今の私にはこれが精一杯……皮肉なものですね
薄暗い部屋の中、光源である水晶から漏れ出た光に映し出された男。
特徴は眼鏡をかけていること、そして額に入れ墨を入れている事だろう。
名を于吉といった。
眼鏡を拭いて水晶の載った机において、そして手元にある……水晶ほどではないにしろ怪しい紫の光で発光している書物を手に取り、頁をめくる。
目当ての頁を開いた後に……于吉は拭いた眼鏡を手に取り、静かにかける。
そして、その開かれた頁を見つめて……小さく呪文のような言葉を口にした。
「――」
聞き取れないほどか細いのか、それとも聞こえても理解できる言葉ではないのか?
その言葉は確かに発せられたというのに、于吉の耳にすら届かず、何処かへ消えていった。
「于吉、いるか?」
言葉にならない言葉を口にした于吉の耳に……扉を叩く音とともに呼び出しの声がかかった。
その言葉に薄い笑みを浮かべて……于吉は頁を閉じた書物を机において、扉へと振り向きながら立ち上がった。
「いますよ、左慈。開いているのでどうぞ」
律儀に返事を待つ相手に苦笑し、于吉は入室の許可を出す。
許可と同時に扉を開けて、于吉に左慈と呼ばれた存在が部屋へと入ってくる。
小柄な男だった。
だが額の不気味な入れ墨と、とても少年とは思えない鋭い双眸……なにより身体からあふれ出る重圧が、その小柄な存在が少年でないことを雄弁語っていた。
「諸侯こちらに向かっているようだが、本当に何もしなくて良いのか?」
「えぇ問題ありません」
左慈の言葉に鷹揚に頷きながら、于吉は水晶へと目を向ける。
すると先ほどまでただわずかに光っているだけだった水晶に、映像が映し出され……その映像がまるで投射器のように、壁面へと映し出される。
映し出された壁には……荒野を駆けてくる、あまたの軍勢が映し出されている。
旗、装備、人員……そして行軍。
ほぼ全てに統一性がなかった。
それを見るだけで軍勢の集まり……連合軍であることが容易に見て取れた。
「こちらとしては消耗させればそれで良いだけのこと。王朝がなくなるのは、不便にはなりますが、こちらとしては特段問題ありません」
「次の策はあるんだな?」
「もちろんです」
少々いらだたしげに問い詰めてくる左慈に対して……于吉は実に涼やかな微笑で言葉を返していた。
その言葉に納得したのかどうかまではわからなかったが……左慈は一度鼻を鳴らして、きびすを返した。
その様子を見てさらに怪しい笑みを浮かべて……于吉は水晶へと歩み寄り、水晶玉へとふれた。
すると……先ほどまで上空から荒野を写していた映像が移動して、一人の男が映し出された。
奇妙な男だった。
身につけた衣服は明らかにこの時代に似つかわしくない、白く輝くかのような学生服。
馬に乗る姿は堂々たる姿ではないが、怯えておらず、また恐れてもいない様子だった。
さらに于吉を水晶に指をはわせると、映像が再度代わり……新たな男が映し出された。
こちらも奇妙な男だった。
身なりこそこの時代にあった衣服だったが、行軍だというのに鎧を身につけていなかった。
周りの連中は馬に荷車を引かせており、その馬車に乗っているのに対して、この男は何故か走って自ら荷車を引いて行軍していた。
周りが全て馬車であることから察するに、恐らくこの男がいる舞台は輜重部隊……軍需品運搬部隊のこと……なのだろう。
にも関わらず馬車にも乗らず、何故か背丈よりも遙かに長い真っ黒な捻れた金棒と、その金棒と同じ長さの木刀を手に、荷車を引いて走っている。
また金属製の細長い四角い箱を肩に提げていた。
于吉はそんなおかしな男……正しくは手に持った長い木刀を……
狩竜を……
じっと怪しげな瞳で……見つめていた。
俺がこの地に降り立ちすでに数年の月日が経過していた。
もう笑うしかない。
己の状況に笑いながら、俺は帰宅という大きな目的のために……幼女を利用するために、毎日菓子と飯を作っていた。
そして何とかちんちくりんと側近である甘やかし金髪から、ある程度の信頼を得て利用しようとしたのもつかの間……歴史が、時代が動いた。
漢王朝 後漢王朝第12皇帝 霊帝 死去
黄巾の乱によって無策、無能ぶりを存分に世へと知らしめてしまった後漢王朝。
その皇帝が死んだため、諸侯の動きが活発になったようだ。
皇帝が死んだら……次は俺だと、近しい権力者は躍起になるだろうな
詳しくはわからないが、どうやら暗殺に次ぐ暗殺でどろどろの状況になっているという噂は流れてきていた。
都はさぞ暗鬱な状況になっているだろう。
そして最終的にその暗殺劇に終止符を打ったのが董卓と呼ばれた存在らしい。
しかしその董卓の執政にも問題があったらしく……その問題が大陸に嵐を巻き起こして大陸全土へと広がって荒れ狂った。
結果として……反董卓連合の檄文が吹き荒れて、諸侯の野心に炎を吹き荒れさせた。
これぐらいなら俺も知ってるわ……
友人のゲームでも、必ず最初の分岐点となったイベント……反董卓連合軍が始まる瞬間だった。
「袁術ちゃん。私のところにこんな檄文が届いたんだけど、そっちには?」
「檄文か? 来ておるぞ」
謁見にきた褐色ポニーの言葉に、ちんちくりんは尊大に言葉を返していた。
その態度に俺はマイナスポイントを心の中で加えつつ、黙って側に控えていた。
「来たの?」
ちんちくりんの言葉に、褐色ポニーは意外そうな言葉を発していた。
それにも俺は反応を示すことなく、ちんちくりんと甘やかし短髪の反応を待っていた。
「王朝を牛耳る董卓をたたきのめすというておるのじゃろ? 正直わらわとしては行きたくないのじゃが……諸侯に送られている以上、ゆかねばならんのじゃろ?」
ちらちらと……言葉を発しながらちんちくりんはたまに俺へと視線を投じてくるが、俺はそれにも無反応を貫いた。
俺のことをちらちら見たことで、ちんちくりんが俺の反応を伺っているのだと、褐色ポニーに伝えているようなもので……褐色ポニーもどういう事なのか察した。
相手に無駄な情報を与えた事にさらにマイナスを与える。
「ま、まぁ……それは袁術ちゃんの自由じゃないかしら?」
「そう自由じゃが……いかない訳にはいかないのじゃろ、七乃?」
「まぁ後々の事を考えると、行っておいた方がいいでしょうね~?」
「めかけの娘の分際で偉そうに檄文を飛ばし、あげくあやつの下につくなど、本来は嫌なのじゃが……仕方ないから軍備を進めておるところじゃ……。……こんなのでどうかの刀月?」
「落第」
俺に答えを求めるな!
もうその時点でダメだったので、俺は声を出さずにはいられなかった。
「相手に必要以上の情報を与えちゃダメだといつも言ってるでしょ! ちらちら俺を見たり、俺に回答を求めたり……。その時点で終了だ。本日のおやつは抜きです!」
「そ、それはあんまりなのじゃ!? 妾としてはうまくやったと思うぞ!」
「どこがダメだったのか張勲殿に教えてもらいなさい! 俺が求める回答を持ってきたら……抜きは勘弁してあげよう」
「! 本当じゃな! 約束じゃぞ!」
おやつ抜き免除とあって、甘やかし短髪の元へと必至に走っていくちんちくりん。
可愛らしい容姿……美人というか、容姿が人並み以上なのは間違いなかった……とその幼さを残す仕草も相まって、庇護欲に駆られてしまう気がしないでもなかった。
そして主要な二人が話を出来る状況ではなくなったため……俺は溜息を吐きながら上座から降りて、褐色ポニーの元へと歩み寄った。
「久しぶりだな、孫策殿」
「……ずいぶんうまく手なずけたわね? 正直驚きだわ」
「頭がそれなりによく、それなりに悪知恵があっても、良くも悪くも子供だからな。やりようはあるさ」
「……そうね」
どこか遠いもの見るような目で……褐色ポニーは柄ちんちくりんへと視線を投じた。
殺すほどの憎しみはなかったにせよ、辛酸をなめさせられたのもまた事実。
しかしそれなりの時間の教育の成果もあってか……わがままは多少なりをひそめて甘やかし短髪に必死に教わっている姿には、さすがに思うところもあるのだろう。
こちらとしてはそれを狙っているので順調といって良かった。
「さて、んで? 今日は檄文見せにきただけなのか?」
「まぁそうね。袁術ちゃんのところにも檄文が来ているかどうか確認に来たのよ」
「確認?」
言っている意味がわからず、俺は首をかしげるしかなかった。
そんな俺の言うなれば「無知」な反応に、これはしたりと……嫌らしく笑みを浮かべて褐色ポニーが高説を述べてくれた。
「この檄文を各地にばらまいているのは袁紹っていう、袁術ちゃんの従姉なのよ。袁術ちゃんの事をあまり重要視してない人だから、この地域だと私に出して終わりだと思ってたんだけど……どうやら彼女も袁術ちゃんの評価を改めざるを得なかったようね」
「ほう、なるほどね」
「人ごとみたいに言ってるけど……あなたが原因だからね?」
「無論理解しているとも」
袁術の評価を改めるような施策を行わせたのは俺なのだから。
ちんちくりんと甘やかし短髪の施策は、馬鹿でしょうがないのが素人の俺にもわかったので、何とかましな施策を行わせるようにし向けたのだ。
と、簡単にいうが……これが大変だった。
施政の経験など俺自身あるわけもない。
だから何とかまともな味方を作ることに執心したのだ。
幸い、甘やかし短髪の下には何人かまともな文官もいたので、そいつらを味方につけた。
またそいつらだけではどうにも出来ないことも……俺はとある頭のいい人材に目星があったので、助言をもらったのだ。
その助言役は言わずもがな……呂蒙である。
月に一度程度は休みがあったが、しかし他は基本的に仕事に俺の菓子作りの修行だ。
とても休みだけではまともに出来ないため、数日に一度は深夜に呂蒙の寝床に忍び込んで助言をもらっていた。
暗殺でもないのに、若いおなごの寝床に忍び込むなど本来したくないのだが、やむにやまれず俺は何度も呂蒙に頭を下げた。
俺のためならばと、呂蒙は俺が持ってきた木簡をもとに、いくつもまともな施策を考えてくれた。
それを文官達と一緒に話し合ってブラッシュアップを行って、文官達に甘やかし短髪に進言させる。
その場には俺がいない状況だが、しかし甘やかし短髪も馬鹿ではない。
税収が増える施策なども盛り込んで進言させればそれなりに食いついてきた。
そして最大の関門であるちんちくりんについては……餌付けでどうにかできた。
いや、餌付けの効果も大きかったが……袁術が素直の子供だったことも大きかった……
ちんちくりんこと袁術は……確かにわがままだが馬鹿ではなかった。
自分の意見が通る上に、金も権力もあって誰も叱らないのだから、わがままに育つのも無理はない。
しかしそこは俺が餌で釣りつつ、叱ったりして少しまともな子供に育て上げた。
本来権力持った存在であるちんちくりんに進言どころか、叱りつけるなど……命がいくつあっても足りないところだが、そこは俺だ。
魅力的な食事に、絶対的な菓子の力に……たまに妖術もどきも見せて手放しがたい存在と認識させて、どうにか言葉を聞いてくれる程度の信頼は得た。
またちんちくりん自身人恋しいこともあったのだろう。
まともに叱って、きちんとしたあとに褒めてあげればことのほか喜んでいた。
それも当たり前だろう。
十前後の小娘……いくら権力の地盤があると言っても幼子に代わりはないのだ。
何故両親がいないのかはわからないが……大人に甘えたいとき、叱って欲しいと思うときもあるはずだ。
故に……いいかたはあれだが言い聞かせるのにそう苦労はしなかった。
ちょろいというと……さすがに問題だろうが……
また俺としてもちんちくりん自身嫌いではなかったのも大きかっただろう。
わがままが少し過ぎるところはあるが……それでも根は良い子だったため、俺もすっかり親代わりみたいなポジションになってしまった。
そのためというべきか……実に不名誉な蔑称をもらったりもしている。
そして檄文を持ってきた意味を理解していなかったこともあって、少し調子に乗った褐色ポニーがその蔑称を告げてくる。
「聞いたわよ刀月? あんた童女趣味だったんですって?」
それが巷で広がる俺の蔑称……悪評だった。
それも無理からぬ事だろう。
何せ暴君……とまではいかないまでも、それなりに横暴な施政を行っていた袁術を丸め込めた男だ。
しかも地位的にそれなりの位置にいる。
それにも関わらず女の姿もなく、さらに男にも興味がなさそう。
だというのに袁術を教育しながらきちんと餌まで与えている。
童女趣味……つまりロリコンと捉えられても無理からぬ事もあった。
俺はノーマルな訳だが?
もちろん褐色ポニーも本気で言ってはいない。
しかし普段良いように使われている……俺とちんちくりんに……腹いせもあるのだろう。
もうおかしさを必死にこらえた顔で言ってくるもので……一瞬その顔をわしづかみにしてアイアンクローでもしてやろうとしたのだが……。
「いいのかしら? 私は腐ってもあなたの主君よ?」
「ぐっ」
そう、これが少し痛い事実だった。
苦肉の策で褐色ポニー……孫策の命令によって客将として仕えている。
そのため、最悪いつでもここから出て行けるという立場を俺は得ている。
正直俺としては嫌になったらすぐに逃げ出しても良いのだが……しかしそうするとまずい状況になったら逃げ出す奴という悪評が出来てしまい、どこかに客将として仕えるのがとてつもなく難しくなってしまう。
白装束の連中の情報を得るためには、広い情報網が必要だ。
故に……あまり孫策に対して強硬手段をとることが出来なかったりする。
あくまで……強硬手段はだが……
「袁術」
「? なんじゃ刀月?」
「今日の飯はハンバーグで良いか? 超うまいの作るぞ?」
「!? はんばーぐか! むろん良いのじゃ! 今すぐつくってたも!」
「俺はステーキにしようかな。張勲殿は何にする?」
「私もお肉がいいですけど……さっぱりしたのが食べたいですね」
「なら冷しゃぶでいくか」
「……何その料理?」
「おやいたのですか孫策様? 用事は終えたのですから戻られた方がよろしいのでは? 周瑜様に叱られますよ?」
「……刀月~~~~」
先ほどのお返しに……じつに嫌らしい笑みを浮かべて、俺は見下すように褐色ポニーにそう言った。
ハンバーグは季節的に卵がないが……なんとでもなる。
また、しゃぶしゃぶとステーキについては肉があれば問題ない。
品種解消されてない牛故少々身が固く、サシも少ないが……それも調理でごまかせる。
今日は奮発したろ……
そしてこの場で実力行使が出来ないのはこちらもだが、あちらも同じことで……互いに頬をひくつかせてにらみあう俺たちは、実に滑稽な姿だっただろう。
「何故あの二人は互いににらみあっているのじゃ七乃?」
「さぁ? 好戦的な人たちの考えは私にもわかりかねますぅ」
そんな一触即発ともとれなくもない俺たちのやりとりを、実に間抜けな声で拍子抜けさせてしまうこの主従は……ある意味で一番やっかいな存在かもしれない。
なんとなく拍子抜けして……そもそも本気で戦うつもりは無い……肩をすくめて、俺は一度息を吐いて気持ちを切り替えた。
「それで、実際その董卓ってやつはそんなに悪政を敷いているのか? こちらとしてはあまり情報を入手してないこともあって、流れてくる噂程度でしか情報がない」
「正直……わからないの」
「? どういう事だ?」
「何度か呉の細作にも都に行かせているのだけど、戻ってきた細作がいないの」
「何?」
褐色ポニーの言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
何せ三国の一つである、呉の細作……隠密が戻ってこないというのは異常だ。
確かに天子がいる都は間違いなくこの大陸……国の中枢部だ。
黄巾党の騒動があったこともあって、厳戒態勢がしかれるのは至極当然と言えたが……しかし都は広大だ。
確かに厳戒態勢故、普段よりは侵入が難しいのは間違いないが……一人も戻ってこないというのはさすがに違和感があった。
……ということは、やはり本拠地は都なのか?
正直……敵である白装束の連中の本拠地が都であることは想像に難くなかった。
何をしようとしているのかは不明だが……しかしこれだけ広大な大陸で何かをする場合、敵にも相当な力なり財産などが必要になってくる。
それすらも超越した存在がいなくもないが……どちらにしろ元ある物を利用した方が手っ取り早いことは間違いない。
となると都……帝を利用するのが手っ取り早いことはわかりきっていたことだが、目の前のことに集中しすぎていて、俺自身が都に行く余裕がなかった。
土台固めが大事とはいえ……ちょっとさぼりすぎたか……
本来の目的である課題についておろそかにしすぎてしまったようだ。
そうなると、都に行けるというのはおあつらえ向きと言えるだろう。
俺も戦闘をすることになるかもしれないが……しかしあの白装束の幽鬼のような存在であれば、特段問題はないと言って良いだろう。
ようやく動けるというべきか……
敵の本拠地はまだ確定ではないが、都である可能性が高い。
そして俺としてもありがたいことに、大軍で進行できる。
その分足は遅いだろうが……それでも最悪あの幽鬼体があほほど出てきても、対応することが可能だろう。
問題はその間こちらの本拠地が手薄になることだが……致し方ないか
俺にとっての本拠地は、今いる袁術の都と俺の村だ。
村については兵が招集されるわけでもないため、あまり変化はない。
だがこの都については間違いなく手薄になる。
それが少々不安だったが……しかし首都に俺自身が足を運ぶことも重要だろう。
百聞は一見にしかずってな
「呉もこの連合に参加するという認識で良いんだよな?」
「えぇ。二人とも言っていたけど、ここで参加しなかったら後々どんなことを言われるかわかったものではないし……。それに参加すれば他の軍が今どういった状況なのか探りを入れることも出来るわ。それはこちらも同じだけど……こっちとしては全員が集合できる好機でもあるわ」
「全員?」
褐色ポニーの言葉がわからず、俺は首をかしげそうになったが……すぐに理解した。
呉はちんちくりんと甘やかし短髪の策略で、主立った武将は方々に散らされていたのだ。
特に褐色ポニーの妹、次女の孫権と末妹である孫尚香は軟禁状態であり、実質人質扱いをされていたらしい。
それについてはただ怒りを買うだけなので、俺はすぐにそれをやめるように指示を出しており解放されている。
次女の孫権はすでに半人前扱いだが、姉と同じように政務の仕事を行っているらしい。
故に、呉の武将が全員集まるのは久しぶりになるのだろう。
檄文を見せにきたのは最悪の場合焚きつける目的もあったんだろうな……
俺が絡んでいなかった場合、未だ妹たちが人質状態なのは想像が容易だ。
そして仮にちんちくりんに檄文が届いていなかった場合……口車で袁術軍も進軍させて呉も全部隊が集結して進行。
後々反旗を翻す際の足がかりにするつもりだったのだろう。
褐色ポニーも俺が何を考えているのかわかったのか……苦々しく笑って、溜息を吐いた。
「まぁわかってると思うけど、利用するつもりだったのよ。この状況を」
「そらな。これだけの事変。逃す奴がいたらそれは愚鈍な馬鹿だ」
「とりあえず反旗を翻すのは……あなたがいるからやめておいてあげるわ」
「それはどうも」
まだ思うところがあるのだろうが、それでも保留にしてくれているようだ。
袁術が完全につぶすつもりはなかった……潰すにしてはやり方があまりにもぬるい……とはいえ、土地を奪われて嫌がらせもされたのだ。
溜飲がたまっていないはずもない。
俺が操った……言い方があまりにもひどいが事実……から多少はマシになったとはいえ、やったことを取り消すことは出来ない。
また改善はされているので保留と言うことになったのだろう。
最悪なってもいいんだけど……
反旗を翻されて呉に敗北し、呉が統一する。
そんな未来を想像して……
あれ? こっちのが楽じゃないか?
と思ったが……しかし反旗を翻せば人が死ぬ。
そして破れた側で何とか生き延びた軍属の連中が……盗賊に落ちぶれる可能性は非常に高い。
ならばやはり争い事は防げるならば、それに越したことはないだろう。
それにその場合はどちらも国力が低下するのは目に見えている。
故に戦は少ない方が良いだろう。
再度そう思考して……俺は呉に正式に乗っ取らせる案を、頭の中から再度消去した。
まぁ、今さら放り出すのも無責任だしな……
無責任とは当然……俺の視線の先にいる、甘やかし短髪に教えを請うているちんちくりん事袁術だった。
甘やかし短髪……張勲も主である袁術に頼られて嬉しいのか、嬉々としていろいろと教えていた。
教えを請う姿が……あの村のあの子の事を何故か思い起こさせて、俺は苦笑するしかなかった。
そんな俺の様子を見た褐色ポニーは……
「……一応確認するけど、本当に童女趣味じゃないのよね?」
「子供が可愛いとは思うが……それに対して劣情を抱いたことはないわ。次言ったらぶっ飛ばすぞ?」
さすがに本気で確認した時は、殺意が沸いたので……割とマジで殺気を出して脅しておいた。
こうして時代の……歴史のうねりに飲み込まれて、俺とちんちくりん、甘やかし短髪、そして袁術軍は董卓連合軍へと参加することになった。
そして俺たち袁術軍は都を出発。
途中で呉と合流をしてから連合軍の合流地点へと向かう手はずとなっており、俺はまず呉との合流地点へと向かっていた。
そして合流地点にたどり着いたのだが……
「あなたが刀月なの!? 私は小蓮っていうの! よろしくね!」
「はぁ? よろしく。して……真名ではない名前を聞きたいだが?」
「もう、そんな堅苦しいこと必要ないわ! 刀月には特別にシャオの真名を呼ぶのを許してあげる!」
何故この幼女は好感度が最初からマックスなんだ?
合流地点にて、江都の護り以外のほぼ全軍を率いてきた呉で、まだ俺が会ったことのない連中と顔合わせをすることになった。
それは別段問題なかったのだが……何故かこの末妹である小蓮こと孫尚香にすごくなつかれていた。
不思議に思っていると……褐色ポニーが説明をしてくれた。
「この子は、末妹の孫尚香。あのわがまま放題だった袁術ちゃんを手籠めにしたのと、私を勝負で負かしたこと。それに菓子作りが得意って事で、すごいあこがれちゃったみたいなの。まぁある意味で一番女らしい子だけど……いきなり真名を許すなんて言うのは、さすがにはしたないわね」
自らの末妹に苦笑しながら、褐色ポニーは溜息を吐いていた。
俺としては何というか、何故ここまで慕われるのか理解できず、眉をひそめる程度だったのだが……
「ふーん。顔は合格だし、体つきもいいわね。よ~しがんばるわよ」
小声で呟いていた言葉が聞こえてきて……ゾクリとしてしまった。
その小声には、このぐらいの年齢の幼子にあるただのあこがれだけでなく、何というか……計算高い響きが含まれていたのだ。
そう……言ってしまえばその声には……
俺を狙い定める、「女」としての艶のある響きが確かに含まれていた。
幼女……侮りがたし……
だがそれも当然なのかもしれない。
この乱世の時代では、いつ死ぬのかわからないのだから。
故に、計算高さというのはある意味でこの時代における必須な要素かもしれない。
特に諸侯に名を連ねる人物であればなおさらか……
しかも褐色ツインロール……孫尚香は孫家の末妹だ。
上の二人にもしもの時があった場合は……自らが呉の領主となって国を治めて、後継者を残さなければいけない。
ある意味で他の連中よりも狡猾というか……計算高さが必要だろう。
少々この時代の人間達を見くびっていたことに気づかされたため、俺はこの褐色ツインロールに対して心の中で礼を言っておいた。
といっても……
「ところで、刀月」
「? なんだ?」
ちょいちょいと、小さく手を振って俺をかがませて、褐色ツインロールが耳打ちしてくる。
「シャオにも後でお菓子……食べさせてね?」
と、実に幼子らしい一面も見せてくれた。
その二面性を持っていると思えてしまうこの幼女に半ば絶句しかけたが……苦笑しつつうなずいて見せた。
「なんじゃ刀月。お主まさか本当に童女趣味だったのか? そうなると確かに儂や策殿、それに冥琳を前にしても、下卑た目線を向けてこなかったのも納得よな」
「ぶっ飛ばすぞ、黄蓋? 孫策にも言ったが俺にそういう趣味はない」
後方から快活に笑いながら言ってきたのは……褐色妖艶の黄蓋だった。
その手には酒が握られており、すでにある程度酔っているようで、血色良く実に愉快に俺をからかってくる。
「はっはっは! まぁそう怒るな。儂としてはある意味で安心したぞ? 儂ら三人を前にしても全く男らしい反応をしなかったからの、お主は。故に女に興味がないと思っておった位だ」
「別段女に興味がない訳じゃない。ただ俺自身今余裕がないから、男女うんぬんの面倒事はごめん被りたいだけだ」
「なんじゃ、ただ甲斐性がないだけだったか!」
「おい周瑜。この酔っぱらいどうにかしてくれ」
「……すまん」
だいぶできあがっている黄蓋に俺は辟易したのだが……しかし周瑜としても頭が痛いのか、額に手をやって目元に皺が出来るほどに目を強くつむっていた。
そんな俺と周瑜には目もくれず、褐色妖艶は豪快に笑っているだけだ。
一瞬ぶっ飛ばしてやろうと思ったが……酔っぱらいを相手にしても無駄なので、俺は溜息をついて褐色ポニーに他の人物を紹介してもらうことにした。
といっても、もう残り二人しかおらず……その二人は……
「……次女の孫権よ」
「蓮華様の側近の、甘寧だ」
うわぁ~~~、もう聞くまでもなく不機嫌というか、憎んでますよオーラが半端ない……
たったの一言で終わって会話にもならなかった。
長女である褐色ポニーは例外として……次女と三女で実に俺に対しての好感度の差違が大きい。
しかしこれについてもある程度理由は察せられるので、こちらとしても何も言えなかった。
孫権の態度については褐色ポニーも苦笑するだけだった。
身内に甘いというか……致し方ない部分も多々あるので、俺は特段何かを言うことはしなかった。
というか、正直不機嫌や憎しみでこちらの邪魔をしてこないのであればどうでもいい
俺を憎く思っているのはちんちくりん……袁術に対する報復の場を奪ったことに他ならないだろう。
また、呉を復興させるために頑張っていたというのに、ちんちくりんがいる状況での復興だ。
出来れば血縁者や、近しい者だけで呉として取り戻したかっただろう。
何よりも……自分たちの手で。
しかしそこは国力を低下させないことを優先して、俺が吸収ではなく合併させる事を選ばせた。
本当の脅しではなく、一応自注的にこの合併という選択肢を選ばせることが出来たのは、本当に運が良いことにちんちくりんと甘やかし短髪が、本当に「ちんちくりん」で「甘い」やつらだったためだ。
呉が恐ろしかったということもあって、半ば飼い殺しの状態にしておいた。
それが功を奏したというところだろう。
もし中途半端にもっときついことをしていたら、さすがの俺も合併を選ばせることは出来なかっただろう。
仮に家臣の一人でも殺していたなら……完全な憎悪を抱いて殺戮を用いた謀反という形にならざるを得なかっただろう。
本当に……俺もこいつらも運が良いのか悪いのか……
そしてそんな俺の気苦労……正直菓子を作るのに苦労しただけであまり苦労らしい苦労はしていないのだが……も知らず、ちんちくりんと甘やかし短髪は、のんきにお茶を飲んでいた。
「刀月~。まだ顔合わせはおわらんのかえ? はやく本日の菓子を持ってきてたも」
「やることがまだあなたにはあったでしょ? それやってから」
「む~~~~。わかったのじゃ。七乃、手伝ってたも」
「は~い!」
行軍とはいえ、内務がなくなるわけではない。
それを終えてからご褒美の時間というのはすでに話をしているので、実に素直にちんちくりんは政務を行い始めた。
甘やかし短髪と一緒なら恐らく問題はないだろうが……さすがに俺自身も目を通さないわけにはいかないだろう。
といっても、俺も内政に詳しいわけではないので……ぶっちゃけ部下に丸投げするのだが。
「大丈夫だとは思うが……後で確認をして俺にも内容を教えてくれ、ノブ」
「それは別にかまわないですが……いつも言っているように私の名前はノブではないんですが……」
俺の後方に控えていた文官……ちんちくりんの下で文官をしていた奴であだ名はノブ。
内政関係の事務仕事に関わっていた一人で、元々は庶民の出らしくかなり冷遇されていたのだが、庶民の出故に民のための執政を行えることで俺が頼っている人物である。
給金はほとんど仕送りでなくなるらしく、男の割には線が細く、なよなよしい印象を受けるが、仕事がめちゃくちゃ出来るので、そんなことはどうでもよかった。
そのため、たまに俺が差し入れ……餌付けとも言う……することで、恩義を感じさせるという、実に外道なことを行っていたりする。
「刀月様! お疲れ様です!」
「おう、呂蒙も。お疲れ様」
「お疲れ様です~。刀月さん~」
俺の部下だった呂蒙と共にやってきて、実にのんびりした口調で話しかけてくるのは、おっとり眼鏡の陸遜だった。
何でも、呂蒙は現在おっとり眼鏡の元で修行をしているらしく、日々夜遅くまで勉強をしているらしい。
そんな状況であるにもかかわらず、呂蒙には俺のために骨を折ってもらった事もあって、正直最近マジで頭が上がらなくなってきた。
そのため、俺は調理のさいにある程度砂糖を横領し……これはマジで横領しているので、ばれたらまずかったりする……呂蒙に夜食の差し入れを渡していた。
最初は断っていた呂蒙だったが、しかし好物である甘味の……しかも俺の菓子の誘惑には勝てなかったらしく、最近では結構楽しみにしている様子だった。
夜食に甘い菓子というのは、女性に渡すのは少々あれかと思ったが……しかしこの時代は、生きること全てが運動なのだ。
ひねれば水が出る蛇口はなく、井戸から水を汲む、川から水をくみ上げる。
移動手段は馬か徒歩。
さらに戦闘訓練もあるため身体は動かしているので、太る心配はなかったようだった。
「どうだ呂蒙? 少しは軍師としての自信はついたか?」
「いえ! 私なんてまだまだです!」
「そんなことないですよぉ~。亞莎ちゃんは~ものすご~~~く、頑張ってるえらい子、なんですよぉ」
謙遜する呂蒙に対して、おっとり眼鏡は相も変わらず間延びした口調で、呂蒙の頭をよしよしとなでていた。
そんなおっとり眼鏡に対して直立不動で顔を真っ赤にして、呂蒙は勢いよく首を横に振った。
「い、いいえ! 私なんてまだまだです!」
「謙遜なんてしなくていいですよぉ~。少なくとも私は~、亞莎ちゃんの事をすごく頼りにしてますからねぇ~」
「そ、そんな! 恐れ多いです! 陸遜様!」
「む~~~~。そんな他人行儀な呼び方はいつもメッって、いってるでしょ~? 気楽に穏って、呼んでください~」
相も変わらず気が抜けるおなごだなぁ……
おっとり眼鏡の言葉には、肩の力を抜けさせる幻術でもかけられているのではないかと思わせてしまうほどに、なんか気が抜ける。
しかし真名を呼ぶことを許されるとは……さすがは呂蒙と言ったところか……
「呂蒙ががんばりやなのはよく知ってるよ」
この中ではもっともつきあいの長い人間であり、俺も強く信頼している存在だ。
さすがは歴史に名を残した存在だけはあると言える。
助の見立ては間違っていなかったということだろう。
「そうです、亞莎は固いのです。もっと自然にしてればいいと思うのです!」
頭を撫で撫でと、なすがままの呂蒙の陰からひょっこりと顔を出したのは、尾行娘の周泰だった。
「で、でもでも明命。私はまだ新参者で、皆様の真名を呼べるような貢献はまだ出来てないです!」
「そんなことないです! 亞莎はとってもがんばりやさんで、この前も冥琳様が亞莎が提案した施策のこと、良くできてるって褒めてたのです!」
「え、えぇ!? そんな、嘘ですよ!?」
おぉ、結構仲良いな
年が近いこともあるのか、それとも呂蒙からしたら初期の頃に知り合ったためか……言葉こそ丁寧な口調だが、互いに信頼しているのが目に見えた。
尾行娘と呂蒙は楽しそうに会話を続けている。
俺の村では立場的に年の近い娘であっても、俺の副官として施策を行っていたこともあって、あまり友人として接することが出来なかった。
その辺は余裕がなかったため、呂蒙には悪いことをしていたと思っていたのだが、新天地ではそれなりに仲良くできる存在が出来たようで何よりだった。
「そうじゃぞ亞莎。儂もお主の施策、軍略には光る物があると思っておる。未熟なところはあるが、それでもあの冥琳ですら太鼓判を押したのじゃ。もっと誇って良いのじゃぞ? そういつまでも固くなるな」
「黄蓋は、もう少し慎みというか規律つーか、TPOをわきまえてだな」
「てぃーぴぃーおー? なんじゃ、それは?」
「済まん、間違えた。時と場所と場合を考えろ」
これから大戦に行くというのに、何故か和やかに自己紹介が進んでいく。
こちらとしては、呂蒙が呉でうまくやっていけそうなのを知れて、正直安心できた。
まぁ正直なところ……俺の元に来て欲しいというのが本音なのだが……
「さ~て。自己紹介も済んだことだし……そろそろ出発しましょうか?」
弛緩しかけた空気を、褐色ポニー……孫策が軽い感じで言葉を発して、引き締めた。
軽い感じで言葉を言ったというのに……その言葉には間違いなく力があった。
皆を黙らせるほどの、気迫が。
これがカリスマって奴か……
さすがは一国の王。
それも乱世の王の言葉だ。
ただ普通に言葉を発しただけだというのに、自然と黙らせたその言霊と気迫は、まさにカリスマと言って何ら差し支えはないだろう。
「これより諸侯が集った合流地点へと向かうことになるわ。冥琳。改めて董卓連合に参加する諸侯の情報を皆に伝えて」
「まずは発起人である袁紹。そして北方の雄である公孫賛。中央より距離を置きながら勢力を伸ばし続けている曹操」
曹操はわかるが……妙手娘の評価も「雄」と称するほどに高評価なんだな
以前にあったときはわからなかったが、どうやら妙手娘は騎馬隊の指揮が群を抜いているらしい。
何でも長い期間異民族を相手にしてきた実力は折り紙付きで、なんとあの関羽が認めた涼州馬家の当主である馬騰の騎馬隊と互角の実力を有しているらしい。
俺自身が一個人の兵士であるため、妙手娘個人で判断してしまったが、妙手娘が真価を発揮するのは騎馬隊での戦のようだ。
当たり前と言えば当たり前だが……この時代の戦は俺が知っている戦争とは違う。
俺も初心者だ。
学ぶことは多いだろう。
そして何より……個人だけで判断するのは早計であると、思い知った事でもあった。
「そして前の乱で頭角を顕した平原の相、劉備。他にも涼州連合などが参加している」
ほう……さすがは劉備といったところか……
懐かしい名前を聞いて、俺は心の中で感嘆していた。
確かに歴史的人物のため、そのうち台頭してくることはわかっていた。
だが実際に耳にすると感動も違う。
それも呉の大軍師に直々に注意人物と名を挙げられていればなおさらだった。
あの素人娘がねぇ……
馬鹿にしたわけではなく……純粋にすごいと思っていた。
あいつも頑張っていたという証左なのだから。
義勇軍から出立した存在が、今や諸侯に数えられるほどに、勢力を拡大しているのだから。
そして……その側にいるはずの、ナナの存在を俺は思い出す。
もう治っていると良いのだが……
さすがに陣営が違う状況で気軽に文など交わせる訳もなく、また俺自身忍び込む余裕もなかったため別れてからナナがどうなっているのかはわからない。
三人娘について行ったのだからあまり心配はしていないが……様子を見るまで不安に感じるのは無理からぬ事だろう。
「すでに後漢王朝が死に瀕している今だからこそ~、飛躍にはもってこいと言えるわけですね~」
いつもと同じ口調であるにもかかわらず、先ほどよりは気が抜ける感じがあまりしなかった。
おっとり眼鏡もやはり戦場だと気を引き締めるのだろう。
「さて……その中でいったいどれだけの諸侯が生き残れるのかしらね……」
舌なめずりをするかのように、実に怪しく……そして鋭く言葉を漏らしたのは孫策だった。
さすがこの中でもトップクラスの強さを持っている孫策だ。
本人が戦う事を好いている武人であることも相まって……その声には聞いた者の背筋をひやりとさせる、重厚だが鋭い殺意があった。
「特に注意すべきは人材、資金、兵力……全てを潤沢に用意している曹操だな」
あ~~~~まぁそら出てこないわけないよねぇ……
褐色知的眼鏡が曹操の名前を挙げて……俺は内心で溜息を吐くしかなかった。
以前にあったときの事を思い出したからだ。
あの時は、乱世のあまりに荒んだ現実を目の当たりにしていたこと、さらに俺自身食料的にあまり余裕がないこともあって喧嘩を売ってしまった、三国の一つ……魏の曹操。
俺の知識は以下略なので……どのような行動をするのかはほとんど知らないが、これだけの大きな出来事に出てこないはずがない。
なるべく顔を合わせないようにすべきだろう。
まぁ最悪会ってもどうとでもするが……
ただ、曹操の側にいる北郷の事は少し気がかりだった。
以前見た様子では重用されているようだったが、へまをしていなければよいのだが。
そして……俺と同じく未来の知識を持っているという、要注意人物と言って良い……
北郷がどれくらい三国志について詳しいかはわからない。
俺と同程度であれば良いが……俺よりも詳しいと考えて行動すべきだろう。
まぁあいつがどこまで歴史的に介入する行動をするかは不明だが……
タイムパラドックスを気にするようには思えない。
俺はまだ力があるが、あいつは自分の命を守るほどの実力はなかった。
なら生きるためには自らの強力な武器である……未来の知識を活用しないわけがない。
「冥琳としては曹操だけなのね。でも私は……もう一人、気になっている子がいるのよ」
「劉備だな?」
「えぇ。義勇軍の大将が今では平原の相に成り上がっている。天の時を得ていると言っても良いと思うわ。配下も勇将、知将がそろっているって聞くわ」
そらそうだろうな……劉備だし……
孫策の観察眼に俺は舌を巻きながら……未来で知り得ている限りの知識を思い出す。
ゲームでも必ず出てくる古今無双、一騎当千の猛将と言われる趙雲。
そしてよくネタにもされるが、この時代にしてはあまりにも規格外な才能を持つ軍師、諸葛亮。
他にも多数の武将がいるようだが……俺の知識は以下略……もっとも注意すべきはこの二人だろう。
まぁ俺はこの二人が、董卓連合の時点ですでに劉備のところにいるのかは知らないけどね……
俺の知識は以下略。
「この後のためにも、一度話しておかないとね?」
「そうだな。今回その機会を作るとしよう」
「それなら俺が作ろう」
話を区切るのもあれかと思ったが……素人娘に会いに行くというなら力になれるため、俺は一応挙手をしつつ、そういった。
まさか俺から発言するとは思っていなかったのか、褐色ポニーに褐色知的眼鏡だけでなく、呉の将全てが俺へと視線を向けてくる。
「劉備とはほんとに数日だが旅をしたこともある。また俺は義勇軍に何度か従軍したことがあるからな。劉備、関羽、張飛、それに公孫賛と馬超と馬岱なら面識はある」
「あら? 刀月そんな経歴もってたの?」
褐色ポニーが俺に意外そうな視線を向けつつも、一瞬だけ呂蒙へと視線を向けたのを俺は見逃さなかった。
おらく呂蒙の反応を見たかったのだろう。
「わ、私も知りませんでした」
ただ当然、呂蒙と会う前の出来事のため、俺が三人娘なんかと知り合いなのを、呂蒙は知らない。
忙しさにかまけて話してなかった俺が悪い。
呂蒙に矛先が向かないようにしなければいけないだろう。
「呂蒙と知り合うずいぶん前で話したことはなかったな。俺が最初に知り合ったのは劉備、関羽、張飛。その三人が義勇軍に参加すると言うことで、公孫賛のところで世話になったことがある。そのとき客将として馬超と馬岱がいたんだ。その後何度か義勇軍に従軍したってかんじだな」
「公孫賛の州に……。それに義勇軍に……従軍……!?」
俺の言葉を聞いて、何か考え事をしていた褐色知的眼鏡は何かに気づいたようにハッとした。
「まさか噂話の土木怪人と、義勇軍の初期にいたという……医療と飯の達人というのは、刀月のことなのか!?」
何だよ、土木怪人って……
褐色知的眼鏡からのあまりにも頭の悪い単語に、俺は思わず顔をしかめる。
しかしそんなことなどあちらとしては気にならないほどに驚いているようで、褐色知的眼鏡は目を大きく見開いていた。
「何それ?」
どうやら褐色ポニーも知らなかったようだ。
それは褐色妖艶も同じようで、二人は褐色知的眼鏡から飛び出てきたあまりにもあまりな単語に、別の意味で驚いている様子だ。
だが他の連中……呂蒙に尾行娘、おっとり眼鏡、さらに次女の褐色ロング達は、俺のことを信じられない物を見る目線を向けてくる。
あ、なんかこの陣営の事がわかった気がする……
驚かなかったのは生粋の武人。
驚いたのはきちんと内務をしている連中。
反応を示さない褐色ツインロールと褐色襟巻きは知らなかったのか、興味がない……というところだろう。
「一時だけ噂になったことがある。突然公孫賛が治める州に訪れた謎の男。その男は百人は必要な巨石を一人で楽々と持ち上げて目にもとまらぬはやさで動き、深い森をたった一人で半日と経たず丸裸にしたという。また他に義勇軍の兵の命を幾人も救い、従軍中の食事を、団らんの場に出来るほど改善したという兵士がいたと。兵士の方はまだ納得出来るが……土木怪人はただの作り話だと思っていた。まさか、どちらも実在していた上に、同一人物だったとは……」
あまりの驚きに普段の知的美人ぶりが台無しになるほど目を見開く褐色知的眼鏡に、俺はうんざりした面持ちで、溜息を吐くしかなかった。
「いや、噂に尾ひれがつくのは世の常だが……いくら何でも盛りすぎだろ? 岩はせいぜい三十人もいれば持ち上げあられるし、森全体を開墾したことはない」
確かに常識から考えれば俺が公孫賛のところで行った工事の光景は異様だっただろう。
だがあまりにも盛られすぎていて俺からしたら失笑するしかなかった。
ちなみに、褐色ポニーが言っていた尾ひれついている盛られ過ぎたことも、やろうと思えばどっちも出来る。
そしてどっちもしたことが、すでにあった。
俺の村が村になる前に……
「否定するということは……本当に噂になっていた土木怪人なのか?」
だから何だよ、怪人って……
「まぁ……怪人かどうかは知らないが、公孫賛のところで土木工事に従事してたよ。前にも伝えたと思うが、俺は戦闘行為はしたくないから従軍には当初参加しなかったんだ。その間土木工事の手伝いをしていた。そのうち従軍せざるを得なくなったんだが、戦闘はお断りだったので、医者と料理人として従軍していたな」
俺の意外な経歴に、皆一様に驚いているようだった。
だがしかし尾行娘と褐色ポニー、そして呂蒙は俺の非常識ぶりを知っているためか、他よりは驚いていない様子だった。
「その後はしばらく東に向かっていって……あぁ、そういえば曹操に配下に加われと言われて断ったことがあったな」
「……ちょっと待て刀月。まさかとは思うが……噂の夏侯惇投げ飛ばしの男も、お前の事なのか?」
「まだあるの!? 冥琳!?」
「あぁ、雪蓮。その男は曹操の勧誘を断るだけでなく、斬りかかってきた夏侯惇、さらに射貫いてきた夏侯淵の攻撃を物ともせずに防ぎ、あまつさえ夏侯惇を剣事投げ飛ばして逃げていったらしい」
噂多くないか?
と思うところもなくはなかったが、しかしこの時代噂話というのは馬鹿に出来ないことは、俺自身痛いほど体験している。
しかも一部間違っているとはいえ、あながち大きくずれてないところが恐ろしいところである。
だがあまりにも頭の悪いネーミングに、俺が頭を痛めるのは無理からぬ事だろう。
そしてまた、周りの連中が本気で驚いているから居心地が悪くなって、さらに頭が痛くなる気持ちだった。
あぁ……帰りたい……
色んな意味で。
「っていうか、曹操とも会ったことがあるだけじゃなくて、仕官を断ったこともあるの? あなたって……話題性が飛んでるって言うか、はっちゃけてるわねぇ」
「やかましいわ!」
その通りなのだが……なんか言われると腹立つので思わず反論してしまった。
各々が俺に対して実にわかりやすい反応……呂蒙は、目を点にしながら呆けており、褐色ポニーは苦笑しつつも愉快そうに、褐色知的眼鏡は信じられない物を見る目で見てきて、褐色妖艶はおもしろおかしそうに爆笑、おっとり眼鏡は口を開けて面白そうに笑っており、尾行娘は純粋に驚き、褐色ツインロールは目を輝かせ、褐色ロングと褐色襟巻きはなんか汚物を見るような目を向けてきている……をしていたが、面倒だったので特段何もしなかった。
実際にいくつか出来ることはあるのだが、しかし俺は医者でないことだけは後で説明しておく必要があるだろう。
未来知識の応急処置が出来れば立派に医者と名乗れなくもないだろうが、俺はこれ以上面倒事を増やしたくはなかった。
「刀月! こちらの準備と仕事はおわったえ! 早く戻ってくるのじゃ!」
どうやら長話が過ぎた用で、しびれを切らしたちんちくりんがこちらに向かってくるのが見えた。
褐色ポニーもそれを見て、一度咳払いをして……気合いを入れたのか、号令をかけた。
「この戦いで、我らの知勇兼備を見せつけねばならない」
「しかも、兵力の損失を最低限に抑えてという条件付ですね~」
褐色知的眼鏡とおっとり眼鏡。
二人の軍師からの言葉に大きくうなずいて褐色ポニー……孫策が、号令をかける。
「ではこれより、進軍する!
「「「「「「「「応!」」」」」」」」
こうして……俺は董卓連合の合流地点へと進軍を開始した。
知っている○か雷電
みたいな回でしたw
元ネタの漫画は読んだことないんですけどね~