艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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日曜に休めなかったせいか、今週は長く感じるなぁ……


第九十七話 了解、全力で事にあたるわ

 

 

 

 執務室で作戦の大まかな説明があった日の夜、「久しぶりに四人で飲みましょう」と言う鳳翔さんのお誘いで、私たち四人は居酒屋 鳳翔に集まっていた。

 

 「鳳翔!酒のおかわりを頼む!今夜は飲むぞ!」

 「程々にしときなさいよ長門。明日も、武蔵の訓練に付き合うんでしょ?」

 「堅いことを言うな天龍!ほら、お前も飲め!」

 「今は辰見よ。何回言ったら覚えるのかしら、この脳筋は……」

 

 諦めなさい天奈。

 本能だけで生きてるような長門に何か教えるより、犬を躾る方がはるかに楽よ。

 

 「まあまあ、今日くらいは良いじゃないですか。神風さんも一本浸けましょうか?」

 「うん、あと摘まめそうな物を適当に」

 「お刺身にしましょうか?あ!先にお漬物を出しましょうね」

 「あら、神風もつまみ無しじゃ飲めないんだっけ?」

 「べつに?そんな事ないわ」

 

 先生の飲み方しか知らなかったから、いつの間にか私もそうなっただけ。

 お酒だけ飲もうと思えば飲めるわ。

 

 「それにしても驚いた、まさか()()()()()攻め込む気だったとは」

 「一応 まだ内緒なんだから言っちゃダメよ?長門。それと、『ワダツミ』は鎮守府その物じゃなくて、あくまで鎮守府の機能を搭載しただけなんだからね?」

 

 それでも大した物だと思う。

 まさか、あんな物を用意してるなんて私も知らなかったわ。

 新造艦を造ってるのはなんとなく察してたけど、私はまた税金の無駄使いしてるとしか思ってなかった。

 ちなみにくだんの船は、艦娘運用母艦『ワダツミ』。

 工廠、入渠施設等の艦娘関連施設の縮小版を艦内に搭載した動く鎮守府。艦母とでも呼べばいいのかしら。

 これまで一番ネックだった鎮守府と敵地を往復する時間や消耗を考えず、任意の場所で補給や入渠、装備開発まで可能な海軍の新型艦よ。

 今回みたいな攻城戦じみた作戦にはもってこいの新兵器ね。ワダツミの護衛に艦娘を割かなければならないのが難だけど、前線の構築や交代、補給が段違いに楽になるもの。

 

 「でも、カタパルトまでつけたのはやり過ぎじゃないですか?アレで、艦娘を射出するんでしょう?」

 

 鳳翔さんがそうであるように、私が一番驚いたのはカタパルトまで搭載していた事。

 射出すれば戦艦などの初速は補えるけど、ハッキリ言って無駄だったんじゃないかって思っちゃうわ。

 

 「艦隊最後尾の艦が着水した時点で、最高速度での艦隊運動が出来るようにするためらしいわ。誰が考えたのかは知らないけど、きっと「行きまーす!」的な事を、艦娘にさせたかったんじゃないかしら」

 「逝きまーす!に、ならなきゃいいけどね」

 

 え~っとたしか、射出速度はジェットコースター並みって言ってたっけ。

 でも、発艦訓練はいつする気なんだろ。

 まさか、ハワイまでの道すがらじゃないわよね?

 

 「私的にはそれも捨てがたいが、どちらかと言うと腕組みして艦橋手前からリフトアップされる方が好みだな」

 

 アンタは10分程度しか戦闘できない未完の最終兵器か!

 残念ながら、それは母艦が撃沈寸前まで追い込まれないと出来ません。

 そもそも、艦橋前にリフトなんてついてる訳ないでしょ!諦めて逝きまーす!してなさい!

 

 「長門はそっちの方が良いの?一応あるわよ?艦橋前にリフト」

 

 有るんかい!

 ワダツミを設計した奴は何を考えて、そんな場所にリフトなんてつけたの!?

 もしかしてデンドンしたかったの?戦場にデンドンデンドンデンドンデンドンって鳴り響かせたかったの!?

 

 「でも、ヘリコプター用のリフトだから大きいわよ?」

 

 なるほどね。

 ヘリの発艦用リフトなら納得してあげる。

 どうして艦橋前につけたのかはサッパリわからないけど、とりあえずは納得するわ。

 

 「ただねぇ……。仕様書ではスピーカーとスポットライトがついてるようになってるのよ。しかも、不必要に性能が良いやつ」

 

 やっぱりデンドンしたいんじゃない!

 確信した。

 ワダツミを設計したのは、ロボットアニメが大好きな中年オヤジよ!

 きっと、ここにリフトをつけたら〇〇バスターごっこが出来そうじゃね?とか、そんなノリでつけたに違いないわ!

 

 「艦橋から発進か……。胸が熱いな!」

 

 うっさいゴリラ!そのまま亜高速で飛んでいけ!そして一万年後くらいまで帰ってくるな!

 

 「はい、神風さんお待たせ」

 「ありがと……」

 

 あまりにも馬鹿らしすぎて、心の中でこれでもかとツッコンでしまったから飲んで落ち着こう。

 バカに付き合ってたら、私の精神が保たないわ。

 

 「辰見さん、普通に発艦は出来ないんですか?射出されるのはちょっと……」

 「出来ますよ?本来は帰投用ですが、艦後部から普通に出撃も可能です。あ、仕様書見ます?」

 「いいんですか?じゃあ遠慮なく」

 

 いや、それって機密扱いとかされてないわけ?一応、海軍の最新鋭艦でしょ?なんで仕様書とか持ち歩いてるのよ。

 

 「確かに……。艦隊を即時展開するのに便利そうですね。仕様書を見る限りだと、カタパルトとは言ってもウォータースライダーに近いです。これは、速度が遅い順に射出するんですよね?」

 

 ウォータースライダーを立ったまま滑り降りるの?

 なにそれ怖い。

 でも、空中に放り出されるよりはマシか。

 

 「そうなりますね。艦隊が一列に並べる六射線カタパルトが両舷に一つづつ。プラス、後部に一つ。都合、三艦隊同時に射出可能です。仕様上は数分程度で、()()()()の状態での展開が可能になってます」

 

 それなら、普通に出撃するよりは良さそうね。

 出足の遅い上位艦種が、最初から最高速度の状態なら戦域への到達時間も短縮出来る。

 

 「や、やっぱり、鳳翔、行きまーす!とか、言わなきゃいけないのかしら……」

 「そ、それは個人の自由で……」

 「あ、あら、そうなの?やだ、私てっきり……」

 

 照れるくらいなら聞かなきゃよかったじゃない。

 もしかして、言いたかったの?鳳翔、行きまーす!って言いたかったの!?

 あの、お願いだからやめて。

 本当にお願いだから、鳳翔さんまでボケに回らないでください。

 処理し切れなから。

 

 「なあ、一つどうしても、わからない事があるんだが」

 

 なによゴリラ。

 ビームの出し方がわからないとか言ったら張っ倒すわよ?

 

 「なぜ、あの場に神風が居たんだ?秘書艦の三人はまあ、わかる。だが、神風があの場に居た理由がわからない。編成にも組み込まれず、指揮官をするわけでもないのに、なぜあの場に居た?」

 

 あ~、そこ突っ込んでくる?

 その話題には触れないようにしてたんだけどなぁ……。

 

 「どうしても聞きたい?」

 

 とは言っても、私はお父さんから何も聞かされてない。

 何をしようとしてるのかは想像ついてるけど、出来れば長門の()()()()()ような事はしたくないしなぁ。

 

 「私も気になります。神風さんは、提督が隠してらっしゃる事に気づいているのでしょう?」

 

 うわぁ……。

 鳳翔さんは、あの計画書を見て違和感を覚えちゃったのか。

 う~ん、どうしよう。

 天奈は我関せずって感じだしなぁ……。

 そんな態度を取るってことは知ってるんでしょ?

 だったら天奈から説明してよ。

 私は、何か聞いてるわけじゃないんだから。

 

 「私が思うにだ。今日説明された作戦そのものが、囮なのではないか?」

 「「「……」」」

 「な、なんだ三人揃ってマヌケな顔をして!そんなに変な事を言ったか!?」

 

 いや、()()()()()()()()

 驚いてるのは、あなたがソレに気づいたからよ。

 それに気づいたってことは、あなたの脳みそにも皺があったのね。少しだけ見直したわ。

 

 「やはり囮ですか……。では、神風さんが言った暗殺も言い間違えではなく、外に気を逸らした中枢棲姫を直接殺害すると言う事なんですね?」

 「ここまで気づかれてるなら、言ってもいいんじゃない?神風は長門の戦意を削ぎたくなくて、言わない様にしてたんでしょ?」

 

 天奈のこの言いようだと、私が想像してる通りの事をお父さんはしようとしてるのね。

 と、言う事は、私は()()()()で確定か。

 

 「囮と言うのは正確じゃないわ。あの計画書に書かれていた事は、言うなれば予備計画よ」

 「なんの、予備なんですか?」

 

 聞かなくても、鳳翔さんなら気づいてるんでしょう?それはもちろん、本命の計画が失敗した時の予備よ。

 そう……。

 

 「私が失敗した時のよ。あなた達が敵の目を引き付けてる間に、私が奇兵隊を率いて島内に潜入。中枢棲姫の首を取る計画のね」

 「じゃあ、過剰なほど制空に拘った装備や編成もそのため……。制空権確保が目的ではなく、敵の目を一つ残らず奪い取るのが目的なんですね?」

 

 ん~それもあるとは思うけど、それに関してはそれだけとは思えないのよねぇ。

 お父さんなら隠し玉の一つや二つは用意してそうだし。

 でも、さすがに予想がつかないからコレはいいか。

 

 「だが、それに意味はあるのか?計画通り、真っ当に攻略しても中枢棲姫の首は取れそうだが?」

 「そうですよ。そんな危険を冒さなくても、島内のギミックを破壊するだけでいいはずです」

 

 確かにね。

 計画書を見た限りじゃあ、4カ所のギミックを破壊すれば結界は消えることになっている。

 だけどお父さんは、それじゃあ上手くいかない可能性を考えているのよ。

 

 「天奈、島内のギミックは艦力を結界に回してるせいで、装甲は張ってないのよね?」

 「ええ、そうらしいわ」

 「中枢棲姫はどうなの?」

 「未確認よ。そこまでは調べられなかったみたい」

 

 やっぱりね。

 私が神州丸から聴いた内容から変わってない。

 と、言うことは、追加調査をしていない。もしくはできていないと言うこと。

 それがお父さんにとって不安要素であり、戦闘を早期終結させる希望でもあるんだわ。

 

 「中枢棲姫?中枢棲姫は、ギミックとは関係ないんじゃ……」

 

 そうとは限らないから、お父さんは私に中枢棲姫を直接叩かせる作戦を考えたのよ。

 結界が中枢棲姫の上空から傘のように展開されているなら、中枢棲姫が艦力を収束させてる可能性が高いわ。

 

 「中枢棲姫がギミックと関係……。提督は、中枢棲姫自身が傘で言う『中棒(シャフト)』に相当するとお考えなのですか?」

 「たぶん、そうだと思う。そうだとしたら、中枢棲姫自身も結界の維持に力を割いてる可能性があるし、ギミックを解除しただけじゃ結界は消えないかもしれない。それに、結界を破壊して中枢棲姫自身の装甲を展開されるより、結界を維持させたままの方が楽に倒せると考えてるんじゃないかしら」

 「それは皮算用だろう!もしそうじゃなかったら……そうか。だから、予備なのか」

 「そういう事。私が上手くやれば、頭を失った敵艦隊は最低でも混乱、総崩れも狙えるかもしれない。私が失敗しても、長門が言ったように真っ当に攻略すればいい」

 

 お父さんはきっと、私たち奇兵隊と艦娘たちの命を天秤にかけた。

 国土の防衛に直接関係しない奇兵隊の損害より、数がそのまま国防に直結する艦娘の損害を減らすことを選んだのよ。

 

 「それと、私が中枢棲姫を直接狙うのにはもう一つメリットがあるわ」

 「神風さんが失敗した場合、島内に侵入を許した事自体が、陽動となるわけですね」

 

 さすが鳳翔さん。話が早いわ。

 私達みたいなネズミが侵入していたとわかれば、中枢棲姫は外から内側へ意識を向けざるをえないし、外に居る艦隊も島に戦力を割くかもしれないから、外側のギミック攻略が楽になるかもしれない。

 成功しても失敗しても、一石二鳥なのよ。

 

 「だが、だがお前は艦娘だろう!陸では力を十分に発揮できないではないか!」

 「舐めないでよ長門。私は艦娘をどう使えばいいかもわからなかった頃から、艦娘をやってるのよ?陸での戦い方は、嫌と言うほど知ってるわ」

 

 それでも実際、できる事なんて知れてるんだけどね。

 弾に艦力を集中して、やっと陸にあがった重巡の装甲をゼロ距離で貫ける程度の力場を展開するのが精いっぱい。

 装甲も張れるけど、私は所詮駆逐艦。軽自動車以下の装甲しか張れないわ。

 もちろん脚技も使えないし、馬力も一割以下になる。

 故に、回避はすべて体術で行うしかない。

 

 「それでも、私なら出来る。私には、お父さん仕込みの体術があるんだから」

 「だが、だが……」

 「長門さん。心配なのはわかりますが、提督と神風さんが決めた事です」

 

 いや、私は何も決めてないわよ?

 鳳翔さんは何を言ってるの……って、そうだった。

 

 「あ~言ってなかったわね。今までのは、あくまで私の想像よ?お父さんからは、まだ何も聞いてないわ」

 「はぁ!?」

 

 いや、どうして天奈が驚くのよ。

 だって聞いてないもの。

 私はお父さんが考えそうなことを、想像して話しただけよ?

 

 「信じらんない!提督はこんな大事な事を、まだ話してなかったの!?て言うか、さっきまでのってただの想像!?ほぼ合ってたんだけど!?」

 

 イエーイ!私大正解!

 お父さんと何年の付き合いだと思ってるの?これくらいの思考のトレースは、私にとっては朝飯前なのよ?

 まあ、()()()並みとはいかないけど。

 

 「まあまあ、辰見さん落ち着いて。提督も切り出しにくいんですよ。きっと……」

 

 私がお父さんの考えに気づいてる事には、気づいてると思うけどね。じゃないと、私の質問にあんな答え方はしないわ。

 

 「はぁ……。つまり私たちは、お前が中枢棲姫の首を取るまで戦闘を長引かせる必要があるわけか。しかも、艦隊メンバーに知らせずに……」

 「そういう事。変に意識させちゃうとバレるかもしれないからね。それに、自分たちが囮だと思って戦うのとそうじゃないのとじゃ、モチベーションに差が出るでしょ?」

 「武蔵には絶対言えないな。アイツは撃つしか能がないし……。どうしたものか……」

 

 撃つしか能がなかった長門がそれを言うか。

 後輩が出来て、少しは成長したみたいじゃない。

 

 「全力を出しつつ手加減ですか……。心中、お察ししますよ長門さん」

 

 鳳翔さんは制空維持と前衛艦隊の掃討だもんね。長門よりは気が楽でしょう。

 

 「頑張ってね長門。応援してるから」

 

 ニシシシ♪って笑ってるけど、天奈は水上打撃部隊の指揮官でしょ?

 まさか、長門に丸投げする気なんじゃないでしょうね。

 

 「もう一つの水上打撃部隊の旗艦は金剛さんでしたね。金剛さんも、囮の件はご存じなのですか?」

 「知らせる予定よ。話の流れで言っちゃったけど、長門と鳳翔さんにも、折を見て言うつもりだったの」

 

 言ったのは私だ!

 天奈は何もしてないじゃない。

 私が話してる最中も、チビチビとカシスオレンジ飲んでたじゃん!

 

 「朝潮たち第八駆逐隊も、編成に組み込まれていないが……。まさか提督は、朝潮たちにも陸戦をやらせる気なのか?」

 

 それはない。

 あの子達に陸戦の経験は無いはずよ。

 だけど、お父さんがこんな大事な作戦であの子達を使わないとは考えられない。

 と、言うことは、虎の子の第八駆逐隊を編成に組み込めない理由が、他にもあるってことね。

 

 「そう言えばこの前、提督と満潮ちゃんが何か話をしてましたね。今思うと、アレはこの作戦に関する事だったのかもしれません」

 「なんて言ってたんです?八駆に関しては私も知らないんですよ」

 

 天奈も知らないの?

 はて?お父さんはなんで話してないんだろう。お父さんの事だから、話したつもりで忘れてる可能性もあるけど。

 

 「え~と確か……提督が満潮ちゃんに「お前がネ級だったらどう動く?」って聞いて、満潮ちゃんが「艦隊の背後を突く」とか言っていたような……。すみません、うろ覚えで……」

 

 ネ級?タウイタウイで満潮が気にしてたネ級かしら。

 だとしたら、戦艦棲姫がおまけでついて来るってことよね?

 しかも、前面に集中しているワダツミや艦隊の背後から。

 

 「なるほど、八駆に窮奇を迎撃させるつもりなのか」

  

 それしか方法がない。

 連れて行ける戦力で最低でも姫級二隻を相手にしなきゃいけないし、ワダツミ自体も護衛しなきゃいけないから、背後に迫る敵の射程にワダツミが入る前に、迎撃に向かわせられる戦力の余裕はないわ。

 それこそ駆逐隊一つが精いっぱいのはず。

 だから、姫級と渡り合える第八駆逐隊を主力艦隊に組み込まず、背後をついて来るかもしれない戦艦棲姫迎撃に回すんだわ。

 

 「ある意味、第八駆逐隊がこの作戦の要ですね」

 「そうね。お父さんは戦艦棲姫が背後から来るのを、ほぼ確信してると思う。八駆が敵の突破を許せば、護衛部隊くらいしか残っていないワダツミは背後から強襲され、私達は司令塔を失って前後から挟撃される」

 

 事前に戦艦棲姫を捕捉出来れば、作戦開始前に叩くことは出来るでしょうけど……。

 お父さんは、それが出来る可能性は低いと考えてるんでしょう。

 

 「天奈、もうちょっと艦娘を手配することは出来なかったのか?せめてもう一艦隊居れば、どうにかなったものを……」

 「無理よ。三年前の横須賀襲撃が、大本営で未だに尾を引いてるわ。大本営付の艦娘を貸してくれって打診したけど、それも無理だった。それでも、できる限りの数を手配したんだから文句言わないで」

 

 大本営を安心させつつ、攻略に投入できる最大数が全艦娘の三分の一……か。

 でもそれにしては、一艦隊分くらい数が足りないような……。

 艦娘の総数って240人くらいじゃなかったっけ?

 

 「よし!やっぱ作戦前にクーデターを起こすしかないわ。大本営のバカ共を皆殺しにして、艦娘全員率いてハワイに攻め込みましょう!」

 

 どうしてそうなる。

 やめときなさい天奈。

 国防のために艦娘を残すのは必要な事よ。

 クーデターは、せめて作戦が終わってからにしなさい。

 

 「乗った!皆殺しはやり過ぎだが、灸をすえる位はいいだろう!」

 

 乗るなバカ。大本営に向けて砲撃でもする気か。

 

 「致し方ありませんね。空母たちも集めておきましょう」

 

 致し方ある!

 どうしちゃったのよ鳳翔さん!酔ってるの?

 あ、よく見たら足元に一升瓶が2本も転がってる。さっきまでの間にそんなに飲んだの!?

 顔色が変わってないから気づかなかったわ……。

 

 「よし!そうと決まれば作戦を練らなきゃね。どうする?」

 

 いや、ノープランかい!

 それでよくクーデター起こそうとか言えたわね!

 

 「海上から砲撃」

 「海上から空爆」

 

 アンタらもか!

 バカでも思いつくわそんな事!

 これは早めに逃げた方が良いわね。逃げなきゃ、間抜けな事に巻き込まれるのは確実!

 

 「あ!神風が逃げようとしてる!」

 

 まずい、気づかれた。

 でもお生憎様。酔っ払いの千鳥足でつかまえられるほど、私はトロくないわ!

 

 「なんだと!?敵前逃亡は銃殺だぞ神風!」

 

 なるほど、アンタらは敵なのね。よくわかったわ。

 今度とっちめてやるから覚悟してなさい!

 でも今は逃げる!

 酔っ払いとは言え、この三人相手じゃ分が悪すぎるもの!

 

 「お任せください。私だって、やる時はやるのです!」

 

 ()る気か!

 その弓矢どっから出したの!?

 酔っ払った鳳翔さんが、ここまで(たち)が悪いとは知らなかった!

 

 それから、私の逃避行は一時間にも及んだ。

 飲んでる最中に走り出したから気持ち悪い……。

 敵に回すと、あの三人は本当に厄介ね。長門は純粋に身体能力が高いし、辰見と鳳翔さんは技量が並じゃないし。

 

 「はぁ、はぁ……。撒いたか……かな?」

 

 いい歳した大人が、幼気な少女を追い回すんじゃない!飲んでる最中に走り出したから変に酔いが回っちゃったじゃない。

 あぁ、気持ち悪い……。

 悩みの種はまだあるってのに、相談する暇もなかったわ。

 もう、今日は部屋に戻って寝よう。

 お父さんはまだ起きてるかな。

 

 「ただい……ま?」

 「遅かったのぉ。外が騒がしかったようじゃが、酔った勢いで暴れちょったんか?」

 

 うわっ!ビックリしたぁ……。

 電気も点けずに何してるのよ。月見酒?相変わらず、寂しい飲み方してるわねぇ。

 

 「他の三人が悪酔いしちゃってね。さっきまで追い回されてたのよ。それより、電気点けていい?」

 「ん?ああ、ええぞ」

 

 えらくテンションが低い。

 私も変な酔い方しちゃったせいでテンション低いけど、お父さんはそれよりさらに低いわ。

 

 「あ゛あ゛~水が美味しい……」

 「年頃の娘がオッサン臭いぞ」

 

 はいはい、すみませんね。

 相変わらず、作戦について話しそうな気配はない……か。そんなに切り出しにくいなら、あんな作戦立てなきゃいいのに。

 ちょっと意地悪してやれ。

 

 「着替えるからあっち向いてて、それとも……見たい?」

 「アホか!さっさと着替えろバカ娘が!」

 

 アホかバカかどっちかにしてくれない?

 別にどっちでもいいけど。

 

 「終わったか?」

 

 待ちなさいよ。女の子は身支度に時間がかかるの!

 まあ、寝巻だけどね。

 

 「もういいわよ~。って、まだ飲むの?明日も仕事でしょ?」

 「なんか、酔えんでなぁ……」

 「心配事でもあるの?」

 「心配事はいつもだ。今日に限った事じゃあないわい」

 

 あ、そっぽ向いて誤魔化そうとしてる。どうせ、私に話を切り出すかどうかで悩んでるんでしょう?

 

 「作戦の事?」

 「ああ……」

 

 メンタル弱いなぁ。

 朝潮には全部話したんでしょ?

 だってあの子、編成欄に自分の名前がないのに動揺すらしなかったもんね。

 

 「お父さん、髪結って」

 「はぁ!?なんで俺がそんな事せにゃいけんのや!」

 「昔はやってくれてたでしょ?下手くそだったけど」

 「そりゃあ、そうじゃけど……」

 

 はい決まり。じゃあ膝の上にお邪魔しまーす。

 

 「ったく、三つ編みでええんか?」

 「寝てる時にバラけなきゃなんでもいいわ。満潮みたいに、フレンチクルーラーにでもする?」

 「ありゃあ俺じゃあ出来ん。どうなっちょるんかもサッパリじゃい」

 

 やっぱり難しいのか。

 そういえばなんで、満潮はそんな面倒な結い方をしてるんだろう。

 何か思い入れでもあるのかしら。

 フレンチクルーラーが好きすぎて、頭にもつけたくなったとか?

 

 「お前、少し汗臭いぞ。風呂入ったんか?」

 「入ったけど、走ったせいでまた汗かいちゃったの。明日の朝入るからいい」

 「そんな将来が心配になるような事言うなや……。嫁の貰い手がないなるぞ」

 「生きて帰れたら、その心配をする事にするわ」

 

 私の一言で、お父さんの手が止まった。

 でも、これで切り出しやすくなったでしょ?

 だから言って。

 命令して。覚悟は、出来てるから。

 

 「どこまで……想像がついている?」

 「大筋はほぼ全て……かな。何年、お父さんの娘をやってると思ってるの?」

 「そうか」

 

 有るかどうかも知れない隠し玉までは、さすがにわからなかったけど、お父さんが私にやらせたい事はわかってる。

 

 「私はお父さんの娘である前に懐刀、奥の手よ?今さら、何を遠慮してるのよ」

 

 遠慮してると言うよりは、怖がってるって感じかな。私を失うのを恐れるなんて、可愛いとこあるのね。

 

 「大丈夫よお父さん。私は死なないわ。自慢の娘を信じなさい」

 「そうだな、お前を信じるよ。俺の自慢の、娘だからな」

 

 うん、それでいいの。お父さんは私を信じて送り出してくれるだけでいい。

 

 「駆逐艦 神風に命ずる。ハワイ島に上陸し、大将首をあげて来い」

 「了解、全力で事にあたるわ」

 

 普段はあれこれ言われるのが嫌なのに、何故か今日は、命令されたことで力が湧いてきた。

 しかなたないわね。って言うよりは、やってやるって感じに。

 うん、そう、やってやる。

 私がお父さんの戦場に、神風を吹かせてあげる。

 

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