第八十一話 同じくらい、愛してるってことでしょ
「さて、みんなに集まってもらったのは他でもない」
と、居酒屋 鳳翔と言う名の食堂のカウンターに集まった面々……と、言っても私を含めて四人なんだけど。に、切り出したのは横須賀鎮守府が誇るロリコン……もとい、守護神 長門よ。
単艦で四凶の一角を落とし、泊地防衛に多大な貢献をしつつ武蔵も連れ帰った私は、休む間もなくここに連行されたってわけ。
「で?書類仕事と叢雲を鍛えるので忙しい私を引っ張って来て、何の話があるわけ?」
とは、白い士官服姿でイライラしてるのが一目でわかるほど不機嫌な天奈。
これで長門が下手なことを言おうものなら、腰に下げてる得物で斬りかかりかねないわ。
「この面子で集まるのは個人的に嬉しいのですが……。まだ仕込みの途中なので、大した物は出せませんよ?」
と、暗に来るのが早いと言ったのは鳳翔さん。
どうやら長門は、今日この時間に来るとは一言も言ってなかったみたいね。
「かれこれ一週間近く前か。タウイタウイ泊地防衛戦の際、私は各々の通信を聴きながら戦っていたんだが……」
だから何?
今日はお父さんの晩御飯を適当に用意して、猫の目で角ちゃんお手製の料理を食べる約束をしてるんだから、早く言ってちょうだい。
ほら、天奈と鳳翔さんも「前置きはいいから早く言え」って言わんばかりの顔してるでしょ。
「その折にとても、これでもかと言うほど気になる台詞が飛び込んできた」
だから早く言え。
早くしないとお父さんが「飯はまだか!」と怒りかねないし、角ちゃんも晩御飯を食べちゃうじゃな……。
「曰く、私を食べて良いのは角ちゃんだけよ。と、神風は恥ずかしげもなくそう言ったんだ」
「それは聞き捨てなりません。確かなのですか?」
「角ちゃんって、たしか馬鹿コンビのモヒカンの方よね?え?神風とあの世紀末生物って、そういう仲だったの?」
食い付き良いわね!
いや、確かに言ったけど、そこまで食いつかなくても良いんじゃない!?声を大にしてフィィィィィッシュ!って、言いたくなるくらいの食い付きっぷりなんだけど!?
「確かだ。神風が何をどうとち狂ってそんなことを言ったのかもわからないし、実際にそういう仲なのかも不明だ。だから、天龍と鳳翔を交えて問い質そうと、横須賀に着く今日まで我慢していたんだ」
「ナイスな判断よ長門。さすが、横須賀の守護神の異名は伊達じゃないわ。あ、あと、今の私は辰見」
「天奈さんの言う通り。こんな面白そ……もとい、重要かつ秘密にしなければならない話題は、旧知の間柄でしかできませんからね」
いやいや、べつに隠すほどのことでもな……お父さんには秘密にしなきゃいけないけど、べつに話し合うほどのことでもないでしょ。
て言うか鳳翔さん。
長門も天奈もスルーしたけど、面白そうって言いかけなかった?
「で?どうなんだ。神風」
「どこまで行ってんの?まさか、ヤッちゃったの?あのゴキブリよりしぶとそうな世紀末生物と!?」
「天奈さん。女性なんですから、少しはオブラートに包んだ言い方をしてください。せめて繋がったのか?とか、
あれ?鳳翔さんってツッコミ待ちしてんの?
オブラートなんかじゃ包みきれないほどストレートになってる!って、ツッコんでほしいの?
ツッコまないわよ?
「答える気は無し……か。だが、二人が良い仲なのは確定的に明らかだ」
「どういうこと?私を食べて良いのは角ちゃんだけよ。って、どう聞いても意味深にしか聞こえない台詞以外に、長門はそうだと断定できる情報を得てるの?」
「そうなのですか?ならば、この際ですから開示してください。非常に気になります。いえ、神風さんは見た目は子供ですが中身は大人のリアルコナン君ですから、好きに恋愛すれば良いと思っていますが相手が相手です。なので、かつての横須賀愚連隊年長組の一人としては、詳細を聴かずにはいられません!」
どうして鳳翔さんが一番乗り気なの?
あまりの剣幕に、長門と天奈が若干引いてるわよ?
あ、ちなみに横須賀愚連隊とは、長門を名目上の旗艦として私が指揮を執ってた艦隊で、メンバーはここにいる四人プラス、天奈の実の妹であり艦型的にも妹だった龍田を加えた五人で編成されてたわ。
ついでに説明しとくと、結成当時は十代だった私と辰見姉妹が年少組で、二十歳過ぎてた長門と鳳翔さんが年長組ってわけ。
「まずはコレを見てもらおう。さる筋から提供してもらった、満潮と荒潮の水着写真だ」
「なんでこんな物持ってんの?盗撮でもした?」
「盗撮とは失敬だぞ天奈。これは正規の値段で購入した、誰に咎められることもない合法品だ」
「いや、艦娘の写真、特に水着などの写真を金銭でやり取りするのは非合法ですよ?普通に憲兵さんに捕まります」
鳳翔さんの言う通り。
大本営から許可されていない艦娘の写真や映像を、金銭でやり取りするのは立派な違法行為。
一応、広報目的で立ち姿やちょっとした水着姿を披露することはあるんだけど、それはあくまで広報のため。
際どいのや明らかに性的なのはNGで、100%健全と言えるような物しか出回ってないわ。
ちなみに、長門がどこからか購入した二人の写真は完璧にNG。って言うか、一般人の写真でもNGなんじゃない?
だってJS高学年からJCくらいの年頃にしか見えない二人の水着写真よ?こんなのを大っぴらに売ってたら大問題でしょ。
「で?それが神風とゴキの仲にどう関係する訳?」
「良い質問だ天龍。この、満潮が荒潮にサンオイルを塗っている写真の隅に、赤い布みたいな物が写り込んでるのがわかるか?」
「わかるけど……これが何だってのよ。あと、今の私は辰見」
「実はな、これも水着なんだ。しかも、着ていたのは駆逐艦だ」
んん?あの色って、私が持ってる水着と同じような気がする。いや良く見ると、他の写真にも赤い水着らしき物が写り込んでるわね。
それに、この写真の光景には見覚えがあるような……。
「長門さん。まさか、その駆逐艦とは……」
「察しの通りだ鳳翔。この水着の主は、神風だ」
あ、思い出した。
これって、長門と朝潮がタイマン張った前の日に、角ちゃんと飛車丸が盗撮してたヤツだわ。
まさか、二人に盗撮を依頼したのは長門なんじゃ……。
「で、だ。神風の写真も譲ってくれと頼んだんだが、くだんのモヒカンが売ってくれなくてな。これは怪しいと思って、もう一人の撮影者に探りを入れてみたんだ」
「へぇ、それで、もう一人はなんて?」
「曰く、お嬢の写真は諦めろ。アイツに何言おうがいくら積もうが、お嬢の写真は絶対に売っちゃくれねぇよ。だ、そうだ」
「なるほど。惚れた女の写真は他人には見せないってことね。ゴキのクセに独占欲強すぎ」
いや、普通でしょ。
それより天奈。
今さら感はあるけど、いくら見た目が好みじゃないからってゴキ呼ばわりはないんじゃない?
天奈たちは知らないでしょうけど、角ちゃんって普通の髪型して眉毛生やせばイケメンの部類だからね?
ハッキリ言ってモテるから!
だからわざわざ……いや、これはやめとこう。
「神風さん。ゴ……彼を貶められて怒るくらいなら、何か言った方が良いと思いますよ?」
「ねえ鳳翔さん。今、ゴキって……」
「言ってません。言い直しました。なので、早く説明してください」
言おうとしたんじゃないのよアラサー軽空母!
は、置いといて。
確かに口を挟まないと、どこまでも角ちゃんが貶められるだけね。
じゃあ、かなり恥ずかしいけどあの話をするしかないか。
「問題の台詞だけどさ。あなたたちが思っているような意図があって言った訳じゃないわ」
「ほう?あの台詞で、私たちが思っているような意味じゃないと?」
「性知識がまるでない子供でもない限り、間違いなく意味深の方を思い浮かべちゃうけど?」
「プレゼントは私。並みにストレートな台詞ですが、違うのですか?」
「うん、違う。あれは意味深もクソもなくて、そのまんまの意味なの」
そのまんま?と、三人が声を揃えて言って首を傾げたけど、本当にその通りの意味。
饕餮が私を食べるとか言い出したせいで、昔角ちゃんとした約束を思い出しちゃったからつい口に出しちゃったの。
まさかそれを、長門に聴かれてたとは思ってなかったけどね。
「もう10年近く前、私が呉に行くよりも前のことなんだけど……」
当時、神風になる前から奇兵隊に同行してた私は、神風になったあとも奇兵隊と一緒に戦ってた。
で、問題は当時の陸軍の奇兵隊への扱い……いえ、奇兵隊への仕打ち。
元々、二十代っていう若さで大佐になってたお父さんは陸軍の上層部から嫌われまくってたんだけど、私が艦娘になろうと奇兵隊を抜けた際に、お父さんが当時の海軍大本営、今の呉鎮守府の前で土下座をしたのが知られて補給を絞られるほど敵視されるようになった。
その結果、奇兵隊は餓死者を出すほど、食うに困る事態がしばらく続いたの。
「話には聴いているが、本当に酷かったらしいな」
「ええ、今でこそ筋肉が服着て歩いてるような奴らだけど、あの頃は痩せ細って骨と皮だけだったわ」
あの台詞の元となった約束をしたのは、それが限界を迎えつつあった頃だったわ。
限界が来る前に呉に呼び出されたからそうはならなかったけど、あのままだったら約束通りになっていたかも知れない。
「私は奇兵隊で一番弱い役立たずだった。だから、角ちゃんにこう言ったの。もし私が死んだら、角ちゃんが私を食べて。って」
「ちょ、ちょい待ち!じゃあ何?あの台詞って、本当にそのままの意味なの!?」
「そうよ。今も昔も、私を食べて良いのは角ちゃんだけ。そして逆も然り。角ちゃんが私より先に死んだ時は私が食べる。そう、約束したの」
さすがに、今の戦況ならそんなことしないと思うけどね。
でも、三人にはちょっと刺激が強すぎたみたい。
神妙な顔して絶句してるわ。
「すまない。気軽に聞いて良いことではなかった……」
「いや、べつに……」
「ごめん神風、本当にごめん……」
「ちょ、天奈まで……」
「あの頃の神風さんは、確かに酷かったですものね。それこそ、そんな約束をしていても不思議じゃないくらいに……」
「いや、あの……」
うわぁ、このお通夜みたいになっちゃった雰囲気ってどう対処したら良いんだろう。
あ、そもそもこの集まりは、くだんの台詞に端を発した私と角ちゃんの関係を聞き出す会。
極端な言い方をすれば恋バナをする会。
私と角ちゃんの今の関係を話せば、この葬式みたいな雰囲気も……。
「ところで神風さん。あのゴ……彼とはどこまで行ったんですか?」
「どこまでって……。ここから一番遠いとこだと山ぐ……」
「そういうボケはいりません。私が聞きたいのは男女のABC。もっとストレートに言うなら、ヤったかヤってないかです」
え?いや、うん……。
そういう話を遠回しにして場を和ませようと考えたけど、神妙にしてた鳳翔さんがぶっこんで来るとは思わなかったわ。
って言うか鼻息荒くない?もしかして、興奮してるの?
「待て待て鳳翔。さすがに、この流れでその話をするのは……」
「いいえ、自然な流れです。考えてもみてください長門さん。神風さんとゴ……彼は、もしもの際に自らの体を食料として提供するという、特殊すぎる約束を交わしている仲ですよ?普通の関係なはずがありません」
「いや、だからさ、鳳翔さん。その話を聴いた直後に、二人の仲を根掘り葉掘り問い質すのはどうかって話なわけで……」
「甘いです天奈さん!天奈さんは艦娘を辞めているので娯楽に困らないかもしれませんが、私と長門さんは現役の艦娘なんです。娯楽に飢えてるんです!」
おいコラ。
人の色恋沙汰を娯楽呼ばわりするんじゃない。
でもまあ、当事者になると面白くないけど、艦娘にとって色恋沙汰は最大の娯楽だから、鳳翔さんの気持ちもわからなくはない。
ないけど……さすがに空気が読めてなさすぎる。
もしかして、鳳翔さんが飢えてるのは娯楽じゃなくて恋愛。もっとハッキリ言うと男に飢えてるんじゃ……。
「で、どうなんです?話してくれるなら、今日はどれだけ飲み食いしてもタダで良いです」
ほう?
ただでさえ儲けが少ないのに、どれだけ飲み食いしてもタダで良いと?
正にタダより高いものはないって感じね。
長門と天奈はぼろ儲けだけど、それって私が勘定を払うのと同じじゃない。
だったらここは、当たり障りのないことを言って煙に巻き、タダ飯とタダ酒を好きなだけ……。
「一応言っておきますが、ここにいる三人は全員恋愛経験があります。なので、下手な誤魔化しは通用しませんよ」
「え?いやいや……え?三人とも経験あるの?」
「むしろ、何故ないと思った?私と鳳翔は、艦娘になる前は普通に社会人をしていたし、その前は学生だった。天奈も艦娘になるまでは学生だったんだから、恋愛の一つや二つはしているさ」
マジで?あ、マジっぽいわね。
天奈でさえ、当然でしょみたいな顔してるわ。
「じゃあ、三人とも誰かとヤった経験があるの?」
「ノーコメント」
「同じくノーコメントです」
「まあ、私はもちろん、長門と鳳翔さんも処女ではないわね。そういうのって、なんとなくわかるのよ」
意外だわ。
意外すぎて言葉が出てこない。
いや、三人とも美人に違いないんだけど、昔の長門とかは気弱すぎて男を怖がりそうな奴だったし、鳳翔さんは男が気後れして逆にモテないんだと思ってた。
天奈なんか、艦娘時代は一人称がオレで中二病を患ってたから、男に敬遠されてると思ってたわ。
「だったら、お互いの恋愛話で盛り上がれば良いじゃない。なんで経験がない私の話を聞きたがるのよ」
「現在進行形だからに決まってるだろ」
「長門さんの言う通り。終わった話より、今の話の方が面白いからです」
そういうもの?
私には、三人の恋愛経験を聞く方が面白いと思えちゃうんだけど……って、なぜか天奈がそっぽ向いちゃったんだけど?
まさか、天奈も現在進行形で恋してるんじゃ……
「ねえ、天奈……」
「やめて。私を巻き込まないで」
その反応はイエスと同じでは?
は、置いとこう。
これで貸しを作っといて、今度こういう機会があった時に徴収しよう。
ってことで、まずは鳳翔さんの質問に答えるとしますか。
「え~っと。一応、本番直前までは行ったかな」
「ふむふむ。大方、神風が痛がって中断した。と、言ったところだろう」
「頬を赤く染めてうつむき、掠れそうな声を捻り出すように言った様子から本当だと思われます。では長門さん。行きましょうか」
「ああ、行こう」
ん?なんか答えた途端に、二人とも目をキュピーン!って音が聞こえそうな感じに光らせてどこかに行こうとしてるんだけど……。
「待ちなさい二人とも。まさかとは思うけど、奇兵隊の兵舎を攻撃する気じゃないわよね?」
「その通りだ天奈。さあ、お前も早く来い。神風を手篭めにしようとしたゴキブリを駆除しに行くぞ!」
「許せません……。確かに神風さんはいい歳した大人。ですが!見た目は子供!そんな子供に、あの世紀末ゴキブリが覆い被さり、あまつさえ舐めたり揉んだりつついたりしたかと考えるだけで脳みそが沸騰します!100回は殺します!」
あ、ヤバいこれ。冗談抜きでヤバい。
いやまあ、角ちゃんなら二人を無力化するなんて簡単にできるでしょうけど、それはあくまで艤装を装備してない状態。
今の二人なら、艤装を持ち出して強襲するくらいやりそうだわ。
「ちょ、ちょっと二人とも……」
「心配するな神風。お前の悔しさと屈辱は、私たちが晴らしてきてやる」
「あんなのに体を好き勝手に貪られて辛かったでしょう?悲しかったでしょう?ちゃんと仇は取ってあげますから、コレでも飲んで待っていてください。あ、冷蔵庫の中におつまみも入ってますから、適当に摘まんでください」
と、私に有無を言わさず言いたいことだけ言って、二人は食堂を出て行った。
これ、角ちゃんに連絡しといた方が良いかな。
ああでも、私って携帯電話を持ち歩いてない……って言うか使えないから、連絡のしようがないか。
「ねえ、神風」
「ん?なに?天奈」
「いやその、鳳翔さんが置いてった酒を普通に飲み始めてるってことは、あの二人がカチコミしても平気だって信頼してるってわかるんだけど……」
けど、何?
妙に説明口調だったのが気にはなるけど、概ね天奈が言った通りよ。
角ちゃんはあの二人に襲われたって負けない。
だって、角ちゃんは奇兵隊のNo.3に甘んじてるけど、強さだけならお父さんでさえ術を使わないと勝てないし、左門兄でさえ、条件次第じゃ相手にならないほど強い。
そんな人の心配なんて、するだけ無駄だからお酒を飲むことにしたの。
「良いの?好きな人が襲われるのよ?」
「うん、良いの。だって、角ちゃんは負けないもん」
「へぇ、本当に信頼してるのね。やっぱ、愛してるから?」
「う~ん……」
愛してるか。
と、問われたら、何て答えたら良いかわからなくなる。
いや、愛してないわけじゃないのよ?
角ちゃんは私が抱かれても良いと想う唯一の人だもの。それで愛してないなんて言ったら、私はとんだビッチだわ。
でも、言葉にすることができない。
口に出そうとすると、どうしてもお父さんの顔がチラついちゃうの。
申し訳なくなっちゃうの。
「私って、ファザコンなのかなぁ……」
そう思ったら、思わずそうぼやいちゃった。
そんな、答えになってない答えを言った私に天奈は……。
「同じくらい、愛してるってことでしょ」
と、微笑みながら言ってくれたわ。
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