艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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真面目な神風さん


第五十九話 私が目指した本当の戦舞台

 

 

 

 駆逐艦演習大会、通称『D-1』とは。

 元は艦娘の運用が手探りの状態だった時代に先生が発案した講習会だったんだけど、いつの間にか各鎮守府のトップ駆逐隊のお披露目の場となったものよ。

 お披露目が目的になってるとは言っても、他の駆逐隊にメリットがないわけじゃないわ。

 トップ駆逐隊と言われるだけあって、実力は確かだから動きは参考になるし、駆逐艦でもこんな事が出来るんだと戦意の向上にもなっている……そうよ。

 

 「でも、私は出たことないのよねぇ」

 

 講習会だった頃から、主に参加してたのは第八駆逐隊だったからね。

 もっとも八駆の初期メンバーは、三年前の朝潮を最後に残ってるのは一人もいないけど。

 

 「よかった。間に合ったわ」

 

 なぁんて感慨に浸ってたら、満潮を筆頭にして、三十一駆との試合に勝った今の八駆の四人が、私が居る観客席に戻ってきたわね。

 

 「余裕そうね。そんなに楽な試合だったの?」

 

 興味がないから、半分寝ちゃってたのよねぇ。

 四人の感じからして、たいして疲れてないってのはわかるけど。

 

 「長波達には悪いけど、正直言って楽勝だったわ」

 「長波ちゃん以外はぁ、経験を積むために出場したって感じねぇ。あれなら、私一人でもどうにかなったわぁ」

 「でも、あの気迫は凄かったです!私も見習わないと!」

 

 真面目か!

 って言うか、朝潮にその気はないんだろうけど、それってそこしか見習うところが無かったって言ってるのと同じよ?

 

 「あ、十八駆と二十七駆が出て来たよ。どっちが勝つかな」

 「時雨達に勝って貰わなきゃ困るわ。私が時雨をボコるんだから」

 「朝潮ちゃんはぁ、時雨ちゃんをよく見とくのよぉ。他は見なくていいわぁ」

 「え?どうして時雨さんだけなんですか?」

 

 動きを見る限り、他の子もそれなりにやれそうだけど、あの時雨ってのは他の子より出来るってことかしら。まさか私の脚技みたいに、デメリットガン無視な技でも使うのかしら。

 

 「他はたいして変わった事をしないからよ。時雨の『波乗り』だけ見ればいい」

 

 波乗り?時雨ってサーフィンでもするの?

 なんて不思議に思ってたら、『これより第十八駆逐隊 対 第二十七駆逐隊の試合を開始します』と、会場に設置されたスピーカーから開始を告げるアナウンスが流れた。

 波乗りってのは、私も気になるから見ておこう。

 だって、満潮が朝潮に見せたがってるくらいのモノだものね。

 

 「始まったわ。戦法はどっちもいつもと同じね」

 

 二十七駆は時雨と、あれは白露かな?頭上で人差し指掲げて何か叫んでる奴が二人で先行して、他の二人は後方から援護射撃って寸法かしら。

 

 「ん?時雨の航跡が妙に……」

 

 薄い気がする。

 速度は白露よりちょっと遅いくらいなのに、明らかに薄いわ。まるで、推力なんか出してないみたい。

 

 「ねえ満潮。波乗りって何なの?」

 「神風さんなら、見てればすぐ気づくと思うわ。たぶん、もう使ってるし」

 

 もう使ってる?

 航跡が薄い以外は、普通に航行してるようにしか見えないんだけど……。

 ん?今、変な動きしたわね。

 砲撃を右に回避したのは変じゃないけど、問題はその速度と旋回半径。

 曲がる一瞬、速度が異常に上がって、旋回半径が異常に小さかったわ。

 

 「ちょっ……!はぁ!?」

 

 今度は針路はそのままに、真横に移動した!?

 何よこれ。いったいどうなってるの?

 いや、よく考えるのよ神風。

 満潮は真っ直ぐ航行してる時点で、もう使ってると言った。それに、航跡が薄いことを加味すると……。

 

 「あ、そういう事か。だから、波乗りなのね」

 

 正に読んで字の如く。単純明快だわ。

 時雨は波に乗って移動してる。

 航跡が薄いのも、潮の流れに身を任せて殆ど推力を発生させてないからよ。

 回避の瞬間だけ波に合わせて推力を上げるから、急に速度が上がったように見えて、旋回半径も小さくて済むんだわ。

 あれは、私の脚技とは真逆と言っていい技術ね。

 あれなら、体力的にも燃料的にも消耗は少ないはずだわ。

 

 「波の荒い海域だともっと凄いんだけど、こんな晴れた近海じゃあ、あれくらいが限界みたい」

 

 それでも見事だと思う。

 だって、海波を正確に見極める観察眼がないと為し得ない移動法だもの。

 ん?と、言うことは、時雨並みの観察眼があるなら話は別だけど、持ってないなら朝潮に見せてもあまり意味がなくない?

 

 「朝潮は、時雨が何をしてるかわかった?」

 「ええ、なんとなくですが。たぶん、今度は左にスライドすると思います」

 

 あ、読めるのね。

 そりゃあそうか。

 朝潮の能力はコピー。

 つまり、見て盗むの究極。

 その能力を可能にするには、対象を瞬時に観察する動体視力と、理解力と処理能力が不可欠。 

 そんな目を持ってる朝潮なら、海波くらい読めて当然か。 

 

 「お、時雨が左に避けた。やったわね。正解じゃない。朝潮も海波が読めるの?」

 「カイハ?ああ、海波ですか。この距離でなんとか、と言ったところでしょうか。実際に海に出て読めるかどうかは、やってみないとわかりません」

 「朝潮ちゃんは、アレできそう?大潮は練習したことあるけど、頭パンクしそうになったからやめちゃったよ」

 「どうでしょう……。時雨さんはたぶん、戦場全体の波を把握してますよね?私では、前方20メートルの範囲の波を把握するのが精一杯だと思います」

 

 いや、それでも十分すごい。

 常に大きさが変わる波を、前方20メートルとは言え把握し続けるなんて、少なくとも私には無理だわ。

 時雨にしてもそうだけど、とんでもないわねこの子。

 長い事艦娘をやってるけど、波を読もうなんて私は考えたこともないわ。だって、波に関係なく進めるんだもの。

 

 「決勝で使ってみなさいよ。アンタなら、案外出来るかもよ?」

 「いきなり使うのはちょっと……。せめて練習したいです」

 

 そりゃそうだ。

 この子って、未だに自分の学習能力の高さを知らないんでしょ?

 

 「でもぉ、試合は十八駆の勝ちで決まりそうねぇ」

 「え?どうしてですか?」

 

 まあ、仕方ないわね。

 いくら時雨が強くても、それだけじゃあ勝てない。白露も時雨並みに強いけど、()()()()()が出鱈目すぎる。

 

 「満潮。あの出鱈目かましまくってる朝潮型は誰?」

 「九番艦の霰。朝潮型唯一にして初の、ネームド艦娘よ」

 「異名は?」

 「破壊者(デストロイヤー)。あの子はあの戦闘スタイルで、戦艦と真っ向から殴り合って沈めたことがあるそうよ」

 

 破壊者……か。

 たしかにその通りだわ。

 アレは艦娘の戦い方とは言い難い。

 常識外れなことばかりやってきた私以上に、常識を破壊してる。

 あの戦闘スタイルに落ち着いた理由はたぶん……。

 

 「砲雷撃が、致命的に下手なのね」

 「ご明察。霰は、10m以下の至近距離でも的に当てられないほど、砲雷撃が下手くそなの」

 

 だから、当たる距離まで近づこうと考えた。

 それが反動全無視の、()()()()の砲雷撃戦ってわけか。

 

 「『雨霰(あめあられ)』って言うらしいわ。アレを使った霰とまともにやり合えるのは、私が知る限り大潮だけね。神風さんでもきついんじゃない?」

 「ええ。私でも、あそこまで近づかれたら打つ手がないわ」

 

 いやぁ、本当に無理。

 完全に間合いの内側だもの。

 敵の間合いの内側に入ることばかり考えて、入られた場合を考えてこなかった私には、間合いに入られないようにする以外の対抗策がないわね。

 

 「五月雨ちゃんと春雨ちゃんがやられたね。これでは台風でも来ない限り、ここからどんでん返しはないよ」

 

 大潮の言う通りね。

 白露と時雨が私くらい強ければ話は別だけど、見てる限りそれはない。

 そもそも、霰の近接戦への対抗策がなければどうにもならないわ。

 

 「次はぁ、神風さんのエキシビションマッチだっけぇ?準備しなくていいのぉ?」

 「あ~、そういえば決勝前にやるんだっけ」

 

 だったら準備しなくちゃね。

 報酬はもらっちゃってるし、先生の機嫌を取るためにも、雪風にはしっかり勝っておかなくちゃ。

 あ、そうそう。

 先生の機嫌をさらに良くするために……。

 

 「朝潮。もし試合中に私が刀を抜いて、刀身が()()()()()()()目を離さないで」

 「カタナ?日本刀ですか?ああ、神風さんの艤装には、日本刀があるんでしたっけ」

 

 ないわよ。

 神風型の艤装に近接武器はない。

 だから勝手に追加したの。追加と言っても、手に持ってるだけだけどね。

 

 「解説は先生にでもしてもらいなさい。じゃあ、私は行くから」

 「わ、わかりました……」

 

 さて、雪風とやらは、私に刀を抜かせられるかしら。

 いや、抜かされるかな。

 大淀から仕入れた情報によると、雪風の強さは次元が違う。天才だろうが努力家だろうが、あの域に到達することは不可能よ。

 と、頭の片隅で考えつつ、出撃ドックに着いた私は艤装の点検を始めた。

 機関よし。魚雷発射管よし。単装砲よし。火薬の量を調整した模擬弾と魚雷もよし。

 

 「この艤装との付き合いも、随分と長くなっちゃったわね」

 

 昔は綺麗な鈍色だったのに、今では何度取ってもあちこち錆が浮いて、傷も多い。

 他人からすれば汚いだけだろうけど、この錆や傷の一つ一つが私の思い出。そして、私にとっての勲章。

 これが私の、誇りまみれの艤装。

 

 「もしかして、あなたが神風さんですか?」

 

 誰よ。物思いに耽ってる私の邪魔をするのは。

 と、思って振り返った先には、スカートがないワンピース型のセーラー服姿の駆逐艦が立ってた。

 頭には電探型の艤装。

 肩掛けにした連装砲に、背中の魚雷発射管。機関が見当たらないわね。魚雷発射管が機関も兼ねてるのかしら。

 

 「そうよ。あなたは?」

 「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です!どうぞ宜しくお願い致しますっ!」

 

 この子が雪風か。

 頭の電探が耳みたいに見えて、まるでげっ歯類みたいな見た目の子だわ。

 

 「その艤装、大丈夫ですか?ボロボロですよ?」

 

 いきなり失礼な子ね。

 ボロボロって言われるほどボロくないわよ。ボロいけど。

 

 「問題ないわ。整備はちゃんとしてるし、不具合も起こしたことがない」

 「そうですか。今日も、そうだといいですね」

 

 引っかかる物言いをする子ね。

 もしかして挑発してるのかしら。

 でもお生憎様。

 安い挑発には乗らないけど、安くないなら全力で乗っかるのがこの神風さんなんだから。

 

 『第二試合終了。勝者、第十八駆逐隊。両隊帰投後、エキシビションマッチを開始します』

 「あ、陽炎姉さん達、勝ったみたいですね。流石です♪」

 

 まあ、そうなるでしょうね。

 は、置いといて、私は雪風を尻目に艤装を装着して同調開始。よし、問題ないわね。いつも通りオールグリーンだわ。

 そして最後に、壁に立てかけておいた桜柄の刀袋を手に取り、黒塗りの鞘の中身を確認っと。

 

 「それ日本刀ですか?神風型には、そんな兵装もあるんですね」

 

 だから、神風型にこんな兵装はない。

 何度も言わせないでちょうだい……って、言ってないか。

 ちなみにこの刀は、先生が初めて私にくれた物。

 無銘どころか虎徹の贋作だけど、贋作扱いするのが惜しいと思えるくらいの業物よ。

 刀身の長さは二尺三寸。cmに直すと約70cm。柄を合わせても、100cmに届かないわ。

 短いと思うかもしれないけど、江戸時代ではこれくらいが普通だったのよ?

 テレビや漫画の日本刀がもっと長く描かれてるのは、そっちの方が見栄えがいいからね。

 

 『これよりエキシビションマッチを開始します。雪風、神風の両名は演習場へ』

 「あ、始まりますよ!早くいきましょう!」

 「ちょっ ……!」

 

 と待ちなさいよ。と言おうとした私の手を強引に引っ張って、雪風は勢いよく海へと駆け出した。

 手を振り払って航行の仕方を見てみたけど、訓練は良くしてるみたいね。

 上半身にも下半身にも無駄な動きがない。

 贔屓目に見て、実力は上の下ってところかしら。

 まああくまで、()()()()艦娘として見た場合。だけどね。

 でも……。

 

 「関係ないか」

 

 戦場は基本的に一期一会。

 どこまでも追いかけるならまだしも、同じ敵と偶然何度も巡り合うなんて事は滅多にない。

 だから、相手の手の内がわからないのは常識。

 でも私には、十年近い年月で培ってきた経験と技術があるんだから、大抵のことなら即座に対応できるわ。

 

 「呉の海……か。懐かしくは思うけど、良い思い出はないわね」

 

 私は当時、呉に所属してた艦娘たちから疎まれていた。

 演習中に、敵味方の両方から袋叩きにされたこともあったわ。

 この演習場が、たしかそうだったかな。

 雪風との距離も、あの時の主犯格との距離と同じ1000メートル。両者が全速力で前進すれば、数分と経たずにぶつかる距離だわ。

 

 『マイク音量大丈夫…?チェック、1、2……。よし。それでは!呉鎮守府所属、雪風対、横須賀鎮守府所属、神風のエキシビションマッチを開始します!』

 

 さっきまでアナウンスしてた子と違うわね。マイクの音量チェックなんか、必要あるの?

 

 『両者見合って見合って~!』

 

 相撲か!だれか代わりなさいよ!

 せっかく、珍しくシリアスな流れになってたのに台無しだし、ヤル気も失せそうになっちゃったじゃない!

 

 『え、何?そうじゃない?あ、お姉さまがやります?え?私でいい?』

 

 グダッグダね!誰でもいいから早く開始の合図しなさい!勝手に始めちゃうわよ!?

 

 『オホン!では改めまして。艦娘ファイト!レディィィィ!ゴォー!!』

 「よし決めた。雪風ボコったら、今マイクを握ってる奴をぶん殴る!」

 

 私は怒りを伝える様に、機関の回転数を上げて雪風へ突撃開始。さて、雪風はどう出るか……。

 

 「まずは様子見……かな」

 

 雪風は、私から見て左に移動しながら連装砲を三連射。その距離で移動中じゃあ、いいとこ至近弾ね。躱すまでも……。

 

 「あっぶな!」

 

 と、思ってたのに、初弾から命中弾じゃない。

 とっさに速度を落とさなきゃ当たってたわ。

 目測を付けただけの適当な砲撃に見えたけど、そうじゃなかったみたいね。

 それとも、今のも雪風の……。

 

 「って、考えてる場合じゃないか」

 

 私も負けじと雪風へ砲撃。

 でも、ただの砲撃じゃないわ。

 これは砲身のみを相手に向け、手の角度は明後日の方向へ向けて射角を誤認させる私の砲撃術。その名も『天邪鬼』よ。

 

 「避けようと……しない?」

 

 私的には良いけど、そのままじゃ当たるわよ?

 と、思った私の予想を裏切って、弾は私へと向き直った雪風を避ける様に、右側へ着弾した。

 

 「風で逸れた?いや……」

 

 その通りだけど違う気がする。

 大淀からの情報が確かなら、アレは雪風の特異性による現象の可能性が高い。

 

 「もっとサンプルが欲し……チッ!」

 

 お返しとばかりに雪風が砲撃してきた。

 これは左に舵を取って回避でき……そうにない!?

 

 「痛った!」

 

 弾が曲がった!?

 しかも、前面装甲を厚くしてたせいで、薄くなっていた側面に丁度着弾した。

 

 『やりました!今日も運がいいです♪』

 

 運がいいですって?

 じゃあ何?たまたま私が避けた方向へ向けて風が吹いて弾が曲がり、たまたま装甲が薄くなってた所に着弾したって言うつもり?

 

 「随分とふざけた事を言うのね。運だけでどうにかなる程、私は甘くないわよ」

 『なっちゃうんですよね~、これが♪なにせ雪風には、幸運の女神がついてますから♪』

 

 だったら、幸運の女神ごとぶっ飛ばしてやる!

 私は針路を修正して、雪風に再度突撃。

 雪風もこちらに向かってる。

 距離はおよそ500メートル。

 私も雪風も、砲撃を交わしながら接近してるわ。

 だけど、私の砲撃は真っすぐ進んでいるはずの雪風を避けまくり、逆に雪風が撃つ弾はどれだけ回避しようが私を狙って曲がって来る。

 

 「段々と、現実味を帯びてきたわね」

 

 私は稲妻と水切りを駆使して回避を続けてる。

 それでも五発に一発の割合で、致命傷ではないものの命中弾を貰ってしまう。

 

 『神風、中破判定!』

 

 チッ!もう中破か。

 演習とは言え、中破なんてさせられたのは最後にアイツとやり合った時以来だわ。

 だけど、距離は300メートルを切った。

 

 「魚雷!一番から四番!」

 

 機関に取り付けられた魚雷発射管が、私の意思に応じて後ろに回転し、両腋の下から魚雷を覗かせた。

 そういえば昔、先生がコレを見てヴェスバーみたいだとか訳の分からない事言ってたわね。

 

 『いいですよ?撃たせてあげます♪雪風は避けませんから♪』

 

 正気?

 うん、正気っぽいわね。

 でも、やってることは正気とは思えない。

 だって雪風は、航行を止めて海上に完全停止してるのよ?しかも両手を広げて、さあ撃ってこいと言わんばかりのポーズをしてるわ。

 

 「舐めてるの?この距離で外すと思う?」

 『思ってませんよ?でも雪風は大丈夫です♪』

 

 あっそ。だったら、大淀からの情報の真偽を確かめるためにも撃ってあげようじゃない。

 

 「発射!」

 

 私は発射管に装填された魚雷4発を、全て雪風に向けて発射。針路、深度、共に問題なし。潮流の影響を受ける距離でもない。雪風が言葉通り避けないのなら、間違いなく当たる。

 

 「なるほど。これは認めざるを得ないわ」

 

 結果を言うと、発射した魚雷はすべて命中。でも、爆発しなかった。

 ええ、普通ならあり得ないわ。

 でも、そのあり得ないことが実際に起きた。

 

 『やっぱり大丈夫でした♪幸運の女神のキスを感じちゃいます!』

 

 幸運の女神……ねぇ。

 自分に向かって来る砲弾は風に逸れ、相手を狙った砲弾は避けられようと風に乗って相手を追尾し、当たった魚雷は不発に終わる。

 そんな現象、反則レベルの幸運でもなきゃ実現できないわよね。

 

 『カットイン強制発動。魚雷、魚雷、連装砲』

 

 不吉な台詞とともに、雪風が砲雷撃。

 避けようとしたけど、魚雷発射管が元の位置に戻らなかったせいでバランスを若干崩して、見事に当たったわ。

 轟沈判定でもおかしくない命中っぷりだったのに、審判は大破判定を出したわね。

 いや、大破で留まるようにしたんでしょう。

 カットインとはたしか、その時に最も適した兵装が脳裏にカットインするように浮かび上がる現象。

 その浮かび上がった兵装を使うと、敵に大打撃を与えることができる場合が多いの。

 そしてそれは、運に左右されると言われている。

 ならば、運が良かったとしか考えられない出鱈目な戦果を上げてきた雪風なら、結果を先に思い浮かべることで、運良くそうなるように幸運を誘導して強制発動と言える現象を起こすことも可能でしょうね。

 

 『あらら、やっぱりボロですよその艤装。不具合起きちゃってるじゃないですか』

 

 こんな事、今まで一度もなかった。

 なのに、今日に限って不具合が起きた。

 これも、雪風が言うところの、幸運の女神の仕業なんでしょうね。

 

 『だいたい、無茶な試合だったんです。雪風は最新鋭の陽炎型ですよ?ただでさえ古くて性能も低い神風型が、雪風に勝てる訳ないじゃないですか』

 

 雪風は止まった位置から動いていない。

 なのに、悪寒が止まらない。恐怖ではなく、只々不気味。まるで世界そのものが、私の敵になったように感じる。

 絶対的な幸運を味方につけた駆逐艦。

 これが呉の雪風か。

 

 『やっぱり、あの噂は本当だったんですね』

 「噂?噂って何よ」

 『あなたが横須賀提督の愛妾って噂ですよ。そうでもなければ、神風型なんて旧式がいつまでも艦娘を続けられるわけないじゃないですか。この試合に出たのだって、横須賀提督に良いところを見せたかったってだけでしょ?呉最強の雪風と戦ったって言えば、箔がつきますもんね♪』

 

 コイツ、何て言った?

 私が先生の愛妾?先生に良いところを見せたくてこの試合に出たって?

 違う。

 全くの的外れ。

 

 『それにしても、横須賀の駆逐艦は可哀想ですねぇ。いつも、あのロリコン提督に視姦どころか陵辱されてるんでしょう?雪風だったら堪えられません』

 「黙れ」

 『あれ?怒ったんですか?そりゃあ、ロリコンに好き勝手体を貪られてるって言われたら怒りますよねぇ。でも、みんな口には出しませんけど、知ってるんですよ?あなたが、その体を使ってロリコンに取り入……』

 「もう一度だけ言う。黙れ」

 『嫌です♪悔しかったら、力ずくで黙らせたらどうです?ねぇ、横須賀提督のダッチワイフさん♪』

 

 私の中で、何かが切れた音がした。

 雪風、あなたは馬鹿よ。大馬鹿よ。

 あなたは、私を相手にする上で最もしちゃあいけないことをした。

 先生を馬鹿にした。

 私を通して、お父さんを侮辱した。

 それは私の逆鱗に触れるのと同等……いえ、それどころか蹴り飛ばしたのと同じ行為。

 

 「魚雷発射菅パージ。単装砲もいらない。次いで余剰艦力を刀身へ付与。モード、『紅備え(あかぞなえ)』」

 『丸腰になってどうしたんです?降参ですか?まさかとは思いますけど、その玩具で戦うつも……』

 

 雪風はセリフの続きを言わず、()()()()()()()()()()()()()()()へと視線を恐る恐る向けた。

 もう、謝っても遅いわよ。

 仏様は三度まで許してくれるそうだけど、私はソコまで人間ができていない。

 これから私は、あなたを斬り刻む。

 泣いて無様に命乞いするまで、致命傷を避けて斬って斬って斬りまくる。

 これから私が造るのは、()()()()()()()()()()()()

 龍の片割れが私に見せてくれた、私が目指した境地。その完成形。

 アイツと戦うために編み出し、再現した真の戦舞台。

 歓迎するわ雪風……。

 

 「ようこそ。『龍の巣』へ」

 

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