銀嶺が青むまで   作:小栗チカ

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小春日和の拠点 1

朝晩は随分と冷え込むようになりました。

高気密高断熱の家でなければ、燃料はさらに嵩んでいたことでしょう。

朝食をせがむ猫たちに起こされた私は大きく伸びをし、軽くストレッチしてからベッドから降りました。

土間に向かい、薪ストーブに火を付ければ、朝の時間のスタートです。

まずは猫にドライフードを与え、水を取り替えます。

その後空気の入れ替えのため、窓を一つ開けます。

途端に入り込む冷たすぎる空気に、思わず一つ咳き込みました。

日の出の時間をむかえ、外は薄暗いながらも周辺の山の輪郭が現れ始めています。

今日も冷え込みが厳しく、太陽の出番が待ち遠しいです。

窓ガラス、欲しいな。

そうすれば、気休めでも外気を遮断しつつ外光を取り込めるのに。

数年前に助けた要救助者の中に大工さんがいて、助けてくれたお礼にと全壊してしまった窓を取り外し、この木窓を作ってくれました。

その後もその大工さんは血涙を取りに来るついでに、この家のメンテナンスをしてくれるようになっています。

そろそろ、マタルさんがこの山に戻ってくる頃。

それに合わせてその大工さんも来てくれるので、今度相談してみようかなと思っています。

 

「んにゃーも! むにゃんもにゃも」

 

鳴き声をする方を見れば、ご飯を食べていた茶トラ柄の猫──名前は茶トラさんです──が抗議じみた視線を向けていました。

 

『寒いよ! 窓閉めて』

 

とでも言っているのだと思います。

薪ストーブを使っているので換気は絶対必須なのですが、まあ猫たちがご飯を食べ終えるまでは閉めておくことにしましょう。

 

「はいはい、今閉めますよ」

 

言いながら窓を閉め、部屋にいくつか設置してあるランタンをつけました。

ああ、換気扇も欲しいな。

窓ガラス以上に難しいかな。

欲はどんどん増すばかり。

山狩りは盛況で、ヤドリギと血涙の泉も健在。

お陰様でヘイズや資材は潤沢にありますが、使う所があまりないので貯まっていく一方です。

貯める意識は全くありません。

もっとこの家を、この山を、猫たちにとって快適な場所にするためなら、惜しみなく使うつもりです。

リビングとダイニングのランプを灯し、キッチンで自分の朝食を作ることにしました。

とは言っても、昨日の夕飯の残りである野菜スープと、強度も保存も最強レベルのライ麦パンですが。

ああ、卵料理が食べたいな。

不意に思います。

卵料理大好きです。

贅沢は言いません、目玉焼きでいい。

焼き方や調味料を変えるだけで、印象が様変わりするシンプルイズベスト故に奥深い料理。

私は焼き加減も調味料もこだわりはありません。

ああそういえば、この話題って戦争の火種になる危険な話題の一つでしたっけ。

山と里のつくお菓子とか、天ぷらにかける調味料とか、カレーをご飯の上に全部かけるか否かとか。

随分と平和な、ネズミ花火程度の火種です。

 

「にゃーも」

 

食事を薪ストーブで温めていると、茶トラさんがやってきました。

朝食を終え、薪ストーブの前に陣取りたい様子です。

 

「また早食いをしましたか」

「んにゃも」

「……お水は飲みましたか? 乾燥していますからね、水分補給はしてくださいよ」

「にゃも」

 

私の声に応じながら、茶トラさんは薪ストーブの前に座ったかと思うと早速寝そべりました。

どうやらお兄さん? のポイントさん──ポイント柄の猫です──は、廊下の水飲み場で水分補給をしていましたが、食いしん坊の茶トラさんは早食いかつ水分補給を怠りがちです。

そのため本当はウェットタイプの餌を与えたい所ですが、在庫はすでに無くなっていました。

猫の餌は、ペット専用の商品を取り扱う商人さんがいて、こちらもマタルさんが戻るタイミングでやってきます。

実にニッチな需要であり売上が心配になりますが、各地の人間用のシェルターを含め、拠点を持つ吸血鬼さんの中にはペットを飼う存在もいるようです。

そのため売上はボチボチだとか。

……儲けているんでしょうね。

人や吸血鬼だけでは埋めきれない心の隙間を埋め、血涙では癒しきれない渇きを癒す生き物たち。

人と人の間に介在し、その潤滑油ともなれる存在。

特にこんな酷い世の中では、その存在は極めて貴重で尊いものです。

それは私が身をもって体験していますから十分に理解できます。

人や吸血鬼だけでは寂しいですから。

 

水を飲み終えたポイントさんがやはり薪ストーブの前に寝そべったところで、私の朝食が温まり、キッチンへ持っていっていただきます。

のんびりと食事をとっている間に、太陽も山の向こうから顔を出し始めていることでしょう。

朝食を終えたら、一通りの家事をこなします。

廊下の奥の窓を開ければ、案の定、太陽の光が周辺を照らし始めていました。

ランタンを消しながら掃除を念入りに行います。

毎日掃除をしているのに、それでも埃と猫の毛が湧いて出てきました。

大崩壊前なら、ロボット掃除機や粘着シートの掃除器具もありましたが、今では地道に箒ではいて水拭きをするほかありません。

ああ、カムバック文明。

手持ちの錬血が家事に特化したものならよかったのに。

私の持つ錬血は『ダウジング』と呼んでいる、あらゆる『脈』を見通すものの他、銃剣や極地戦闘に関わる錬血ばかりです。

戦いだけしか役に立たない上に、現状の精神状態では十全にその力を発揮することができなくなっていました。

ならば地道にできることでやるしかないのです。

正直、面倒臭いですが、これも猫が快適に生活を送るために必須なこと。

頑張ることにします。

 

掃除をしていると体が熱くなってきました。

いい運動になると言っていられるのは、毎日やらずにいる人の戯言です。

次は憂鬱な水仕事のため外に出ます。

体が温まっていたため、外の凍えるような外気もどうにか凌ぐことができました。

そして、軒先に燦然と輝く物体、ヤドリギを観察します。

今日もお元気そうで何よりです。

 

「おはようございます。今日も一日安全第一で過ごしていきましょう」

 

ヤドリギからの返事はありません。

当然ですけど。

瘴気を浄化しつつ、枯れずに元気でいてくれることがヤドリギの大切なお仕事。

それを全うしてくれれば十分です。

まずは薪ストーブで沸かしたお湯を水場へと運び、洗濯物と汚れた食器、調理道具を水場で洗います。

流石にこの時期はお湯がないとお話になりません。

ああ、続・カムバック文明。

失ってからわかるあの素晴らしい存在たち。

洗濯機や食洗機を発明した人は、きっと神の遣わした使者に違いありません。

洗濯機、食洗機、あなたたちにもう一度会いたい。

そしてその力を私に見せつけてほしい。

そんなことを考えながら、機械的に体を動かして洗い物をし、洗濯物を庭先で干していた時でした。

玄関から無線の発信音。

……ベティさんでしょうか。

一度作業を中断し、無線機へ駆け寄って発信者を知ることができました。

マタルさんです。

一ヶ月ほど前に無線で話をし、そろそろこちらに戻ってくるだろうことは予測していました。

私はボタンを押すと応答しました。

 

「はい、寧々です」

≪あ、ネネか。俺だよ、マタルだよ≫

「はい、わかっていますよ。サバーフ・ルヘイル」

≪サバーフ・ルヌール≫

 

彼の故郷の言葉では、おはようございますにあたる言葉が二種類あります。

発信者と応答者で言葉が違ってくるのだそうで、こんにちは、こんばんは、も違うのだそうです。

彼と一緒に過ごしていた時、暇だった私たちは互いの言葉を教え合っていた時期がありました。

いまだに彼の故郷の言葉は、使う機会も少なく中々慣れません。

 

「今日お帰りになられますか?」

≪ああ、そっちに持っていく品物もかなり貯まった。午前の取引が終わったらすぐに戻る≫

「わかりました」

≪手が空いていたら、喫煙所作っておいて≫

「はい、お待ちしていますね」

 

そうして通信は切れました。

我ながらあっさりとしたやりとりだとは思いますが、積もる話は直接会ってすることにしましょう。

再び洗濯物を干しながら、頭の中で段取りを組み直します。

まずは家事を終わらせて、デスク周りの片付け。

これらを午前中に終わらせて、お昼を食べたら喫煙所作成かな。

喫煙所とは、マタルさんがシーシャを嗜む場所のこと。

家は禁煙なので、庭先に防火素材のタープを張り、焚き火台と椅子、シーシャを設置していつでも吸えるようにしておくのです。

明日以降、マタルさんが戻ってくることでこの山に血涙を取りに来るついでに、マタルさんと商品の売買を行おうとする人たちがやってきます。

タバコは嗜好品として根強い人気があり、喫煙所はいつも盛況になるのです。

洗濯物を干し終え、食器と調理道具を一旦土間に置き、いつものテーブルとチェアを用意していると、犬の鳴き声が聞こえました。

素早くこちらにやってくる真っ白な大型犬。

この山で唯一にして最強の生物、フランチェスカです。

彼女は私の目の前にやってくると、尻尾を振りながらお座りしました。

 

「おはようございます、フランチェスカ。水を用意しますから待っててください」

 

そうして専用の器に水を用意していると彼女の飼い主がやってきました。

 

「グッモーニン、ネーネ」

「おはようございます、ベティさん。今日はここ経由の散歩ですか」

「散歩ルートはフランの気分次第。私はその後についていくだけだよ」

 

ベティさんはこの山の麓にある拠点の主人で、現在は期間限定で男子三人のグループと、ひと組の母娘を預かっています。

ちょっぴり皮肉屋ではありますが、人とお話しするのが好きな彼女にとって現在の環境は良いものと言えましょう。

あ、そうだ。

 

「ベティさん、マタルさん、今日の午後に戻ってきますよ」

「あらそう。そうか、もうそんな時期なんだ」

 

ベティさんは頷き、そして笑顔を見せました。

 

「そうなると明日から数日、この山も賑やかになるね」

「そうですね」

「数ヶ月に一度の恒例行事、お祭りみたいなものだ。楽しみだよ」

 

しばらくベティさんと雑談をし、再び散歩に戻る一人と一匹を見送って、テーブルと椅子のセッティングを済ませると一度家に戻りました。

段取り通り、私室の掃除、特にデスク周りの掃除を始めます。

マタルさんはここにいる間、祖父が使っていたデスクでお仕事をします。

彼が言うにはとても質の良いデスクでお気に入りとのこと。

私は使っていませんが、猫たちのお気に入りの寝床にもなっているため念入りに拭き掃除をしておきました。

なのに、そのデスクに陣取ろうとする影を察知。

ピョンと飛び乗ってきたのは茶トラさんです。

 

「茶トラさん、退いてください。マタルさんが帰ってくるんです。お掃除の邪魔をしないでください」

「にゃーも」

「にゃーも、じゃありません」

 

ちなみにポイントさんは周辺をパトロール中のようで姿が見えません。

仕方がない、あれを出しましょう。

私は茶トラさんを抱き上げてリビングへ移動しました。

 

「はい、それじゃあいつもの段ボールを用意してあげますから、そこでゆっくりしてください」

「んにゃーも、んにゃもにゃーも」

「ええ、ええ、さすがですね、私は知りませんでしたよ。そんなこと知っているなんて茶トラさんはすごいですね」

 

抗議していると思しき鳴き声に適当に返事をし、もうボロボロになっている細長い段ボール箱をセット、茶トラさんをインさせます。

茶トラさんはすぐさま箱から飛び出したものの、気が向いたのか入念な匂いチェックの後、速やかに箱へと収まってくれました。

みっちりと詰まったその姿は、綺麗な焼き色のついた食パンのよう。

でも型は限界を迎えつつありました。

この段ボール箱は、茶トラさんが子猫の時から使っているものです。

当時は段ボール箱の半分くらいの大きさしかなかった茶トラさんも、今では段ボール箱から溢れるほどに成長しました。

パンパンに膨らんだ段ボール箱の声なき悲鳴が聞こえてきそうです。

この段ボール箱、ポイントさんもお気に入りなんですよね。

この箱のどこがそんなに魅力的なのか。

会話ができれば是非ともお尋ねしたいところです。

さあ、気を取り直して掃除をし直しましょう。

そうして私室に戻った時、思わず膝から力が抜けるような思いになりました。

いつの間にか帰ってきていたポイントさんが、デスクの上でのんびり毛繕いをしているではありませんか。

ポイントさん、貴方もですか。

脱力しながらも、私はそれでも踏み止まります。

ポイントさんの大好きな蹴りぐるみで気を引き、どうにかデスク周りの掃除を終えた頃には、お昼近くになっていたのでした。

 

 

昼間になっても天気は崩れることなく、晴天無風の状態が続いていました。

この時期にしては珍しく、落ち着いた天候です。

まるでこれから来る人を歓迎するかのように。

少し早めの昼食を外で食べ、私は喫煙所の作成を始めました。

防火素材で重く、当初は一人では手間取ったヘキサタープ張りもさすがにもう慣れました。

強風対策用にペグダウンの箇所を多めにし、自在金具で張りを調整していた時でした。

ヤドリギが発光し、光の粒子が周辺に湧き起こりました。

光の粒子は背に荷物を背負う人の形を作り、しっかりとした輪郭を構成。

次の瞬間には大きな荷物を背負い、白いワンピース風の民族衣装を着た少年が現れました。

本来ならそこに、布を被るなりターバンを巻くのが正式なもののようですが、フード付きの牙装がその頭を覆っていました。

……出来上がる前に帰ってきちゃいましたね。

私が立ち上がるのと、マタルさんがこちらを見たのはほぼ同時でした。

マタルさんはフードを外すと、どこか照れくさそうに笑いました。

 

「帰ったぞ、ネネ」

「お帰りなさい、マタルさん」

 

言った途端、彼は顔を歪ませると大きな荷物を慣れた様子で置き、すぐ様私に飛びついてきました。

 

「ネネ! ネネ!」

「ええ、お久しぶり。ご無事で何よりです」

 

彼は何度も頷きながら、私に抱きつく力を強めます。

ちょっと痛い。

でも我慢しました。

が、首筋に鼻をつけ音を立てて匂いを嗅ぎ始めたのはどうかと。

 

「ああ、ネネだ! やっぱり本物は違う!」

 

……本物、とは?

 

「あの、マタルさん?」

「写真と想像だけじゃやっぱ限界がある。これだよこれ! 本物やっぱりいい!」

 

言いながら抱きつく力がさらに強くなりました。

流石にちょっとこれは──。

 

「マタルさん、ちょっと痛い」

「後少し我慢して。今、急速充電中だから」

 

私は小さく吐息を吐くと、彼の背に腕を回し背中を軽く叩いたり撫でたりしました。

たかが数ヶ月、されど数ヶ月ぶりの再会ですが、落ち着きましょうね。

ある程度気が済んだのか、私の体に腕を回したまま、彼は顔を上げました。

浅黒い顔にある黒い両目が私をしっかり見つめます。

 

「少しは落ち着きましたか?」

「うん、少しだけ。元気なのはわかっていたけど、でも会いたかった」

「ご心配おかけします」

「いいよ。これが今の俺たちのベストなスタイルだから。でも今回、離れている期間が少し長かったから」

「そうですね」

 

今回の彼の出張? とでも言うのでしょうか、いつもなら約二ヶ月のところを三ヶ月近く離れて過ごしていました。

冬に備えて、多くの品物をかき集めていたのでしょう。

 

「まだ荷物の持ち込みあるんですよね」

「ああ。あと何回か、六往復くらいしなきゃだけど、パッキングはできているから運び込むだけだ」

「そんなにたくさん──」

「冬の備えだ。それに今この山、人も増えているから多めに持ってきた」

 

すると、彼はまた私を抱きしめました。

 

「でもゴメン」

「……小豆ともち米ですか」

「うん。今回も探し回ったけどなかった。というか、小麦はともかく、米自体が最近高騰していて手に入りづらい」

 

彼がこの地を駆け回る理由の一つに、私がおはぎを食べたいと言う理由から、ほぼ山に引きこもる私の代わりに材料となる小豆ともち米を探してくれているのです。

ですが、それは半分は建前です。

私はマタルさんに商人の仕事を続けて欲しくて、そんな理由をつけて彼を外に出しています。

私は、私の心の傷のせいで萎れていく彼を見たくありませんでした。

いつも私のそばにいる彼より、元気で働く彼が好きなのです。

私が思いに沈んでいると、マタルさんがパッと顔を上げました。

 

「でもその代わり、いい調味料を持ってきたぞ」

 

これもいつも通りのやりとり。

 

「あら、何でしょう」

「今回は絶対に驚くから、楽しみにしとけよな」

 

快心かつ満面の笑みでマタルさんは言いました。

どうやら、私好みの調味料を手に入れたようですね。

どんなものか楽しみです。

と、その笑顔が不意に消えました。

顔が近づいてきます。

 

「そんなに近いと顔が見えませんよ。せっかく会えたのに」

「俺が今何したいか、わかって言ってるよね」

 

吐息がかかる距離で言われ、彼の唇を受け入れようとした時。

 

「にゃーも! にゃんも!」

 

鳴き声のした足元を見れば、茶トラさんが音もなくやってきていました。

前足を上げ、爪を立てて私の体に登ろうとしています。

抱っこしてくれと要求しているのです。

 

「あーもー、茶トラさんよー、お前はよー」

 

心底悔しげに声を上げるマタルさん。

私たちはどちらともなく体を離すと、私は茶トラさんを抱き上げました。

 

「ほんと、いっつもそうだよな。良いところで邪魔してさー。それにまたお前、大きくなったな」

 

渋面を刻みながらも、茶トラさんを撫でる手つきは優しく愛情を感じられました。

茶トラさんもマタルさんに撫でられ、満更でもない様子です。

 

「にゃーも」

「ああ、ただいま帰ったよ。また荷物取りに引き返すけどな」

「にゃむにゃもにゃーも」

「え? お前の飯は、明日イブキさんが届けてくれるよ」

「んにゃーも」

「あと一日だろ。カリカリと水で我慢しとけ。てか、それが普通だ」

「んにゃもー」

 

なんだかんだで仲良しな一人と一匹。

というか、意思の疎通ができるんですか? 会話成立しているんですか? と思うほどのやりとりです。

そんな私の視線を感じたのか、マタルさんは鼻を鳴らします。

 

「何となくだよ。適当。実際はわからん。……もう一匹はあそこか」

 

マタルさんが視線を向けた先、家の窓枠に高箱座りで日向ぼっこしているポイントさんがいました。

本当にマイペースな子です。

マタルさんは肩を落としてため息をつくと、私を見ました。

 

「ポイントさんに一声かけて荷物取ってくる。喫煙所、お願いな」

「わかりました」

 

そうして踵を返すマタルさんの背に、私は静かに声をかけます。

 

「続きはまた夜に」

 

すると彼はピタリと足を止め、勢いよく振り向きました。

睨むような真剣な眼差しで私を見つめます。

 

「約束だからな。俺との約束は重いぞ」

「わかっていますとも。お手柔らかに」

「にゃーもにゃも」

「あー、わかってるわかってる」

 

そうしてポイントさんに一声かけると、マタルさんはヤドリギの前に立ちます。

その姿が光の粒子となり、煙のように消えるのを見届けると、私は茶トラさんに声をかけました

 

「茶トラさん、私は仕事が残っているので、ポイントさんと一緒に日向ぼっこしてもらえませんか」

「にゃも」

 

一声上げて私の腕から飛び降りると、茶トラさんは小走りにポイントさんの元へ向かって行きました。

茶トラさん、まさか私の言葉がわかっているとか?

まさかね。

もしそうなら、早食いしてケロケロすることもないはずですし、水もしっかり飲むはずです。

わかっていて、それでもやらないなら大問題なのですが。

……喫煙所を作る続きをしましょう。

荷物を全て運び込んだら一服したいでしょうから。

私は喫煙所に向き直ると作業を再開しました。




ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字言い回し等、修正がありましたら都度修正します。
こちらでお知らせなどを語っておりますので、よろしければご覧下さい。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view_list&uid=68614
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