今回短め
入れ墨娘を捕らえ味方に引き入れた呉……というよりも俺。
そしてその後尋問というか、洛陽の状況について質問をするのだが、どうやら内政にはほとんど関わっていなかったらしく……ぶっちゃけろくな情報を入れ墨娘は持っていなかった。
だが……俺にとって何よりも貴重な情報を有していた。
黒幕の一味の一人である、于吉の外見情報だ。
眼鏡をかけており、背丈は俺と同程度らしい。
衣服は幅広の衣服で、色は黒を基調にしているとのこと。
また先ほど入れ墨娘が暴れるのに使った異物も渡してもらった。
すでに力を使い果たした後であり、力はほとんど残っていなかったが……一つ重要な情報を入手することが出来た。
……黒い陰の気配に似ているな
異物であった小石……その中には微かだが、冬木で相対したあの黒い陰の気配に似た物の残滓があった。
だが幸いなことに、使用後ということを差し引いても黒い陰よりも遙かに弱々しい気配だった。
これはかなり重要な情報だと言って良かった。
少なくともこの世全ての悪が出てくるような事態には陥らないということだ。
冬木では孵化する前に殺せたから良かった物の……もしも孵っていたならば間違いなく俺はこの場にはいないだろう。
于吉とやらがこちらを油断させるため、そして俺の実力を測るためにこんな手段に出たのではないかと思わなくもないが……それにしてはやり方がちぐはぐすぎる。
油断は出来ないな……
しかし万が一、この世全ての悪が自由自在に使えないまでも、黒幕の手中にあった場合の事は想定しておかなければならない。
入れ墨娘の異物に関しては、呉の陣営だけでなく、ちんちくりんも異物を察知していた。
となれば、恐らく今後はこちらの方面についても動きやすくなるだろう。
基礎は出来た……ならば後は動くだけだ……
この世全ての悪ほどの脅威かどうかはわからないし、恐らく下だと思われるが……冬木と同等だった場合は同じ手段で対応するしかない。
しかも今回はバックアップがない。
動かないわけにも行かないが、しかしそれでも動く際は慎重に動く必要がある。
実に面倒な状況といってよかった。
そして……もっとも面倒なことが一つ。
未だ敵の目的が明確にわかってない。
俺を殺すつもりなのは道化ガキの言動から言って間違いない。
しかし何故俺を殺すのかという理由がわからない。
白装束の幽鬼体にしても、いきなり出現して俺を殺しに来たのだ。
となると間違いなく俺自身が目的と言うことはないだろう。
俺を殺して亡骸を利用するという考えもなくはないが……今回の収穫は他にもあった。
異物の存在に反応した、狩竜だ。
入れ墨娘が異物の小石を使用した際に、一瞬だけ反応した狩竜。
それに少し驚いていた俺だったが……しかしその反応で確信を得たと言って良い。
封印されていた狩竜が……目覚めたのだから。
この世全ての悪に類似したナニカがあるのは間違いない。
狩竜が封印を破ったのか……それとも狩竜の封印を破られたのかは俺にはわからない。
可能な限り前者であると信じたいが、決めつけは危険だ。
最悪の事態を想定して動くようにする必要性があるだろう。
しかも封印が破れたといっても一瞬で……悲しきかな、狩竜を抜刀することは出来なかった。
めんどくさいなぁ……
こう、ちまちました動きというのは実に俺好みではなく、面倒だと思えてしまう。
しかし組織に属している以上、よほどの緊急事態でもない限り何もかもが思い通りになるわけではない。
今もその状況だ。
今は洛陽に向けて行軍中だが……間違いなくほとんどの痕跡は残されてないだろう。
だがそれでも……もしも万が一にあるかも知れないという思いは捨てきれない。
そのため正直言って今すぐ全ての能力を行使して、洛陽に単身で突貫したいというのが本音なのだが、軍事行動中のため出来ない。
故にこう……普通に行軍している状況というのは歯がゆさを感じてしまうものだった。
まぁ後続だし、これ以上目立ちたくないというのも当然だから致し方ないと言えば致し方ないのだが……
前衛として攻めていた曹操軍に袁紹軍が先に突撃するのは当然だった。
それに対して呉は入れ墨娘の尋問やら勧誘やらで出遅れたため、後続の方となってしまった。
そのため洛陽にある書物や地図などを手に入れることが出来ないため、褐色知的眼鏡はかなり残念がっていた。
俺としても情報が欲しかったため、一人で突貫することも一瞬脳裏をよぎったのだが……さすがにあまりにも勝手が過ぎるため諦めた。
また、俺の能力をそこまで見せるのも得策ではないと判断したこともあった。
さらに言えば……
「恋殿、みんなは無事でしょうか?」
「うん……。きっと、だいじょぶ」
引き入れた張本人がこいつらをほっぽってどっか行くわけにも行かないしな……
武勇があるとはいえ、まだ入れ墨娘とパンダ帽子はこちらの陣営に信用されていない。
普段は喜ぶべきところだが、今回においては面倒なことに、入れ墨娘の武勇を押さえ込むことが出来るのは俺だけだ。
こいつが裏切ったり暴れたりするとは思えないが……しかし先ほどの異物のこともあって、周りの連中も内心は怖がっている可能性が大いにある。
この状況でいくら俺が問題ないと言ったところで信じる方が無理という物だろう。
この二人の面倒を見るという意味でも、離脱は難しい物だった。
だがこれはこれで好都合という物だろう……
もしかしたらまた異物が発動して、あの猛獣と化すかも知れない。
そうなると俺から入れ墨娘を引きはがすのは難しいという事になる。
ならば必然的に俺の部下として扱うことが出来るだろう。
そうして俺が取らぬ狸の皮算用を行っていると……ようやく洛陽へとたどり着くが、争った形跡がまるで無かった。
「? どういう事かしら?」
争った形跡がない……つまり戦がなかったということ。
本拠地まで攻めてこられた董卓が、連合軍を迎撃しない理由がない……と考えるのが普通であり、褐色ポニーが怪訝な声を上げているが、戦がなかったのはある意味で当然といえた。
黒幕が逃げたんだから、操られたないし利用されていた連中も逃げるわな……
道化ガキと不意打ち卑怯者が逃げたのだから、抵抗らしい抵抗をしようにも出来ないといった方が正しいだろう。
どのように操られていたのかはわからないが、本意ではないことはほぼ間違いないだろう。
入れ墨娘の利用の仕方からしても、ろくな扱いをしていないことは容易に想像できる。
良くも悪くも名前が売れているというのは、咄嗟に動きづらくなるのがよくわかる。
しかし俺も今回の戦で諸侯にも名を知られただろうしなぁ……
戦端が開かれていた戦の真っ最中に、存在全てを凍り付かせた異物を使用した入れ墨娘の咆吼。
そしていくら連携のとれていない寄せ集めの軍が二つとはいえ、たった一つの部隊……一人の将が力任せに軍を突破した。
そして突破してきた異常な将を……己自身全く傷を負わず、そして負わせずに捕らえた男。
これで俺という存在に少しも興味を持たない存在がいたというのなら……それはただの大馬鹿野郎でしかないだろう。
仕方ないとはいえ……面倒なことになったなぁ……
しかし俺が生活基盤を整えている間も何もしてこなかった黒幕がついに動いたという事実は大きい。
そしてその目的もある程度絞ることが出来た。
といっても正直な話、歩き始めた程度の収穫でしかない。
何もわかっていなかった状況から考えれば、大きな一歩と言っていいかもしれないが……味方だけでなく周りの連中にも俺の力を示すことになったため、総合的には確実にマイナスだった。
まぁやっちまったもんはしょうがないが……
一度大きく息を吐き捨てて、俺は思考を切り替えた。
そして現況を確認する。
どの部隊も迎撃に出てこない董卓を警戒してまだどこも洛陽へと入っていない。
これ以上目立ちたくないというのが事実だったが……しかし洛陽に潜入するのは実に魅力的な事が多い。
またこちらとしては入れ墨娘との約束も守らなければいけない。
「孫策……頼みがある」
「何かしら? といっても……まぁ予想できるけど」
「だろうな。呂布との約束を果たしたい。潜入することは可能か?」
俺の言葉に褐色ポニーだけでなく、褐色知的眼鏡も同じように考え込んだ。
目立ちたくないのは事実だが、しかし他の諸侯も同じように洛陽の城門を前に陣を敷いているだけで動きはない。
無論潜入部隊を送り込んでいることは送り込んでいるだろう。
異物のこともあって慎重にならざるを得ないからだ。
だが、異物がもう無いとほぼ確信できているのは俺だけだ。
ならば俺が直接侵入すれば良いだけの話。
そして友達の安否を確かめたい入れ墨娘も連れて行けば、入れ墨娘が暴走した場合の対処も可能だ。
そして、俺と入れ墨娘だけでなく、俺の身の潔白を証明してくれる存在が必要だ。
「確かに……このままでは埒が明かないわね」
「斥候を出すのは賛成だ。だが刀月だけで行かせるのは得策ではないな」
おっと、渡りに船だがちょっと警戒されているな……
俺の武を初めて見たこともあるのか、褐色知的眼鏡が俺に厳しい目を向けてくる。
そしてその提案は俺としても願ったり叶ったりだったので、別段抵抗する気もなかった。
「問題ないとは思うが、呂布の友達の安否の確認は可能な限り急ぎたい。俺としては……足の速い周泰に来てもらえるとありがたい」
「……いいだろう。明命、頼めるか?」
「御意!」
おぉ……公私の切り替えというか、仕事モードと言ったところか?
戦場のため当然といえば当然だが……キリッとした表情をしている尾行娘に思わず俺は感心した。
そして手早く潜入部隊を選抜し……俺と尾行娘、入れ墨娘に数人の部隊員を引きつれ、俺たちは洛陽へと潜入した。
そしてすぐさま入れ墨娘の館へと向かったのだが……
前言撤回!
「はぅぅぅぅ!? お猫様! お猫様が私に寄ってきてくれます!」
本当に入れ墨娘の友達は動物たちだった。
そしてこれは運の良いことだが、犬や小鳥に子猫といったいわゆる小動物達ばかりで、大きな動物がいなかった。
これなら俺の給金だけでも十分に食費がまかなえるレベルである。
そして、もっとも懐いているセキトとやらの犬と共に出てきた子猫に、先ほどまでのキリッとした姿はどこへやら……尾行娘はまさに骨抜きになっていた。
本当に好きなんだねぇ……
と思いつつも、俺も小鳥やら子犬や子猫が寄ってきて、興味津々で匂いを嗅がれたりしていた。
「みんなが……なついてる」
「まぁ……悪い奴じゃないからな。この子は」
「違う……お前も」
「俺も? まぁ……俺も極悪人ではないからな」
理由は間違いなく、俺の左腕に宿った老山の力のおかげだろう。
最初こそ制御できず動物……というかモンスターにずいぶんと恐れられた俺だったが、ある程度制御できるようになったので動物としては安心できる存在なのだろう。
この力もあって、俺は自らの村を築く際に動物の世話をするのも結構楽が出来ていた。
「……名前」
「?」
「名前、教えて」
「いや、さっきも教え――まぁいいか。姓は入寺、名を刀月。呉で世話になっている。以後よろしく頼む、呂布」
恐らく先ほどまではあまり興味がなかったのだろう。
もしくはまだ警戒されていたか。
しかし友達が俺に警戒することなく近寄ってきたこと、そして俺がそれを邪険に扱わなかった事が決め手になったのだろう。
そして興味が出たから再度名前を聞いてきた……といったところだろう。
しかしどうしてこう、この娘は一言二言でしか言葉を発しないんだ?
「恋……」
「は?」
一言二言でしか話さないので、意思疎通が少々面倒だと思っていると……さらに面倒事になりそうな事を入れ墨娘が言ってくる。
尋問前に軽く自己紹介をした程度であり、俺の知識は以下略で俺は呂布の字等は知らない。
だが、「恋」というのは俺に立ち向かってきたパンダ帽子が呂布を呼んでいた名前であるため……その時点で「恋」という言葉が真名であることは容易に想像できた。
そしてこの状況で真名を打ち明けてくると言うのは……真名呼びを許すと言うことに他ならないだろう。
「恋って……呼んで」
ですよね~
他の連中は軒並み俺自身が真名呼びを断っており、さらに俺自身に真名がないことを言っているので、俺は誰にも真名呼びの許しを得ていない。
というよりも恐らく俺が真名を呼びたがらない事を知っているのだろう。
もっとも付き合いが長く、かなりの信頼関係も構築している呂蒙ですら俺は真名で呼んでいないのだ。
入れ墨娘については戦の最中だったこともあって、悠長に自己紹介をしている余裕がなかった。
「いや……俺はすまないが俺自身真名を持ち得ていない。遠くから来た人間なのでな。故に他の連中も真名を呼ばないようにしているんだ。故に、今後も呂布と呼ばせてもらう」
「……わかった」
残念そうに顔をしかめていた入れ墨娘だったが……案外すんなりと俺の要求を聞き入れてくれた拍子抜けした。
呼ぶつもりはさらさら無いが、仮に俺がパンダ帽子の前で真名呼びをしようものならどうなるか……想像に難くない。
またぞろ面倒なことに、パンダ帽子が無謀にも俺に突っ込んでくること間違いなしだろう。
一応味方になった幼子相手に……あまりひどいことはしたくないが、またぞろ馬鹿なことをしでかさないためにも、教育する必要性はあるだろう。
俺以外に突っかかったら殺される可能性もあるからな……
ちなみにこの場に何故パンダ帽子がいないのかというと……黒幕の連中がまだいる可能性が拭えなかったので、強制的においてきたのだ。
付いてこようと必死だったが、最終的には入れ墨娘自身に説得させた。
そして予想通り董卓は逃げおおせた後で、また黒幕の連中も逃げているためいないようで特段襲撃とかもなく……今回の反董卓連合については終わりを迎えた。
この戦における呉の収穫は、合併した後に軍事行動を行ったこと。
そして入れ墨娘こと呂布を味方に引き入れた……おまけにパンダ帽子の陳宮……こと。
このくらいだろう。
だがそれでも十分な収穫と言って良い。
最上でも最良でもないが……及第点はいっていると考えられた。
そして……俺としては大収穫だった。
道化チビは背格好に戦闘能力、もう一人は声のみに外見情報だけだが……情報皆無よりは遙かにましだ……
その代償として俺自身の戦闘能力も明かしたことになるが……大した問題にはならないだろう。
幸か不幸か、俺はまだ全力を出して……正しくは出せないのだが……いない。
気力と魔力は使用したが、もっとも力を乗せやすい刀は全て封印されており、能力自体はまだ戦闘で使用していない。
戦闘中に自由自在に能力が使える事はないだろうが……少なくとも「力」と「守」は他の能力よりも圧倒的に使いやすく、普段の戦闘と同じ感覚で使用できる。
手加減したくて手加減したわけではないが……それでも俺の全力はまだ誰も知らない。
そして一対一では、俺の全力に勝てる奴がいないこともわかっている。
まぁ……一騎打ちなんて状況にはならないだろうが……
しかしこの時代の戦争というのは、人と人とのぶつかり合いだ。
仮に俺が突っ込んだとしても多人数を相手にした後、大将戦となる。
故に俺より強い奴がいないというのもあまり意味はないのだが……俺よりも強い奴を警戒しなくていいという意味では楽だろう。
ともかく、今回はとりあえずお疲れ様ってところだろうな……
まだ予断を許さない状況ではあるが……ともかく反董卓連合は一段落したといって良かった。
ちなみに他の連中がどうなったのかというと……まず董卓がどうなったのかはすでに一月以上の時間が経過しているが、まだどうなったのかわかっていない。
故郷の西涼に戻ったとか暗殺されたとか色々噂は出回っているが……どれも決定打にかけていた。
曹操は洛陽に入った後小帝とやらを保護したようだが、政治利用をする気配を見せていない。
恐らく自らの力量のみで駆け上がりたいのだろう。
そして連合で総大将だったちんちくりんの従姉、袁紹は領土拡大をするためにあちこち喧嘩をふっかけている。
その大義名分は董卓をかくまったという完全なる言いがかりによる開戦だ。
当然戦になるのだが……数だけはべらぼうに多い上に、速攻で喧嘩を吹っかけているのでまだ事後対応に追われている諸侯は対応出来ず敗北しているようだ。
反董卓連合前から準備を調えていただろうなぁ……
その悪辣さに内心で舌を巻くしかなかった。
そして素人娘は、董卓連合で功があったということで、
義勇軍の対象でしかなかったあの甘く優しい娘の素人娘が、曲がりなりにも褐色ポニーと同じ立場に立ったのだ。
歴史を知っているとはいえ、俺としても驚きを隠せなかった。
まぁ周りが優秀ってのもあるんだろうが……
あいつは間違いなく人たらしの部類に入る人間だ。
素人娘自身良い奴だからこそ、色んな奴が力を貸したいと思うのだろう。
そんな中で合併した我らの呉がどうなったのかというと……とにかく軍の再編と領土の復興や、賊の討伐に追われていた。
また洛陽が黒幕によって色々されたようで、復興の手伝いを行っていた。
俺のおかげか俺のせいか……本来行うはずだった軍事行動を行わなくて済むので財政的には少し余裕があるようだ。
故に人気取り……といってしまえば低俗だが、それでも弱者を助けたいという気持ちは本物だったこともあって、褐色ポニーは大陸各地の庶人から評価された。
そしてそんな褐色ポニーに恩を返したいとか、褐色ポニーの下で働きたいと様々な人間が呉の門戸を叩きに来ていた。
それらの人材の振り分けなんかで文官チームはずいぶんと忙しそうにしている。
また武官の連中も再編された軍の訓練等で忙しくしている。
そして俺的にびっくりした事件があった。
「どうした急に俺を呼び出して?」
特段何もなかった昼下がり。
俺は何故か反董卓連合より異様に政務にやる気を出したちんちくりんに疑問符を浮かべながらも……真面目に治世を行うことは歓迎したい事だったので、以前にも増して食事やら菓子を作るのを頑張っていた。
そのため今も菓子の準備にいそしんでいたのだが……何故か知らないが突然重鎮が集まる広間に呼び出された。
すでに盟主の間には盟主である褐色ポニー。
次点で褐色ロングに褐色知的眼鏡。
甘やかし短髪に褐色妖艶におっとり眼鏡に呂蒙といった……文官連中の主立った奴らがすでに集まっていた。
他にも息を切らしている一般兵もいて……どうやら結構な大事であると把握した。
「刀月、確か北方の雄である公孫賛のところで世話になった事があったって言ってたわね? しかも反董卓連合の時に挨拶もしてたわよね?」
「そうだが?」
何故ここでいきなり妙手娘の名が出てくるのか訝しむ俺だが……息を切らした一般兵がいる意味が何となくわかって気配を探る。
するとちょうど城門辺りに妙手娘の気配を察知した。
そしてその周囲に結構な数の一般兵とおぼしき気配を感じ取り……状況を察した。
それなりに俺も内政を頑張っているおかげかね~
袁紹が方々に喧嘩を売っていると報告にあがっていたので……恐らくそういうことなのだろう。
だが今俺は妙手娘が来ているという話を聞いていない。
先回りしても訝しまれるだけなので、とりあえず話を聞くことにした。
「その公孫賛があなたに保護を求めに来たんだけど」
「保護って事は……袁紹に負けたのか? まぁ、とりあえず会ってみれば良いんじゃないか? 俺に保護を求めに来たのは呉に俺しか知り合いがいないからだろ?」
袁紹に負けたということは……下手をすればその追撃と称して袁紹がこちらにも喧嘩を吹っかけてくる可能性は大いにあった。
だがわざわざ俺を頼って保護を求めてきた妙手娘をそのまま追い返すのは忍びなかった。
妙手娘には恩義もあるので、それらを精算するのは俺としてはありがたい。
またまだ万全とは言えない熟練度とはいえ……合併後の軍もそれなりに仕上がってきている。
仮に喧嘩を売ってこられたとしても、苦戦こそすれ脅威にはならないと思われた。
「でしょうね。いいわ、通してちょうだい」
「はっ!」
報告に来た一般兵にそう指示を出す。
そしてしばらく待っていると、当の本人妙手娘事公孫賛が盟主の間へと入ってきたのだが……白と金で彩られた鎧のところどころに、すすやら赤い血が付着しており……明らかに戦闘の後であることが伺えた。
「呉の盟主……孫策殿。私を広間に通してくれたことに、感謝する」
俺に保護を求めてきたといっても……俺の上である盟主を無視するなどあり得ない。
まず王である褐色ポニーに挨拶をするのは当然だった。
「気にしなくて良い」
褐色ポニーが普段の態度とは違い、王として返事をする。
その褐色ポニーに対して妙手娘は恭しく頭を垂れる。
俺も挨拶をしたかったが……この場で出しゃばるわけにはいかなかった。
「それで……我が臣下である刀月に保護を求めてきたというのは、どういう事か?」
状況から言ってほぼ間違いないのだが……当事者から話を聞くのがもっとも間違いがない。
また、さすがに虚偽の口上を述べるとは思えないが……褐色ポニーとしては、王として妙手娘に接する必要性があるのだろう。
「恥ずかしながら……袁紹が奇襲を仕掛けてきて、遼東の城を全て落とされたのです」
まぁ予想通りと……
この辺の言葉には誰も驚きはしなかった。
細作が優秀な呉は、情報の精度が高い。
そしてその情報の精度が高いことと……誰一人として驚かなかったことは、妙手娘に対する威圧となる。
その程度の事は知っていると、態度で伝えているのだ。
「反董卓連合の後、内政に追われていたら袁紹の使者が宣戦布告をしてきたのと同時に、国境の城が次々と落とされました」
使者と同時って……それはアウトだなぁ……
別段大きな問題ではないが……宣戦布告と同時に攻撃するのは普通に考えてアウトだ。
間違いなく「宣戦布告を行った」という言い訳にしかならないだろう。
だがそれでも……勝てば官軍なのである。
しかしやり口が汚いのは事実なので……広間に集まっているほとんどの存在が眉をしかめている。
「反撃するも……気づいた頃には領土の大半を制圧されてしまっていました。そのため、保護を求めました」
「刀月に保護を求めた理由を聞こう」
「当初は古くからの友である劉備の治める国まで逃げるつもりでした。しかし……追撃が激しく、劉備の元までゆくのは難しいと判断せざるを得ませんでした。その時点で近しく、保護を求められそうな人物は刀月しかいなかったのです」
追撃が激しいって事は……こっちに来るか?
と、俺が考えるのと同時に……一度妙手娘の言葉がとぎれたのを見計らい、褐色ポニーが広間の人間に発言を求めた。
「事情はわかった。して……これについて、皆はどう思う?」
「北方に袁紹の大きな国が出来た。となれば……諸侯同士の争いが激化するのは間違いないだろう」
一番に口を開いたのは、この場でもっとも知的な存在である褐色知的眼鏡だった。
「やはり……そうなるか?」
「間違いなく。袁紹を抑えていたのは公孫賛殿だった。その公孫賛殿を破った今……北において袁紹が恐れるものはない。となれば……西進か南下という形になるだろう」
「おそらく~董卓連合であまり大きな戦果を得られなかったことで~焦りを覚えているのだと思います~。そして~それを手に入れるために動き始めた……ってことなんでしょうね~」
褐色知的眼鏡の弟子的存在のおっとり眼鏡が、師匠の後を継ぐように言葉を紡ぐ。
真面目な場なので普段よりはおっとり具合は少なかったが……それでもどうしても俺からしたら気が抜けてしまう声だった。
「袁紹の南には曹操殿がいます。西には剽悍で涼州がある。攻めるのならば北と考えるのは妥当だと思います」
そしてさらにその弟子である呂蒙が、普段よりもさらに目を細めて発言をしている。
さすがに反董卓連合でも指揮を取っていたこともあって……発言にもある程度自信を持てたようだ。
あの男と話すだけでおどおどしていた呂蒙が立派になったものである。
「なるほど。となると……失礼だが公孫賛殿。これは公孫賛殿の油断と認識して良いか?」
「っ」
手厳しい指摘であり、無礼ともとれる発言だが……妙手娘は甘んじてその言葉を受け止めた。
「おっしゃる通りです。袁紹がそんなことをするはずがないと、油断しておりました」
元々わかりきっていたことだが……これによってこの場の上下関係が完全に確立し、それを妙手娘が認めた形になった。
となれば交渉においてはこちらに優位に働く事になるだろう。
褐色ポニーの性格から、あまり不利な事を言うつもりはないと思われた。
破れてしまったことは事実だが、それでも妙手娘は北方の雄とまで言われた武将だ。
特に騎馬戦及び騎馬戦の指揮については大陸全土を見渡してもトップに躍り出るのだと……呂蒙にも教えてもらった。
保護を求めてきたということは、こちらの軍門に下るつもりなのだろう。
だが……このままではあまりにも不利な条件で軍門に下ることも考えられなくもない。
それはさすがにな……
労働という形で恩義を返したのは間違いないが……それでも世話になったのは事実。
しかも俺に保護を求めに来たのだ。
ならばこの場で俺が何も発言しないというのは、仁義に反する。
そして……騎馬隊を手に入れられるという圧倒的利益がある……
「孫策様。発言を許可願えますか?」
場が場なので……俺は臣下として発言の許可を願った。
褐色ポニーも俺の言葉に厳かに頷く。
許可をもらって……俺は自分の意見を述べる。
「もうすでに数年前の話になりますが……公孫賛殿には俺はずいぶんと世話になりました。またこうして私に保護を求めてくれたのも、私を頼ってだと思います。故に……差し支えなければ私の下に迎えたいと思います」
「ほう、その理由を聞こう」
「はっ。公孫賛殿は優れた内政の才があります。私はその辺がからきし駄目なため、少し内政的な人員が欲しいと考えていたところです。また公孫賛殿は騎馬隊の指揮も優れている。その騎馬隊を用いた情報収集や伝達は……呉に大きな貢献をしてくれるはずです」
また騎馬隊というのは……俺にとって実にいい部隊だった。
騎馬というのは金がかかる。
馬もそうだがなによりも馬を操る騎士の育成に時間と金がかかる。
そのため、よほど裕福で騎馬隊を指揮できる人材がいない限り……騎馬隊というのはそこまで大部隊にならない。
また戦に負けたこともあって、妙手娘の騎馬隊も数が減っている。
そんな数が少ない部隊が俺の下にきたとしても……そこまでの脅威にはなりえない。
だから俺の下にきたとして……対外的に見ても大きな問題にならないのである。
「なるほど」
俺が言いたいことは褐色ポニーもわかっているのだろう。
特段反対することもなく、小さく頷き……周囲を見渡した。
周りの連中も特に言葉を発することなく、小さく頷いてくれた。
よって……妙手娘を呉に取り組むことが決定した。
「では、公孫賛殿。お主の願いを聞き入れ、刀月の下につくのであれば呉の人員として迎え入れよう。無論そなたの部下も同様に迎え入れる。呉に貢献する仕事を行うのであれば、部下共々身分を保証しよう。それで良いか?」
「はっ。感謝いたします、孫策様。そして……刀月様」
褐色ポニーと俺に対して、妙手娘は深々と頭を垂れた。
褐色ポニーに対する敬称が、「殿」から「様」へと変わっている。
俺の上にいるのが誰なのか妙手娘もわかっており、俺の下につくと言うことは褐色ポニーの下につくことになる。
それをきちんとわかっているということだ。
先ほどまではまだ受け入れてくれるのかわからなかったため、舐められるわけにはいかなかった故の敬称なのだろう。
大事なこととはいえ……面倒だなぁ……
頭を上げると同時に……妙手娘の足下がおぼつかなくなる。
気配と匂いから傷を負っている訳ではないことは把握している。
恐らく自らの命と部下の命が保証されたことで気がゆるんだのだろう。
そのまま倒れこみそうになったので……俺はその前に妙手娘に近寄って倒れる前にその体を受け止める。
「刀月。容態は?」
「脈はあるし……真新しい血の臭いもしないことから外傷もないと思われる。間違いなく気がゆるんだだけだな」
首下に手を当てて生きていることを確かめつつ、俺はそう返した。
医療行為で裸にひっぺがえすのも良いのだが……緊急事態でもないのに男の俺が裸にするのは変態行為でしかない。
とりあえずお姫様抱っこで俺は妙手娘を横抱きにする。
「別室に連れいくとしよう。男の俺が服を脱がすわけにも行かないので……呂蒙。すまないが手伝ってもらって良いか?」
「はい!」
俺が問題ないと判断しているので問題ないと思っているのだろうが……それでも一人の女性が倒れたのだ。
呂蒙が真剣な面持ちで元気よく返事をしてくれる。
褐色ポニーに許可をもらい……俺は妙手娘を一度部屋へと連れて行き、呂蒙に怪我の具合を確かめてもらった後に下女に妙手娘の手当等の指示を出す。
さらに外で待機している妙手娘の部下にも休める場所等の指示を、ノブに出すように俺が指示を出した。
そしてそのまま料理の仕事に戻ることは出来るわけもなく、一度広間へと戻る。
「戻ったわね」
残った人員で会議を行っていたようだが、俺と呂蒙が戻ってきたことで会議を一度止めて、褐色ポニーが内容をまとめる。
「袁紹が動いた。これによって間違いなく各地に割拠している諸侯が動くことになるわ」
今後の呉を左右する状況だ。
言葉を発する呉の王……褐色ポニーの声には緊張と粗野で攻撃的な色が含まれている。
「王朝に諸侯を抑える力も余裕もない。ならばこうなるのは必然といえるだろう」
「また戦いが起きるのですね~」
褐色知的眼鏡の言葉に、弟子のおっとり眼鏡もその言葉を肯定する。
これに異を唱える者は一人もいなかった。
「ですが今はまだ大きく動くべきではありません。さすがに攻めて来られた場合は応戦するしかありませんが、それでもまずは内政を行い軍備を整えるのが肝要だと思われます」
堅実な意見を呂蒙が述べて……誰もがそれに納得した。
「となると遊ばせている余裕はないということね。刀月、あなたの下につけた公孫賛の部隊を呉に引き入れることになるけど、構わないわね?」
「もちろん。こちらとしても特段条件等をつけず、部下に引き入れてもらって感謝するよ、孫策」
「あなたに恩義がある人間に恩を売っておくのも悪くないと思ったからよ」
本音が入ってそうだな……
俺が現代衣装を纏っていたことは……今更手遅れかも知れないが、なるべく隠しておくように妙手娘には言っておいた方が良いかもしれない。
「ともかく方針が決まったわ。まずは内政に注力し、軍備を整えるわよ。その後は……間違いなく曹操と当たることになる。各自、気を引き締めて」
「「「はっ!」」」
褐色ポニーの号令が下り……その場は解散となった。
こうして俺は大陸最強の武人の入れ墨娘と、大陸最強の騎馬隊を率いていた妙手娘を部下に迎え入れることになった。
この時点で、数さえ考えなければかなり優秀な人材が俺の下につくことになってしまった。
別段下克上も内乱も起こすつもりもないが……俺のことをあまり信用していない連中からしたら内心穏やかではないだろう。
その辺のフォローに走ろうかねぇ……
少々面倒なことになったと思いつつも……騎馬隊の連中を下に迎え入れる事ができたのは俺としても実にありがたいことだった。
俺自身があまり動けなくなったため、刀村の連中との物資、情報のやりとは早馬を使うしかない。
緊急事態はその限りではないのだが……俺の能力をあまりひけらかすわけにもいかない。
先ほどの会議でも決まったとおり、呉の軍へと吸収されるが……全ての人員が引き抜かれる前に俺の部下に数名騎馬隊の連中を迎え入れておくべきだろう。
やること多いなぁ……
と、内心でぼやくが……まだほとんど動き出してない黒幕の事も気になるので、気を休めるわけにはいかない。
俺は今後どう動くのかを頭の中である程度描きつつ……自らの仕事を粛々とこなした。
白蓮が軍門に下りましたが・・・・・・俺がうまく書けるか謎だぜ!
当初はこの白蓮の話はなく、個別ルートを少し入れてたのですが
この話で白蓮を入れるのが一番しっくりするので数時間であわてて入れました
結構好きなんですよね、白蓮
中の人が好きってのが大きな理由ですがw
前話でも書きましたが、次の話から個別ルートを書くので
あまり本編進まないのでよろしく~