は、置いといて。
時雨が嫁艦の人、本当に申し訳ございません。
誰でも、一人か二人くらいは苦手な相手がいると思う。
今、私の目の前でニコニコしている時雨は、私にとってもっとも苦手な相手よ。
パッと見は、紺に白のラインが入ったセーラー服姿で、瞳の色はスカイブルー。セミロングの黒髪を、後ろで三つ編みにして先っぽを赤いリボンで括っている人畜無害そうな奴なんだけどね。
ところがどっこい。
こいつほど悪辣な女は、私が知る限り松風くらいしかいないわ。
そんなコイツに、大潮たちと朝潮を迎えに行こうと八駆にあてがわれた部屋を出た途端に捕まっちゃった。
「久しぶりだね満潮。少し、背が伸びた?」
1ミリも伸びてませんが?
確かに、改二改装を受けると背が伸びる……と言うより、成長する。
実際、朝潮は改二なったら成長痛の苦しみと引き換えに10cmも伸びたしね。
でも、私は伸びてない。
改二なったら来ると言う成長痛も味わってないし、アレだって来てないわ。
そんな私と違って、アンタは印象が変わったわね。
なによ、その犬の耳みたいなクセッ毛。それに髪飾りまでつけちゃってさ。
「アンタも改二改装を受けてたのね。いつ受けたの?」
「隻腕にやられて入渠したあとだから……半年以上前かな」
そう言えばコイツ、窮奇に襲われてたんだっけ。
まあ、コイツの実力を考えれば当然か。
なんせ、『佐世保の時雨』と謳われた先々代の時雨に勝ると言われる、『波乗り』の異名を持つネームド艦娘だもんね。
「そんなに見つめられると照れるなぁ。僕に興味があるの?いいよ。何でも聞いてよ」
「興味ない。って言うかくっつくな気持ち悪い!」
「久しぶりに会えたんだから良いじゃない。満潮だって、僕が恋しかったろ?」
「いいえ!全く!これっぽっちも!」
相変わらずねこのレイプ魔は!
ちなみに、コイツは養成所時代の同期。
その頃から、気に入った女の子を手当たり次第に力ずくで手篭めにしてた、正真正銘の同性愛者よ。
あ、一応言っとくけど、私は犯されてないからね。
毎晩毎晩夜這いされてたけど、その度にボコってやってたから。
「相変わらず、満潮はつれないなぁ。僕はこんなに、満潮のことを愛してるのに」
「あいにくと、私はノーマルなの」
「男なんかのどこが良いのさ。男の良いところなんて○○○があるとこくらいだよ?」
「アンタには恥じらいってもんがないのか!少しはオブラートに包んでくれない!?」
「え?被ってるのが好きなの?」
「違う!そうじゃない!」
ダメだ。
覚悟してたとは言え、コイツとはまともに会話が成立しない。
でも、捕まったのは予定外だけど、コイツの
「今年も佐世保はアンタ達なのね。組み合わせはもう決まってるの?」
「決まってるよ。僕たちは十八駆と、満潮たちは三十一駆とだね」
三十一駆は夕雲型で編成されてたわね。
メンバーはたしか、旗艦の長波を筆頭に巻波、沖波、朝霜だったっけ。私たち八駆と同じで、全員が改二改装を受けてたはずよ。
あれ?でもそうなると……。
「大湊は?今回は不参加?」
「あそこは駆逐艦が少ないから、任務が忙しくて来れなかったらしい。ああでも、提督は見に来るみたいだよ」
「大会が聞いてあきれるわね。参加する駆逐隊がたった4つだなんて」
「まあいいじゃないか。この組み合わせなら、決勝で満潮たちとやれそうだし」
勝つ気満々か。
まあ、時雨達ならホントに勝っちゃいそうではある。
でも、不安要素もある。
それは時雨たち二十七駆が、南方の荒波や悪天候下での戦闘に特化した駆逐隊だからよ。
こんな波の低い鎮守府近海じゃあ、時雨たちは本来の実力を発揮できないかもしれない。
それプラス、メンバーはたしか旗艦が白露で、残りの二人は春雨と五月雨なんだけど、改二改装を受けてるのは白露と時雨だけ。
全員が改二改装を受けてる十八駆とは、性能面でも水を開けられているわ。
「満潮たちも負けないでよ?三十一駆の長波は、『気配り上手の長波』って呼ばれてるネームド艦娘だからね」
「ええ、わかってるわ」
夕雲型は陽炎型と同じで、運用され始めて日が浅い。
正式運用はたしか、正化二十七年中頃から始まったソロモン海戦時。
『呉の雪風』とか『死神』って呼ばれている雪風ほどの戦果はあげてないけど、長波は俯瞰して見ていると称されるほどの戦場把握能力と指揮能力で、一躍ネームド艦娘の仲間入りを果たしたと聞いている。
艦娘歴が短いからと言って、舐めてかかっていい相手じゃないのは確かね。
でも、名前こそ売れてないけど……。
「横須賀最強の第八駆逐隊を舐めないでよね。心配してくれなくても、夕雲型なんかに負けたりしないわ。アンタ達こそ大丈夫なの?」
「霞たちとは何度もやり合ってるし、手の内も知ってるから大丈夫さ」
言うまでもないでしょうけど、それは霞たちも同じでしょ?
それに、十八駆は朝潮型と陽炎型の混成部隊。
白露型オンリーの二十七駆に、性能面で完全に勝ってるわ。
さらに、霰もいる。
現朝潮型唯一のネームド艦娘である霰がね。
「そう、ならいいわ。久しぶりにアンタの『波乗り』が見れるのを期待してる」
「楽しみにしてくれるのは嬉しいけど、演習場で『波乗り』なんてできるかなぁ……」
いや、是が非でも使ってほしい。
アレは、絶対に朝潮に見せておきたい技術の一つだからね。
「そんなに思い詰めた顔してどうしたの?もしかして、アレを誰かに見せたいの?」
「感が鋭いわね。その通りよ」
「ふぅん……。まあ、構わないけど、アレは見ただけで真似できるものじゃないよ?」
ところがどっこい、見ただけで出来ちゃう子なのよ。
脚技全てを難なく使いこなしてるのに、未だにその自覚が皆無だけどね。
でも、時雨が目を細めて怪しんでる。
堂々と技を盗ませてくれって言えば、コイツでも気を悪くするか。
だったら……。
「もちろん、タダで見せろとは言わないわ。お礼に、私にできる事なら何でもしてあげる」
時雨の『波乗り』を朝潮に見せるためと言えば、お金で買える物なら司令官に頼めばどうにかなる。
でも、コイツって物欲なさそうだしなぁ……いや待て。コイツって物欲はなさそうだけど、代わりに……。
「……いいよ。見せてあげる。報酬はそうだな……。今晩、僕と一緒に寝てよ♪」
うん、前言を撤回しよう。
何でもは言い過ぎた。
コイツが同性愛者で、しかも私を狙ってて、さらに男性顔負けなくらい性欲が強いのをすっかり忘れてたわ。
「ちょっとまっ……!」
「それ以外の報酬じゃ見せない」
完全に失言だった。
目のハイライトがオフになってるのを見るに、引く気は一切なさそうだわ。
どうにか言いくるめて、別の報酬に変えて貰わないと私の貞操が……。
「部屋はどうしよう……。白露達には大潮達と一緒の部屋で寝てもらおうか。やっぱり、二人きりの方がいいからね♪」
よくない。
アンタはいいかもしれないけど私がぜんっぜんよくない。
よし、今回は諦めよう。
いずれ機会はあるだろうから、朝潮にとって有益なのはわかってるけど私のリスクが高すぎるから諦めよう。
「じゃあ、私はこれで。朝潮を迎えに行かな……きゃ!?」
「逃がさないよ。もう、完全に火が点いちゃったからね」
逃げようと背を向けた途端、私の首と腰に腕を回した時雨に完全に拘束された。
ねえ時雨?
なんでそんなに体が熱いの?なんでハアハア言ってるの?なんで私の下腹を撫で回すの!?
「あぁ、いい匂いだよ満潮。この匂いだけで僕……。ぼ…くぅ……!」
時雨が何故か痙攣してる。
私にかける体重も増えてる気がする。もしかして、足に力が入ってない?いや、どうしてそんな状態になってるのかはわかってるのよ?
ほら、え~っと、何か良い言い方は……そう!例えば果てたとか、達したとか……。
「ごめん。軽くイっちゃった♪」
「言っちゃった!?せっかくオブラートに包んだ言い方を考えてたのに、先に言っちゃったの!?」
「うん♪僕だけ先にイッちゃった♪」
「意味が違う!」
落ち着け私。
今と似たようなことは養成所時代にもあった。
あの頃は意味がわからなかったから無駄に心配とかもしてたけど、今の私は知識だけならある。
だから慌てず、騒がず、冷静に対応を……。
「できるかぁぁぁ!放せクソレズ!あ、何か垂れてる。アンタが絡めた足から、私の足に何か垂れてきてるぅぅぅ!」
「大丈夫。それ、僕の○○だから。いやぁ、僕って吹いちゃうたちでさ♪」
「大丈夫じゃねぇよ!」
無理無理無理無理!
人の体液が体を伝ってるだなんて、考えただけで身の毛がよだつわ。
こうなったら、
「あれ?満潮と時雨?何してるの?話なら、部屋の中ですればいいのに」
大潮!
良いタイミングで戻ってきてくれたわ!
荒潮と朝潮も居るわね。神風さんが不機嫌そうなのが気になるけど、これで私は救われ……。
「やあ、大潮。良い所に戻って来てくれたね。実は、相談があるんだ」
先手を打たれた!コイツ、私が助けを求める前に部屋の交渉をする気だわ。
これはまずい。
なんとか止めないと、悪ノリ大好きな荒潮と神風さんが同意しかねないわ。
「へぇ……。満潮ちゃんと時雨ちゃんって、そういう仲だったのねぇ……」
何言ってるの荒潮。
この状況を見て察しちゃったんでしょうけど、私はけっしてレズじゃないから。
レズに犯されそうになってるだけだから!
「あ、そういう事か!」
そういう事じゃない!
大潮、アンタは絶対に勘違いしてる!
私の顔を見てわかんない?
この、どこからどう見ても怯えてる私を見てわかんないの!?わからないか。
こうなったら、一縷の望みをかけて朝潮に……。
「そういう事?」
ダメね。
朝潮はそもそも、状況が理解できてない。
残るは神風さんだけど……ああ、終わった。
ニヤァって、聞こえて来そうなくらいの満面の笑みを浮かべてるわ。
さっきまでの不機嫌はどこに行ったの?
「じゃあ大潮、いいかな?」
「いいよ。大潮たちが白露達の部屋に行けばいいのかな?」
どうしてそれでわかるの!?
私の心情は一切察してくれないくせに、どうして時雨が言いたいことは察するのよ!それじゃあ察しが良いのか悪いのかわかんないわよ!
「え?え?ここで寝るんじゃないんですか?」
そうよ朝潮!
ここで寝るの!アンタの左手にあるドアの向こうの部屋で寝ていいの!
だから助けて!お願いします!
「朝潮ちゃん。満潮ちゃんと時雨ちゃんはねぇ。ほら、ああいう仲なのよ。だから察してあげて?」
「満潮さんと時雨さんの仲?時雨さんが満潮さんに、後ろから抱きついてるのが何か……」
「ちっがぁぁぁう!朝潮に変な事吹き込むんじゃないわよ荒潮!アンタ、わかっててやってるでしょ!」
「バレちゃったぁ?テヘッ♪」
「テヘッ♪じゃない!わざとらしいにも程があるでしょ!」
そう言えば、荒潮もガチレズだったわね。
たぶん荒潮は、この状況で時雨が同好の士だったと知って仲を応援するついでに、嫌がってる私の反応を楽しんでるんだわ。
「満潮が言い出したんだよ?今さら無しは酷いよ」
体を差し出すなんて一っ言も言ってないわよ!この変態!
ん?変態?そうだわ。これなら、いくら朝潮がおバカでも気づいてくれるかもしれない。
「朝潮、よく聞きなさい。要は、時雨は長門さんと同じなの!」
「え?時雨さんは駆逐艦ですよね?」
「艦種じゃない!」
頭を働かせなくてもわかるでしょ?アンタだって嫌な思いしたじゃない!
それともなに?
アンタって共感性ゼロなの?
変態に力ずくで迫られてる今の私の心情を共感できないの!?
「朝潮。あなただって、先生と居る時は二人っきりの方がいいでしょ?」
「はぁ、それはそうですが、それとお二人に何の関係が?」
「察しの悪い子ねぇ。わかりやすく言うと、満潮と時雨は恋人同士なのよ」
「恋人同士?え?でも、時雨さんは女性ですよね?女性同士で?」
「ちょぉっ!平気で嘘吹き込むのやめてよ神風さん!この子バカなんだから信じちゃうでしょ!」
「いいじゃない一晩くらい。減るもんでもないでしょ?」
減る気がするのよ!何がとまでは言わないけど減る気がするの!
膜的な物はもちろん、精神的な何かが!
「時雨さんは ながもん と同じで、恋人同士は嘘?あ!つまり、時雨さんは変態なんですね!」
そう!YES!その通りよ朝潮!よく気づいたわ。気づいたなら早く助けて!
今も垂れてるの。
人に見られて興奮してんのかどうかはわからないけど、下半身を私の下半身に押し付けてなんかビクビクしてるの!そのせいか、私のお尻も漏らしたみたいに濡れてるの!
「違うよ朝潮。誘ってきたのは満潮なんだ。それと初めましてだね。僕は白露型二番艦の時雨。これからよろしくね」
「あ、こちらこそ初めまして。朝潮です。挨拶が遅れて申し訳ありません」
現在進行形でイきまくってるクセに、涼しい顔して呑気に自己紹介してんじゃないわよ!
しかも時雨の奴、サラッと私が誘った風にしやがったわ!
「さあ満潮、そろそろ行こうか。白露達にも説明しないといけないし」
「しなくていい!私は行かないから……ってぇ!ちょ!抱くな!抱き上げるな変態!」
「今夜は寝かさないよ」
寝かせなさいよ!
明日は大会なのよ!?あと、その無駄なイケメンスマイルをやめなさい!
「はいストップ。それくらいにしとかないと、お姉ちゃん怒っちゃうよ?」
「や、やあ、白露じゃないか。ちょうど今から戻ろうかと……」
「ガチで怯えてる満潮を連れて?相変わらず、時雨は節操がないなぁ」
助かった。
正確にはまだ助かってないけど、助かったと思えてしまった。
だって、白露はまともそうだもん。
呆れた顔をしながらも、絶対に通さないという意思を感じさせる仁王立ち姿だもん。
これで時雨の肩を持つようなら、佐世保はとんだ魔境だわ。
「ちょっ!なにするのさ白露!満潮を返して!僕と満潮の仲を引き裂くつもりかい!?」
「そのつもり。ごめんね満潮。時雨は朝まで縛っとくから安心して」
うん。安心する。
慣れきった動きで私を時雨から解放し、流れるような手付きで時雨をふん縛ったアンタの手際の良さを見て心底安心した。
さすがは白露型の長女ね。
時雨に抵抗すら許さないなんて大したものだわ。
でも、このままナニも言わないなんてのは私の沽券に関わる。
私にかつて経験したこともないほどの恐怖を与え、スカートどころか下着まで焼却処分しなきゃいけなくしてくれたアンタは……。
「覚えてなさいよ!決勝で当たったら、絶対ボコボコにしてやるんだから!」
投稿時間は何時くらいが良いですか?
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朝 6:00~7:00
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昼 11:00~12:00
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夜 19:00~20:00
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何時でも良い