艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第八十三話 絶対、財布を空にしてやるんだから!

 

 

 

 

 「で?朝潮がコンバート改装できなかったのはどうしてなの?」

 

 執務室を出た後、部屋に戻って胡麻を入れた擂り鉢と擂粉木を持ち出して工廠に赴いた私が見たのは、悔しそうに泣いてるのを、何故か私より先に工廠に来てたお父さんと整備員さんに慰められている朝潮の姿だった。

 うん、そうだと思いたい。

 

 「わからん。その場で妖精に確認したが、妖精は「改装は終わった」と言うばかりだった」

 

 私には何もいない空間に向かって、独り言を言ってるようにしか見えなかったけど、あそこに妖精が居たのね。

 ついに呆けたのかと思ったわよ。

 

 「制服はもちろん、数値上の変化も恐らくなし。間違いなく、改二のままだ」

 

 制服も艤装の一部だもんね。

 ちなみに妖精さん特製の制服は、見た目とは裏腹に防風、防寒、防水、防刃、防弾、しかも、夏場は何故か風通しが良くなる軍人が羨む高性能戦闘服。

 さらに、色物だろうがなんだろうがお構いなしに洗濯可能な、主婦が泣いて喜びそうなオマケまで付いてるわ。

 

 「練度は?足りてなかったんじゃない?」

 「いや、足りてなければ、そもそも改造ボタンが点灯しない。改二丁に必要な練度の85はとっくに超えているはずだ」

 

 改造ボタンって何?

 と、聞いたところで、提督にしか見えないボタンなんだろうから聞いても仕方がないか。

 でも不思議な話ね。

 練度を満たし、妖精は改装の完了を告げているのに見た目や数値に変化なし……か。

 色々と規格外な子だけど、変な所まで規格外じゃなくてもいいのに。

 

 「あの子、泣いてたわね」

 「改装は私の命令だ。それを達成できなかった事が、悔しくて仕方なかったんだろう」 

 

 慰めるのに苦労してたもんねぇ……。

 「私はやっぱり無能です!司令官の顔に泥を塗ってしまいました!」って泣き叫んでた朝潮を、お父さんや整備員さんたちがオロオロしながら慌てふためいて奇行を繰り返しながら朝潮を慰めてる光景を理解するのに、誰に言うともなく説明を求めちゃったくらいだもん。

 例えば、退役間近くらいの年老いた整備員さんが、形容し難い奇怪な踊りを披露してたのが特に印象に残ってるわ。

 お父さんが「あなたはまさか……キタの町の出か!」とか言ってたけど、キタの町ってどこ?その町の人って、みんなあの気持ち悪い踊りが踊れるの?

 は、もういいか。

 

 「あの後どうしたの?朝潮を連れて何処かへ行ってたけど」

 

 子供のように……って言うか子供か。泣き続ける朝潮を連れたお父さんが工廠を出るのを見送ってから買い物に行き、部屋に戻ったら、すでにお父さんはいつもの着流し姿でくつろいでいた。

 あの様子だと、そんなに遠くには連れて行ってないと思うけど……執務室かしら。

 

 「別に?どこでもええじゃろ」

 

 隠した?しかも素に戻った。

 怪しい。怪しすぎる。まさか、朝潮が傷心なのに付け込んで如何わしい事をしてたんじゃ……。

 

 「なんだその疑うような目は。何もしてないぞ」

 「だったら隠すことないじゃない。隠すから怪しく思えちゃうのよ」

 

 私と目を合わそうとしない。

 私にバレるとまずい所に連れて行ったってこと?

 この人は筋は通すから、間違っても傷心の朝潮を手籠めにするような事はしない。

 朝潮から迫ったらその限りじゃないかもしれないけど、あの子にそこまでする度胸はない。

 いや、やるかもしれないわねあの子……。

 

 「もうええじゃないか、済んだ事だ。朝潮の機嫌も直ったし問題ない」

 

 朝潮の機嫌が直った?

 あれだけ泣きじゃくってたのに?

 甘味でも御馳走したのかしら。でも、それだけで機嫌が直るとは思えないんだけど……。

 

 「あれ?羊羹が減ってる……」

 

 朝潮の機嫌が治った理由を考えながら食材を冷蔵庫に仕舞ってたら、入れておいた間宮羊羹が明らかに減ってるのに気づいた。

 食後の楽しみに取っておいたのに、四分の一くらい減ってるわ。

 二切れづつ食べたとして、ざっと二人分か……。

 

 「……」

 

 横目でちゃぶ台の前に座ってるお父さんを睨むと、ほとんど後ろを見るように顔をそむけた。

 このクソ親父。よりにもよって、この部屋に朝潮を連れ込んだわね。

 でも、これで謎は解けた。

 お父さんのプライベートプラス、間宮羊羹で朝潮の機嫌が直ったんだわ。

 

 「変態」

 「待て神風!本当に何もしちょらん!羊羹を摘まみながら話をしただけだ!」

 

 でも、私の羊羹は食べたんでしょ?

 お父さんがねだっても買ってくれないから、しかたなく定期的に駆逐艦寮で開かれる闇市で、ようやく競り落とした私の間宮羊羹を。

 すっごく高かったのよ!?

 

 「信じらんない!私の羊羹食って朝潮とイチャコラしてたの!?この部屋で!?何考えてるのよこの変質者!ロリコン!もしかして、あの布団を使ったんじゃないでしょうね!」

 「待て待て待て!羊羹は弁償するし本当に話をしてただけだ!お前が疑っちょるような事は何もしちょらん!」

 「羊羹なんてどうでもいいわよ!この部屋に朝潮を連れ込んだのが気に食わないの!」

 

 私とお父さんの部屋に連れ込むなんてどういう神経してるのよ。

 お父さんのプライベートだけじゃなくて、私のプライベートもゴロゴロしてるのよ?

 その部屋に連れ込むなんて……。

 絶対許さない!

 

 「いや、ここ俺の部屋じゃろうが!何怒っちょんじゃお前は!」

 「私の部屋でもあるの!別にあの子の事は嫌いじゃないけど、知らない内に色々見られちゃうのは嫌!」

 

 いくらあの子がお父さんのお気に入りだろうと、私が憎からず想っていようと嫌なものは嫌!

 ()()()()()()の生活を勝手に覗かれるのは我慢できない!

 

 「司令官のためならこの朝潮、何でもする覚悟です!とか言わせながら抱いたんでしょ!」

 「抱いてない!つか、何を言うちょんや!?」

 

 何を?勝手に朝潮を部屋に上げた罰よ。徹底的に追い詰めて、部屋から叩き出してやる!

 

 「さあ建造の時間だ!準備はいいな朝潮!とか言いながら犯したんでしょ!」

 「お前何言ってんの!?頭大丈夫か!?」

 「先生がマニアックな言葉責めを身につけてる……。末期だったのね」

 「何の末期だ!ロリコンの末期ってそうなるんか!?」

 

 それは知らない。

 でも、なんかありそうじゃない?そういう(たぐ)いのエロ本で。

 

 「まあ先生も独り身になって長いからね。たまに女を抱きたくなる事自体は、私も全然否定しません!」

 「あ、ああ……。ん?いや!何もしちょらんから!」

 

 そんな事はわかってるのよ。

 今言ってるのは憂さ晴らしを兼ねた嫌味よ。

 なんなら、ほんの何ヵ月か前までは大淀とよろしくヤってたのだって知ってるし。

 

 「接し方が悪かったのかしら。夜ゴソゴソしてても、気づいてないふりしてたのに……」

 「しちょらんけぇな!?さすがに、お前のすぐ横ではせんぞ!?」

 

 当たり前よこのクソ親父!

 隣でソロプレイなんかしようものなら、その場でちょん切ってやるわよ!

 

 「とにかく!そういうやらしい事を朝潮にしたんでしょ!」

 「しちょらん!」

 

 なんだか、本当にしたんじゃないかと思えてきたわね。ああ!イライラする!

 

 「お、おい神風……。なんで刀を持って近づいてくる?」

 「なんで?幼気(いたいけ)な少女を傷物にした、その単装砲をぶった斬るのよ!」

 「!?」

 

 私は抜刀術の構えのまま、ジリジリと距離を縮めた。大丈夫よ先生。痛くなんてしないわ。

 一瞬で斬り落としてあげるから!

 

 「ふざけるなこのバカ娘!まだ現役なのに、斬り落とされてたまるか!」

 

 往生際が悪い。

 って言うか、現役だから斬るんでしょうが!

 艦娘達の貞操と、私の心の平穏のためにその腰の主砲を差し出しなさい!

 

 「逃げようったって無駄よ。私、本気だから」

 

 壁際をジリジリと部屋のドアへ向かって移動してるわね。でも無駄。

 こんな一辺10メートル足らずの部屋じゃあ、どこに逃げたって射程内。それはお父さんもわかってるでしょ?

 だから観念して、そのT督をちょん切らせろ!

 

 「わかった……。俺も男だ。観念しよう」

 

 さすがはお父さん。潔いわ。

 もうすぐ男じゃなくなっちゃうけどね。

 

 「だが、いいんだな?俺は息子を斬り落とされたら、女になる道を選ぶぞ」

 

 は、はぁ!?

 女って……ニューハーフにでもなろうって言うの?

 その厳つい顔と体で!?

 

 「もう~神風ちゃんったらお転婆なんだからぁ~。とか言うぞ!いいんだな!」

 

 お父さんが体をクネクネさせながら、気持ち悪い女言葉を言い出した。

 やめて、マジキモイ……。

 

 「化粧してセーラー服も着て、深海棲艦ってチョベリバじゃなぁい?大破撤退したらチョバチョブだしぃ~って言っていいんだな!」

 

 90年代のコギャルか!

 そうよね!お父さんの歳だとちょうど学生時代だもんね!

 うわぁ、お父さんのコギャル姿を想像したら吐き気がしてきたじゃない……。

 厚化粧にセーラー服姿のコギャル語で話すオッサンとかおぞましすぎる!

 そんなのもう人間じゃないわ。バケモノよバケモノ!

 

 「それでもええっちゅうんなら斬れ!さあ斬れ!ほら!ほら!」

 

 こ、この変態親父!

 開き直って両手を腰に当てて股間を前に突き出して来やがった!

 私は見た目だけなら幼気(いたいけ)()少女なのよ?

 その私に向かって、股間を突き出しながら迫るなんて逮捕案件よ!

 いや、死刑にされたって文句は言えないわ!

 

 「よく覚えておけ神風。斬っていいのは斬られる覚悟のある奴だけだ!」

 

 この状況で言っていいセリフじゃない!

 気づいてないの!?キリッとした顔してるけど、セリフと行動がかけ離れ過ぎてるわよ!?

 って言うか何に斬られるの!?

 「俺の股間にあるのは女百人斬りの自慢の名刀だ!」とでも言う気?

 やかましいわ!!

 

 「さあどうする?斬るのか?斬らんのか?ホ~ラホ~ラ。斬ってみろホ~ラ」

 

 ついには頭の後ろで両手を組んで、腰だけゆっくりと前後に振り始めた。

 私コレ知ってる。黒のレザースーツ着たハードなゲイの人のマネだ。

 ってそうじゃない!

 クソ!攻守が逆転してしまった!

 これでは、斬っても斬らなくても私の負けになっちゃう!

 

 「どうした神風。腰が引けてるじゃないか。怖じ気づいたのか?ん?」

 

 腰も引けるわ!

 厳ついオッサンがクネクネと腰を振りながらにじり寄って来てるのよ?

 この状況で喜べるのは、かなり特殊な訓練を受けた変態だけよ!具体的に言うと朝潮!

 

 「早くしないとどんどん速度が上がっていくぞ?いいのか?」

 

 お父さんはそう言いながら、腰を振る速度を上げ始めた。

 完全に悪ノリしてるわね。

 ここ何年かは提督と言う立場にあるからか滅多にやらないけど、悪ノリした時のお父さんは本当に(たち)が悪い。

 修得してる無駄に高レベルな体術を、惜しげもなく悪ふざけに使用してくるのよ?

 例えば、全力疾走して逃げる人をブリッジしたまま追い回したり、サムズアップしたまま残像が見える速度で人の周りを回り続けたりと、やられた人にトラウマを植え付けそうな事を全力でやるんだからこの人。

 

 「さあ、そろそろ本気を出そうか」

 

 腰を振る速度がまた上がった。

 速度が上がりすぎてスローモーションみたいに見えるわ。

 いやまあ、凄いとは思うんだけど、それ、腰大丈夫?

 後で痛いって言っても揉んであげないわよ?

 じゃなくて!

 この状況をどうするか考えないと!

 まずは現状の把握。

 今の私には打つ手がない。やられたい放題よ。

 このままだと、お父さんの腰が壊れるよりも先に私の心がへし折られる。って言うか、すでに泣きたい。

 だって怖いし気持ち悪いんだもん。

 行動は奇怪なのに顔は大真面目なのよ?

 これを見て平静を保てるのは、この人と同レベルの変態だけよ!私みたいな純真無垢な美少女には無理!

 

 「こ、来ないで……」

 

 何か手はない?

 そうだ。たしか満潮との約束があったはずじゃ……ダメだわ。鳳翔さんが店を開くまであと1時間はある。

 この睨み合った状態をあと1時間もキープするの?

 絶対無理!

 どうしようどうしよう!

 殴って気絶させる?

 それもダメ!悪ノリが最高潮に達してスペックが跳ね上がってるお父さんが相手じゃあ、海上で紅備えを使っても勝つ自信がない!

 

 「終わりだ、神風!」

 

 え?終わっちゃうの?

 私はこんな所で、こんなバカみたいな終わり方をするの?

 

 「い、嫌……」

 

 そうよ。絶対嫌よ!

 こんなアホ丸出しな終わりかたをするくらいなら、力及ばず敵に討ち取られる方がまだマシだわ!

 

 「そんなの絶対!嫌ああぁぁぁぁ!」

 「ふぉっ!?」

 

 ふ、ふぉ?

 何?今の。お父さんが言ったの?それに手に変な感触が伝わってる気もするわ。

 確かめるために、無意識に突き出した刀の柄を伝って来た妙に柔らかい感触を左手に感じたまま恐る恐る目を開けてみると、私の頭の少し上くらいにお父さんの顔があった。

 信じられない物でも見るように見開かれた瞳と、キスでもするかのように突き出された唇。

 柄の先を見てみると、柄頭が完全にお父さんの股間にめり込んでいた。

 これまさか……潰しちゃった?

 

 「あ、あの、お父さん?だいじょう……?」

 

 言い切ることが出来なかった。

 大丈夫?と言い切る前に、白目をむいたお父さんが倒れかかって来た。

 

 「ちょっと……!きゃぁ!」

 

 私より倍以上重いお父さんを、私の爪楊枝のように細くひ弱な腕が支えきれるはずもなく、そのまま押し倒されるように……と言うか押し倒された。

 

 「痛い……重い……」

 

 ちょうど私の胸の谷間辺りに、お父さんが顔を埋めた状態だわ。そんな場所に頭が乗っかってるもんだから息がしづらいし、鼻息がこそばゆい。

 

 「このスケベ親父。私の胸に顔を埋めるなんて、日本人の半分を敵に回すわよ」

 

 半分は言いすぎかな?

 精々三分の一くらいかしら。

 まあそれは置いといて、さっさと抜け出さないと本当に圧死しそう……。

 

 「んしょ……っと。あ……」

 

 抜け出せたのはいいけど袴が脱げちゃった。

 しかも胸元にあったお父さんの鼻に引っ掛かって、着物も着崩れて肩が完全に出ちゃったわ。

 本当に乱暴されたみたいな格好になったわね。

 まあ、それは直せば良いだけだからいいとして……。

 

 「このままにしとく訳にもいかないか」

 

 普段なら触れることすら危険だけど、これだけ見事に気絶して、オマケに硬直してたら大丈夫のはず。たぶん。

 と、判断した私は、とりあえず様子を見ようとお父さんの右腕を反対側に引っ張って仰向けにしようと試みた……けど、重っ!

 いったい何キロあるのよ!重い~~!

 

 「うわっ!」

 

 お父さんの体が真横を向いた途端、そのまま倒れて私も巻き込まれてちゃぶ台に頭を打ち付けてしまった。

 マジ痛い……。私の形の良い頭にタンコブ出来ちゃったじゃない!

 

 「痛たたた……。ん?」

 

 痛みが引くにつれて、お尻から伝わって来る変な感触が気になりだした。

 それにこの体勢……。

 

 「これじゃあ、私がお父さんを襲ってるみたいじゃない」

 

 仰向けで白目をむいて気絶してるお父さんに、半裸と言われても反論できないような格好の私が馬乗りになっている。

 この体勢はアレね。

 言葉にはしたくないけどあの体位だわ。

 そんなつもりは全くなかったのに、どうしてこんな事に……って、待てよ?

 と、言うことは……。

 

 「このお尻の感触は……」

 

 考えるなぁぁぁ!考えちゃダメよ神風!

 それに下帯は脱げてない!大丈夫、先生も下は穿いてるし、そもそも起っ……。

 いやいや!

 とにかく平気よ!私の純潔は失われてないわ!

 

 『それくらい一人で返しに行きなさいよ。まったく』

 『だって、一人だと恥ずかしくて……』

 

 ん?廊下から聞こえてくるこの声は、もしかしなくても朝潮と満潮?

 会話の感じ的に、お父さんに何かを借りた朝潮がそれを返しに来たみたいだけど……って、それはまずい!

 こんなところを見られたら言い訳なんて効かない!

 とりあえず、急いでお父さんから降りないと!

 

 「司令官居る?入るわよー。って……え?」

 

 あ~……終わった。

 私、終わっちゃった。

 そりゃあ、直視した満潮は驚いて声も出せなくなるわよね。だって半裸の私が、お父さんに馬乗りになってるんだもん。

 

 「満潮姉さん、ノックくらいしないと……」

 

 そうね。

 その通りよ朝潮!ノックは大事!

 だから、私を見たまま固まらないで何か言って!

 本当に、ノックがなかったのが悔やまれるわ。せめてノックしてる数秒があれば、ここから飛び退いて「発情したお父さんに襲われそうになったから殴って気絶させた」って、言い訳も通せたかも知れないのに!

 でも、この件でノックの大切さを身をもって思い知ったわ。

 ああ、神様。

 神風は、今度からちゃんとノックして執務室に入ります。

 ドアも蹴破りません。

 礼儀正しい良い子になります。

 だから時間を巻き戻して。

 マジで!

 

 「神風さん、いったい何を……」

 

 やめて朝潮!

 声を震わせながらそんな事を聞かないで!

 どう言い訳したって信じないでしょ!?私だって、こんな現場を見たら信じないわよ!

 だってどう見たって、逆レイプの現行犯だもの!

 

 「朝潮……大丈夫?気持ちはわからなくもないけど、神風さんを責めちゃダメよ。こんな、いつ死んでもおかしくない仕事してると、どうしようもなく男に抱かれたくなる事があるって、前に妙高型の人に聞いたことがあるわ。神風さんは、今日がその日だったのよ。たぶん……」

 

 やめて!今はその気遣いが痛い!

 でも違うから!信じてくれないと思うけど違うから!

 って言うか誰よ!そんな事言った妙高型は!

 

 「でも、でも……。無理矢理だなんて……」

 

 泣くな!

 泣きたいのはこっちよ!

 私、そこまで欲求不満じゃない!

 そりゃあ、極稀に満潮が言ったみたいな気にならないこともないわ。ないけど!

 今回は違うから!

 むしろ私が被害者だから!

 そもそも、そういう気分になったら角ちゃんの所に行くから!

 

 「ふぅ……」 

 「朝潮!?ちょっ……しっかりしなさい!朝潮!ダメだわ。失神しちゃった」

 

 いいわね、お手軽に失神できて。

 私も気絶したい。このままじゃ、羞恥と絶望で気が変になりそうだわ。

 

 「あ、あのこれ……。朝潮が司令官に借りたって……」

 

 満潮が、出来るだけ私の方を見ないようにハンカチを差し出してきた。

 こんな物を返すのなんて、明日でもいいでしょうに。

 なんで今日なのよ……。なんでこのタイミングだったのよ!

  

 「じゃ、じゃあ、私たちは帰るから。あ、そうだ。司令官が起きたら、今日の約束は今度でいいって言っておいて」

 「いや、あの……。満潮、これは……」

 

 満潮は、できるだけでも私の方を見ないようにして朝潮を背負って、部屋を出て行こうとしてる。

 でも、チラチラと覗き見してるわ。

 もしかして、興味があるのかしら。

 

 「私、何も見てないから。朝潮にも、アレは夢だって言い聞かせるから」

 「ちょ、まっ……」

 

 満潮を呼び止めようと立ち上がろうとしたけど、慣れない姿勢で居たせいで足が痺れて立てなかった。

 

 「抜けないの?あ、いやごめんなさい。なんでもない……」

 

 何が!?別に抜くも抜かないもないのよ!?

 そもそも入ってな……。

 兎に角!耳まで真っ赤にしてチラチラ見るくらいならちゃんと見なさいよ!

 興味津々じゃないのよこのムッツリスケベ!

 そしてちゃんと細部まで見なさい!

 私、やましい事なんてしてないんだから!

 

 「そ、それじゃあ、行くね……」

 

 行くな!いや、行かないで下さいお願いします!

 あなたが何を想像してるかは手に取るようにわかるの!だから、誤解を解きたいから行かないで!

 

 「ご、ごゆっくり!」

 「待って!行かないで満潮!……行っちゃった」

 

 どうしよう。

 これ、マジでまずいヤツだわ……。

 たぶん私、満潮の中で完全に発情した痴女になってると思う。

 

 「ははっ……。明日から私は、男を気絶させて襲う強姦魔か」

 

 どうしてこうなった?

 私は悪ノリしたお父さんから、身を守ろうとしただけなのに……。

 ん?そうよ。お父さんのせいじゃない。

 お父さんがあんな事をしなきゃ、こんな事にならなかったのよ!

 

 「呑気に気絶しちゃって……。お父さんのせいで、私のイメージが最悪になっちゃったじゃない」

 

 どうしてやろう。

 ホントにちょん切ってやるか……。でも、お父さんを脱がせてる所をまた誰かに見られたら本当に終わる。

 なので却下。

 さらに、見るのが初めてってわけじゃないけど、視覚にダメージを負っちゃうから余計にでも却下だわ。

 そもそも、満潮と朝潮に見られたショックが大きすぎて考えがまとまらない。

 いっそ忘れてしまえたら……。

 

 「あ、そうだ……。飲みに行こう」

 

 今日は満潮と飲むために、鳳翔さんの所を貸し切りにしてるはず。だから、財布には相応にお金を入れてるはず。

 そのお金で、飲んで忘れよう。

 ついでに鳳翔さんに、ある事ない事吹き込んでやる。

 

 私はノロノロと身なりを整え、お父さんの懐から財布を取り出して部屋を出た。

 

 「結構入ってるわね。一人じゃ使い切れない……。そうだ、長門も呼ぼう。空母達も呼んだら来るかな」

 

 使い切ってやる……。

 私の胸に顔を埋めた代金よ、安い物でしょ?

 起きても覚えてないでしょうけど。

 力なく食堂に向かって歩く私の頭はもう、お父さんの財布を如何にして空にするかしか考えてなかった。

 そして……。

 

 「宴会資金確保。 さあ、酒宴の用意よ! 絶対、財布を空にしてやるんだから!」

 

 誰に言うともなくそう宣言して、食堂へと向かった。

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