艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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書いてて思ったんですが、reboot前もこの辺からシリアス感がなくなり始めたんですよね( ̄▽ ̄;)


第八話 これが、私の艦生の始まり......

 

 

 「なんて言うか……小学生みたいね」

 

 とは、朝潮型の制服であるサスペンダー付きのプリーツスカートと、黒いアームカバーを着た私を、心底哀れんだ瞳で見つめながら言った叢雲さんの感想です。

 たしかに、姿見で身嗜みを確認した際に、自分でも小学生みたいとは思いましたが……。

 

 「気にしてるんですから言わないでください!それに、すぐ大きくなります!きっと!」

 

 確かに、歳の割に発育は悪いですが私は成長期。

 今年の12月には13歳なんです。

 もう何年かすると、先代みたいなスラッとした大人の女性になるに違いありません!

 あ、でも、夢で見た先代の朝潮も、胸はあまり成長してなかったような……。

 

 「アンタ、艤装には成長を抑制する機能があるの忘れてない?」

 「あ……」

 

 そうでした。

 艤装にはそんな機能があったんでした。

 ちなみに、まったく成長しないわけではないです。

 成長が非常に緩やかになる。が、正しいですね。

 本当かどうかは知りませんが、二十歳を過ぎているのに十代前半にしか見えない駆逐艦もいると聞いたことがあります。

 

 「まあ、それはいいとして、本当にこれで行くの?」

 

 私が打ちひしがれているのを尻目に、養成所の玄関前に横付けされた車を見て、心配するような目で叢雲さんが聞いてきましたが……。

 

 「何か、問題でもあるんですか?」

 

 叢雲さんは何を心配してるんでしょう。

 私を迎えに来た車は、真っ黒なハイエースと呼ばれるワンボックスの車です。人や荷物をたくさん載せられそうですし耐久性も高そう。乗り心地も、悪くなさそうじゃないですか。

 

 「いや、まあハイエース自体に問題はないのよ。便利でいい車だと思うわよ?でも、ねえ?」

 

 と、叢雲さんは、隣で笑顔とは受け取れないくらい歪んだ顔の雪代所長に話をふりました。

 雪代所長も、あの車に思うところがあるのでしょうか。

 

 「迎えを寄越すとは聞いていたわ。でもまさか、この二人を寄越すとは……」

 

 なるほど、所長と叢雲さんが問題にしているのは、迎えに来た二人ですか。

 たしかに、軍人には見えませんね。

 一人は金髪と……もう一人は緑?緑の人はモヒカンと呼ばれる髪型でしょうか。

 そんな髪型の、俗に不良と呼ばれそうな風体の二人がタキシードに蝶ネクタイという格好をしています。

 これが、最近の軍人さんなのでしょうか。

 

 「元気してたか深幸ちゃん!」

 「お久しぶりっす深幸ちゃん!」

 

 そう言って二人は、ニヤニヤしながら手のひらは水平、二の腕が地面と水平になるように上げられた陸軍式の敬礼をしました。この二人は海軍じゃなくて、陸軍所属なのでしょうか。

 

 「もう!ちゃん付けで呼ばないでくださいって、昔何度も言ったじゃないですか!」

 「良いじゃないっすか別に。俺らと深幸ちゃんの仲っしょ?」

 

 あ、両手を胸の辺りでギュッと握りつつ、顔を真っ赤にしながらモヒカンの人に抗議してる雪代所長って少し可愛いかも……。

 

 「え?雪代所長って、こんなのとつるんでたの?」

 「そんな訳ないでしょ!私が用事で倉庫街に行く度に、無駄に絡まれてたの!」

 「んな邪険にすんなよ深幸ちゃん。俺らと同じで、オヤジにこき使われた者同士じゃねぇか」

 

 はて?金髪の人のお父様に、雪代所長もこき使われた?

 当の雪代所長は、「一緒にしないでください!」と言っていますが……。

 

 「ねえ、朝潮。横須賀に行くのやめたら?横須賀って、こんなDQNがうろちょろしてるんでしょ?」

 

 なんだか、私もそうなんじゃないかと思えてきました。

 ですがそもそも、どうして海軍所属の艦娘を陸軍の人が迎えに?そっちの方が気になります。

 

 「一応説明しておくと、この二人は提督が陸軍将校だった頃からの部下で、私兵として鎮守府内に囲ってる奇兵隊って組織の人たちよ。見た目はこんなで認めたくもないけれど、横須賀鎮守府からの迎えで間違いないわ」

 「こんな見た目って酷いっすよ深幸ちゃん」

 「俺らの格好のどこが変だってんだよ深幸ちゃん」

 「だから深幸ちゃんって呼ぶな!」

 

 なるほど、だから敬礼が陸軍式だったんですね。

 あれ?雪代所長の説明が確かなら、横須賀鎮守府の提督も元陸軍軍人ということになるんですよね?

 これはもしかしたら……

 

 「横須賀の提督って、どんな人なんですか?」

 

 雪代所長を見上げながらそう聞くと、なぜか迎えの二人と顔を見合わせてから揃って腕を組んで悩み始めました。

 言葉で説明するのが難しい人なのでしょうか。

 そして三人は……。

 

 「仕事を真面目にしてる振りをして、面倒ごとを全部押し付けてくる人」

 「冗談みたいに強くて腹黒っすね。あ、それと、最近は抜け毛が増えたのを気にしてるっす」

 「時代錯誤の突撃馬鹿で、悪ノリしたらブリッジしながら追いかけてくる変人だな。あ、それと、最近は加齢臭を気にしてんな」

 

 それ、誉めてるんですか?

 と、言いたくなるくらいの答えを返してきました。

 ですが、恐らく真実なのでしょう。

 だって三人とも、何かを諦めたような顔をして虚空を見つめていますもの。

 そして何かを思い出したのか、三人は打ち合わせでもしていたようにタイミングを合わせて……。

 

 「「「あとロリコン」」」

 

 と、おっしゃいました。

 それを聞いて間髪いれずに、「横須賀に行くのやめなさい!絶対!」と、言い始めた叢雲さんは放っておくとして、話だけ聞くと、横須賀の提督は確かにとんでもない人ですね。

 

 「ま、まあでも、悪い人ではない……し?」

 「いや、何をとち狂ったこと言ってんすか深幸ちゃん。極悪人っすよ?」

 「オヤジに比べりゃあ、そこらの犯罪者が聖人君子に見えるぞ?」

 

 どっちなのでしょう……。

 フォローしようとした雪代所長も心当たりがあるらしく、それ以上はフォローしようとせずに明後日の方を向いてため息を吐いています。

 

 「ねえ朝潮。呉あたりに配属先を変えてもらえば?近いし」

 「あ~……そりゃあやめた方が良いな」

 「あのオヤジ、呉に朝潮さんが取られたと知ったら戦争仕掛けるっすよ。マジで」

 「その人って本当に提督なの!?」

 

 叢雲さんが疑うのもわかる気がしないでもないですが、逆に言えばそれほど私を必要としていると言うこと。

 どうしてド新人、かつ無能である私をそこまで必要としてくれているのかは謎ですが、呉と戦争してまで欲してもらえるなんて女冥利、いえ艦娘冥利につきます。

 

 「ちなみに、この人なんっすけどね」

 「どれどれ?この真ん中の人?」

 「そっす。そんで右隣の角刈りが自分っす」

 「それはどうでもいい」

 

 たしかにどうでもいい。

 は、置いといて。

 モヒカンさんが内ポケットから取り出して叢雲さんに渡した写真には、戦車をバックにして15人ほどの人が写っています。

 真ん中と言うことは、鞘に納まった日本刀?を左手に携えて写ってるのが横須賀の提督ですよね。あれ?でもこの人って……。

 

 「うわ!提督が若い!これって何年前の写真?」

 「奇兵隊結成当初っすから……。10年くらい前っすかね」

 「10年前って事は、提督がギリギリ20代の頃か……」

 「深幸ちゃんは見たことなかったんすか?」

 「ないですよ。そもそもあの人って、必要なこと以外は口にしませんでしたから」

 「へぇ、意外っすね」

 

 何が意外なのでしょう?

 雪代所長が提督の昔を知らない事が?それとも、仕事以外の会話がなかったことでしょうか。 

 

 「まあ百歩譲って、アンタたちが横須賀が寄越した迎えってのは信じてあげるわ。でも、なんでタキシードなの?蝶ネクタイまでつけて」

 

 たしかに。

 軍服姿なら、叢雲さんにここまで疑われることもなかったでしょうに。

 

 「オヤジに「養成所の方々、特に雪代君に失礼のない恰好で行け」と言われたから新調したんっすよ。自分ら、これ以外の服は軍服しか持ってないっすから」

 

 失礼のない恰好がタキシードに蝶ネクタイですか。朝潮、勉強になりました。

 ですが、格好は失礼じゃなくても、雪代所長をからかってたのは失礼に値するのでは?

 

 「いや、逆に失礼なんじゃない?少なくとも、私はアンタらを見て不快よ?」

 

 え?違うんですか?

 タキシードに蝶ネクタイは失礼なんですか?

 二人も心底驚いたような顔をしていますから、本気で大丈夫だと思っていたようですよ?

 

 「やめてって何度も言ってるのに、相変わらず私をちゃん付けで呼ぶしね。一応、私ってあなたたちより階級は上なのよ?」

 「べつに良いじゃねぇか深幸ちゃん。鎮守府にいた頃は、しょっちゅうやけ酒に付き合ってやったろ?」

 「そっすよ深幸ちゃん。しかも酒代は俺ら持ちだったっしょ?」

 「だから、深幸ちゃんって呼ぶな!いい加減にしないと提督に報告しますよ!」

 「「すんませんでした!それだけはマジで勘弁してください!」」

 

 よほど提督が恐ろしいんですね。

 雪代所長が提督に報告すると言っただけで、二人は血相を変えて土下座しました。

 

 「さて、アホどもは放っておくとして。朝潮、今までよく頑張りましたね。これでお別れだと思うと、なんだか悲しくなってしまうわ」

 

 正直、雪代所長が私との別れを惜しんでくれるとは思っていませんでした。

 だって私は、雪代所長にご迷惑ばかりかけていたんです。

 今日までの3年間、内火艇ユニットすら使えない私を養成所に居続けられるよう便宜をはかってくださったのも雪代所長ですし、艤装と適合できなかった場合の進路まで提示してくれました。

 

 「追い出そうとしてたクセに?」

 「いや、違うのよ?叢雲。私にできることにも限界があってね?」

 「うっわ。そりゃあ酷ぇよ深幸ちゃん」

 「しばらく見ない間に、随分と薄情になったんすね深幸ちゃん」

 「あったま来た!アンタら二人の事は絶っっっっっっ対に!提督に報告するから!」

 

 え~っと、私はどうしたら良いんでしょう。

 わかりませんが、とりあえずは「深幸スペシャルを食らぇぇぇえい!」とか言いながら二人を蹴ろうとしている雪代所長と、「ちょ!マジになんなよ深幸ちゃん!」「そっすよ!パンツ丸見えっすよ!?」などと言って逃げ回ってる二人には関わらないようにしましょう。

 

 「どう考えても、お別れって雰囲気じゃないわね」

 「そうですね。でも……」

 

 やっぱり、お別れはお別れです。

 今生の別れではありませんが、私が行くのは鎮守府。ひいては戦場です。

 

 「アンタの方が先に配属先が決まっちゃったけど、私もすぐに行くから、それまで死ぬんじゃないわよ」

 「はい、死にません。約束もしちゃいましたし」

 「約束?誰と、何を?」

 「さあ?」

 「さあ?って、アンタねぇ……」

 

 叢雲さんを呆れさせてしまいましたが、私は何を約束したんでしたっけ?

 誰かと大切な約束をしたのは覚えているのですが、誰と、どんな約束をしたのかが思い出せません。

 ここは話題を変えて誤魔化しましょう。

 

 「あ、もし同じ鎮守府に配属になったら、また私の方が先輩になりますね」

 「落ちこぼれが言うようになったじゃない。そうなったら、また「やっぱり私は無能です……」とか言ってるアンタを私が守ってあげるわ」

 

 叢雲さんの頭の艤装がピーンと立った。

 前々から思っていましたが、もしかしてそれって気分と連動してるんですか?

 

 「アンタと過ごしたこの一年はその、たの……楽しかったから、アンタがどうしてもって言うならまたルームメイトになってあげてもいいし」

 

 とか言って、叢雲さんは耳まで真っ赤にしてそっぽ向いちゃいました。

 頭の艤装が忙しなく動いている様子を見るに、照れすぎてテンパってるんでしょう。

 なら、照れ臭いですが私も言いたいことを言わないと。

 

 「1年間ありがとうございました。叢雲さんに励まされてなかったら、私はとっくに挫折してたかもしれません」

 「べ、別に励ました覚えなんてないし……」

 

 叢雲さんの目尻に涙が浮かんで、今にも泣き出しそうなほど肩を振るわせはじめました。

 泣かないでください。私まで泣きそうになるじゃないですか。

 

 「お元気で、配属先が決まったら教えてください」

 「うん、いの一番に教えてあげる……。だから、絶対に死なないで」

 「ええ、お約束します」

 

 私たちは目に涙を浮かべて、それでも必死に笑顔を作って固く握手を交わし、どちらからともなく抱擁を交わそうと……したんですが。

 

 「「うぉぉぉぉぉぉんおんおんおん!」」

 

 突然の泣き声?に、驚いてむしろ離れてしまいました。 

 何事かと泣き声の方を見てみると、そこには雪代所長に踏みつけられている二人。その二人が、当事者の私たち以上に号泣していたんです。

 

 「なんでアンタ達が泣いてんのよ!関係ないじゃない!」

 「そうよ!大人しく潰れてろクソ野郎共!」

 

 叢雲さんが顔を真っ赤に染めて二人に怒鳴ったのもそうですが、雪代所長が鬼の形相で二人を踏みつけるどころかキャラが崩壊してしまったせいで、せっかくの雰囲気が台無しになってしまいました。

 

 「はぁ、なんか冷めちゃいました……」

 

 呆れながらも苦笑して、私は荷物を背負いました。まあ、荷物と言ってもリュックサック一つ分しかないのですが。

 

 「あ、荷物お持ちするっす」

 「いえ、これだけしかありませんので大丈夫です」

 

 雪代教官の猛追から解放されたモヒカンさんの申し出を断って、私は叢雲さんと身嗜みを整え終わった雪代所長に向き直りました。

 お別れって雰囲気じゃなくなりましたが、言うことはちゃんと言わないといけません。

 だから……。

 

 「では、お世話になりました」

 

 と、言いながら手のひらを内側に向けて肘を前に出す海軍式敬礼を二人にしました。二人も答礼してくれました。そして......。

 

 「元気でやりなさい。あ、あと、この二人が道中何かしたら提督に言うのよ?」

 「了解しました」

 「されなくても言って良いんだからね。見た目が不快だったとか」

 「はい」

 

 二人とお別れを交わして、私は車に乗り込みました。

 

 「準備はいいっすか?」

 「はい、お願いします」

 

 私が最後尾のソファーに座ってシートベルトをしたのを確認すると、助手席のモヒカンさんがそう聞いてきました。

 でも、私よりモヒカンさんは大丈夫ですか?モヒカンが天井を擦ってるのですが......。それに、ルームミラー越しに見える金髪さんの顔に青い痣が.....。

 

 「じゃあ、出発すっぞ」 

 

 そう金髪さんが言うと、慣性をほとんど、と言うか全く感じさせないほど緩やかに車が進み始めました。

 これから一日半かけて、私は横須賀鎮守府に向かいます。

 3年過ごした養成所が遠ざかっていくのが名残惜しいですが、私は艦娘としてここを去ることができました。

 

 「これが、私の艦生の始まり......」

 

 快晴ですが、冬の寒さが残る3月1日。

 手を振る叢雲さんと雪代所長に見送られて、私は横須賀鎮守府へ向けて出発しました。

 

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