艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第八十六話 あの子なら勝っちゃうって、思えるのよね

 

 

 

 

 『朝潮型駆逐艦 二番艦大潮!アゲアゲで行きますよ!』

 

 その台詞が通信を通して聴こえて来るなり、私は「もう、大丈夫ね」と、呟いていた。

 だって前の大潮に戻ったもの。姉さんが居た頃の、馬鹿で小難しいことは考えない大潮に。

 今よりずっと強かった頃の、大潮に。

 

 「朝潮ちゃんは勝てるかしらぁ。今の大潮ちゃん、きっと神風さん並みに強いわよぉ?」 

 

 そうね。

 今の大潮は神風さん並みでしょうね。

 大潮の本来の戦い方は私達とは真逆。しいて言うなら荒潮に近いかしら。

 荒潮との違いは、『あそこを狙って撃とう』とか『こっちに回避しよう』とか、感覚だけで戦う荒潮でさえ考える事を一切考えないところ。

 目で見た情報を、思考というクッションを挟まずに体が即座に、しかも最適に反応する。 

 戦闘に関する事なんか何も考えてないから、思考を読んで裏をかくなんて事もできない。

 それで正確に当て、飛んでくる砲弾も避けまくり、脚技まで使って来るんだから本当に(たち)が悪いわ。

 だけど、大丈夫。

 

 「あの子は勝つわ。司令官はどう思う?」

 

 無表情のまま、開始からずっと黙って様子を見てるだけだけど、何かあるたびに手がピクピク動いてるのよね。

 朝潮が姉さんの事が大嫌いって言った時なんか、どう反応していいかわからないって感じで手を握りしめたり脱力したりしてたし。

 

 「朝潮が勝つさ。あの子は、私との約束を破らない」

 

 朝潮が姉さんの事を悪く言いだした時はヒヤヒヤしたけど、この様子なら大丈夫そうね。

 あの子、通信がこっちにも繋がってるの絶対忘れてたでしょ。

 それとも、わざと?

 良い機会だからって、姉さんに宣戦布告したのかしら。

 う~ん……あの子ならやりかねないわ。

 若干ヤンデレ入ってるぽいし。

 

 「二人とも酷すぎなぁい?大潮ちゃんも応援してあげてよぉ」

 「あら、アンタも大潮と同じ考えなわけ?」

 

 荒潮がキョトンと首を傾げた。

 いや、大潮が勝ったら朝潮が出撃できなくする条件は、一応生きてるのよ?

  

 「負けたって、朝潮ちゃんは出撃しちゃうでしょぉ?」

 

 うん、間違いなくすると思う。

 艤装を隠しても内火艇ユニットで、それが無理なら手漕ぎボートで出撃しちゃうかもね。

 司令官のためなら、そのくらい平気でやりそうだし。

 

 「私は朝潮ちゃんに救われたわぁ。深化の話をした時、あの子はそれでも私に甘えてくれるって言ってくれたもの。身も心も醜くなっちゃう私に、甘えてくれるって言ってくれたの……」

 

 実際に目にした時ドン引きしてたけどね。

 でも、あの子の荒潮に対する態度は変わっていない。むしろ、前以上に甘えてるくらいよ。

 もしかしたら、本当に深化した荒潮にじゃれつくかもね。

 

 「その時に決めたの。満潮ちゃんが後ろを守るなら、私はあの子の行く手を邪魔する奴を倒しちゃおうって」

 

 私が盾ならアンタは槍ってところかしら、投げ槍だけど……。

 

 「だったら、前はもう気にしなくていいわね。アンタが居るんだし」

 「そうよぉ。だから、後ろは満潮ちゃんがしっかり守ってあげてねぇ」

 「ええ、任せなさい」

 

 さて、なら後は、勝負の行方を見守るだけね。

 大潮がどんな答えを出したかはわからないけど、きっと大丈夫。

 アンタを昔のアンタに戻してくれた朝潮なら、もうアンタを悲しませる事なんてしないはずよ。

 

 「そろそろ、日が暮れるな」

 

 司令官が言うまで気にしてなかったけど、確かに日が沈みかけてる。

 あと十数分もすれば、夜の闇があたりを黒く染めるでしょうね。

 

 『く……!速い!』

 

 大潮に苦戦する朝潮の声が耳に飛び込んできた。

 ええ、そうよ朝潮。

 ドローンからの映像じゃあ細部までは見えないけど、大潮はアンタの行動を目の端で捉えた瞬間に行動してるはず。

 砲撃しようとした瞬間、アンタがトリガーを引くよりも早く回避し、アンタが移動しようと予備動作に入った途端に移動先へ砲を向けてるはずよ。

 でも、それに惑わされちゃ駄目。

 大潮は、私のように動きを先読みしてる訳じゃない。見てから行動に移すまでの判断と反応が速過ぎるだけ。

 科学的な根拠なんてないけど、大潮は反射神経だけで戦ってるだけなんだから。

 

 「今のってぇ、朝潮ちゃんじゃなかったら直撃だったわよねぇ?」

 「ええ、おおかた、考えごとでもしてて反応が遅れたんでしょ」

 

 そんな大潮とタメ張ってる朝潮も大したものね。

 まあ、朝潮の場合は一度頭を経由する分、大潮よりもコンマ数秒遅いけど。

 

 『どうしたの朝潮ちゃん。私にお仕置きするんじゃないの?』

 

 しようと頑張ってるけど、今のところ打つ手がないって感じね。

 攻撃は撃つ前に回避され、撃つのとほぼ同時に反撃が飛んで来るんじゃあ、いくら朝潮でもその内やられる。

 

 『ソレ、名前とかあるんですか?』

 

 そんな状態の朝潮が取ったのは、攻撃の頻度を落としての会話。

 単に気になっただけって可能性もあるけど、会話で対抗策を練る時間を稼ごうってところでしょう。

 いや、私も気にはなってたから、これはこれでありがたいわね。

 だって飛魚を始めとした脚技や、他のまともな艦娘がやらない技には名前がついてるのに、大潮のアレがなんて言うのか私や荒潮でさえ知らないんだから。

 

 『べつに無いよ。ああでも、そう言われると名前がないのが寂しく感じちゃったな。満潮、適当につけてくれない?』

 

 おっと、そう来たか。

 どうして私に振ったのかは謎だけど、名付け親になってくれって言うならなってあげてもいいわ。

 

 「考えるから、1分ほど適当に撃ち合ってて」

 

 う~ん、何がいいだろう。

 今の大潮を客観的に見ると、見えない誰かに操られてるように見えるわ。

 だったら……。

 

 「操り人形(マリオネット)。とかどう?」

 

 実際に操り人形になってる訳じゃないんだろうけど、改めて見た第一印象がソレだったもの。

 

 『安直じゃないですか?』

 『安直だね』

 「ネーミングセンスが司令官そっくりねぇ」

 「う、うっさい!つけてあげたんだから、今度から大潮のソレはマリオネットよ!」

 

 姉妹総出で袋叩きにしないで!良いじゃない安直でも!

 あれ?でも変ね。

 腹立たしいことを言われたのに、なぜか嬉しいと思ってるわ。なんで?

 

 「OK。気に入ったよ。じゃあ、今度からコレをマリオネットって呼ぶ事にするね。で、このマリオネットの攻略法は思いついたかな?」

 「……」

 

 それが、困った事にまったく思い浮かびません。って感じの沈黙ね。

 ああしてる間にも攻防は続けてるけど、攻略の糸口が見つけられないのが現状でしょう。

 実際、()()()()戦わなければならない状況だと、アレの攻略法ってほとんどないのよね。

 だけど、アレにはわかりやすすぎるデメリットがある。朝潮がソレに気づけば……。

 

 「あ、気づいたっぽいわね」

 

 朝潮が魚雷発射管を前方に居る大潮の足元に向けた。

 当然、まだ発射管を向けきってもいないのに、大潮はすでに射線から離れてるわ。

 でも、朝潮はそれに構わず、絶対に当たらない魚雷を一発発射した。

 そして……

 

 「自爆ぅ?朝潮ちゃんはぁ、何を考えてるのかしらぁ」

 

 魚雷が海中に潜る前に魚雷を撃ち抜いた朝潮を見たら、荒潮がそう思うのもしかたがない。

 でも、アレは自爆じゃない。

 確かに魚雷は、朝潮の目の前で爆発して朝潮まで巻き込んだけど、アレは単なる目眩ましよ。

 

 『ぐぅ!』

 

 爆炎の中から放たれた砲弾の一発が、運良く大潮に当たった。

 予想通りだわ。

 朝潮は今ので、マリオネットの弱点と攻略法を確かめたんだ。

 

 『バレちゃった……かな?』

 『常に敵を捕捉し続けなければならない。それが、マリオネットの弱点ですね?』

 

 そう、それが唯一にして絶対の、マリオネットの弱点。

 マリオネットは技術が向上するわけでも、身体能力が上がる訳でもない。

 変わるのは反応速度。

 目で見た瞬間、相手がどう動こうと行動しきる前に、()()()()()を打てるほどの反応の速さ。

 でもその代償として、目で捉え続けないとならないし、基本的にタイマンでしか使えない。

 朝潮はきっと、大潮が一瞬たりとも自分から目を離さず、瞬きすら惜しんでるのを見て、弱点に気づいたんでしょうね。

 もっとも、私や荒潮程度の相手なら、弱点に気づかれる前に倒しちゃうんだけど。

 

 「うん、大正解。目が乾いて辛いんだよね、コレ。ずっと見開いてるもんだから、昔は無駄に目が大きく見えるとか言われたよ」

 

 でも、対抗策はある。

 具体的に言えば、さっき朝潮がやったような目眩まし。捕捉さえされなければ、死角からの攻撃でどうにかなる。

 大潮の手札が、それだけならね。

 

 『もうすぐ夜だね。夜闇に紛れれば、捕捉されないとでも思ってる?』

 『思ってません。ですが、夜戦で決着をつけるつもりです』

 『そう、じゃあ、決着をつけよう』

 

 ん?大潮が動きを止めた?

 そりゃあ、今の大潮なら止まった状態からでも余裕で攻撃を回避できるでしょうけど……って、朝潮まで止まったわね。

 

 『第二装甲解除。余剰艦力を両連装砲、及び両魚雷発射管に集中。モード、藤備(ふじぞな)え』

 『第二装甲の形状を変更。同時に余剰艦力を装甲へ上乗せ。モード、蒼備え』

 

 ちょっとちょっと、決闘とは言え、演習でソレを使う!?って言うか、大潮も使えるの!?いつの間に練習してたのよ!

 と、度肝を抜かれてる私のことなど露知らず、夜の(とばり)が下り、あたりを闇が支配し始めたのを見計らったように……。

 

 『『我!夜戦に突入す!』』

 

 と、二人同時に宣言して、大潮は右に、朝潮は左に飛魚で跳んで、直径50mほどの円を描くように反航戦を始めたわ。

 でも……。

 

 「どうする気なんだろう。あの状態じゃあ、二人とも攻撃手段が……」

 「いや、朝潮はともかく、大潮にはある」

 「え?でも……」

 「聴いていなかったのか?蒼備えと藤備えでは、艦力の使い方が違うだろう?」

 

 あ、そうか。

 神風さん考案のあの方法……色備え(いろぞな)と総称しようかしら。は、色だけでなく艦力の使い方がそれぞれ違う。

 紅備えは、脚に使用する艦力以外を全て日本刀の刀身に纏わせた超高機動ゼロ距離戦仕様。

 蒼備えは、形状を変化させた装甲に弾に使用する艦力を上乗せして、超高速移動の反動を軽減した超高機動撹乱仕様。ただし、攻撃に弾を纏わせられないせいで攻撃手段がないに等しい。

 そして藤備えは……。

 

 「視覚や体調に影響が出ない程度に馬力を調整し、連装砲や魚雷発射管に艦力を集中したことで、砲雷撃を可能にした高機動砲雷撃戦仕様ってわけか」

 

 速度では朝潮に分があるけど、速いだけの相手ならどうにでもなるもんね。

 でも、アレは紅備えと同じくらい高リスクね。

 これが演習ではなく殺し合いだったら、逆に蒼備えを使った朝潮の方が有利。

 だって、大潮は防御力が皆無と言っても過言じゃないんだもの。

 あの状態で蒼備え状態の朝潮に殴られでもしたら、それだけで大潮は粉微塵になっちゃうわ。

 故に、朝潮は完全に手詰まり。

 蒼備えを解除するなり改良するなりしない限り、大潮には勝てない。

 客観的に戦況を分析するとそうなるのに……。

 

 「あの子なら勝っちゃうって、思えるのよね」

 

 その予想は、私や司令官ですら想像しなかった方法で達成されたわ。

 艦娘の運用が始まって10年近く誰も、それこそ、神風さんですら思い付かなかった方法で。

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