銀嶺が青むまで   作:小栗チカ

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一日目 仕事の始まり

ここは元々、緑豊かで数多の動植物が存在していた高原だったそうです。

しかし今は、岩と雪と氷と死に彩られた危険な山岳地帯となりました。

季節は暦の上では冬。

そして暦通り、ここ数日の外気温は連日氷点下を大きく下回り、苦労して掘り進めた塹壕に吹き込む風は、防寒装備を纏っているにも関わらず体感温度をさらに下げていました。

 

≪小隊、中隊長の合図とともに一斉射撃≫

「了解」

 

無線からの指示に私は応じます。

 

「りょ、了解」

 

一拍遅れて、隣にいる私よりも若い女の子が応じました。

クイーン討伐のために、心臓が無事な死体に手当り次第、正体不明の寄生体をくっつけて吸血鬼として蘇らせられた一人です。

そんな数多くの吸血鬼が、教育訓練もそこそこに実戦へ投入されていました。

酷い話です。

死んだと思ったら吸血鬼として蘇って、この世界を喰らい続けるバケモノと、無尽蔵にミサイルもどきをブッパする女の子と、ゾンビっぽいものと戦争をしなくてはならない現実は、冷静に考えたら混乱必至でしょう。

おまけに配属先がこんな極地で、しかも塹壕の向こう、シャーベット状になった泥将軍のおわす大地には、小型のバケモノがどっさりいました。

恐怖におののき、嘆きや愚痴が出てもおかしくありません。

でも、彼女を含めたこの部隊の新入りの皆さんはよく付いてきてくれていました。

目の前のことに必死で、感情が追いついていないせいもあるでしょうが。

ぎこちなく応じ、体を強ばらせ、支給された銃剣を握りしめる彼女の姿にふと思います。

入隊当時の私もこんな感じだったのかな。

……ロート隊長もこんな風に私を見ていたのかな。

 

「大丈夫ですよ」

 

私は彼女に声をかけます。

 

「あの数です。前に向かって撃てば、必ずバケモノのどこかに当たりますからね」

「……はい!」

 

女の子はしっかりと頷き、視線を前方へと向けました。

 

「隊長、風が弱まってきた。そろそろだ」

 

右隣にいる十は年上の同僚が声をかけてきたので頷きました。

ロート隊長が先の戦いで死亡し、彼ではなく私が分隊長になる狂気の沙汰のような人事が行われました。

私が何とか隊を率いていられるのも、彼のサポートと新入りさんたちの協力あっての賜物です。

彼らのためにもしっかりしなくては。

私は前方をしっかりと見据えます。

目の前のバケモノが押し寄せる光景は、これまでに何度も見てきた悪夢です。

私たちが研究所周辺から叩き出し、さらに外へ外へと押し出し続けたバケモノたちが、失地回復と餌を求めて闘志を燃やしている状況。

何度も見てきて、その度に跳ね除けてきた悪夢です。

私たちのはるか後方では、シルヴァ司令自ら率いる主力の部隊が、女王とそれに従う堕鬼を相手に激戦を繰り広げていました。

結果、多くの犠牲と新たな堕鬼を生み出し、私たちの背後を襲う危険はあったけど。

それでも戦い続け、バケモノは一体、一欠片なりとも通さない。

何があってもここは守る。

それが、私の所属する隊に下された命令でした。

ふと、違和感に気付きます。

……なんか、頭のてっぺんがペッチョリしている。

フードの隙間に雪でも入ったのかな?

しかしそれを確認する前に、空気が恐ろしくひりつくのを装備を通して感じられました。

十分に敵は引き付けられている。

風も弱まり視界も十分に確保出来ている。

まさに今が好機です。

そして、一発の銃声が風に乗って耳に届きました。

寄生体の宿る心臓がギュッと縮まり、頭の中で何かが炸裂します。

来た!

 

≪小隊、射撃開始≫

 

構えていた銃の引き金を即座に引きます。

弾は当たり前のようにバケモノに命中。

立て続けの銃撃に弾を受け続けるバケモノは足止めされ、続いて霧散していきます。

私は新入りさんたちに指示を出しながら、アイヴィ型の牙装を展開し、バケモノに向けて動かします。

射出した瞬間、バケモノは吹っ飛び冥血がグンと取り込まれるのを感じました。

数が多く群れているので取り放題です。

射撃するもの、冥血を確保するものとで交代しながら攻撃を続けます。

そして瞬く間に、粗方のバケモノはほぼ駆逐できました。

今日も上々です。

 

≪よし、よくやった諸君≫

 

中隊長の通信が入りました。

 

≪この攻撃で第一波の小型連中は壊滅した。次は馴染みの顧客、中型連中のお出ましだ。錬血攻撃小隊、攻撃準備≫

 

攻撃錬血を主体とした高火力部隊の登場です。

先程の小型との戦闘で冥血も相当確保出来たはず。

そして射撃部隊の私たちは、引き続き小型の駆逐と中型の足止めをするお仕事になります。

 

「隊長、先程の戦闘で隊員の死傷者はいない。まだまだいけるぞ」

 

サポートする彼の言葉に私は力強く頷きました。

 

「了解! 皆さん、引き続き我が身の安全を第一に、決して死に戻ることのないように!」

「みゃあ!」

 

私の左隣にいる年若い女の子の返事に、目を見張ります。

……みゃあ?

ついでに言えば、頭のペチョペチョもだいぶ酷くなっているような。

思わず右隣の彼を見ると、彼もこちらを向きました。

 

「にゃもん」

 

えっ、……ええっ?!

な、何故、猫?!

猫。

あ、ああ、そうか。

私は悟ります。

これは夢だ。

これは、過去の戦場なんだ。

認識した瞬間、周囲が瞬く間にぼやけて暗くなりました。

意識が一気に浮上し、目が覚めます。

そして暗い室内を背景に、私を覗き込む存在がいました。

 

「みゃあ」

 

暗闇に視界が慣れ、私は一声鳴いたそれに向かって手を伸ばします。

馴染みのある滑らかな毛並みと、しなやかで柔らかく温かい体。

 

「ポイントさん、おはようございます」

 

彼は何も言わず、ただ私の手に一回頭を擦りつけました。

そして、頭のペチョペチョの原因へ手を伸ばします。

ポイントさんとは別の手触りの毛並みと温かい体。

それは、私の頭の上に陣取っていました。

 

「茶トラさん」

 

私はその体を撫でながら声をかけます。

 

「ありがとう。はね毛チャレンジはもういいですよ。それ以上やるとそこだけ禿げちゃいますからね」

「んにゃも」

 

特徴ある鳴き声を一声上げると彼は諦めることなく、私のはね毛を落ち着かせようと舐め続けます。

毛繕いをしてくれるお気持ちはありがたいのですが、後で頭拭かないと。

私は茶トラさんの体を軽く叩きました。

 

「ほら、ご飯の準備をしますから」

 

途端、茶トラさんは起き上がり、ポイントさんはさっさとベッドから降りました。

ご飯という言葉に反応する猫たちの正直さときたら。

私はベッドから身を起こしました。

部屋は真っ暗ですが、枕元の時計の時間は朝の五時前。

今日という一日の始まりです。

上着を羽織り、灯りをつけたランタンを手にして台所へ向かいます。

台所へ向かっている間も、そしてご飯の準備をしている今も、茶トラさんはにゃもにゃもにゃもにゃも鳴き、いえ、喋り続けます。

 

『ご飯なにー? お肉? お魚? ボクねー、マグロの赤身が食べたい。サーモンでもいいよ。お肉なら鶏肉ー。ささみ好きー。いい子で待ってるけど、早くしないとイタズラするからねー』

 

なんて言っているのでしょうか。

……マグロかー。

あの大崩壊から今まで、マグロどころか生の海産物を口にしたことはありません。

お肉も恐ろしく貴重な代物になりました。

そもそも私は吸血鬼。

本来なら人間の食事は必要無いですし、事実、何日も食事を摂らなくても平気です。

でも、私の胃袋と心は、人の食事を確かに必要としていました。

生前も自他ともに認める食いしん坊でしたが、死んで蘇ってもその性根は治らなかったようです。

あーあ、マグロ食べたいな。

喋り続ける茶トラさんとは対照的に、ポイントさんは沈黙を守りながら私をひたりと見上げています。

 

『大人しく待っているから早くして』

 

キリッとした目は、雄弁にそう語っていました。

えーえー、お待ちくださいませよ、にゃもにゃも。

貴重なウェットフードに、やっぱり貴重なドライフードを混ぜ混ぜして器に盛り付け。

ハイ、できあがり。

台所の角の床に布を敷き、ご飯の入ったお皿を持ち上げると、茶トラさんは一際大きな声で喚き出し、ポイントさんの目の輝きも鋭さを増しました。

 

「はい、お待たせしましたー」

 

柄物の布の上にお皿を置くと、猫たちはすぐにご飯をがっつき始めました。

まるで数日、何も食べていなかったかのような勢いですが、昨日の夜もちゃんとご飯はあげています。

 

「慌てて食べると、またケロケロしちゃいますよ。そのせいでお腹すかせても知りませんからね」

 

声をかけますが、猫たちのご飯を食べる勢いは止まりません。

ランタンの灯りの下、夢中でご飯を食べる猫たちを観察します。

無心でご飯を食べている猫は、ポイントさん。

名前の由来は、白地に体の隅っこが茶色いポイント柄だからです。

そして、にゃもにゃもしながらご飯を食べている丸っこい猫は茶トラさん。

名前の由来は、お腹の白い茶トラ柄だからです。

 

彼らとの出会いは、半年以上前の春先のことでした。

その日はみぞれ混じりの雨が降っていて、大変に寒かったことを覚えています。

久しぶりに山を降り、アウトドア用品を求めて探索した帰り道でのこと。

崩落した橋の瓦礫の隙間に、ポイントさんが必死で鳴いていたのを発見しました。

雨風がしのげ、毛布と餌が入った木箱にいた状況から、誰かに飼われ捨てられたのだと思います。

捨てられた場所から少し離れたところに吸血鬼たちの住む保護区があり、そこの血涙の泉が最近枯れ落ちたと、前職の同僚から聞いていました。

つまりはそういうことです。

親猫と子猫が五匹いましたが、厳しい寒さに生きていたのはこの二匹だけでした。

私は、知人の商人さんの伝手で人間の獣医さんの所に彼らを運び、色んなことがあって一緒に住むことになったのです。

そんな過去を持つ二匹ですが、今日も元気そうで何より。

猫を観察した私は立ち上がり、窓を開けるためリビングへ向かいました。

 

この家の窓ガラスは大崩壊の影響で全て割れてしまい、今は木の板をくっつけて開閉しています。

大分前にここを利用した、要救助者の人のお礼の形です。

それまでは、暖を確保するためにと私が窓に板を打ち込んでいましたが、それでは不便だろうと作り直してくれました。

大変にありがたいお礼です。

板を上げると、眩い光とともにひんやりとした空気と風が部屋に入りこんできました。

眩しさに慣れて外を見ます。

窓から見える青く高い空には、刷毛で掃いたような帯状の雲。

乾いた風のそよぐ庭とその先に見える荒廃した大地を、朝の透き通った光が照らしていました。

今日もいい天気になりそうです。

家の窓を全て開け終えたと同時に、ヤカンの笛がなりました。

急いで台所に戻り、沸いたお湯でコーヒーを淹れます。

その香りに思わずホッと一息。

私は手元のランタンを消し、眠気覚ましのコーヒーを飲みました。

 

「にゃもむぐにゃも」

 

口の周りを舐め、私を見上げる茶トラさん。

 

「美味しいですか?」

「にゃーも」

「そうですか、良かったですね」

 

そう答えると、彼は再び残りの餌を食べ始めました。

何を言っているのかは当然わかりませんから返事は適当です。

コーヒーを飲みながら、私は周囲を見渡します。

 

ここは元々、祖父母が住んでいた家でした。

日本の山で生まれ育ち、その生涯の大半をヨーロッパの山のガイドとして生計を立てていた祖父と、やはり日本の山で生まれ育った祖母の終の住処だったのです。

なぜ生まれ故郷ではなく、馴染み深い仕事場でもなく、この地のこの山に終の住処を作ったのかは知りません。

そんな祖父母の家は、彼らの趣味とこだわりが凝縮されたような家でした。

山小屋風味の外観。

一階平屋、リビング、ダイニング、キッチンにバスとトイレ、薪ストーブ付き。

軒先には、吸血鬼の血への衝動を加速させる瘴気を浄化し、堕鬼を寄せ付けないヤドリギが生えています。

大崩壊の影響で、東側の外壁の一部と窓ガラスが破損し家具は倒壊。

ライフラインも全滅したものの、この家の外観は周囲のそれと比べれば、奇跡のように保たれていました。

ここが私の活動拠点であり、この山に来る人々の休憩所にして避難所、文字通り山小屋としての機能を果たす場所なのです。

 

「にゃもん」

 

茶トラさんが一声鳴いて餌から離れ、程なくしてポイントさんも静かに餌から離れました。

二匹は土間を兼ねている玄関の水飲み場へ向かったようです。

与えた餌の器は全て空っぽでした。

よしよし、今朝も完食しましたね。

私は空になった器を流しの洗い桶に入れました。

後でまとめて、この家の近くにある水場で洗うのです。

今日は一通りの家事をこなしたら、薪ストーブを分解、点検、お掃除をしましょう。

大崩壊以降、明確な四季はなくなりましたが、それでも一年を通しての寒暖の差は健在です。

ましてやここは、標高千メートルを優に超える場所。

寒さが厳しくなり、雪が降る前に万全の状態にしておかなくては。

そうと決まったら腹ごしらえをと思った時、玄関から無線の発信音が聞こえてきました。

無線を使って私に連絡する人は限られています。

恐らく、集落跡地に住む吸血鬼さんでしょう。

無線の発信音に驚き、揃って尻尾をふくらませている猫たちを後目に、ヘッドセットに手を伸ばしました。

 

「はい、お待たせしました」

≪おはよう、ネーネ≫

「おはようございます、ベティさん」

 

馴染みのある妙齢の女性の声は、予想通り、集落跡地に住む吸血鬼のエリザベスさんでした。

私は早速本題を促します。

 

「どうかされましたか?」

≪うん。今ね、フランの散歩をしているんだけどさ≫

「いつもお疲れ様です」

≪ありがと。毎日朝と夕方にトレイルランするなんて、生前は想像もしていなかったよ。大型犬を飼うって、本当に大変なんだねぇ≫

 

しみじみと言うベティさん。

しかし次の瞬間には、その調子が変わりました。

 

≪それで、いつも散歩ルートを通ったんだけどさ、誰かこの山に入ったようで、E地点の岩壁の縄ばしごが使われていたよ≫

 

あら、来山者ですか。

 

≪ついでに、例の堕鬼のたまり場を見に行ったんだ。フランがやけに吠えるから。そしたら、お客さんが立ち入ったみたいでね≫

「え」

 

え。

だってあそこは━━。

 

「あそこ、立て看板と柵を設置して、警告文も書きましたよ。私とベティさんの母国語と中国語で。結構強めの言葉で」

≪私も手伝ったから知ってるよ。今度誰かに教わって、ヒンドゥー語とスペイン語も加えておこう。とにかく、柵が破られていた。堕鬼が蹴散らしたんだろうけど、周囲に堕鬼がいる気配はない。恐らく、切り抜けたんだろう≫

 

ベティさんは冷静に状況を報告します。

 

≪足跡からして複数人。大きさを見るに多分男だね。恐らく要救になってるだろうから、今フランに探らせているよ≫

「そうですか」

 

フランとは、ベティさんが飼っている白いメスの犬の愛称。

正式にはフランチェスカといい、とても忠実で陽気な仲間思いの犬です。

しかも聴覚と嗅覚に優れ、運動神経も知性も攻撃性も極めて高い、勇敢で猛々しいこの山の最強生物でもあります。

彼女なら要救助者がどんな状態になっていても、見つけ出すことはできるはずです。

 

「手助けが必要なようならまた連絡ください。こちらは受け入れの準備をします」

≪OK。ついでに紅茶の準備もしておいて≫

「了解です」

 

通信は切れ、ヘッドセットをはずして私は一息つきました。

巨大な光るタケノコもどきが生えたことによる地殻変動に加え、バケモノや堕鬼が好き勝手したこともあり、この山は荒れ放題になっています。

大飯食らいのバケモノはいませんが、私と猫二匹、集落に住むベティさんと犬一匹だけでは、山の整備は追いつきません。

整備されていない山に入るなど危険極まりないことですが、それでも訪れる存在はいました。

この山に血涙の泉があることを聞き付けて冒険に出た吸血鬼たちです。

そして冒険の末にここに来るのは、運の悪い乾き物か、勢い任せで無計画な乾き物といった要救助者たちばかり。

ふと視線を感じてそちらを見れば、猫二匹が揃って尻尾をふくらませ、くっついて様子を伺っていました。

 

「お客さんが来ますよ。迎え入れてやりましょうね」

 

ふーんそう、じゃあボクたち日向ぼっこしてるね。

危険がないことを察したのか、そんな体で猫たちは揃って尻尾をたて、リビングへ行ってしまいました。

最近は陽の当たる窓のへりが彼ら、特にポイントさんのお気に入りの場所なのです。

予定は変更になりました。

取り急ぎ着替えて、受け入れの準備を始めましょう。

身支度をして客間のチェック。

救助用具一式の入ったケースを外に運び出します。

キャンプ用のテーブルと椅子、フランチェスカのお水、テーブルにお茶の道具をセット。

顔を上げた時、西側の道の向こうから犬の吠える声が小さく聞こえました。

そちらに目をやれば、現在の風景にするりと『脈』が浮かびます。

庭を吹きぬける風の通り道の風脈、ヤドリギが生えるその下に必ずある地脈、水場に繋がる水脈、そしてこちらに向かってくる吸血鬼たちと犬の動脈と静脈。

乾き物の要救助者は三人。

予想よりも到着が早そうです。

私は部屋に戻り、剣を外してある銃剣と|吸血牙装≪ブラッドヴェイル≫を手に取ります。

吸血牙装とは、敵を吸血するための機構を取り入れた防具のこと。

主に四種類の型があり、吸血の仕方に違いがあります。

状況に応じて使い分けるのが、賢い吸血鬼の生き方です。

牙装はオウガでいいかな。

念の為に剣も持ち、装備を身につけて大切な血涙を一つ、腰のポーチにしまうと、ヘッドセットを首にかけて再び外に出ました。

窓辺にいるポイントさんと茶トラさんが、こちらを見ていたので歩み寄ります。

 

「いいですか。危ないと思ったら逃げるんですよ」

 

彼らの頭を左手の指で軽くトントンし、顎を撫でながら言うと、彼らは気持ちよさそうに目を細めました。

呑気なものです。

でもいざとなれば、どこへなりとも逃げ隠れは出来ましょう。

そして目に止まるのは、軒先のヤドリギです。

正式名は血涙の萌芽。

白く発光する蕾のような、鳥籠のような、枯れた白菜のような形をした植物っぽいものは、女王討伐戦前に行われていた、クイーン計画━━正式にはQ.U.E.E.N計画━━と呼ばれる吸血鬼の研究によって生み出されたもの。

瘴気を浄化し、記憶した吸血鬼の霧散した体をつなぎ止めて再構築する力を持っています。

吸血鬼にとっての大事な保険であり、安全地帯を作ってくれているものです。

 

「おはようございます。今から騒がしくなりますけど、今日もいつも通り、よろしくお願いしますね」

 

何となく、この不思議な木っぽいものに声をかけるのが日課になっていました。

守り神みたいなものだからですかね。

私は立ち上がり、準備運動をしながら到着を待ちます。

程なくして、犬の吠える声と、男たちの悲鳴と雄叫びが聞こえてきました。

ヘッドセットを装着し銃剣を構えます。

大丈夫、落ち着いて。

そして、ついにそれは来ました。

片手剣を振りかざし、雄叫びを上げながらこちらに向かってくる干物寸前、堕鬼一歩手前の男吸血鬼。

 

「オオオオオオッ!! 血るっ!」

 

一歩踏み切り、素直に真正面から襲いかかった乾き物の額に向けて、銃床を前に銃剣を突き出しました。

眉間を強打した男はよろけ、さらに一歩踏み込んで腹部を強打。

最後にこめかみを殴りつけると、男は横に吹っ飛んで地面に倒れ伏しました。

状態を確認すること暇はありません。

跳躍し、私の頭上めがけて戦鎚を振り下ろす影。

 

「こオのやロおおおっ!! 」

 

すかさず牙装を吸血モードに展開。

 

「よくも先パイヲっ!!」

 

右腕を振り上げると、重い衝撃と共に受け流し成功。

 

「アイデデデデッ!!」

 

戦鎚を落とし、木っ端堕鬼のような苦悶の声を上げる男に吸血することはせず、銃床で頭に一撃、二撃と加えて地面に叩きつけ気絶させました。

ピクリとも動かない彼らに、念のため、再生の誘起薬をサラリと一振り。

のつもりが、蓋が大きく開いてタパーと垂れ流し状態に。

あらあら、大した傷でもないのにもったいない。

そして最後の一人が、フランチェスカに吠えられながら庭に現れました。

気絶している男たち同様、血と汗と泥と埃で、大変ばっちぃことになっていました。

 

「ま、待って、くれ」

 

息もたえだえに男はよろめきながら、私に向かってきます。

 

「俺たちは、血涙を、探しに来た、だけ、なんだ」

 

そう言って、男は倒れ込みました。

それと同時に、彼らを追い込んでここまで導いた、白くて大きい賢い犬が庭に現れます。

私はそれに関わらず、倒れた男に歩み寄り膝をつきました。

 

「助けてくれ……助けて……」

「ええ、助けますとも」

 

悲痛な声で呻き気絶した男に頷き、語りかけます。

 

「あなた方のような人のために、この場所はあるのですから。ここまで本当によく頑張りましたね」

 

私に同意するかのように、フランチェスカが一つ吠えました。

 




ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字言い回し等、修正がありましたら都度修正します。
こちらでお知らせなどを語っておりますので、よろしければご覧下さい。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=68614
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