艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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クリスマスですね~(*´ー`*)




第六十八話 これが団欒……

 

 

 

 こんにちは、朝潮です。

 きっと今の私の顔は、赤く染まり始めた木々の色に負けないくらい真っ赤になってると思いますが気にしないでください。

 

 「って、誰に言ってるんですか私は」

 

 しかし、誰かに状況説明でもするように現実逃避するのも無理からぬこと。

 だって司令官が、執務室の一角に設けられたソファーの上で、私の膝を枕にして寝てるんですよ?これで赤面せず、かつ動揺するななんて無理な話です。

 なぜそんな事になってるかと言いますと……。

 実は一昨日、任務の報告のために執務室に窓から突撃した際に起きた一連の出来事の末に秘書艦を拝命いたしまして、今日はその初日だったんです。

 そして07:00(まるななまるまる)に執務室に到着すると、すでに司令官が執務を開始されていました。

 

 「おはようございます司令官!も、申し訳ありません!遅刻してしまいました!」

 「おはよう朝潮。だが、遅刻はしてないぞ?8時からでいいと言っただろう?」

 「ですが……」

 

 司令官はすでに書類の山の間でお仕事を開始されているではありませんか。

 私と神風さんのせいでお体が不調なのに、無理をされては余計に症状が酷く……。

 

 「私が仕事をしてたから勘違いしたのか。実は昨日、あまり眠れなくてな。ボーッとしてるのもなんなんで、早めに始めてたんだ」

 

 あまり眠れなかったって……それは体が痛むからですか?それとも、あの一件のあとに神風さんが家出したからですか?

 目の下の隈が酷いですから、あまりではなくまったく寝てないのでは?

 

 「来るのが随分と早いが、昨日はちゃんと眠れたか?」

 「はい!私は21:00(ふたひとまるまる)以降は起きていられませんので!」

 「そうか、それはよかった」

 

 いや、個人的には良く思っていません。

 駆逐隊には夜間哨戒任務もあるのですが、私のせいで八駆はそれができないのです。

 それに、毎晩行われているという荒潮さんによるイタズラ。

 着せ替えだけならまだ良いのですが……いや、良くないですね。演習大会が終わってから申請して手に入れたスマホに霞が送ってくれた私の着せ替え写真には、とても人様には見せられないくらい卑猥な物が多々ありましたし、私自身も知らない私の性感帯の開発も行われているのだとか。

 

 「一度、調べてみるか?さすがにそこまで深い睡眠が、普通だとはとても思えない」 

 「その方が、良いのでしょうか」

 

 私の睡眠は確かに異常と言えなくもありません。

 だって21時キッカリに電源が落ちるように眠り、6時には逆に電源が入るように目が覚めるんです。

 養成所時代に、叢雲さんが「単に規則正しすぎるだけでしょ?」と言われたことがありますが、規則正しいにも限度がありますもの。

 

 「予定を調整して、近い内に検査してみよう。それはそうと、朝食は摂ったのか?」

 「はい。食べてから来ました。司令官こそ、ちゃんと食べましたか?」

 「もちろん食べたさ」

 

 執務机の脇をチラッと見ましたが本当ですか?

 そこにはカロリーをメイトする的な黄色い箱の空がありますが、もしかしてそれしか食べてないのでは?

 

 「普段のお食事は、神風さんが?」

 「あ、ああ……」

 

 なるほど。

 神風さんが家出したせいで、食事がままなってないのですね。

 まったく料理ができないと言うわけではないのでしょうが、面倒なので保存食で済ませているのでは?

 

 「迎えに、行かないのですか?居場所は知っているのでしょう?」

 「放って置けば、その内帰ってくるさ」

 

 絞り出すようにそう言った司令官は、いつの間にか修繕されていた窓から倉庫街の方を見つめていました。

 きっと倉庫街のどこかに、神風さんはいるのでしょう。

 

 「さて、そろそろ仕事に戻るか」

 「了解しました!まずは何をすればよろしいでしょうか?」

 「それなんだが……。いきなりで悪いが、お使いを頼みたい」

 「お使い……ですか?」

 「ああ。倉庫街の喫茶 猫の目に神風がいるはずだから、午後からの哨戒に大潮たちと一緒に出るよう伝えてくれ」

 「はい!お任せくだ……!」

 

 さるのは良いのですが、倉庫街は私にとって未体験ゾーン。満潮さんからは「あそこは世紀末生物の生息域だから、迂闊に近づいちゃダメよ」と注意されてますから、今まで行こうとすら考えませんでした。

 なので、西の方に行けば良いのは知っていますが、目的地までの行き方がわかりません。

 

 「猫の目には行ったことがないのか?」

 「はい。喫茶と付くくらいですから、喫茶店なんですよね?」

 「そうだ。工廠の北側にある大通りを真っ直ぐ進むと、途中にインド人がいる。そこからさらに、西に20分ほど歩けば目的地だ」

 「なるほど。インド人を西に、ですね。わかりま……せん!どうしてインド人が道標代わりになっているのですか!?いえそもそも、どうして鎮守府にインド人が!?」

 「行けば一発でわかるさ。朝の散歩がてら行ってくると良い」

 「りょ、了解しました」

 

 それから、司令官のお言葉を無理矢理信じた私は、言われた通りに工廠北の大通りを進んでいました。

 すると、司令官がおっしゃった通り、インド人がいたんです。

 私はインドの人と面識はありませんが、それでもインド人だと一発でわかりましたよ。

 

 「なるほど。これがインド人ですか」

 

 その正体は、『カレーショップ ダルシム』と書かれた看板を両手で持って火を吹いているインド人の絵。

 それが、壁一面と言っても過言ではないほどデカデカと描かれていたんです。

 色々とツッコミどころはありますが、こんなにも偏見と思い込みに満ちた絵を描いてて大丈夫なのでしょうか。

 

 「おっと、インド人に圧倒されている場合ではありませんでした」

 

 秘書艦としての初仕事を完遂しなければ、代わってくれた大潮さんに面目が立ちません。

 それに、私が向かう先にいるのは神風さん。

 どうして家出したのかはわかりませんが、司令官と仲直りしてくれなければ司令官の食生活が滅茶苦茶になってしまいます。

 なので不肖、この朝潮。

 司令官の未来のお嫁さん(仮)として、お二人の仲を取り持って見せます!

 

 「と、意気込んで来たは良いのですが……」

 

 これ、どう反応したら良かったのでしょう。

 ピチピチのレオタード(女性用)を身につけた筋骨隆々とした中年の三人組が、お店に入るなり「見~つめるキャッツアイ!」と怒号を飛ばして来たのです。

 しかも、ボディビルで言うところのサイドチェストで。

 

 「あれ?朝潮さんじゃないっすか」

 「あ、おはようございます」

 

 三人にどんなリアクションを返せば良いのか悩んでいたら、カウンターを拭いていたモヒカンさんが声をかけてくれました。

 椅子も引いて、ここに座れと暗におっしゃっています。

 

 「どうしたんすか?こんな所までわざわざ」

 「神風さんに用があって来たのですが……。店内にはいないようですね」

 「自分の部屋で漫画でも読んでんじゃないっすか?」

 「モヒカンさんの部屋でですか?」

 「ええ。ここに来た時は、たいていそこで暇潰ししてるっす」

 

 へぇ、神風さんって、モヒカンさんの部屋で勝手にくつろぐような間柄なんですね。

 そう言えば以前、辰見さんを迎えに行った時も並々ならぬ仲っぽかったですし、山口に行った時も二人してどこかで一泊してました。

 やっぱりお二人は……。

 

 「恋人同士なんですか?」

 「違うっす」

 「でも、神風さんはモヒカンさんの部屋に入り浸っているんですよね?」

 「部屋を掃除して飯作ったついでにくつろいでるだけっす。けっして恋人だからって訳じゃないっす」

 

 なるほど。確かに恋人ではありませんね。

 モヒカンさんに自覚はないようですが、それはもう恋人を超えています。通い妻と言うヤツです。

 つまり訓練がない時の神風さんは、昼はモヒカンさんの部屋で過ごし、夜は司令官の部屋で過ごしていたんですね。半同棲と言えるかもしれません。

 

 「じゃあ、一昨日と昨日の晩もそこで?」

 「いや、さすがにそれやっちゃうとオヤジにぶっ殺されるんで、夜は別の部屋で寝てもらったっす」

 

 はて?

 半同棲とも言える関係なのに、夜戦(意味深)をするほどの仲ではないなんて不自然じゃないですか?

 もしかして嘘をついてる?

 私を通して司令官にバレかねないから、嘘で誤魔化そうとしているのでしょうか。

 

 「それはそうと、お嬢に用があるんじゃないんすか?」

 「あ、そうでした。モヒカンさんの部屋に行けばいるんですよね?」

 「ええ、そうっす。そこのドアから裏に出たら宿舎が見えるはずっすから、その三階の一番奥の部屋がそうっす。なんなら、一緒に行きましょうか?」

 「いえ、一人でも大丈夫だと……」

 

 思いながらドアを開けると、そこにはまだサイドチェストを続けている三人に勝るとも劣らない数十人の人たちが、上半身裸でこれでもかと汗で湿った筋肉を隆起させて運動したり殴りあったりしていました。

 それを見た途端、私は考えるよりも早くドアを閉めていました。

 さすがにアレは無理。

 三人くらいなら「世の中には変な人がいるんですね」と、感想を頭の中で言いつつ観察する余裕がありましたが、筋肉の森とでも呼べそうなほどの集団は無理です。

 気持ち悪いです。

 

 「一緒に行きましょうか?」

 「是非、お願いします」

 

 私の気持ちを察してくれて、再度申し出てくれたモヒカンさんのご好意に甘えた私は筋肉の森を突破し、無事にモヒカンさんの部屋へと辿り着けました。

 さて、ここからが正念場ですね。

 おそらく拗ねて荒れまくっているであろう神風さんに司令官からの命令を伝え、あわよくば家出を止めてもらわなけれ……ば?

 

 「あ、ちょうど良いところに戻って来た。角ちゃ~ん、龍玉の18巻がないんだけど、どこにあ……」

 

 ドアを開けた先では、ブカブカのYシャツ姿の神風さんが本棚を漁っていました。

 そのYシャツの下にはちゃんと下着を着けてるんですよね?

 間違っても、裸Yシャツじゃないですよね?

 あまりにもはしたなくだらしのない格好だったので、思わずスマホで撮影してしまいましたよ。

 

 「モヒカンさん。夜は別の部屋で寝ていると言いましたよね」

 「言ったっす」

 「この部屋、ワンルームですよね?」

 「そっす」

 「ならば何故、男物のYシャツを着た神風さんと、床に散乱した神風さんの着物がセットで存在するのですか?」

 「え~っと、それは……」

 

 先にした私への説明が嘘だったからですよね?

 実際は夜戦(意味深)が行われてたんでしょ?

 にもかかわらず、私をここへと案内したのは、神風さんがまさかこの時間まで、こんな事後を思わせる格好をしていると思わなかったからです。

 でなければ、二人揃って「マズい……」と言わんばかりの顔をして、私から目を逸らしたりはしないはずです。

 

 「取り敢えず、お二人ともそこに正座してください」

 「はぁ?なんで私が、あなたの言うことを聞かなきゃ……」

 「せ・い・ざ。もう一度言わせるようなら、この状況を撮影した画像を、司令官に送ります」

 

 印籠を見せつける格さんの如く、スマホで今の画像を見せつけると、二人とも素直に正座してくれました。

 ええ、それはもう速攻で。

 勢いで頭が高い!とも言ってみたかったですが、それでは話ができませんのでこれだけで許してあげます。

 

 「さて、まずは伝えることから伝えておきましょう。神風さん。午後からの哨戒任務に、大潮さんたちと一緒に出てください」

 「なんで私が哨戒なんかに……!」

 「出てもらいます。断った場合、どうなるかは言わなくてもわかりますよね?」

 「う……わかった」

 

 よろしい。

 この場にいなくても、司令官のご威光は神風さんに効果覿面のようですね。 

 それとも、モヒカンさんに陵辱されたことに、罪悪感を感じてるのもあるんでしょうか。

 

 「では次です。誤解の無いように言っておきますが、お二人の仲を邪魔するつもりはありません。私が出たら、思う存分シッポリズッポリとヤって構いません。心配なさらずとも、司令官には秘密にします」

 

 お二人の仲が進展したのは、私にとっては好都合。

 いえむしろ、歓迎すべきことです。

 何故ならこれで、神風さんが司令官と男女の関係になる可能性が著しく減ったのですから。

 もっとも、世紀末生物であるモヒカンさんを、異性として愛する気持ちは全く理解できませんけどね。

 

 「この子、意外と腹黒かったのね」

 「それより、どうして自分は汚物でも見るような目で見られてるんっすか?」

 

 汚物だからです。

 考えてもみてください。

 神風さんは実年齢こそ大人ですが、()()と肉体は子供。贔屓目に言ってJCくらいですよ?

 その神風さんの体を舐め回したり撫で回したりした挙げ句、男性の欲望の化身とも言える物を無理矢理捩じ込んだんです。

 これが一般社会なら発覚、即銃殺ですよきっと。

 それなのに、私は侮蔑するだけで済ましているのですから、むしろ感謝してください。

 

 「いや、無理矢理はしてないっす」

 「私があんまり痛がるから、最後まではしてないしね」

 

 それは聞いていません。

 姦通していようがしてなかろうがどうでも良いんです。

 緑のモヒカン頭が、神風さんに覆い被さっている絵面が最悪なんです。

 は、もう良いですね。

 

 「本題に戻りましょう。神風さんは、哨戒が終わったら家出も終わりにしてください。神風さんが家出してたった二晩で、司令官の食生活が破綻しています」

 「いやいや、お父さんは一通り料理できるわよ?私がいなくなったくらいで……」

 

 自然にお父さんって呼べるようになってる……のは良いことですが、実際になってるんです。

 神風さんも心当たりがあるから、顎に手を当ててブツブツと言ってるのでしょう?

 

 「それに、満足に眠れてないようなんです。きっと、神風さんが心配で寝れないんですよ」

 「……わかった」

 

 あら、意外と素直ですね。

 嫌だ嫌だと駄々をこねられるくらいは覚悟していたのに、これでは拍子抜けです。

 

 「あなたには、結局世話をさせなかったのね」

 「はい。神風さんが司令官を放り投げた日に申し出たのですが、やんわりと断られました」

 

 私は司令官の日常にとって異物です。

 神風さんのように、一部になれていないんです。

 私には、まだ足りないモノが多すぎるんです。

 

 「では、私は戻ります。遅れちゃダメですよ?」

 「わかってるわよ」

 

 不貞腐れてそう言った神風さんと別れた私は、何故か店の裏口まで二列になって整列し、敬礼していた奇兵隊員さんたちに見送られて猫の目を出ました。

 

 「思ったより、時間がかかってしまいましたね」

 

 一悶着あるとは思っていましたが、それにしても時間をかけすぎました。

 秘書艦業務は始まったばかりなのですから、一刻も早く戻って次の指示を……と、思って執務室に戻ってみたら、ソファーで舟を漕いでいる司令官を見つけ、これ幸いにと隣に座ったら司令官がもたれ掛かって来て今に至ったと言うわけです。

 

 「可愛い……と、思ったら不敬なのでしょうか」

 

 司令官が私の膝の上で静かに寝息を立て始めて、かれこれ二時間になります。

 私にとっては未だかつてないほど幸せな時間ですが、そろそろ大潮さんが出発の報告に来る頃ですし、昼食の時間でもあります。

 ですから、司令官の体裁を保つためには起きてもらわないとならないのですが……。

 

 「お疲れだったんですね……」

 

 私は、司令官の白髪交じりの頭を撫でながら、そう呟きました。

 初めて会った頃より白髪が多い。

 顔に刻まれた皺も多く、深くなっています。

 これは、この人の苦労と苦悩の証。

 この白髪や皺の一本一本が、司令官を司令官たらしめている栄光の証。

 そう思うと、堪らなく愛おしくなります。

 

 「お、お父さん……。いる?」

 

 私が司令官の皺を指でなぞっていると、執務室のドアを開いて神風さんが顔を覗かせました。

 こんな神風さんは初めて見ます。

 いつも自信に満ちていて、立ちはだかる者全てを威圧するような神風さんの瞳が、今は迷子の子供のように弱々しく、拠り所を探してさ迷っているように焦点が合っていません。

 

 「あ、お邪魔……だった?」

 「いえ、そんなことはありません。取り敢えず、中へ入ったらどうですか?」

 「う、うん……」

 

 私に促されるままに入室した神風さんは、私と司令官の対面のソファーに腰を下ろしました。

 一抱えもある風呂敷包み……中身は重箱でしょうか。を、抱えたままで。

 

 「そんなに安心したお父さんの寝顔、初めて見たかも」

 「そうなんですか?」

 「うん。お父さんってさ、いつも暗殺の危険に晒されてたから、私が知る限り熟睡したことってないのよ」

 

 神風さんの説明によると、提督になる前は陸軍から。なってからは、海軍の上層部から送られて来る暗殺者のせいで、司令官には気の休まる暇がなかったそうです。

 暗殺者が暗殺者に怯えるなんて笑えるわよね。

 とは神風さんの談ですが、司令官は私が与り知らぬところで、そのような恐怖とも戦っていたんだと初めて知りました。

 

 「本当に、私はもう要らないのかな……」

 「要らない?どうしてですか?」

 「だって、あなたはもう私より強い。それに、お父さんがそんな寝顔をするくらい、心を許してる。完全に私の上位互換じゃない」

 

 神風さんが言ってることがサッパリ理解できません。

 私が神風さんより強い?

 ご冗談を。

 私は神風さんの足元にも及びません。

 演習では勿論、実戦になれば手も足も出させてもらえないでしょう。

 心を許している?

 それこそご冗談を。

 司令官は単に、睡眠不足がピークに達してこうなっているだけです。

 それがわからないなんて……。

 

 「神風さんはバカですか?」

 「ええ、バカよ。私はバカ。本当にバカ。自分で自分の墓穴を掘る大バカよ!」

 「それは、私を鍛えたからですか?」

 「ええそうよ!あなたなんて鍛えなきゃよかった!あなたを鍛えなきゃ、私はまだ必要としてもらえた!要らないなんて言われなかった!」

 

 言われていません。

 司令官は一言も、神風さんを要らないなんて言っていません。

 確かにあの日、司令官は私に神風さんの代わりにご自身の部屋に住めと言いかけました。

 でも、それはその場の勢いだったのでしょう。

 だって結局、私は住み込みさせてもらえませんでしたもの。

 神風さんが家出したせいで、司令官は食事と睡眠、もしかしたら生活環境にも支障をきたしているかもしれないんです。

 いえそれ以前に、この人は愛娘が家出して平静を保てるような人ではないんです。

 それがわからない神風さんが腹立たしい。

 私より近くにいるクセに。

 私よりもずっと司令官と想い合ってるクセに、そんなこともわからない神風さんがムカつきます。

 

 「神風さんは、司令官のことが好きですか?」

 「……嫌いよ。こんなクソ親父」

 「嘘はつかなくて結構です」

 「嘘じゃない!」

 「いいえ、嘘です。本当に嫌いなら、クソ付きとは言え父とは呼びませんし、わざわざお昼ご飯まで作って、大潮さんの代わりに出発の報告に来たりしません」

 

 きっと司令官は、こうなることを期待して私に神風さんのところへ行かせたんです。

 だって、居場所は知れていたんですから、任務を伝えるだけならモヒカンさんなり他の奇兵隊の人に電話すれば手早く済みます。

 なのに私に行かせたのは、自分が行っては再び喧嘩になって、事を大きくしかねなかったからです。

 実際、司令官が行ってたら大事どころか刃傷沙汰になっていたでしょうし。

 

 「私は、両親の顔も憶えていません。自分でも薄情だと思います」

 「それが、どうしたってのよ」

 「そんな私が羨ましく感じるくらい、お二人の関係は理想的です。私が想い描く、理想の父娘(おやこ)です。だから……」

 

 失望させないでください。

 と、続けようとしたのですが、司令官が起き上がったのでできませんでした。

 寝起きとは思えないほどキリッとしていますね。

 もしかして、少し前から起きてたのでは……。

 

 「腹が……減った。朝潮、すまないがお茶を人数分淹れてくれるか?」

 「了解しました」

 

 二人だけにして大丈夫でしょうか。

 と、少し思いましたが、二人に喧嘩をする様子はないので隅にある給湯室に向かいました。

 あとは二人次第。

 ここで仲直りしなければ、二人の間に埋めることのできない溝ができてしまう気がします。

 

 「お前も、食って行け」

 「私はいいわよ。哨戒しながらレーションでも摘まむから……」

 「ええけぇ食ってけ。こんな量、俺と朝潮だけじゃ食いきれん」

 

 たしかに多いですね。

 神風さんが持って来たお重は、一般的な6·5寸の物より二回り大きい8·5寸の三段重。およそ、5~6人用のお重です。

 それ一杯に料理が詰められているとしたら、私と司令官だけでは食べきれません。

 

 「相変わらず少食ね。こんなの、一人前以下じゃない」

 「んなわけあるか。お前の胃袋が異常なんだ」

 「そんなことないわよ。絶対、お父さんが少食なだけ」

 

 神風さんって、見かけによらず大食いなんですね。

 あんな量をペロリと平らげられるなんて、下手したら一航戦の無駄に食べる方並みの胃袋なのでは?

 

 「朝潮、お茶はまだなの?」

 「あ、はい。今お持ちします」

 

 どうやら一緒に食べる気になったようですね。

 すでに、お重を広げて自分が食べる分をよそ……うのは良いですが、多すぎません?お皿代わりにしたお重の蓋が、お料理で山盛りになってますよ?

 

 「ほら、あなたも好きにつつきなさい。こんな量じゃ腹は膨れないだろうけど、腹の足しにはなるでしょ?」

 「いやいや、私と司令官とで分けてもまだ多いですが?」

 「はぁ?あなたも少食なの?お父さんみたいに歳いってるんならともかく、育ち盛りの駆逐艦がそんなんでどうすんのよ」

 

 本当にそうでしょうか。

 先ほども言いましたが、お重に残っているお料理は軽く二人分。しかも大人換算で、です。

 司令官が黙々と食べて量を減らしてくれていますが、それを含めても、私も頑張って食べなければならない量です。

 まあ、それは良いのですが……。

 

 「どうした朝潮。食べんのか?」

 「いえ、いただきます」

 

 いただきますが、お二人が食事をしているのを見たら、食べるより見続けたいと思ってしまったんです。

 場所は執務室で、服装も部屋着とはかけ離れているのに、何故か自然な風景に見えます。

 二人とも澄ました顔で、特に会話をしている訳じゃないのに和気藹々としているように、私には見えるんです。

 

 「これが団欒……なのでしょうね」

 「ん?何か言った?」

 「いえ、何でもありません」

 

 やっぱり、神風さんはズルいです。

 何故なら、私ではまだ溶け込めない。

 司令官と家族でいられるのは神風さんだけなのに、本人にその自覚がないのがズルいし妬ましい。

 でもいつか、私もこの和の中に入りたい。

 神風さんのように、些細なことで司令官と喧嘩したい。そして、仲直りしたい。

 そう、思わされました。

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