私って艦娘歴が誰よりも長いから、記憶に残ってるか残ってないかにかかわらず結構な数の艦娘を見てきてるんだけど、この子ほどとんでもない子は今まで見たことがない。
いや、才能だけで言えば、比肩する艦娘はいたか。
具体例を挙げるなら天龍……今の天奈と、その妹の龍田。
天奈は龍田が戦死するまで自分の才能に気づいてなかったけど、あいつは敵との距離が近ければ近いほど、それこそ相手の息がかかるほどの距離に近づくほど、相手の行動を毛先単位で察知できるって特異能力があったの。
パッと聞いただけじゃあ、あまり意味のない能力に聞こえるわよね。
でも、これは対峙する者からしたら厄介なことこの上ない。
戦闘の心得がある者は誰しも、得意とする間合いがあるでしょ?私で言えば、刀の間合い。
その間合いから遠ざかられたら勿論攻撃できないけど、間合いの内側に入られても攻撃できないの。
でも、天奈は家伝特有の攻撃法で、素手での格闘戦が得意な者でも攻撃できないような超至近距離からの攻撃手段を身に付けている。
もし、天奈が艦娘時代にソレを最大限に理解してたら、軽巡洋艦最強の名を欲しいままにしてたでしょうね。
そして龍田は、天奈の逆で相手との距離が離れれば離れるほど相手の行動を察知できる能力を持っていた。
いや、こう言うと正確じゃないか。
正確に言うなら、龍田は広範囲の敵の行動を先読みレベルで察知することができたの。
天奈が対単体だとしたら、龍田は対複数って感じね。
実際、龍田には死角が存在しないんじゃない?って思うほど死角がなかったし。
でも、そんな二人でも持てる火力で戦艦を、しかも一発で粉微塵にするような方法は考えなかった。
勿論、それは私も同じ。
それを考えて実践した艦娘は、今までこの子しかいなかったわ。
「こんな感じなのですが……。どうですか?神風さん」
どうですかもクソもない。
言葉が出てこない。
料理を教えるようになって数日。それで調子に乗ったのか、新技のダメ出しをしてくれって頼まれたから、的代わりの長門に新技をぶちかましてみなさいって言ったんだけど……。
うん、長門が吹っ飛んだ。
比喩でもなんでもなく、文字通り吹っ飛んだ。
使ったのが模擬弾だったから吹っ飛ぶだけで済んだけど、実弾だったら間違いなく轟沈してたわ。
それこそ、先に言ったように粉微塵になって。
「あ、一発じゃあ判断しにくいですよね。じゃあ、魚雷の再装填も終わったのでもう一発いきます」
「待て。今のをもう一発食らったら、いくら長門でも工廠送りになるから待ちなさい」
「べつに、構わないのでは?」
構うわよバカ。
近いうちに結構な規模の作戦を控えてる……っぽいのに、横須賀の主力艦隊の一員であり旗艦の長門を工廠送りにしていいわけないでしょ。
ちょ、マジで待て。
あなた、長門を工廠送りにするどころか沈める気じゃない?
あなたが長門を毛嫌いしてるのは知ってるし気持ちも理解してるけど、本当にやめなさい!
「……もう二、三発ぶち込めば沈められたのに」
「真顔をやめなさい。お父さんに見られたら幻滅されるかもよ?」
この子の真顔はマジで怖い。
普段は考えてることが駄々もれなのに、本気で怒ると真顔になってなに考えてるかわかんなくなるんだもん。
しかも、感情を制御してるっぽくて、殺気の類いもまるで感じない。完全な無。
そのせいで、感情の機微で行動の先読みもできなくなるし、攻撃にも容赦が無くなる。
この子の歳でそれができるって、実はとんでもないことなんだけど……この子はきっと、その自覚がないのよねぇ……。
「それは嫌です!なので……なので口惜しいですが、ながもんを訓練に見せかけて沈めるのはやめます」
「サラッと何言ってんの?」
本当に沈める気だったの?
確かに朝潮は、長門から執拗なストーカー行為どころか、直接的な被害も受けていた。
だからって、沈めるのはやりすぎじゃない?
沈めるって言えばオブラートに包んだように聞こえるけど、要は殺すってことだからね?
「それで話を戻しますが、問題点があれば教えて欲しいのですが……」
「準備時間が長い。それが、至誠通天の弱点」
この子の至誠通天は、大潮との決闘中に思い付いた(と、朝潮は言ってた)割に完成度が高い。
やり方としては、朝潮が装備してる四連装酸素魚雷二基分、都合八発を艦力で包んで砲弾に成形し、二基の連装砲による砲撃を推進力にして撃ち出すって代物よ。
その際、脚と砲撃に利用する分以外の艦力を全て投入するから、有効射程内なら装甲への干渉力も高い。
アレなら、相手が姫級の戦艦でも一溜りもないでしょうね。
しかも、艦力操作がアホみたいに上手くなってるから、撃った直後に装甲を即展開可能。
アレだけスムーズかつ素早い艦力操作は、私にだって無理よ。それができないから、紅備え時は刀身に艦力を付与しっぱなしなんだから。
「だいたい4~5秒ですが、やっぱり遅いですか?」
「遅い。せめて2秒。できれば1秒以下が望ましいわ」
「い、1秒以下……ですか。さすがにそれは……」
うん、難しいのはわかってる。
対大潮戦でそれが命中したのは、大潮の動きが止まってたから。それがなければ、回避だけでなく反撃までしてたと思うわ。
まあでも、この私を頼ってきたんだから、それなりのヒントをあげるとしますか。
なんせ、お願いされると嫌って言うけど、結局叶えてあげるのがこの神風さんだからね。
「至誠通天って、『誠を尽くせば、願いは天に通づ』って意味よね?」
「ええ、そうですが……。それが何か?」
「ちょっと言ってみて」
「は、はぁ……。誠を尽くせば、願いは天に通づ」
「2秒ってとこか。早口で言えば、2秒切れそうね」
訳がわかってないみたいね。
私がこれからアドバイスするのは、至誠通天の発動プロセスを先の言葉と紐付けするルーティーン法。
スポーツ選手とかがよくやってるわね。
もっともソレは、特定の動作とリラックス状態を紐付けして、半ば強制的にリラックス状態にするって使い方。
今回の場合は、至誠通天の意味である言葉を発するって行動と発動プロセスを紐付けして、二つをイコールの状態にするの。
そうすると、頭の中で一々手順を考えなくても、言葉を発するだけで準備できるようになるわ。たぶん。
「なるほど……。その手がありましたか」
「言葉の区切りが良いところで手順を分けると良いわ。例えばそうね……。魚雷発射から円形にするまでを『誠を尽くせば』。残りの砲弾成形と照準を、『願いは天に通づ』に割り振ったらどう?あ、あと、弾道も若干不安定だから、できるなら回転させてみなさい」
「はい!それでやってみます!」
うんうん、素直でよろしい。
早速とばかりに、朝潮は今言った方法を実践し始めたわ。もっとも、見てる私は同じ台詞を何度も聞かなきゃいけなくなったけど……。
「変な宗教にでもハマったみたいな光景だな」
「あら、生きてたの?」
「さすがに、模擬弾では死なんよ」
「その割に、あちこち焦げてるけど?」
本当に見事な焦げっぷり。
在り来たりかも知れないけど髪の毛はチリチリでパンチパーマになってるし、燃えてないのに煙の筋が何本も上がってプスプスって音もしてるわ。
「少し、真面目な話をしても良いか?」
「その格好でできるならどうぞ」
「では話す。提督は、あの子を
「どういうこと?」
「そのままの意味だ」
いや、意味がわから……なくもない。
艦娘は特殊な例、例えば重巡洋艦から航空巡洋艦、さらに軽空母。戦艦から航空戦艦などなど、改装によって艦種が変わる例が多々ある。
あるけれど、それは上位艦種に限られる。
極端な例を言えば、駆逐艦が上位艦種になるなんて例は存在しないわ。
それを含めて、長門が言いたいこともわかる。
「駆逐艦で収まるような器じゃない。って、ことね」
「その通りだ。ああ、断っておくが、駆逐艦が上位艦種に劣っていると言うつもりは……」
「ないのはわかってる。それでもあの子の才能を鑑みると、そう言いたくなっちゃう気持ちもわかる」
朝潮は駆逐艦である限り、これ以上伸びない。
駆逐艦はできる事が限られてるから、できる範囲で何でもする。その最たる例が、私の脚技。
でもそれは所詮、少ないリソースをやり繰りして別の事をしているように見せかけているだけ。
結局、やれる事は変わってない。
「戦艦になれば、あの子の才能を遺憾なく発揮できるんじゃないか?」
「あの子を戦艦に?冗談。あの子が戦艦になったら、逆に才能をもて余すでしょうよ」
「では、お前は何が一番、あの子に合っていると?」
そんなの決まってる。
あの子は着任してからの一年足らずで、私や八駆の戦い方を最も多く目にし、モノにした。
そんなあの子が他艦種になれると言われたら、まず間違いなく空母と戦艦は選択肢にすら挙がらない。
そうなると、あの子が選びそうなのは重巡洋艦か軽巡洋艦。
でも私は、高速、高機動戦闘に慣れているあの子は、脚技が使えなくなる重巡洋艦を選ばないと確信してる。
故に……。
「あの子が選ぶのは、間違いなく軽巡洋艦よ」
「その心は?」
「軽巡洋艦が最も駆逐艦に近く、かつ多様性に富んでるからよ」
だから、あの子が艦種を選べるようになったら軽巡洋艦を選ぶ。と言うか選べ。
じゃないと、長門にドヤ顔で説明した私の見る目がないみたいになっちゃうから。
「ふむ、お前がそう言うんなら、そうなんだろうな」
「あら、思ったより素直に認めるのね。私はてっきり、是が非でも戦艦を薦めると思ってたわ」
「長い付き合いなのに、私のことを理解していないな。私はこれでも、元教師だぞ?子供の選択肢を潰すような言動はしないし、したくもない」
ああ、そう言えばそうだったわね。
あなたは当時赴任していた先の小学校を爆撃され、その犠牲になった生徒たちの仇を討つために、艦娘になったんだったんだっけ。
普段が普段だから、すっかり忘れてたわ。
「今のあなた、凄く教師っぽいわよ?」
「褒めても何も出んぞ。だがまあ、ありがとう」
今の長門は、同じ行動を飽きもせず続ける朝潮を、今の今ままで見たことがないほど、優しい瞳で見つめている。
まるで、朝潮の将来を期待しているように。
朝潮が歩みを加速させたのを喜ぶかのように。
そんな長門は、あっさりと至誠通天のルーティーン化に成功した朝潮に、そのあと5回ほど吹っ飛ばされることとなり、結局工廠送りになったとさ。
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