艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第五十話 横須賀鎮守府七不思議

 

 

 

 先生と長門による死闘で、艦娘用の浴場が全壊した日の夜。

 私は頭に包帯を巻いた長門と天奈を誘って、一緒に居酒屋鳳翔で飲むことにしたわ。

 

 「よく生きてたわね。先生ったら、マジで怒ってたでしょ」

 「うん……。怖かった。すっごい怖かった……」

 

 あれだけ激怒した先生は久しぶりに見たわ。

 私たちが駆けつけた時にはすでに浴場は全壊してて、先生と長門は戦場を外に移し、朝潮は廊下の隅で暴漢に襲われたかのように身を縮めて震えてたっけ。 

 で、長門はその時の恐怖で、仮面が剥がれて素に戻っちゃってるわけ。

 実はコイツ、人前では思い込みと虚勢で長門を演じてるだけで、素は男なら庇護欲を掻き立てられそうなほど気が弱くて臆病なのよ。

 

 「提督が戦ってるとこを初めて見たけどさ。マジで装甲を刀で斬っちゃうのね」

 

 天奈が驚くのも無理はないわ。

 陸上でも、戦艦クラスなら戦車並みの装甲を張れるのに、先生は苦もなく斬っちゃうんだもの。

 ちなみに、艦娘でもないのにそんな真似ができるのは、私が知る限り二人。

 その一人は、もちろん先生よ。

 

 「陸上で弱体化してたとは言え、生身でバケモノ共と殺し合ってた人よ?長門程度がどうこう出来る訳ないじゃない」

 「でも、こんなでも戦艦だし通常兵器も効かないのよ?それを、どうやったら斬れるのよ」

 「先生曰く、気合いでどうにでもなるらしいわ」

 「んなバカな……」

 

 天奈が信じられない気持ちもわかるけど、実際にやっちゃってるからなぁ。

 まあでも、先生がガチのマジで本気だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうけどね。

 

 「あ、でも、神風も同じことしてたじゃない」

 「天奈が言ってるのって『刀』のことでしょ?私のアレは、『弾』と『装甲』に回す分の艦力を刀身に張ってるだけよ。先生のとは別物」

 

 艦娘が扱う、艦力を元にした力場って応用が利きやすいの。その気になれば、拳に纏わせて直接殴ることも可能よ。

 もっとも、拳が届く距離まで近づくくらいなら、砲撃なり雷撃なりした方が安全で確実だけどね。

 

 「駆逐艦とは器用なものだな。感心するよ」

 「あ、長門に戻りやがった。言っときますけどね。あなたたちみたいな上位艦種と違って、元のスペックが知れてる駆逐艦は、使えるものは何でも使わないと生き残れないから半分仕方なくなのよ?」

 

 私が創作した技の数々は、すべて生き残るために編み出したもの。

 本来なら、技と呼ぶのもおこがましいわね。

 しいて言うなら悪あがき。

 力のない私が、それでも敵を倒して生き残るために考え出した苦肉の策なんだもの。

 

 「朝潮が思い付きで稲妻を使ったのには驚いたが、やはり飛魚より難易度が高いのか?」

 「簡単に言うと飛魚と水切りの合わせ技だけど、燃料の消費は飛魚の半分。水切り程じゃないけど機動性も高い。でも、難易度は飛魚の比じゃないわ」

 

 どれくらい高いかと言うと、自動車でウィリーするのと片輪走行するの、どっちが難しいか考えれば良いわ。

 極端な例えだけど、素人でも急に速度を上げれば一瞬だけでもウィリーみたいな事は出来る……かもしれないでしょ?

 これを飛魚に当てはめると、脚の再発生さえミスらなければ体の動きが出鱈目でも跳ぶことが出来るのと同じ。

 だけど稲妻は違う。

 体のバランスを崩せば即座に転倒するし、場合によっては跳んでる最中に再度別方向に跳んだりする稲妻の力場操作なんて、素人がどうやったら車で片輪走行できるんだろう?なんて感じで、想像すらできないと思うわ。

 飛魚がかろうじて使える程度の艦力操作じゃあ、一回目もまともに跳べずに転倒するでしょうね。

 

 「さらに、体に掛かる負担は飛魚以上。両足で反動を受け止める飛魚と違って、同程度の負担を片足だけで受け止めないといけないから、体ができてなかったら足を折りかねないわ」

 

 ついでに、跳べる距離は飛魚より短く、水切り程小回りも利かない。

 まあ、この欠点は長門には教えてやらないけど。

 

 「なるほど、お前の技には何かしら欠陥があるんだな」

 「うるさい。その欠陥技で背後を取られたのはどこの戦艦でしたっけ?」

 「う……」

 

 でも、馬鹿が欲情して突っ込んでいたとは言え、さすがにアレは予想外だったわ。

 モノマネしか出来ないと思ってたのに、思いつきで稲妻を創作するなんて……。

 

 「朝潮を見て()()()()()()()()、天才って本当にいるのよねぇ……」

 「ん?私の事か?天奈」

 

 長門は天才じゃなくて駆逐艦限定の天災。

 怯えきった朝潮が目に入らなかったの?

 あのあと、ガチ泣きしてた朝潮を慰めるのに苦労したんだから。

 

 「黙れゴリラ。その口、縫い付けるわよ」

 「またゴリラと言ったな!私だって女だ!多少は傷つくんだぞ!」

 「本当に?脳みそまで筋肉でできてそうな長門が?」

 「喧嘩すんじゃないわよ二人とも。鳳翔さんに怒られちゃうわよ?」

 「そうですよ。二人とも。ここでの喧嘩はご法度です」

 

 そう言いながら、厨房から注文していたお酒を持って、鳳翔さんが出て来た。

 まあ、私個人としてはここで矛を収めてもいいけど、長門は納得できてないみたいよ?

 

 「しかしだな鳳翔、こいつの言い方は酷すぎる!」

 

 「さん」を付けろデコ助野郎。

 先生ですら、プライベートでは鳳翔さんに「さん」付けなのよ?

 鳳翔さんを任務中以外は「さん」付けで呼ぶのは、横須賀の暗黙の了解でしょうが。

 

 「まあまあ、久しぶりにこの四人で集まれたんですから、ここは穏便に。ね?」

 「し、しかたないな。今日のところは、私が折れてやろう」

 「へぇ?泣き虫長門が偉そうな物言いをするようになったじゃない。呉にいた頃は、自分の主砲の音にさえビビって腰抜かしてたのに」

 「それはきっと、私ではない」

 

 あ、そっぽ向いて誤魔化しやがった。

 まあ、長門からしたら消し去りたい過去よね。

 昔の長門を知ってたら、横須賀の守護神って言われてる今が不思議でしょうがないくらい酷かったもの。

 

 「でも、可愛い物はいまだに大好きですよね」

 「可愛い物って言うより駆逐艦でしょ?あ、そう言えば叢雲から聞いたけど、長門ってあの子にもちょっかい出したんだって?」

 「出してない。後をつけただけだ。と言うか、私は捕まるような事はしていない。駆逐艦を愛でているだけだ!」

 

 朝潮に欲情して先生を激怒させたのはどこのどなたでしたっけ?憲兵さんに見られてたらしょっ引かれてたんじゃない?

 

 「ん?神風が頼んだのはアジの塩焼きか?食堂でよく出るだろ」

 

 鳳翔さんが注文した料理を持ってきたのをこれ幸いにと話を逸らすな。

 実は、捕まりそうな事してる自覚あるんじゃない?

 は、取り敢えずいいか。

 

 「先生のご飯も作らなきゃいけないから、食堂で晩御飯を食べる機会があまりないのよ。それに、先生に魚を出すと骨取ってあげなきゃいけないから、あんまり作りたくないの」

 「まるで母親だな。実は提督のお母さんだったりしないか?」

 

 冗談じゃない。

 私ってまだ22よ?そんな歳で、あんなでかい子供はごめんだわ。経験も✕もない綺麗な独身だしね。

 

 「ですが、提督もたまに塩焼きを注文しますけど、骨は自分で取ってますよ?」

 「それ本当?」

 「ええ、器用に取ってます。見本みたいな魚の食べ方をしますね」

 「あのクソ親父、きっと面倒だから私に取らせるのね。そういうことなら、二度と取ってやらないんだから」

 

 骨を自分で取れる言質は取ったんだから、こんど魚を私に寄越して来たら突き返してやる。

 

 「神風に甘えたいんじゃないか?」

 

 は?いやいや勘弁してよ。

 それじゃあ、本当にただの子供じゃない。

 

 「あ~、それはあるかもしれませんね。提督さんなりに、甘えてるつもりなんですよ」

 「や、やめてよ。あんなオッサンに甘えられても嬉しくないわ!」

 「いつも提督に甘えて好き放題してるんだ。それくらいは、許してやってもいいんじゃないか?」

 「別に甘えてないし」

 

 そう、甘えてない……つもり。

 実際は、甘えてるんだって自覚はあるわ。

 いい加減ダメだってわかってはいるんだけど、一緒にいるとついつい甘えちゃうのよ。

 

 「神風さんが南方に行ってる間は、いつも寂しそうにしてましたから、その反動もあるのかもしれません」

 「寂しそうにしてた?先生が?」

 「ええ、私でもわかるくらい寂しそうでした。提督は、可愛い子には旅をさせろの精神で送り出していたんでしょうが、本当は行かせたくなかったんじゃないでしょうか」

 「その可愛い子の扱いが酷いと思うんだけど?ほとんど小間使いよ?」

 「きっと、提督なりの愛情表現ですよ。神風さんが鎮守府を出ている間は、毎晩のようにここへ来てたんですよ?」

 

 うっそだ~。

 今はともかく、私が南方巡りを始めた頃は朝潮が居たじゃない。むしろ、邪魔者が消えたと喜んでたんじゃない?

 

 「先代の朝潮にベッタリじゃなかったか?憲兵に捕まるんじゃないかとヒヤヒヤした覚えがあるんだが」

 

 ほら見なさい、鳳翔さんは先生を色眼鏡で見過ぎなのよ。先生は、私が居ないくらいで人に悟られるほど感情を表に出したりしないんだから。

 

 「そんな事はありません。ここに一人で来られた時は寂しそうにお酒を飲んでました」

 「先生のお酒の飲み方はいつもそんな感じでしょ?浴びるような飲み方はあまり好きじゃないし」

 

 そんなだから、祝勝会とかの催し物にも顔出し程度しか来ないしね。

 奇兵隊の連中と飲む時だってそうよ。

 先生はペースを崩さずに飲むから、他のメンツが酔いつぶれたあとも一人で黙々と飲み続けるわ。

 あ、一人で黙々と言えば……。

 

 「さっきから天奈が静かだけど……」

 「天龍なら、そこで酔い潰れてる」

 「はぁ!?って、本当だ。まだ一杯か二杯しか飲んでないでしょ?弱すぎない?」

 「天奈さんは強い方ではないですし、二杯目を一気にいきましたからそれでじゃないですか?」

 

 ふぅん。

 天奈ってお酒弱かったんだ。

 それなのに、どうして一気なんてしたんだろ。

 まあ、南方の話の流れで、()()()の顛末を話さなきゃいけなくなったらどうしようって思ってたから、酔い潰れてくれてむしろ良かったか。

 

 「提督の飲み方と言えば、前に鳳翔に聞いたんだがツマミなしじゃ飲まないんだって?」

 「そういえばそうですね。自分ルール……と、言ってましたっけ」

 

 ああ、それは昔、奥さんに「酒だけじゃ体に毒だから、何か食いながら飲め」って、言われたかららしいわ。

 教えないけど。

 

 「神風は知ってるのか?」

 「知らない。鳳翔さんの言う通り、ただの自分ルールでしょ」

 「ふむ、横須賀鎮守府七不思議がまた一つ増えそうだな」

 

 学校の怪談か。

 別に七不思議に加えるほどじゃないでしょ。

 まさかとは思うけど、七つ全部知ったら死んじゃうんじゃないでしょうね。

 でも、他のが気になるって言えば気になるわ。

 

 「ちなみに、他の六つは?」

 「噂してるのは主に駆逐艦なんだが……。資料室で咽び泣く駆逐艦。深夜に赤い着物の子供を連れて歩く893。夜の執務室に揺らめく赤い人玉。駆逐艦が一人で歩いていると、いつの間にか後ろに立っている黒髪の鬼。厨房で、出撃したいと呟きながら芋を剥く空母の霊。最近では、浴場に出るお尻に殴られた痣がある駆逐艦の霊だな」

 

 面倒くさ!

 ツッコミどころが多すぎて面倒くさ!

 最後のは知らないけど、ここに不思議の発生源と思われる人物が3人いるんだけど!?

 

 「神風さん……」

 「言いたいことはわかるから言わないで」

 

 一つ目はたぶん、艦娘だった頃の()()()

 その次の二つは、間違いなく先生。

 二つ目の赤い着物の子供はおそらく私。私をお手洗いに連れて行ってる時だわ。

 どうしてわざわざ外のお手洗いに行くのかと言うと、先生の部屋って他は揃ってるのにお手洗いだけないのよ。だから、もよおした時は近くのお手洗いに行かなきゃいけないの。

 そして三つ目。あのオッサン、仕事終わりに執務室で喫煙してたんだわ。

 四つ目は間違いなく長門ね。

 駆逐艦をストーキングしてるとこを見られて、それが怪談にねじ曲げられたんだと思う。

 五つ目は、冷や汗を流しながら明後日の方向を向いてる鳳翔さん。

 鳳翔さんって色々と事情があって、基本的に有事。しかも、三年前の横須賀襲撃レベルの有事にしか出撃できないの。

 本人も納得して今の立場に甘んじてるんだけど、噂が本当ならもっと出撃したいのね。

 鳳翔さんて、こう見えて下手な駆逐艦より血の気が多いから……。 

 って言うか、だからって夜の厨房でボソボソ言いながら芋剥いてりゃあ幽霊扱いもされるわ!

 

 「これらが事実だとしたら、四つ目の駆逐艦の後ろを付きまとう鬼はどうにかしないとな。万が一の事があったら大変だ!」

 

 だから四つ目は長門!自覚ないの!?その頭の艤装が鬼の角に見えるのよ!

 

 「一つ目は古くからある噂ですから真偽は確かめようがありませんが、六つ目が謎ですね。私も、それは初めて聞きました」

 「最近って言ってたわよね?いつ頃から広まったの?」

 「たしか……今年の3月くらいだったか?子供のお尻に痣がつくほど殴るとは、酷い親もいたものだ」

 

 今年の3月頃って言うと、朝潮が着任したのがその頃じゃなかったっけ。

 ん?朝潮って、改二改装を受ける前は歳の割に体つきが幼かったわね。

 これはもしかして……。

 

 「あ~なるほど……」

 

 鳳翔さんも、私と似たような結論に至ったみたいね。

 おそらく、幽霊の正体は朝潮。

 でも、お尻の痣がなんなのかわからないわ。

 

 「鳳翔さん、わかる?」

 

 だっから、霊の正体が朝潮だと気づいてるのを前提で聞いてみた。

 何かを悟ったような顔してる鳳翔さんなら、お尻の痣の正体にも気づいてるはずだわ。

 

 「言えません。彼女の尊厳を守るために」

 

 尊厳を守る?お尻の痣は恥とでも言うのかしら。

 そうだと仮定して、お尻にあると恥になる痣とは何?

 考えろ。

 自分だったらどう?どんな痣がお尻に残ってたら恥ずかしい?

 ん?残ってたら……?

 

 「あ!蒙古斑か!」

 「ちょ!神風さん!」

 「ん?蒙古斑がどうした?」

 

 そうか。あの子、お尻に蒙古斑が残ってたんだわ。

 どうして噂にまでなったかはわからないけど、おそらく真相はこう。

 満潮たちは蒙古斑の事を知ってるはずだから、人がいない時間を見計らって一緒に入浴していたはず。

 あの子たちの性格を考慮すると、何度かからかうくらいはしたはずよ。

 それをたまたま外で聞いていた子が、『蒙古斑がお尻に残ってる駆逐艦が居るらしい』と世間話程度の感覚で広め始めた。

 でも、朝潮が人がいない時間を見計らって入浴していたせいで実際に見た者は現れずに、噂が一人歩きを始めた。

 その過程で、蒙古斑が『殴られた痣』にすり替わり、誰も見たことがない『痣のある駆逐艦』は幽霊ってことにされたのよ。

 これが、『お尻に殴られた痣がある駆逐艦の霊』の真相だわ。

 

 「神風は蒙古斑が残ってるのか?」

 「私じゃないわよ!朝……むぐ……」

 「ダメですよ神風さん。それ以上はダメ。絶対」

 

 危ない危ない。

 鳳翔さんに口を塞がれなければ言っちゃうところだったわ。

 別に言ってもよかったけど。

 でも、七不思議って言っても真相はこんな物か。

 あ、そう言えばたしか、七不思議を全部知ると死ぬって言う話自体が七つ目の不思議って話があったわね。

 あれ?じゃあ私全部知っちゃってない?しかも真相まで!

 

 「たぶん、大丈夫だと思いますよ……」

 

 私の表情から察したのか、鳳翔さんがフォローを入れてくれたけど……なんで目を逸らしたままなの?

 ねえ、大丈夫なのよね!?

 

 「しかし、どれも恐ろしい噂だ。一度調査してみるか……」

 

 黙れ四つ目!

 神妙な顔して考え込むんじゃない!あなたが鎮守府の七不思議の話題を出したせいで、変な不安を抱え込んじゃったじゃない!

 マジで恨むからね!

 今日は先生の帰り遅いんだから!

 

 

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