と、言うわけで皆様良いお年を&来年もよろしくお願いします。
「退屈ね……」
退屈な上に蒸し暑い。
長門さんが浴場の窓に続いて私たちに宛てがわれた部屋のドアを蹴破り、朝潮に襲い掛かって来たのを撃退して早三日。
私達は訓練以外にやる事もなく、それ以外の時間は無為に過ごすことしか出来てない。
「長門さんは、武蔵の事は私に任せろって言うばかりだもんね」
任せて大丈夫なんですか?
って言いたそうな顔して朝潮は大潮を見てるけど、私もアンタと同意見よ。
あ、ちなみに長門さんは、朝から
朝潮は手緩いとか言って重りをつけて海に沈めようとしてたけど、さすがにそれはやり過ぎだと言いくるめて思い止まらせた。
「とっとと解体して、艤装だけ持って帰ればいいのよ。ダメよアレは。今まで見て来た艦娘で一番ダメだわ」
神風さんがそこまで人をダメダメ言うのも珍しいわね。ここに厄介になってた頃に、武蔵さんと何かあったのかしら。
「お風呂でも行かなぁい?このままじゃぁ、カビが生えちゃうわぁ」
「ダメだよ荒潮。能代さんや早霜ちゃん、それに松型の子達が哨戒で頑張ってるのに、だらけてるだけの大潮達が呑気にお風呂だなんて許されるわけないでしょ」
大潮の言う通りよ。
私としても、べたつく汗をお風呂で流したいって思ってるけど、せめて夕方までは我慢しなさい。
「スコールにでも当たってくれば?シャワーみたいなもんでしょ」
いやいや、いくら暑いと言っても風邪ひいちゃうわよ?風邪をひきそうにないのは、言ってる神風さんと長門さんくらいよ。
「嫌よぉ、髪が痛んじゃうじゃない……」
「そのスコールも止みそうな感じだけどね。また蒸し暑くなるわ」
と、窓の外を見てたらついこぼしちゃった。
雨雲が南に流れてるから、もう10分か20分そこらで泊地は晴れそうだわ。
と、なると朝潮あたりが……。
「晴れたら、訓練でもします?」
言うと思った。
午前中も訓練はしたけど、朝潮が言う通りここでダラダラしてるよりは絶対に有意義ね。
でも……。
「私はいいけど、朝潮はそれでいいの?工廠に長門さんが居るわよ?」
忘れてたわね、この子。
私に言われてハッとなり、次いで怒りが湧いてきたのか肩をプルプルさせて……。
「ん?何かあったのかしら。職員の人たちが慌ただしいわ」
「ホントね。敵の襲撃かしら。でも警報は鳴ってないし……」
焦ってると言うより、何かに追われてるって言う方が正しいような慌てっぷりで職員の人たちが走り回ってる。
でも、神風さんの言う通り敵襲なら、警報くらい鳴りそうな気が……ん?廊下をドタドタと走る様な音が部屋の中まで響いて来たわ。
誰かが私たちを呼びに来たのかしら。
「敵襲だ!総員、第一種戦闘配置に就け!」
ドアを乱暴に開いて入って来たのは長門さんだった。
体を縛っていた鎖は影も形もないわ。
まさかとは思うけど、引きちぎった?鎖を!?どうやって!?と、考えてる場合じゃあないわ。
長門さんが敵襲だと言ってるし、外の雰囲気からもそうなんだと察することができる。
でも、警報はウンともスンとも言わないのが気にな……
「警報は?敵襲なら、警報くらい鳴るはずでしょ?」
ってたら、神風さんが真剣ながらも訝しむような顔で長門さんに尋ねた途端に、耳をつんざく様な警報音が基地内に鳴り響いた。
長門さんがドヤ顔で上を指さして、鳴ってるとでも言いたそうなのが癇に障るわね。
「とにかく、艤装を装着して指示を待つよ。みんな急いで!」
大潮の指示で全員一斉に立ち、工廠を目指して部屋を出た。
後ろから二番目の朝潮が、最後尾の長門さんに何かされるんじゃないかと頻りに振り返ってるのが哀れ……は、置いといて。
私達が工廠の前まで行くと、すでに泊地の司令官が職員の人たちに指示を飛ばしていたわ。
「艦長、敵の規模は?」
「お嬢達か。丁度良かった。呼びに行かそうとしてたとこだ。南西から空母2、重巡1、軽巡2、駆逐艦8。それと、西から潜水艦6が泊地に迫ってる。警報が遅れたのは完全にこちらの不手際だ。申し訳ねぇ」
「弛んでるわね。ぬるま湯に浸かり過ぎて鈍ってるんじゃない?で、迎撃は?こっちの艦隊は出撃してるの?」
「哨戒していた能代達を、そのまま潜水艦隊の迎撃に向かわせた。だが、能代達は対潜装備がメインだ。空母や水雷戦隊に対応しきれねぇ」
マズいわね。
ならば潜水艦は能代さん達に任せて、私達で空母と水雷戦隊を迎え撃つしかない。朝潮にとっては不幸だけど、こちらには一応、戦艦が居るし……ん?さっき司令は……。
「司令、重巡が一隻居るって言ったわね?」
「ああ、お前ぇさんらが到着した日に妙なことをしてた奴だと思うんだが、確かにネ級が一隻、指揮を執ってるらしい動きをしていたと報告を受けてる。それがどうかしたのか?え~と……満潮だったか?」
「ええ、満潮よ。で、妙なことって?」
「偵察だと思うんだが、偵察用のドローンに姿を晒すだけ晒してどっかに行ったのさ。まるで、自分の存在をアピールしているようにも見えたな」
マズいが自乗倍になった。
そんなことをするネ級は、私が知る限り鼬だけ。
アイツがそんな真似をしたってことは、何かしらの意図があるはず。
例えば、誰かへのメッセージ。
アイツと直接話したことがある艦娘なんて私くらいのはずだから、私がここに来たのを知ったアイツが、私に何かを伝えようとしてそうしたんじゃないかしら。
そうだと仮定すると……。
「島の東か、南に敵の反応は?」
「今のところないが……そっちからも?敵が来るってのかい?」
「ええ、間違いなく。西と南西から侵攻している敵艦隊は陽動よ。本命は、南と東の両方から攻めてくる姫級……いえ、四凶の内の二隻」
艦長が「四凶ってなんだ?」と言ってるけど、今は答えている暇がない。
アイツの目的が絞り込めちゃった今は、対策を練る方が先だわ。
でも、私は旗艦じゃないのよねぇ……。
「満潮、あなたが作戦を考えなさい。長門も、それで良いわね?」
「神風がそう言うなら、私は構わない」
神風さんが助け船を出してくれた。
だったら、遠慮なく指示を出させてもらうわ。
まず、鼬の目的は窮奇と朝潮を二人きりにすることだと思われる。
故に、窮奇は自艦隊と迎撃艦隊に邪魔されない東か南のどちらかから現れるわ。
そして、逆側からは窮奇と同じ地位にあり、かつ敵対している者が来ると考えられる。
その理由は、仮に窮奇を東側から攻めさせるなら、鼬が率いる主力は南から攻める方が、距離的にも窮奇の目的のためにも都合が良い。
なのに、鼬はそうしなかった。
それはつまり、南にも侵攻ルートを作る必要ができたってこと。この場合は窮奇と同格の個体、四凶に類する個体がもう一隻来てて、しかも仲が悪いって考えるのが自然ね。
じゃないと、四凶なんて位をつけられているほど特殊な個体を分散させるメリットがないもの。
「
「武蔵の?そうは言うが満潮の嬢ちゃん。武蔵はここに配属されてから、片手の指で数えられるくらいしか出撃してねぇんだぞ?なのになんで、敵は武蔵がここにいるって知ってるんだ?」
「その理由はわからない。でも、じゃないとここに四凶を二隻も加えた敵が侵攻する理由が思い浮かばないのよ」
艦長さんが訝しむのも理解はできる。
だって深海棲艦は基本的に、数と性能に任せた力押しで手当たり次第の侵攻しかしない。
でも、そうじゃない場合もある。
具体的には舞鶴襲撃と横須賀襲撃。
この二つの事例は、まるで艦娘が少ないのを知っていたかのようなタイミングで行われているわ。
そして深海棲艦には、鼬のように戦術や戦略を理解している個体もいる。
そんな個体なら、人間側に内通者の一人や二人は作っている可能性だってある。
筆頭として挙がるのは、反政府組織のアクアリウムかしら。
彼らは深海棲艦を神と崇めて軍とも敵対してるし、奇兵隊のように各界に根を張ってるとも噂されている。
そいつらと鼬、もしくは鼬のような奴が手を組んでいるのなら、先に挙げた二例や今回のことにも説明がつく。
「艦列は大潮、荒潮、長門さん、神風さん、私、朝潮の順で出るわ」
「四凶の相手はどうするの?私がどっちかに行く?」
「ええ、窮奇じゃない方の四凶は神風さんに相手をしてもらう。長門さんは対空戦闘に専念。大潮と荒潮は、駆逐艦の数を減らして。可能なら軽巡も」
「わかった。じゃあ、あなたと朝潮で窮奇を叩くのね?」
「いいえ。窮奇の相手は、朝潮一人でしてもらう」
神風さんに問われて反射的に朝潮の担当を言った途端に、大潮の目がつり上がった。
事が事だけに、ここで揉めるつもりはないみたいだけど、少しは安心させてやった方が良いかしら。
「朝潮は足止めに専念しなさい。間違っても、沈めようなんて考えちゃダメ」
「で、ですが可能なら……」
「ダメ。誰かが合流するまでは絶対にダメよ」
ここ最近の出来事で少しは自信がついてきてたのか、朝潮は可能なら沈めたいと考えてるようね。
でも、窮奇を相手にするには不安要素が多すぎる。
せめて、蒼備えの状態で攻撃する手段があるのなら条件付きで許可したんだけど、それがない今は許可できない。
「で?朝潮ちゃんを一人で戦わせて、満潮はどうする気なの?」
「敵の司令塔を潰す。そうすれば、アンタたちが相手をする主力艦隊の驚異が激減するからね」
大潮は、私が後方で指示出しに専念するとでも思って聞いてきたのかしら。
でも、私にそんな気は更々ない。
私は前の作戦を、アイツに潰されたのを忘れてない。
だから、今回は私が潰してやる。
アイツが立てた作戦を、私が一手でご破算にしてやるわ。
「では、その段取りで行こう。艦長、高射装置と電探を借りれるか?三式弾もあれば借りたい」
「ああ、ある。ただし、電探は13号しかねぇぞ」
「十分だ」
数的に不利な状況での出撃が決まって、大潮は私を睨み続けて、荒潮は「マジか……」と言いたそうなくらい達観した顔でスコールが止みかけてる空を見上げてるわね。神風さんは、何故かニヤリとしてる。
もしかして、この状況を楽しんでるのかしら。
「朝潮、何をしている!時間がないぞ!」
長門さんの変わりっぷりに唖然としていた朝潮が怒られたわね。
それも意外だったのか、複雑な顔をしてるわ。
まあ、さっきまで鎖で簀巻きにされて天井から吊るされてた人がこうなったら、変態だとしか思ってない朝潮はそうなるか。
「今の長門に逆らわない方がいいわよ。私達も、さっさと行きましょ」
神風さんが朝潮を促して工廠に入って行くのに続いて、私も工廠に入って艤装を装着した。
さて、対策は練ったし、あとは実行するだけ。
だけど、この対策はハッキリ言って綱渡り。
未知の四凶には、経験豊富な神風さんを宛てがったから上手く立ち回ってくれるでしょうけど、窮奇の相手をする朝潮と、敵艦隊の大半を相手にする長門さんたちがどこまで堪えられるか予想しきれない。
せめてもう一人、私たち並みの駆逐艦か戦艦でもいれば違うのに……。
「司令、奴の事を頼んでもいいか?今の状況は泊地にとって窮地だが、奴にとっては転機になるやもしれん」
「……そうだな。わかった、そっちは任せておけ」
あ、そうだ。武蔵さんがいた。
でも、神風さんがダメと言い捨てるような人を、当てにして良いのかしら。
「当てにするだけ、無駄だと思うわよ長門」
「まあそう言うな神風。アイツは必ず来るよ。私の勘がそう言ってる」
工廠を出て桟橋までの道すがら、私達4人の後ろで神風さんと長門さんが話してるのが聞こえたけど……。
長門さんの勘は当てになるのかしら。
不安しか感じないわ。
それは神風さんも同じらしく、長門さんに疑いの眼差しを向けてる。
「満潮、艦隊を分散させるのはどのタイミングだ?」
「合図があるはずだから、そのタイミングね」
「合図だと?敵がわざわざ、合図してくれると言うのか?」
「ええそう。この艦隊が敵水上艦隊と会敵後かその少し前に、窮奇が砲撃するはずよ。だから、朝潮は砲撃が発射された方に行きなさい。まあ、十中八九東だろうけど」
何故そこまでわかるのか。
と言いたそうな視線が、神風さん以外から向けられてるけど、私は別に頭を働かせた訳じゃない。
頭を使わなくても、アイツの考えが手に取るようにわかるのよ。
「窮奇が東から来る理由は一つ。その方向が、一番退路を確保しやすいから」
鼬は窮奇に心酔してる。
ならば窮奇の願いを叶えつつも、安全も確保しているはず。
故に、先に言った通り、東から窮奇を侵攻させるはずだわ。それが確定したら……。
「私も朝潮の後を追う。そうすれば、鼬は艦隊を放り出して私を追ってくるわ」
アイツに誤算があるとすれば、私が自分より劣ると思ってること。
まあ、艦種はアイツの方が上なんだから、艦種的に下位である私を侮る気持ちはわからなくもない。
だったら、私はその慢心を遠慮なく突かせてもらうだけよ。
「お、西の方じゃあ、すでにおっ始めてるわね」
神風さんの言葉に釣られて見てみると、確かに桟橋から10海里ほど先で戦闘が開始されていた。
私たちが向かう方向から、敵艦載機の飛行音も響き始めてるわね。
と言うことは、戦闘海域ではスコールがすでに止んでいるのか。
「準備はできたな!横須賀艦隊!出撃するぞ!」
私たちは長門さんの号令で海へと飛び出した。
飛び出したのは良いんだけど……。
脚が海面に着くのと同時に、何故かワクワクしてる自分に気づいた。
私は何にワクワクしてるんだろう。
こんな高揚感に満たされるのは、艦娘になって初めてだわ。
「そっか、私には今まで……」
対等だと思える相手がいなかったんだ。
大潮たちを見下している訳じゃないけど、私には今まで、知恵熱が出るまで脳をフル回転させて対策を練らなきゃならない相手がいなかった。
そんな私にとって、鼬は人生で初めての相手。
私が脳みそを酷使して挑まなければ勝てない……いえ、そうしても勝てるかどうかわからない相手。
そんな鼬に歯噛みさせることができると思えたから、私はワクワクしてるんでしょうね。
「私って、こんなに性格悪かったかしら」
それを自覚した私は、鼬がいるであろう方向を眺めながら、誰に言うともなくそう呟いていた。
第七十六話を一日0時に予約投稿しました。
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