目覚めた直後、すぐに事情を探ったが担当医や上官から詳しい事情は聞けなかったし、聞く時間もなかった。
状態が良好と判断されるや否や、慌ただしく配属先へと送られた。
そして、現地にいた上司や同僚から詳細を知ることができた。
曰く、人類はバケモノとその親玉と化したクイーンと戦うため、死んだ人間の心臓に正体不明の寄生体を埋め込み、不死の戦士『
心臓が無事な人間の死体全てにその白羽の矢がたち、この部隊にいる全員が志願したわけでもなく問答無用で吸血鬼として蘇らせたのだと。
元々黒かった髪が白髪のような灰色になったのもその後遺症ではないか、とのことだった。
にわかに信じ難いことではあったが、一度死に戻りを経験し、信じざるを得なくなった。
ついでに、死に戻りの際には記憶を喪失するという看過できないデメリットもあることも知った。
それでも戦えという本隊の上層部に、男は不信を抱いたが戦う理由を見つけたことが腐りそうになる心を押しとどめた。
同じく吸血鬼として目覚めた妻と共に、未だ眠りにつく娘とその未来を守る。
男は、夫として父としての役割を果たすべく武器を手に持ち立ち上がった。
今度こそ妻と娘を守り抜き、クイーンを討伐したら家族三人で生きていくのだと誓って。
幸いにも配属先は直属の上司や同僚、部下に恵まれた。
上司の配慮で目覚めた妻と短い時間だったが再会し会話もできた。
雪山と凍土の戦いは苛烈を窮めたが、生前はなすすべもなかった大型のバケモノとの戦いも数をこなせるようになった。
そして、本隊の果敢の働きでクイーンは潰え、終戦を迎えた。
ようやくこの地獄の雪山から下りることができる。
家族の元へ帰ることができるのだと思った。
しかし、何故か一向に撤退命令が出ない。
『上層部の動きがおかしい。恐らく討伐したクイーン絡みで何かあったのだろう。……嫌な予感がする』
温厚を常とした直属の上司は、同僚たちと男に向かって珍しく険しい顔をして言った。
『人間が絡むと司令は見境をなくす。我らにとって不利益なことも平然とやらかす。中隊長諸君、撤退命令は近日中に確実に下るだろう。撤退それ自体大仕事な上に、司令という爆弾も抱えている。山を下りるまで気を抜かないようにな』
今思えば、あれは大隊長の最大の警告だった。
そして、決定的な事件が数時間前におこった。
待ち望んだ撤退命令。
それと同時に突然出現した赤い霧。
赤い霧は、あらゆる存在に激しい苦痛と恐怖を与えた。
戦場は敵味方なく混乱し、比較的損耗が抑えられていた男の部隊は他部隊の撤退を支援すべく殿を命じられる。
目の前に未だ残るバケモノたちの群れ。
それでも部下たちの士気は高く、この状況においても勇猛に戦い、男も部下の思いに応えるべく、懸命に部隊の指揮を続けた。
このバケモノ共を一掃し、部下たちと共に山を下り家族の元へ帰るのだ。
しかし、赤い霧に触れた空を飛ぶ大型のバケモノが、体の制御を失って山体に激突。
それを機に、破滅の轟音を奏でながら斜面を滑る猛威を見た。
それは雪と氷が織り成す死の波濤。
クゥシン! シーハン!
男の部隊は瞬く間に悪夢のような白に飲み込まれ、赤い霧の向こうまで押し流された。
こうして、男の部隊は大規模な雪崩によって壊滅した。
しかし、山の神の慈悲か気まぐれか。
男は辛うじて生きていた。
十名にも満たなかったが、男の部下も山の神の慈悲にあやかれた。
男たちは、生きのびるための手段を模索する。
装備も自我を保つための血液錠剤も心許ない。
言語を絶する激痛と恐怖に耐えて、赤い霧の向こうに行く気力も今はない。
一度山を下りて、それから今後のことを考えよう。
男の決断に、異を唱える者はいなかった。
下山を始めて一時間、最初に異変に気づいたのは
『隊長、十時の方角に敵影を発見!』
見ればこちらに猛然と迫る白いバケモノの姿があった。
硬質な青白い鎧をまとった黒い肢体。
その体に這う強靭な腱は禍々しい赤紫色。
異様なのはその背に蝶のような翼をはやしと、人間のような顔をしていること。
しかしそれは、散々戦場で戦い見慣れた姿だった。
冷気と氷を操る四足のバケモノだ。
男は即座に周囲を確認し、右手に比較的開けた平らなを土地を発見した。
経験から足場も問題ないことを確認し、即座に声を上げる。
『右のテラスに移動。あそこで迎え撃つ。回転する氷塊を真っ先に潰せ。範囲攻撃を出される前に叩くぞ』
部下たちは静かな自信を持って応じた。
一人では難しい大型のバケモノだが、人数がいれば十分に対応は可能だった。
事実、この一体目は五分とかかることなくクリア出来た。
しかしそれを皮切りに、大中小問わず空から陸から続々とバケモノたちがやってきた。
懸命に戦いながら、男の脳裏に疑問が生じる。
男の副官が銃を構えながらこちらを振り向いた。
『隊長、このままでは押し切られます』
その顔は偏光機能を持つフルフェイスのマスクによって見えないが、声には焦りが混じっていた。
『……何故だ』
『え?』
『バケモノどもが急にここに来ている理由は何だ?』
男の呟きに副官は思わず口を噤んだ。
バケモノたちは、一度霧散しても堕鬼のように再び形を成す。
故に、男たちの職場であるこの山々も、どれほど戦ってもバケモノの姿が絶えることはなかった。
だが、何度も霧散を繰り返せば、再生するまでの時間が長くなることはよく知るところである。
だからこそ地獄と化したここの戦況は常に拮抗、もしくはわずかに優勢の状態を保っていた。
しかしそれは、戦う相手がこの地域に棲息するバケモノに限られていたからである。
今ここに襲来するバケモノどもは、男たちが戦ってきたバケモノとは色や造形が異なるものがいた。
新種か、この山の周辺以外のバケモノたちがここへ来ているのではないか。
それは何故か。
男の疑問に副官も思い至った時、最悪かつ絶望的な予想が副官の脳裏に閃いた。
『隊長、まさかここに』
その時、男の錬血が発動した。
男は、熱源を感知し視覚化する永続型の錬血を所持している。
発動した錬血は、男の視線を自動的に先程下ってきた斜面とその向こうに向けた。
男の部下たちを貪欲に飲み込み灰にした忌むべき純白の世界。
しかし錬血によって視覚化された情報は、男に別の世界を見せた。
男は状況を忘れて息を飲む。
積もった氷雪の下、荒れた岩肌の更にその下は、火事でも起こったかのように一面が真っ赤だった。
あまたの熱源が群れているのか。
否、巨大な熱源がこの山の地中に広がっているのか。
ここの山々は火山ではない。
それに、一時間程前までは無かったはずなのに。
男の思考はそこで途切れた。
男に見つかり隠れる必要はないと思ったか、その赤は突如として膨張し破裂した。
轟音と共に雪と氷と岩とが弾け飛ぶ中、男は反射的に大声で鋭く叫んだ。
『そこの陰へ隠れろ!』
再び大規模な雪崩が起こり、バケモノたちがなすすべもなく巻き込まれ、麓へと流されていく。
テラスの陰にとっさに隠れた男と隊員たちは全員無事だった。
そして、そこにいるあらゆる全ての存在が山頂方面を見、声をなくした。
雪煙の向こうに光と影があった。
瘴気が渦を巻き、急速に膨張しながらそれは形をなしていく。
遠目から見てそれは、宝石の代わりに顔がつき、胴体と六本の手足がついた青紫色に輝く悪夢のティアラ、と言ったところか。
しかし、問題はそこではなかった。
『な、何、あれ』
『デケェ……』
『おいおい、いつからここは怪獣映画の舞台になったんだ? キヌ、コイツの大きさわかるか』
『は、はい! ……えっ、え?!』
錬血で測定した数字が信じられず言葉をなくした彼女に、男は声をかけた。
『ヤクシ軍曹』
『は、……高さは約三百メートル、近く』
『三百?!』
彼らは、地獄の雪中戦で大小問わず数多のバケモノと戦った獄卒と呼ばれる兵士であり、運も実力も兼ね備えた精鋭である。
しかし、そんな自負を粉砕し、遠近感を狂わせる破格の規模の異形がそこにあった。
男は呆然とそれを見上げる。
アレが、バケモノどもを呼び寄せているのか。
それとも、アレに惹かれて周辺のバケモノどもが勝手に集ってきているのか。
『隊長、周辺の瘴気の濃度が上昇。規定の数値を大きく超えています』
『だよな』
『あれだけの図体だ。そりゃたれ流す量も半端ねえだろうさ』
副官の報告に、部下たちがぼやく。
と、それはおもむろに首、否、口をめぐらせると唐突に雄叫びを上げた。
高さ三百メートル近い巨体から生み出された音と衝撃波は、有形無形問わず全てを弾き飛ばす。
それは、テラスにいた男と部下たちも例外ではない。
とっさに対衝撃の姿勢を取れたのは訓練と経験の賜物であったが、圧倒的な力と存在を前に男たちの士気までは守りきることはできなかった。
男はすぐさま命令を下した。
『総員、すぐに下山するぞ。マスクは絶対に外すな! バケモノどもは可能な限りやり過ごせ!』
『了解!』
状況は確実にこちらに不利な方向へ動いており、一時の躊躇はたちどころに灰に至る。
『スキーがあったらこんな山、さっさとおサラバできるのにな!』
『スノボでもソリでも、この際滑られるならダンボールでもいいわ!』
『ダンボールはすぐにヘタれそうですが』
『さすがは我らの少尉殿! この状況でもそのノリは変わらないですか!』
ボヤきながらも隊員たちは速やかに下山を開始する。
獄卒と呼ばれた男たちが恐れおののき、ほうほうの体で下山する姿は滑稽にして哀れとしか言いようがない。
そんなちっぽけな一個分隊の姿を、そのバケモノはどう捉えたのか。
その巨体の周辺に無数の金色の糸が現れた。
それは即座に編み込まれて矢じりとなる。
最初にそれに気づいたのは男の副官、スノーデン少尉であった。
矢じりのいくつかがこちらを向いていると判断するや否や、彼は滑り降りる足をどうにか止めてその場で仁王立ちとなる。
そして両手を斜め前方へ突き出すのと、その巨大な矢じりが射出されたのはほぼ同時であった。
高速で射出された金色の矢じりは、本隊が対峙したクイーンのそれ──粛清の棘と呼ばれる──と同じだが、大きさと重量は比較にならない。
それらが雨あられと山肌に叩き込まれ、えぐり削られ、山容は無惨に変貌していった。
当然、男たちは地表に着弾した際の衝撃波や、凶器と化した氷塊や石つぶてに翻弄されるはずだった。
だが、彼らはそれでも無事だった。
男は気付き振り向く。
『少尉!』
『行ってください! 長くは持たない!!』
少尉は、一面にハニカム構造の防御錬血を展開し、粛正の棘とそれからもたらされる障害を防いでいた。
彼は砕く勢いで歯を食いしばり、鬼の形相で圧倒的な質量に抵抗し続ける。
しかし、一人で抵抗するにはあまりにも規格が違いすぎた。
本来であれは、小隊以上の人数が必要であろう。
その証拠に、全身全霊の彼の防御錬血は徐々にひしゃげ、彼もろとも辺り一帯を押しつぶそうとしている。
未だ留まる上官に向けて叫んだ!
『早く!!』
頭はいいが世間を知らず、規律も頭でしかわかっていない、一見若く頼りのない士官。
生真面目だがどこか抜けた彼は、年上の部下に突き上げられ、男を含めた上司の板挟みにあい苦労をしていた。
だが決して腐ることはしなかった。
忍耐強く、しかし潔いの良い家族思いの上司は、常に部隊のために最善を尽くしてきたことを知っていた。
癖の強い部下たちが、口では色々言ってきても、結局は相談に乗りフォローしてくれたことを知っていた。
だからこそ地道に努力を積み重ね、上司と部下を信じ、副官としての務めを果たしてきた。
みんなを守るのだ。
副官の覚悟に、男はマスクの奥で歯ぎしりをする。
『少尉』
女王討伐戦当初から目をかけ育て、苛烈な戦場を共にした部下を捨て駒にする。
男は心の痛みを耐えながら口を開いた。
もはや一刻の猶予もない。
『そこは任せたぞ!』
『はい!』
男は踵を返し走り出した。
しばらく後、背後で轟音ともに地響きが襲いかかる。
男は意識して前方を睨み、ふらつく足を必死で動かし続けた。
『クソ! クソッ!』
『ここまで生き延びたってーのに、カッコつけやがって、あの馬鹿野郎が!』
年下の上司をからかい困らせ、それでも影日向にサポートしてきた部下たちが、疾駆しながら声に苦渋をにじませ悪態をつく。
だが、感傷にひたる暇を現実は与えてはくれない。
飛来し地面に炸裂する規格外の粛清の棘をやり過ごすその頭上を、いくつかの影が通り過ぎる。
この即席の分隊において最年長の男は、それに即座に反応し、走りながら戦斧を構えた。
と同時に男たちの前方に大型のバケモノ二体が地上に降り立ち、小型のバケモノたちも合わせて前方に立ちはだかる。
思わず足を止める男だが、その横に人影が進み出た。
『曹長?』
『露払いをします。しばしお待ちを』
男は二の句を継ごうとしたが、ギリックはさらに指示を飛ばす。
『キヌとブレンダは隊長を守れ。頼んだぞ』
『了解!』
『吶喊する。マット、レジー、俺に続け!』
三人は弾けるように駆け出し、勢いよく跳躍、バケモノどもに突撃した。
先行した男の一人、マット軍曹はすぐさま錬血を展開し、周囲が一瞬真っ白に輝いた。
突然の鋭い光に怯むバケモノたちに向かい先陣を切ったのは、レジー兵長だった。
レジーの戦鎚、マットとギリックの持つ戦斧は、人類と吸血鬼の英知の結晶である特殊機構を持った試作品である。
ブースト機構を持つ彼の戦鎚がオレンジ輝き、ハーネスを兼ねた牙装から数多の刃を出現した。
それらで怯む小型のバケモノを蹴散らしながら、滑り降りる速度や角度を調節する。
怯みながらも大型のバケモノの一体は、矢じりのような氷塊を展開、レジーに向けて即座に射出した。
しかし、レジーは戦鎚のブーストをさらに上げつつ牙装の刃を利用して大きく回り込んで氷塊をかわし、
『おおら転べやあああああっ!!』
雄叫びと共に彼はブーストを最大にし、バケモノの太い前足に側面から戦鎚を叩きこんだ。
頑強な氷の装甲に覆われた前足だったが、渾身の一撃はそれを破砕し、さらにはバランスを崩して小型のバケモノを巻き込みながら転倒するまでに至った。
しかし、戦鎚のブーストも彼の動きも止まらない。
ブーストの勢いを強靭な体幹で制御し、一回転してレジーは跳躍。
そのまま振りかぶると、バケモノの顔面に戦鎚を容赦なく叩きこんだ。
もう一方のバケモノは、怯みから恐慌をきたしてデタラメに攻撃をしかけてくるが、幾度となくそれを見てきた男たちは何なくかわす。
攻撃を見切ったマットは、戦斧のギミックを錬血で解放した。
戦斧の柄が二倍以上に伸び、やみくもに跳躍したバケモノの体躯に戦斧の頂端、槍の矛先を突き刺した。
バケモノの飛び込みの勢いと、吸血鬼の超人的な膂力をもって反り投げのように頭から叩き落とす。
ここぞとばかりに炎の錬血を発動させ、バケモノの体に叩き込んだ。
二人が相手をするバケモノの周りには小型のバケモノうろつき、隙あらば襲いかかろうとしていたが、ギリックは猛烈な勢いでそれらを切り刻み霧散させ続ける。
その合間にも彼は冷静に状況を見極め続け、ついに道が大きく開けたこと察した。
『隊長、今だ行け!』
『了解した。必ず三人で追いついてこいよ、曹長!』
年上の部下の声に男は応じ、二人の隊員を引き連れて開かれた道をほとんど滑るようにして通り抜けた。
それを横目で確認し、ギリックは小型や中型のバケモノを機械的に霧散させ続けたが、不意に危機を察知する。
『曹長殿! 新規で大型一体ご案内!』
『了! バレバレなんだよ、老け顔の小僧があっ!』
同じように危機を察したレジーの報告にギリックは応じ、危機を感じた方へ戦斧を勢いよく突き出した。
中型数体を貫いた向こうから、大口を開けた大型の黄色のバケモノが襲いかかり、中型諸共ギリックの腕に食らいつく。
強靭な顎と凶悪な牙で引きちぎろうとする黄色の体毛のバケモノは、その複眼で信じ難いものを見た。
今まさに喰らおうとした獲物は、マスクの向こうで赤い目を煌々と光らせ壮絶な笑みを浮べている。
『おう、雷使いの小僧。こちとら正真正銘の老害ジジイでな、性根の臭えクソガキ茶化して足引っ張るのだあい好きなんだわ。ほら、見せろよ。この老害にご自慢の大技を見せくれっつてんだよ、クソガキ!』
言葉は通じたかは不明だが、獲物の不遜かつ不愉快極まりない挑発に、獣の纏う光が文字通り変わった。
泰然の青から怒りの赤へ。
獣はギリックの腕を戦斧ごと食いちぎって、後方へと飛び退き吠えた。
獣を中心に青い半円上の光が展開し、腕を食いちぎられたギリックはなす術なくそれを見守る。
数瞬の後、円の中激しい雷撃が炸裂し、ギリックは灰すら残さず蒸発するはずだった。
が、ギリックは蒸発することなく、むしろ待ってましたとばかりに雷撃を受け止め吸収しているではないか。
食いちぎられたギリックの腕は瞬く間に再生し、その手には、しっかりと戦斧が握られていた。
戦斧のギミックと錬血を同時に解放。
目を焼く激しい黄金の中でギリックは吼えた。
「そおら、爆ぜろおっ!!」
バケモノに振り下ろされた戦斧の雷撃は、バケモノの雷撃をも取り込んで威力がさらに跳ね上がっていた。
黄金の光が一帯を一瞬照らし、耳をつんざく轟音と共にバケモノはたちどころに霧散した。
ギリックの手には、黄金の光を放つ稲妻をまとった戦斧が握られている。
大型のバケモノと単独かつ一撃で勝利できる兵士は、本隊の兵士を含めても数は少ない。
それをギリックはやり遂げたが、彼にとっては任務の合間の一障害でしかなかった。
ギリックは休むことなくレジーやマットの援護に回り、どうにかバケモノを討伐せしめた。
『よっしゃ!』
『すぐに隊長たちと合流──』
ギリックの声を遮る轟音が響き渡った。
その咆哮には、明らかに怒りの感情がのっている。
バケモノが発したその声は、再び衝撃波となって三人を襲った。
とっさに伏せてやり過ごすが、さらに不穏な音を聞いた。
顔を上げて見れば、はるか向こうのバケモノの周囲に先程とは比較にならない数の棘が出現している。
瞬時に三人は悟った。
これは無理だと。
あの規格、数、そして今いる距離では、どう足掻いても逃げ場はない。
マスクの向こうでギリックは渋面を刻んで口を開いた。
『アイツ、何急にキレてんだ? 情緒不安定か?』
『曹長殿、アイツ、俺たちのせいで思いどおりの展開にならないからキレたのでは?』
目前に迫った死を前にして、驚きと恐怖を通り越していっそ冷静なレジーの言葉に、同様のマットも頷いた。
『アレも一応、さっき生まれたばかりの若い奴ですからね。若い奴って基本は優しく接して適度にイキらせないと、拗ねるかキレ散らかしますから』
『ああ! 全くもう!』
言いながらギリックは立ち上がり、戦斧を振りかぶった。
戦斧の機構が解放され、その場の瘴気を取り込み力にして、轟音と共に黄金の稲光をまとう。
『これだからガキは嫌いなんだよっ!!』
ギリックは補助錬血のいくつかを瞬時に展開。
先程バケモノから補充した雷撃と錬血で強化された膂力で、こちらに迫る棘に向けてそれを投擲した。
投擲した戦斧は黄金の彗星と化して棘に直撃し、驚くべきことにその剛堅な外皮を削った。
しかし、棘の規模を大きな岩塊とするなら、戦斧の規模は縫い針である。
勢いを止めることはできず、棘は三人と周辺のバケモノを巻き込んで次々と着弾。
一帯の生きる全てを瞬時に霧散、灰にした。
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誤字脱字言い回し等、修正がありましたら都度修正します。
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