艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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遠征編ラストです!

次話から、話数が増えたせいで半分仕方なく編成編から小分けした決闘編です!


第八十話 幕間 満潮と大潮2

 

 

 

 

 泊地襲撃から丸一日……かな?

 窮奇とネ級を退けて泊地に戻った私は、どうも桟橋に上がった途端に倒れたようで、痛みと熱さで目を覚ましたら私達に割り当てられた部屋に敷かれた布団で寝かされていた。

 

 「熱い……。痛い……」

 

 ドアの上に掛けられた時計を見ると、文字版の針は2時を指していた。外はスコールが降ってるとは言え明るいから、丸一日寝てたって感じじゃないかな。

 

 「おはよう満潮、気分はどう?」

 「良いように見える?」

 

 声がした方を見ると、敷かれた布団の左横に大潮が座っていた。

 右を向くと、荒潮が私と同じように布団に寝かされている。目に見えるような怪我はないから、きっと深化でも使ったんでしょうね。

 

 「朝潮は?」

 「長門さんに追い回されてる。一応、神風さんに行ってもらったけど……」

 

 いや、ダメでしょそれ。

 絶対に笑いながら眺めてるわよ。

 もしくは長門さんを煽って、暴走した様子を撮影なりしてるかもしれないわ。

 

 「怪我してる朝潮を追い掛け回すなんて、長門さんも酷な事するわね」

 

 たしか、朝潮は右肩を脱臼してたはずだけど、ハメたら走り回れる程度には回復したのかしら。

 

 「高速修復材(バケツ)使ったからすっかり元気だよ。肩以外は、軽い火傷と擦り傷程度だったし」

 「艤装ならともかく、よく司令官が、朝潮に高速修復材(バケツ)を使うのを許可したわね」

 

 うちの司令官は艤装の修復に高速修復材(バケツ)を使っても、艦娘自身には使う事をなかなか許可しない。

 体に問題が起きたって話も聞いた事ないし、他の鎮守府ではバンバン使ってるのによ。

 うちで艦娘に高速修復材(バケツ)が使われるのは死にかけてる時か、早く治さないと作戦に間に合わない時。それと、高速修復材(バケツ)で修復しないと後遺症が残りそうな怪我を負った場合だけ。

 それ以外の時は使用を渋る。

 なんでも、怪我が急速に治るのが体に良いわけがない。ってのが理由らしい。

 

 「満潮にも使用許可が出てるし、使ってるよ。お腹……まだ痛い?」

 「痛いけど……死ぬほどじゃないかな」

 「飲ませるのは無理だったからお腹に直接塗ったけど、完全に治ってないと思う。飲めそうなら持ってくるけど、どうする?」

 

 う~ん、どうしよう。

 このままでもあと数日で、傷痕も残さず回復しそうだけど、早く治すにこしたことはないのも確か。

 でもアレ、苦いのよねぇ……。

 正直あんまり好んで飲みたくはないけど、数日も痛い思いをするよりはマシか。

 

 「飲むわ。痛いのは好きじゃない」

 「わかった。ちょっと待ってて」

 

 大潮が部屋を出て行くのを見送った私は、荒潮の様子を見ようと痛いのを我慢して体を起こしてみた。

 寝てるとは思えないほど顔が歪んでるわ。

 深化を使うと、寝ている間も気分が落ち込んで悪夢ばっかり見るって荒潮から聞いたことがあるから、今まさに悪夢を見てるのかも。

 たった一回の戦闘で隊が半壊なんて情けない……いや、私の方が……。

 

 「よっぽど、情けないか」

 

 身を起こすだけで、泣きたくなるぐらい体が痛む。

 主戦場で起きた出来事に気を取られて被弾するなんて、無様にも程があるわ。

 

 「でも、結果だけ見れば大成功か。いや……」

 

 泊地の防衛自体は成功したけど、私たちの本来の任務はそれじゃない。

 武蔵さんを横須賀まで連れ帰るのが、本来の任務よ。

 そっちはどうなったのかしら。

 主戦場で昇った水柱を起こしたのが長門さんじゃないとすると、アレが出来そうなのは武蔵さんくらい。

 そうだとすると、武蔵さんが出撃したってことになるんだけど……。

 

 「ただいまー。お湯割りでよかったでしょ?」

 

 お盆に湯気が漂う湯呑みを載せて、大潮が戻って来た。

 まあ、別にその通りだから良いけど、お酒じゃないんだからお湯割りって言い方やめない?

 それに、贅沢を言わせて貰うと……。

 

 「甘いものも欲しい……」

 

 飲んだことない子は知らないと思うしさっきも言ったけど、アレって滅茶苦茶苦いのよ。

 どれくらい苦いかって言うと、世界一苦いと言われててギネスにも載ってる安息香酸デナトニウムを一万倍(私基準)にしたくらい苦いの!

 そんな物を湯呑一杯分とか、イジメを通り越して拷問……いや、死刑と同義と言っても過言じゃないわ。

 

 「贅沢言わないの。それにお仕置きも兼ねてるから、文句も言わせない」

 「何のお仕置きよ。お仕置きされる覚えなんてないわ」

 

 とか言いつつ、察しはついてる。

 どうせ朝潮に怪我させた罰でしょ?

 朝潮に一人で窮奇の相手をさせるって言ったときも凄い目で睨んでたし、合流した時も、目に見えて重症な私よりも朝潮の心配をしてたもの。

 

 「朝潮ちゃんに怪我、させたでしょ」

 「怪我は艦娘の一番身近なお友達でしょ?それくらいで何言ってるのよ」

 「一歩間違えば死んじゃってたんだよ?なんで満潮は、そんなに冷静でいられるの!?」

 「一歩間違えれば死ぬなんて、戦場に出てるんだから当然よ」

 

 私は出来るだけ冷静に、大潮に言い放った。

 かたや大潮は目を吊り上げ、唇を噛みしめて怒り心頭って感じね。

 はぁ……。相変わらずムカつく。

 可愛がるのは良いけど、大潮の場合は度が過ぎてる。アンタは、朝潮をバカにし過ぎなのよ。

 

 「満潮は、朝潮ちゃんが死んでもいいって言うんだね」

 

 べつにそうは言ってない。

 私だって、あの子を死なせるつもりなんてない。だけど、あの子がやろうとしてる事を邪魔するつもりもない。

 アンタと違ってね。

 それに今回の怪我、特に右肩は、たぶん姉さんが出てきたからだと思う。

 だって、それ以外の怪我は軽く、致命傷を避けるように負ってたもの。

 

 「ねえ大潮、アンタはあの子をどうしたいの?」

 「何?その質問。()の質問に先に答えてよ!」

 

 あらま、素が出ちゃってるじゃない。

 ってことは、本気で怒ってるのね。

 まあ、アンタからしたら私はとんでもない事をしたんだから、当然と言えば当然か。

 だったら、私も真剣に答えてやろうじゃない。

 

 「別に死んでもいいなんて思ってないわ。でもね、アンタみたいに怪我すらしないぬるま湯に浸からせるつもりはない」

 「怪我したっていい事ないじゃない!痛いし、苦しいし……。そんな思いを朝潮ちゃんにさせたくない!」

 「だったら、なんで私が朝潮に窮奇の足止めをさせるって言った時に反対しなかったの?」

 

 本当に窮奇が来るか半信半疑だったんでしょ?

 いや、大潮はそれを望んだ。

 だって、窮奇が来なければ朝潮は戦域外。泊地よりも安全な場所で、無駄にうろつくことになる。

 だから、睨むだけで反対しなかった。

 朝潮の迎撃が空振ってる間に敵を片付ければ、朝潮は無傷で済むんだもの。

 だけど、それだけで怒ってるんじゃない。アンタが怒ってる本当の理由は違うはずよ。

 

 「それは、確証なんてなかったし……。それに……」

 「ネ級を倒した私が合流すれば、きっと身を挺して守ると思ってた。なのに、そうじゃなかったから怒ってるんでしょ?」

 「じゃ……じゃあ、満潮のその怪我は?朝潮ちゃんを庇って負ったものじゃないの?」

 「これ?単にドジっただけよ」

 

 ホント、ドジったって言える程度で済んで良かった。

 主砲や魚雷の直撃を受けたんなら、怪我どころか死んでいるだろうから、たぶん主砲の至近弾、もしくは副砲に被弾したって感じかしら。

 

 「なら、あの怪我は満潮のせいなんだね」

 

 湯呑みをお盆ごと畳に置いた大潮が、拳を握りしめてプルプルさせながらゆらりと立ち上がった。

 別に私のせいじゃないでしょ……って言っても、今の大潮は聞き分けてくれなそうね。

 だってたぶん……。

 

 「この……バカ!」

 

 ほら、やっぱり。

 激昂した大潮が右の拳を振り上げて、私の左頬を殴った。しかも、力いっぱい。

 まあそれは覚悟してたから良いとして、怪我人をグーで殴るとかどういう神経してるのよ。

 

 「痛ぅ……。私、一応怪我人なんだけど?」

 

 まだ抑えろ。冷静になれ私。

 大潮には一度、ガツンと言ってやらなきゃって思ってたんだ。

 これは、その良い機会よ。

 

 「だから何?朝潮ちゃんに怪我させた罰だよ!」

 「罰……ねえ。それよりアンタ、私の質問に答えてないわよ」

 

 大潮が朝潮をどうしたいのかなんてわかりきってる。きっと大潮はあの子を……。

 

 「五月蠅い!満潮の質問に答える義理なんてない!」

 「義理がないんじゃなくて、答えたくないんでしょ?なんなら、私が代わりに言ってあげようか?」

 

 私は悲鳴を上げる体に鞭打って起き上がり、大潮の正面に立った。

 動揺してるわね。

 殴られた私が冷静なのが、そんなに不思議?

 

 「アンタ、あの子を姉さんの代わりにしたいんでしょ」

 「ち、ちが……。違う!」

 

 いいや、違わない。姉さんが死んでからのアンタは、明らかに無理をしてた。

 前と変わらない笑顔の仮面を貼り付けて、私や荒潮の前でも演技をし続けて来た。

 最初は姉さんの代わりになろうとしたんでしょ?

 慣れない由良さんの手伝いや、駆逐艦たちのまとめ役まで買って出て、アンタは必死に姉さんの抜けた穴を埋めようとした。

 

 「あの子を人形にしようとしてんじゃない。あの子はもう、一人前の駆逐艦よ。アンタのあの子に対する過度な甘やかしは、あの子に対して失礼だわ」

 

 アンタは姉さんの面影を持つあの子を見て、自分が代わりになるんじゃなくてあの子を代わりにする事を思いついた。

 だけど、姉さんみたいに失うのが怖くなっちゃったんでしょ?

 姉さんみたいに死んじゃうと思ったら怖くて、怪我する事さえ許せなくなっちゃったんでしょ?

 

 「あの子だけじゃない。姉さんに対しても失礼よ!冒涜よ!怪我をさせたくない?アンタは最近流行りのモンスターペアレントか!あの子はアンタの人形じゃない!」

 「に、人形だなんて思ってない!私はただ……」

 「ただ、何よ。だいたいアンタ、やる事が中途半端なのよ。怪我もさせたくないなら最初から出撃させないようにすればいいのに、それもしない」

 「出来る訳ないでしょ!?出撃は司令官の命令なんだから!」

 

 いいや、それは建前に過ぎない。

 アンタは危ない目に遭わせたくないと思いながらも、一緒に出撃したかった。一緒に戦いたかった。

 一緒に、海を駆けたかった。

 それなのに怪我したくらいでギャーギャー騒ぐなんて、砂場にお気に入りの人形を持って行って汚れたと文句を言ってる子供と同じよ。

 

 「そう?少なくとも、一回は出撃させずに済む機会があったはずよ?」

 

 司令官が私達を集めて窮奇と戦えるかどうかを質問した時、アンタは言いくるめられた。

 アンタが引かずに無理だと言い続ければ、司令官は別の手を考えたかもしれないのに。

 

 「窮奇が常識外れの戦艦棲姫だった。って、言い訳は効かないわよ。そもそも姫級の戦艦に駆逐隊のみで挑む時点で無謀なんだから」

 

 あの戦闘が決定的だったんでしょうね。

 窮奇に追い詰められた朝潮の話を聞いて、アンタは()()朝潮を失うかもしれない恐怖に憑りつかれた。

 だけど、自分には出撃を拒否させる権限はない。司令官にもその気はない。

 ならどうする?

 どうする事もできやしない。

 ただ、朝潮が無傷で戦闘を終えるのを祈るだけ。

 

 「それに加えて他力本願。自分は祈る事くらいしかしない癖に、私には朝潮の身代わりになる事を望んじゃって」

 「違う!そんなこと望んでない!違うんだよぉ……」

 

 泣いたってやめないわよ。

 今日は本当に頭に来てるんだから。

 アンタは朝潮の覚悟を踏みにじってる。あの子が全てを賭けて成し遂げようとしてる事を邪魔してる。

 それが、私には許せない。

 

 「私はあの子の盾になると司令官に誓った。だけど、守るのはあの子の前じゃない。後ろよ。あの子の目的を邪魔するなら、例えアンタだって殴り飛ばすし、あの子がへこたれそうになったらあの子の尻を蹴り飛ばす」

 

 朝潮が目的を果たすためには、怪我どころか命の危険もつきまとう。

 だけど、出撃しないなんて論外。

 ただ隣に居ればいいだけの愛妾(あいしょう)じゃあ、司令官の心は癒やせない。

 あの子は司令官の恨みを晴らし、傷つけようとする者を片っ端から斬り捨てる剣なんだから。

 

 「盾だって言うなら朝潮ちゃんの身を守ってよ!なんでわざわざ、危険な目に遭わせようとするの!」

 「それじゃああの子の邪魔をしてるのと一緒でしょうが!あの子はね、窮奇を倒すこと自体は目的でもなんでもないの。ただの手段よ!司令官の心を守るって言う目的のためのね!」

 「心を、守る……?」

 「そうよ。自意識過剰って思ってくれてもいいけど、私があの子の身代わりになって死んだら、あの子の邪魔をした事になる。私が死ねば少なからず司令官は悲しんでくれるからね。もちろんアンタや荒潮、他の艦娘が死んでも同じだし、あの子自身が死んでも同じ。朝潮は自分の事を過小評価してるくせに、掲げてる目標のハードルはやたら高いのよ」

 

 仲間を死なせずに敵を倒し、自分も生きて司令官の元に戻る。

 言うだけなら簡単だけど、実際は不可能よ。

 目の届かない所で戦死していく艦娘だっているのに、その全てを守りきるなんて戦艦や空母にだって出来やしない。

 

 「そんなの……無理じゃない」

 「ええ無理よ。でも、あの子はやろうとしてるわ。少なくとも目の届く所に居る艦娘は、気絶させてでも司令官の元に連れ帰るでしょうね」

 

 実際、サンマ漁の時に、あの子は護衛対象の漁船を見捨ててでも曙を連れ帰ろうとした。

 あの子は司令官を悲しみから守るためなら、間違いなく手段を選ばない。

 

 「あの子は姉さんが諦めた事を成そうとしてるの。姉さんは命は守っても、心までは守ろうとしなかったからね」

 「じゃあ、満潮はこれからも朝潮ちゃんを危険な目に遭わせ続けるんだね」

 

 大潮がうつむいて右手に力を込め始めた。

 また殴る気ね。

 顔ならまだいいけど、お腹は止めて欲しいなぁ……。

 今も気を失いそうなほど痛んでるし。

 

 「また殴るの?いいわよ。抵抗なんて出来ないから、好きなだけ殴りなさい」

 「私はもう嫌なの……。もう、大潮型って呼ばれたくないんだよぉ」

 

 大潮は拳を振るうことなく、ポロポロと涙を流して本格的に泣き出した。

 そういえば、朝潮が着任するまでそんな風に呼ばれてたわね。

 そう呼ばれるたびに、アンタが泣きそうになるのを我慢してたのを私は知ってる。

 だけど……私はアンタを助けなかった。アンタも助けを求めなかった。

 

 「満潮にはわかんないでしょ?大潮型って呼ばれるたびに、私がどんな思いをしてたか。他人を遠ざけてた満潮に、私の気持ちなんてわかるわけない!」

 

 わかるわよ。

 わかるから、私は他人を遠ざけた。

 逃げたのよ私は。

 だって大潮型なんて呼ばれたら、姉さんを見殺しにした事を嫌でも思い出しちゃうもの……。

 今思えば、誰かの大切な人になりたくないなんて、そのための言い訳だったのかもね。

 

 そんな私と違って、アンタは我慢し続ける事を選んだ。心が折れそうになっても我慢し続けた。

 そんな時に、姉さんそっくりの朝潮があらわれた。

 朝潮と一緒に過ごす内に、アンタの心は折れちゃったんでしょ?

 我慢する事をやめて、朝潮に寄りかかる事にしたんでしょ?

 朝潮の全てを否定してでも、朝潮を生かし続ける事にしたんでしょ?

 その気持ちはわかるし、同情もする。

 でも……。

 

 「だから何?自分が傷つかないように、朝潮を籠の鳥にでもしたいの?馬鹿にすんな!だったらアンタが守ってやればいいじゃない!それすら人任せのくせに、偉そうに言ってんじゃないわよ!」

 「守ってるよ!守ってるつもりなんだよ!」

 

 自分が傷つかないために守りたい。危険から遠ざけたい。

 だけど、朝潮の気持ちを蔑ろにもしたくない。

 結局どっち付かずのまま、アンタは人に任せた。

 満潮なら命を懸けて朝潮を守ってくれる。

 荒潮なら危険が及ぶ前に敵を倒してくれる。

 自分に、そう言い聞かせて。

 荒潮を突撃させて私を朝潮に付ける八駆の基本戦術も、その気持ちの表れなんじゃないの?

 

 「大潮、横須賀に帰ったら朝潮とタイマン張りなさい。司令官には、私が話を通してあげるから」

 

 ごめんね大潮。

 私じゃあアンタを救ってあげられない。

 散々人任せだなんだと言っておきながら、私にはできることがない。

 でも、あの子ならきっとアンタを救ってくれる。

 我慢しすぎて凝り固まったアンタの心をほぐしてくれるわ。

 叩き割らないかだけが、ちょっとだけ心配だけど……。

 

 「ど、どうしてそういう話になるの?なんで私が、朝潮ちゃんと……」

 

 霞と一緒よ。

 アンタは朝潮にお仕置きされなさい。

 あの子の強さを肌で感じなさい。

 そうすればきっと、今の朝潮の強さと覚悟をその身で体験できるわ。

 

 「でも、朝潮にメリットがないわね……。そうだ。第八駆逐隊の旗艦の座を賭けて、なんてどう?アンタが勝ったら、朝潮を二度と戦場に出さないよう司令官に進言してあげる」

 「そ、そんなの無理だよ……。いくら司令官が私たちに甘いからって、そんな進言が通るわけが……」

 

 ええ、通らないでしょうね。

 でも私には、そもそもそんな進言する気がないの。

 だって、アンタは朝潮に勝てないもの。

 実力だけなら朝潮とタメを張るかもしれないけど、アンタじゃあの子の覚悟を揺るがす事なんてできない。

 問題は二人がこの話に乗るかだけ。

 朝潮は司令官に協力してもらえばその気にさせるのは簡単だから良いとして、問題は大潮

 大潮も本気にさせないと意味がない。

 

 「アンタが勝てば、朝潮は晴れて危険とおさらばよ。後は着せ替え人形にするなり、抱き枕にするなり好きにしなさい」

 

 私は崩れそうになる足腰に鞭打って、途切れそうになる意識も繋ぎとめて……。

 

 「アンタにとって最初で最後のチャンスよ。アゲアゲで行きなさい」

 

 と、大潮に言い放った。

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