艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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休みは欲しいが、日中はやることがない。
やることがないからと言って筆が進むわけでもなく……。


第七十一話 戦艦 武蔵

 

 

 

 

 お父さんと左門兄は鎮守府の頭脳。

 大規模と銘打たれる作戦を除いて、ここ横須賀鎮守府が行う作戦の全てはこの二人の悪巧み……もとい、二人が立案して手足である艦娘や奇兵隊に通達され、実行されるわ。

 ただし、今回は事情が異なるみたい。

 朝潮がサンマ漁のために出撃して留守にしている執務室で、二人がしている悪巧みは鎮守府なんて小さな単位で行うような規模の作戦じゃない気がする。

 

 「やはり、戦艦が足りんな」

 「はい。正規空母のほとんどを作戦に投入する関係上、本土及び各泊地の防衛に当てる軽空母の補助に、航空戦艦や航空巡洋艦は外すことができません。故に、その火力を補う必要がどうしても生じてしまいます」

 「作戦に投入できる戦艦が、長門と金剛型の四人だけでは少し不安だな。陸奥には鎮守府の防衛に当たってもらわなきゃならんし、やはり無理矢理にでも……」

 

 うん、やっぱり大規模作戦に関する悪巧みだわ。

 しかも、正規空母のほとんどを投入する規模の作戦なんて、私が知る限りじゃシーレーン奪還作戦くらいしかない。と、言うことは、最低でもアレと同規模の作戦ってことね。

 そんな作戦を、どうして大本営が考えずにお父さんたちが考えてるのかはわかんないけど、私も聞いちゃってて良いのかしら。

 

 「いっそ、米軍の戦艦をこっちに何人か回してもらえばどうですか?あっちは、アイオワ級とサウスダコタ級のほとんどを投入するのでしょう?」

 

 なんと豪華な。

 火力の数値だけで見れば、それだけでこっちの艦隊を全滅させれそうね。

 

 「あっちは、我々が相手にする敵の三倍近くを相手にしなければならない。要請したところで断られるさ」

 「ですが金剛型は、速力こそ優れていますが火力で長門に劣ります。艦隊を二つに分けなければならない以上、最低でも長門並みの火力の戦艦がもう一人は欲しいです」

 「それはわかっている。ところで、ワダツミの方はどうなっている?」

 「現在、艤装の最終段階であります。予定通り、12月の中頃に引き渡し予定ですと、先日連絡がありました」

 

 ワダツミ?

 会話の感じからして船かしら。

 しかも、鎮守府が運用するなら軍艦よね?でも、今の戦局で軍艦なんて役に立つの?

 

 「戦艦以外の準備は順調か……」

 「やはり、彼女を呼び戻すしかないと思います。最悪の場合、解体して艤装だけでも」

 「あの艤装の適合者が一年以上現れなかったことを考慮すると、それは彼女の返答次第だな」

 

 ふむ、二人の話から推察すると、目下最大の悩みは異動命令を無視してる戦艦ってところかしら。

 でも、航空戦艦以外で呼び戻さなきゃならない場所にいるような戦艦なんて……。

 あ、もしかしてアイツ?

 

 「と、言うことで頼んだぞ。神風」

 「いや、何の話?」

 「彼女と面識のあるお前が、現地に行って異動命令を受諾しろと交渉する話だ。言ってなかったか?」

 「一っ言も聞いてない」

 

 ええ、全く、一言も聞かされてないわ。

 これはお父さんの悪い癖。

 察しが良すぎる部下に恵まれているからか、お父さんは言ってないことを言ったと思い込んじゃう悪癖があるの。

 でもまあ、お父さんもその癖を自覚しているから、今の私みたいに聞いてない素振りをしたらちゃんと説明してくれるんだけどね……って言うか、さっきの会話で何をさせたいかわかっちゃった。 

 

 「タウイタウイ泊地にいる戦艦を連れ帰れば良いのね?」

 「そうだ。もし言うことを聞かないようなら、解体してもかまわん」

 「お父さんはそれで良いでしょうけど、大本営は納得するの?あの戦艦を一時でも失うリスクを、あそこの臆病者どもが受け入れるとは思えないわよ?」

 

 くだんの戦艦は、海軍が長門以上に欲した戦艦。その二番艦だったはず。

 海軍最強の火力を持つ戦艦を、タウイタウイなんて言う潜水艦くらいしか相手にしない泊地に配置するなんて馬鹿やらかした連中だけど、飼い殺しにするのと失うのとでは話が違う。

 もし解体したって知られたら、相応のリアクションをするはずよ。

 

 「それは私がどうにかする。だが、解体はあくまで最終手段だ。できれば、艦娘本人ごと連れ帰れ」

 「一度解体すると練度は1からだもんね。それに、訓練することも考えたら、そうするのが理想なのは理解できるわ。でも、慎重過ぎない?」

 「さっきも言ったが、あの戦艦は今の適合者が現れるまで建造から1年近くを要している。解体して艤装を持ち帰ったは良いが、扱える者がいなければ意味がないだろう?」

 

 なるほど。

 だから、本当に最後の手段な訳だ。

 詳しくは割愛するけど、駆逐艦のように艤装との適合試験を受ける者の母数が多い艦種と比べ、上位の艦種になればなるほど母数は減っていく。

 しかもその戦艦は、今の適合者が現れるまで一年かかったって前科持ち。

 そりゃあ、慎重にもなるわね。

 

 「一番艦が建造できていれば、話は違ったのでしょうが……」

 「できない物に文句を言っても詮無いだけだ。それとも左近司、オカルトに従って、呉の記念艦 大和を解体してみるか?」

 

 そう言えば、その大和が現存しているから、艦娘としての大和が建造できない。なんて、都市伝説みたいな説もあったわね。

 でもそれって、米国のアイオワも現存してるけど艦娘として建造出来てるから否定されたんじゃなかったっけ。

 

 「ご冗談を。アレは呉どころか、広島のシンボルですよ?そんなことをしたら、最低でも広島県民全てを敵に回してしまいます。それはそうと、タウイタウイには神風だけを?」

 「いや、万が一を考えて、長門と第八駆逐隊も同行させる」

 

 何の万が一?

 って、聞くまでもないか。

 それはアイツが命令を受諾せず、こちらに牙を剥いた場合に備えてでしょう。

 私と長門だけでもどうにかできるでしょうけど、八駆も加えたらまず負けないもんね。

 

 「神風。お前から見て、彼女はどうだった?」

 「どう、とは?」

 「使えるか。そうじゃないかだ」

 

 そんなの、連れ帰ってから判断すれば良いじゃない。

 とは言わない。

 実物を見る前に、事前に情報を得ておきたい気持ちはわかるしね。

 う~ん、どう説明しよう。

 確かに私は、あの戦艦と面識があるわ。でも、面識があるだけ。

 私はアイツが訓練してるとこなんて一度も見たことがないし、それどころか艤装を背負った姿すら見たことがない。だってアイツは日がな一日、基地の裏山の頂上にある慰霊碑でボケーっとしてるだけなんだもん。

 だから私には……。

 

 「使えるとは思えない。でも性能は折り紙つきなんでしょうから、固定砲台としてなら使えなくもない。って、感じかしら。って言うか……」

 

 そもそも、どうして大本営はアイツをタウイタウイに配置したんだろう。

 たまに水雷戦隊とかも出たけど、タウイタウイ周辺に出る敵は潜水艦がほとんど。

 そんな場所に戦艦を配置するなんて、当人からしたら左遷と同義だったでしょうに。

 

 「タウイタウイは、地図上で見れば各泊地の中間に位置するからな。所属が決まる前に、大本営の参謀共が強力な戦艦を遊撃手にするつもりで配置したのさ。低速戦艦なのにな」

 「アホだなぁ……。あのお爺ちゃんは反対しなかったの?」

 「勿論、反対はしたそうだ。だが、今の元帥殿は御輿に近い。反対はできても、止められるほどの権力は有していないんだ」

 

 ふぅん、あのお爺ちゃんってお飾りだったんだ。

 まあ、そりゃそうよね。

 だってあのお爺ちゃん、100歳を軽く超えてるって話だもん。

 きっと前任者が死ぬなり逃げるなりしたせいで、責任を取りたがらない責任者どもに担ぎ上げられちゃったんでしょう。

 

 「神風、武蔵があそこを離れたがらない理由に、心当たりはないか?」

 

 そう言われてもなぁ……。

 私は私で、駆逐古姫(アイツ)を追うので忙しかったし。あ、でも……。

 

 

 「そういえば、私は墓守だとか言ってた気がする」

 「墓守だと?」

 

 お父さんが訝しむのもわかるけど、確かにそう言ってたわ。

 誰の墓を守ってるのかまでは聞かなかったけど。

 

 「戦友でも亡くしたんでしょうか。彼女がタウイタウイに着任してから戦死した艦娘を調べてみますか?」

 「頼む。それと左近司、土産代わりに対潜装備を見繕っておいてくれ」

 「了解しました」

 

 はぁ……。

 またあそこに行かなきゃいけないのか。

 正直言うと、あの辺ってクソ暑いから行きたくないのよねぇ。しかもたしか、この時期は雨季だから雨ばっかりだったはずだし。

 あ、ちょっとした意趣返しも兼ねて、三式じゃなくて四式を持ってってやろうかしら。

 おっと、それよりも……。

 

 「足はどうするの?まさか、自走して行けとは言わないわよね?」

 

 あっちまで自走したら、何日かかるかわかったもんじゃない。最低でも船。もしくは二式大艇くらい使わせてもらわなきゃ。

 

 「ちゃんと考えているから安心しろ。左近司、先々週に八駆が護衛して来たタンカーの出港予定は?確か、メンテでドック入りしてただろう」

 「試運転はすでに完了していますから……。早ければ明後日には出港です」

 

 丁度いいじゃない。

 それに便乗させてもらいましょう。

 今のご時世で、艦娘を乗せるのを嫌がる船なんていやしないんだから。

 

 「船長と連絡を取って、便乗させてくれるよう頼んでみてくれ」

 「了解しました。護衛は二十七駆で?」

 「ああ、佐世保の方には私から言っておく」

 

 よし!

 これで足は確保した。あとは、海が荒れない事を祈るだけね。

 

 「ふと気になったのですが、朝潮と長門を一緒にして大丈夫ですか?」

 

 左門兄の指摘で、お父さんがその事を思い出したのか頭を抱えちゃった。

 良く考えたら、べつに長門じゃなくてむっちゃんでも良いわよね。

 むっちゃんが一緒なら、私も寝る時に困らないもの。

 

 「ねえ、お父さん。長門じゃないとダメな理由でもあるの?」

 「低速戦艦を高速化させられる事は……知らないよな」

 「うん。知らない」

 「長門と陸奥は、他の戦艦と比べて高速化が容易なんだ。高速化した長門型は、単純な速力だけなら駆逐艦に引けを取らない」

 「いや、それならやっぱり、むっちゃんでも良いよね?」

 「それが、陸奥は明日から五日ほど休暇だからそうもいかんのだ」

 「じゃあ、私がむっちゃんと交渉して休暇をズラして……ん?五日?」

 

 五日というのが、どうにも引っ掛かる。

 そう言えば、上位艦種や駆逐艦の一部は月に一回、最低でも三連休を必ず取ってるわね。

 私はまだ関係ないから気にしたことなかったけど、もしかしてむっちゃんは……。

 

 「生理なの?」

 「お前は……もう少しオブラートに包めんのか」

 「だって、生理は生理でしょ?何を恥ずかしがってんのよ」

 

 そう、上位艦種や発育が良い子はコレがあるの。

 でも、高が生理と侮るなかれ。

 重い軽いに関わらず、生理中は艤装との同調に若干の誤差が出る……らしいの。

 まあ、誤差って言っても練度が10下がるとかそれくらいなんだけど、一瞬の判断ミスやちょっとした艤装の不具合が死に直結するこの商売で、体調不良や練度の低下は艦娘にとっては大問題。

 だから、生理がある子は周期に合わせて休みが貰えるのよ。

 お父さんが駆逐艦を好むのも、これが最も大きな理由よ。

 あ、誤解しないでね?

 生理がないから、いくら生で夜戦(意味深)しても妊娠する心配がないからじゃなくて、使えない期間がない子が多く、速力と即応性に優れているから駆逐艦を重用してるの。

 

 「むっちゃんを連れて行けない理由はわかったわ。ならいっそ、朝潮を外せばいいんじゃない?あの子も秘書艦に戻れて喜ぶだろうし」

 「やはり、嫌がるか?」

 「お父さんの命令なら嫌とは言わないと思う。でも、今のあの子は私以上に強い。もし、長門が演習の時みたいなことをしたら……」

 「偶然を装って沈めるかもしれない……か?あの子に限ってそんなことは……」

 

 ないとは言いきれない。

 って、言いたそうな顔して黙り込んじゃったわね。

 でも私はむしろ、殺りかねないと思ってるわ。だってあの子、敵と認識した奴には容赦がないもの。

 

 「頼めないか?」

 

 縋るような目で私を見てきたけど、それは私に長門のストッパーになれってこと?

 べつに引き受けても良いんだけど……。

 

 「今の長門は、私でも止め切れるかわかんないわよ?アイツ、生意気にも戦舞台対策の技を編み出しちゃってるし」

 

 長門が朝潮との演習で見せた『畳返し』は、明らかに対戦舞台用。アレは魚雷への防御にも使えるし、不用意に近づけば体勢を崩される。

 全艦種中、最も艦力操作が下手だと言われている戦艦の身で、あんなに繊細な艦力操作を必要とする技を編み出した長門を、手放しで誉めたくなったくらい見事だったわ。

 

 「そうか。お前でも無理か……」

 

 いや、無理とまでは言ってない。

 そんな言われ方をしたら、温厚な私でもイラッとするからやめてくれない?

 

 「すまん。お前ならなんとかできると思ってたんだが、無理なら仕方ない」

 

 だから無理じゃない。もしかして挑発してるの?乗らないわよ?乗ってたまるもんですか。

 

 「まあ今の朝潮なら、沈めるなと言い含めておけば沈めずになんとかできるかもしれないしな。お前に無理をさせる必要もないか」

 「そこまで言われたら黙ってられないわ。いいわよ。やってやるわよ!朝潮なんかに、まだまだ負けたりしないんだから!」

 

 あ、乗っちゃった。

 お父さんの顔が、計画通りとでも聞こえてきそうな顔に変わったわ。

 そしてお父さんは……。

 

 「では、改めて命令する。長門と第八駆逐隊を率いてタウイタウイ泊地に赴き、戦艦 武蔵を連れ帰れ」

 

 と、挑発に乗ったことを後悔している私に言い放ったわ。

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