艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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やることが無さすぎて情緒不安定……(;´д`)
仕事したい……。


第七十四話 今すぐに行く!

 

 

 

 私と神風が朝潮達と別れて泊地の執務室へ……執務室と言っていいのか?コレは。横須賀鎮守府の執務室と違って簡素と言うか、それとも事務的と言えばいいのか。

 とにかく、執務室と言うよりは事務所……いや詰め所と呼ぶ方が適切なんじゃないか?と、言いたくなるような部屋だ。

 ちなみにどんな感じかと言うと、入口のドアから入ってすぐに長机が縦に二列置かれ、パイプ椅子が両脇に計10脚。

 両壁にはロッカーや書類棚。もちろん、事務所に置かれているような簡素な物だ。

 さらにその奥に、ドアと対面するように事務机が置かれている。

 

 「お、来たなお嬢。大佐から話は聞いてるぞ」

 

 一番奥の事務机に座り、扇風機に当たっていた60から70歳くらいの男性……確か、史実と違って太平洋戦争で沈んだ設定にされた大和を、宇宙戦艦に改造して宇宙の果てを目指すアニメに出てきた艦長の口を悪くしたような人が、私たちを見るなりそう言ってきた。

 大佐とは提督のことだろうか。

 ならばお嬢とは……。

 

 「お父……じゃない。先生は大佐じゃなくて中将よ。いつになったら憶えるのよ艦長」

 

 やはり神風の事だったか。

 だが、艦長とはどういう事だ?彼は泊地の司令ではないのか?

 

 「相変わらず、体と同じくらい小さい事を言うなお嬢は。しかし、泥まみれで戦場を這いずり回ってた大佐が中将様とは……出世したねぇ」

 

 この口ぶりだと、提督が陸軍に居た時からの知り合いか。だが、艦長と言うのがわからない。

 『艦』長と言うくらいだから、元々は護衛艦の艦長でもしていたのだろうか。

 

 「そっちのベッピンさんは長門かい?うちの能代が霞んじまうくらい、良い体してるじゃねぇか」

 「ダメよ艦長。コイツ女にしか興味ないし、それに筋肉バカだからきっと硬いわよ」

 

 待て神風。

 その言い方では誤解を生んでしまう。

 私は女は女でも小女にしか興味がないんだ。もっと具体的に言うなら駆逐艦!さらに個人で言えば朝潮だ!

 それと、私はそこまで硬くはないぞ?訓練を怠っている艦娘に比べて比較的筋肉がついているだけで、けっして硬くはない。

 ないが……。

 

 「それはともかく。神風、艦長と呼んでいるが、この方は司令ではないのか?」

 「合ってるわよ?この爺さんがここの司令官」

 

 爺さんってお前……。

 昔なら上官侮辱罪で銃殺にされても文句言えんくらいの暴言だぞ。

 

 「お嬢や大佐……じゃない、暮石提督とはワシが護衛艦の艦長だった頃からの知り合いでな。乗ってた艦が大破着底して、さらに救助された先の基地が空襲されて死にかけてたところを拾われちまってからの腐れ縁だ」

 

 だから艦長か。

 当時の海軍は深海棲艦にやられたい放題だったと聞いた事はあるが……。

 

 「今は落ち着いてるけど、昔は暇さえあれば自決しようとして大変だったのよ?あんまり言う事聞かないから、自決しようとするたびに殴って気絶させてたわ」

 「そりゃあ、艦長ってのは自分の艦と運命を共にするもんだからな。艦と部下を失ってまで生き恥を晒すなんざ、当時のワシにゃ出来んかった」

 

 それがどうして、泊地の司令官に?

 妖精が見えるからと言う理由もあるんだろうが、司令官をしていると言う事は、少なくとも自決は思い直したんだよな?

 

 「先生に説得されちゃったのよねぇ。死ぬ覚悟があるなら今は死ぬな。俺が死に場所を用意してやる。って言われて」

 「懐かしいねぇ……。そう言われて死ぬのを思いとどまって早10年近く。ワシはいつまで、生き恥を晒し続ければいいのか」

 

 その言いようだと、死ぬこと自体は諦めていないのか。

 気持ちはわからないでもないが、理解はしきれないな。

 

 「その先生から手紙を預かってるわ。約束通り死に場所を用意した。だそうよ」

 

 神風が神妙な面持ちで懐から封筒を取り出すと、艦長は手を震わせて、死ねと言われているとは思えないほど嬉しそうな顔でそれを両手で受け取った。

 

 「すまねぇが、先に読んじまってもいいかい?」

 「ええ」

 

 艦長が神風の返事とともに封筒を開け、中身を取り出して読み進めるにつれて、厳つい顔が見る見るほころんでいく。

 いったい、手紙には何と書いてあるんだ?

 

 「く、くくくく……。くはーはっはっはっはっは!何が死に場所だ!これじゃあ死ねねぇじゃねぇか!」

 

 読み終わるなり、艦長は左手を額に当てて豪快に笑

い始めた。

 期待を裏切られたにしては嬉しそうだな。眼尻に涙まで浮かべているじゃないか。

 

 「嬉しそうね艦長。そんなに良い事が書いてあったの?」

 「ああ、あの若造。俺に死に場所どころか生き場所をくれやがった。死ぬに死ねなくなっちまったよ」

 「そう、よかった」

 

 神風も、どことなく嬉しそう……いや、安心したという感じか。

 あの様子だと、手紙の内容までは知らなかったのか。

 

 「お嬢、ワシに()()()()()()()()を寄越したってこたぁ、奇兵隊を全員招集するつもりなのか?」

 「そこまでは聞いてないわ。でも、左門兄とはコソコソと何かやってるみたいよ?」

 「今、鎮守府にいるのは?」

 「艦長が知ってる顔に限定すると、飛車角コンビと『女斬(めぎ)り』。あとは『店長』と左門兄くらいね」

 「くくくく……、それにワシと『DJ』が加わりゃあ、初期メンバーが勢ぞろいじゃねぇか。昔を思い出すねぇ、また竹槍持って突っ込めとか言い出さねぇだろうな?」

 

 いやいや、それは冗談で言ってるんだよな?深海棲艦相手に竹槍で突撃していたとでも言うのか?

 正気の沙汰じゃないどころか狂ってるぞ!?

 

 「さすがに無いんじゃない?銃剣くらいは持たせてくれると思うわよ」

 「まあ、()()()()を用意してるくらいだからな。あの頃と比べたら温いにも程がある」

 「じゃあ、艦長が満足したところで本題に入るわね。私もまだ詳細は知らないけど、近々大きな作戦があるんだと思う。そのために、武蔵が必要みたい」

 「なるほどねぇ。ワシにまで声をかけるってこたぁ、少なくとも7年前並みの作戦。もしくはそれ以上……。たしかに、アイツをここで遊ばせとくわけにゃいかねぇな」

 

 7年前と言えばシーレーン奪還作戦か。

 あの規模の作戦の準備にしては、準備期間が短すぎないだろうか……。それとも、ずっと以前から準備は始まっていたのか?

 

 「そんな言い方すると、他の艦娘が拗ねるわよ?」

 「うちの娘どもはこんくらいじゃ拗ねたりしねぇさ。能代も、ワシの性格は知ってるしな」

 

 さっきから出て来る能代とやらがここの秘書艦か?

 私の駆逐艦ファイルにその名前はないから、おそらく軽巡以上だろう。

 

 「その武蔵だけど、ここを離れる前に武蔵本人から自分は墓守だと聞いたわ。誰のお墓を守っているの?」

 「ああ、お嬢達が来る前にも、左門からその件について確認の電話があった」

 「で、わかったの?」

 「わかったと言うか知っていたと言うか……。武蔵がここに着任してから戦死した艦娘は一人だけだ。奴が墓守をしてるって言ったんなら、間違いなくその子の墓だろう。墓と言っても、慰霊碑だがな」

 「その艦娘の名は?」

 

 神風の追及に、艦長が名前を言うのを躊躇っているかのように黙り込んでしまった。

 彼にとっても辛い思い出なのか……。

 

 「夕雲型駆逐艦、その十九番艦。清霜だ」

 

 艦長が意を決して口にした艦娘の名を私たちが聞いてから約一時間。私と神風は、基地の裏手から伸びる山道を黙々と登っていた。

 どうしてこうなった感が凄い。

 

 「艤装を背負って来てよかったわね。虫が多すぎ」

 

 私は艤装を背負って山登りする羽目になるとは思わなかったよ。

 だがまあ、山頂までは緩やかな一本道だが、艤装を背負ったままだから楽な道のりだ。

 その気になれば走って登ることも可能だが、せっかくなので神風の愚痴を聴きながら異国の山道を堪能するとしよう。

 

 「あ、でも意外だったわ。長門の事だから、貴様!駆逐艦を戦死させたのかー!って、艦長に掴みかかると思ってたのに」 

 

 それを言ったら、私は提督に何度掴みかからねばならないかわからないぞ?

 今居る各地の提督や泊地の司令官で、艦娘を戦死させたことがない者など皆無なのだからな。

 

 「たしかに駆逐艦を死なせたのは許しがたいが、あの人は無能と言うわけではあるまい?その彼が戦死させてしまったと言うのなら、それ相応の理由があったはずだ」

 

 怒るのはその理由を知ってからでも遅くはない。

 戦争をしているのだから、その先兵である艦娘の死は逃れることができないのだ。

 特に装甲が薄く、海域をほぼ選ばず運用できて、オマケに血の気が多い駆逐艦ならなおさら……。

 

 「あ、頂上が見えて来たわね。あとひと踏ん張りよ」

 

 それが、艦長が教えてくれた武蔵の居場所。

 この泊地で戦死した艦娘の慰霊碑がある場所だな。

 晴れの日は必ず行っているとも言っていた。

 今日はスコールが多かったから、今の晴間を利用して行っているかもしれないとの事だった。

 

 「何度見ても、この辺りの星空は凄いわね。久ぶりだけど、やっぱり良いものだわ」

 

 神風の視線を追って空を見上げた私は、思わず息を呑んでしまった。日本の星空など比較にならない美しさだ。今にも落ちて来そうなほど、爛々と星が輝いている。

 

 「誰だ騒がしい。ここは騒いでいいような場所ではないぞ」

 

 私たちの正面に建てられた高さ二メートルほどの慰霊碑の向こう側から、気だるげだが威嚇するような声が聞こえて来た。

 その物言いが気にくわなかったのか、神風の額に青筋が浮いたな。

 

 「久しぶりね武蔵。私の事、覚えてる?」

 

 それでも命令を優先した神風が親しげに話しかけると、慰霊碑の陰からノソリと大柄な女性が姿を現した……のは良いが、褐色肌に銀髪、ツインテールにツリ目に眼鏡だと?なんだこの属性てんこ盛り女は。胸などサラシを巻いてるだけではないか。

 街中で見たら完全に痴女だぞ。

 

 「ああ、たしか……。鴨風……だったか?」

 「神風よ!何よ鴨って!ネギでも背負って来いっての!?」

 「ああそうだ。神風だ神風……。何をしに来た?暇なのか?」

 

 うん、マズい。

 会話を重ねるごとに、神風の怒りのボルテージが上がっている。

 ならばここは……。

 

 「貴様を迎えに来たんだ武蔵。私達と一緒に、内地に帰ってもらうぞ」

 

 憤慨している神風を左手で制して、代わりに私が答えた。

 このような腑抜けた奴が私より性能が上の戦艦とは認めたくはないが、こちらも命令で来ている以上は意地でも連れ帰らなくてはならない。

 なので、怒りっぽい神風より私が相手をした方が……。

 

 「誰だ?そのコスプレイヤーは」

 

 それを言ったら艦娘のほとんどはコスプレイヤーだ!それに、お前も人の事は言えないだろう!

 と、言いたいがここで怒ってはいけない。

 私は神風と違って冷静沈着なのだ。ここは戦艦の先輩として、威厳のある態度で接しよう。

 

 「貴様の先輩に当たる長門だ。名前くらいは、聞いた事があるだろう?」

 「あ~知っている……。たしか、駆逐艦より弱い戦艦だろ?」

 

 くっくっくと、挑発するように武蔵が笑った。

 たしかに私は神風に勝ったことがないし、演習とは言え朝潮にも負けた。

 だが、この二人は駆逐艦でも規格外の技術を習得している。この二人に負けた事を私は恥じるどころか、誇りにすら思っているのだ。

 貴様のように、惰眠を貪っている戦艦に笑われる筋合いはない。

 

 「確かに、私は駆逐艦より弱いさ。だが、貴様はその私より弱そうに見えるが?」

 

 目が一瞬吊り上がったのを見るに、挑発に弱そうだな。

 だが、今のは挑発ではなく事実だ。

 私は貴様に負ける気がまったくしない。

 勘だけでそう思っているわけではない。

 貴様の体からは、訓練をしてきた様子が一切見えない。神風の言う通り、本当に惰眠を貪っていたようだ。

 

 「ふん、そうだ。私は弱いさ。だから、あまりイジメないでくれ先輩。弱い私は、睨まれただけで泣いてしまいそうだ」

 

 隣の神風から、飛び掛かるのを必死で我慢しているような気配を感じた。

 開き直った武蔵の態度が、神風は気に食わないんだろう。

 

 「長門、悪いけど先に帰るわ。コイツがここまで腑抜けだとは、さすがに思ってなかった。解体して艤装だけ持ち帰った方がいいわ」

 

 腑抜けね。

 確かに、見ただけでわかるほど堕落し切っている。

 私でさえ、説得はやめて艤装だけ持ち帰ろうと考えたくらいだ。

 だが……。

 

 「わかった。私はもう少し、この後輩と話をして帰るよ」

 

 私がそう言うより早く、神風がドスドスと山道を降りて行っていた。

 手を出さなかったのが不思議なくらいだな。一応は、命令を遂行するつもりがあると言う事か。

 

 「で?私にまだなにかあるのか先輩。私にはないのだが……」

 「貴様の返事をまだ聞いていない。私達と一緒に、内地に戻る気はあるか?」

 「ない。私はここに居続ける」

 

 さっきまでの気だるさが、何処かへ吹き飛んでしまったかのようにハッキリと答えたな。

 もっとも、素直に「はい」と答えるとは思ってはいなかったが。

 

 「そうか、わかった」

 

 だったらこれ以上話すことはないとばかりに、私は踵を返して山道に向かって歩き始めた。

 武蔵がどんな奴なのかはだいたいわかった。清霜と武蔵の関係も、ある程度は想像がついた。

 ならば、ここでの問答は時間の無駄だ。

 

 「待て先輩。意外とアッサリ引き下がるんだな」

 「……説得して欲しいのか?」

 

 私は顔だけ振り返り、武蔵にそう言い返した。

 だが、武蔵の表情に変化はない。

 説得して欲しそうにはとても見えない。

 いやそもそも、コイツの行動は矛盾だらけだ。

 艦娘ではなく一般職員として残れば、内地へ呼び戻される事もない。

 戦果を一切あげてなくても、元戦艦ならある程度は勤務地の希望も通るはずなのにだ。 

 それなのになぜ、武蔵は艦娘を続けている?

 考えるまでもないな。

 おそらく武蔵は、ここを離れたくはない。だが、このままで良いとも思っていないんだろう。

 ならば腹芸は得意ではないが、コイツをもっとよく知るために少し揺さぶってみるとしよう。

 

 「今の貴様を見続けねばならない清霜が哀れでならないな。貴様はいつまで、清霜を裏切り続けるつもりだ?」

 「な!?お前がなぜ清霜の事を……!」

 

 表情に明らかすぎる動揺。

 貴様がここを離れたくない理由が、清霜であることは明らかになったな。

 

 「心配するな。貴様と清霜の関係など欠片も知らん。貴様が着任してから戦死したのが清霜だと言う事しか、私は知らない」

 「ならばなぜ、そんな知った風な口を叩く!お前に清霜の何がわかる!」

 

 おっと、今にも殴りかかって来そうだ。

 別に殴り合いをするのは構わないが、私は艤装を背負っている。艤装なしの貴様では勝ち目はないぞ?

 

 「私には、清霜が何を思っていたのかはわからない。だがな武蔵。貴様が清霜の事を憎からず思っていたことは、今の反応でわかった」

 「ち、違う!私はきよ……駆逐艦など嫌いだ!私の都合などお構いなしに纏わりついて来る駆逐艦など、私は……」

 

 貴様は嘘をつくのが下手だな。

 今ので、清霜が貴様をどう思っていたのかもわかった。もう少し踏み込んでみるか。

 

 「清霜は、貴様に憧れていたのではないか?そしてこれは私の想像でしかないが、清霜は貴様を庇って……」

 「言うな!」

 

 私の言葉を武蔵が遮った。

 どうやら、私の想像は当たりらしい。

 そして、貴様がここに艦娘として居続けたい理由にも察しがついた。

 

 「武蔵、貴様はなぜ今も、艦娘を続けている?」

 「そ、それは……解体の許可が下りないから……」

 「解体の許可が下りないから?笑わせるなよ武蔵。横須賀からの異動命令を散々無視していた貴様が、解体の許可は律儀に求めるのか?嘘をつくなら、もう少しマシな嘘をつけ」

 

 武蔵が少し後退った。

 貴様の気持ちはよくわかるぞ。

 いや、私でなくともお前の気持ちはわかる。

 仲間に庇われて命拾いした者など、今の時代掃いて捨てるほど居るのだからな。

 

 「お前に……お前に私の気持ちなど……」

 「そうやって悲劇のヒロイン気取りか?生憎だが、貴様と同じ境遇の者はいくらでも居るぞ?」

 「だから何だ!まさかソイツらは立ち直ったから、私にも立ち直れとでも言うつもりか!」

 

 言うわけがないだろう。

 そういう奴らに言葉など無意味だ。

 だがそういった奴らの行動は、大きく二通りに分かれるのを私は知っている。

 一つは戦場から去る者。

 コレには自決も含まれる。

 そして、もう一つは理由を探す者だ。

 貴様は後者だな。

 理由の大半は復讐。

 こんな、戦艦の出番が殆どない場所に居るせいで、貴様はそんなありきたりな理由すら見つけられずに燻っている。

 清霜を言い訳に使ってだ。

 貴様には、背中を押してやる者が必要だな。

 だが、それは私では無理だ。

 

 「おい!何とか言ったらどうなんだ!」

 

 半年以上、こんな所に居る割にこらえ性のない奴だ。時が来るまで、今のお前には何を言っても無駄だ。

 

 「貴様に言うことなど()()何もない」

 「今は……だと?」

 

 私は呆気にとられている武蔵を置いて、山道を下り始めた。

 敵の大艦隊でも攻めて来てくれれば話は早いんだが……。

 

 「我ながら、洒落にならないことを考えてしまったな」

 

 神風に影響でもされたのだろうか。

 いくら武蔵を連れ帰るためとは言え、朝潮達を危険に晒すような……。

 ん?朝潮?

 

 「いかん。私としたことが、大事なことを忘れていた」

 

 タンカーの中はもちろん、降りてからの航海中もずっと我慢に我慢を重ねてやっと念願叶うと思っていたのにだ。

 日中、丸々移動に費やしたんだ。きっと全身汗だくのはず。ならば当然、朝潮は艤装を降ろして風呂に入ってるんじゃないか?

 しかも、ここの浴場は艦種別になってないはずだ!

 

 「クソ!まだ間に合うか!?」

 

 ここの司令と話した時間と慰霊碑までの移動にかけた時間。更に武蔵と話した時間を合わせると、二時間は軽く経っている。

 それプラス、今から基地までの移動時間が加われば絶望的ではないか。

 

 「いや、希望を捨ててはダメだ!先に飯を食べた可能性もある!」

 

 私は基地への坂道を全速力で駆け下り、ショートカット出来そうな所は迷わずショートカットして風呂場を目指した。

 武蔵の事など今はどうでもいい。

 奴は言葉で言ったところでどうにもならないのだから。

 用が済んだ今の私の最優先事項は朝潮との入浴。ここなら、提督に邪魔される事なく朝潮とイチャつける!

 そうだマッサージもしてやろう。朝潮を悦ばせる自信はある。

 それが終わったら一緒の布団で寝よう。南方の暑さなど、私と朝潮の愛の炎で吹き飛ばしてやる。

 

 「待っててくれ朝潮!今すぐに行く!」

 

 と、力一杯叫びながら、私は浴場と思われる灯りに照らされた湯気へと突撃した。

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