艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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最近、湯豆腐しか食べてない気がする……。


第五十三話 なんせ、世界水準軽く超えてるからな

 

 

 

 

 八月は夏の暑さが続きつつも、暦の上では秋の始まりの季節だと言うのに、涼しくなるどころか暑くなる一方な気がする。

 そんなクソ暑い日なのにもかかわらず、新米提督補佐の私は今日も書類仕事。

 外ではつい最近まで、ほぼ同期の長門が朝潮相手に嬌声を上げてたって言うのに、この扱いの差はなんなのかしらね。

 いや、立場が違うから、扱いも違うのは理解してるのよ?

 でもさぁ。

 あれだけ長門や神風が楽しそうにしてるのを見てたら、艦娘を辞めたことを後悔することがたまにあるのよ。

 

 「辰見さん。次はコレね。搬入した各種資材の確認と、猫の里親探しのポスターの掲示許可」

 

 ポスターなんて好きなだけ貼れ!そんな物の許可をいちいち求めないでよ!ただでさえ、私の目の前には書類が山になってるのに!

 とは言えない。

 だって悲しいけどこれ、仕事なのよね。

 

 「提督って、いつもこんな面倒な仕事してたのね……」

 

 現在、提督は第八駆逐隊と神風を連れて呉に出張中。私と別室に居る左門提督とで分担して提督の執務を代行してるんだけど……。

 

 「私が代わりに、呉に行けばよかった……」

 

 面倒臭い……。

 行ったところで、何する訳でもないけど、そうこぼしてしまうくらい面倒臭い。

 でも、行ったところで何もできないのよねぇ。

 なんか、五大鎮守府の提督どころか元帥も来るって話だから、私が行ったところで何を話して良いかわかんないもの。

 でも、提督ったら三日も早く出発したのよ?

 実質、出張とは名ばかりの休暇よ。

 

 「ぼやかないぼやかない。私が手伝ってあげてるじゃない」

 

 おお、我が麗しの秘書艦殿?

 ソファーに座ってくつろいでるようにしか見えないのは、私の気のせいかな?

 事務が持ってくる書類を私に投げた後は、ひたすらのんびりしてるじゃないの。

 

 「そんなにゴロゴロしてると豚になるわよ。暇なんなら、訓練でもしてくれば?」

 「嫌よ。だって外暑いし」

 

 嫌よと来ましたか。

 最近の駆逐艦は軟弱ねぇ……。

 私が現役の頃の駆逐艦は、外が雨だろうが雪だろうが嵐だろうが、訓練に励んでたって言うのに。

 

 「それに私、駆逐隊も組んでないし嚮導艦も居ないもの。自主練じゃ限界が有るわ」

 

 って言い訳でしょ?

 最初の頃こそ、書類仕事を手伝ってくれてたからうるさくは言わなかったけど、堂々とサボるなら逃げ道を潰していってやろうかしら。

 

 「嚮導艦が要るなら、空いてる軽巡に頼んであげるわ」

 「いやいや、私一人のために軽巡の先輩の手は煩わせられないわ」

 「他の駆逐隊と合同でやって貰うから心配要らないわよ。遠慮しなさんな」

 「それでも嫌……」

 

 なんでそこまで訓練を嫌がる?

 同期の朝潮をちょっとは見習いなさい。

 私も経験がある神風の鬼のようなしごきにも耐え、演習とは言え、長門に勝ったあの子は一躍有名人よ?

 ん?朝潮?

 あ~そうか、この子もしかして……。

 

 「ねえ叢雲。最近、朝潮と話したりしてる?」

 

 頭の艤装がピーンと立った。

 どうやら、叢雲からしたら触れられたくない話題だったみたいね。

 頭のそれって、実は感情と連動してるからある程度感情が読み取れるのよ。

 艦娘だった頃の私にも、似たような物ついてたから知ってるの。

 

 「どうして急に、朝潮が出てくるのよ。関係ないじゃない」

 「あの子が私たちを迎えに来た日くらいしか、アンタと朝潮が話してるとこを見た記憶がないもんでね。気になったのよ」

 「べつに、話すことなんかないし。それにあの子、訓練で忙しそうだし、近くにはいつも、あの提督がいるし……」

 

 今度は垂れ下がった。まるで犬の耳みたいね。

 近くに提督がいたらなんで話しかけづらいのかは謎だけど、この様子だと、昔の私と同じになってるのかもしれないわ。

 だったらちょっとばかし突っついて、確かめてみるとしますか。

 

 「朝潮も立派になったわね。鎮守府の代表としてD-1に出るだなんて」

 「そうね……」

 

 顔は平静を保ってるけど、頭の艤装に落ち着きがなくなってる。当たりかな?もうちょっと鎌かけてみるか。

 

 「アンタ、朝潮に嫉妬してるんじゃない?」

 「は、はあ!?なんで私が朝潮に嫉妬しなきゃいけないのよ!」

 

 当たらずといえども遠からず……いや、当たってる。と、確信したわ。

 叢雲は間違いなく、妹を疎ましく思ってた頃の私と同じになってる。

 

 「アンタ、あの子を見下してたでしょ」

 「そんなことあるわけないでしょ!辰見さんは、私をそんな嫌な女だと思ってたの!?」

 

 いえまったく。

 アンタはそんな子じゃないわ。

 でもね。本人にその気がなくても、無意識に見下してる事だってあるのよ。

 

 「あの子の頑張りは知ってるもの。洋上訓練に参加できない代わりに体力作りに励んでたし、艦娘になれた時のために、戦術書を何度も読み返したりしてた。試験に落ちる度に声を殺して泣いてたのも……」

 「だから、自分が守ってあげなくちゃって思ってたんでしょ?」

 「なんで……!」

 

 わかった。って、言おうとしたのかしら。

 そりゃあわかるよ。

 私もそうだったもの。 

 あの子は私より不出来。だから、出来る私が守ってあげなくちゃって、いつの頃からか思うようになった。

 でもね、叢雲。

 その自分勝手な思い込みは、見下してるのと同じなのよ。

 

 「ところが、横須賀に着任してみたら守ってあげようと思っていた相手は自分より遙かに強くなっていた。アンタはそれを知って、ふて腐れちゃったんでしょ?」

 「ち、違う!」

 

 いいや、違わない。

 私もそうだった。

 小さい頃は何をするにも要領が悪くて、私に助けを求めるのが常だった妹が、艦娘になった途端に頭角を現した。神風にすら、あんな天才は見たことがないって言わせるほどだった。

 きっとあの子は、小さい頃から何でも出来たんでしょうね。私に頼ってたのだって、そうすれば私が喜ぶと思ってそうしてたんだ。

 アンタはそんな、出来る妹を持ってた頃の私に良く似てる。

 アンタは守ろうとしていた朝潮が自分より強くなってて、弱い自分に見切りを付けちゃったんでしょ?

 まったく、今のアンタを見てたら……

 

 「イライラするわ。強くなった朝潮に嫉妬して、弱い自分に勝手に絶望して強くなることを諦めたわけね」

 「う、うるさい!辰見さんに何がわかるのよ!」

 

 わかるんだなぁこれが。

 だって、私も同じだったもの。

 そういう事なら、早めに修正しといた方よさそうね。じゃないと、この子がダメになる。

 あの頃の私と同じになるわ。

 え~と、今日の演習場の使用予定は……。

 

 「少し遠いけど、第五演習場が空いてるわね。叢雲、艤装を装着してそこに行きなさい」

 「な、何よ急に……」

 「いいから言う通りにしなさい。命令よ」

 

 私も丸くなったわね。

 昔ならたぶん、引きずってでも連れて行ってたでしょ……いや、逆か。

 しぶる私が、神風に引きずられてたんだっけ。

 

 「わかった。命令じゃ仕方ないもの……」

 

 トーンの下がった私の声に萎縮したのか、叢雲が渋々ながらソファーから立ち上がって部屋から出て行った。

 よし、叢雲は執務室から追い出した。

 こちらも準備しなきゃね。

 私は机の上に積み上がった書類の中にあった、とある装備の受領書を確認してから、傍らに置いていた愛刀を持って執務室を出た。

 まずは工廠。

 それから第五演習場ね。

 

 「お、あったあった。これが例の()()ね」

 

 工廠にいた整備員と妖精さんに適当ぶっこいて……もとい。交渉して、提督宛に届いた特殊装備を持ち出した。

 海辺を歩いてた艦娘や一般職員が驚いてたけど、気にはしない。

 提督に性能評価してくれって言われたと嘘をついて、コレを持ち出したことを咎められるかもしれないことも気にしない。

 私の秘書艦がダメになるかならないかが懸かってるんだから。

 

 「た、辰見さん!?何してるの!?」

 

 演習場に着いた私を見るなり、叢雲がこれでもかと驚いてくれた。

 まあ、士官服姿の私が内火艇ユニットを背負って現れれば驚きもするか。

 もっとも、見た目はそっくりだけど、私が背負ってるのは訓練用に出回ってる13式*1じゃなくて、提督が工作艦 明石に製作を依頼した特注品。

 装甲に回す分の艦力を減らして、余剰分を脚に回すことで速力を上げた二八式*2内火艇ユニット、通称『仮衣(かりぎぬ)』。

 カタログスペックでは、最高速力は20ノット。装甲は13式の半分だったかしら。

 あ、あと、「要求スペックに至らなかった試作品ですが、一応送りました」って注意書もあったわね。

 

 「今から、アンタの腐った性根を叩き直してやろうと思ってね」

 

 と、それっぽいことを言いつつ、叢雲の艤装をちょっと観察。

 機関から伸びたアームに繋がった連装砲と、左腕の魚雷発射管。そして右手に持つのは、アンテナを模した槍か。

 普通の特型駆逐艦とは、明らかに形状が異なるわね。

 強いて言うなら初春型の一番艦か、陽炎型に近いわ。

 いや、陽炎型艤装のプロトタイプと言った方が正しいのかもしれない。

 想像でしかないけど、叢雲の艤装をプロトタイプにして初春艤装というテストタイプが作られ、完成形として陽炎型艤装が作られた。って、ところじゃないかな。たぶん。

 さて、観察も済んだことだし、そろそろ……。

 

 「いや、どういう事か説明くらい……」

 「問答無用!」

 

 私は飛魚で一気に間合いを詰めて抜刀。

 そのまま叢雲を斬りつけたわ。

 結果は、叢雲の装甲に阻まれて刀身が鈍い音を上げただけ。提督みたいに出来るかと思ったけど、さすがに私じゃあ無理だったか。

 

 「ちょっ!いきなり何するのよ!」

 「言ったでしょ?アンタの根性を叩き直すって。本気でやらないと、死ぬわよ」

 「くっ!」

 

 私の目に怯えた叢雲が、逆加速をかけて距離を取ろうとしてる。

 でも無駄。

 この内火艇ユニットは速度に特化させた特注品。例え駆逐艦でも、逆走じゃあ振りきれないわ。

 さらに、私には神風直伝の脚技と、艦力操作術の刀がある。

 

 「その槍は飾り?せっかく近接武器を持ってるんだから、反撃してきなさいよ」

 「でも、それじゃ辰見さんが!」

 

 ふむふむ。

 つまり叢雲は、反撃したら私を死なせちゃうと思ってるってわけか。

 舐められたものねぇ。

 確かに私は強くないけど、並以下の駆逐艦に心配されるほど弱くもない。

 

 「遠子龍見流(とおこたつみりゅう)兄遠子(えとおこ)の舞。神骨(かむほね)

 

 なおも下がろうとする叢雲を、装甲に回す分の力場を纏わせて大上段からの唐竹割り。からの、振り下ろした勢いそのままに左肘を引き、切り裂いた装甲の隙間から叢雲の首めがけて突きを一閃。

 これが神骨。

 世にも珍しい、()()()()で戦うことを前提に作られた流派である、遠子龍見流の技の一つよ。

 ついでに説明すると、ご先祖様がとち狂ったのか時代の流れに乗ったのか、今でこそ辰見家は廃れた軍閥の一つだけど、元々は水場を管理してた神職だった。

 管理と言っても、私の名字からもわかるように見張ってただけ。

 つまり、()に見立てられた川を()張ってたから龍見姓を名乗り始め、明治くらいに龍を辰と改めて辰見になったらしいわ。

 さらに辰見家は、日本では珍しい女系一族。かつ、双子の女児しか生まれない。

 この話を聴いた時に、今は亡き妹と「呪われてんじゃない?」と言って笑ったのも、今では良い思い出の一つね。

 で、遠子龍見流は、最初は龍神に捧げる舞。双子の巫女が共に奉納する剣舞だった。

 それがなんの因果か剣術になり、今なお受け継がれている。

 ちなみに、遠子龍見流の遠子とは、三野前国造(みののさきのくにのみやつこ)の娘、兄遠子(えとうこ)弟遠子(おととおこ)に由来するわ。

 実際、剣を使う兄遠子の舞と、槍を使う弟遠子の舞の二種類あるわ。

 おっと、テンションが上がったせいで、誰ともなく解説しちゃった。

 さて、私に切っ先を突き付けられている叢雲は……。

 

 「あ、あ……」

 

 ビビって完全に動きが止まってる。

 捨て身で砲撃すれば、この状況を覆せるのにそうする気配もない。

 たった一合で、戦意喪失したみたいね。

 

 「弱いな叢雲。お前は、艦娘じゃない()()にすら勝てないほど弱い」

 「だ、だから何よ……。辰見さんに言われなくたって、自分が弱いのなんて自覚してる」

 

 そう。自覚はしてる。

 私もそうだった。

 なのに、くだらない嫉妬心で現実逃避し、妹の想いにも気づかずに増長し続けた。

 

 「良い事を教えてやる。お前が守ろうとしてた朝潮は天才だ。お前がどれ程努力しても、朝潮にはけっして追いつけない」

 

 一番言われたくなかったセリフでしょ?

 ほら、私のセリフを聞いた途端に、顔を真っ赤にするほど怒って頭の艤装までおっ立ててる。

 だけど、いくら怒ってもこの事実は変わらない。

 今のアンタじゃあ、どう足掻いたって朝潮の隣には立てない。

 

 「じゃあ、今が正解じゃない。あの子と対等になれないんなら、訓練なんてする意味無いじゃない!」

 

 ああ、わかるよ叢雲。

 私だって悔しかった。アンタと同じで泣くほど悔しかった。プライドだってズタズタにされた。

 表には出さなかったけど、私はアイツが大嫌いだった。

 だから、私は諦めた。

 自分を天才だと思い込んで、努力することを放棄した。

 

 「昔、性能も実力もハンパだが口だけは達者な艦娘がいた」

 「な、何よ急に」

 「まあ聞けよ。そいつには妹が居てな。血の繋がった実の妹で、艦型も同じだった。だけど姉と違って、妹は正真正銘の天才でよ。愚鈍な姉は、守ってやらなきゃと思っていた妹に実は守られていたのさ」

 「……その姉は、どうしたの?」

 「格好をつけまくった。少しでも姉としての威厳を保ちたかったんだろうな。痛々しいにも程があったよ。そしてついに、あの日が来た」

 「あの日?何の日?」

 

 子日……じゃない。

 叢雲はボケたつもりはないんだろうけど、思わずのっちゃった。

 声にまで出さなかったのは、今がそういう雰囲気じゃなかったからかろうじてってだけね。

 ボケて良い雰囲気なら「子日だよ~♪」って、ノリノリでやってたわ。

 

 「ある戦闘で、妹は姉を庇って戦死した。その時の戦力差を考えれば倒せない敵じゃなかったんだが、その姉が……オレが邪魔した。ああ、今思い出しても腸が煮えくり返るぜ。オレが長門と鳳翔さんを邪魔しなけりゃあ倒せる敵だった。オレがいなけりゃ勝てた。オレが調子に乗って突っ込んだばかりに、龍田がオレに当たるはずだった魚雷に身を晒して死んだ!神風に嫌な役回りをさせずに済んだ!オレが龍田を殺したんだ!」

 「辰見さん……」

 「いいか叢雲。失ってから気づいても遅いんだ。お前が朝潮と同じ戦場で戦うことは無いかもしれない。だがもし、一緒に戦うことになった時どうする?私は才能がないからしても無駄なので訓練してません。だから戦い方がわかりません。とでも言う気か?」

 「言えない……。そんな言い訳をあの子にしたくない!でも、どうしていいのわからない……」

 

 どうしていいのわからない……か。

 本当にアンタは、昔の私ソックリね。

 きっと朝潮の前では虚勢を張ってたんでしょ?自分の暗い感情を押し込めて、格好つけて。

 そんなアンタだからこそ、私は私の全部を託す気になったわ。

 

 「だったらオレについてこい。お前に、オレの全部をくれてやる」

 

 龍田を失った私が死ぬほど努力して得た技術。

 アイツの自慢の姉であろうと思い、手に入れた自己満足の寄せ集め。

 そしてオマケに、家伝の弟遠子の舞も伝授してあげるわ。

 

 「それで私は、朝潮の隣に立てるの?あの子に失望されずに済むの?」

 「それはお前次第だ。けどな、この辰見様が鍛えるんだ。隣どころか、追い越すことも出来るかもしれないぜ?」

 

 アンタなら出来る。

 だって、私が選んだ初期艦なんだもの。

 だから、私と同じ後悔はさせたくない。してほしくない。私が、アンタを強くする。

 

 「ただし、オレ様の指導は厳しいから覚悟しろよ?なんせ、世界水準軽く超えてるからな」

*1
2013年式

*2
正化二十八年式

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