艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第七話 あの人は、不器用なんだ

 

 

 

 

 二月半ばとは信じられないほど気持ちのいい柔らかな空気。日差しが反射して、鎮守府から見える海がきらきらと美しい光を放っている日の昼下がり。

 などと、ちょっと詩的な表現でも使わないと睡魔の誘惑に負けそうになっていた私こと由良の手元の固定電話に、提督さん宛の電話がかかってきたので取り次いだんですが……。

 

 「ああ、迎えはこちらから送る。いや、私の我がままのようなものだから気にしないでくれ。それはそうと……」

 

 普段通りの感情を感じさせない声と口調で、電話先の相手と話す提督さんに興味津々です。

 いや、別に提督さんに興味があるわけじゃないんです。

 興味があるのは話の内容。

 最初に対応したのが私だから、瀬戸内海にある艦娘養成所の雪代さんからかかってきたのはわかっているのですが、『迎え』という文言が気になったんです。鎮守府から迎えを送るなんて、いったいどんなVIPなのかしら。

 

 「そうか、ならば無理強いはしない。だが、君の席は今でも空けている。その気になったら、いつでも言ってくれ」

 

 提督さんの執務机の横に設けられた秘書艦用の机で、書類に目を通すふりをしながら会話を盗み聞きしてみましたが……。

 ダメですね。

 横須賀襲撃事件後に鎮守府を離れた雪代さんを、再び鎮守府に戻そうと交渉していたのはわかったんですが、肝心の誰を迎えに行くのかがわかりませんでした。

 

 「ふう……」

 

 電話での会話を終えた提督さんが、酷く疲れたように椅子に深くもたれかかりました。

 表情をほぼ変えない提督さんが、ここまでわかりやすく疲れを顔に出すのは珍しいです。

 

 「電話だけで、えらくお疲れですね」

 「ああ、別に疲れた訳じゃないんだ。ただ、なんと言ったらいいのか……」

 

 そう言ってうつむく提督さんの顔は、なんだか悲しそうと言うか嬉しそうと言うか、相反した感情をうまく制御できていないように見えます。

 本当にレアですねコレは。

 普段からこれだけ表情豊かなら艦娘、特に駆逐艦から恐れられずに済みそうなのに。

 

 「新しい朝潮の件でな……」

 

 ああ、それで……。

 そういう事なら、提督さんが普段は見せない顔を私が居るのにもかかわらず見せたのも納得です。

 

 「3年……か。長かったような短かったような」

 

 そこまで言って、喉まででかかった次の言葉を胸の奥に封じ込めるように、提督さんは窓の外へ視線を移しました。

 先代の朝潮さんは、提督さんの初期艦であり秘書艦。さらに、婚約者だったんですものね。

 その朝潮さんの艦名を継ぐ子が現れたんですから、提督さんが思わず素を出してしまったとしても不思議ではありません。

 

 「八駆の子達、喜びますかね?」

 「どうだろうな。嫌うことはないだろうが、複雑だろう」

 

 自分のように、でしょうか。

 かつての姉の艤装を使う、別の子が来る。

 3年経ったとは言え、まだあの子たちの心の傷が癒えたとは思えません。

 大潮ちゃんは大潮型と揶揄される度に、「いやだなぁ大潮は朝潮型ですよ~」と、その場では笑っているけど、その目はなんともいえない悲しさを浮かべていますし、荒潮ちゃんは変な宗教にハマっちゃいました。

 一番酷いのは満潮ちゃんですね。

 あの子はあの一件以来、入渠恐怖症になっちゃいましたから。

 あ、そう言えば……。

 

 「嚮導は誰になさるおつもりですか?由良がやりましょうか?」

 「いや、満潮にやらせようと思っている」

 「満潮ちゃんにですか!?」

 

 提督さんの意外な人選に、思わず驚いて目を白黒させてしまいました。

 

 「提督さん、それ本気ですか?」

 

 何故なら満潮ちゃんは、横須賀鎮守府で近づきたくない艦娘No.1の座を、この3年間ほしいままにしているほど他人を寄せ付けないからです。

 訓練では無駄口一つ叩かずひたすらストイックにこなすんですが、それ以外の時間は姉妹艦、特に八駆の子以外とはまともに口も利かないし過ごそうともしないんです。

 

 「もちろん本気だ。どのみち八駆として行動していくことになるんだから、八駆の子達とは早めに打ち解けた方がいい」

 

 それはそうなんですが、それにしたっていきなり満潮ちゃんはハードルが高すぎます。

 

 「せめて、大潮ちゃんじゃダメなんですか?それか荒潮ちゃんでも」

 「教え方は大潮の方が上手いだろうが、満潮の方が良いと判断した。荒潮は……そもそも嚮導に向いていない。あの子は感覚だけで戦うタイプだからな」

 「でも、それでは……」

 

 朝潮ちゃんが潰されかねない。

 そう言いかけた自分に歯止めをかけるように、私は言葉を飲み込みました。

 

 「君の気持ちもわかる。が、心配する必要はない」

 「ですが」

 

 満潮ちゃんを貶める気はありません。

 ありませんが、普段の満潮ちゃんの態度を見ていると反対せずにはいられません。

 

 「私はな、八駆の子の中で一番苦しんだのは満潮だと思っているんだ。あの子はあの時、入渠していて出撃できなかったことを未だに悔やんでいる」

 「それは知っています。でもやっぱり……」

 

 一緒に戦う仲間に壁を作っているあの子に、任せて良いとは思えません。

 

 「あの日から今日までの、満潮の入渠の回数を知っているか?」

 「入渠ですか?いえ、入渠の手続き自体は由良がやっていますが、さすがに回数までは……あれ?」

    

 最後に満潮ちゃんの入渠の手続きをしたのっていつでしたっけ……。

 

 「12回だ。この3年でな」

 「3年で12回!?」

 

 そんなことあり得ません。

 戦場に出ればどこかしら負傷しますし、訓練でも怪我することがあります。

 あ、ちなみに。

 艤装の修理は整備員さんと妖精さんが行ってるとはいえ、艦娘本体、人間の部分は治療を受けなければなりません。入渠とは、この修理と治療を併せて入渠と呼びます。

 それが3年でたったの12回。

 常に鎮守府にいて訓練ぐらいしかしないと言うのならあり得なくもないですが、八駆は横須賀の駆逐艦で最高練度を誇り、三人とも改二改装を受けています。

 なので……。

 

 「八駆の出撃頻度って、かなり高かったですよね?」

 「当り前だ。私の直属と言っていい駆逐隊だぞ?大事な作戦には、必ずあの子たちを使う」

 

 ですよね。

 でも、それなら余計、その入渠回数は辻褄があわないような……。

 

 「満潮はこの3年間、回避技術を徹底的に磨き上げた。だが逃げ回るわけではないぞ?それだと駆逐隊として連携が取れないからな」

 

 駆逐隊としての連携を乱さずに敵の攻撃に当たらないようにする?どうやって?

 

 「この12回も大半はアイツ……いや、最初の数か月と、大規模作戦時に味方をかばってのものだ。それ以外であの子が被弾した回数は0。回避技術だけなら、全艦娘一かもしれんな」

 「そんな凄いことをしてたなんて、全然知りませんでした」

 

 凄いとは思いましたが、どうやっているかよりアイツって誰?という疑問の方が強いです。

 その、提督さんがアイツと呼ぶ人が、満潮ちゃんの入渠回数の大半の原因?

 その人っていったい……。

 

 「それにな、あの子は優しすぎるんだよ」

 「優しすぎる?満潮ちゃんがですか?」

 

 あ、話を流された。

 これでは、アイツとやらが誰なのか聴き返し辛いですね。

 それに信じられません。

 提督さんは普段の満潮ちゃんを見てないから、優しいなどと言えるのでは?

 

 「ああ、あの子は自分が死んだ時に、誰かが悲しまないようにワザと壁を作っているんだ。大切な人が死んだ時にどれだけ悲しいか、あの子は身をもって知っているからな」

 「だから、誰かの大切な人にならないようにしてるって事ですか?」

 「そういうことだ。ただまあ、さすがに大潮や荒潮、それに私の前では素が出てしまうがな」

 「大潮ちゃんや荒潮ちゃんはわかりますが、提督さんの前で素直な満潮ちゃんって想像できないんですけど」

 

 むしろ、満潮ちゃんの提督さんへの態度を見てると嫌われてるとしか思えません。

 だって、ぶっきらぼうを通り越して面倒臭そうにしてますもの。

 

 「人前だと取り付く島もない感じだが、たまに二人で飲む時は本音で話をしてくれるんだ」

 

 へぇ、満潮ちゃんって提督さんと飲んだりするのね、意外すぎる……ん?

 

 「あ、あの、ちょっといいですか?」

 「なんだ?」

 「満潮ちゃんにお酒を飲ませてるんですか?長いこと艦娘をやってるのは知ってますけど、まだ10代ですよね!?」

 

 それに二人っきりで飲酒だなんて……間違いとか起こしてないかしら。

 だって、提督さんはロリコンで有名なんです。

 その原因は恐らく先代朝潮。

 着任した当初は、普段は仏頂面で艦娘とも必要最低限の会話しかしない提督さんがどうしてロリコン扱いされているのかわかりませんでしたが、彼女と婚約したことが発覚してようやく理解した記憶があります。

 

 「飲ませるわけないだろう。それに、二人で飲むとは言っても鳳翔のところだ。君が心配するような事は起きんよ」

 

 ならよかった。憲兵さんに相談すべきか本気で悩んだわ。

 ですが、今度は提督さんが満潮ちゃんとどんな会話をしているのかが気になり始めました。

 だってこの人、今日は割と話している方ですが、いつもは秘書艦である私とでさえ、仕事に関する話しかしない人なんです。

 

 「話がそれてしまったな。先ほど言ったように、満潮から回避技術を習うのは朝潮にとって有意義だ。それに打ち解ける難易度が一番高いのも満潮。満潮と打ち解けられるなら他の誰とでも打ち解けられるだろう」

 「理屈はわかりますが……」

 

 それでも不安を拭うことができません。

 朝潮ちゃんが気に食わず、訓練に見せかけて沈めてしまうんじゃないかという妄想に近い恐れを抱いてしまいます。

 

 「まあ、なるようになるさ。さすがに、訓練中の事故死を装うこともないだろう」

 

 顔に出てたかしら?もしかして提督さんも同じこと考えてたんじゃない?は、まあいいか。

 それより、新しい朝潮は……。

 

 「いつ、配属されるんですか?」

 「皮肉なことに、3月3日だ」

 

 先代の朝潮が戦死した日ですね。

 同じ日に二代目の朝潮が着任予定。

 提督さんが言ったように、皮肉を感じずにはいられないですね。

 

 「由良、すまないが左近司中佐に伝言を頼んでいいか?」

 「はい、なんとお伝えすればよろしいでしょう」

 「『ハイエースを準備しておけ』これだけでいい」

 

 ハイエース?車の?なんだろう、すごく不吉な響きに聞こえるのですが……。

 

 「わかりました。お伝えしておきます」

 

 嫌な予感はしますが、伝言を頼まれれば伝えないわけにはいきません。ああそうだ。ついでに事務に渡す書類も持っていきましょう。

 

 「さて、どっちから行こう」

 

 私は一階の事務室に出す書類をもって執務室を後にして、どう動くべきか少し思案。

 提督補佐の一人である左近司 門戸中佐は、その容姿も相まって(主に顔)、艦娘たちから左門提督と呼ばれています。

 その中佐さんが居るのは、執務室のすぐ隣の第一提督補佐室。

 なので、まずは隣から行くのが正解なんですが……。

 あの人が部屋に居ることって稀なんですよね。

 この時間なら訓練の視察かな?

 中佐さんが携帯電話を持ち歩いてくれる人ならすぐに連絡がとれるんですが、あの人って「自分はハイテクと言うものが苦手でして……」とか言って持ち歩いてくれないんです。スマホがある今では、携帯電話はローテクなんだけどなぁ。

 まあそんな訳もあって、提督さんが中佐さんに伝言がある時は私が探し回る羽目になるんです。

 

 「あ、今日はドアに行き先が書いてある」

 

 いつだったかは忘れましたが、中佐さんが行き先も告げずにウロウロするのに腹を立てた私が、「部屋を空ける時はコレに行き先を書いてください!」って言いながら、ドアにホワイトボードを打ち付けたんです。

 それでも書いてくれる事は稀だったんですが、今日はちゃんと書いてますね。

 

 「え~っと何々?げ……」

 

 思わず「げ……」とか言っちゃいましたが、そう言いたくなるほど行き先が最悪です。

 具体的に言うと、鎮守府西側に広がる通称『倉庫街』と呼ばれている区画。

 その一角にある『奇兵隊』の詰所です。

 

 「最悪……。往復で一時間はかかるじゃない」

 

 いや、それは些細なこと。

 一時間のウォーキングは訓練と思えば苦ではありません。私が嫌なのは……。

 

 「あそこの人たち、控え目に言ってもチンピラばっかりなのよねぇ……」

 

 しかも、世紀末に生息してそうな感じのチンピラ。

 肩パッドは標準装備ですし、中には緑色のモヒカンの人までいます。

 たまに駆逐艦たちが遊び半分で倉庫街を探検するんですが、そんな駆逐艦たちでさえ近づかないくらい見た目がヤバイです。

 

 「女性隊員もいるそうだけど、由良は見たことないなぁ」

 

 などと愚痴りながらも事務課に書類を届け、倉庫街に向かい始めたものの気が重い。

 正直、行きたくないです。

 だって臭そうですもん。

 世紀末生物がたむろしてるあんな場所に行ったら、きっと臭いだけで妊娠しますよ。

 いやいや、最悪の場合は力尽く、かつ大勢でよってたかって薄い本的に……と考えたら。

 

 「中佐さんが戻ってくるのを待とうかしら……」

 

 と、口に出してしまうくらい怖じ気づいてしまいました。

 うん、そうしよう。

 工廠まで来ておいて今さらな気はしますが、今ならまだ間に合います。

 

 「ん?由良じゃないか。そんなところで何をしているんだ?」

 

 そうと決めたら急いで戻ろう。

 と、Uターンしたところで、工廠の艦娘治療施設。通称、『病院』と呼ばれている建物から出てきた人に呼び止められました。

 この声は……。

 

 「中佐さん!?どうして病院に!?」

 

 そう、くだんの中佐さんでした。

 提督さんと同じ白い士官服に、メガネを外した左門の顔が乗っているので間違いありません。

 あ、ちなみにこの人、顔はメガネをかけていない左門○作ですが、体は八頭身の痩せマッチョなんです。

 ええ、首から下は良い男だと思います。

 ですが顔がヤバイ。

 その体でどうしてその顔!?と、言いたくなるアンバランスな見た目のせいで、「左門提督がいるだけでシリアス感が吹き飛ぶ」と言われるほどなんです。

 

 「倉庫街からの帰りがてら、ついでに胃薬をもらいに寄ったんだが……何かあったのか?」

 「何かあったのか?じゃありませんよ!危うく由良は……由良は……」

 

 でも、今はありがたい。

 自分がした想像に恐怖していた私は中佐さんの体にしがみつき、あることないことぶちまけました。

 何て言ったかは言った私自身覚えていませんが、最後に「責任取ってください!」なんて言っちゃいました。

 

 「アイツらは見た目はあんなだが、艦娘に手を出すほど馬鹿じゃあ……」

 「じゃあ、中佐さんは由良が輪姦(まわ)されても良いって言うんですか!?」

 「良くはないが……いやいや、とにかく一度落ち着こう。な?用があって、自分を探してたんじゃないのか?」

 

 あ、そうでした。

 奇兵隊の詰所に行くのが嫌すぎてスッカリ忘れていましたが、私は元々、提督さんからの伝言を伝えるために中佐さんを探していたんでした。

 と、言うことで……。

 

 「ハイエース?自分は正に、その件で倉庫街に行ってたんだが……」

 「はぁ!?」

 

 伝言を伝えたら、予想外の反応が返ってきました。

 いや、え?ならどうして、提督さんは私に伝言を頼んだの?もしかして、中佐さんが気を利かせて言われる前に事を済ませたから行き違いになったのかしら。

 

 「ちなみに、言われたのは昨日だ」

 「昨日!?」

 「ああ、朝潮の配属が決まったから、迎えを用意しておいてくれと言われてね」

 

 ちょっと待って?

 新しい朝潮の配属が決まったのって今日。いや、知ったのは、雪代さんからの電話でじゃないの?

 ううん、よくよく考えればそれはおかしい。

 艦娘の配属先、及び配属日は大本営が決めます。

 だから、提督さんが新しい朝潮のことを知ったのは雪代さんからの電話よりも前。たぶん、中佐さんにハイエースの件を命じた昨日だわ。

 でも、だったらなぜ、提督さんは無駄でしかない伝言を私に言付けたんだろう?

 

 「一人に、なりたかったんだろうな」

 「一人に?提督さんがですか?」

 

 私が何に悩んでいるのか察してくれたらしく、庁舎の方を見ながら中佐さんが教えてくれました。

 

 「あの人は、不器用なんだ」

 「だから、一人に?」

 「ああ、あの人は仕事とプライベートを完全に別ける人だからね。きっと、朝潮の事を思い出して感傷に浸ってしまったんだろう」

 

 それで私を追い出した。と、いう事ですか。

 でもそれなら「一人にしてくれ」でも良いですし、遠回しなら「少し休憩してこい」でも良かったと思います。

 提督さんが、わざわざ二度手間でしかない伝言なんか頼まなければ、私も怖い思いをしなくて済んだんですから。

 

 「だから、君が戻ってこいと言われるまでお茶でもどうだ?今なら、奢ってやるぞ」

 「あら、それは由良をデートに誘ってるんですか?」

 「自分に誘われても君は嬉しくないだろ。無駄足を踏ませてしまった侘びだとでも思って、素直に奢られなさい」

 

 と、呆れながら言った中佐さんは、私を置いて庁舎の方に歩き始めました。

 まったく、この人は昔から変わりませんね。

 この人は、艦娘たちからは「存在がギャグ」とか、職員や海兵さんたちからは「提督の腰巾着」とか「太鼓持ち」と揶揄されている人。

 でも、私は知っています。

 この人は陰口など全く意に介さず、提督さんに忠誠を尽くす忠義の人であり、有事の際にはその身を平然と銃弾の前に晒す百戦錬磨の軍人です。

 私は、由良はそんなあなたの事が……。

 

 「どうした?奢らなくて良いのか?」

 「あ、今行きます!」

 

 おっと、危ない危ない。

 中佐さんが振り向いてくれたおかげで、気持ちを伝えたい衝動を抑える事ができました。

 それどころか、軽く笑っちゃいましたし。

 

 「何を笑ってるんだ?そんなに、自分の顔が面白かったか?」

 「いいえ?とぉ~っても素敵なお顔ですよ♪」

 「世辞はいいよ……」

 

 あ、中佐さんは自分の顔にコンプレックスがあったんでした。そんな中佐さんが「素敵なお顔」なんて言われても、お世辞か嫌味と受けとるのは当然。

 でも今さら、「やっぱりたいしたことないです」とか、「いつも通りの面白い顔です」などと言ったら今以上に傷つけちゃいますよね。

 だったら……。

 

 「いいから行きましょ?ね?由良、喉がカラカラですから!ね?ね!」

 「お、おい!引っ張るな!」

 

 私は中佐さんの左腕に組み付いて、強引に引っ張りました。

 ちょっと大胆すぎたかもと若干後悔しましたが、これで中佐さんが元気になるなら安いものです!

 と、思っていたのも次の日の朝まででした。

 ええ、この軽はずみな行動を心底後悔しましたよ。

 次の日の朝一で貼り出された壁新聞、『週刊 青葉見ちゃいました!』の号外を見るまでは。

 

 

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