銀嶺が青むまで   作:小栗チカ

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人固有一死、或重於泰山、或輕於鴻毛。
用之所趨異也。



XT 2:灰身の吸血鬼
灰身の吸血鬼 プロローグ


それは大きかった。

それの表皮に有象無象の小さきものたちが産まれて増えて、地に満ちる程度には大きかった。

それは身動ぎをした。

それにとっては例えるなら、着ている服が汚れたから着替えようとしただけのことだった。

それの身動ぎひとつで築き上げたものは潰れ、多くの命は消え失せた。

表皮に生きる命は皆等しくそれの餌となり、一つになる運命にあった。

その運命に、一部の小さきものたちは抵抗した。

それに対し、先んじて行った投資の効果は絶大だった。

小さきものたちは右往左往し、勝手に悲劇を生み出しては自爆し餌となる。

その中の一つが、それに近づき飲み込まれ、それの傀儡となった。

その中の一つが、傀儡の力を利用して赤い霧を生みだしたが、それは特に何もしなかった。

その行き着く先は、赤い霧という皿に盛られた餌という未来であり、それの命の大きさと長さは小さきものたちの比ではなかった。

だから放置した。

では、あれは何なのか。

皿からこぼれ落ちた餌の中に異物の気配があった。

それの存在を持ってしても、その異物は不穏で不快で忌避すべきものと感じた。

潰そう。

生物の本能に従い、あるものを媒介にしてそれは一つの形をなそうとしていた。

 

 

元々この山は、生も情もないが、それ故に汚れもない世界であった。

人の足で赴くことのできる、美しくも厳しい異世界。

未知の景色を一目見ようと、過去に数多の人々が足を伸ばしたであろう山。

しかし、大崩壊時の地殻の変動と気象の変化は山の姿を大きく変えた。

それに加え、審判の棘と呼ばれる謎の構造物が山体を無惨に突き破り、堂々と天に向かって聳えている。

その姿は、この地上を引き裂こうとする爪か、はたまた喰らおうとする牙か。

その上、粛正の棘と呼ばれるやはり謎の構造物が、今しがたまでこの山を打ち崩すかのように降り注いでいた。

それがおさまり、舞う氷雪が晴れた一つの審判の棘の前に、一人の男が倒れ込んでいた。

その構造物の大きさから見れば、その姿はあまりにも小さい。

男は、この地域に駐屯する部隊の中隊長を務めていたが、今日この日この時、二度目の死を迎えようとしていた。

一度目は故郷と家族を守るため、兵士としてバケモノと戦い命を落とした。

そして二度目、今まさに、目の前のバケモノと、さらにその向こうにいる規格外のバケモノの猛攻で。

ひと握りの部下たちは残らず灰と化し、辛うじて生き残った男の命は風前の灯火であった。

男の脳裏に過去の記憶が走馬灯のように蘇る。

そもそも、何故こんなことになったのか。

あの大崩壊後、確かに死んだはずの自分がどのような経緯で、吸血鬼(レヴナント)というファンタジーなバケモノとして蘇ったのか。

 




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