艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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大掃除も終わって大晦日に部屋で飲み明かすためのツマミの仕込みも終わったら……ガチでやること無くなった( ̄▽ ̄;)


題七十三話 これが、恋か……

 

 

 

 不味い。これは非常に不味い事態だ。

 窮奇様と饕餮(とうてつ)様が率いる艦隊に先行するついでに、目標の泊地を偵察しようと思ったのが悪かった。

 いや、それ自体は悪くないし、偵察も上手くいった。

 むしろ、三日も予定外の足止めを食ったおかげで、偵察が上手くいったと言って良い。

 その結果を聞けば窮奇様は上機嫌になられるだろうが、問題は饕餮様だ。

 彼女は、やることは大雑把だが時間に煩い。

 きっと、三日間も何をしていたのかと質問責めにされるだろう。

 それを思うと……。

 

 「()()()()に興味さえ持たなければ……」

 

 と、どうしても後悔してしまう。

 だが、面白かったのだ。

 偵察に向かう途中に遭遇した船を沈めたまでは良かったんだが、その破片に乗って漂っていた人間の幼体に興味が湧いた。

 正確には、あの幼体がした命乞いが面白かった。

 あの幼体は私を姉と呼び、私が元々は人間だったとまで言った。

 だが、そんな事実はない。

 私は建造された時からこの姿で、人間だったことなど一度もない。

 故にその幼体が、自分の命可愛さに嘘をついているのだとすぐにわかった。

 わかったのに……。

 

 「結局、三日も面倒を見てしまった」

 

 人間の泊地跡まで連れて行き、食事を与え、無線で救助まで呼んでやった。

 その間も、私に殺されまいとする幼体は嘘をつき続けた。私も面白くなったので乗ってやった。

 もっとも、その経験が役立つことがあるとは思えないが……。

 

 「命乞いにも、色々とやり方があるんだと勉強になったな……じゃない。今はどうやって、饕餮様の質問責めから逃れるかを考えなければ」

 

 パッと思い付く限りで言えば、饕餮様に捕まる前に窮奇様に偵察の報告をして味方になってもらうことくらいか。

 

 「容姿は変わっていたが、奴はおそらくアサシオ。アサシオがあそこにいると知れば、窮奇様の機嫌は間違いなく良くなる」

 

 問題はそこから。

 機嫌が良くなったからと言って、窮奇様が私の味方をしてくれるとは限らないのが一番の問題だ。

 だが、希望はある。

 何故なら、窮奇様と饕餮様は犬猿の仲なのだ。

 どうして仲が悪いのかは知らないが、おそらく饕餮様の、常に他の艦種を見下しているような態度が気に入らないんだと思われる。

 それに加えて……。

 

 「戦艦と空母だから反りが合わない。と、言ったところか」

 

 たしか窮奇様は、人間どもが呼ぶところの戦艦棲姫。饕餮様は空母棲姫と呼ばれていたか。

 安直なネーミングじゃないか?と思ったこともあるが、それは今どうでも良い。

 とにかく仲が悪いおかげで、機嫌の良い窮奇様の横で私が饕餮様に責められれば、その物言いに気分を害された窮奇様が助けてくれるかもしれないと言う希望が生まれる。

 要は……。

 

 「窮奇様次第。機嫌を取るためにも、アサシオのことを重点的に報告しよう。もちろん……」

 

 他の艦娘のことも忘れずに。

 特に、北方の聖地を攻めた主力艦隊に居た赤い駆逐艦と、黒い戦艦も含まれていたことは絶対に伝えないと。

 まあ戦力的には、こちらの艦隊は四凶のお二方と私を除いても、この地で集めた水雷戦隊と潜水艦隊が二つづつに、饕餮様旗下の空母が2隻。

 天候によっては空母は当てにできないが、確認されている敵基地の戦力と加わった戦力を考えても余裕はある。

 

 「ん?待てよ?アサシオが来ていると知れば、窮奇様が暴走しかねないな」

 

 いや、間違いなく、アサシオが来ていると知れば艦隊を放り出して向かってしまわれるだろう。

 黙っていたところで、基地への攻撃を開始して奴が出て来れば同じだ。

 

 「ならば、最初から艦隊を分けるしかない……か」

 

 窮奇様はアサシオとの逢瀬だったか、それを叶えるためにも別行動してもらおう。

 

 「饕餮様に艦隊を率いて基地正面から侵攻してもらい、側面から私と窮奇様が……いや、饕餮様も窮奇様と同じで、ご自身の力しか当てにしない。どうしてもお二方の手綱を握りつつ、艦隊を指揮する者が必要だ」

 

 故に、私は艦隊を離れられない。

 せめて敵側に、私と似たような考え方をする艦娘がいれば話は別なのだ……。

 

 「いたな。たしか、あの駆逐艦もいた」

 

 艦名は知らないが、あの時あの駆逐艦だけが、状況に対応していたように見えた。

 それに、奴は私と同じ艤装の使い方をしていた。

 

 「分が悪いか?いや……」

 

 何故か、奴なら気付いてくれそうな気がしている。

 奴なら、私が来ていると知っただけで私の作戦を看破し、対抗策を練って実行してくれると、確証のない確信がある。

 

 「味方よりも敵の方を信じるとは……。なんともおかしな話だが……」

 

 そうと決めた私は、スコールがやむのを見計らって敵の警戒用の機械の前に姿を晒した。

 基地からも、小型の飛行体が何機か上がったな。

 

 「さて、これだけ姿を晒せば十分だろう」

 

 侵攻するわけでもなく、ただ波間に揺られている私の行動は、人間の目からは奇異に映ることだろう。

 だが、それで良い。

 それで奴は気付く。

 私が来ていることを知れば、奴なら私が誰と一緒に来ているか、何かを企んでいるんじゃないかと考えるはず。

 そうすれば、必ずアサシオを窮奇様に差し向ける。

 撃破ではなく、足止めさせるために。

 

 「期待しているぞ、駆逐艦」

 

 さて、種は蒔いたことだし、そろそろ合流場所に向かおう。あんまりグズグズしていると、敵基地から艦娘が出てきかねないからな。

 

 「そう言えば、どうして窮奇様はアサシオにご執心なんだろうか」

 

 数年前に、片腕を吹き飛ばされたからか?

 だが艦娘が私達と違って粉々になっても再生出来ると言うのなら話は別だが、あの時のアサシオと今のアサシオは別人のはずだ。

 

 「愛してる……」

 

 窮奇様がアサシオへ向けて放った謎の言葉。

 渾沌様の恋のように、今の私には理解できない概念なのだろう。

 なにせ、四凶の位をお持ちになる上位種の方々は、人間共と近い物の考え方をされるからな。

 

 「私も、いつかは……」

 

 愛だの恋だのという感情を、得られるのだろうか。

 と、物思いに耽りながら航行していたら、四凶のお二方が艦隊と共に待機している島が見えてきた。

 空にこびりつくように残っていた雲も晴れて、星空が見えている。

 

 「……ようやく来たか」

 

 浜に上がると、窮奇様が砂浜を歩いているところに遭遇した。

 艤装は着けず、どこで手に入れたのかは不明だが、いつもより露出度の高い服装……確か、人間共が水着と呼んでいるものを身に付けている。

 黒の薄布二枚で、こうも窮奇様の艶めかしくも美しい肢体を際立たせるとは、人間の作る物もなかなか侮れないな。

 月明りと星に照らされた海辺を優雅に歩くその姿はまさに美の化身。

 アサシオに奪われた左腕が痛々しいが、欠けている事で逆に儚さが加わり、美しさに磨きをかけているようにも感じる。

 さらに、改装されたことで左だけになった額の角も、減ったことで逆に雄々しく勇ましく感じる。

 

 「なんだジロジロ見おって、気色の悪い」

 

 不快だとばかりに、窮奇様に睨まれてしまった。

 いかん、窮奇様のご機嫌を取らなければいけないのに、いきなり不興を買ってしまった。

 

 「申し訳ございません。窮奇様があまりにお美しかったもので……。その、つい」

 「貴様に褒められても嬉しくない。それより、貴様の事だから敵基地の偵察なりしてきたのだろう?さっさと報告しろ」

 「い、今なんと?」

 「聞こえなかったのか?偵察の報告を……」

 「いえ、そこは聞こえました。ええ、それはもうバッチリと。その前がちょっと……」

 「貴様に誉められても……」

 「そのあとです!そのあとをもう一度言って頂けないでしょうか!言ってくだされば、窮奇様がお喜びになる報告ができそうです!」

 「そのあと?何か言ったか?」

 「ほ、ほら、貴様の……とかなんとか」

 「貴様の事だから。か?」

 「そう!それです!」

 

 これは何と言う不意打ち!いや、ご褒美と言っても過言ではないお誉めの言葉!

 まさか窮奇様が、貴様の事だからとおっしゃるほど私の事を理解してくださっているとは夢にも思わなかった!

 今の私の気分を言葉にするなら、人間の言うカミとやらに祈りを捧げたいような気分だ。

 いや、捧げよう!

 最近憶えた、いんぐりっしゅとやらで!

 

 「Oh! My God!」

 「何を言っているのかわからんが、私が喜ぶ報告とやらを早くしろ」

 「承知しました!簡潔に言いますと、目標がいる敵基地にはアサシオがいます!」

 「それは、本当か?」

 「はい!間違いありません!」

 

 よし!

 目尻が下がり、頬が弛んでいる様子を見るに、やはり喜んでくれている。

 ここで窮奇様とアサシオの逢瀬を実現するための作戦を具申して、さらに喜んで頂こう。

 

 「お二人の逢瀬を実現するための作戦があるのですが、意見具申してもよろしいですか?」

 「ええ、許すわ。言ってみなさい」

 

 再度、よし!

 表情どころか口調も変わった。

 これは窮奇様が、渾沌様と同じ乙女モードになった証拠。あとは饕餮様に見つかる前に、窮奇様に作戦を提案するだけで味方についてくれるはず……。

 

 「面白そうな話をしているわね。私も交ぜてもらえるかしら?」

 

 だった。だったのに!

 窮奇様を味方につける前に饕餮様が来てしまった!

 いや、来ただけなら良い。

 良くはないが、それだけならまだ良かった。

 すでに怒ってるじゃないか!

 そりゃあ、三日も待たせてしまったんだから怒るのは当然だと思うし申し訳ないとも思ってるが、私のような下位の者が遅れたからと言って、額に青筋まで浮かべて髪も天を突く炎のような勢いで揺らめかせるほど怒らなくても良いのでは!?

 

 「おい、鼬は今から私と話があるんだ。後方で芋ることしかしない空母は黙っていろ」

 「まるで臆病者とでも言われているような気がするけど、芋るとはどういう意味かしら?だいたい、それを言うなら、下位艦種を隠れ蓑にしてチクチクと当たりもしない豆鉄砲を撃つだけの戦艦も同じじゃない?」

 

 ああ!窮奇様!

 鼬は信じてました。必ず助けてくれると信じてました!

 いや待て。

 冷静になるんだ私。

 今の状況は違う意味で不味い。

 もし二人が本格的に喧嘩を始めれば、艤装を持ち出してどちらかが沈むまでやりかねない。

 こうなったら、私が泥を被るしかないな……。

 

 「お二方に提案があります!」

 「煩いぞ鼬。今は、この腐れ空母を沈めるのが先だ」

 「それはこっちのセリフよ糞戦艦。火の塊にしてあげるから、さっさと海に出なさい」

 「いえ、ですからその勝負方法について、提案させて頂きたいのです」

 

 黙らない私を、お二方が「コイツから沈めるか」と言っているような目で睨んでいるが怯むな。

 さらに、言葉選びは慎重に。

 

 「今回の作戦の目標は、敵基地に潜む未確認の戦艦です。なので、どちらが先にその戦艦を沈めるかで勝敗を決したらいかがでしょう」

 「そんな回りくどいことをしなくても、腐れ空母との決着などここで付ければ良い」

 

 よし。

 予想通りの答えが返ってきた。

 窮奇様がそう言えば、逆のことを言いたがる饕餮様は……。

 

 「あら?糞戦艦は臆病風に吹かれたのかしら?それとも、同じ戦艦を沈めるのに抵抗でもあるの?」

 「あるわけがないだろう。馬鹿かお前は」

 

 こうなる。

 お二方の対抗心の矛先が、上手く敵戦艦に向いてくれたならあとは……。

 

 「侵攻方向も別けた方が良いと思います。窮奇様は東から、饕餮様は南からでどうですか?」

 「そうね。臆病な戦艦は、側面からペチペチと砲撃するのがお似合いだわ」

 「お言葉ですが、敵が南に本隊を差し向けるとは断じれません。敵の出方次第では、饕餮様が側面から侵攻することも有り得ます」

 「ふん、そんなこともわからんとは、さすがは腐れ空母だな」

 「なんだと?」

 

 おっと、少しヒートアップさせ過ぎたか?

 煽り方をもう少し調整しないと。

 

 「どちらの有利不利にもならないよう、潜水艦隊を西から、私が水上艦隊を率いて南東から侵攻します。そうすれば、戦艦を含む敵はこちらに本隊を向かわせるでしょう」

 「貴様が敵本隊と交戦している内に、最後尾付近にいるであろう戦艦を叩けば良いのだな?」

 「その通りです窮奇様。私が敵本隊を釣り上げたら、お二方の勝負の始まり。勝った方が、負けた方を従属させる権利を得る。などを、報酬にしたらいかがでしょう」

 

 これで納得して矛を収めてくれるか?

 くれるようだな。

 窮奇様は何か考えているようだが、饕餮様は自分に都合の良い想像をしているのか、ニヤニヤしている。

 

 「フフフ♪作戦が楽しみだわ。私の奴隷にしてあげるから、覚悟しておきなさい糞戦艦」

 「そのセリフ、そっくりそのまま返すぞ腐れ空母。貴様こそ、首を洗って待っていろ」

 

 言い返した窮奇様を嘲笑いながら、饕餮様は夜の闇に消えていった。

 これで邪魔者は去った。

 あとは窮奇様に、アサシオとの逢瀬を迎える作戦を伝えるだけだ。

 

 「申し訳ありませんでした。話が逸れてしまいましたが、先ほどの話の続きをしてもよろしいですか?」

 「許す。私は何をすれば良い?」

 「私が敵本隊と交戦を始める前に、敵基地に向けて砲撃してください。そうすれば、アサシオは窮奇様の元に赴くでしょう」

 「別動隊と一緒に来る可能性は?」

 「ありません。偵察ついでに、そうなるよう種を蒔いておきましたから」

 

 あの駆逐艦なら、きっと私の考えを読んでくれる。

 故に、窮奇様とアサシオの逢瀬は達成される。

 そうなれば、窮奇様の喜ぶ顔が見れる。

 そう思うと、なぜか胸の辺りがドクドクと脈打ち始めた。体も震えてきた気がする。

 これは、渾沌様が提督を想う時になるとおっしゃられた症状と似ているな。

 と、言うことは……。

 

 「そうか。これが、恋か……」

 

 今、ようやく理解した。

 私は窮奇様に恋している。

 それを自覚した途端に、窮奇様のために身を粉にして働き、味方さえ欺いて、窮奇様の役に立ちたい。

 私を見てほしい。誉めてほしい。

 といった想いが、一層強くなった。

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