艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第九十六話 母として、あの子達のお尻を叩いてご覧に入れましょう

 

 

 

 

 

 これはどういう状況なのでしょう。

 もうすぐ12月になろうかと言う時期に、私こと軽空母 鳳翔は神風さんに連れられて、執務室を訪れています。

 集まっているのは、提督と朝潮ちゃん。その補佐である左門提督と辰見さんに、その秘書艦である由良さんと叢雲ちゃん。

 さらに長門さんと武蔵さん、神風さんも居ますね。

 こんな前線を張るような方ばかりの所に、なぜ一線から離れている私が呼ばれたのでしょうか。

 

 「お父さん、会議室の方がよかったんじゃないの?さすがにこの人数じゃあ狭いわよ。無駄にデカいのが二人も居るし」

 「言われてるぞ武蔵。狭いから縮め」

 「ほう?長門型は縮むことが出来るのか。だが生憎、大和型にそんな機能はない。だから先輩が縮め」

 

 あらあら、体が大きいのだから暴れては迷惑ですよ、二人とも。

 それに、狭いとは言っても充分スペースはあるじゃないですか。

 神風さんがソファーを一人で占領したりしてなければ、ですが。

 

 「朝潮、例の書類を全員に配ってくれ」

 「はい、了解しました」

 

 提督は額で小突き合ってる戦艦二人を無視ですか。

 騒がしいから止めてくださいよ……。

 なんなら、私が止めましょうか?

 

 「これは……。作戦概要と編成表?見る限り、かなりの規模の作戦だが……」

 

 長門さん、かなりどころじゃない規模の作戦ですよ。

 ざっと目を通した限りですが、米国との合同作戦。しかも、日本の全艦娘の三分の一を投入。

 ここまでだけでも、七年前のシーレーン奪還作戦を超える規模の作戦です。

 でも、まだ発令されてもいない作戦計画をなぜ私に?編成を見る限り、艦隊に私の名前はないのですが……。

 と言うか、ここに居るメンバーで編成欄に名前があるのは、長門さんと武蔵さんだけ?どういう事かしら?

 

 「提督、この武蔵が旗艦じゃないとはどういう事だ?よりによって先輩の下とは……」

 「これが実力の差だ武蔵。お前は私の下であくせくと働け」

 

 勝ち誇ってる長門さんに噛みついてる武蔵さんは放っておくとして、日本の正規空母を全て投入ですか。 

 必要なのは単純にスペック。

 この作戦を見る限り、攻城戦と言い換えてもいい内容ですね。

 大雑把に言うと、正規空母で制空権を掌握し、可能なら敵艦隊へ攻撃。装備を見る限り、島自体への爆撃も想定しています。

 軽空母が組み込まれてないのは、本土の防衛に当てるためでしょう。

 少し悔しいですが、この内容では軽空母の出番はありません。

 

 「正式な発令はまだ先だが、今見て貰っている内容の作戦を年末に実行する」

 

 書いてある内容を見る限り、作戦は3段階ですね。

 まず第一段階。

 軽巡を旗艦とした艦隊での潜水艦の掃討と、空母艦隊による制空権の確保。及び、敵前衛艦隊の掃討を同時に行い、第二段階で突入する水上打撃部隊の進路を確保。

 『城壁』までの道を切り開く。

 続いて第二段階。

 12名の艦娘で編成される連合艦隊である、水上打撃部隊二つをミッドウェー・ジョンスン両島に同時展開し、そこに巣食う姫級を撃破。

 『城壁』を破壊し、『本丸』への突入路を構築する。

 正規空母も一人づつ組み込むみたいですね。

 制空維持のために艦戦を優先装備ですか……。

 いささか制空を意識しすぎな気もします。

 第一段階で投入した空母達も補給後に制空戦に参加するはずなのに……です。

 まるで、敵艦載機を一機残さず殲滅しようとしてるようにも思えます。

 そして第三段階。

 全『ギミック』解除後に、艦娘による艦砲射撃と爆撃で中枢棲姫を撃破する。

 ん?第三段階だけやけに大雑把ですね。

 中枢棲姫は島のほぼ中心に座していると書かれていますが、艦砲射撃と爆撃だけで上手く倒せるのでしょうか。

 まるで第三段階だけ、()()()()()()()()()()()()()()のような違和感を覚えます。

 他にも、私のような違和感を覚えている人はいないのかしら。

 

 「ふむ、まさに戦艦が主役と言える作戦だな、申し分ない!」

 「ああ、先輩の言葉に便乗するのは癪だが、まさにその通り!」

 

 脳みそまで筋肉で出来てそうなこの二人は論外として、左門提督と辰見さんは……態度は普通。いえ、普通過ぎるかしら。

 由良さんと叢雲ちゃんはどう反応していいかわからないといった感じなのに、二人は()()()()()みたいですね

 そして一番疑問なのは、大人しくソファーで寝転んでいる神風さん。

 これだけの作戦に、自分の名前がない事に文句の一つも言っていません。

 

 「書いてある内容で、何か質問はあるか?」

 

 質問したい事はあります。

 ですが、明らかに何かを隠している作戦の真意を聞いていいのでしょうか。

 

 「ねえ、お父さん。この作戦の目的は、中枢棲姫の()()でいいのよね?」

 「……ああ、その通りだ。」

 

 暗殺?妙な言い方をしますね。

 神風さんは、何かに気づいているのでしょうか。

 

 「そう、わかったわ」

 

 神風さんにしてはあっさり黙りましたね。

 長門さんも、不思議そうな顔をして神風さんを見ています。

 あ、そうでした。

 私がここに呼ばれたわけを聞いておかないと。

 

 「あの、提督。私は何のために、この場に呼ばれたんでしょうか」

  

 あら?私、なにか変な事を聞いたかしら。

 提督と朝潮ちゃんと左門提督、それに辰見さんまで不思議そうな顔で私を見て、その視線をそのまま私の左斜め後ろ、神風さんに向けた後再び私に戻しました。

 

 「聞いてないのか?神風には、それとなく話しておくように言っておいたんだが……」

 「いえいえ、私は何も伺っていませんよ?神風さんには、執務室までついて来てとしか、言われていません」

 

 私が答えた途端、全員の視線が神風さんに集中しました。

 当の神風さんは、こちらを見ないようにして、動揺してないフリをしていますね。

 ですがそれでは逆に、焦っているのが丸わかりですよ?

 

 「あ、あれ~?言ってなかったっけ~ごめんね~。あははははは……」

 

 全員無言で、神風さんを責めるように見つめ続けていますが、神風さんは頭の後ろをポリポリと搔きながら笑っています。

 が、段々と顔が青ざめていってます。

 

 「ご、ごめん……言うの忘れてた」

 「朝潮、神風の晩飯は抜きでいい」

 「了解しました」

 「んなっ!?」

 

 へぇ、提督と神風さんのご飯は、朝潮ちゃんが用意してるんですね。偉いわ朝潮ちゃん。

 まあ、それはともかく、ちゃんと正座して謝ったのは評価してあげますが、神風さんは一体何を言い忘れたんでしょうか。

 

 「まったく……。すまんな鳳翔。何も聞かされてない状態で、こんな物を見せられても訳がわからんよな」

 「え、ええ……」

 

 提督は、私に何をお望みなのでしょうか。

 正直言って、私ではこの規模の作戦ではお役に立てません。

 艦載機運用の技術自体は、正規空母達(あの子達)に負けない自信はありますが、スペックでは到底敵いませんもの。

 

 「今回の作戦は、総指揮は私が執るが、各艦隊の指揮は他の者に任せるつもりなんだ」

 

 まあ、たしかにこの規模の艦隊を、一人で指揮していてはどこかで綻びが出かねませんものね。

 なので、提督の下に中間となる指揮官が必要なのはわかります。

 ですが、それと私がここに呼ばれたことに何の関係が?

 

 「具体的には、水雷戦隊及び『ワダツミ』の護衛艦隊の指揮を左近司中佐に、水上打撃部隊の指揮を辰見に執らせる。そして空母達の指揮を……」

 「ちょ、ちょっと待ってください提督!まさか、私に指揮官をやれと仰るおつもりですか!?」

 

 何か知らない単語が出てきた気はしますが、それはとりあえず置いといて、私が空母艦隊の指揮を?私は艦娘ですよ!?

 

 「その通りだ。君にやってもらいたい」

 

 そんな無茶な……。

 旗艦もまともにやったことがなく、指揮経験がない私に、いきなりこんな大規模作戦で指揮を執れだなんて……。

 

 「空母達は君を慕っているし、君の弟子でもあるだろう?」

 「それは、そうですが……」

 

 一航戦、二航戦、それに五航戦の子達は私の弟子と言ってもいいですが、雲龍型の子達を直接指導したことはありません。

 そもそも、雲龍型の子達は艦載機の運用方法が違います。あの子達は()()に艦載機運用の手解きを受けたはずです。

 

 「五航戦の二人は、装甲空母に改装して水上打撃部隊に組み込むが、残りの空母達の指揮を君にお願いしたいんだ。頼めないか?」

 

 出来ない事はありません。

 おそらく、やろうとさえ思えば指揮する事は可能です。

 ですが……。

 

 「正規空母達(あの子達)に、負い目でもあるのか?」

 

 無い、とは言い切れません。

 正規空母達(あの子達)に戦い方を教えたのは私なんですから。

 私が正規空母達(あの子達)を、兵器に変えてしまったのですから……。

 

 「私が指揮を執っても、正規空母達(あの子達)の力を引き出してあげられるとはとても……」

 

 普段のあの子達は私と普通に接してくれています。

 だけど怖いんです。

 どうしても、恨まれているんじゃないかと考えてしまうんです。

 戦場と言う地獄に叩きこんだ私を、恨んでいるのではないかと……。

 

 「赤城たちにそれとなく質問してみた。もし、鳳翔がお前たちの指揮を執る事になったらお前たちはどうする?と」

 「それで、あの子達はなんと?」

 

 嫌だと言った?

 それとも、出撃したくないと言った?

 もしくは、私のような口だけの空母に従う義理はないと言いましたか?

 

 「お母さんの指揮なら全力を出し切れる。だとさ。私の指揮より、君の指揮の方がいいとまで言っていたな」

 「おかあ……さん?」

 

 あの子達に、そんな風に呼ばれたことは今まで一度も……。

 いえ、あの子達が新米の頃にふざけてそう呼ばれた事があったくらいで……。

 

 「君は空母の母と呼ばれるべき存在だろう?艦艇の鳳翔がそうであったように、空母艦娘の礎を築いたのは君だ。その君が、空母の指揮をまともに執れないと言うのなら、この国に空母の指揮を執れる者など居やしない」

 「で、ですが私は弱いです。最弱の空母と言ってもいいくらい弱いです!そんな私が、あの子達の上に立つなんておこがましくて……」

 「と、言ってるが、お前はどう思う?最弱の駆逐艦 神風」

 

 提督の視線を追って神風さんの方を見ると、神風さんはソファーの上で胡坐をかき、頬杖をついて私をジト目で見ていました。

 呆れてる。と、言えるような目をしています。

 

 「甘ったれてるわね。『つるべ落としの鳳翔』は何処へ行ったの?」

 

 懐かしい異名を持ち出してきましたね。

 それは艦娘黎明期の、私の異名じゃないですか。

 艦載機で空から敵を貪り食うかのように屠る私を、木から落ちて来て人を食らう妖怪『鶴瓶落とし』になぞらえて付けられた異名。

 出撃しなくなって、いつの間にか忘れ去られたかつての私……。

 

 「正直に言って、鳳翔さん。正規空母とタイマンして勝てる?」

 「そ、そんなの……」

 

 無理と言い切れない自分が不思議です。

 確かにスペックでは負けていますが、勝負自体に負ける気は全くしません。

 

 「私、よく言ってたわよね。駆逐艦の実力はスペックじゃないのよ、って。それは、空母には当てはまらないの?」

 

 無論、当てはまります。

 私が考案し、確立させた日本式……いえ、鳳翔式艦載機運用法は、弓の技量がそのまま艦載機の動きに反映されます。

 そして空母は、艦載機の動きが悪ければ持ってるスペックを十全に発揮できません。

 故に、艦載機の運用技術の高さと空母の強さはイコールなのです。

 

 「空母達に慕われてて、指揮も問題なく出来る。さらに、下手な正規空母より強いんだから負い目を感じる必要なんてないでしょう?」

 

 確かに、それだけが理由なら指揮官を断る必要はありません。

 ですが……。

 

 「それでも私はあの子達に……」

 「死ね、とは言えないか?」

 

 その通りです提督。

 私は非情な命令を下す自信がありません。

 あの子達の身を案じるばかりに、ここぞと言う所で失敗するかもしれません。そんな私に、指揮官など無理です。

 

 「なら君が、そんな命令を出さなくてもいい状況を作ればいい」

 「は……?提督、今なんと?」

 

 状況を作る?私は指揮官をやるんですよね?

 出撃できるなまだしも、出撃もせずにどうやってそんな状況を作り出せと?

 

 「洋上で指揮を執ればいい。艦載機を使えば、それも可能だろう?」

 「それは……。私も出撃していいと言う事ですか?指揮が問題なく執れるなら、出撃してもよろしいと?」

 「当り前だろう。ゲームじゃないんだから、別に出撃できる艦娘に上限などない」

 

 よく考えればそうです。

 私ならあの子達の指揮を執りながら、あの子達が討ち漏らした艦載機や敵艦を屠るくらい、出撃する事が出来るなら可能。

 

 「やってくれるな?鳳翔」

 

 もう、できないなんて言えません。

 数年ぶりの出撃。

 しかも旗艦ではなく、指揮官として艦隊を指揮するおまけ付き、難易度は高いですが私なら……。

 でも万全を期すならもう一人、私並みの人が欲しいですね。

 

 「引き受けるにあたって、一つお願いがありますが……。よろしいですか?」

 「聞こう」

 「現在、舞鶴に配属されている軽空母、龍驤を私の副官として配置してください」

 

 龍ちゃんは、私が確立させた運用法とは別の、龍驤式艦載機運用法の創始者。

 彼女なら、私と同じ事が出来ます。

 それに龍ちゃんは、雲龍型の子達に手解きをした人です。ならば、雲龍型の指揮は龍ちゃんに任せればいい。

 

 「わかった、手配しよう」

 「ありがとうございます」

 

 あの子達に、死ねと命じなくてもいい状況を作ってしまおう。

 そうよ。

 あの子達が全力で戦えるよう、私がサポートすればいいんです。

 嫌だわ、私ったら。

 年甲斐もなく気分が高揚してる。

 さっきまで、あの子達に恨まれてるんじゃないかと心配していたのが嘘のように気分が高まっている。

 あの子達と一緒に戦えると思っただけで、ここまで心が奮い立つなんて思ってもみませんでした。

 

 「空母の母の本気を、楽しみにしているよ」

 「致し方ありませんね。母として、あの子達のお尻を叩いてご覧に入れましょう」

 

 提督の期待に応えるように言った台詞を聞いた、古くからの友人である三人は揃って、「あ~あ、一番たちの悪い人に火を点けちゃった」と、呆れながら言っていました。

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