あ、あまり話進まないので~
終わらせられる不安だよ・・・・・・
「あれは?」
最初に気づいたのは、外周を走っていた防衛隊の人間だった。
最初は何かが迫ってくると見えただけだ。
それからしばらくして遠くより馬蹄の音が響いてきて、さすがに村人達が少し動揺したのだが……それだけだった。
俺は何も指示を出していない。
このとき指示だしまで俺がやってしまうと何の意味もない。
故に格が防衛隊に指示を出し、村人達を避難させているのを見ながら……厳しく採点していた。
及第点より少し下だな
仕方がないこととはいえ、俺の様子を逐一確認して対応をしていた。
上の存在がいると気になってしまうのは致し方ないとはいえ、それなりに訓練を積んでいるのでもっと自信を持って対応してほしい物である。
といっても、俺が異常すぎるというのもあるのだろうが。
「親分! 防衛準備整いました! 村人達の避難は七割方完了しています」
「俺に報告しなくていい。防衛に関する最高責任者はお前だろ?」
「失礼しました!」
対応については及第点、俺に報告したのは致し方ないことだろう。
そう思いつつ、俺は何とか赤点を免れた防衛隊を見て……仕方なく指示を出すことにする。
相手が相手だから……間違っても弓引くわけにはいかないしな
何せ相手は呉の盟主、孫策その人だ。
間違って攻撃しよう物ならどうなるかわかったものではない。
しかし……あっちも先に来訪を知らせる使いを出すべきだと思うがなぁ……
もしかしたらこちらの様子を見るのが目的なのかも知れない。
それに少し苛立ちを覚えるが、しかし盟主様を相手に怒るわけにもいかない。
気持ち的には税を取られるので歓迎したくないが、歓迎しなければならないだろう。
とりあえず……一応ポーズはしておくか……
俺は向かってくる軍に視線を向けてもいない。
普通であれば褐色ポニーがくるのがわかるはずもない。
このまま指示を出せば……何故賊ではなく軍が来ているのを察知できたのか?という疑問を持たれることになる。
それは避けねばならなかった。
といっても、やる事なんてたいしたことではない。
俺は、その場で10mほど飛び上がって、右手で目の上にひさしを作り、さも遠くを見ていますというポーズをとる。
10m位俺が飛び跳ねた程度で誰も驚かないのは、この村が俺に順応しているという証拠だろう。
しかしまだ軍の連中……特に孫策には知られたくないため、軍からは見えないように能力を使って俺が飛び上がったのを隠蔽する。
霞皮と風翔の力は本当に便利だなぁ……
そしてとりあえずポーズをとって着地した俺は端的に指示を出した。
「格。今回は例外だ。防衛体制は解除していい。そして出迎え……とまでは言わないまでも整列して待機だ」
「例外ですか?」
「そうだ。間違っても、今からくる相手に、お前らは粗相をするなよ?」
「!? もしかして今からくるのって……」
呂蒙は俺の言葉で誰が来るのか理解したようだ。
そしてすでに税の徴収にくることは村人達にも伝えてある。
俺の言葉と呂蒙の反応。
さすがに誰がくるのかわかった防衛隊の連中は、慌てた様子で整列を行った。
「そう恐れなくてもいい。孫策は呂蒙の見立てでは名君だし、俺も問題ない人物だと認識している。だが、まずいことはするなよ?」
「「「了解です!」」」
防衛隊も盟主自らきたため、緊張していた。
今までも、やばい状況はあるにはあった。
熊も猪も人の身では十分脅威だ。
これだけ発展している……つまり食料がある……村は、動物から見ても魅力的になるのだ。
また熊なんかは自分の領域を奪われて……森の開拓……怒ったのもある。
熊程度なら防衛隊は対応できるようにはなっていた。
まぁそれなりにしごいてるしな
黄巾党のような賊相手では何とも言えないが、何とか害獣駆除は任せても問題ない。
だが毒蛇や毒虫などはさすがに俺が対応するしかなかった。
気力と魔力が使えれば……まぁ何とかなる
そして最悪の場合……特に毒の時は必殺技があった。
しかしそれも残り少なくなってきたので、ある程度自重が必要だった。
さて……ともかくどうするか
俺がどのように軍の連中を相手するか少し頭を悩ませていると、声が届く位の距離に軍がやってきた。
先頭にいたのは……雪蓮こと孫策だった。
雪蓮こと孫策は……視認できる距離になった時、村の対応を見て驚愕していた。
視認できると言っても人の動きが見える位であり、細かい動きや表情などが見えるわけもない。
だがそれでもその挙動で心理状態がわかるということは、武人であり盟主でもある孫策は十分理解していた。
そしてその孫策の武人としての思考が……この村は異常であると判断した。
何故誰も慌てていないの?
黄巾党は先日壊滅させた。
呉の盟主として黄巾党討伐にも参加していた孫策は黄巾党の壊滅を知っているし、民衆にも知らせている。
だがそれでもまだ黄巾党の傷が癒えたわけではない。
まだ残党だっているのだ。
遠目には正規軍が来ているとはわからないだろうが、それでも大勢の何かが向かってきているのは、村人達も気づいているはずだった。
だというのに慌てて逃げ出す様子もなく、かといって戦うために備えるでもなく、ただただ整列しているだけ。
まるで出迎えているかのようだった。
今向かっている孫策の軍が「賊」ではないとわかっているとでも言うように。
あまりにも不思議な事だった。
だがそれも……今から向かう村が誰の村であるのかと考えれば、孫策は自然と納得してしまった。
あの男の村なのだから……当然かもしれないわね
「雪蓮様、妙です。使いも出していないのに、村の人たちがあまりにも冷静すぎます」
その違和感は、軍の連中も覚えていた。
護衛である周泰も。
使いを出していないのは孫策の策略のためであり、明命も不思議に思いながらも命令に従っていた。
だが護衛として不思議な反応を示す村に、主を連れて行くのは避けたいと考えていた。
「大丈夫よ明命。不思議な男だけど……こちらと事を構えようなんて考えていないはずよ」
「ですが……」
「確かに反応は妙だけど、それでも行かないという選択肢は、残念ながら却下よ」
「……わかりました」
不承不承だが、それでも自らの使命を果たすのだと……周泰は眦を上げて臨戦態勢へと移行した。
最悪の場合は体を張ってでも……と考えているのがすぐにわかった。
そんなあまりにも真面目な自らの部下に内心で苦笑しながら……孫策は刀月の村へとたどり着いた。
「この前ぶりね、刀月さん?」
「この前ぶりね、刀月さん?」
実に好戦的な笑みを浮かべながら、褐色ポニーが俺の前に馬を止めて馬上より挨拶をしてくる。
普通に考えれば相手は雲の上の存在。
馬上から挨拶するのも当然といえば当然だが……イラッとしたのは事実だった。
まぁいいけど……
「どうも、先日はお世話になりました、孫策様」
俺は自分の感情を一切表に出さず、深々と頭を下げてそう挨拶した。
俺の言葉で防衛隊達が緊張したのがわかった。
「あら、やっぱり気づいてたの?」
褐色ポニー自身が否定しない……当然だが……ことで、本当に盟主自らやってきた事を認識して、防衛隊はさらに身を固くしながら姿勢を正していた。
そんな防衛隊の連中に内心で苦笑しつつ、俺は褐色ポニーの言葉を半分肯定した。
「俺はわかってませんでしたが、呂蒙がね。気づいてくれたので」
「お、お会いできて光栄です! 孫策様!」
「へぇ……」
うわ~~~~品定めされてる感が半端ないな
仕方ないことだが、こちらのことを分析しようとしているのがすごくよくわかった。
最近出来た村という言葉を信じているのかどうかはわからないが、どちらにしろ俺らの村が税から逃れていたのは事実。
故に罰せられても不思議ではないのだが……わざわざ視察に来たというのは、あちらとしてもこちらを利用したいと考えているのだろう。
呂蒙の話では蜂蜜が鍵となる……
すでにこの村に住み始めて二年近く経つ。
……悲しくなってきたな
すでにもっとも長い時間を異世界で過ごしている。
しかも修行は進むが生産業ばかり。
最近はまともな対人戦も行えていない。
まぁ鉄はそれなりに打てているが……
「雪蓮様……この村、鉄の槍が整備されています」
「そうね……」
尾行娘と褐色ポニーが話しているのが聞こえてきた。
俺はその会話が風翔の力のおかげで普通に聞こえていたが、その会話ではなく別の意味で驚いていた。
前にも思ったが……尾行娘は太ももを出しているだけで後は普通だなぁ……
尾行娘の衣服が普通だったことに。
どう見ても若い……というよりも少し幼いくらいに見える尾行娘の格好は実に普通だった。
太ももがほとんど出ていたが、上半身は普通の衣服であり、褐色ポニーに比べれば全然ましだ。
まぁそれはさておいて……
先ほどの二人の話。
村で鉄の槍があるのは珍しいのだろう。
それなりに鉄の武器は普及しているだろうが、それでもたかが一つの村の防衛隊の連中全員が、同じ槍を手にしているという事実は見過ごせないのだろう。
賊はもっぱら奪うことが当たり前であるため、武器の規格はばらばらになる。
そして普通の村には、戦闘することしか出来ない槍などあるわけもない。
他の村では鍬や鋤といった農具が武器になるのが普通である。
だが俺の村は俺が鍛造して作った武器であるため、規格は同じで数もそろっている。
この時代は鉄の修行も出来るから、まぁそれなりに自由だよな
村人達の農具や生活で必要な道具も俺がかなりの量を生産している。
特に鉄の扱いについては俺を超える実力を有した存在は誰もいなかったので、武器も俺が制作していた。
折り返し鍛錬をしている槍のため、恐らく俺の刀達の次に強力な鉄の武器と言っていいだろう。
「私が誰かわかってるのなら、話が早くていいわね」
褐色ポニーが馬から降りて俺の前に歩いてきた。
その後ろにいる部下達も次々と下馬して姿勢を正す。
そしてその孫策の後ろには護衛役と思える、尾行娘がぴったりとくっついている。
俺は何をするのか把握したので、すぐに跪いて頭を垂れた。
俺が頭を垂れたことで、呂蒙に防衛隊の連中も慌てて俺に倣った。
下手をすればそれで打ち首ということもあり得るからだ。
「我が名は孫伯符! この呉を治める盟主である!」
「「「「!?」」」」
わかっていたことだが、それでもやはり本人に宣言されると驚いたのだろう。
俺の周りの連中が跪きながらも焦るというか驚いているのが、目に見えるようだった。
しかし驚くのもある意味で当然のことだった。
威圧を込めて怒鳴るな……いや、狙ってやってんだろうけど……
大声とともにとんでもない威圧を放ちながら喋っている。
これでは普通の人間では震え縮み上がること請け合いだ。
「私は今日、この村の視察に来た。最近出来たと聞いているが、それでも税を納めていないことに代わりはない。隠し事は一切許さない! 逆に隠さなければ重税を課したりはしない。我が名にかけて誓うわ」
あ~~~~やっぱりそうなるかぁ……やっててよかった隠蔽工作
税について取り立てにくるのだから、普通は隠し事など出来はしない。
だが俺の地下室には秘密がいっぱいだった。
村じゃなく、俺自身の秘密だな……
先日の視察にくるとわかった段階で、俺はすでに対策を講じていた。
ある程度税としてとられていい物と、秘密にしておきたい物……冬木で仕入れた物体等々……を仕分けて、俺の小屋地下室に通じる縦穴は、すでに認識阻害の術を使用して全て封印してある。
何があっても現代の品物だけは見つかるわけにはいかないからな
後酒類。
それと冷蔵及び冷凍庫のそのものと、そこに保管された食料品ほか。
隠し事多いなおい……
「これより視察させてもらう……のだけど、結局名前は決まったのかしら? 刀月さん?」
「えぇ。村の名前は刀村です」
「刀村?」
「えぇ」
褐色ポニーの確認の言葉に、俺は苦笑しながら肯定した。
先日の一件があった次の日、朝の会議の際に担当長に話をし、皆で村の名前を考えてもらったのだ。
そうすると全員が同じ名前を挙げてきたのだ。
「刀月村」
その案は俺が全力で却下した。
何を好きこのんで自分の偽名を村の名前にせにゃならんのだ
しかし村人としては俺の名前以外あり得ないと言うことだったので、俺が少し折れて刀村となったのだった。
ちなみに刀を打ったことは一度もない……
その俺の話を聞いて、褐色ポニーは感心したように頷いていた。
「そう。それだけ信頼されているって事なのね」
「まぁ、全員受け入れましたから、信頼はされているでしょうが」
信頼というよりも恩義が大きいのだ。
命を救い、食料を与え、住処も与え、さらに仕事まで与えたのだ。
今のこの乱世では破格の待遇と言っていいだろう。
しかも食料についても様々な物が食べられる上に、たまに菓子まで振るっているのだ。
これで恩義を感じない奴がいたら、俺はそいつをたたき出している。
いや、別にいい人になろうとか恩着せがましくするつもりはないが……
「ともかくそうね……視察の案内は村長である刀月さんと、副村長である呂蒙ちゃんにお願いしようかしら?」
「!? い、いえ!? 私は、副村長などでは……」
「違うの? でも刀月が信頼してるんでしょ?」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「なら少なくとも案内については決まりね」
「あ、あぅぅぅ」
孫策という天上の人に名指しされては逃げるのも難しいだろう。
そんな呂蒙の慌てぶりに内心で苦笑しながら……村の視察が始まった。
田畑、開墾状況、住処、食品加工等々。
村の全てを見る感じで褐色ポニーが嬉々としながらあたりを見渡していた。
「あれって、鋤よね? あんなのもあるのこの村?」
「職人と俺との合作ですね」
村人達は普通に仕事を行って……褐色ポニーが仕事を行う許可をくれた……いるので、その道具類が気になるようだ。
またそれとは別に作っている作物も見たことがない植物であり、それらにも興味があるようだ。
また番犬や番猫なども見回っていると寄ってきたのだが……
「はぅぅぅぅ!? お猫様! お猫様が私に寄ってきてくれたのです!? 貢ぎ物も差し上げてないのに!? どうして!?」
「えっと……周泰様? 貢ぎ物って何ですか?」
めっちゃ喜んでいる尾行娘とその言葉の内容に……俺だけでなく呂蒙も目が点になっていた。
「呂蒙様。私はお猫様が大好きなのですが……貢ぎ物も差し上げずに自ら寄ってくださることなどまれなのです」
貢ぎ物に、様て……いや、確かに好きな人は好きだろうけどさ
あまりの猫好きっぷりに驚く俺だった。
まぁ確かに猫を飼っているのはこの村くらいだろう。
猫に餌をやるほどの余裕はそうそうないはずだ。
ネズミを捕ってくると言う仕事があるし、俺の村には餌である魚は山ほどある。
ついでにいうと、ネズミも貴重な動物性タンパク質の固まりだしな……
塩つけて焼けば大概の物は食えるのである。
猫としても餌が食べられる場所のため、人懐こくなるのもある意味で当然だった。
そんな部下の様子に、褐色ポニーも苦笑していた。
その二人の様子から確かな信頼を感じ取って、俺は褐色ポニーの評価を上に上げた。
任務中だがそれでも問題ない状況だからよしとする……ふむふむ
「風呂もあるの!?」
「えぇ。水は川と海からとってくればいいので。薪については結構ありますし」
あと俺の紫炎の力もあるしな
薪の量産体制などを説明していく。
しかし薪は貴重品のためあまり使わない。
そのため、週に一度の風呂は基本的に俺が沸かしていた。
少量の薪を燃やし、後は紫炎の力で沸かすのだ。
「そういえば水車があったわね」
そして水は水汲み水車につなげてある水路の向きを変えればそれだけで、浴場の風呂に水がたまる。
「水汲み水車です。水車も刀月様が作られたもので、お風呂については公衆浴場と申しまして……刀月様が頑張って建築された男女別に入ることの出来る浴場です。ただ手間がかかりますので、七日に一度程度の頻度でしか使われませんが」
「七日に一度入れるのですか!? すごいです」
「というか、この大きな建物を刀月……あなたが建てたの?」
「ですね。まぁ大工経験者にも手伝ってもらいましたが」
驚きの連続だっただろう。
未来の産物が山ほどあるのだからそれも当然といえたが。
それはまるで見慣れない物を見る子供のように無邪気に思えたが……それでいてある程度金勘定をしているのは目が鋭いことですぐに理解できたので、こちらとしては少々面倒だった。
ちなみに軍の連中全員がぞろぞろ付いてくるわけではなく、尾行娘と数名が付いてきており、後は方々に散ってあたりを見ているようだった。
その動きは主に森へと集中しており……それだけで狙いがなんなのかすぐにわかった。
蜂蜜の取り方か……
蜂蜜の取り方を是非とも盗んでいきたいのだろう。
だがこちらとしてもこの村がどうなるかわからない状況で手札を晒すわけもない。
というよりも設置した巣箱については、以前から認識阻害の術をかけているので、そう簡単に見つかるわけもない。
さらに言えば、俺の村の近くの森の蜂の巣については村人の安全……熊の好物は蜂蜜です……も考えてすでに破壊してあり、巣箱を設置しているのは俺の足でも少し時間がかかる場所にあるので、そばの森をいくら探しても意味がなかったりする。
難儀やなぁ……
それだけ蜂蜜が欲しいと言うことなのだろう。
袁術との関係は呂蒙が分析しただけを聞いているだけだが、分析している以上に面倒な事になっていると言うことだろう。
正直俺は三国志の歴史が全然わかってないので、そのうち寝首をかくとしか認識していないのだが……逆を言えば寝首をかくほどに負の感情を抱いていると言うことだろう。
特にこの時代は権力の強大さや、腐敗具合が半端ないだろうしなぁ……
内心で下っ端達の無駄な労力に合唱しつつ村を案内し……最終的に俺の居住スペースである小屋に行くことになった。
「呂蒙ちゃんも初めて入るの? 一緒に行商までいってるのに?」
「はい。刀月様のお家や使用している小屋は、基本的に誰も入ったことがないんです」
「それはどうして?」
村人を一切入れない。
それは秘密事があるからだと考えるのは当然だ。
実際、俺の家や使用している小屋は秘密しかないと言って良かった。
「俺の小屋で財政なんかを一括管理しているからですよ。後は俺の私物に触られるのが嫌だからですね。鍛冶道具とか粗末に扱ったら問答無用で数日ただ働きの刑ですね」
気持ち的には殺したくなるので……そういう意味でも俺の小屋に入るのは禁止していた。
村の連中も訝しんでいたが、俺に逆らうことは出来ないので指示に従っていた。
恐怖もあるが、恩義も感じているのだろう。
「鍛冶? そういえばさっき鍛冶場もあったけど、刀月が鍛冶をしているの?」
驚きのあまり、顔に驚きの感情が漏れているのにも気づかずに、褐色ポニーがそう聞いてきた。
俺としてはあまり情報を与えたくなかったが……それでも地下室に比べれば別段痛くもかゆくもない情報だったので、素直に肯定した。
そしてその上で……情報を与えた。
「えぇ。村人達が使う鉄の器具は全て俺の作品ですね。当然……槍も」
「……へぇ」
俺の言葉がどういう意味なのか褐色ポニーもわかっているのだろう。
褐色ポニーは実に興味深そうに、俺の言葉を聞いて不敵に笑っていた。
そんな俺と褐色ポニーの様子を、呂蒙と尾行娘が慌てながらもしかし割って入るわけにもいかないので、ハラハラした様子で見つめていた。
褐色ポニーに言ったとおり、村人達の鉄の道具は全て俺の自作である。
この意味を褐色ポニーは理解しているのだろう。
結構な数があるからな
鍬に鎌、シャベル、そして武具にほか諸々。
その全てを俺が作ったのだから、その鍛冶技術は侮れないとすぐにわかるはずだ。
槍については褐色ポニーの部下も手にしているが……正直言って、俺の目から見たら未熟にもほどがある槍だった。
いやまぁ……俺には千年以上の技術の集大成とも言える日本刀の鍛造技術を応用しているから、当然と言えば当然だが
技術を蓄積してきた時間が違う。
いくら天才、鬼才でも、時間ばかりはどうにも超えようがない。
作物の品種改良、鍛冶や建築技術の蓄積、応用。
これらは一人の天才や鬼才でもどうにも出来ないことだった。
特に鍛造については、俺自身かなりの自信と自負がある。
確かに乱世や戦国時代の鍛冶士ほどの数は鍛えていないだろうが、それでも質があまりにも違う。
冬木でのブランクがあるとはいえ、モンスターワールドでは結構好き勝手に鍛造していたし、最近は農具の鍛錬もあり、数もそれなりに鍛えていた。
褐色ポニーも盟主としての意地がある。
自らの国で作られている武器はこの時代でもかなり上等な部類に入るはずだ。
そんな自らの武器よりも、俺が作った武具の方が上であると言うこと。
よほどの阿呆でもない限りこの意味に気づかないわけがなかった。
う~~~~~ん、どうするかなぁ
あまりにも情報を与えるのもあれだが、しかし実際に物体がある以上誤魔化すことも出来ず、誤魔化す気もなかった。
地下室の秘密に比べればましだったからだ。
だが、とりあえずまずは税の問題からだな……
「とにかく一通り村を回ったから疲れたでしょう。飲み物でもいかがか?」
俺は努めて明るく、かつ邪な感情を抱かずに朗らかな感じでそう問いかけた。
賄賂でもなく、ただただ一段落したので飲み物はどうかと……そう言っているだけに過ぎない。
俺は有無を言わさず、菓子と暖めた牛乳を二人の前に差し出した。
俺の部屋には俺と呂蒙、そして褐色ポニーと尾行娘しかいなかった。
鉄瓶で暖めた牛乳をそれぞれの容器に移し、さらに菓子も目の前で取り分けた。
毒を仕込んでいないと思わせるための行為である。
まぁといっても……器に毒が塗られている可能性もあるわけで
そのため俺はいくつかの器に菓子と牛乳の用意をすませると、尾行娘に器を選んでもらった。
俺ではなく褐色ポニーの部下である尾行娘が選ぶのだから多少は信用できるだろう。
そして客人が口にする前に俺が真っ先に口にした。
毒味を自らした形だ。
まぁ俺に毒のたぐいは全く効かないので本当は意味がないのだが。
菓子については果物を利用した菓子パンだ。
パンは正直あまり得意ではないのだが、作るのはそう難しくなかった。
小麦粉に水を加えて気温30℃くらいの状態で放置していればそれだけで発酵する。
イースト菌があればそれに越したことはないが、なくても作れるのだ。
そして後はさらに発酵させて、成形、焼成すればパンのできあがりである。
焼き加減については……紫炎の力が使えるのでパン程度の火力ならいくらでも調整が可能だった。
発酵も火加減も……調理については思うがままになりつつある……
戦闘行動で使用したことはないが、それでも以前よりはより精密に能力を扱うことが出来るだろう。
今度ローストビーフなんかも作ってみたい物である。
話が若干それたが、俺的には調理に関する食材なんかはまだまだ足りない物が多いので、まだ満足する出来の物が出来てないが、それでもこの時代の連中からしたらこの菓子パンは……
「!? 何これ!? 柔らかくて甘くておいしい……」
「とっても甘いのです! とってもおいしいのです!」
砂糖はほとんど入手が出来ないが、それでも果実自身の甘さに、米を煮詰めれば糖となる。
それらを使えば十分菓子パンは作れる。
ちなみに果実は干しブドウを練り込んだ。
「たまに江都でも売ってますが、やっぱりおいしいです!」
村人達はすでに何度か口にしている菓子パンだったが、それでも滅多に作らない。
果実や果実の加工品は、行商で使用する大事な商売道具だからだ。
村人達の食事については、残念ながら質のいい料理はまだ毎日食えるほど、余裕がなかった。
量だけはそれなりにあるので飢えることはないのだが……やはりまだ豊かとは言えなかった。
「本当にいろんなものがよくぞまぁ、これだけ出てくる物ね?」
「まぁ村人を生かすために頑張ってますからね」
「……そう。それは間違いないのでしょうね」
俺の言葉に嘘はなかった。
何せそれなりの人数にふくれあがった村だ。
うまく立ち回らなければ、飢餓に病気に賊の襲来。
それらがあって村が廃れることは十分あり得た。
その全てを俺は何とかしていた。
食料は漁もあるので簡単だが……病気が厄介だったなぁ
冬もあったが、何とか乗り切ったのは製鉄技術と漁のおかげだ。
冬の際は大きな煙突付き建物に……この建物も秋頃に造った……集まってもらって、暖炉で暖をとって過ごさせた。
暖炉もこの時代にしては贅沢品だろうからなぁ……いや詳しく知らんけども
暖炉は村人にことのほか喜ばれたので、普及していないのは間違いなかった。
食料がネックだが秋に冬備えさせた上、俺がいつでも漁に出て魚を捕ってこれるので特段問題はない。
GPSもソナーも灯台もないこの時代に、真冬の夜の海に漁に出たらそれだけでほとんどの連中が死ぬだろう。
食料の量的には問題なく栄養バランスがネックだが……それも行商でどうにか誤魔化した。
冬に行商に行くのは大変だった……特に呂蒙が
能力を使えばたとえ極寒の地であろうとも俺は問題ないが……能力全てを明かすわけにもいかないので、呂蒙の防寒対策は必須だった。
なめした毛皮の防寒着を着せたことで、寒さにも大丈夫だとある程度呂蒙も納得できる理由を作り、後は能力で誤魔化したのだ。
紫炎の力に風翔の力でいくらでも暖はとれるしな
俺の苦労話はそれこそまさにこの村の歴史そのものだったが……そこは正直どうでもよかった。
ここからがある意味で本番だからだ。
地下室は気づかれないとして……税についてどうなるか……
銭もそれなりに蓄えがある。
これは使うに使えない理由と、こういった税を納める際を想定して蓄えていた物だ。
この時代の税の徴収というのは俺も詳しく知らなかったが、基本的に銭か農作物が基本となっている。
この村には農作物もそれなりにあるが、何よりも大量の干物がある。
魚の加工品の上、長期保存が出来るように加工した干物は、税としてかなり持って行かれると予想していたのだが……。
「さて税の徴収の話になるのだけれど……接収といったらどうする?」
「何?」
交渉事において、ある程度でかい金額からふっかけて徐々に落としていくのは常套手段だが……いきなり接収に行くとはさすがに想定外だった。
接収は国などが所有物を取り上げることだ。
そして具体的に内容を言わなかったということは……この村全てを取り上げると言っていることだった。
「本気で言ってますか?」
「逆に聞かせてもらうけど……この村がどれだけおかしいのかは、あなた自身がよくわかってるわよね? 刀月さん」
異常なのは当然だ。
何せ異常でしかない俺がいて、俺が回している村だ。
おかしくならないわけがない。
人、物、金。
人が豊かになるためには絶対的に必要なのがこの三つだ。
その全てを……この村は有している。
しかもほとんどの物が、この村では自給自足が可能なのだ。
自給自足どころか、食料に至っては他に売っても問題ない。
生産力がおかしいのだ。
またこの村には未来の産物がいくつもある。
それだけでも十分驚異的だろう。
「もちろん。私も接収なんてしたいなんて思ってないし、意味がないとわかってるわ。だから……」
「刀月。あなたが我が呉の人員となるというなら……税をまるまる免除するわ」
しまった……矛先が俺に来た……
褐色ポニーが指名したのは俺だった。
村を見回る際に説明をしていたが、そのほとんどが俺の功績だ。
気力と魔力による身体能力の強化。
そして能力。
常人とは比べものにならない労働力と未来からの知識。
豊かになる……というよりも村人を死なさないために俺なりに必死になったのだから、指名されるのは必然だったかも知れない。
またそれとは別に鍛造技術については是非とも欲しいのだろう。
寝首をかこうとしているのだから、率直に言って武器の強化は必須事項だ。
だが、俺自身が仕官したいかどうかは全くの別問題である。
誰かの下につくのは面倒だしなぁ……
様々な知識と技術がある俺は確かに有能だろう。
だが俺としてはあまりどこかに所属したくないのだ。
いろいろと制限が多いので面倒というのが本音だった。
戦闘は出来ればしたくないしなぁ……
というよりも殺し合いをしたくない。
だが俺の武力はこの大陸では最強レベルだ。
自分でいうのも何だが……これだけの強さを持っている人間を遊ばせておくのは、盟主などからしたらあり得ない話だ。
力ずくで断るってのもねぇ……
それも出来なくはないが角が立つ。
別段角が立っても全く問題ないが、しかし面倒なことに代わりはない。
鉄の鍛造についても同様であり、断るのが面倒だった。
戦闘力も鍛造も大陸随一の実力者が、武力も鍛造もお断り……こんな奴を仕官させたいと思う物好きはまれだろう……
だが褐色ポニーとしてもこれだけの人材……自画自賛で少々恥ずかしいが……を遊ばせておくわけにはいかないのも事実。
俺が少し黙り込んでいるとすぐに不敵に笑って……再度言葉を放った。
「でもこの村はあなたがいないと困ったことになるのも事実。だから今後手に入った蜂蜜は全て呉に渡すこと。そして、二十日に一度、武器を鍛造して献上することで徴税とするわ。それでどうかしら?」
蜂蜜をここで持ってくるか。それは別に問題ないが……鉄はいやだな
確かに鉄を打つことは俺の生涯の命題であり、商売道具でもある。
だが、ばらまくために鉄を打つのを俺はしたくなかった。
現実世界においても、俺は自らの刀を本当に愛してくれた奴にしか刀を打つことを由としなかったのだから。
武器を鍛えて献上し、税とする。
為政者であればこの案を受け入れるのが当然なのだろう。
だが俺は為政者ではない。
確かに成り行きで村の長になったが……俺は本来鍛冶士であって、決して誰かをまとめ上げるリーダーのような存在ではない。
というか、必死過ぎて俺が俺の事を出来てないな……
乱世故に逃げ延びてくる連中がたくさんいた。
俺としても能力の練習になるので生産者として仕事をしていたが、しかし俺自身の目的を若干忘れていたきらいもあった。
見捨てるのもあれだから頑張ってたが率直に言って……
しくじった……
と、今日俺は改めて他の人間に村のことを説明していて思った。
そういったもろもろの観点から考えて……結論を出す。
つまり……
「お断りさせていただく。仕官についても……そして何より、鉄を打つ事も」
断固たる覚悟を持って……俺は武器の献上を拒否した。
「へぇ……盟主たる私、孫伯符の直々の徴税を断るというのかしら?」
「徴税そのものを断るとは言ってない。蜂蜜については献上しよう。だが徴税免除のための俺の仕官、そして武器を鍛えての献上については絶対に断る」
「それがこの村を救うためだと言っても?」
「ほう救うね? それがどういう意味か、わかって言っていると思っていいのか? 孫策」
敬語をやめ、あまつさえ様呼ばわりすらもやめた俺に、そばにいた呂蒙が驚いていた。
それは尾行娘も一緒だったが、即座に無礼者を罰しようと剣に手をかけたが……それを褐色ポニーが手を持って制した。
「いいのよ明命。少し待ってなさい」
「しかし雪蓮様」
「いいから。といよりも、あなたが襲いかかったところでこいつは殺せないわ」
「ほう、よくご存じで」
武力という手段を用いた場合、尾行娘では俺に勝てないのはすでに察しているのだろう。
しかしこちらとしても視察団に乱暴なことは出来ないので、ある意味で拮抗状態に陥ってしまった。
武力で制圧と言ったところで、褐色ポニーがよほどの馬鹿でなければ村人を殺すことは出来ない。
盟主というのは人気商売でもある。
いくら脱税をしていたとはいえ、それだけで武力による襲撃や懲罰、皆殺しなどしたら噂が広まってとんでもないことになる。
故に軍の連中が行動を起こしても、傷つけることすら難しく殺すことなどもってのほか。
その時点で俺が負けないことはすでに確定している。
だがこちらも視察団に対してあまりにも無礼なことを働けば、討伐軍がし向けられる可能性もあるので、無茶は出来なかった。
今の状況だと税を納めるメリットがないんだよなぁ……
徴税とは文字通り税を徴収することだ。
では税はいったい何に使われるのかという問題にさしあたる。
税とは国の予算を作るための財源である。
財源と言っても用途は多岐にわたるが、それでもこの時代の税の使い道と言うのは……ほとんど決まっている。
国を整備するための整備費と、国を守護するための防衛費
この二つがほとんどと言っていい。
特に今は乱世の時代だ。
税金は防衛費にほとんど使われると言っていいのだ。
防衛費とは、国を守るための税金である。
賊なり別の勢力から自らの国を守るための金。
だが、国ではなく村を守るという意味では……この村に税を納める理由はないのだ。
何せ……
俺一人で賊程度ならどうとでも出来るからな
そう、賊が相手であれば俺が出張ればそれで済んでしまうのだ。
何せ普通の賊程度であれば、たとえ千人規模でもどうにでも出来る。
それ以上の人数であっても、俺が脅威だと知らせるように賊を百人単位でも吹っ飛ばせば、命惜しさに逃亡するだろう。
別段賊全員をぶっ飛ばす必要性はないのだ。
無論村のそばに寄られた状況で暴れられたらこちらとしても分が悪いが、気配を明確に察知できる俺がいるので、そんなことはあり得ない。
そして村に被害が及ばない状況であれば、俺が一人で賊を迎え撃てば、何一つ被害を出さずに事態を収束させることが出来る。
次に面倒なのが敵国の軍だが褐色ポニーが治めている範囲……つまり呉の領地……をすでに把握している。
他国の軍が、この村までやってくるような事態に陥っていた場合……その時点で褐色ポニーの防衛がすでに機能していないことになる。
この村は東の果てにあるが、北の州境から見ればそれなりに距離がある。
その距離を踏破してこの村に来る理由がない。
確かに蜂蜜も果実も高級品だが、それだけでこの村に来る理由にはなり得ない。
以上の理由からこちらとしては正直税を納めるメリットがない。
褐色ポニーが俺の武力がどの程度か把握している訳もない……この世界に来てから本気で戦ったことがないからだ……ので、接収などの無茶な事を言ってくるのは、俺がどういった存在なのか? そして武力的にどこまで強いか把握したいのもあるだろう。
さて……どうするか……
能力の修行はある程度行った。
ならば次は何をすべきか?
俺の生涯の命題は刀鍛冶だ。
故に、俺がもっとも行うべき事は鉄を打つことである。
確かに村の長になったが、それは成り行きであってなりたくてなったわけではない。
仕官するのはいやだが……そろそろ次の段階に移行してもいいだろう。
このままだと村の長で終わりそうだし……
またあの白装束の連中も気になる。
そうなるとこの村にいつまでもいるわけには行かないだろう。
結論として……このままでいいわけもないというのが俺の判断だった。
よって……
「わかった。ならばこの案はどうだ?」
「代案? 何かしら?」
不適に笑う褐色ポニーに、俺は俺の斜め後方で控えていた呂蒙へと手を差し向けた。
いきなり手を向けられたため、呂蒙が驚いているのが背中ごしにもわかった。
だがある意味でちょうどいい。
助がいうように、呂蒙をこの村で終わらせるのは惜しいと俺も思えてきたのだ。
そのため……
「代わりといっては何だが、呂蒙を仕官させてもらえないだろうか?」
あっけらかんと、俺は人身御供として呂蒙の仕官を提案した。
「え……? えぇ!?」
そんな話になるとは想定していなかった呂蒙が、驚きの声を上げるのも無理からぬ事だろう。
褐色ポニーは少々驚いているようだが、その表情はおもしろそうに破顔していた。
このペースで終わるかね?
ネタも考えながら書いてるけど・・・・・・すすまんなぁ