艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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演習編ラストですう!

ようやく半分くらいかな( ̄▽ ̄)


第六十五話 幕間 鼬とマザー

 

 

 太平洋艦隊を束ね、我らの母によって最初に建造された四凶の筆頭である渾沌様は、人間のことを調べるのに余念がない。

 協力者から供与される書物を読み漁るのは当然だし、最近ではいんたーねっととやらも活用し始めた。

 その中でも、2ちゃんだったか5ちゃんだったか忘れたが、掲示板と呼ばれるいんたーねっとの機能を使った情報収集が便利らしい。

 なんでも情報だけでなく、人間の醜い部分がこれでもかと凝縮されているそれは、下手な書物よりよほど面白い見せ物なんだとか。

 

 「渾沌ちゃんも、だいぶ俗っぽくなってきたわねぇ。鼬ちゃんもそう思わない?」

 「私にはよくわかりません」

 

 と、日本近海に浮かぶ島の一つで合流した渾沌様の協力者に返したのだが、私の答えが想像通りだったのかクスクスと笑われてしまった。

 

 「渾沌ちゃんと違って、あなたは堅物ねぇ。肩が凝ったりしない?」

 「私たちの体は人間とは違います。なので、肩が凝るのがどういう状態なのか理解できません」

 

 そう返したら、また笑われてしまった。

 渾沌様の協力者だから敬意を払って対応しているが、()()()に笑われるのは不愉快極まりない。

 

 「そう怖い顔しないでよぉ。ほんの冗談。それより、最近は人間の文化にハマってる子が多いんだってぇ?」

 「ええ、嘆かわしいことですが事実です。特に、陥落したアリューシャン列島の聖地から落ち延びて来た姉妹の生き残り。妹が酷い」

 「海軍が北方棲姫って呼んでる子ねぇ。どう酷いの?」

 「人間の言う、いべんととやらに御執心です」

 

 テンションが著しく上がるのから言えば、ばれんたいんやひなまつり。くりすますとやらを言い出した時には帽子を被ってはしゃぐのだと、お付きの者から聴いた覚えがある。

 和尚がIIとやらの時は服装まで変わるそうだ。

 どうして和尚が二人いたらテンションが上がるのかは謎だが、あそこまで無邪気にはしゃがれていたら、私のような下位の者は何も言えない。

 一番酷いのはアレだ。

 いつ食べたのかは定かではないが、すきやのギュードンとやらが好物らしく、私や渾沌様が協力者に会いに来る時は必ず持って帰るよう頼まれる。

 実際、今も協力者に入手してもらった大量のギュードンが入った袋を両手に提げている。

 

 「季節感が皆無だけど、可愛らしくて良いじゃない。でもそんな子が、開戦時にたった一晩で数万人を爆殺したなんて信じられないわねぇ」

 「駆逐艦のような見た目でも、そちらが言う姫級ですから」

 

 何故に姫なのかは理解に苦しむが、そこは人間と我らの考え方が違うからだと納得しよう。

 

 「ああそうだ。どうして今日はあなただけなのぉ?渾沌ちゃんは?」

 「いつもの病気です。今回は、島に咲く花の花弁をブツブツ言いながら千切り続けていました」

 

 島から花が失くなるのでは?と思ってしまうペースで。

 しかし渾沌様の行動は、毎回見ていて不気味になる。

 前回は確か、夕日が沈むまで右手を左胸に当てて「シュリンク・シュクラー・リトゥン」とひたすら唱え、月が昇ったら朝まで「私と提督は両想い!」と叫んだあとに海水をがぶ飲みするなんて奇異な行動を繰り返していた。

 さらにその前はオイルを全身に塗りたくっていたし、もっと前にはこの駆逐艦からもらった提督の写真の横に、ご自分の写真を貼ったりしていたな。

 

 「渾沌ちゃんも乙女ねぇ。やり方が所々おかしいけど」

 「渾沌様が、何をしているのかわかるのですか?」

 「ええ、わかるわぁ。所謂、恋のおまじないってヤツよぉ」

 

 コイ?コイとはなんだ?

 もしかして、人間が観賞用に育てるという鯉か?

 いやいや、そんな訳ないな。

 おそらくここで言うコイとは、人間のオスをメスが、もしくはその逆が求めるようになる心理現象の恋だろう。

 

 「ん?ちょっと待ってください。と言うことは、渾沌様は提督に恋をしているのですか?」

 「そうなるんじゃない?私から聞いた話と写真くらいでしか知らないはずなのに、そこまでのめり込めるなんてある意味凄いわねぇ」

 

 どう凄いのかは、恋をしたことがない私にはわからないが、渾沌様ほど上位の方はたったそれだけの事で恋ができるくらい性能が優れているのだろう。たぶん。

 おっと、提督で思い出した。

 

 「今回は、提督からの命令はないのですか?」

 「あるわよぉ?聞きたい?」

 「聞かなければ、ギュードンを持ち帰るだけで終わってしまいます」

 「それもそうね。じゃあ、伝えるわ。南方のタウイタウイ泊地。そこにいる戦艦を、四凶二隻を含めた艦隊で撃破せよ。だってさ」

 

 タウイタウイ?あんな場所に戦艦がいるのか?

 いや、それは良い。

 命令とあらば従おう。

 だが、湧いてしまった疑問がどうにも厄介だ。

 なぜ、四凶に属される方を二隻も?

 それは異常だ。

 戦艦を撃破するにしても過剰な戦力だ。いや、逆に考えれば、そこにいる戦艦はそれほどの性能を有しているということ。

 だがそうすると、新たな疑問が湧いてくる。

 我が方の潜水艦だけで事足りるような僻地に、どうしてそこまでの性能を有する戦艦を配しているんだ?

 ハッキリ言って無駄だろう。

 

 「いや、そうか。配置転換、その阻止が目的か……」

 

 無駄だと悟った人間の誰かが、その戦艦を異動させようとしているんだ。

 その情報を得た提督は、これ幸いにと撃破することにした。飛行機にでも乗ってくれれば、海上を移動されるより撃破が容易だしな。

 四凶を二隻も編成するのは、敵戦艦が海上を移動、もしくは泊地に引きこもった場合のためだろう。

 いや、待て待て。

 それならもっと早く、それこそ配置転換の話が出る前に泊地ごと消してしまえば良かったんじゃないか?

 それをしなかったと言うことは、その話が出るまで戦艦がそこにいると知らなかった。

 または、その戦艦を配置転換されると困る理由がある。

 もしくはその両方。

 

 「鼬ちゃん?お~い」

 「少し黙っていてくれ」

 

 無駄と言えばここ数年、人間は少ない艦娘を割いてまで防衛戦をする必要がある陣取り合戦を繰り返していたな。

 最近で言えばアリューシャン列島だ。

 人間が単に、取られた土地を取り返すだけの理由で仕掛けてきたのなら馬鹿めと罵って終わりだが、そんな奴ばかりじゃないのは、我らより性能も低く数も少ない艦娘が我らと拮抗している現状からわかっている。

 ならば、ここ数年の聖地侵攻には意味がある。

 

 「そうか。我らの母が座すビッグアイランド聖地……」

 

 人間はそこを狙っている。

 そのために、その戦艦が必要だから異動させるのだろう。ならば、是が非でも沈めなければ。

 『天幕』が破られるとは思えないが、些細な不安要素すら見逃すわけには……。

 

 「何の、つもりですか?」

 

 私が思考の海から戻ると、協力者が()()()()()()()()に変容した腕を向けていた。

 砲も兼ねているな。

 形状的には、人間どもが駆逐古鬼と称している艦型に近いか。

 だとすると、火力もそれに近いはず。

 だが何故だ?

 何故、私に砲を向ける?

 まさか私が辿り着いた答えは、協力者にとっては我らに知られたくないことだったのか?

 

 「追加の命令を出す。今の話を渾沌にはするな」

 「あなたに、そんな権限がおありで?」

 「ある。何故なら、私は提督のメッセンジャー。私の言葉は、提督の言葉と同じだと心得なさい」

 

 いいや、違う。

 今ので確信した。

 提督は、渾沌様が恋焦がれる提督は我らの提督ではない。コイツとも繋がりがない、赤の他人だ。

 ならば当然、今まで渾沌様に下された命令も提督からではなく、コイツからの命令。

 コイツは今まで提督と言う名の虚構を笠に着て、我らを良いように利用していたと言うわけだ。

 

 「私が得た答えが邪魔なら、私を沈めれば良い。なのに、何故そうしない」

 「潔いのね。でも、あなたは沈めない。あなたは私にとって、今は大切な存在だからね」

 「私が、大切?」

 「そう、大切。あなたの役割はまだ終わっていない。彼女に私のメッセージが届くまで生きててもらわなきゃいけないの。じゃないと、渾沌にあなたを鼬と名付けさせた意味がない」

 

 それはつまり、私の名前自体がメッセージと言うことか?

 いったい誰に向けての……いや、そもそもどんなメッセージを込めた?

 窮奇様の名前の由来を調べた際に、私の名前はそれと同じとされる鎌鼬から取ったのだろうと予測はした。

 だが、それだけだ。

 それ以上の意味が込められているとは思えないのだが……。

 

 「鎌鼬は()の妖怪。そして鎌鼬は、高知県に伝わる『野鎌(のがま)』と同一視されるわ。私はあなたの名前に、私の艦名に繋がる道しるべを込めた。彼女に、私が生きている。()()()()()は、今も吹き続けていると伝えるためのメッセージを込めた。だから、今は沈めない。私のメッセージに彼女が……神風が応えてくれるまでは沈めないであげる」

 

 神風?

 それはまさか、あの時の赤い駆逐艦か?

 いやいや、格好が似ているからと言ってそうだと決めつけるのは早計だ。

 

 「ああそれと、誤解しないでね?私はあなたたちに敵対する気はない。むしろ逆。さっきの話をしないことが、あなたたちの目的を達成する近道になるからそうしろと言ったの」

 「どう、近道になると?まだ他の母たちは行動している。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「ふふふ♪そうよねぇ。あなたの言う通りよぉ。でも……」

 

 そんなことはわかっている。

 と、言いたげな笑顔だな。

 コイツは何を考えている?どんな絵を描いている?

 いったい、どれほどの人間や我らの同胞が、お前の手の平の上で踊っているんだ?

 

 「お話はこれくらいにしておきましょうか。あなたは聖地に戻って、先に言った命令を渾沌ちゃんに伝えてちょうだい」

 「私が、素直に言う通りにするとでも?」

 「するわよぉ。だってあなたは頭が良い。渾沌ちゃんよりずぅぅっと良い。だから、あなたがした()()を話しても、渾沌ちゃん程度じゃ理解できないし信じもしないとわかってる。だから、話さないわぁ」

 「渾沌様を……!」

 

 侮辱するな!

 と、言いたいところだが、コイツの言った通りだ。

 あの方は並の同胞より頭が良いが、人間と比べたら良いとこ中の下だろう。

 それに、あの方はコイツが作り出した虚構の提督に御執心。私が導き出した事実を話せば、信じずに私を沈めかねない。

 それは私的にも困る。

 私は窮奇様のご活躍を見続けたい。あの方のそばに居続けたいのだ。

 だから言えない。話せない。

 この駆逐艦に利用されているとわかっていても、私はけっして話せない。

 結局は、私もコイツに踊らされているのか。

 配下の人間どもから『マザー』と呼ばれている、この()()()()()の手の平の上で。

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