艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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アサシオチャンアッアッ……


第六十二話 さあ、お仕置きの時間です!

 

 

 

 勝者を讃える声援ではなく、困惑のざわめきが響く観客席。

 その最上段に設けられた提督用のスペースで、さっきまで司令官が座っていた席に座って司令官の温もりと残り香をお尻で堪能……もとい。

 神風さんの試合を観戦していた私は、神風さんの戦いぶりに、未だ圧倒されて何も喋れずにいます。

 アレが神風さんの本気。

 アレが駆逐艦の……いえ、艦娘にできることを極めた人の戦い方だと思うと、上手く言葉が出てこないんです。

 

 「凄いと言うか呆れたと言うか……。改めて、神風さんは別格だって思い知ったわ」

 

 満潮さんに同意します。

 雪風さんも凄かったですが、神風さんはそれをはるかに上回りました。

 

 「それじゃあ、大潮たちも準備しに行こうか」

 「え、でも、司令官がまだ……」

 「そのうち戻って来るわよぉ。それともぉ、邪魔しに行くぅ?」

 「いえ、それはさすがに……」

 

 できません。

 だって、さっき頑張ったのは神風さんなんです。

 その頑張ったご褒美を邪魔したら、お返しとばかりに私がご褒美をもらっている時に邪魔されてしまいそうです。

 

 「朝潮って、独占欲強そうよね」

 「下手に浮気なんかしたらぁ、平気で刺しちゃいそうよねぇ」

 「あ、大潮それ知ってるよ!ヤンデレって言うんでしょ?」

 

 何を言ってるかわかりませんが違います。

 この私が、司令官にそんな事をするわけがないじゃないですか。

 

 『30分の休憩後、決勝戦を開始します。出場者の方は出撃ドックで待機してください』

 「じゃあ、呼ばれたし行こっか」

 

 呼ばれたのなら仕方ありませんね。

 私も試合で活躍して司令官に思いっきり褒めてもらいましょう。

 

 「そう言えば大潮。陽炎たちとやるのって初めてよね?」

 「初めてだよ。朝姉と一緒に出てた頃は、まだ陽炎型は配備されてなかったから」

 

 と、言うことは、十八駆の内二人の実力は未知数と言うことですよね?

 それに対して、八駆の情報は霞さんか霰さんを通して知られている可能性が高いです。

 これは、私たちが不利なのでは?

 

 「アンタのことは、さすがに知らないと思うわよ?」

 「私程度の情報が知られたところで、大した影響はないのでは?」

 「そんなことないわよ……って、アンタ、考えを読まれても気にしなくなったわね」

 「もう、諦めました」

 

 だって、必死に読まれまいとしても読まれちゃうんですもの。

 そんなことを気にし続けるくらいなら、さっさと諦めて他のことに頭を使った方が効率的です。

 例えばほら、こちらの情報云々と私が考え始めたくらいから、荒潮さんが不自然に視線を逸らしているのはどうしてかな。とか

 

 「荒潮。アンタまさか……」

 「え~っとぉ……」

 「荒潮って返信もないのに、マメに霞にライン送ったりしてるよね。どこまで教えたの?」

 「は、八割くらい……」

 「八割の詳細は?正直に白状しなさい。荒潮」

 

 はて?

 荒潮さんは霞さんに何を教えたのでしょう。話に流れ的に、私のことでしょうか。

 ですが先に言った通り、私の情報など知ったところで……。

 

 「趣味嗜好から性癖。細かい癖や性感帯とか全部……。あ、あとぉ、寝てる間に着替えさせて撮った写真も」

 

 いやいや、待ってください。

 趣味嗜好や癖はまあ良いです。

 問題はそれ以外。

 どうして荒潮さんが、私の性癖や性感帯を知ってるんですか!?性感帯なんて、私自身知りませんよ!?

 それに写真まで送ったって言いましたよね?

 私の肖像権はガン無視ですか!

 

 「この子の能力については?」

 「それは教えてないわぁ。と言うか、戦闘に関することは一切教えてないから安心してぇ?」

 

 私の能力とか訳がわからないことを言っていますが、プライベートが安心じゃありません。

 だって、私が知らない私のことまで教えちゃったんですよね?

 

 「まあ、朝潮の性感帯云々はひとまず置いといて」

 

 何言ってるんですか満潮さん。

 置かないでむしろ言及してください。

 特に、私の性感帯について詳しく!

 司令官との夜戦に備えるためにも、そこは是非とも赤裸々に語ってください!

 

 「はいはい。帰ったらね。それで大潮。霰から潰すって方向で良いのよね?」

 「むしろ、それしかないんじゃないかな。霰ちゃんさえ潰しちゃえば、あとはどうとでもなるだろうし。戦闘中の指揮は満潮に任せても良い?」

 「構わないけど……良いの?」

 「うん。大潮より、満潮の方が適任だって前の作戦で思い知ったから」

 

 前の作戦と言いますと……対窮奇戦ですか?

 はて?二人が口論していたのはうっすらと覚えていますが、満潮さんが指揮を執ってましたっけ?

 

 「じゃあ、まずは大潮を先頭にして霰を攻略するわ。当然、霞は対応してくるでしょうから、私が残りの三人を相手にしてる間に、大潮が抑えている霰を朝潮と荒潮で轟沈判定にして」

 「満潮さん一人で、三人も相手にするんですか!?」

 「霰の実力を考えると、むしろそうするしかないの。ただし、楽観的に考えても、私が三人を抑えられるのは十数分が限界。だから、私が轟沈判定にされる前に霰を倒して」

 

 そこまでしなければ倒せないほど、霰さんは強いのですね。

 確かに、二十七駆との試合時に見た霰さんは凄まじかったです。

 でも、神風さんの試合を見た後だからでしょうか。

 どうにかできそうな気がするんですよね……。

 おっと、そうこうしている内に、出撃ドックに着いてしまいました。

 すでに霞さんと霰さんは、艤装を装着して雑談しています。

 試合で遠目にしか見れなかったですが、霰さんって私より小さいですね。

 満潮さんよりも小柄で、同じ朝潮型改二の制服。オカッパに似た髪型に煙突みたいな帽子。

 魚雷発射管が足首に着いているのと帽子を被っている以外は、私たちと出で立ちは同じです。

 

 「大潮ちゃんもぉ、改二になる前はアレと同じ煙突帽子を被ってたのよぉ」

 

 へえ、じゃあ朝潮型の制服の一部なんですね。

 とっても可愛いのに、大潮さんは、どうして被るのをやめてしまったのでしょう?

 あ、私たちに気づいた二人がこっちに近づいて……。

 

 「八駆は随分とのんびりなご登場ね。私たちが相手なら、余裕って事かしら?」

 

 来るなり、霞さんが嫌味をおっしゃいました。

 同じ朝潮型の姉妹同士なんですから、もう少しフレンドリーにできないのでしょうか。

 霰さんとは、仲良さそうに話してたんですから私たちとも……。

 

 「そう言うそっちは、アンタたち二人だけじゃない。陽炎と不知火は?」

 「二人は、雪風を迎えに行ってる……」

 

 霰さんがボソボソって言っていいほど小さい声で、囁くように陽炎さんと不知火さんの行方を教えてくれました。

 注意してないと、聞き逃してしまいそうなほど声が小さいです。

 でも、何でしょうこの気持ち。

 私より小さい霰さんを見ていると、なんかこう……。

 

 「大潮姉さん……」

 「ん?どうしたの霰ちゃん」

 「帽子、忘れてるよ?」

 

 あ、ヤバイです。

 霰さんの、上目遣いで小首を傾げる動作がすごく可愛らしい。見た目の幼さも相まって、保護欲を無性に掻き立てられます。

 

 「ごめんね霰ちゃん。改二になって、帽子なくなっちゃったんだ」

 「え……。帽子仲間だったのに……」

 

 霰さんが泣きそう!

 帽子!帽子はどこかにないですか!?最悪、バケツでも可!早く大潮さんにかぶらせないと、霰さんが泣いてしまい……いや?泣かせるのも有り……ですかね?

 

 「へ、部屋では被ってるよ!今は持ってきてないけど、横須賀に帰ればあるから!」

 「本当……?」

 

 ついに目を潤ませ始めましたあぁぁぁ!

 七駆の漣さん風に言うと、涙目の霰さんktkrです!

 でもこれはいけません!私の母性本能が目覚めそうです!今すぐ抱き着いて頭をよしよししてあげたくなります!いえ!それでは満足できません!

 できることなら、今すぐお持ち帰……。

 

 「りぶぅ……!?」

 「落ち着けバカ潮」

 「ねえ、荒潮。朝潮ちゃんって、長門さんに似てきてない?」

 「大きくなったらぁ、長門さんみたいになるかもねぇ」

 

 失礼な!

 私はあんな変態とは違います!

 私は純粋に、小動物のように可愛らしい霰さんを部屋で飼い殺しにしたいだけです!

 

 「冷静になれ犯罪者予備軍。霰はこう見えて、アンタよりも歳上よ?」

 「そ、そうなのですか?」

 「霰は私と同い歳。霞は二つ下ね。艦娘歴は、私が数ヵ月長い程度よ」

 

 じゃあ、私と霞さんは同い年じゃないですか。

 それで満潮さんと同じくらいの艦娘歴と言うことは……。霞さんって、10歳にも満たない頃から艦娘をやってるってことになりません?

 

 「8歳くらいからじゃなかったっけ?」

 「そうよ。それが何か?」

 

 私が養成所に流れ着くよりも前からですか。

 荒潮さんが「8歳ならぁ、海防艦でもいけたかもねぇ」と言ってるのは無視しますが、そう言われる程幼い頃から艦娘を続けているから、満潮さん以上にツンデレをこじらせてしまったんでしょうね。

 

 「私はこのドーナツ頭と違ってツンデレじゃない」

 「そうね。霞にはツンしかないもんね。っつか、ドーナツ頭って何よ。言っときますけど、これはこういうヘアースタイルなの」

 「呉にも二人ほど、そんな変な頭してるのがいるから知ってるわ。ドーナツが好きすぎて、頭にまで着けちゃったんでしょ?」

 「よし、その喧嘩買った。表に出なさい霞」

 

 気持ちはわかりますが、もうすぐ試合が始まりますのでそれまで我慢してください。

 おや?ドックの出口、海側から誰か入ってきましたね。

 あの二人はたしか……。

    

 「ごめんごめん!少し遅くなっちゃった!ほら、不知火も謝って!」

 「不知火に、何か落ち度でも?」

 

 やはり陽炎型のお二人でした。

 ピンク髪の方が不知火さんと呼ばれていましたから、狐色の髪の方が陽炎さんですね。

 

 「遅い!5分前集合は軍人の基本でしょ!」

 「え?まだ10分前のはずだけど……」

 「う、うるさい!10分前も5分前みたいなものよ!」

 

 と、霞さんは二人の姿を見るなり、八つ当たりのように陽炎さんを叱責したものの、逆にツッコまれて訳の分からない事を言ってそっぽを向いてしまいました。

 間違ったら素直に認めないとダメですよ?

 

 「霰!いつまでも敵と話してないで準備するわよ!」

 

 あ、恥ずかしくなって逃げた?

 それは良いですが、敵はないんじゃないですか?

 たしかに対戦相手ですから、試合が終わるまでは敵と言えなくもないのですが……。

 

 「わかった。大潮姉さん、んちゃ」

 んちゃ?

 んちゃってなんですか!?

 まさか挨拶?

 いや、小動物のように可愛らしい霰さんですから、もしかしたら鳴き声の可能性も……。

 

 『試合開始5分前です。出場予定の駆逐隊は、艤装を装着して出撃に備えてください』

 

 もう5分前ですか。

 私たちは十八駆の四人と違ってまだ艤装を装備していませんから、急いで装着しなければいけませんね。

 

 『これより決勝戦を開始します。両駆逐隊は演習場へ移動してください』

 「先に出るわ。第十八駆逐隊。出撃よ!」

 

 十八駆が先行して海へ出て行きましたね。

 私たちも続かないと……ん?満潮さんが艤装を装着し終わるなり、何やら悩み始めましたが……。

 

 「大潮。霰を相手にするの、何分が限界?」

 「……奥の手無しで10分。それ以上は、大潮でも無理」

 

 予定変更でしょうか。

 大潮さんと荒潮さんもそれを察したのか、異を挟む気はないようです。

 

 「わかった。じゃあ朝潮。アンタは開幕早々に突っ込んで来る霞の相手をしなさい」

 「はい!……はい?」

 

 今、何と?

 私が霞さんの相手を?

 いえ、それ自体は良いんですが、十八駆が対二十七駆戦で見せた戦法は、霰さんを突っ込ませて他の三人が援護すると言った感じでした。

 だから今回もそうすると予想して、満潮さんが他の三人を足止めしている内に、私たち三人で霰さんを撃破する算段にしたはずです。

 なのにどうして、こんなギリギリになって変更を?

 

 「旗艦もアンタに変更するわ。良いわね?」

 

 良くないですよ。

 それって私が轟沈判定にされたら、その時点で八駆が負けになるってことですよ?

 そんな大役を、一番未熟で弱い私に任せるなんて正気とは思えません。

 

 「朝潮ちゃん」

 「なんですか?荒潮さん」

 「霞ちゃんを、助けてあげてね」

 「え?あ……」

 

 私の返答を待たずに、荒潮さんはさっさと行ってしまいました。

 霞さんを助ける?私が?何からですか?

 もしかして満潮さんは、霞さんを何かから助けるために作戦を変更したんですか?

 

 「今のアンタなら大丈夫。だから、お願いね」

 

 だから、何をですか?

 私は何をすれば良いんですか?

 霞さんを倒せばいいんですか?

 大潮さんと荒潮さんは満潮さんの考えを察しているようですが、私は説明してもらわないとわかりません!

 満潮さんだってつい最近、とあるアニメの劇場版三作目のDVDを見ながら「いや、説明してあげなさいよ」とかツッコンでたでしょう?

 今の私は、正にその時のシ○ジ君の気分なんです!

 そんな気分で演習場に到着すると、それほど待ってないはずなのに霞さんが腕組みして額に青筋を浮かべて立っているのが遠目に見えました。

 

 『イラつかせて油断を誘おうって魂胆かしら?生憎だけど、私には通じないわよ』

 

 いや、ものすごく効果が出てるみたいですが?

 あからさまにイラついてますし、血管だって浮き出ています。血圧、大丈夫ですか?

 

 『只今より、第十八駆逐隊対、第八駆逐隊による決勝戦を開始します』

 

 そんなことは一切気にせず、試合は開始されそうですね。

 私個人としては、満潮さんの思惑が何なのかを考える時間がほしいのですが……。

 

 『それでは決勝戦!始め!』

 

 与えてはもらえませんでした。

 しかも満潮さんの予想通り、霞さんが率先して突っ込んで来ています。

 対するこちらは大潮さん、荒潮さん、私、満潮さんの順の、いつも通りの単縦陣なのですが……って、大潮さんと荒潮さんが、霞さんを素通りさせるためとしか思えないほど、左右に大きく舵を切りました。

 陽炎さんと不知火さんもそれを察したのか、二人に砲撃すらしません。

 これはもしかしなくても、私と霞さんでタイマンしろということで……。

 

 『ちょっ……!霰姉さん!?』

 

 は、ない?

 何を思ったのか、霰さんは水切りで先頭にいた霞さんの左に回り込んで殴り飛ばしました。

 ええ、文字通りです。

 しかも同時に砲撃を加えたからか、た~まや~と言いたくなるくらい見事な飛びっぷりで……って今、目の端に霰さんが映ったような……。

 

 「速っ……!」

 「……んちゃパンチ」

 

 迂闊でした。

 飛んでいく霞さんを目で追っていたせいで、霰さんが稲妻で急接近しているのを見逃しただけでなく、霞さんと同じように殴り飛ばされました。

 ん?大潮さんたちだけでなく、十八駆の三人も口を揃えて何か言ってますね。

 え~と、何々?

 た……ま……や?

 ああ、た~まや~ですか……ってぇ!

 

 「たまやって何んですかぁぁぁぁ!」

 

 と、飛びながら抗議しましたが、私の声が届いたかを判断することもできず、霞さんの近くに叩きつけられました。

 

 「痛たた……。もう、何なんですかいきなり……」

 「まったくね。いい迷惑だわ」

 

 後ろから霞さんの声が聞こえたので、恐る恐る振り返ってみると、私の頭部に連装砲を向けた霞さんが立っていました。

 このまま撃つつもりでしょうか。

 試合はとっくに始まっていますから、撃たれても文句は言えないのですが、霰さんに殴り飛ばされて尻餅をついた状態なのでできるなら……。

 

 「待っては……くれませんよね?」

 「ええ、待たない」

 

 ですよね。

 霞さんからしたら、ほぼノーリスクで私を轟沈判定にできるチャンスですもの。

 さて、ではどうしましょう。

 この状態では脚技もまともに使えない。

 精々、真上に飛び上がる程度しかできません。

 それでも今の状況からは抜け出せますが、着水する前に撃ち落とされるのが落ちですね。

  ならば……。

 

 「ちょっ……!え!?なんで……!」

 

 霞さんは有り得ないモノでも見たように驚いていますが、私は何も変わったことはしていません。

 ただ脚を消して、そのまま沈んだだけです。

 あ、そうだ。潜ったついでに魚雷も撃っておきましょう。

 

 「ぷはっ!少し海水を飲んでしまいました」

 

 魚雷を放つと同時に、脚を再形成して海上へ出た私は、真下からの魚雷に吹き飛ばされたと思われる霞さんへと航行を開始しました。

 取り敢えずは、このまま同航戦に持ち込んで砲撃戦を……。

 

 「駆逐艦が潜水艦みたいなことするな!って言うかアンタ、どうして潜れるの!?」

 「どうしてと言われましても……」

 

 潜れるから。としか言いようがありません。

 もしかして、霞さんは潜れないんですか?

 水に顔が浸けられないなんて可愛いですが、カナヅチだと支障が出ません?

 いや、待ってください。

 通信を通して三人も、『朝潮ちゃんって潜れるの!?』とか『度胸があるなんてレベルじゃないわよ!』とか『怖くないのかしらぁ』なんて言ってますから、普通は潜れないのかもしれません。

 じゃあ、どうして私は……。

 

 「おっと!」

 「戦闘中に考え事なんて余裕じゃない!」

 

 私が考え事をしている間に転進したのか、霞さんが正面から撃ってきました。

 同航戦に持ち込むつもりが反航戦になってしまいましたね。

 ん?あの前傾姿勢は……。

 

 「やはり、飛魚でしたか」

 

 霰さんが稲妻を使ったくらいですから、霞さんも脚技を使えるのは道理。

 なので、大して驚かずに済みましたが……どうして跳躍中に砲撃を?しかも真正面、距離の調整もしていないようです。

 これ、撃っても良いのでしょうか。

 

 『被弾!?私が!?嘘でしょ!?』

 

 嘘ではありません。

 撃ち落としてくれ。と、言わんばかりに間抜けな使い方だったので遠慮なく撃たせてもらいましたが、霞さんは跳躍中が無防備だと知らなかったんですか?

 

 『なら、こうよ!』

 

 体勢を立て直した霞さんは、円を描くように反航戦を再開するなり、私の進行方向に向けて魚雷を三発発射しました。

 手にした連装砲は私を追尾してますね。速度を落とすなりして魚雷を避けようとする私を狙い撃ちする気でしょう。

 それは良いのですが……

 

 「いくら私が未熟でも、あんなの避けませんよ」

  

 針路上に到達する前に、私は魚雷を砲撃して爆破しました。ついでに、水柱が良い感じの遮蔽物になったので、その影に入ると同時に捻り駒で反転。

 水柱が半分の高さになったくらいで、魚雷を二発発射してから飛魚で飛び出しました。

 

 「魚雷には気づいて……いないようですね」

 

 私が転進したことに驚いた霞さんが、体の向きはそのままに後方へと飛魚で跳びました。

 捻り駒か水切りで反転すればいいのに、どうしてそうしなかったんでしょう。

 それでは速度を殺すだけですし、私の後ろを進んでいる魚雷が無駄になってしまいます。

 ならば、少し強引ですが……。

 

 「ちょっ!それって稲妻!?それに……!」

 

 近すぎる。ですか?

 そうでしょうね。

 私が最終的に着水したのは霞さんの目の前。装甲同士が触れるか触れないかと言う超至近距離です。

 私はこれから、霞さんを魚雷の針路上に殴り飛ばすつもりなのですが、いざ殴ろうという段になって疑問に思いました。

 霰さんのゼロ距離砲雷撃戦……雨霰は、近すぎる以外は変わったことをしていませんでした。

 装填しているのが模擬弾だから何もしなかった可能性もありますが、もし実弾でも装甲の厚さを変えずにやってるんだとしたら、自身の砲撃で相応に傷つくはず。

 なのになぜ霰さんは、刀を使わないのでしょう。

 刀で前面に装甲を集中すれば、砲撃や雷撃の余波を軽減できるはずです。

 いえ、そんな小難しいことをしなくても、例えば砲撃、即飛魚で後方に下がればもっと安全です。

 二つを合わせればさらに安全ですね。

 まあ、私などが考え付くことを霰さんが気づかないわけがないので、取り敢えず試してみるつもりですが、きっと私が考えているより難しいのでしょう。

 

 「見様見真似……改良型んちゃパンチ!」

 

 あ、あれ?

 刀と飛魚を組み合わせた んちゃパンチが、あっさり出来ました。

 と、言うことは、霰さんも同じことが出来ると考えた方が良いですよね。

 だって、私程度があっさりと出来ちゃうくらいなんですもの。

 さて、そんな私に吹っ飛ばされるばかりか、着水即、魚雷に再び吹き飛ばされた霞さんはと言いますと……。

 何度もドッカンドッカンされたせいかフラフラしてます。それでもなんとか立ち上がろうとしてますが、足が言うことを聞いてくれないのか、海面に膝を突いてしまいました。

 

 「……ねえ。アンタって、朝潮になれた時どうだった?」

 「どう。とは?」 

 

 質問で時間稼ぎをするつもりでしょうか。

 かまいませんよ。

 私個人としても、司令官をクズ呼ばわりした霞さんには文句を言いたいと思っていたので、ちょうど良いと言えばちょうど良いです。 

 

 「色々あるでしょ?嬉しかったとか」

 「ええ、嬉しかったです。私は内火艇ユニットと適合できないほど、出来が悪かったですから」

 「そう。私は『朝潮』が横須賀に着任したって話を聞いて、悔しかったわ」

 「悔しい?どうして、霞さんが悔しがるのですか?」

 「私ね。養成所に運ばれる前に、横須賀の提督に無理を言って適合試験を受けた事があるの。『朝潮』の艤装のね」

 

 何故、そんなことを?

 霞さんは、先代が戦死した頃すでに艦娘だったはずなので、適合試験を受けるには一度解体される必要があります。

 にもかかわらず、霞さんは今も『霞』です。

 と、言うことは、練度がリセットされる解体を受け、再度『霞』の艤装と適合したことになります。

 

 「なぜ、そんな事を?」

 「姉さんに一度も勝ったことがなかったから。だからせめて、艤装と適合して奪ってやろうとしたのよ。まあ、結果は言わなくてもわかるでしょ?」

 

 奪ってやろうとした?

 いいえ。それは嘘です。

 それが本当なら、そんな悲しそうな目はしません。そんな目で、私を見たりはしないはずです。

 

 「ねえ、朝潮。私が勝ったら、その艤装をくれない?今度は適合して見せるわ」

 

 無理して作った笑顔が痛々しい。

 霞さん自身、そんなことをしても意味がないとわかっているのではないですか?

 ならば、私は……、

 

 「お断りします」

 「そう、だったら……」

 「力ずくで奪いますか?私より弱いのに」

 

 私の安い挑発で、さっきまで迷子のようだった霞さんの顔が怒りの色に染まりました。

 そりゃあ、私のような若輩者に弱い呼ばわりされたら怒りますよね。

 でも、私は挑発をやめません。

 

 「そんな様で笑わせないでください。呉の駆逐艦は口だけですか?」

 

 こういうのは性に合わないですね。

 一言言う度に、胃がキリキリします。

 でも、霞さんが私の想像通りの想いを抱いているのなら、『朝潮』として放っておけません。

 

 「ず、随分とキャラが変わってるじゃない。それとも、そっちが本性ってわけ?」

 「さあ、どうでしょう?でも、言いたくもなりますよ。だって私が今まで相手して来た人で、霞さんは一番弱いんですもの」

 

 挑発ってこんな感じでいいのでしょうか。

 した事がないので勝手がわかりませんが、怒っているのは間違いないので合っているものとしましょう。

 

 「先ほど言った試験の志望理由。アレ、嘘ですよね?」

 「嘘じゃないわ!私は……」

 「いいえ。嘘です。あなたはもう一度、『朝潮』に会いたかったんじゃないですか?私ではなく、先代の朝潮に」

 

 表情を見た限りでは図星。

 私が満潮さんや神風さん並みに、表情から思考を読めたらもっと詳しくわかるでしょうが、私ではこの程度が限界ですね。

 

 「もっと言いましょうか?最初、あなたは私が着任して悔しかったと言いました。コレも、本当は少し違いますよね?悔しかったこと自体は嘘じゃないでしょうが、本当は私が憎らしかったんじゃないですか?」

 「な、なんで会ったこともないアンタを憎まなきゃいけないのよ!自意識過剰よ!」

 

 いいえ、おそらく間違っていません。

 あなたは私が憎くて仕方なかった。『朝潮』の艤装と適合した私が。

 だってあなたは……。

 

 「大好きなお姉ちゃんの艤装を奪った私が、憎かったんでしょ?」

 「ち、ちが……!」

 

 少し考えればわかることでした。

 霰さんと大潮さんたちの仲はけして悪くない。霞さんだけが、敵対していました。

 仇を見るような目で見ていました。

 もしかしたら、霞さんは先代を死なせたと、大潮さんたちを逆恨みくらいはしてたかもしれません。

 

 「大好きだったんでしょう?会えなくなって寂しかったんでしょう?もう一度、話したかったんでしょう?」

 「違う!ちがう……。違うったら!」

 

 あ、泣かしちゃった……。

 泣かれたらさすがに、罪悪感がわき上がってきました。でも、もう一押しです。

 

 「前言を撤回しましょう()。あなたが私に勝てたら、この艤装を差し上げます。棚に飾るなり抱き枕にするなり、好きにして構いません」

 「え……」

 「でも、あなたには無理です。私から、一方的にお仕置きされて終わりです」

 

 あなたは、満潮さん以上に素直じゃない。

 胸の内に秘め過ぎた先代への想いが、凝り固まっています。

 だから、吐き出させます。

 ついでに、私の司令官をクズ呼ばわりした事も反省してもらいましょう。

 

 「一番艦だからって姉面?アンタ、私と歳変わらないでしょ」

 

 よくご存じで。

 調べたんですか?それとも、それも荒潮さんから聞いたんでしょうか。

 ですが、私のような未熟者が一番艦と呼ばれるのは、なんだか申し訳ない気がしますね。

 でも、今は……。

 

 「ええそうです。同じ朝潮型姉妹として、あなたの捻くれた性根を叩きなおします」

 

 私では力不足かもしれません。

 ですが、私は『朝潮』として、妹を放っておく事なんてできません。

 だから、あなたの全てを私にぶつけてください。

 私も、あなたの先代への想いを全力で受け止めます。

 なので……。

 

 「立ちなさい霞!さあ、お仕置きの時間です!」

 

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