荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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美物と外道

「袁術ちゃん。こちらがご指名の蜂蜜取りの名人、刀月よ。命令通り連れてきたわ」

 

心底いやそうに……実際いやなのだろう……ひざまずいた俺の前から実にいやそうに言葉を発している褐色ポニーだった。

俺は今袁術の居城へと案内され、恐れ多くも袁術の前で謁見の栄誉に賜っていた。

 

一ミリも栄誉なんて思ってないけどね

 

ただの平民である俺から言葉は発することは出来ないので、ここはほとんど全て褐色ポニーに任せる段取りだった。

ちなみに俺のそばには呂蒙もいて、それはもう見るからにガチガチで固まっており、少々不憫な位だった。

 

まぁ俺だけだとちょっとあれだしな……

 

呂蒙を連れてきたのは、袁術と副官の張勲の姿を見るためだった。

実際に見るのと見ないのとでは、分析の違いがかなり出てしまう。

そのため無理をいって俺はこの場に呂蒙を連れて行く許可を、褐色ポニーにもらっていた。

 

後は俺の作戦もかねてだが……

 

というよりも、恐らく呂蒙がガチガチに固まっているのは俺の作戦を聞いているからだろう。

普通に考えればあり得ない行動であり、しかもその判断についてはある程度呂蒙にも行ってもらう手はずになっているのだ。

緊張しない方が無理があるというものだろう。

俺を招集させた袁術。

褐色ポニーこと孫策の思惑。

そして俺の作戦。

いろいろな思惑がある中で、袁術はというと……

 

「うむ! よくぞ連れてきた孫策。おぬしにしてはなかなか速かったようじゃな。褒めてつかわすぞ!」

「はいはい、ありがとうね」

 

なんか扱いがぞんざいだけど、よくこれで怒られないって言うか、問題にならないな?

 

権力関係がよくわからないというのが俺の正直なところだった。

だが褐色ポニーが下手に出ている以上、まだ袁術もうまく利用しているつもりなのだろう。

実際問題として、袁術の軍勢と呉の軍勢では数に致命的なまでに差があるのだ。

質は間違いなく呉に軍配が上がるのだが、しかし数の暴力には勝てないのだろう。

 

「して連れてきた蜂蜜取りの名人はその若い男かの? 男、発言を許すぞ、妾に名を教えぬか」

 

俺はひざまずいていた状態から顔を上げ、玉座に座る袁術へとまっすぐに目を向ける。

そのあまりのちんちくりんというか……幼子の姿に絶句したくなる気持ちだった。

袁術がまだ子供というのは聞いていたが、しかしここまで幼子だとは思わなかったのだ。

しかしかといって油断ならないのが、この時代の人間の恐ろしいところなのだろう。

実際、呉の君主だった孫堅の死のごたごたを狙って、この地を乗っ取った政治手腕は悪辣だが効果的だった。

 

まぁ側近である張勲がそれなりに優秀と言うことのようだが……

 

先ほどから褐色ポニーと袁術……ちんちくりんと張勲の会話を聞いていると、もっとも油断ならないのが張勲という印象だった。

だがそれも……

 

「美羽様のお言葉ですよ~! 名前を名乗りなさい」

 

なんというか……か、軽い……

 

真名が美羽であると予想しつつ、張勲の言葉に思わず崩れ落ちそうになってしまった。

油断ならないはずなのだが……なんか拍子抜けしてしまう。

というかさっきからのちんちくりんと張勲……甘やかし短髪の会話を聞いていると、本当にただただ甘やかしてかわいがっているだけのように思えてならなかった。

そして俺の世界においてこの二人が男だったのか女だったのかは定かではないが……女というのが実にやりにくいと思えてしまう。

 

まぁ片方が子供だからまだやりやすいけど……

 

「刀月? どうしたの?」

 

そうして俺が新たな人物二人の事を観察し、考察していたら褐色ポニーから声をかけられる。

思わず思考に没頭してしまったらしい。

俺は内心少し慌てつつ、立ち上がって一歩前へ踏み出して、軽く頭を下げた。

 

「謁見を賜り、誠にありがとうございます。刀月と申します。以後お見知りおきください」

「うむ! 苦しゅうないぞ、楽にせい」

 

喜色満面、上機嫌で俺にそう言ってきた。

へりくだっていることもそうだが、何よりも蜂蜜名人という存在を実際にこうしてやってきたのが嬉しくてたまらないのだろう。

値段もそうだが、この時代の蜂蜜というのは本当に貴重品だ。

確かに金を使えば手に入れることが出来なくはないが、しかし定期的に手に入れることは難しい。

そんな状況で俺という存在……蜂蜜採取の名人とまで謳われる男の登場は、それこそ喉から手が出るほどほしい存在なのだろう。

 

「して刀月とやら? お主、定期的に蜂蜜をとってこれるという噂は真なのか?」

「私自身噂でどのように言われているのかわかりかねますが……私が考えた採取の方法で、蜂蜜が活動する時期であれば、定期的に採取が可能なのは確かです。時期的にそろそろ採取に向かっても良い頃でしょう」

「ほう! してその量はどの程度なのじゃ!?」

「量にすれば……そうですね、蜂蜜の風呂につかることも可能でしょう」

「な、なんじゃと!?」

 

俺の言葉には、ちんちくりんだけでなく、そばに控える甘やかし短髪に、褐色ポニーも驚いている様子だった。

それもそのはず。

風呂に浸かれるというのは文字通りそのままの意味なのだから。

俺がイメージしている風呂というのは現代における一般家庭の浴槽のサイズだが……しかし仮に妙手娘こと公孫賛の城で入らせてもらった大きめの風呂でも、俺は対応が出来る。

それだけの大量の蜂蜜を、たった一人の存在がとってこれるというのは、この時代からしたら妖術でも使わない限り不可能な所行だろう。

 

まぁ実際妖術は使っているからこそ可能なわけですが……

 

電磁投射道があるからこそ大量にとれることも事実だった

仮になかったとしても採取は出来るが、量は減る。

気力と魔力の身体強化のみでもそれなりの量は確保が出来るだろうが、そうなると一般家庭の浴槽を満たすだけで終わるだろう。

 

「蜂蜜に浸かるなんてことは当然せんが……本当にそれほどの量の蜂蜜がとれるというのか!?」

「えぇ、間違いなく」

「ちょっと、刀月」

 

興奮するちんちくりんと会話をしていると、それを戒めるように後方から褐色ポニーが俺にだけ聞こえるような小さな声で俺を制止してきた。

しかし俺はそれをあえて無視して、袁術との会話を続けた。

 

「ほう! ずいぶんと大きな事をいうの! しかも妾に貢ぎ物があると孫策から聞いておるぞ!」

「えぇ、こちらに」

 

そう言いつつ、俺は呂蒙に預けていた素焼きの壺を受け取って、袁術へと向けた。

さすがに許可もないのに自ら近づいて壺を渡すことは出来ないからだ。

差し出した壺を回収しようと、控えていた一般兵が俺へと近づいてきて壺をとろうとしたそのとき……俺は兵の手に届かぬように差し出していた壺を上に持ち上げて、回収を拒んだ。

 

「む? どういう事じゃ刀月? それは妾への貢ぎ物なのじゃろ? はようよこさぬか」

「そうですね。確かにこれは貢ぎ物ですが……このまま渡すのではあまりにも芸がない」

「ちょっと! 刀月!」

 

当初の打ち合わせでは俺は自己紹介のみにとどめて、蜂蜜を差し出して終了のはずだった。

にも関わらず俺が自ら会話を始めて、さらに何かやらかそうとしている雰囲気に、さすがに我慢できなくなったのだろう。

先ほどの俺にしか聞こえないような小さな声ではなく、周りにもはっきりと聞こえるほどの声量で褐色ポニーが会話を遮ってきた。

 

「よい、孫策。なにやらおもしろそうじゃ。続けよ刀月。その蜂蜜を妾に差し出すだけでは芸がないというなら、何をするのじゃ?」

「っ!!」

 

あまりにも勝手なことをしている俺に、褐色ポニーからの射貫かんばかりの視線が背中に突き刺さるが、そんなものそよ風にもならないので、俺は何も気にすることなく言葉を続けた。

 

「袁術様、この城に砂糖の備蓄はありますでしょうか?」

「砂糖じゃと? それなりの量はあったはずじゃが、いったい何に使うのじゃ?」

 

蜂蜜という甘い蜜を持ちながら、さらに砂糖を求める。

不思議に思うのも無理はない。

砂糖がなくても別段問題はないが……しかし砂糖があればより完璧な物が作れるので是が非でもほしいところだった。

 

「砂糖を手に入れることが叶わず、この場に袁術様への贈り物を用意することが叶いませんでした」

「贈り物じゃと? その蜂蜜だけではないのかえ?」

「はい。この進物の蜂蜜を一部使わせていただき、さらに砂糖を少しいただければ……天子様ですら食したことのない、極上の菓子を献上してごらんに入れましょう」

 

さすがにこの言葉には、この場にいる全ての人間が絶句した。

それは作戦を聞いていた呂蒙も同様だった。

それも無理からぬ事。

天子様を引き合いに出すとは、誰にも言ってないのだから。

天子とは中国や日本で用いられている君主の称号である。

三国志……というよりも近代以前の天子というのは、まごう事なきその国の絶対権力者だ。

この広い中国の天子というのは、それこそ天上人そのもの。

その天子を、この場にいないとはいえ引き合いに出すという無礼な行動。

さらに言った言葉は「天子すら食べたことのない菓子の献上」だ。

これを聞いてこの時代の人間で驚かない奴がいるのなら、是非とも連れてきてほしい物である。

 

「ほ、ほんとうかえ!? 天子様ですら食べたことのない菓子を妾に献上する事が出来るのかえ!?」

 

予想通り食いついてきたな……

 

贅沢に甘やかされてきた幼子が、自分の大好きな蜂蜜の菓子……しかも天子ですら食べたことのない菓子と聞いて興奮しないわけがない。

この時代で菓子……というよりも甘い食い物というのは基本的に果物になる。

無論蜂蜜などの菓子もあるにはあっただろうが……今から俺が作る菓子はほぼ絶対にない。

 

「間違いなく。そして当然、袁術様が飛び跳ねて喜ぶほどの菓子であることを、お約束いたします」

「七乃! 今すぐ砂糖を持ってこさせるのじゃ!」

「は、はい、美羽様!」

 

甘やかし短髪がひどく興奮したちんちくりんに急かされて、慌てて部下に指示を出していた。

そして相手が慌てて動いている内に、俺も準備を進めることにした。

 

「呂蒙、道具を貸してくれ」

「はい、刀月様」

 

俺の指示に従い、呂蒙が持っていた道具を俺に渡してきた。

大きめの木箱だ。

調理場へ行くと褐色ポニーが黙っていないと思い、俺はこの場で調理をすると決めていたのだ。

道具と言ってもたいした物は持ってきていない。

フライパンを意識して作った鉄鍋。

材料が入ったいくつかの竹筒。

二層構造にして作ったクーラーボックスもどき。

竹で作った泡立て器。

お玉。

ボウルに似せて作った鉄鍋。

いくつかの鉱石。

等々の、必要な器具を取り出した。

 

「む、いろいろ取り出して何をするのじゃ刀月?」

「差し支えなければこの場で作らせていただいてもかまいませんでしょうか? もちろん私自身に、呂蒙も毒味をいたしますし、そちらも部下の一人に毒味をしていただいてもかまいません」

 

これは当然の配慮というか発言だろう。

何せこの時代、簡単に殺すことができるのが毒殺だ。

どんな強者も内側から殺されれば簡単に亡き者にすることが出来る。

故に、献上と称して食事で殺しにいくことは多かったはずだ。

毒矢などでも殺せるが、食事というのはどうしても隙を見せる。

戦場で殺すよりも圧倒的に簡単なのだ。

だから俺としては一応気を遣ったのだが……

 

「だめじゃ! 天子さますら食したことのない菓子は妾だけの物じゃ!」

 

え~~~~~いや、それで死んだらどうするんだよ?

 

「み、美羽様? さすがにそれはちょっとだめです」

「なんでじゃ七乃? 別にこの場で調理するというてるのじゃぞ? よいではないか?」

「で、ですが……」

「妾だけが食べたいのじゃ! だからそれでよいではないか!」

 

うーん、予想通りわがままだなぁ……

 

助かるとはいえこれだけわがまま放題なのは少々いただけないだろう。

実際殺すつもりがないとはいえ、これは油断と言って良い。

殺そうと思えば楽に殺せただろう。

 

 

 

しかし俺は殺すよりも最低なことに、このわがまま娘を利用すると考えたのだ。

 

 

 

己の目的のために。

 

 

 

故に……このわがままを利用しない手はなかった。

 

 

 

「と、とりあえず調理させていただいてもよろしいでしょうか?」

「よい許すぞ! すぐに作るのじゃ!」

 

さすがにこの場で一番偉いちんちくりんが「命じて」しまえば誰も強く出ることができなのだろう。

そしてこの場では唯一強く出ることの出来る甘やかし短髪も、蜂蜜の菓子ということで興奮しているちんちくりんを見て強く出れないらしい。

正しくは興奮して期待の笑みを浮かべているちんちくりんをみて、甘やかし短髪自身も嬉しそうに笑みを浮かべていた。

恐らくちんちくりんかわいいと思っているのだろう。

 

なんつーか、馬鹿なのか賢いのか本当に判断に迷う……

 

一瞬こいつらを利用するので大丈夫なのかと思ったが……褐色ポニーとのこともあるので俺はとりあえずこのまま進めることにした。

 

「では、これより始めさせていただきます」

 

そういって俺はまずボウルもどきに、竹筒から小麦粉を取り出して入れる。

分けてもらった砂糖もボウルもどきに投入して泡立て器で混ぜる。

そしてしばらく高速で混ぜた後、クーラーボックスもどきから竹筒に入れた冷やした牛乳を投入し、なめらかになるように混ぜる。

しばらく混ぜて下準備が終えた俺は、密かに左手に紫炎の力を発動させて、俺の左掌を超高温にする。

 

「ではこれより焼かせていただきます」

「焼くじゃと? 火もないのにどうやって焼くのじゃ?」

「火の山の精霊より授かった石で、焼いてごらんに入れましょう」

 

そういって俺が手に持ったのは、何の変哲もない鉱石だった。

モンスターワールドでは、という前置きがつくが。

名をカブレライト鉱石。

ただの鉄の固まりに見える物だが、しかし魔力が濃い世界の鉱石だけあって魔力を放っており、どこか怪しさすらも感じさせる物だった。

 

「精霊じゃと?」

 

ちんちくりんの言葉に俺は黙ってうなずいて、俺はカブレライト鉱石を床において、俺自身も演出をするためにあぐらで座った。

カブレライト鉱石の上にフライパンもどきを持ってきて、油を薄く引いた。

そして先ほど出来たタネをフライパンもどきにお玉で投入すると、タネが香ばしく焼ける音があたりに響いた。

 

「!? 本当に焼いたのかえ!?」

 

さすがに鉄板で焼いた音くらいは聞いたことがあったのだろう。

音の響きから本当に火もない状況で焼いているのがわかったのだ。

それは周りの連中もわかっており、俺の手元に実に興味の視線を向けている。

 

本当に能力の使い方慣れたなぁ……

 

左手を高温にして火がない状況でも加熱調理をするこの能力使用は実に便利だった。

取っ手も鉄で作った完全鉄製のフライパンもどきだからこそ、俺の左手が燃えるほどの高温になって、その熱が伝わることでタネを焼いている。

良い色に焼き上がった瞬間に俺はフライパンもどきをおいて、呂蒙へと指示を飛ばす。

 

「呂蒙、皿をくれ」

「はい!」

 

何度か練習もした……呂蒙への練習の対価は練習で作った試食品……ので、呂蒙も慌てることなく俺に皿を差し出す。

俺はその皿にフライパンもどきで焼いた菓子をふわりと静かに乗せた。

 

 

 

ホットケーキ……である。

 

 

完璧とは言えないが……かなりうまいのは間違いない……

 

いくつか購入した洋菓子の作り方レシピ集本に載っていたレシピで、材料がいくつか抜けている……ベーキングパウダーとか……が、それでも十分うまい。

そして、これで終わりではない。

俺は次にホットケーキをのせた皿を呂蒙に持たせて、クーラーボックスもどきからよく冷えた竹筒をいくつか取り出し、最期の仕上げを行った。

 

竹筒から取り出したのは……何を隠そう牛乳アイスだった。

 

 

 

時代的に言えば氷菓というのが正しいかな?

 

 

 

牛乳とバターを使って作った生クリームと牛乳に砂糖……何とかアイスを事前に作るだけの砂糖は入手した……を鉄のトレイに入れて混ぜ合わせて凍らせる。

一時間後、二時間後にそれぞれ木べらで凍らした物をかき混ぜる。

かき混ぜる回数が多い方がなめらかな食感になってうまいことレシピ本に書いてあったので、入念にかき混ぜた。

その完成品を取り出して……牛乳アイスを、熱々のホットケーキの上に、乗せる。

 

さらに!

 

 

 

大盤振る舞い!

 

 

 

苦労して作ったバターも竹筒から取り出し、それもホットケーキの上にのせる!

 

バターがトロリと溶けて実に芳醇な香りが周囲を……能力を使ってわずかな風を起こして俺が運んでいる……駆けめぐる!

 

 

 

極めつけが!!!!

 

 

 

大さじで三度掬った蜂蜜をかける!

 

 

 

ホットケーキの上にのせられたのは

 

 

 

牛乳アイス!

 

バター!

 

蜂蜜!

 

 

 

「お待たせいたしました袁術様。これが天子様ですら食したことのない菓子です」

 

 

 

これで興奮しないおこちゃまがいるなら連れてこい!

 

 

 

ぶっちゃけ……出費的にはかなり痛かったりする。

金銭的にもそうだがそれ以上に俺の秘密的に。

だがそれも……

 

「な、なんじゃそれは!? 本当に菓子なのかえ!? な、七乃! 早く妾のところまで持ってくるのじゃ!」

「は、はぃぃ!」

 

超大興奮。

そら甘い物が大好きなおこちゃまがこの品物を見て興奮しないわけがない。

しかも目玉の一つ、牛乳アイスはこの時代にはまだないはずだ。

 

というか氷菓子っていつの時代からあるんだろうな?

 

俺の知識以下略。

だがそれでも牛乳アイスはないと思われる。

その証拠が、ちんちくりんの興奮具合だろう。

ちんちくりん……袁術はごたごたがあったとはいえ呉をうまく取り込んだのだ。

後の世とはいえ三国とまで謳われた呉を取り込むということはかなりの権力を有しているはずであり……その袁術がここまで興奮するのだから珍しいことは間違いない。

 

 

 

※ちなみに現実世界の中国においても「(いん)」の時代にはすでに、シャーベットのようなものはあったらしい

 殷は紀元前1600年頃の中国で、三国時代は220~280年の時代になる

 By作者

 

 

 

ましてや季節は現在春だ。

ある意味で一番良い季節にこのちんちくりんは、俺と出会えたと言っていいだろう。

春に氷菓子が食えるのは、よほどの僻地でないかぎりほぼあり得ないと言って良い。

故に……この勝負……

 

 

 

「んぅぅぅぅぅぅぅぅ!? おいしいのじゃ!?」

 

 

 

負ける道理など……あろうはずもない。

 

というか、負けるわけにはいかんのだ……出費的に!!!

 

負けられない! それが俺の心からの本音……負けないとわかっていたとしても……だった。

今の一皿をこの時代で作ろうとしたらかなりの出費になる。

それこそ一般平民の家なら半年は数人食っていけるだけの額だ。

また高額なだけでなく、本当に天子ですらも食したことがないはずの菓子だ。

味は菓子作りも練習した俺のお手製のため折り紙付き。

負けるのを考える方が難しい勝負だったりする。

 

「この冷たくてあまい菓子は何というのじゃ、刀月!?」

「アイスという、氷の菓子でございます」

「氷の菓子じゃと!? いったいどうやって作ったのじゃ!?」

 

当然の疑問といえば疑問なので、俺は事前に考えておいた台詞をよどみなく口にする。

 

「この箱には先ほどお見せした熱を発する不思議な鉱石とは逆の性質……つまり氷のように冷たい鉱石が収められております。その鉱石で凍らせた次第です」

「冷たい鉱石とな?」

 

冷たい鉱石というのは存在するはずもない物だ。

モンスターワールドだからこそ手に入った、常温でも溶けない氷の鉱石というのは実に便利な物だった。

というよりも、料理人としても活動する俺からしたら、氷結晶というのは実に便利なものだった。

冷蔵庫などない時代で、料理人としてこれほど貴重な物はそうそうないだろう。

 

まぁ能力使えるのだが……しかしそれでもこういうときに便利だしな

 

精霊からもらったというのは嘘も方便だが……それでも能力をこの場で披露するよりは遙かにましだろう。

それにこの時代は妖術もある種信じられている時代だ。

精霊と言ってもある程度は通るだろう。

 

「それにしても……はーむ! う~~~ん、おいしいのじゃ!」

「それは何よりです」

 

まぁまずいわけがないが……

 

元々そこまで菓子作りは得意ではなかったが、それでもこの世界に来て、時間があるときに練習していたのだ。

俺の拠点が村になるまでの時間、そして村になってからもご褒美として何度か出す機会があった。

それなりに練習は出来た。

また最悪の場合は果実を凍らせただけでも十分強力な武器となる。

天は己を助ける者を助ける……とはよくいったものである。

 

さて……ここからどう転ぶかだが……

 

仮に技術……蜂蜜採取の方法……を公表しろと言えば、俺としてはやぶさかではなかった。

むろん惜しくないと言えば嘘だが、それでもそれですこしでも心証がよくなるならよいと考えた。

だが先ほどのあまりにも平和ボケした言葉。

そして独占欲とわがままな性格。

これらを加味すればちんちくりんが何を言うのかなど……容易に想像が出来た。

 

「孫策!」

「……何かしら?」

 

 

 

「この男、妾がもらう!」

 

 

 

予想通りの台詞、誠にありがとうございます

 

独占欲が強い奴が考えることなどそんなものだ。

食事……正しく言えば食料があるというのは、この時代においてはそれすなわち国力に直結する。

火薬がないこの時代では、戦力とは数に他ならない。

その数の中に強力な将や指揮する軍師、そして武具や馬などもいてこそ強国となりうるが……まずは数が絶対条件と言っていい。

そして数を養うにはその数……人の分だけの食料が必要になってくる。

ある程度力を持つ諸侯であれば、それはある程度満たしている。

では何故俺のような料理人が貴重かと言えば……それはただ栄養を補給するだけでは人は満足できないからだ。

 

人ってのは欲が強い生物であって……逆に言えば欲が強いからこそ、人間であると言える……

 

生きていく上で菓子など必要ないが……贅沢品というのはそれだけで活力を満たすことが出来る。

またこういう時代だからこそ、美食といったものは豊かさを表す指標になる。

 

豊かさだけでなく……圧倒的な武器にもなり獲る……

 

仮に俺に武力が皆無であったとしても……俺の料理の腕さえあれば、俺はこの時代でも問題なく生きていくことが出来る。

遙か未来の食べ物を提供できるという価値。

俺の調理技術だけでみても、それだけの価値があるのだ。

そして独占するというのであれば……その人物を手に入れて閉じこめればそれでいい。

 

計算通り……と……

 

「それは……ちょっと困るわ」

 

褐色ポニーとしてはここまで打ち合わせと違う事を行った俺について、どうやってちんちくりんに奪われないか必死になって考えていることだろう。

しかしまだ考えがまとまっていないようで、歯切れが悪かった。

 

「何故じゃ? 妾が連れてこいと言ったのじゃぞ? それも、蜂蜜がとれるだけではなく、こんな料理まで作れるとあっては、孫策にはもったいないのじゃ! 妾の元で働いた方が、その男も本望じゃろう」

 

すでに手に入ったと言わんばかりの言葉だ。

まぁ権力もあって財力もあるのだから、そう考えるのもある意味だが……俺の返答は決まっていた。

 

「申し訳ありませんが……お断りさせていただきます」

「!? な、なんじゃと!」

 

もはや決定事項として宣言していた言葉を、ひっくり返されるとは思ってなかったのだろう。

しかも何の権力も持たない平民から。

さきほどまで上機嫌だったちんちくりんが、逆上するのは目に見えていた。

 

「わ、妾の決定をくつがえすというのかえ! 刀月!」

「覆すというよりも……私はすでに呉に仕えております。孫策様には私が住んでいた村に対して便宜を図っていただいたことがあり……その恩義を返すまでは別の方に仕えることは出来ません」

 

これは別段嘘ではない。

何せ収税をきちんと行ってくれたことは事実なのだから。

そして……正直褐色ポニーの事は嫌いじゃない。

仕えるならいろんな意味で、褐色ポニーの方がいいというのは俺の本音ではあった。

 

まぁどっちも利用させてもらうつもりなんだが……俺もなかなかに下衆だな

 

「ふむ、なら妾が孫策に対して十分な褒美を取らそう。それではダメなのかえ?」

「これは義理の問題ですので、平にご容赦を」

「む~~~~~」

 

そして半ば膠着したこのときに、俺は次の一手を打つ

 

「故に……孫策様より出向の命を出していただければ、袁術様に仕えることも可能です」

 

へりくつだが、これしか俺には思い浮かばなかった。

別段俺としては利用できればどちらでもよかったのだが……しかし三国志から考えるに残るのはほぼ間違いなく呉だ。

わざわざ袁術家という、沈む船に乗るつもりはない。

平行世界故、タイムパラドックスとか、歴史改変うんぬんとかは知ったことではないので、ちんちくりんの袁家を内部から強くする事も考えはしたが……俺自身にそこまでの政治的手腕はない。

ならばどうするか? と考えたときに思いついたのが……孫策と袁術を同盟として合体させればよいと俺は考えた。

いくら孫堅の死のごたごたがあったとはいえ、呉を押さえつけている……抑えることができているというのは間違いなく国力があるという証左だ。

故にこの二つを合体させることが出来れば、実に強力な国家が出来ると考えて良い。

そして国を瓦解させるのはいくつかの手法が考えられるが……今回のちんちくりん相手であれば、ちんちくりんそのものを籠絡させればいい。

あのわがままな性格であれば、恐らくなんとかなると俺は判断した。

故に、俺は呉の宿将としてちんちくりんに仕えたふりをして、中からこの組織を弱らせて呉へと取り込ませる。

 

それが俺の描いた戦略だった。

 

「孫策の命令で動くと言うことかえ?」

「その通りです。私はあくまでも孫策様の部下。その孫策様より袁術様に一時的に仕えよと言われれば、断ることはありません」

「ふむ。まわりくどいの。直接ではダメなのかえ?」

「これは袁術様の器の大きさを世に知らしめる好機であります」

「器の大きさじゃと?」

 

我が事ながらよくぞここまで口が回るものだとあきれつつ、俺は言葉を続けた。

 

「すでに私は呉に仕えていることは、孫策様の居城である江都ではすでに知れ渡っております。そんな状況で私が袁術様の元に何もなく行けば……袁術様が有能と思える人材を無理矢理引き抜いたと考える輩が出てこないとも限りません」

「む……」

 

無論その場合、俺が呂蒙にお願いしてそういった噂をばらまいてもらう。

俺は行商でずいぶん目立っているので……広めるのはそう苦労をしないだろう。

 

「ですが孫策様の命によって袁術様の元に向かったのであれば、自らの部下とも言える孫策様より正式に借り受けたということで、袁術様の度量が大きいと、誰もが納得するでしょう」

「……ふむ。なるほどの」

 

一応筋は通っているので、ちんちくりんとしても無碍にも出来ない。

また俺が自らの意見をいう男であるため……無理矢理仕えさせることも難しいと感じたのだろう。

さらにいえばずるがしこい性格のちんちくりんとしては、自らに仕えさせればその後はどうにか出来ると考えての打算もある。

故に……

 

「ふむ。面倒だがよいじゃろう。孫策や」

「……何かしら?」

「この場で命じてたも。刀月に妾に仕えるようにの」

「……あ~~~はいはい。刀月、きちんと袁術ちゃんに仕えるのよ」

「承りました」

 

俺に考えがあることは褐色ポニーにもわかったのだろう。

実に投げやりな感じでちんちくりんへと返事をして、怒気をにじませた言葉で俺へと命じた。

俺はそれに対して、一度立ち上がって褐色ポニーへと振り返り、恭しく頭を垂れた。

しかし顔を見なくてもわかるくらいに、褐色ポニーからあふれ出る怒りのオーラが、俺にぶつけられていたが、そんな物は知ったことではなかった。

 

まぁさすがに事情は説明するが……

 

「では袁術様。一度私も村に戻らねばなりません。故に少しばかりお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「む? このままここに仕えるのではないのか?」

「それも不可能ではありませんが……せっかくですから私の村に帰って材料をとってきたいのです。そうすれば今の菓子よりもおいしい物も作ることが出来ます」

「な!? なんじゃと!」

 

今の台詞でもっとも驚いたのは当然のごとく袁術だったが、周りの連中も驚いていた。

天子様すらも食ったことのない菓子をいくつも作れるような台詞を吐けば驚くのも無理はない。

そしてこの台詞……俺自身も実は結構危ない橋を渡っている。

前にも言ったが、この時代の天子というのは間違いなく天上人だ。

つまりこの場に密告者がいた場合俺も反逆罪として追われる身となる。

捕まることはないが、それでもこの場にいる連中の助力を得ることは出来なくなる。

だがこれほどの言葉のインパクトはそうない。

そしてそのインパクトに負けない美物もすでに献上したのだ。

それと同等の美物がまた食えるというのであれば、ちんちくりんとしても無視は出来ない。

 

 

 

 

 

 

その後は俺がいつ仕えるのか等のいくつかの約束を行って、俺と呂蒙、褐色ポニーは下がることになった。

そして待機場所として案内されている離宮に着き、周囲の安全が保証された瞬間に……褐色ポニーが俺に質問を飛ばしてきた。

 

「いったいどういう事かしら?」

 

声にも乗った覇気と殺意、怒気。

それだけで人が殺せそうなほどの重さがある言葉だった。

呂蒙は俺の作戦にいくつか乗っていることもあって、顔から血の気が少し引いて青くなっている。

 

まぁ確かに怒るのは当然なのだが……

 

面目丸つぶれな状況だ。

怒るのも無理はない。

だが……俺はここで負けるわけにはいかなかった。

 

「なに、別段敵対する理由もなさそうな感じだったのでな。利用してやろうと思ってな」

「どういうこと?」

 

「あれを放逐するのは得策じゃないから取り込もうと思ったまでだ」

 

いったいどんな切れ者かと思いながら望んだ謁見だったが、何のことはない。

蓋を開けてみて、出てきたのはただ権力を持った名家の娘に、甘やかすだけの馬鹿一人。

しかしその二人の武器は侮れなかった。

国力と政治力はそれなりにあり、恐らく運もあるのだろう。

後は判断力と決断力、行動力。

 

そして、汚職……。

 

まぁいわゆる賄賂って奴だな

 

正直……この時代において必要なものを全て兼ね備えていると言って良い。

ただし……それは中身を考慮していない評価だ。

実績のみに目を向ければそれなりに高評価になるが……中身を見たら落第点だ。

政治に軍備が特にひどい。

落第点ではあるが……俺としては評価できるところがあった。

 

「取り込むですって?」

「実際あってみてわかったが……あのちんちく――袁術はただの権力を持ったわがままな娘だ。まぁ確かに嫌がらせをしてくる等はあるのだろうが、逆に言えばそれだけだ」

「それだけ……ですって?」

 

それだけという言葉には納得しがたいものがあったのだろう。

褐色ポニーから本物の悪意という名の殺意が俺へと漏れ出した。

正直、俺はこいつが……呉の連中がどんなことをされたのかわかっているわけではない。

この過酷な時代の乱世。

隙を見せれば命を取られる状況と言って良い。

だが調べた結果としてこいつ……呉の連中と袁術との間がそうかというと、そうでもなかった。

 

「偉大な母親が殺され、孫堅が死んだ動揺によって呉は大きく乱れた。そしてその隙を、袁術は見逃さなかった。違うか?」

 

孫策の親……孫堅。

どうやら孫堅も女だったらしい。

まぁそれはともかくとして偉大な親が……当主が死んだことでぐらついた呉。

殺した相手は黄祖という武将らしい。

そしてその黄祖もすでに討ち取られているらしい。

つまり……袁術は呉の連中にとって仇ではないのだ。

 

 

 

「仇」ではない。

 

 

 

これがもっとも大きな理由と言っていい。

あくまでもぐらついた隙を突かれて領地を乗っ取られただけだ。

本当にそれだけだった。

無論袁術としても乗っ取るのではなく滅ぼしたかったのが本音だろうが……どうやらそれをすることは叶わなかったようだ。

ぐらついているとはいえ後の三国の一つの呉だ。

兵の質は高く、武将も優秀で数もそれなりにいた。

ぶつかれば袁術もだいぶ疲弊するのが目に見えていた。

その疲弊を突かれて他国に滅ぼされる可能性は否定できない。

故に利用するために生かしておいたようだ。

 

そう、生かされたのだ。

 

呉は。

いろんな要因はあり、考慮すべきこともたたあるとはいえ……この事実は覆しようがなかった。

 

「っ!? えぇ、そうよ」

 

何だ……ちゃんとわかってんじゃん

 

そこらがわかってない猪というか……馬鹿だったらどうしようかと内心肝を冷やしていたのだが、どうやらその心配もないようだ。

確かに利用もされたし、恨みがないとはいえないだろう。

だがそれは憎しみまで行きようがないものなのだ。

そして助けられたという義理もある。

故に内心いやだと思いつつ、さらに後に下克上をするつもりとはいえ、袁術の指示に従っているのだろう。

 

「しかもお前が考慮していない事が一つある」

「!? 何ですって?」

 

その疑問は果たして俺が生意気な事をいっていることなのか、それとも考慮していないことについてのことなのか?

どちらでもかまわなかったので、俺は言葉を続けた。

 

「それはあいつ自身……袁術がまだ幼子と言って良い年齢の上に、参謀が一人しかいないという事実だよ」

 

ちんちくりん改め……袁術。

どう見ても十かそこらの年齢だろう。

そしてそいつの側にいるのは……甘やかし短髪の張勲のみ。

さきほど見たがそれなりに強く、また知力もあるようだが……逆に言えばそれだけだ。

張勲の武力は呂蒙とどっこいどっこいだ。

腰に剣を履いているので、呂蒙のような暗器使いと一緒に考えるのはおかしな話だが、それでも呂蒙より少し強いくらいだ。

とてもではないが、この二人だけで国をどうにかするのはきつすぎる。

下調べの際にある程度能力も使って内情を探ったが……確かに張勲はそれなりに政治的にも軍略的にも長けているようだ。

だが、いかんせん信頼できる人材がいないのが、この袁術の陣営の弱さだ。

そして言い方を変えれば……

 

 

 

「袁術には張勲しかいない……その状況でこの州を切り盛りしていることは十分に評価できると俺は思うがね?」

 

 

 

 

 

 

「どういうこと?」

 

刀月が語る、袁術と張勲に対する言葉。

その真意がわからずに、私は怒りが爆発しそうになりながらも、刀月の言葉を待った。

 

「いくら間隙を突いたとはいえ、袁術と張勲は呉を取り込むことに成功した。その手腕はなかなかのものだ。しかも先にも言ったが、たった二人でそれを起こしたのだ」

「二人っていうのは?」

 

 

 

「孫策で置き換えるのなら、簡単な話だ。周瑜がいない状況で、しかも孫策……お前自身が十にも見たぬ年齢で、国を治められるか? 今の袁術を孫策の状況に置き換えた場合恐らく……十の年齢でお前の側にいるのは、総合的に判断すると呂蒙だけだぞ」

 

 

 

!? それは……

 

 

 

その言葉に、私は一瞬思考するも……すぐに不可能だと判断した。

不可能と判断した理由はいくつかあるけど、もっとも簡単な理由は経験がないからだ。

私自身、ついこの間まで母様……炎蓮こと孫堅が当主として側にいて、背中を見ていた。

 

ううん……今も見ている……

 

あの人の背中を。

何もかもが型破りだった、あの豪傑を。

まだ何一つとして……あの人に届いていない。

自らの母親。

 

「まぁ俺は厳しいと思うがね。自分のこと棚に上げて言わせてもらうが……お前では絶対に無理だ。州を治めることも……そして別の軍を、取り込むことも」

 

刀月自身の言葉を考えている私に、容赦なく切り刻まれる、刀月の言葉。

けれども刀月自身に私を馬鹿にしているわけでも、嘲笑している訳でもなく、ただ淡々と事実を述べているという感じだった。

だからといって、許せるわけではない。

けれども何故か……私は刀月の言葉を聞いていた。

 

「取り込まれたことでお前は結果的に生かされた。そして今もこき使われているとはいえ、命もあり、ある程度の自由もある。自分の未熟さを全く考慮に入れず、ただ相手を恨むだけというのは、少々おかしな話だと俺は思うがね」

「それはあなたが――」

「その通り。俺は確かに呉の人間ではなく、そして袁術より辛酸をなめさせられた訳ではない。だが……俺から言わせればその程度の辛酸など、砂糖並みに甘いと思うがね?」

 

知らないくせに!

 

さすがに我慢が出来なくなった私は、腰の南海覇王へと手を伸ばして……次の瞬間に目を見開いた。

先ほどまで確かに数歩の距離があったはずの刀月がいつの間にか目の前にいて……柄に手をかけた手を握って私の動きを封じていたのだ。

確かに実力者なのは想像できていた。

だけど……ここまで出鱈目だとは予想していなかった。

 

「ク-デ……反旗を翻すつもりだったのは知っている。だが、反旗を翻す理由が、ただ土地を奪い返すだけというのなら、その行為は愚かしいと俺は思うぞ」

「どういう事かしら?」

 

生殺与奪の権利を握っていると、態度で言ってきている相手に、私は射殺さんばかりに鋭くにらみつけて、せめてもの抵抗をして見せた。

 

この程度しか出来ない己の未熟さに……

 

何よりこの男の言葉が事実であると再度突きつけられた歯がゆさに……

 

涙が出そうだった。

 

 

 

「確かに昔からこの土地を治めてきたという意地があるんだろうが……袁術と張勲だけで回しているこの州を、利用するのが一番良いと俺は思う」

 

 

 

「内部から袁術を籠絡させるっていうの? そう簡単にできるかしら?」

 

 

 

「まぁ出来るかはわからないが、やってみるよ」

 

 

 

そういって刀月は不敵に笑った。

その笑みが実に自信満々で非常に腹が立ったけど……その自信が嘘でないことを私は十分に理解していた。

先ほどの菓子は……意味がわからない代物だった。

袁術ちゃんは気づいてなかったかもしれないけど……加熱調理をしたこと、そして氷菓なるものを作ったと言うこと。

冷たいという物がなんなのかはわかっている。

けど、それを作ったというのが、はっきり言って意味不明だった。

 

でも……間違いなく究極の美物だったのは事実……

 

正直私も食べたいと思ったほどだ。

 

しかもこの男は間違いなく言ったのだ……

 

 

 

天子様ですら食したことがない美物だと……

 

 

 

そう断言した。

 

これがどれほど恐ろしい言葉なのか、袁術ちゃんはお菓子に気をとられてよくわかってなかったけど、私は内心絶句していた。

 

この男は間違いなく……

 

 

 

この大陸の頂点とも言える、朝廷の主人である天子様の名を使ったのだ……

 

 

 

それは言い方を変えれば……

 

 

 

こいつは天子様ですら……朝廷ですら利用すると考えていると捉えられなくもないのだ。

 

 

 

何せ天子様を語ったのだ。

 

 

 

しかも自分の利益のためだけではなく……己の価値を上げるために……。

 

 

 

そして、それが嘘でもはったりでもないことを……

 

 

 

武力だけでなく……

 

 

 

調理が出来るということでも証明して見せた……

 

 

 

いったいこの男は「何」なの?

 

 

 

正直……薄ら寒いと感じてしまった。

 

この男がいったい何を考えているのか?

 

何をこいつがするのか?

 

前に故郷に帰るためと言ったのは覚えている。

 

だけど本当にそれだけのか、底知れぬ何かを感じてしまうのは致し方ないことだった。

 

 

 

「恐怖が透けて見えるぜ?」

 

 

 

!?

 

その言葉とともに、刀月が私の前から姿を消した。

そして、この部屋の奥に置かれた結構できの良い執務机の椅子に腰掛けて……不適に笑った。

私も、そして私よりも長い時間この男とともにいる呂蒙ちゃんも驚き……そして底知れぬ何かを感じてか、歯をわずかに鳴らしていた。

そこまで無様を晒すわけにはいかず……私は歯を食いしばって耐えていた。

 

何を恐れているのかもわからない。

 

だけど、何を恐れているのかもわからない、という情けない姿を……

 

 

 

呉の盟主たる私が、この男に見せるわけにはいかないと……

 

 

 

そう思ったのだ。

 

 

 

「まぁ、見ててくれ。俺なりに頑張ってみるから」

 

 

 

!? この男!

 

 

 

そんな私の……決死とも言える覚悟を見ながら、こいつはただ笑って見せた。

 

先ほどの不敵に……見下したかのように笑うのではなく……

 

屈託なく

 

朗らかに

 

裏などないと言うかのように……

 

裏がないはずがないというのに……

 

それでもこいつは、ただ笑って見せた。

 

 

 

どうやらとんでもない奴を、味方につけたみたいね……

 

 

 

何がどうなるかわからない。

 

けれど……この男を陣営に引き込むことの意味を、真の意味でようやく理解して……

 

私は覚悟を決めた。

 

 

 

この男を……利用してみせると……

 

 

 

 

 

 

……なんか無駄に覚悟を決められた? 少し脅しすぎたか?

 

気力と魔力、さらに能力までも使用した俺の技法。

気力と魔力の移動速度に、さらに風の能力を使用して、蜃気楼もどきを見せつけた瞬間移動もどき。

あげく気づかれない程度に気圧を下げて体感温度を低くした。

これだけでも恐怖を覚えるのは当然で、それは武将たる褐色ポニー……孫策もそうだと思ったのだが、どうやらやり過ぎて逆に何か俺に対して警戒及び「越えるべき何か」と認識されてしまった感があるような気がする。

 

うーむ……妖術ってのは本当に諸刃の剣だな……

 

ある程度俺の能力をかいま見ているはずの呂蒙も、少々おびえているようだった。

それは当然といえた。

呂蒙と訓練することはあっても、呂蒙に殺意や悪意と言った物を、当てたことは今までなかった。

本気ではないとはいえ同じ空間にいるのだ。

多少当てられてしまうのも仕方がないという物だ。

 

まぁこれも一種の試練になるか……

 

これで離れていくのか、それとも恐れるのか?

どちらでもかまわないが、一種の見極めをすることは出来るだろう。

そしてなにやら孫策の方も覚悟を決めたようだが……それでも別段問題はない。

 

うまく立ち回ってみるかねぇ……出来るかわからないし、出来なかった場合も何とかなるし

 

ぶっちゃけこれが俺の本音だった。

恐らく現代の知識を総動員すれば袁術を籠絡させるのはそう難しいことではない。

菓子作りはそこまで自信がないが……それでもこの時代であれば、多少の失敗であっても問題がないはずだ。

 

最悪逃げればいいし……

 

そして、仮に籠絡が失敗したり、追われる身になったところで……どうにか出来る確固たる事実が俺にはある。

自信ではなく事実だ。

逃げに徹するのであれば、たとえ何万人が相手であろうと俺はどうにか出来る根拠があった。

 

 

 

まぁ利用できないと面倒だから何とか利用できるように頑張るが……

 

 

 

しかし、いくら逃げられるからといって、最初から負けるつもりでいる訳ではない。

 

勝つ、負けるの問題ではないのだ。

 

俺はこの世界から出なければならないのだ。

 

責任を果たさなければならない。

 

それが……

 

 

 

責任って……事だよな……

 

 

 

月の名を冠した息子を捨て……

 

俺に大事なことを教えてくれた恩人と……弟子達を捨て……

 

 

 

こんな俺を……思いながらもなお……

 

 

 

自分の気持ちを優先したあの娘との約束すらも捨てて……

 

 

 

俺はこの場にいるのだ

 

 

 

なら……最低限の責任を果たさなければ

 

 

 

俺はただの……大馬鹿野郎になっちまうからな……

 

 

 

言うなればスタート地点に立ったに過ぎないのだ。

 

今のこの状況は。

 

ならば、ゴールしなければならない。

 

無様なゴールではなく……

 

 

 

責任を果たした……きちんとした到着点へ

 

 

 

俺はいくよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、思っていた。

 

 

出来るはずだと。

 

 

そう……

 

 

 

 

 

信じていたのだ……

 

 

 

 

 

俺は

 

 

 

 

 

 

ちんちくりんへの菓子献上を終えて、褐色ポニーに命令されて、俺は一時ちんちくりんこと袁術へと仕える事になった。

謁見が終えて一度褐色ポニーを丸め込み、俺は内部からちんちくりんの国を崩壊させて呉へと取り組む画策を認めさせた。

半ば脅して認めさせたようなものだが、しかし俺に対して強固に反対できなかったことが、褐色ポニーの迷いを表していた。

 

俺としては、三国に名を連ねた呉を押さえつけた袁術の国を潰すのは、あまりにももったいないと考えたのだ。

 

故に俺は自らの武器である未来の知識を利用しての料理人として、内側から袁術を籠絡させて利用し、呉に取り込むことを画策したのだ。

それを認めさせて一度俺は刀村へと戻った。

 

これから忙しくなるだろうから、まぁある程度片付けなきゃいけない問題があるしな

 

地下蔵は封印した。

といっても、電磁投射道で帰ろうと思えば帰れるので厳重な封印ではなく、再度の認識阻害の術の強化程度だ。

また村も正式に副村長の立場である助にほとんど任せてきた。

ここから俺はちんちくりんに仕えることになる。

そして最終的には呉に仕える。

ならば村の切り盛りをするのは難しいと判断するのは当然といえた。

 

といっても、村の機能はこのまま稼働してもらわなければ困るのだが……

 

農産物限定とはいえ、オーバーテクノロジーの固まりの村だ。

そしてその農産物は俺がどうしても欲する食材達。

無論一般的にも売りに出して食糧問題が少しでも解決されるのは嬉しいが……加工品関係は俺としても作り続けて欲しい。

無論俺もある程度自分の生活圏内で自ら加工品は作るが、これからの俺の考えで言えばそれだけでは量が足りないだろう。

そういったことを助に説明し、これからも生産活動は行わせることにした。

何とか軌道には乗っているので、俺がいなくても食糧不足で飢えることはないだろう。

最悪は俺自身が運搬して食料を運ぶことも出来る。

また呂蒙も正式に呉へと仕えることになった。

俺がここまで予定にない行動をして怒っているので人質のような形で、呂蒙は呉へと連行された。

正直俺に付いてきてほしかったという気持ちもあるのだが……ちんちくりんとかに人質とされても困るので、籠絡させるまでは俺一人の方が動きやすいことも事実だった。

 

食事に毒とか入れられても困るからね~

 

俺一人なら問題ないが、呂蒙に盛られたら一大事だ。

切り札はあるが使いどころは決めているので、あまり無駄に消耗したくはなかった。

 

しかし我ながら少女利用するだの、籠絡だの……それだけ聞くとクズだなぁ……

 

十にも満たぬ少女を利用する。

言葉にすると最低極まりなかったが、しかし悪質な意味で利用するわけではないので……一応俺としては問題ないことだと思っておく。

むろん利用するだけでないのも事実なのだから。

 

未来の菓子とか……まぁ少しでも味がわかるものからしたら垂涎ものの食べ物だろうし

 

菓子作りをうまくならねばならんが……そこはどうにか素材の味でもごまかせるだろう。

ごまかすとなるとそれなりに量も種類も必要なので、必要な物はかなり貯蔵庫から持って行くことにした。

 

いや、慣れたんだが……やはり電磁投射道はきつい……

 

むろん電磁加速しているからといって、弾丸と人間では加速率が圧倒的に違う上に抵抗も大きい。

電磁投射した弾丸よりも遙かに速度は出ていないのだが……それでも気力と魔力のみの身体強化とは比較にならない速度が出るのだ。

そしてその分……身体への負担も大きい。

やるときはやるがなるべく多用したくない。

 

ちんちくりんの居城の近く……といっても気力と魔力の併用した脚力なので、かなり遠いが……に果物が採れる森なんかがあればいいんだが……

 

何度か隠密というか諜報活動で周辺の森や村を回ったことがあるが、情報収集が主で食物関係はあまり見ていなかった。

不安に思うこともあるが、最悪は逃げれば良いと楽観的に考えながら作業を進める。

そしてなんだかんだで一週間ほど村で処理を行った後、俺は一度江都にも寄って褐色ポニーにも一応挨拶をして、さらに呂蒙の様子も確認しつつ……ちんちくりんこと、袁術の住まう居城へと向かった。

 

 

 

 

 

 

……気にくわない

 

それが私の本音だった。

今までは私しかいなかった。

私が一人で……側にいた。

 

だけど今は……実に邪魔存在が出来てしまった。

 

「よくぞまいったな刀月! 少し遅かったから心配したぞ!」

「ご丁寧にどうも。本日より仕えさせていただきます、刀月です」

「うむ! ではさっそく刀月! 妾にこの前の菓子を持ってくるのじゃ!」

 

仕官してきたその日。

美羽様は今まで見たことがないほどの満面の笑みを浮かべる。

その笑顔の先が私ではないという事実が、本当にうっとうしかった。

でも、良くも悪くも美羽様はわがまま。

そして言ってしまえば面倒なことに権力もある。

きっとすぐに無理難題を言われてあわてふためくに違いない。

 

「蜂蜜をよこすのじゃ! 刀月!」

「ありません。というか毎日食べ過ぎです」

 

そう思っていたけど、驚くべき事にこの男……美羽様の命令にひれ伏すどころか、忠告までしている。

本来あり得ない事だった。

いくら他国から派遣された将軍扱いとはいえ、ここまで明確に否定をすることは難しい。

呉と袁家では、国力にも大きな差があり、下の立場である呉の人間では、そこまで強く出てこれない。

 

「なんじゃと! お主蜂蜜取りの名人なのじゃろ! もっと妾によこすのじゃ!」

「なら蜂蜜だけを渡しますよ? あ~あ~。せっかく天子様すら食したことのない菓子を献上しようとしたのになぁ」

 

しかもこの男、まるで手玉にとるかのような感じで美羽様に対して、逆に逆らえないような言葉を言っている。

というよりも、この大陸において天子様の名を利用するという剛胆さには、薄ら寒さを感じてしまうというのに、この男は全く感じていないようだった。

 

「む!? まだあるというのか!?」

「ありますよ」

「なら持ってくるのじゃ!」

「断ります」

「妾に逆らうというのか!?」

「逆らいますよ。俺はあなたの部下になった覚えはありません」

「ぬ、ぬぬぬぬ」

 

美羽様は単純だから、気づいてないみたいだけど……

 

天子様を利用する恐ろしさを。

そして自分がうまく操られていることにも。

 

「ならどうしたら妾に献上するのじゃ!」

「そうですね。まず政務をきちんとやりましょう」

「それは七乃がやるから良いではないか!」

「それは文字通り張勲様がやっているのであって、あなたがやっている訳ではないですよね? 働かざる者食うべからずってのが俺の信条なので」

 

握りつぶせるはずの男は、全く怖がるそぶりも見せない。

実際何度か刺客を放った。

にも関わらず、この男は次の日も平然と美羽様と会話をしていた。

 

「どうじゃ、刀月! 本日は政務をきちんとこなしたぞ!?」

「お~。やれば出来るじゃないですか。とりあえず張勲様に報告に行きましょうか。俺だけではちょっと不安なので」

 

不安といいつつ、政務に関してもある程度問題なくこなしている。

こなしていると言っても、最低限出来ているだけですごいわけではない。

なのに……

 

「うむ! して刀月! 今日のおやつは何なのじゃ!?」

「今日はですね――」

 

これほど美羽様に好かれているのが気に入らなかった。

 

やはりお菓子と料理は強いわね……

 

この男が作る料理はどれもが絶品だった。

菓子作りのためにきたというのに……この男は出された食事がまずいと言い出して、自分で作り出した。

それも美羽様の目の前で。

 

「何をしているのじゃ刀月?」

「飯作ってるんですよ」

「ほう? ご飯をかえ? 何を作るのじゃ?」

「今日は……豚肉ハンバーグですかね」

「はんばーぐ? なんじゃそれは?」

 

というように、美羽様の興味を引いて料理を作って食べさせ……

 

「刀月! 菓子を持ってくるのじゃ! このとおり仕事もしたぞ!」

「おー。お見事です。偉いですね」

「ふふん! 当然なのじゃ! 早く蜂蜜の菓子を!」

「そんなに食べたら虫歯になるので却下です。食べ過ぎない程度にします」

「むぅ! 妾に逆ら――」

「文句があるならもう二度と作りませんが?」

「う、嘘なのじゃ! 冗談じゃ!」

 

あまつさえ、美羽様を脅すことまでやってのける始末。

 

「七乃? 刀月の弱点やら弱みはまだ報告がこんのかえ?」

「申し訳ありません美羽様。いまだ細作から報告があがっていないんですぅ」

 

すでに何度も細作を放っているのに、未だ報告がなかった。

まるで何度も動きを止められているかのように。

 

「刀月! 政務が終えたぞ! 今日のご飯はなんじゃ!?」

「今日はチーズグラタンもどきです」

「七乃! 今日はちーずぐらたんなるものらしいぞ! 楽しみじゃな!」

「え、えぇ」

 

そうして数ヶ月がたとうとしたときに……

 

「今日のおやつはなんじゃ!」

「果実のジャムを使ったあまーいヨーグルトです。一匙だけ蜂蜜をいれてもいいですよ」

「誠か!?」

「張勲様と二人で仲良く食べてくださいね」

「わかったのじゃ!」

 

美羽様が未熟ながらも政務をしていることにようやく気づいた。

私が何度言ってもきちんと仕事をしなかったのに。

私がそれを補っていたというのに。

それに気づいて心の底から憎悪がわき出した。

だけど……

 

「七乃! 一緒に食べるのじゃ! 今日のもおいしそうなのじゃ」

 

満面の笑みで餌付けされている美羽様を見て……どこか毒気が抜けてしまった。

今までのただのわがままを言うだけの笑みじゃない……本当に可愛らしい笑みに。

まだ全てを許した訳ではないけど……ここで手を止めるべきだと、そう悟った。

そう思わざるを得なかったという気持ちもあった。

だからもう諦めた。

美羽様が笑顔ならそれでいいと、思えてしまったから。

 

 

 

 

 

 

正直……めんどくさかった。

いや、最初からわかっていたことではあった。

間違いなくこいつが妨害やらなんやらしてくるのはわかっていた。

なのだが……

 

やりかた浅いなぁ……

 

それが俺の正直な感想だった。

細作を放つのは予想していたので、そのことごとくを俺はつぶした。

指示を出しているのはある程度把握した……霞皮の能力で完璧な隠行……ので、城から出てしばらくしたら気絶させて城に戻す。

毒殺もあると警戒……別の奴が食べたら困る的な意味で……していたのだが、さすがにそこまでまずい手段はしてこなかった。

 

まぁ今後もお世話になるので、あまり敵愾心を持たれて後ろから刺されても面倒だし……

 

俺自身後ろから攻撃されても怖くも何ともないが……それで軍が危機に陥るのは避けたかった。

故に懐柔させようと考えるのだが……方法は一つしか思い浮かばなかった。

その方法は……ちんちくりんを利用することである。

 

利用する対象を、さらに別の人間を利用するために利用するとか……どんだけなんだか……

 

苦笑しながらも、それしか思い浮かばなかったため……食い物で懐柔した。

そして必ず甘やかし短髪に絡むようにちんちくりんを誘導した。

甘やかし短髪は「甘やかしている」が叱ったことはほとんどなさそうだった。

故に……叱りすぎない程度に叱って、餌で釣る方法を俺は採用した。

餌は極上なものだ。

何せ未来の菓子だ。

しかし俺としても、俺自身の菓子の調理技術の未熟さ、素材の不足に素材が品種改良もされていないこともあって、一朝一夕ではないことも事実だった。

 

作るのに難儀した……

 

そしてそれ以上に味について、俺自身納得できなかった。

だが、それでもやるしかないので、何とか納得できる菓子を作りつづけた。

食材に関しては、最初にちんちくりんと甘やかし短髪に自在に使って良いと許可をもらったので、何とかなった。

後は早く起きて周辺の森なんかから果物なんかを採取。

そして納得できる程度の味になるように調理。

 

いやぁ……俺自身菓子の必要性を感じてないからあまり作ってこなかったが、なんか一生分の菓子を作ってる気がする……

 

俺自身、菓子はあったら嬉しいが、どちらかというと三食の飯と酒を優先しているので、菓子は二の次だった。

今度から菓子もきちんと勉強と修行をしようと思った。

そしてそんな生活を続けて……ちんちくりんの単純さも相まって、何とか甘やかし短髪の警戒心が薄れている様子だった。

というよりも、今まで以上に可愛らしい笑みを浮かべる主君にとろかされたというのが正しいかもしれない。

 

さてこれである程度舞台は整った訳だが……

 

まだ完全にではないが……多少の信頼やら俺自身の利用価値を、俺と接する人間には示すことが出来た。

ならば後はこちらもメリットを与えつつ、利用させてもらう。

利用するつもり満々だったが……しかし現在の状況では利用するにも出来ないのが、本音だった。

 

何故ここまで俺が準備を整えているにもかかわらず、仕掛けてこない?

 

ここまで動いてなお……あの白装束の連中に動きがない。

妖術だか魔法だかなんだかはわからないが……荒野を走っていたとき、俺が知覚できる限りの距離に、俺以外の気配はなかった。

霞皮の護りを得た俺だが、まだ完全に能力を使いこなせているわけではないが……それでも今の俺は、以前よりもかなり気配に敏感になった。

うぬぼれも入るかもしれないが、よほどの達人であっても……今の俺から気配を隠しきるのは難しいと思われる。

その俺が直前まで気配を察知できなかった。

そして突如として……まるで生きる屍のように出現した白装束の連中。

つまり、相手は俺の位置を遙か彼方からほぼ正確に把握できる力があると言うことになる。

視線も感じなかった故に、恐らく遙か遠くからであっても直接的に見られていたわけではない。

四六時中、どこにいても監視が可能と言うこともあり得る。

 

そう考えるとゾッとするな……

 

まるで未来の道具を用いてまったく悟られぬまま監視されている気分になっていた。

そう考えて、己自身が未来の固まりであることを思い出して……俺は自らの思考を鼻で笑った。

 

「未来の固まりの俺が言うと滑稽だな……」

 

冗談交じりにぼそりとつぶやく。

この世界から見れば未来だが、俺から見れば過去である、戦史。

戦史を紐解いてみても……敵が戦力を整えているのを待つような国は間違いなく負ける。

油断、慢心等々……要因は様々だろうが、それでも敵が強くなるのを待っているのは下策以外の何物でもないのだ。

相手の情報がない状況……つまり今の俺の場合、動きたくても動けないのが現実のため、相手の行動を妨害出来ない。

しかし相手は違う。

どうやってかはわからないが、俺の位置を把握しているはずなのだ。

あの気味悪い存在……いろんな意味で……が言うには、俺はこの世界における異物であり、白装束の親玉も異物だという。

ならば同じ異物である、敵が……俺を妨害しない理由は何なのか?

まるで嵐の前の静けさのようで……少々不気味でしかなかった。

 

まぁ……どんな状況に陥ろうとも、打ち破るだけだがな……

 

出来るだけの自信はある。

だが不気味と感じてしまうのは……仕方のないことだと思えた。

 

 

 

 

 

このときの「不勉強」な俺はこのとき知りようがなかった。

この瞬間に……歴史において何が起こっていたのかと言うこと。

 

そして、この後何が起こるのかと言うことも。

 

檄文が大陸中を駆けめぐり、大きな……大きな時代のうねりがすぐそこまで、押し寄せてきていた。

 

 

 

 




今回ちょっと後半が微妙かなぁ?
だがあまり長々書くのも疲れるのでかなりカットしてます
本当はもっといろいろ会ってもいいと思うのだけど・・・・・・まぁそこはまぁ、ちんちくりんと言うことで許してw

次からようやく董卓連合始まりまーす
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