艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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決闘編、唯一の朝潮ちゃん視点回( ・ω・)


第八十七話 至誠通天

 

 

 困りました。

 これは非常に困りました。

 大潮さんが藤備えを発動したので、対抗するために蒼備えを発動したのですが却って打つ手がなくなりました。

 そんな私に対する大潮さんは、速度こそ私より遅いものの、強化された砲雷撃をやりたい放題です。

 このままでは、そう遠くない内に被弾して私の負けですね。

 

 『どうしたの?撃ってこないの?』

 

 撃っても意味がないんです。

 そりゃあ、模擬弾ですから当たれば爆発はしますので目眩ましくらいにはなるのですが、その後に取れる手段が殴るくらいしかありません。

 

 「私に格闘技の心得があれば……」

 

 むしろチャンスでした。

 ですが、私にはそんなもの有りませんので、殴りかかれば逆にカウンターを貰う可能性があります。

 運良く当たっても、蒼備えを瞬時にオンオフできない私では大潮さんを死なせてしまいます。

 さて、どうすべき……か!?

 

 「んな!?魚雷……!?」

 

 回避したはずの魚雷が海面上に飛び上がり、弧を描いて背中を掠め、再び海面下に消えました。

 今のは何?

 魚雷の推進機付近から、藤色のヒモみたいなのが伸びてるように見えましたが……。

 

 『外しちゃった。やっぱ、この状態でやると制御が難しいし、艦力の糸も丸見えだね』

 

 艦力の糸?

 では、魚雷から伸びていたヒモのような物は大潮さんから伸びた艦力?

 それを使って、外れた魚雷を再び私に当てようとしたってことですか!?

 

 『艦力ってね、意外と応用の幅が広いんだよ。例えば、さっき私がやった……私は『海豚(いるか)』って呼んでるんだけど、みたいな事もできる。ただし……』

 

 相応の練度と訓練が必要。

 と、大潮さんは説明してくれました。

 なるほど、ご教授痛み入ります。朝潮、勉強になりました……などと、お礼を言っている暇はありませんね。

 こうしている間も、大潮さんは砲撃と海豚で私を攻撃しているのです。

 こうなったら……。

 

 「やるしかありませんね」

 

 今まで先延ばしにして来た蒼備えの改良を。

 幸い、私に向いてそうなお手本を大潮さんが見せてくれましたし、以前叢雲さんが、神風さん以上にスムーズな艦力操作をするのも見たことがあります。

 その二つを参考にして……。

 

 「装甲と弾、二つ分の艦力を両腕、両腿に……」

 

 あ、あれ?

 思ってた以上にスムーズにできました。

 いや、スムーズどころかほぼ一瞬です。スーッという擬音が聴こえて来そうなくらい一瞬でした。

 なぜか満潮さんと荒潮さんが「相変わらずのチートっぷりね」とか「さすがに引いたわぁ」などと訳のわからないことを言っていますが、この速度で艦力を移動させることができるのなら、もっと違った使い方もできそうです。

 さて、お次は……。

 

 「砲雷撃戦、再開します!」

 

 大潮さんに反撃開始。

 相変わらず、私が撃つより早く避けていますね。

 と、言うことは、あの状態でもマリオネットは使用可能と言うことでしょう。

 幸い、暗くなっている今ならマリオネットを封じるに留まらず、大潮さんの動き自体を止める事も可能なのですが……。

 

 「決め手がない」

 

 大潮さんとの距離は100mほど。

 動きを封じて魚雷を全弾放っても、到達するまで数秒を要します。

 大潮さんが、私ごときが取ろうとしている手段を予想していないわけはありませんので、動きを封じられるのは4~5秒が良いところでしょう。

 

 「魚雷の速度じゃ間に合わない。砲撃でも良さそうですが……」

 

 駄目な気がします。

 この決闘に勝つこと自体はできるでしょうが、それでは私が満足できない。そんな気がします。

 今まで教わり、見せてもらった数々の技術で、極端な事を言えば必殺の一撃を放てないでしょうか。

 

 「そうだ……魚雷を砲弾並みの速度で飛ばすことができれば……」

 

 今日覚えた艦力操作の応用でできそうです。

 でも、ぶっつけ本番で上手くいくでしょうか。

 相手は大潮さんですよ?

 

 「いや、やろう。やってやりましょう!」

 

 大潮さんは横須賀No.2の駆逐艦。

 その座を奪い取るんですから、半端な事をしてはいけません。

 大潮さんが笑ってその地位を譲ってくれるくらい、完膚なきまでに圧倒しなければ。

 

 「探照灯、照射」

 

 私は右手で自分の目を守りながら、肩からぶら下がっている朝潮型改二専用の艤装、司令官が妖精さんに特注させた特殊装備である、『探照灯兼用防犯ブザー』を大潮さんに向けて、スイッチを入れました。 

 

 「あうぅ!!目が!目がぁぁぁぁ!」

 

 ごめんなさい大潮さん。

 闇に完全に慣れた目に、この光量はきつすぎるでしょう。常人が直視すれば、失明の恐れもある光ですから、痛みすら伴っているはずです。

 でも、マリオネットの弱点を自覚している大潮さんなら、こうされるくらい予想していたはずですから回復するのも早いはず。

 だから、回復の間を与えずこれで決めます!

 

 「魚雷、全弾発射と同時に艦力で接続」

 

 艦力のヒモ……艦糸(かんし)で繋がれた魚雷を導くために、太極図を描くように両手を回し、浮遊する魚雷で直径1mほどの円を描きました。

 

 「殴り飛ばしたのでは、狙い通りの場所に飛ばせない。ならば!」

 

 私は両手を組み、円の中央へ突き出しました。

 司令官と満潮さんが、「あ~……なんだっけアレ」「ヘル&ヘヴンだな。懐かしい。呪文はたしか、ゲム・ギル・ガン・ゴー・ぐふぉ!?おい満潮、なぜ殴った?」「全部はダメ」などと漫才じみたことをしているようですが、今は気にしている余裕がありません。

 下手に気を抜くと、放出している艦力が霧散してしまいます。

 

 「さらに()()形成。照準固定」

 

 直径1メートルほどの円形になって浮遊する魚雷の幅を50センチメートルまで狭め、脚と発破に使用する砲撃分の艦力を残して他全てを投入し、砲弾の形の装甲を纏わせて形を固定。

 余剰艦力を全てつぎ込んでいるせいか、砲弾は蒼く輝いています。

 あとは、砲撃で撃ち出すだけです。

 

 「あ、名前は何が良いでしょうか」

 

 こんな時に考えることではないですが、私の新技に名前がないのは寂しいです。

 ならば以前、司令官のご家族のお墓参りに同行させていただいた際に教えてもらったあの言葉を……。

 

 「これは私の覚悟を体現する一撃。その名も、『至誠通天(しせいつうてん)』!」

 

 魚雷八発を孕んだ砲弾を撃ち出すなり、満潮さんが「装甲を張りなさい大潮!早く!」と叫ぶのが聴こえました。

 ちなみに至誠通天とは、吉田松陰さんの教えの一つで、「誠を尽くせば、願いは天に通じる」または 「誠を貫けば、天にも通じる。一つ一つの課題に誠実に取り組み努力をすれば、必ず願いは叶う」と言った意味の言葉です。

 

 「実弾なら、窮奇も倒せるでしょうか」

 

 至誠通天が直撃し、大潮さんを爆炎が包むのを眺めながら、誰に言うともなくそう言ってしまいました。

 いえ、けしておーばーきるってやつかな?と思って現実逃避したわけじゃあありません。

 

 「と、とりあえず様子を見に行きましょう」

 

 私は砲を構えたまま、ゆっくりと大潮さんに近づきました。模擬弾とは言え熱いから、火傷とかしちゃったんじゃないでしょうか……。

 

 「ケホッ!ケホッ!死ぬかと思った!マジで死ぬかと思ったよ!」

 

 煙が晴れると、大潮さんがあちこち煤だらけになったまま海面にへたり込んでいました。

 見た限りでは、大きな怪我はなさそうですね。

 

 「私の勝ちで、よろしいですか?」

 

 審判役をやっているはずの司令官たちは何も言ってきません。

 と言うか、もしかしたら最初から審判なんてやってなかったんじゃ……。

 

 「うん、いいよ。大潮の完敗」

 

 大潮さんは両手を上げて降参のポーズをしました。

 潔いですね。

 審判が何も言ってこないから、そのまま続行しようと思えば出来るのに。

 

 「おめでとう朝潮ちゃん。たった今から、第八駆逐隊の旗艦は朝潮ちゃんだよ」

 

 ニッコリと笑いながら、大潮さんは祝福してくれました。

 正直言いますと、旗艦の座とかはあまり興味がないと言いますか……私にはまだ早いと言いますか……。

 とにかく不相応に感じるんですが、この雰囲気では言えませんよね。

 

 「朝潮ちゃん、大潮とも、一つ約束して欲しいことがあるんだけど……。いいかな?」

 「はい、なんでしょう」

 

 一転して真剣な眼差しを私に向けましたが、大潮さんは何を言うつもりなのでしょう。

 私にできる事なら喜んで約束しますが、無茶をするななんて無茶な約束とかだとちょっと……。

 

 「出撃する時は、絶対に第八駆逐隊(私達)も一緒に連れて行って。朝潮ちゃんの邪魔をする奴は、第八駆逐隊(私達)がやっつけてあげるから」

 

 これは、私を心配しての言葉じゃないですね。

 私の背中を押してくれるつもりです。

 ありがとうございます、大潮さん。

 正直、不安だったんです。

 私は言う事だけは大きいですが、実際は実力が伴っていません。

 でも第八駆逐隊(みんな)と一緒なら、私は邁進できます。

 こんな自分勝手な私を第八駆逐隊(みんな)が支えてくれるなら、私は我武者羅に突き進むことができます。

 

 「わかりました。お約束します」

 「うん。ならよし♪」

 

 大潮さんはそう言うと、満足げに海面に大の字に寝転んでしまいました。

 スッキリした顔をしてますね。

 そんな表情の大潮さんを、初めて見ました。

 

 「強くなったね朝潮ちゃん。負けるなんて思ってなかったよ」

 「皆さんのご指導の賜物です。私だけでは、ここまで強くなれませんでした」

 

 私の中にみんなが居る。

 今の私を形作ってくれたのは皆さんです。

 私はそれが本当に誇らしく、そして頼もしい。

 一人で戦っていても、みんなと一緒に戦ってると思えるんですから。

 

 「ふふ♪こんな時くらい、勝ち誇ってもいいんだよ?」

 「そんな事は出来ません。私が大潮さんに勝てたのは、大潮さん達のおかげなんですから」

 

 少しだけ呆気にとられたように私を見た後、大潮さんは「そっか♪」と言って、また夜空を見上げました。

 そして……。

 

 「はぁう~♪やられた、やられたよぉ~♪」

 

 ひと時の沈黙の後、まるでこの場に居ない誰かに報告でもするように、大潮さんが夜空に向かってそう言った。

 悔しさなんて微塵も感じさせず。

 ただただ嬉しそうに、こんなに良い事があったんだよと誰かに伝えているように、私には見えました。

 

 

 

 

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