神様転生を書いたのは初めてなので初投稿です。

 1話完結です。

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神様が見てる

.

 

 

 

 

 

 思い出せるのは、身を焦がしつくす程の熱

 指先を鑢掛けされていくように、少しずつ消えていく感覚

 悲鳴、絶叫、苦悶、苦悶……

 あらゆる苦痛を意味する言葉が私の口から溢れていたことだけ

 

 

 

「還り損いし、迷える魂よ」

 

「我が子、我が怨敵、我が同胞、我そのものよ」

 

「我が父たる大神の雷霆をその身に受け、そしてその灰より蘇りし我が子らよ」

 

 

 

 目の前の存在は何と言っているのだろうか

 我が子、と言っているのだろうか? 

 水の中にいるような感覚で考えがおぼつかない……

 

 

 

「汝、輪廻に還ること叶わず」

 

「我が父たる神の怒りに触れ、その裁きたる雷、更にその先触れにより汝は死を迎えた」

 

「我が子よ。我が怨敵から生まれし愛しき我が子よ」

 

「汝の死は約束されたものではあったが、些か早急であった……」

 

 

 

 神様の手違いで死んだ

 そう語る神様の姿は、あまりに眩くて見えない

 後光が眩く、この目にはただ影法師が移るのみ

 背丈は、少年と言ってもいい程に小さい

 その頭部には……牡牛の角、だろうか

 それくらいしか、今の私には見えない

 

 

 

「神の雷は、残り僅かとはいえ、汝の未来を奪った」

 

 

 

 影になって顔は見えない

 だが、逆光で見えずともわかることもある

 この御方は、私を()()()()()()

 

 

 

「どうしたのだ、我が子、ヒトの子よ」

 

「よもや、声が出ぬのか」

 

「故に、ただ心で泣くのか」

 

 

 

 喉が潰れ、口が利けなくても、心の声が聞こえてしまうのだろうか

 だとしたら、お詫びする他ない

 私の心の囁きが、この御方の心に波風を立ててしまっている

 

 

 

「是である。愛しき子よ」

 

「汝が嘆きを、悲鳴を、怨嗟の声を聴いた」

 

「しかしてその声は誰に向けられたものではなく、ただ自らの不幸を嘆くばかり」

 

「何故、彼の愚者共を恨まぬ」

 

「捨てた父母を、見捨てた兄弟を恨まぬのか」

 

「身体を嬉々として擦り刻んだ狂気のヒトを恨まぬのか」

 

「良かれと思い食事を分け与え、にも関わらずお主を罵倒し踏み躙った彼の子らを恨まぬのか」

 

「……削られゆくその身を、下卑た歓声を上げて昂ぶる者達を、恨まぬのか」

 

 

 

 ……両親が私を捨てたことも

 私のことを、ただ楽しいからと責め苦を与え続けた彼も

 一つのパンを分けた彼らが、私を売ったのも

 「観客」も「視聴者」も

 

 

 私は、恨みません

 

 

 ただ、産まれた時代と、場所が悪かった

 

 ()()()()()()の、ことなのですから……

 

 

 

 

「……汝は生まれが生まれなら、聖人と成りえた」

 

 

 

「我は、ヘラを憎んだ」

 

「義母にも関わらず、その嫉妬心からティターン族を嗾け、大神より賜ったこの身を潰した」

 

 

 

「アテナイの者達を憎んだ」

 

「大恩あるイーカリオス、そしてその妹を死に追いやった愚か者達であった」

 

 

 

「……我が父を憎んだ」

 

「ヘラに唆かされたとはいえ、父が結んだ誓約により、我が母は死んだ……」

 

 

 

 ふと、その後光が弱まった

 

 

 

 

 ───美しい

 

 

 

 夜の帳の如き美しい黒い髪

 頭部の両端には短く、されど雄々しき一対の牡牛の角

 涙を堪えたその瞳は金色に染まり、琥珀の如く透き通る

 人の目に映るには、あまりに美しい「少年」だった

 

 

 

 

「我は神。故に、ヒトの心を解さない」

 

「だが案ずることはない。怯えることはない」

 

「我が指を見よ。我が光を見よ」

 

「我が父ゼウス、我が母ディオネ……否、()()()()より賜りしこの名に誓い、汝の次なる生の平穏を約束しよう」

 

 

 

 視界が、意識が、霞んでいく

 

 

 

 

 

 次があるかは分からなけど

 

 

 

 

 

 優しいがいたらいいな

 

 

 

 痛いことをされないとい

 

 

 

 こんなでもくれるがいたら嬉いな

 

 

 

 

 

 

 

「汝の願い、聞き届けた」

 

「健全なる精神を育む場を与えよう」

 

「健やかなる五体を与えよう」

 

「我が現し身を、隣人として与えよう」

 

豊穣の神(ディオニュソス)たる我が名において、汝の次なる生を祝福しよう」

 

「……無垢なる者を殺めたことへの、せめてもの贖罪を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 寝ぼけた頭で、薄っすらと目を開く。

 閉じられたカーテンの隙間から、春の朝日が差している。

 

 

 

「起きないと……」

 

 

 

 枕元の眼鏡を手探りで探す。

 おかしいな、確かベッド傍にある読書用の台の上に置いたはずなんだけど……

 そう思いつつ四苦八苦していると、手元に眼鏡を差し出される。

 

 

 

「おはよう、ニコラ兄さん。今日は少しお寝坊さんだね」

 

「ふわぁ……おはよう、ザック」

 

 

 

 声を掛けてすぐ、カーテンと窓を開けているのは俺の弟、ザック。

 ごく小規模の、贔屓目に見ても街とは言えないこの村で、若干12歳にして、村一番の美少年の名を欲しいがままにしている、可愛いさならばそこらの美少女にだって負けないとても可愛らしい弟だ。ジャパンではこう言った子を確か、男の娘というんだったろうか。

 ……はて、俺はどこでそんな言葉を覚えたんだろうか。まぁ、さして重要でもないが。

 

 俺達クラメール家が住んでいるのはイングランドの端も端。

 距離的にはロンドンが近いとはいえ、インフラ整備もロクにされていないド田舎もド田舎だ。

 

 俺の弟はいつも、寝起きでは頭が回らない俺を起こしに来てくれる。

 そのついでと言わんばかりに、優しい手つきで俺の乱れた髪を櫛で梳くまでが弟の日課だ。

 ……15歳の男、それも実兄の髪を整えることに抵抗は無いのか聞いたが、本人にとってはとても楽しいらしい。

 

 

 

「もー、また髪をボサボサにして!兄さんはいくつになったら一人で起きられるのかなぁ!」

 

「んー……ザックが世話をしてくれるからいいかなぁって」

 

「ああいえばこういうんだからっ。そんなんじゃいつまで経っても独り立ちなんかできないよっ」

 

 

 

 綺麗な黒い髪を揺らしてぷんぷん! と私を叱るザックのなんと可愛らしい事か。思わず笑みが浮かぶ。

 それに、今は俺の後ろにいて見えないが、抑え切れてないニヤつきがザックの口元にあることを俺は知っている。

 私の弟は世話焼きで、そんなところも可愛らしい。

 いつまでもその愛らしさに心躍らせたい所ではあるが、あまり迷惑をかけるわけにもいかない。のそのそと起きて着替えを始める。

 

 

 

「今日お祈りの日だから早起きしてって言ったでしょ?」

 

「……すまない」

 

「……兄さんって、本当に信仰心が薄いよね……この家って、今もケルト式のお祈りが続いてる凄く信心深い家なのに……」

 

 

 

 弟はがっくりと肩を落とす。

 失敬な。確かに真面目にお祈りに参加した回数はそう多くない自覚はある。

 けれど、俺ほど神の存在を敬虔に信じている者はそうはいないだろうと自負している。

 

 

 

「むっ、そんなことはない。俺は神様を信じてるよ」

 

「……ほんとにー? 普段の態度からは全然そうは見えないけどー?」

 

 

 

 かわいい顔を歪ませて、じとーっと私に向けて物言いたげな表情を見せる。

 ザックも10歳になってからというもの、兄への敬意を忘れてしまったよう。兄さんはとても寂しい……

 

 

 

「俺はね、ザック。神様にとっても感謝しているよ」

 

「健康に生きられること。毎日美味しいご飯が食べられて、勉強が出来ること。こんなにも愛しい家族に巡り合わせてくれたこと」

 

「それら全部ひっくるめて、俺が幸福であること」

 

「神様に感謝しなかった日は一日たりとも無い、そう断言できるよ」

 

 

 

 まぁ、教会には行ってお祈りとかはしてないけど、と締めくくる。

 いけないな、ぼうっとした頭では考えたことがそのまま口から流れてしまう。

 でも、いいか。たまにはちゃんと言葉にしないと。

 

 

 

「……えへへ、そっか。それは、すっごくいいことだね!」

 

 

 

 ザックは喜びを隠すことなく、私に微笑みかける。

 村の人からは『神の微笑み』と言われる程に美しく、愛らしいその笑顔。

 

 

 

「と言っても聖書を読んでるわけじゃないし……なんて言うんだろう。神様というか、自然そのものに感謝?でいいのかな。ごめんザック、俺も何と言えばいいか……」

 

「ううん、分かったから大丈夫。そっか、うん。……幸せなら、良かった。僕も頑張った甲斐があったよ」

 

 

 

 ……頑張った? どういうことだろう。

 俺は確かに幸せだったけど、別段不幸だと嘆いたような覚えはない……筈。

 

 

 

「頑張った、ってどういう意味だいザック?幸せにしたかったってこと?」

 

「う、ううん!なんでもないよ!さっ、今日も学校でしょ!早くご飯食べよう!」

 

「えっ、ああ、そうだね。すぐに着替えるから先に行ってて」

 

 

 

 分かった! と元気に返事をしてザックは部屋から出ていく。

 ……なんだったんだろう。まるで、()()()()()()()みたいな……

 

 

「……まぁ、別にいいか」

 

 

 

 そう深く考えた所で何かが解決するわけでもなし。一先ずは着替えて、リビングにさっさと向かおう。

 

 

 

「今日も一日、平和に暮らせますように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は、何も知らない

 

 彼を庇護するのは豊穣の神(デュオニュソス)。ギリシャ神話における酒と豊穣の神。

 

 弟ザックは、その分霊そのものであること。

 

 彼の神の庇護により、豊穣を司どる魔法において類稀なる才覚を持つこと。

 

 

 

 

 

「……大丈夫だよ、兄さん」

 

「僕の、一等大切な愛しい家族」

 

「必ず、僕が幸せにするから」

 

「他の誰でもない、僕自身の手で」

 

「独り立ちなんかしなくても、僕が兄さんを幸せにするから……!」

 

 

 

 本来ならば彼の周りに現れるであろう悪いものは全て、弟によって文字通り()()()()()()()()こと。

 

 そしてニコラ自身、弟であるザック、本名「ザグレウス・クラメール*1」に、瞳のハイライトが消える程に重く、重く愛されていること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── エリアス邸 ──

 

 

 

「───私達も、いつから存在するか分からない魔法使いと、ことを構えたくはないからね」

 

 

 

 サイモンはテーブルを介してエリアスに三つの封筒を差し出す。

 

 本来、唯一神を信仰する宗教組織にとって魔法使いは邪教、異端者の類。

 世が世なら協会は武力でもって魔法使いを排除しなくてはならない。

 

 

 

「何百年経ったら、君の上は見識を改めるのかね」

 

 

 

 しかし、エリアスは現代を生きる強大な魔法使い。

 人身売買に手を出すという許しがたい蛮行に出たとはいえ、事を荒立てれば教会の損失は計り知れない。

 

 この魔法使いは教会を脅かすのではないか? 

 今までは大人しかったが、これからは好き勝手するんじゃないか? 

 弟子を取ったなら、その子が我等に復讐するのではないか? 

 

 それらの懸念に対応する為に、教会では対応できない魔法関連の仕事を「ペナルティ」という形にして押し付けることで「この魔法使いは管理下にある」というアピールをする。

 それが、教会が下した政治的判断だった。

 

 

 

「神か、その息子のご一筆でもあればいいんだけどね」

 

「無いものねだりだ」

 

 

 

 サイモンの軽口をエリアスは冷たくあしらう。

 本来であれば幼子を金で買うような真似は到底許されざる恥ずべき行為ではある。

 しかし結果的にとはいえ、夜の愛し仔であるチセの身を救っている。

 それらも相まって、教会はこのような判断を下したのだろう。

 

 

 

「……それにしても、ハァー……神のご一筆、か」

 

「? どうした」

 

「いや、村の子供を思い出してね。老若男女問わず、笑顔が大人気の少年がいるんだよ」

 

 

 

 サイモンは深く、深くため息をついた。

 まるで、心労の全てがそこにあるかのように悩みを吐露する。

 

 

 

「いやぁ、彼らがただの少年だったら良かったんだけど、そうもいかなさそうというか……。あっ、悪いことは言わないから教会には来るなよ。ただでさえその子達が目を付けられないように必死なんだから。君が来たら目立ちすぎる」

 

「言われずとも、僕らが教会に行くわけが無いだろう。……何があった」

 

「いやなに、私が住んでいる村ではここ数年、不思議なことが起こるようになってね」

 

 

 

 サイモンはエリアスの監視についてからの数年、その身をもってあの村のちょっとした異常さをひしひしと実感していた。

 彼が住んでいる村、地域ではここ10年以内で大きな災害が起こったためしがない。これだけだったら良かったのだが……

 

 

 

「ここ数年、病人という病人が出ていない。いや健康に越したことはないんだが、風邪みたいな軽度の症状すら出ていないんだ。その上、聞いた話じゃここ10年以内で不作だったと言える年が一度もないらしい」

 

「……俄かには信じがたいが。だがそれと村の子供に何の関係がある?」

 

 

 

 サイモンは苦笑いを浮かべつつも、どこか楽しそうに村での出来事を語る。

 

 

 

「さっき言った子供なんだけどね、その子の笑顔は『神の微笑み』なんて言われているんだ。教会にこそ来ないけど、私が村で唯一の神父なのもあって、その子によく声を掛けられるんだよ。……なんというか、それを思い出してしまってね」

 

「なんだ、結局この件とは関係ないんじゃないか」

 

「君が聞いたんだろう!?……あーあ、その子の写真とサイン送ったら、教会の連中も黙ったりしないかなぁ。ほら、神のお恵みみたいなことが起こってて、この子は神様みたいな微笑みでしょう?これは神の思し召しに違いない!って言ってさ」

 

「……」

 

「冗談だからなんか言ってくれよ!?」

 

 

 

 

 彼らは何も知らない。

 

 村の安寧、『神の微笑み』

 

 それらは真実、神によって齎されていることを

 

 

 

 

「その子は兄弟でね、神様って言われてるのは弟の方。多分、歳はチセ君に近いんじゃないかな? 存外いい友達になるかもしれないぞ?」

 

「死ね」

 

「酷くないか!?」

 

 

 

 

 それらは神話伝承から成る一柱の神によって

 

 ただ一人の無垢なる魂の為に向けられていることを

 

 誰も、知らない。

 

 

 

 

 

 

.

*1
オルフェウス教における、ディオニュソスがティターン族によって死ぬ前の名前




読まなくてもいいキャラ設定


 ニコラ・クラメール

 産まれる時代を間違えなければ聖人だった。昔酷い目に会った。
 転生後は普通の人(魔法以外)。


 ザグレウス・クラメール

 ディオニュソス神。ゼウスの雷に打たれたヒトに自分を重ねた。庇護の為に転生後に分霊を寄越した。
 転生後は兄の魂が無垢すぎて身も心も欲しがってる男の娘系ヤンデレブラコン。

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