艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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私はモツの類いが苦手だったんですが、最近になって急にドハマりしました。


第七十八話 ああ、恐れ入ったよ。後輩

 

 

 

 耳の奥に纏わり付くような警報音で昼寝から叩き起こされたから、億劫ながらも部屋の窓から外の様子を窺ってみると、敵襲への対応で一般職員が右往左往しているのが見えた。

 あの慌てようだと、いつもの敵襲とは違うようだ。

 何せ……。

 

 「警報まで鳴らすとは、珍しいな」

 

 私がタウイタウイ泊地に着任してからの2年間で、いったい何回あっただろうか。覚えてるだけで3回くらいか。

 1回目と2回目は誤報に終わり、3回目で業を煮やした私は、司令や能代達の制止を振り切って出撃し、そして……。

 

 「ふん、どうせ今回も誤報だろ」

 

 空を見ると、晴間がチラホラと見え始めていた。

 もう少しでスコールも止みそうだなと思った私は身支度もろくにせず、部屋を出て基地の裏口へ向かった。

 

 「傘は……いいか。風邪を引いても関係ない」

 

 私は濡れるのも構わず、裏口を出て山道を目指した。

 これがスコールではなく、日本の雨のようにシトシトと降っていたら風情も……ないか。

 周りの植物はいかにも南方と言った感じだし、何より蒸し暑い。

 

 「そう言えば、今日も長門は来なかったな」

 

 別に来て欲しいわけじゃないが、私にあれだけ偉そうに言っておきながら初日以外は姿も見せていない。

 

 「いつまで清霜を裏切り続けるつもりだ……か」

 

 長門が言ったあのセリフが、アレ以来頭から離れてくれない。ずっと響き続けている。

 だが、どうしたらいいかわからないんだ。

 仇でも討つか?

 それは無理だ。清霜を殺した潜水艦は、救助に来た能代達が沈めてしまった。

 じゃあ、深海棲艦を根絶やしにでもするか?

 それも無理だ。戦艦一人で出来る事なんて知れている。

 

 「やはり、解体されるべきなんだろうか……」

 

 そうすれば、しつこく異動の命令が来ることもないだろう。だけど……。

 

 「それだけは、何故かしたくない……」

 

 まともに敵と撃ち合ったこともないのに、武蔵である事に未練でもあるのだろうか。

 それとも、戦艦の地位を他人に譲りたくないのか?こんな泊地では、戦艦の権勢など振るいようもないのに?

 

 「なあ清霜、私は何がしたいんだ?」

 

 伏せていた顔を上げると、目の前に慰霊碑が立っていた。

 何か月も通い続けた道だ、

 考え事をしていようとちゃんと辿り着ける。

 この海域で戦死した艦娘達と、清霜の名前が刻まれた慰霊碑に。

 

 「そういえば、清霜の艤装はどうしたんだったか……」

 

 本土に運ばれて次の適合者の手に渡っているんだろうか。

 艦娘の本体はあくまで艤装。私達は替えの利くパーツでしかない。と、言うことは……。

 

 「本土には、別の清霜がいるんだろうな」

 

 会いたい気もする。

 あの子と同じように纏わりついて来るんだろうかと、無駄に妄想したりもする。

 それとも、ここの駆逐艦のように恐れて近づかないか?

 私が、いつも通り慰霊碑に背を預けて北の空を見上げると、スコールはとっくに止んでいた。

 

 「なんだ?後ろから何か……」

 

 基地の方から……いや、もっと南の方から何か聞こえる。

 これは……砲撃音?潜水艦くらいしか出ないこの海域で、なぜ砲撃音が聞こえる?

 私は慌てて立ち上がり、南の水平線を凝視した。

 だが、煙と時折昇る水柱らしき物以外はまるで見えない。距離が遠すぎる。

 

 「クソ!ここからじゃよく見えん!」

 

 何が起こっている?あの警報は誤報ではなかったのか?まさか、本当に敵襲?

 

 「よう、思ってたより元気そうじゃねぇか」

 

 私が現状を確認できずにイラ立っていると、山道から司令が顔を覗かせた。

 なぜ司令がここに?敵襲を受けているんじゃないのか?

 

 「ちくしょう。割と緩やかだっつっても、年寄りに山道はこたえるねぇ……」

 

 ぜぇぜぇと荒い息を落ち着かせようとして膝に手をついた司令が悪態をついた。

 なぜこんな所に来たんだ?まさか私を迎えに来たのか?

 

 「ふぅ……やっぱ鈍ってんなぁ。お嬢が言う通り、ぬるま湯に浸かり過ぎてたみてぇだ」

 「何を、しに来た……?」

 

 司令が横目で私を一瞥した後、私がいつも背を預けているのとは反対側に背を預けて座り込んだ。

 本当に何をしに来たんだ?

 能代たちの指揮を執らなくてもいいのか?

 

 「最後は、ここで迎えようと思ってな」

 「最後……だと?」

 「もうすぐ、この泊地は落ちる。そうすりゃあ、ワシもお陀仏だからな。せめて、見晴らしが良い所でと思ってここまで来たんだ。善戦してくれてる長門達には、悪いと思うがな」

 「なっ……!?そんな規模の艦隊に襲われているのか!?」

 「ああ、姫級に空母まで含んだ艦隊に襲われてるからな。さすがに、ここの戦力じゃあどうにもならん」

 「だから諦めたと?貴様、それでも司令官か!能代や長門達に戦わせておいて、貴様はさっさと死に場所探しか!」

 「ほう?お前ぇさんが、ワシにそれを言うのか?」

 

 司令の目が鋭く尖り、私を射抜いた。

 確かにな。私に、司令を責める権利などない。そんな状況だと知っても、私は出撃しようと思えないのだから。

 

 「なあ武蔵、お前ぇさんはどうしたい?」

 

 それがわからないから、こんな所で燻っている。

 

 「武蔵、お前ぇさんは何になりたい?」

 

 何にもなれはしない。

 神風が言う通り、私はただの腑抜けた戦艦だ。

 

 「清霜の口癖、覚えてるか?」

 

 ああ、覚えている……。

 ことある毎にあの子は、戦艦になりたいと言っていた。

 私が出鱈目な訓練法を教えた時も……。

 

 「え? これが完璧に出来たら、戦艦になれるの? くっ、頑張るか!」

 

 と言って、愚直に続けていた。

 初めて大規模改装をした時も……。

 

 「あと何回改装したら、戦艦になれるのかなぁ…。え?な、なれるもん!」

 

 と言って、憤慨してたっけな。

 訓練したところで、改装をしたころで戦艦になれるはずもないのに、あの子は愚直に私の言うことを信じ、実行し続けた……。

 戦艦に、なるために。

 

 「あの子はな。戦艦になりたかったんじゃねぇんだよ」

 「え……?でも清霜は……じゃあ、あの子は何になりたかったと言うんだ?」

 「わからねぇか?」

 

 わからない。

 だって、清霜は戦艦になりたいって言っていたんだ。なのに、なりたかったのが戦艦じゃないだと?

 

 「あの子がなりたかったのはな。武蔵、お前ぇさんだよ」

 「私……?」

 

 それは私と同じ大和型になりたかったという事か?だが、大和型は私以外はまだ……。

 

 「お前ぇさん、眼鏡をかけてる割にバカだな」

 

 バっ……!?

 別に眼鏡をかけてるから頭が良いとは限らないだろう!だから、そんな哀れむような目で私を見るな!

 

 「あの子はお前に憧れていた。戦艦武蔵ではなく、お前ぇさんにな」

 (清霜は、貴様に憧れていたのではないか?)

 

 司令と長門のセリフが被って聞こえた気がした。

 清霜が憧れていたのは戦艦ではなく私?こんな所で何もせずに、惰眠を貪っていた私に憧れていただと?

 

 「バ、バカな事を言うな。清霜と私は3か月も一緒に居なかったんだぞ?それなのになぜ憧れる。べつに、命を救ったとかでもないんだぞ!?」

 

 逆に、命を救われたのは私だ。

 出撃する機会もなく、無為に過ごす日々に嫌気がさしていた私は、警報を理由に無理矢理出撃して潜水艦共にいいように嬲られた。

 そんな私を庇って、清霜は死んだ。私に直撃するはずだった魚雷に身を晒して……。

 

 「カッコよかったんだよ。お前ぇさんが」

 「は?カッコよかった?ソレが清霜が私に憧れた理由だと?」

 「あの頃のお前ぇさんは、出撃がなくても訓練に明け暮れてたろう?いつか来る出撃の時のために、目ぇギラギラさせてよぉ。それがあの子には、カッコよく見えたのさ」

 「そ、そんな理由で……」

 「それで十分なんだよ。カッコイイあの人みたいになりたい。子供が誰かに憧れるにゃあ、十分過ぎる理由だ」

 「だから私を庇った……?そんな理由で命を投げだしたのか?それじゃあ、清霜はただの……」

 「それ以上は言うんじゃねぇ!」

 

 司令の叱責で、私は言葉を呑み込んだ。

 だけどしょうがないじゃないか。

 だって、私には理解できないんだ。

 そんな理由で死んでいった清霜が、愚かに思えて仕方ないんだ。

 

 「あの子には、憧れの人を鼻歌交じりで弄ぶ潜水艦共が許せなかったのさ。だから庇った。お前ぇさんに当たるはずだった魚雷に身をさらした。お前ぇさんの代わりに沈んだ!それでもお前ぇさんは、清霜を愚かと思うのか?大切な人のために命を投げだすのを愚かな行為だと蔑むのか!言ってみろ武蔵!」

 

 司令の言葉とともにあの時の清霜の姿が頭に浮かんできた。

 潜水艦に嘲笑われながら、死を待つだけだった私の元に、清霜は颯爽と駆けつけて……。

 

 「武蔵さんをイジメるな!この清霜が相手になってやる!」

 

 と、言って、小さな体で潜水艦共の前に立ち塞がり、私を守ろうと懸命に戦ってくれた。

 

 「もう大丈夫だからね!潜水艦なんか清霜に任せて!」

 

 自分も恐怖に震えているのに、私の事ばかり気遣ってくれたそして……。

 

 「今だけは、駆逐艦でよかったかな……」

 

 そう言い残して、清霜は私の腕の中で息を引き取った。

 私なんかより清霜が生きるべきだったんだ。

 お前ならきっと、私以上の戦艦になれたのに……。

 

 「ごめん、清霜……。私は……」

 

 涙が止め処なく溢れ、私は膝を屈して泣きながら謝る事しか出来なかった。

 謝っても清霜には届かない。

 それはわかってる。

 今さら泣いたところであの子は帰ってこない。

 それもわかってる、

 だけど私には、それ以外にできる事が思い浮かばなかった。

 

 「泣くな武蔵。みっともねぇ姿を見せるんじゃねぇ!」

 「でも……だったら私は、どうしたらいいんですか……」

 「そんな簡単な事もわかんねぇのか。見せてやりゃあいいんだよ。お前ぇさんのカッコイイ姿を清霜に見せてやれ!」

 「私の、カッコいい姿……?」

 「そうさ!泊地に迫るは敵の大艦隊!味方は劣勢!そこに颯爽と登場して敵を迎え撃ち、撃滅して味方を救うのは大戦艦 武蔵だ!」

 

 司令は私から背を向け、戦場の方へと両手を広げ、大仰な仕草で弁を振るった。

 そして、顔だけ私に振り向いて……。

 

 「これほどの見せ場はそうそうねぇぞ?そんな大一番に、お前ぇさんは何をしてる。こんな所で泣いてるだけか?」

 

 そう言った司令を、私はポカンとして見上げる事しかできなかった。

 だが、そんな事でいいのか?それで清霜に報いることができるのか?

 

 「憧れさせたんなら、最後まで責任取りやがれ!最後まで、清霜が憧れたカッコイイ武蔵で居続けろ!それが、お前ぇさんに唯一できる事だ!」

 

 カッコイイ私で居続ける……か。

 それが私に唯一できる事。

 それが、清霜にしてやれる唯一の償い……。

 

 「どうだ?まだ泣き続けるか?ワシゃあ構わねぇぞ?やっと巡って来た、堂々と死ねるチャンスだからな」

 

 そうは言うが、それは泊地の壊滅を意味するんだろう?そうすれば能代や駆逐艦たち、一般職員の命も……。

 

 「それは、ちょっと格好がつかないな……」

 

 私が居るのに泊地が壊滅?

 襲撃してきてるのは潜水艦だけじゃないのだろう?

 水上艦に攻められて泊地が壊滅など、戦艦武蔵()が居るのにさせるものか。

 それでは、死んでも清霜に顔向けできない!

 

 「司令、私の艤装は?」

 「カッコつけ続ける覚悟は、決まったか?」

 

 ああ、決めたよ。

 私は、清霜が憧れた武蔵で在り続けよう。

 

 「私は大和型。その二番艦だからな。当然だ」

 

 精一杯虚勢を張ってそう言った私に、司令はフッと笑いかけて、顎で山道を指した。

 

 「準備させてある。工廠へ行け」

 

 私は無言でうなづき、山道を駆け下り始めた。

 艤装はまだ私と同調してくれるだろうか。もう軽く八か月は艤装を背負っていないからか、少し自信がない。

 そう言えば……。

 

 「どお?清霜かっこいい?強い?」

 

 一度だけ、清霜の高さに合わせて置いた私の艤装を、清霜が背負った事があったな。

 艤装のサイズが大きすぎて、お世辞にも似合ってるとは言えなかったが……。

 

 「でもあの時、私は見たんだ。お前の意思に反応して砲身が動くのを……」

 

 清霜なら、本当に私の艤装と適合できていたのかもしれない。

 アレを見てから、あの子になら私の名前と艤装を譲ってもいいと、心のどこかで思うようになった。

 

 「清霜……私は、お前はいつか戦艦になれると信じていた。お前が戦艦になった姿を、見てみたかった」

 

 だけど、お前はもういない。

 だから、代わりに見せてやる。

 お前が憧れた、大戦艦のカッコいい姿をな!

 

 「武蔵さん!お待ちしておりました!」

 

 山道を一気に駆け下り、私が工廠に到着すると、司令が言った通り私の艤装がすでに準備されていた。

 整備員も敬礼で迎えてくれた。

 艤装の横には計測器。

 久しぶりの同調だから、念のために計測するのか。

 

 「準備はできてます。こちらへどうぞ」

 

 私は整備員に促されて艤装を背負い。同調を始めた。

 

 「問題は……なさそうですね。心拍数が若干高いですが」

 

 私としたことが、少し緊張しているのか?

 いや、昂っているのか。

 考えてみれば、初めての対艦戦だ。

 初めてまともに挑む戦場に、私の心が昂っている。

 

 「練度30で安定」

 「30……か。サボっていたツケだな」

 「その割には、余裕そうですが?」

 「当り前だ。私を誰だと思っている?」

 

 どれだけ低い練度だろうと、余裕の表情を貼り付けろ。不安は虚勢で塗りつぶせ。見栄を張れ。カッコをつけろ。私は、武蔵なのだから。

 

 「失言でした。武運長久をお祈りいたします!」

 

 工廠を後にして、桟橋へ到着した私は戦場になっているはずの水平線を見つめて一息ついた。

 息を切らせるな。

 息を乱している姿は、たぶんカッコよくない。

 

 「さて、戦況はどうなっている?」

 

 息を整えるついでに、戦況を知ろうと長門との通信を繋ごうとしたが、無駄な事に気がついてやめた。

 なぜなら……。

 

 「私がやることは決まっている」

 

 そのためにも、まずは抜錨しないと。

 だが、久しぶりで上手く浮けるか?

 そんな、一抹の不安が心をよぎったと思ったら……

 

 (大丈夫だよ!武蔵さんなら!)

 

 いないはずの、清霜の声に励まされた。

 今のは幻聴か?

 それとも、私の頭が都合の良い妄想でもしたのだろうか。だが、今はそれがありがたい。

 私は意を決して、主機に艦力を流した。

 よし、感覚自体は忘れていない。

 主砲の操作は、移動しながら確かめるとしよう。

 私は桟橋を飛び降りて着水、水平線の彼方を目指して微速前進。ああ、そうだ。忘れていた。

 こう言う時は……。

 

 「戦艦武蔵、いざ……出撃するぞ!」

 

 と、言わなければ格好がつかない。

 さあ、見ていてくれ清霜。

 今から私の本当の姿を見せてやる。

 私が徐々に速力を上げ、最高速力に達したところで、西から誰かが近づいてくるのが目に入った。

 清霜と同じ臙脂色の制服。早霜だ。 

 

 「能代さんから言われてきました……。戦場まで、護衛します……」

 

 久しぶりに声を聞いたが、相変わらず覇気が感じられない喋り方をするな。

 まあ、さっきまで覇気の欠片すらなかった私が言えた義理ではないんだが。

 

 「戦況はどうなってる?」

 「潜水艦隊は粗方片づけました。現在、能代さん達が索敵と掃討をしながら長門さん達の方に向かっています。ですが、あちらは横須賀の皆さんが頑張ってくれていますが、艦載機に邪魔をされて水雷戦隊の排除が上手くいってません……」

 

 声が淡々とし過ぎてて、今一危機感が持てないな。だが、状況はわかった。 

 司令が言った通り、劣勢のようだ。

 

 「……」

 「私の足元ばかり見てどうした?潜水艦でもいるのか?」

 

 ふと、私の前を航行している早霜がチラチラと私の足元を気にしているのに気がついた。

 目で見る限りでは、潜水艦の影は見えないが……。

 

 「いえ、嬉しそうにはしゃいでいるのが見えたので……つい」

 

 はしゃいでいる?私の足元で?誰が?

 確かにこの子は、私、実は()()()んです。と、急に言い出しても不思議ではない雰囲気を纏っているが……。

 まさか、私の足元にあの子の霊がいるのか?

 それが本当なら……。

 

 「そうか。ならば、期待に応えないとな」

 「はい。そうしてあげてください……」

 

 それっきり、早霜は押し黙って警戒を続け、私は主砲の調子を確認し始めた。

 言うことは聞いてくれるが、細かい調整が利きにくいな。

 練度が上がればミリ単位で砲身を動かすことも可能だろうが、練度が30程度の私ではこれが限界か。

 

 「こちら武蔵、聞こえるか長門」

 『随分と、遅い登場だな』

 

 私の呼びかけに、長門が間を置かずに応えた。

 声の感じだけでは分かりづらいが、余裕はないが無理はしていないといった感じか?

 

 「化粧に時間がかかってしまった。初めての戦場に、みっともない顔で挑むわけにもいくまい?」

 

 本当は化粧などしていないし、服はずぶ濡れ。みっともない事この上ないがな。

 

 『ふん、減らず口だけは一人前だな。それでどうした?何かして欲しいことでもあるのか?後輩』

 「私は細かく狙いをつけるのが性に合わない。だから敵を、出来るだけ一カ所に集めてもらいたい。出来るだろ?先輩。」

 

 実際はつけれないんだけどな。

 まあ言わなくても、この先輩は気づいてるんだろうが。

 

 『……いいだろう。可愛い後輩の頼みだ、聞いてやるよ。二人とも聞こえたな!』

 『艦載機の攻撃を避けながらぁ?無茶言わないでよぉ……』

 『大潮ね……。帰ったら、長門さんに甘味を胸焼けがするまで奢ってもらうんだ……』

 

 一人、死亡フラグになりかねない事を言ってるが大丈夫か?

 だが、これで照準の問題はある程度クリア。

 後は主砲の反動に私の体が持ち堪えられるか……だな。

 

 「アレが……戦場か」

 

 初めて見る戦場が肉眼でハッキリ見える距離まで来ると、長門が戦域のさらに南から向かってくる艦載機を、機銃と主砲に装填した三式弾で撃ち墜としているのが見えた。

 砲の動きが細かく、洗練されいる。

 私とは大違いだ。

 

 「ハエを落とすのが上手いじゃないか先輩。私にも、やり方を教えてくれないか?」

 『ふん!横須賀に帰ったら、泣いて謝るまで叩き込んでやるさ!』

 

 生意気を言いながら戦場を確認してみると、駆逐艦の二人が砲撃と魚雷で敵を誘導して、

 空母の姿こそないものの、軽巡と駆逐艦が合わせて10隻ほどが、直径50メートルほどの範囲に集められている。

 艦載機が飛び回っていると言うのに、大したものだ。

 

 『ご要望には応えたぞ。後は任せていいんだな?』

 「ああ、任せろ」

 

 私は円の中心から1海里ほどの所で航行を止め、完全に停止。

 砲塔と砲身の角度調整を開始した。

 

 「む、武蔵さん何を!?」

 

 早霜のこんなに驚いた声を聞いたのは初めてだな。

 普段は前髪で隠れている方の目まで、まん丸に見開いて驚いている。

 まあ、わからないでもない。

 こんな戦闘海域のすぐそばで完全停止。もし、艦載機がこちらまで来れば良い的だものな。

 だが……。

 

 「問題ないよ早霜。ハエは全て、先輩が叩き落としてくれるさ。そうだろ?先輩」

 『ああ、構わんぞ後輩。ただし!二人への甘味の代金はお前持ちだからな!』

 

 挑発するような口調で問いかけたら、ちゃっかりと甘味の代金を押しつけられた。

 まあ、こんな金の使い道もない僻地に居たせいで、給料はほぼ手付かずだ。甘味くらい、いくらでも奢ってやるさ。

 

 「それと早霜、そこだと()()()()()()から、もう少し私から離れていてくれ」

 「は、はあ……。いったい何に潰されると……?武蔵さんは、何をするつもりなんですか?」

 「何をする?戦艦がやる事など決まっている」

 

 早霜が100メートルほど距離を取ったのを確認した私は、全ての砲を戦場に固定した。

 同時に全砲、通常弾装填。

 反動に耐えられるだけの装甲を残し、余剰艦力は全て砲身に。

 

 「先輩、駆逐艦達を退避させてくれ。巻き込まれても知らんぞ」

 『お、おい武蔵。貴様まさか……』

 

 長門は、私がやろうとしている事に察しがついたようだ。

 ああ、そうさ。

 吹っ飛ばすのさ。

 今の私には、動き回る軽巡や駆逐艦を撃ち抜くなんて芸当はできない。

 ならば射程のみ調整して、()()()()吹っ飛ばせば良い。

 

 『二人とも急いで退避しろ!あのバカ、海ごと敵を吹き飛ばす気だ!』

 

 見ているか清霜。

 私が今から見せるのは、どの戦艦にも真似できない規格外の砲撃。

 お前が憧れた、戦艦武蔵()の本気の一撃だ。

 

 「この武蔵の主砲の本当の力、味わうがいい!」

 

 目標、敵艦隊中心から直径50メートルの()()。私の回帰祝いに、戦場ごと全てを破壊してやる!

 

 (やっちゃえ武蔵さん!)

 

 撃とうとした瞬間、また清霜の声が聞こえた。

 いや、声だけじゃない。

 私の視界の端に、あの子の特徴的な髪色をしたアホ毛と、敵に向かって突き出した右拳が映った。

 そうか。お前はずっと、私の傍にいたんだな。

 ずっと私を、見ていたんだな。

 ならば、私はこの一撃をもって応えよう。

 お前が憧れるに足りうる、最強の戦艦で在るための決意表明も兼ねて……。

 

 「ああ、遠慮はしない!撃てぇぇぇ!」

 

 体が潰れたと錯覚するほどの砲撃の反動とともに、私を中心として海が沈み込んだ。

 なるほど、私が本気で撃つと()()()()のか。

 

 「う、海にクレーターが……。冗談でしょ……」

 

 ふむ、早霜の位置からはそう見えるのか。

 渦中の私は、穴に落ちたような気分だよ。

 

 『な、なんというバ火力だ……』

 『ねえ荒潮、大潮の目の前に滝があるんだけど……』

 『夢よ大潮ちゃん。これは夢……。って言うか、海水のスコールとか最悪なんだけどぉ!?』

 

 駆逐艦達が騒いでるが、着弾点はそんな事になってるのか。

 いや、まあ想像はしてた……と言うか、ここからでも巨大だとわかる水柱が昇ってるから、わかってはいたんだが。

 

 「武蔵さん、顔色が悪いですけど……」

 

 顔色?

 ああ、それはたぶん、今全身を襲っている痛みのせいだ。

 まったく、情けない。

 たった一回の砲撃でこの体たらくとは……。

 

 『まだ空母が二隻残っている!大潮、荒潮!行けるな!』

 『長門さんったら人使い荒ぁい!』

 『帰ったら長門さんを破産させてやる……。駆逐艦全員でたかってやるから!』

 

 やはり空母は無理だったか。

 だがまあ、初めての戦果にしては上等だろう。

 それに、たかる対象が長門に移ったのも上々だ。

 横須賀に駆逐艦が何人いるか知らないが、ご愁傷さまだ先輩。

 

 『大潮ちゃん!10秒ほど守って!』

 『ちょ!こんな所で使う気!?』

 

 騒がしいな……静かにしてくれ。

 耳に届く通信の振動さえ体中に響くようだ……。

 

 『ヒャッハーーー!汚物は消毒だああああああ!』

 『もう!後でどうなっても知らないからね!』

 

 なんだか、キャラが崩壊してる駆逐艦が居るみたいだが大丈夫なのか?世紀末スタイルで火炎放射器を振り回しそうな感じだが。

 

 「肩を貸してやろうか?」

 

 無意識に伏せていた顔を上げると、目の前に長門が居た。

 肩を貸すだと?

 冗談を言うな。そんな無様な姿を見せられる訳がないだろう。

 私は笑っている膝を無理矢理黙らせ、両手を組んで何も問題がないように装った。

 痛みに悶えるのは部屋に戻ってからだ、人前で醜態は晒さない。

 

 「いらん。それより、空母を駆逐艦だけに任せておいていいのか?」

 「問題ない。それよりも、海ごと吹き飛ばすとはさすがに思わなかったぞ」

 「あまり先輩面をされ続けるのも面白くなかったからな。実力の差を思い知ってほしかったのさ」

 「見栄っ張りめ。だが確かに、同じ砲を装備しても、私にアレは真似できんな。さすがは武蔵。と、言わざるを得ない」

 

 清霜、聞いたか?

 目の前に居る、私より凄い戦艦が認めてくれたぞ。

 

 (清霜が言った通りだったでしょ?武蔵さんは凄いんだから♪)

 

 ああ、お前が憧れた私は凄いんだ。

 だから見守っていてくれ、これからもカッコイイ私を特等席で見せてやる……。

 

 (うん♪)

 

 目の前にいる清霜は、屈託のない笑顔を見せてくれた。

 私に霊感があったとは驚きだ。

 だけど、たとえ幻だとしても、お前の笑顔が見れたのがとても嬉しく、そして誇らしい。

 初めて戦艦でよかったと思えたよ。

 ありがとう……清霜。

 さて、ならばついでに、もう少し見栄を張っておくとするか。

 

 「そうだろうそうだろう。どうだ、恐れ入ったか?先輩」

 

 頬を伝う冷や汗を感じながらも、仰け反るほど胸を張って言った私に長門は……。

 

 「ああ、恐れ入ったよ。後輩」

 

 と、呆れ果てたように笑って、誉めてくれた。

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