艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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寒い……((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル


第八十四話 なんか、ムカつく……

 

 

 

 不幸中の幸い……と、この場合も言って良いのかしら。

 昨日、改装が失敗した事が悔しくて泣いてしまった朝潮が、司令官に貸りたハンカチを返しに行くから付いてきてくれって言うもんだから付いてったら、司令官と神風さんの情事を目撃してしまった。

 私はまあ、司令官のことは面倒なオッサンくらいにしか想ってないからダメージは軽かったんだけど、着任当初からなぜか好感度が振り切れてた朝潮は大ダメージを受けて、その場で気絶しちゃったわ。

 しかも……

 

 「昨日のことを思い出そうとすると、頭が……」

 「調子が悪そうね。今日は休みにしてもらったら?」

 「休むと司令官に会えなくなるので却下です」

 

 憶えていないってオマケ付き。

 思い出そうとすると頭が痛くなるのか、寝起きが不気味なほど良い朝潮にしてはテンションが低いわ。

 まあ、それは朝潮だけでじゃなく……。

 

 「満潮さんも体調が悪そうですが、大丈夫ですか?」

 「平気よ。ほんの少し、寝付きが悪かっただけだから」

 

 嘘である。

 実は一睡もできてない。

 昨日目の当たりにした二人の情事が頭から離れないばかりか、どうしてそんなことになったのかとか、どういうプロセスを経て騎じょ……もとい、あんな体位に落ち着いたのかとか、あの後もう何回戦かしたのかとか妄そ……再度もとい、考えてたら朝になってたの。

 

 「あれは……。何かあったのでしょうか」

 

 朝潮の視線を追って食堂の入り口を見てみると、空母や重巡、それに戦艦の人たちがゾロゾロと出てくるところだった。

 ある人は千鳥足、またある人は意識が朦朧としている人に肩を貸して、続々と食堂を後にしているわ。

 その光景はまるで、負け戦の戦場から帰る傷病兵のようにも見えるわね。

 

 「げ、ながもん……」

 

 一番最後に、神風さんをおんぶした長門さんが出て来た。

 あの様子だと、神風さんは酔いつぶれてるっぽいわね。

 顔を真っ青にしてダウンしてる神風さんって凄く新鮮に感じ……じゃない。

 酔い潰れてるってことは、あの後飲みに出たってことよね?

 

 「う、頭が……」

 「朝潮、それ以上考えちゃダメ。今は、朝ご飯の事だけ考えなさい」

 

 神風さんを見て、昨日の記憶がフラッシュバックでもしたのかしら。

 下手をすると、撤退して行った酔っ払いどもよりも気分が悪そうだわ。

 いや、それだけだとは思えないほどね。

 頭と鼻を摘まんでうずくま……ん?鼻を摘まんでる?なんで?

 

 「臭い……」

 「臭い?あ~……言われてみれば、少し臭うわね」

 

 食堂の方が。

 いつ嗅いだか憶えてないけど、確かに嗅いだことがある独特の臭いと、食堂から出てきた酔っ払いの集団を結びつけると……。

 

 「様子を見てくるから、アンタはここで待ってなさい」

 

 朝潮を残して食堂の中が見える位置まで来ると、最悪な光景が広がっていた。

 うん、判断を誤った。

 どうなってるか想像できた時点で、朝食は諦めるべきだったわ。

 

 「どんだけ飲んだら、食堂をこんなにできるのよ……」

 

 一言で言うと、食堂は吐しゃ物まみれになっていた。

 しかもほぼ全て。

 それを鳳翔さんと食堂の人たちが、死んだ魚のような目をして黙々と掃除してるわ。

 この光景を見て、泣いたりもらいゲロしてしまったりしてる駆逐艦も居る。

 とてもじゃないけど、食事が出来る状態じゃないわね。って言うか、私も吐きそう。

 

 「戻りましょう。少しだけど乾パンが部屋にあるから、朝はそれで我慢しなさい」

 「それが、良さそうですね」

 

 朝から気分最悪だわ。

 あんな光景を見た後じゃあ、お昼ご飯もまともに食べれるかどうか怪しい。

 

 「あ、朝潮ちゃん!ちょうどよかった」

 

 部屋に戻ろうと踵を返すと、前から来た由良さんに声をかけられた。

 

 「あら?食堂で何かあったの?」

 「食欲を失いたくなければ、見ない方が良いわ」

 「あ~……」

 

 察しって感じ?

 私達を通りすぎて階段を上がって行ってる上位艦種の人たちを見て状況を察したのか、由良さんは頬を人差し指で掻きつつ苦笑いを浮かべたわ。

 まあ、それは置いといて、由良さんは朝潮に何か用なのかしら。

 

 「あの、私に何かご用ですか?」

 「あ、そうだった!提督さん見てない?いつもならもう執務室に居るのに、今日はまだ来てないみたいなのよ」

 

 司令官が執務室にいない?

 それは変ね。

 よほどの事がない限り、自分が決めたルーチンワークに従って日々生活してる司令官が、この時間に執務室にいないのはおかしい。

 ん?よほどの事?

 

 「お部屋でお食事されてるんじゃないでしょうか。さっき神風さんが食堂から出て来るのを見ましたから、執務室まで食事を持って来てくれる人が居ないはずです」

 「そっか、じゃあそっちに行ってみるわね。ありがとう朝潮ちゃん」

 「あ、私もご一緒します!」

 

 あった。

 よほどの事があった。

 私の予想が合ってるなら、司令官は今も自室にいる。しかも最悪の場合、昨日と同じ状態のままで。

 なら、朝潮を行かせるわけにはいかない。

 

 「ダ、ダメよ朝潮!絶対ダメ!」

 「え、でも……」

 

 アンタの考えはわかる。

 どうせ司令官と朝食を一緒に食べれるとか、上手くいけば手料理が味わえるとか甘いこと考えてるんでしょ?

 でも生憎だけど、あそこにあるのはアンタにとっては地獄の光景よ。

 

 「大潮か荒潮に聞けば乾パンの場所はわかるから、アンタはそれを食べてさっさと執務室に行きなさい。司令官の様子は、私と由良さんで見に行くから!」

 「でも、私は秘書艦として……」

 「そう!アンタは秘書艦!だから、早く準備して行かないと!それに司令官が来た時、すでに仕事をしてるアンタを見たらきっと褒めてくれるわ!頭も撫でて貰えるかも知れない!」

 「な、なるほど、それは盲点でした!」

 

 盲点もクソもあるか。

 アンタなら、ただ座ってるだけでもハゲるまで撫でてもらえるわよ。

 でも、本当に……。

 

 「よかった……。この子が単純(バカ)で……」

 「噂には聞いてたけど、ここまでわかりやすいとは……」

 

 凄いでしょ?

 ここまで考えてることが顔や態度に出る人間は、世界広しと言えどもこの子だけだと思うわ。

 今だって、「そうと決まれば、満潮さんと由良さんの相手をしている暇はありません!」とか考えてそうな顔してるし。

 

 「では!私はこれで失礼します!」

 

 テンションが上がった朝潮は、呆れかえってる私と由良さんを置いて脱兎の如く行ってしまった。

 まあ脱兎の如くと言っても、ルールを頑なに守るあの子は廊下を走らないから競歩なんだけどね。

 

 「はぁ……。これで、あの現場を朝潮に見せなくて済むわね」

 

 司令官が執務室に来てないって事は、昨日のまま気絶してる可能性が高い。

 あの子が見たらまた失神するか、下手したら神風さんを亡き者にしようと暴走するかもしれないもの。

 

 「満潮ちゃん、あの現場って?」

 「え~っと……」

 

 どう説明したらいいんだろう。

 神風さんに逆レイプされた司令官が気絶してるかもしれない。って、言うのが無難?

 いやいや、それはさすがに神風さんに対して配慮がなさ過ぎる。

 あの人は見た目こそ私達と大差ないけど、二十歳を越えてる大人の女性だもの。きっと溜まってたのよ。それが昨日、たまたま爆発しちゃっただけ。

 女にだって性欲はあるもんね。

 私もあの現場を見ちゃったせいで悶々として眠れなかったし……。

 いや、私の事はどうでもいいか。

 それよりも、最悪の事態に備えないと。

 

 「行けばわかると思う。由良さん、左門提督を呼べる?」

 

 もし丸出し状態で放置されてたら、経験どころか見た事もない私じゃあトラウマになりかねない。

 だから、それだけは回避しなきゃ。

 

 「中佐さん?呼べるわよ。最近は携帯を持ち歩いてくれるようになったからね」

 

 よし、先陣を切る人間は確保。

 これで、男の股間から生えてると言うスーパーキノコを見る心配がなくなったわ。

 でも、どういう風にスーパーなんだろう……。いやいや!別に興味はない!全くないわ!

 まあ、いずれは見る機会も来るかも知れないけど、それは今じゃなくていい!

 

 「なら、司令官の部屋に来るように伝えて。もしかしたら、私達じゃ対処できないかも知れないから」

 

 そういえば、由良さんはどうなんだろ?

 見たことあるのかしら。

 着任当時は色々とアレな感じだったから、見たことが有るどころか経験済みかもしれない。

 だってヤンキーは早婚ってどこかで聞いた覚えがあるし、いつも一緒に居る左門提督とデキてたりするのかも知れないし……。

 いや、ないか。

 左門提督っていい人ではあるけど、優柔不断だし痩せてる割に顔はおたふくみたいだもん。

 例えるなら、体だけ痩せた左門豊作かな?

 そんな、立ってるだけで笑いが取れる左門提督に、立ってるだけで男が寄ってきそうな美人の由良さんは不釣り合いだもんね。

 

 「ええ、はい。提督さんの部屋の前で落ち合いましょう」

 

 由良さんがさっそくスマホを取り出して左門提督に連絡してる。どことなく嬉しそうに見えるのは気のせい?

 

 「来てくれるって。じゃあ、由良達も行こっか」

 

 しかも、若干赤面してる?

 もしかして由良さん、左門提督みたいな人が好みなの?

 

 「お、来たな。満潮も一緒か。」

 

 ルンルン気分って言葉がピッタリな感じの由良さんと一緒に司令官の部屋へ行くと、士官服姿の左門提督が前で待っていた。

 

 「どうですか中佐さん。提督さん、居ました?」

 「それが、ノックしても返事がない。人の気配はあるんだが酷く希薄だ」

 

 左門提督が鋭い眼差しで部屋のドアを睨んでるけど……なんでだろう。

 雰囲気はシリアスなのに、左門提督の顔のせいでギャグにしか思えない。

 寝不足のせいかなぁ……。

 

 「満潮ちゃん、ここで何があったか知ってるのよね?話してくれる?」

 「知ってる事は知ってるんだけど……」

 

 さて、再びどう説明しよう。

 左門提督が人の気配はあるって言ってるから、誰かは中に居る。

 神風さんは長門さんがおぶって上位艦種用の寮に向かってたから、部屋には居ないはず。

 だったら、部屋に居るのは司令官で間違いない。

 しかも、ノックしても返事がないって事は昨日から気絶したままの可能性大。

 やっぱり昨日のままかぁ……。

 神風さんはちゃんと後始末したんでしょうね。

 部屋に入った瞬間、変な臭いとかしたらどうしよう……の前に、オブラートにこれでもかと包んで説明しなきゃ。

 

 「き、昨日、朝潮が借りたハンカチを一緒に返しに来たんだけど……。その時……」

 

 どうする!なんて言う!?

 いっそ、司令官が神風さんを襲ってたって言っちゃおうかしら。ダメダメ!そんな事をしたら、神風さんを敵に回しかねない!

 

 「満潮ちゃん?大丈夫?」

 「顔色が悪いな。そんなにショッキングな事が、昨日ここであったのか」

 

 ええ、ショッキングだったわ。

 人の情事を見たのは生まれて初めてだったもの。

 経験もしてないのに、何故か大人の階段を昇った気分になったわよ。

 朝潮なんて失神しちゃったし。

 

 「とにかく入ってみよう。念のため、由良と満潮は下がっておいてくれ。この状況では、中に居るのが提督殿とは限らんからな」

 

 男らしいわ左門提督!

 背中を向けてくれて顔が見えなくなったから、余計にでも頼もしく思えるわ。

 だから私は、喜んで壁際まで下がらせてもらいます!

 

 「由良も行きます。中佐さんだけ、危ない目に遭わせるわけにはいきませんから」

 

 いや、入って危ないのは由良さんと私だけよ。

 左門提督はきっと平気。

 だって、司令官と同じものが生えてるんでしょ?

 

 「わかった。だが自分の後ろに居てくれ。君に何かあったら寝覚めが悪い」

 「中佐さん……」

 

 見つめ合って良い雰囲気作らなくったっていいから早く入りなさいよ。

 やっぱり、二人ってそういう仲なの?

 

 「鍵は……。掛かってないな。提督殿にしては不用心すぎる」

 

 左門提督がドアノブを回し、ドアに背中を当ててゆっくりと内側へ開いていく。

 変な臭いは……今のところして来ないわね。

 それとも、臭いとかないのかしら。

 

 「ど、どうですか?誰か、怪しい人でも居ます?」

 「いや、今のところ誰も……。ん?誰かの足が。誰かが仰向けで寝てる?」

 

 左門提督から見える位置で寝てそうなのは司令官しかいない。って事は、私達が帰った時のままって事ね。

 と、いう事は、やっぱり丸出しのままかぁ……。

 

 「ゆ、由良さん!もうちょっと下がった方がいいわ!部屋の中が見えない位置まで!」

 「え?どうしたの急に……」

 「て、提督殿!?誰がこんなことを!」

 「え?え?中佐さんどうしたんです?ってきゃぁぁぁぁ!提督さんが!!」

 

 遅かった……。

 見ちゃったのね由良さん。司令官のT督を見ちゃったのね。

 ごめんなさい。私がもっと早く止めてればこんな事にはならなかったのに……。

 

 「提督殿!しっかりしてください!誰にやられたんですか!」

 

 神風さんにヤられたんです……。

 でも責めないであげて、あの人も寂しかったのよ……人肌恋しかったのよ!

 

 「嘘……。提督さんが死……死んで……」

 

 え!?死ぬほど搾り取られちゃったの!?

 冗談でしょ!?

 

 「大丈夫だ由良!息はある!だが、外傷が見当たらない。首を締められた跡もない。誰がどうやって、提督殿ほどの手練れを……」

 

 そう言えば、私と朝潮が部屋に入った時には気絶してたわね。

 神風さんはどうやって、司令官を気絶させたんだろ?

 

 「衣服にも乱れはないな」

 「そうですね……。薬でも嗅がされたんでしょうか」

 

 そうか、薬か!

 きっとお茶か何かに混ぜて飲ませたんだわ。

 でも。衣服の乱れがない?と言うことは、神風さんはちゃんと後始末をしてから部屋を出たってことかしら。

 

 「満潮じゃない。何か用?」

 

 恐る恐る部屋の中を見ようと壁から離れたところで、神風さんが帰って来た。

 顔は相変わらず真っ青で、今にも吐きそうだわ。

 

 「いや、その……。司令官が執務室に来ないって由良さんが言うから……。それでみんなで様子を見に……」

 「みんな……?」

 

 神風さんの顔が「あ、忘れてた」って言いそうな感じに変わった。

 昨日の事を飲んで忘れようとして、本当に忘れてたのねこの人……。

 

 「み、みんなって誰!?」

 「左門提督と由良さんだけど……」

 

 言い終わる前に、神風さんが私を押しのけて部屋に入った。見られたらマズいのはわかるけど、そんなに血相変えなくてもいいんじゃない?

 

 「左門兄!人の部屋で何やってるのよ!」

 「か、神風!?今までどこに……。いやそれより、提督殿が誰かにやられたらしい。心当たりはないか?」

 

 心当たりも何も、司令官をヤッたのはその人です。

 私、昨日見ちゃったんだから。

 神風さんが半裸で司令官にき、きじょ……馬乗りになってる所を!

 

 「このクソ親父、まだ気絶してたの!?え……男の人って、あんな事でこうなっちゃうの?」

 

 なるほど、神風さんも昨日が初めてだったのね。

 男の人って事後は気絶しちゃうのかぁ……。知りたくなかったなぁ……。

 って事は、私達が部屋に入った時点で二回目かそれ以上だったのね……。

 

 「何があったんだ神風、説明してくれ」

 「い、いやその……」

 「わ、私、憲兵さん呼んできます!提督さんが襲われたなんて一大事だわ!」

 

 この場合、捕まるのはどっちなんだろう?

 やっぱ司令官?

 でも司令官は襲われた側だし……そうなると神風さんになるのかしら。

 

 「やめて由良!憲兵さんは呼ばないで!って言うか大事(おおごと)にしないで!」

 「だが神風、由良の言う通りこれは一大事だ。何か知ってるなら教えてくれ」

 「う、ううぅ……」

 

 髪の毛をワシャワシャと搔き乱して、神風さんが悩んでる。ここまで慌てふためく神風さんは初めて見るわ。珍獣でも見たような気分になるわね。

 

 「お、お父さんが悪ノリしたの……」

 「え?悪ノリ?それってどういう……。悪ノリすると、提督さんって気絶するんですか?」

 

 話が理解できない由良さんは、不思議そうに司令官と神風さんを交互に見てる。

 そりゃあ、意味がわかんないわよね。私もまったく意味わかんない。

 

 「そうか。わかった……」

 

 何がわかったの?

 左門提督が「斬られませんように……」とかわけわかんない事を言いながら、司令官を上半身だけ起こして後ろに回り、司令官の両肩を掴んだまま片膝を背中に当ててグッとやると、ボキッ!っと小気味いい音がした。

 

 「う……」

 「提督殿?ご気分はいかがですか?」

 

 おお!司令官が目を覚ました!

 凄いわね今の、覚えとこ。

 

 「ああ、門戸か。私は何を……。ん?由良に満潮まで居るじゃないか。どうしたんだ?っと言うか、今何時だ!?」

 「0800(まるはちまるまる)を少し回ったところです。どこまで覚えていますか?」

 「どこまで?それはどういう……。そうか、私は昨日……」

 

 娘みたいな神風さんに襲われたショックで、記憶が混濁してたのね。

 可哀そうに……。

 で、くだんの神風さんはと言うと……。

 司令官から距離を取るように、ジリジリと壁際まで後退してるわ。

 

 「神風……」

 「な、何よ。私、悪くないからね……」

 

 なんだこの雰囲気は。

 まるで久しぶりに会って感極まったように目を細める司令官と、「待たせ過ぎよ、バカ……」って言いそうな感じでそっぽを向いた神風さんの間に、下手なラブロマンスみたいな空気が流れてる……気がする。

 え?どうしてこうなるの?レイプ犯とその被害者じゃないの?

 

 「昨日はその……すまなかった。悪ノリが過ぎた」

 「は、反省してくれたんならいいわ。私もその……やりすぎたし」

 

 なんか二人は丸く収まったみたいだけど、こっちは消化不良なんですけど?

 由良さんも頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、二人を交互に見てる。

 左門提督は何があったかわかってるかのように、うん、うんと頭を縦に振ってるわ。

 事情に察しがついてるなら説明してよ。

 

 「い、痛くない?その……」

 「あ、ああ。痛みは引いてる。大丈夫だ」

 

 セリフが逆じゃない?痛かったのは神風さんじゃないの?それとも、実際は男の方が痛いの?

 

 「提督殿、今日は無理をしない方がいいんじゃ……」

 「この程度の事で休めるか。満潮、朝潮はもう執務室に行っているのか?」

 「え?ええ、行ってるんじゃないかしら」

 

 すっかり忘れてたわ、

 まああの子なら、一人でもちゃんと仕事してると思うけど。

 

 「なら、私ものんびりしてはいられないな」

 

 着替えるのかな?さすがに着流し姿で執務は出来ないもんね。

 由良さんと中佐さんも部屋の外に出ようとしてるし、私も出る……。

 

 「着替え、手伝おうか?」

 「ああ、頼む。ん?財布がない……どこへやったかな……」

 

 ん?財布と聞いた途端に、神風さんが固まった。それどころか、冷や汗まで流し始めたわ。

 顔も真っ青になってるし、酔いがぶり返してきたのかしら。

 挙動も不審ね。

 なぜか懐に手を入れて、再び壁際まで後退しようとしてるわ。吐きそうなのかしら……って、そんな訳ないか。

 

 「神風。お前、まさか……。その懐に何を入れている」

 「し、知らない。私、何も知らない」

 

 いや、いかにも知ってますって感じだけど?

 もしかしなくても、その懐に司令官の財布が入ってるんでしょ?そのお金を使って、上位艦種たちに文字通りお酒を吐くまで振る舞い、食堂をあんなにしたんじゃない?

 

 「出せ」

 「ちょ、お父さん落ち着いて?な、何する気よ!何も入ってないから!」

 

 ジリジリと近づく司令官に、神風さんが壁際まで追い込まれた。

 何がはじまるんだろ。

 私だけじゃなく、まだ左門提督や由良さんも居るのに、まさか脱がしたりしないわよね?

 

 「ちょ、提督殿!何をする気ですか!?」

 「決まってるだろう!このバカ娘をひん剥いて、隠してる財布を取り返す!」

 

 言うや否や、司令官は神風さんの着物に手をかけて押し倒そうとしてる。

 うわ!うわ!しかも、マジで脱がせようとしてる!

 

 「やめて提督さん!落ち着いて!」

 「嫌ぁぁぁ!やめてお父さん!そんな所に手を入れないでぇぇ!」

 

 神風さんを背中から羽交い絞めにした司令官が、追い討ちとばかりに神風さんの胸元に手を突っ込んだ。

 うわぁ……絵面がやばい。

 憲兵さんに見られたら、即逮捕されちゃいそうな光景だわ。

 

 「やっぱり持っちょったろうが!ってうおぉ!?中身がない!?」

 

 神風さんの懐から財布を抜き出した司令官の顔が驚愕に歪んだ。

 いくら入ってたんだろ?

 って言うか、人の財布の中身を勝手に使っちゃダメでしょ。

 

 「はぁはぁ……。お父さんが悪いんだからね!昨日の憂さ晴らしに、全部酒に変えてやったわよ!」

 

 真っ青から一転、顔を真っ赤にして胸元を押さえて縮こまる神風さんは、襲われそうになってる幼気(いたいけ)な少女そのものね。

 いや?見ようによったら事後かしら。

 

 「20万近く入ちょったはずぞ!?それ全部、一晩で飲んだっちゅうんか!?」

 

 入れすぎでしょ。

 鎮守府でそんな大金、何に使うのよ。

 でも、やっぱり犯人は神風さんだったか。

 アレのせいで、いったい何人の艦娘や職員に影響が出たのかしら。

 

 「さすがに看過できん。説教してやる!そこに座れ神風!」

 「うっさいクソ親父!娘の胸元に手ぇ突っ込むとかどういう神経してんのよこの変態!」

 

 なんだか、取っ組み合いの喧嘩をはじめそうな雰囲気になっちゃった。

 左門提督が必死に二人を宥めようとしてるけど焼け石に水みたい。

 だけど、なんだか微笑ましくも見えるわね。

 

 「満潮ちゃん……憲兵さんを呼んだ方がいいと思う?」

 「ほっといていいんじゃない?だって、ただの親子喧嘩でしょ?」

 

 そう、これは親子喧嘩。

 だったら、他人である私達が口を挟むべきじゃないわ。

 まあ本音を言うと、巻き込まれたくないだけなんだけどね。

 

 「そこへ直れ馬鹿娘!さあ、説教の時間だ!」

 「そっちこそ覚悟しろクソ親父!今からこの戦場に、神風を吹かせてやる!」

 

 ついに、取っ組み合いに発展したわね。

 でも、どうしてかしら。

 二人はガチで罵倒し合い、左門提督が代わりにサンドバッグになってなければ確実に本気で殴り合ってる。

 そんな殺伐とした状況なのに、なぜか仲が良いように見える。あれが、あの二人なりの家族のあり方なんだなって思えた。

 そんな感想を抱いてるのに、私の口は……。

 

 「なんか、ムカつく……」

 

 と、いつまで続くかわからない二人の喧嘩の感想を、一緒に眺めていた由良さんに聞こえないように呟いていた。

 

 

 

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