゃなかった。

 奥さんは娘さんを庇うように、奥さんのお父さんはさらにその上から庇うように覆い被さって死んでた。

 生きたまま、焼かれてた。

 いっそ、爆弾が直撃して家ごと吹っ飛ばされた方が楽に死ねたと思う。

 

 「わかりました。お供しましょう」

 「そう。じゃあ、先生には私から言ってといてあげるわ」

 「司令官?神風さんのお供じゃないんですか?」

 「は?どうしてそうなるのよ」

 「違うんですか?私はてっきり、神風さんのことだから遠回しに付いて来てくれって言ったのかと思いまして」

 「違うわよ。行くのはあなたと先生だけ。私がいたって邪魔なだけでしょ」

 「駄目です。一緒に行きましょう」

 「断る。私は行かない」

 「行かない?では行きましょう。今の一言で、本当は行きたいんだとわかりましたから」

 

 こ、この子、意外と人の話を聞かないわね。

 これも改二改装の影響なのかしら。

 改装前はしょっちゅうオロオロしてたのに、今はそんな様子が微塵もない。堂々と、私に言い返してるわ。

 

 「神風さん。どうでもいい赤の他人を、大切な家族のお墓参りに誘うと思いますか?」

 「思わないけど……」

 「だったら悩む必要なんてないじゃないですか。傍から見てると、司令官と神風さんは親子にしか見えないんですよ?下手に血がつながった家族より、よほど家族らしいです」

 「利いた風な口を……!」

 「ききます!良いですか神風さん。司令官が本気で叱るのは神風さんだけなんです。神風さんにしか、司令官は怒らないんです。他の誰よりも特別扱いされてるのに、まだ血が繋がってないとか本当の家族じゃないからなんて言い訳をする気ですか?見損なわせないでください!誰よりも長く駆逐艦をやってるあなたが、そんな臆病でどうするんですか!」

 

 臆病?どんな敵でも真正面から叩き潰してきたこの私が?

 とんでもない挑発をしてくれたわね。

 私を臆病者呼ばわりしたのは、きっと後にも先にもあなただけだわ。

 でも、不思議と腹は立たない。

 むしろホッとしてる。

 たぶん私自身、難しく考えすぎて踏み出せない自分を、心の底で臆病者と思ってたんでしょうね。

 だから、ハッキリ言ってもらえて安心したんだわ。

 

 「お父さんって呼んで、良いのかな」

 「ええ、きっと喜んでくれます」

 

 自信満々に断言してるけど、その自信はどこから来てるの?

 でもまあ、その顔を見てると、本当にそうなんじゃないかと思えるから不思議だわ。

 だけど、諭されたからって素直に呼べるほど私は幼くないし、素直な性格もしてないの。

 

 「あなたに言われるがまま。ってのは癪に障るわ」

 「満潮さん並みに素直じゃないですね。神風さんって」

 

 その母親みたいな笑顔はなによ。

 あなた、私よりかなり年下よね?それなのに、なんでそんな菩薩みたいな顔ができるの?初めて会った時の奥さん……いえ、お母さんみたいな顔じゃない。

 

 「うるさい。あなた、改二になって女が上がったんじゃない?」

 「司令官のためなら女も磨きます。いくら剣でも、多少の装飾は必要でしょう?」

 「ナマクラが言うようになったじゃない。でも、気に入ったわ」

 

 最初に思った通り、この子は面白い。

 癪だけど、私の全部を教えてもいい気がしてきた。

 それに、背中も押してくれた……て言うよりは、お尻を蹴り飛ばしてくれたことに恩も感じてる。

 だから……。

 

 「あなた、明日以降の予定は?」

 「哨戒任務と訓練くらいです」

 「そう。だったら明日からの訓練は私が見てあげるわ。先生には、私から言っておいてあげる」

 

 諭してくれた礼代わりよ。

 稲妻(いなづま)紅備(あかぞな)えはまだ早いから別として、あなたに、今はただ使えてるだけでしかない脚技の正しい使い方を教えてあげる。

 私があなたを、煮詰めてあげるわ。

 

 「私からお願いする手間が省けました。是非、よろしくお願いします!」

 

 ふぅん、私に弟子入りするために付いて来たのか。

 じぃ~と私を見てたのは、切り出す機会をうかがってたってところかしらね。

 だったら……。

 

 「その心意気やよし!やるからには、全力で事に当たるわよ!」

 

 私も、宣言した通り全力でやってやるわ。

 

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