用之所趨異也。
灰身の吸血鬼 プロローグ
それは大きかった。
それの表皮に有象無象の小さきものたちが産まれて増えて、地に満ちる程度には大きかった。
それは身動ぎをした。
それにとっては例えるなら、着ている服が汚れたから着替えようとしただけのことだった。
それの身動ぎひとつで築き上げたものは潰れ、多くの命は消え失せた。
表皮に生きる命は皆等しくそれの餌となり、一つになる運命にあった。
その運命に、一部の小さきものたちは抵抗した。
それに対し、先んじて行った投資の効果は絶大だった。
小さきものたちは右往左往し、勝手に悲劇を生み出しては自爆し餌となる。
その中の一つが、それに近づき飲み込まれ、それの傀儡となった。
その中の一つが、傀儡の力を利用して赤い霧を生みだしたが、それは特に何もしなかった。
その行き着く先は、赤い霧という皿に盛られた餌という未来であり、それの命の大きさと長さは小さきものたちの比ではなかった。
だから放置した。
では、あれは何なのか。
皿からこぼれ落ちた餌の中に異物の気配があった。
それの存在を持ってしても、その異物は不穏で不快で忌避すべきものと感じた。
潰そう。
生物の本能に従い、あるものを媒介にしてそれは一つの形をなそうとしていた。
◆
元々この山は、生も情もないが、それ故に汚れもない世界であった。
人の足で赴くことのできる、美しくも厳しい異世界。
未知の景色を一目見ようと、過去に数多の人々が足を伸ばしたであろう山。
しかし、大崩壊時の地殻の変動と気象の変化は山の姿を大きく変えた。
それに加え、審判の棘と呼ばれる謎の構造物が山体を無惨に突き破り、堂々と天に向かって聳えている。
その姿は、この地上を引き裂こうとする爪か、はたまた喰らおうとする牙か。
その上、粛正の棘と呼ばれるやはり謎の構造物が、今しがたまでこの山を打ち崩すかのように降り注いでいた。
それがおさまり、舞う氷雪が晴れた一つの審判の棘の前に、一人の男が倒れ込んでいた。
その構造物の大きさから見れば、その姿はあまりにも小さい。
男は、この地域に駐屯する部隊の中隊長を務めていたが、今日この日この時、二度目の死を迎えようとしていた。
一度目は故郷と家族を守るため、兵士としてバケモノと戦い命を落とした。
そして二度目、今まさに、目の前のバケモノと、さらにその向こうにいる規格外のバケモノの猛攻で。
ひと握りの部下たちは残らず灰と化し、辛うじて生き残った男の命は風前の灯火であった。
男の脳裏に過去の記憶が走馬灯のように蘇る。
そもそも、何故こんなことになったのか。
あの大崩壊後、確かに死んだはずの自分がどのような経緯で、
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