今回は逆にちょっと長め
反董卓連合の後、入れ墨娘事呂布、パンダ娘事陳宮。
さらに妙手娘事公孫賛が俺の部下になった。
無論部下といっても俺自身人を使える自信が全くと言っていいほどないので……部下扱いするつもりはない。
特に妙手娘については俺自身がかなり助けられる結果となっている。
先日保護を求めて本人の要求通りに呉の保護と得る形で部下となった妙手娘は、最初部下……つまり本当に俺の下につくつもりで接してきた。
妙手娘が頼ってきたのは「俺」であるため、本当であれば俺が部下として扱うのが、正しい形なのだろう。
だが……正直なところ俺自身そこまでたいしたことをしていないのに、偉そうにするつもりはなかったのだ。
この時代の権力者に取り入るというのも間違いなく一種の才能である実力といえるのだろうが……虎の威を借る狐にはなりたくないからな
国を治めるということは……本当に大変なのだ。
俺自身、ちんちくりんの採点のためだったり、俺が頼りにしている連中……呂蒙のことである……に助けてもらっているため、本当に多少だが内政について触ったことがある。
故に大変だという程度のことは理解できていた。
本当に……その程度しかわからないんだよなぁ……
それに対して……俺がしている仕事は菓子作り、調理、農作業、加工品作業、土木作業等々、それなりに多岐にわたっているが、やっていることはたいしたことではない。
いや、結構すごいことしてるんだがな……
菓子作りは他の誰にも出来ず、調理においても他の追随を許さず、農作業はやっていることこそ平凡だが速度が圧倒的に異なり、加工品作業も古今東西の知識でこの時代においてはあり得ないものをつくっており、土木作業については言わずもがな。
だが……そのどれもが俺にとっては普通の事なのだ。
特に菓子作りに調理に加工品作業は……未来の知識を使っている俺がその未来の知識をひけらかしてふんぞり返るのはしたくないのだ。
土木作業こそ俺が俺だけの力で行えていると言って良いかもしれないが……それも重要度で言えば「俺でなければ出来ない」わけではない。
俺がいなくても人足雇えばいい話だしね~
そんな金魚の糞といって差し支えない程度の事しか出来ていない俺が……元とはいえ一国の主としてしっかりと内政を行っていた奴に偉そうにしたくなかったのだ。
むしろ助けて欲しいと思うくらいである。
故に俺は正しくないと思いつつも……俺自身妙手娘を尊敬している事もあり、普通に接っするようにお願いしていた。
さらに騎馬隊の指揮が本当に見事だったからなぁ……
褐色ポニーより命令として妙手娘の騎馬隊を一度解体し、元々の呉の兵士にもいた騎馬兵を合体させて、新たな騎馬隊を編成し……その部隊長に任命されていた。
俺自身、誰もが認める妙手娘の実力が知りたかったので……軍事演習を見学させてもらったことがあった。
それが……本当に絶句するほどの実力だったのだ。
舌を巻くとはこのことか……
俺が本当に心から尊敬するほど……的確な指示に、的確な陣形。
何より馬を操る姿は……文字通り物語に出てくる存在かのように輝いて見えたのだ。
故にこそ……本当に俺は妙手娘を部下扱いすることが出来なかった。
「刀月~」
そうして俺が妙手娘の事を考えながら厨房へと向かっていると、手ぬぐいを持った手で手を振りながらこちらに歩いてくる妙手娘の姿があった。
「おう、お疲れだな、公孫賛」
「刀月こそ。袁術の昼飯を作りに行くのか?」
「俺の最大の仕事だからな。袁術の飯と菓子作りは」
大げさに肩をすくめながら俺は並んで歩く公孫賛に戯けてみせる。
実に芝居がかった動きだったが……俺自身は内心でちんちくりんの事を素直に褒めたい気分だった。
最近ずいぶんやる気に満ちているからなぁ……
何故か知らないが……反董卓連合の後、政務に猛烈に取り組むようになったのだ。
盟主は間違いなく王である褐色ポニーが努めているのだが……自らの元々の領地である城下の内政をずいぶん熱心に取り組んでいる。
しかも驚いたことに……頭の地力がいいためか、結構いい施策を行っており、城下町の連中の評価も上々だった。
無論全てちんちくりんだけでなく、甘やかし短髪にノブの助力もあっての事だが……それでも懸命に取り組む姿は実に感心させられるものだった。
「嫌なのか? その割には、熱心に作っていると聞いているぞ?」
「どんなに立派にやっていても、まだ幼子だ。甘い菓子の魅力には耐え難いのだろう」
懸命に政務をこなしているがそれでもまだ子供。
政務を頑張っているのも、俺の菓子が目的に何割か入っているのは、本人も否定できないだろう。
だが……逆を言えば俺の菓子でやる気が出て良い結果を出すのであれば、俺自身腕を振るいがいがあるというものだろう。
「子供ではないが……私にも食べさせてもらうことは出来るのか?」
「無論だ。公孫賛は騎馬隊だけでなく政務についても助けてもらっているからな。俺の菓子でよければ喜んで」
「謙遜だな。お前の菓子は……私も驚くほどの腕だったぞ?」
「まぁ……それなりに理由はあるからな」
俺の菓子がすごいのは……ある意味で当たり前なのだ。
まず未来の技術と知識をもって作られた菓子であること。
食材が俺がこの世界に持ち込んだ未来の品種改良されたものであること。
何でかしらんが……俺が携わった畑とかで今のところ不作になったことがないんだよな
植えてきちんと世話をしてやれば、結構な量がとれるのだ。
これは刀村から続いている事で……不作にならないというのは、俺だけではない村の長としては実にありがたいことだった。
品種改良故の強みなのかも知れないが……それでも不思議には思っていた。
困ることもなく、また何よりも村の連中が喜ぶので大いに助かることだった。
そして量が多いと言うことは……
調理で味を変えられるんだよな~
量が少ない……つまり生きるために必要な量しかとれない場合、どうしても腹を満たすために料理を作る必要がある。
だが量に余裕がある……つまり調味料にする余裕がある場合は、俺の本領がある程度発揮できるという事になる。
ジャガイモで例を取れば……ジャガイモをふかしてミルクなどに溶かしたポタージュスープにするよりも、ふかして食べた方が腹がふくれるので、量がない場合はポタージュスープにするなんて余裕がない。
ある程度発揮というのは……調味料が足りないんだよなぁ
和食調味料はある程度手に入った今の状況でもっとも欲しい調味料は……香辛料である。
香辛料があれば最強奥義である……
カレーが作れる……
日本の国民食といっても良い、カレーライス。
正しく言えば、日本風にしたカレーというのが日本の国民食と言われる、日本人の大概の人間がカレーと言われて思い浮かべるあのカレーだ。
香辛料が手に入ればカレーが作れるのだが……今のところそんな余裕はなかった。
最悪インドのほういけば……あるとは思うのだが……
近くに行くことがあったら、香辛料を探してみても良いかもしれないと思う。
だいぶ話がずれたが俺の菓子がすごいことに話を戻す。
俺が菓子が作れると言うこと、それはすなわち……温度管理が出来るという事に他ならなかった。
菓子というのは、温度管理が命だと言っても過言ではない。
シュークリームの皮であるシュー生地を膨らますのも、温度管理がきちんと出来なければ作ることは不可能だと言って良い。
そして当然だが……この時代にオーブンなんてものは存在しないのである。
故に……普通であれば洋菓子を作るのは非常に困難だと言っていい。
だがそこで便利に役立ってくれるのが……俺の紫炎の力である。
修行を重ねたことあって、温度を均一に保ちながら一定時間の能力使用もお手の物になっている。
というよりも、この能力使用が出来なければそもそも温度管理が出来なくて、菓子を作りまくると言うことが出来ず、ちんちくりん攻略はもっと手こずった……かもしれない。
いや、ないな……
自分で考察しておいてあれだが……問題なさそうだと思った。
ちんちくりんがちょろいのではなく……いや実際ちょろかったが……人恋しかったからしょうがない。
「まぁ呉のために手伝ってくれるっていうのなら、俺の菓子なんておやすいご用だ。またなんか食べたいものがあったら言ってくれ」
「なら今度……氷菓が食べてみたい」
「人気だなぁ……了解。今度みんなに振る舞うために大量に作る予定だからそのとき必ず呼ぶよ」
「!? 楽しみにしている!」
と……餌付けをしている人員がどんどん増えて言っているが、俺の菓子をおいしく嬉しそうに食べてくれるからこちらとしても腕の振るうのも楽しいというもの。
そうして俺は妙手娘となんてことのない会話をしながら……厨房へと向かって昼餉を食べた。
~別の日~
木を切る。
岩を運ぶ。
鍋を振る。
包丁で切る。
たまに警邏。
飯に菓子を作る以外にも、俺が頼りにされている仕事がある。
それが土木工事であり、そしてそれだけでは飽きたらず、良くも悪くも便利屋みたいな仕事をしていた。
土木工事に農作業、そして必須なのは調理……主に菓子……である。
戦いたくないという俺のわがままを聞いてもらっている形である。
無論俺の実力を知った連中からは、俺が戦わないことにずいぶんと反感を買った……主に褐色ロングと褐色襟巻きから……ものである。
しかし俺が戦いたくないと言っている上に……誰も俺に言うことを聞かせることが出来ないのだ。
俺は呉の武将が束になってかかってきても勝てる。
武官の連中は俺に勝てないことを理解している。
文官の連中も、俺が厄介なのはわかっていると言うことだろう。
さらに言えば、今救世主というか……洛陽を救った存在として名を売っている呉が、いくら部下とはいえ無理矢理言うことを聞かせるのは得策でないと判断したようだ。
だが……それでも我慢できないことは我慢が出来ない物である。
特に……この時代の人間で戦闘狂に近い奴らは……。
あ~疲れる
朝一の土木工事を終え……俺がやるのは基本的に本当に面倒なところのみ……そのまま川で水浴びをして俺は厨房へと戻ってきていた。
本日の菓子は何にしようかなぁ……
と、悩みながら俺は厨房へと向かうが……しかしあまり悩む必要性はなかった。
ちんちくりんは本当に精力的に政務を行っていた。
以前と違い、悪知恵をきちんとした方向に向けて施策を行っているので、周囲の評価も良かった。
それに関しては俺としても喜ばしいことだ。
だが……頑張る原動力が基本的に俺の菓子なのだ。
「刀月! 今日の菓子は何なのじゃ?」
「あ~~~~~どうすっかなぁ? なんか希望は?」
「蜂蜜を使ったのが良いのじゃ! それか氷菓を希望するのじゃ!」
「蜂蜜は在庫があるけど……あまり心許ないから氷菓かな。味付けは……」
こうしてリクエストを聞きながら菓子を作っているので、本当に直属の部下になっている感じだった。
こちらとしても最近はマジで頑張っているのでご褒美を上げるのはやぶさかではなかった。
「それじゃ作ってくるから政務をきちんと終わらせるようにな」
「もちろんじゃ! 七乃! 手伝うのじゃ!」
「もちろんです、美羽様!」
「ノブ……援護よろしく」
「了解です」
俺が信頼している文官であるノブに二人のサポート兼見張りを依頼する。
文官の仕事は俺も正直わかっていないので、他の奴にすがるしかなかった。
何度かノブとは仕事をさせているので、ちんちくりんも甘やかし短髪も邪険にはしなくなってきた。
というよりもしたくても出来ないのだろ。
ノブを雑に扱うと、俺がすぐに気づいてお仕置きが待っているからだ。
まぁおしおきと言っても、菓子抜きってだけだが……
「とーげつ」
俺が本日の菓子をどうするか考えながら調理場へと向かっていると、そんな声が背後からかけられた。
気配でわかっていたので、俺としては別段驚くことは何も無く、声をかけてきた存在……入れ墨娘こと呂布へと視線を向ける。
「しごと……おわった……」
「おう、お疲れ様。ありがとうな」
「べつに……いい」
相も変わらず一言二言しか話さない奴だが……しかし根は素直で良い子だ。
仲間として引き入れたのは良かったのだが……この子にどんな仕事をさせるべきか正直悩んだ。
だが、文官仕事は完全にダメだった。
ならばどうするかと考えた結果として……肉体労働しかなかったのだ。
働かざる者食うべからず……
働かさないことも一瞬だけ思考をよぎったが、すぐに却下した。
今後の戦働きを考えれば、平時は好きなことをさせても良いかもしれない。
こちらに引き入れてからそれなりに日数が経っており、その間俺が監視の任務を与えられているが、こいつは変なことをするような奴じゃない。
休日は自らの友達……動物たちと遊んでいるか寝ているか食べているかしかしない。
悪いことをするという発想自体がない感じだ。
だが……それでも仕事をしないというのは俺が納得できなかったので仕事は与えていた。
仕事は簡単な土木工事だったり農作業だった。
土木といっても力仕事が主で、農作業も力仕事が主だ。
草むしりなんかもやってもらっている。
必死になって頑張っているのも、きちんと働かないと給料は出さないと俺が言ったためだ。
これは脅しではなく純粋な意味で言った。
渋るかと思われたがすんなり素直に仕事を行ってくれて助かっている。
監視の任務もあるので入れ墨娘は俺といることが多く……何というか子供みたいと言うか純粋というか、ともかく素直な奴なので非常に懐かれていた。
「今日のごはん……何?」
「お前は大量に食うからなぁ……。石焼きのタコライスでも作るかね」
「!? 嬉しい」
ほんわかというか……もう本当に嬉しそうに微笑むからなんか可愛らしい動物に餌付けしている気分だ。
動物というのは失礼な表現かも知れないが……しかしなんか本当に可愛いというか、純粋過ぎて最初はとまどった。
本当にお腹いっぱい食べられて友達と過ごすことが出来ればそれで良いという感じで……正直警戒するのがあほらしくなってくるレベルだった。
そして、ある意味で一番面倒なのが……
「恋殿から離れろなのです!」
叫びながら俺と入れ墨娘との間に入ってフー!っと唸りながら威嚇してくる……入れ墨娘を慕っているパンダ帽子だった。
何というかこいつは俺のことをまだ警戒しているようで、未だにかみついてくる。
さすがに暴力行為に出てくるような事はしなくなった……俺がだいぶ教育した……が、未だ俺にはかみついてきていた。
まぁそれもこいつなりの信頼の証なのだろう……
一度おっかない目に遭わせているためか、さすがに他の呉の武将にはかみついていない。
というか、かみつかれたら面倒なので俺がそれは阻止していた。
結果として……かみつく相手が俺しかいないという状況になり、今のように俺にかみついてくるようになっていた。
しかしこれは俺ならば問題ないという行為であり好意なのだ。
どう見ても幼いこのパンダ帽子が……親でもない入れ墨娘と共にいることを考えれば、どういった生い立ちなのかは想像に難くない。
それは俺がこの世界に来て初めて接したナナも同様だ。
乱世……か……
別段乱世でなくても、こんなのは日常茶飯事とまでは言わないが、この時代の……
否、これから先の千年以上の歴史において……
こんな生い立ちは当たり前と言われる時代が続く。
三国志時代は確か西暦においては300年には行かなかったはずだ。
仮に300年として、俺が生きていた現代に行くまでに……千年どころか1700年もの時間がかかる。
そしてその1700年後になったとしても……数こそ激減し、比較するのもばからしくなるほど少なくなるだろうが……
貧困と飢えは……そして、こんな日常茶飯事は消えていない。
……まぁ、世界が違うから全く一緒って事はないだろうが
もしかしたらもっと短く現代に至るかも知れない。
あるいはもっと遅いかも知れない。
もしくは、滅びるかも知れない。
戦争なのか?
疫病なのか?
もしくは未知のナニカなのか?
原因はわからないが……もしかしたら大人も子供も、滅びるかも知れない。
あの子が、死んだように……八つ当たりで焼き払われて死ぬのかも知れない。
今でも忘れない。
忘れるわけがない。
俺が救えなかった多くの人を。
別段俺はヒーローでもスーパーマンでも神様でもない。
ただの人だ。
凄絶な修行によって一般人よりは遙かに強い。
異世界に旅に出された事で、超常的な力を身につけた。
だがそれでも人に過ぎない。
この世界でも、救うことの出来なかった、幼子と同じ……人なのだ。
幼い故に生命力はあっても……それは元気でいればの話。
体力の最大値が低く、さらにまだ幼い子供では……限界値が大人よりも低い。
故に……何度も見送ってきた。
それでも、俺は偽善を続けてきた。
最後には自分も惨たらしく死ぬだろう。
あぁ……まずい……思考がグチャグチャだ……
こうして少し余裕が出来ると……
俺は何をしているのかと……叫びたくなる。
俺は何をしているんだ?
俺にかみつこうとしているパンダ帽子を、入れ墨娘が相手している。
その仲むつまじい光景を見て……俺は顔を手で覆って視界を切った。
こうして思考を切り替えなければ……本当に叫び出しそうだったからだ。
未熟……
何も出来てなどいない。
俺はただの人でしかない。
時間は決して戻せない。
だから……落ち着け……
時間だけが過ぎていくという……焦燥感があったのだろう。
今まで渡り歩いた異世界よりも遙かに長い時間この世界にいる。
だというのに……進展は何もない。
剣の修行も出来ず、鍛造の修行も出来ていない。
そして……ほぼ最初から明確に敵がいるとわかっているにも関わらず、こちらは手出しすらも出来ない。
ストレスがたまっていく一方で、少し参っているのかも知れない。
本当に修行不足だなぁ……
少し不安定になったが、しかしまだ表に出すほど揺れていたわけではないようだ。
手で覆ってうつむけていた顔を上げる。
突然顔を手で覆った俺を見て、二人が不思議そうにしていた。
「どうしたの?」
「何なのですか? 病気ですか? それは好都合なのです」
「この野郎……」
この二人のきょとんとした態度を見て……俺は苦笑するしかなかった。
己自身に。
哀れむかのように二人の関係を下衆の勘ぐりで考えて、気分を落とすという己の行為があまりにもばかげていたからだ。
俺は再度意識をリセットするために、大きく息を吐き出した。
それで何とか平常心を取り戻して……思考を切り替える。
食材がまだ残ってたはずだが……最悪はまた取りに行こうかなぁ……
ちなみに俺が料理をする場合は、そのほとんどを俺が作った物か、もしくは刀村で作らせている調味料を使用して料理していた。
刀村とは呉と袁術家が合併する際に、俺は正式に助と格を村長として任命していた。
最初こそ驚いていたが、しかし俺がいなくなる事は前々から伝えてはいたので、村の連中も残念がっていたが、最後には納得していた。
といっても、現時点でもまだ加工品は作らせており、その加工品を俺は定期的に回収に行っており、その際にかなりの報酬を村に与えていた。
俺も結構高給取りな上に、国と直接契約しているからな、あの村……
刀村の加工品は大変貴重なのと俺自身が欲しいことも相まって、刀村の加工品を高値で買い取ると契約を結んでいた。
また俺自身が給料を払って村の連中に料理を振る舞ったりもしていた。
俺は呉の盟主である褐色ポニーとちんちくりんの専属の料理人だ。
しかも食える料理は他で絶対に食べることの出来ない超おいしい料理。
正直もらいすぎと思えるくらいに給料が出ていた。
しかし悲しきかな……使い道がほとんど無かった。
良い鉄や面白い食材なんかが市場に出回ってたら買ったりするくらいか……
買ってもすぐに鍛造しないので、貯まる一方なのでそれも滅多になかった。
そのため貯まる一方でもてあまし気味だったりする。
面白い食材があったりした場合は、その分希少なので根が張るが……それぐらいしか使い道が無かった。
飲むのも食うのも……俺が作った方がうまいからなぁ……
ぶっちゃけ食材に調理技術……全てが未熟なために俺の舌を満足させる店がなく、俺が作った方が遙かにうまいのだ。
そのためか、お偉方で俺の料理を知っている奴は結構俺に料理を作ってくれとせがんでくることが多かった。
だが、俺が料理を直接振る舞うのは俺が近しい連中のみ。
ちんちくりんに甘やかし短髪、ノブ、入れ墨娘にパンダ帽子、そして呉の連中となっている。
といっても呉の連中もひとかたまりでいるわけでもない。
主立った連中は呉の領地の方々に散っていることが多く、全ての連中が一緒にいるのはほとんど無い。
今いるのは褐色ポニーと褐色知的眼鏡、褐色妖艶、尾行娘、呂蒙だ。
その中で、尾行娘は俺の監視任務を与えられているらしく、最近よく視線と気配を感じていた。
そして俺が入れ墨娘といると必然的に家族である動物たちといる場合が多く、その中には猫がいる。
すごく恨めしそうな視線を感じることが多々あった。
真面目に真剣に任務に取り組んでいるのがよくわかるのだが、正直……うっとおしいことこの上なかった。
もういっそ監視するくらいなら側にいろよって言ってやろうかなぁ……?
今度提案してみても良いかもしれない。
そうして俺が微妙に深刻になったり、のんきになって考えていた。
平時故の油断というべきなのだろう。
もしくはなんだかんだで忙しかったが故に、あまり周りの連中の気持ちを考えていなかったのかも知れない。
それを教えてくれたのは……褐色ポニーこと、孫策だった。
とある昼下がりの午後。
俺は畑仕事を終えて食材を探しに街へと繰り出していた時だ。
驚いたことに単身で街を歩いているよく知った気配を察知して……俺は内心で驚愕していた。
ちょっと待て……曲がりなりにも一国の主が、何故単身で出歩いてやがる……
確かにお膝元であり、しかも褐色ポニーが結構な腕前を有している武人だ。
一人で歩いていたとしても、恐らくその辺の賊程度に遅れを取ることはないだろう。
だが問題がないことと、問題のある行動をしているのとでは……意味が違う。
確かにそうそう簡単に遅れを取ることはないだろう。
だが万が一ということは往々にしてあり得るのだ。
しかもこの時代……武勇がすごい奴は本当にすごい。
そんな自分よりも強い奴を殺す方法というのは……外道な事を考えればいくらでもあるのである。
毒殺だったり……。
暗殺だったり……。
俺の本職の一つだな……
だから護衛を連れて歩かないのは、かなりおかしい行為だと言って良い。
俺から言わせれば……責任感があまりにも欠如している。
そのため俺はあまりしたくないが説教でもしようと気配を断ちながら接近したのだが……
「おじいちゃん、元気にしてた? 最近あまり見かけなかったから心配してたんだ」
「おぉ、ありがとうのう。わしゃ見ての通り元気にしておるよ」
「ならよかった♪」
「最近はばあさんがな? 雪蓮ちゃんに会いに行くなとヤキモチをやきよってのぉ」
「わたしゃそんなこと言ってませんよ」
「あら良いじゃない♪ ヤキモチを焼くなんてそれだけ仲が良い証拠じゃない。それに安心しておばあちゃん。私もおじいちゃんのこと大好きだけど、大好きなおばあちゃんからとったりなんて……しないから♪」
気配を断ち、姿を見えるところまで接近すると……そこには老夫婦と楽しそうに会話をしている。
しかも会話の内容を聞いてみれば……真名呼びまで許しているようである。
もしくは「孫策」として知られたくないために、真名を名乗ったのかは謎だが……どちらにしても仲が良いのは間違いないだろう。
しかしあれだな……あれほどのカリスマが持った奴がこうして親しげに話す姿ってのは、すげえな
良くも悪くも俺は暗殺者。
しかも悪人殺しの人殺しである。
金儲けの事しか考えてないクズというのは……往々にしてたいしたことがない。
無論中にはそれなりにカリスマを持った奴もいたが……さすがに万単位の軍を動かすことの出来る存在とは比べるべくもない。
そんなこの時代においては頂点の一つに君臨する存在が、庶民と親しげに話している姿は……ちょっと俺的に驚く姿だった。
「ところで雪蓮ちゃん、ちょっと相談なんだがの?」
「ちょっとおじいさん。雪蓮ちゃんに迷惑ですよ?」
「何? 私でよければ喜んで相談に乗るし、私で出来ることなら何だってするわ。遠慮なんてしないで」
「実はの、じじもばばもそろそろええ年じゃ。姿絵でも描いてもらおうと思っておってな」
「あら素敵じゃない!」
我が事のように喜ぶ褐色ポニー。
姿絵というのは初めて耳にする単語だが……漢字から言って肖像画のようなものだろう。
写真がない時代は基本的に自分の姿を見ることが出来るのは、水に反射した自分か、鏡などだろう。
しかし鏡は高級品だ。
呉の連中の館、そして財政的には上をいく袁術家の館であっても、上の方の権力者の部屋等にしかない。
庶民が手に入れるのは普通に不可能だろう。
また記念に今の姿を遺すというのであれば……鏡ではなく肖像画が選択肢にあがるのだろう。
「そうじゃろ? 絵師さんを探しておるのじゃが……なかなか見つからなくての?」
「雪蓮ちゃん、心当たりはあるかねぇ?」
老夫婦に相談されて、褐色ポニーは真剣に考え始めた。
説教するためにこうして近寄ったのだが……さすがに今の会話を聞いた上で割って入る事はできない。
さらに言えば……説教をするなんて事はもっと出来ないだろう。
さすがにこの状況でやるのはね~
本当ははっ倒して怒鳴り散らしたい気分なのだが……あれだけ親しくしている人間の前でいくら言っていることが正しくても、主に恥をかかせることになる。
さすがに最低限の仁義までおろそかにするようでは……誰も信用も信頼もしてくれなくなる。
今のところ周囲に危なげな気配はないので……恐らく問題はないだろう。
だが……気づいて放置するわけにもいかないか……
このまま回れ右しても良い気分だったが……これで後々に何かあっても寝覚めが悪い。
本来であれば……暗殺者としてこのまま近寄って警戒心を少し刺激しても良いかもしれない。
だがそれはさすがに現況ではやり過ぎだと言って良い。
それ以上に……過剰に警戒心を抱かれても俺的に動きづらくなってしまう……
俺の本職が暗殺者だということは、まだ誰にも教えていない。
暗殺者として気配を消したことはないので……今それをしてしまうと必要以上に俺の実力を明かしてしまうことになる。
それはさすがに避けたい。
ということで……
「どうした孫策。こんなところで?」
仕方ないので、普通に接近して声を掛けた。
普通に接近したので俺でなくとも人が接近していたことは、褐色ポニーも気づいており……俺の方へと振り向いて満面の笑みを浮かべた。
「刀月じゃない! ちょうど良かった。お願いがあるんだけど」
「何の?」
さすがに俺が盗み聞きをしていたとは思ってないらしく、俺に老夫婦の話を振ってきた。
「刀月って、姿絵を描くって出来たりしない?」
「出来んわ」
即答。
ある程度頭の中で刀や鞘、拵えの装飾を考えたりする。
俺だけでは出来ないこともあるので、その辺は職人にイメージを伝えるために絵柄を描いたりする。
故に全く書けないわけではないが……俺のはいわゆる図面ないし設計図が書けるのであって、人物画は描けないのである。
またこの時代の姿絵がどの程度なのかはわからないので……それを考慮して仮に書けたとしても書かない方が無難だろう。
「え? そうなの?」
「いやそんな意外そうな顔をするなよ。俺だって普通に一人の人間だぞ?」
「それはそうなんだけど……」
「雪蓮ちゃん? こちらの方は?」
突然やってきて親しげに話す俺をいぶかしげに見る老夫婦。
さすがに怪しんでいる訳ではないようだが……とまどっている様子だった。
「あ、ごめん! この人は私の仲間で刀月って言うの。よろしくね」
「刀月と申します。よろしくお願いします」
「刀月?」
「刀月って……あの刀月様かい!?」
何故様付け?
褐色ポニーが様付けでないのに、何故俺が様付けなのかわからず、俺は面を喰らってしまう。
だが……すぐにその理由がわかった。
「刀月様といえば、河川工事で我らの生活を豊かにしてくださったあの刀月様ではないのかい?」
「知っているのか、ばあさん?」
「寝ぼけたこと言わないでくださいよおじいさん。息子が工事現場でお世話になって色々と話していたあの人ですよ!」
あぁ……家族の連中が工事現場で俺と出会ったことがあるのか……
それなら……様付けの理由が納得できた。
俺の工事で働く姿を見れば……様付けされても不思議ではないかも知れない。
「おぉ!? あの人の事か? 本当に実在しておったのじゃな」
「刀月様、工事現場では息子がお世話になっております。あなた様のおかげで我らも水が利用しやすくなって本当に助かっております」
「俺にお礼をいう必要はありませんよ、ご婦人。俺よりも民のことをしっかりと考えている呉にお礼を言ってください」
偉ぶる気は全くないので、俺としてはお礼を言われても困ってしまう。
故にやめて欲しいとお願いするのだが……丁寧すぎるのも良くなかったのか、さらに頭を下げられてしまった。
確かに治水工事とかのおかげで豊かになったのは事実だ。
災害を防ぐためには、土木工事を行うのがもっとも手っ取り早いが……その土木工事を行うのは本当に金がかかる。
重機がないため完全人力。
食い物ですら困るこの時代に……治水工事を行うのは余裕があるのと、何よりも「治水工事を行うことで災害が減り、それによって生産力が上がる」という発想が浮かばなければ行えないのである。
土木工事はいわゆる投資的行動と言って良い。
投資というのは……本当に根気がいる。
すぐに効果が出ないからだ。
つまり、土木工事を行う事が出来る呉というのはそれだけ優秀と言って良いだろう。
まぁ俺がいるからってのも大きいんだろうが……
重機なんぞ目ではない俺がいるのだ。
土木工事を行うのにもっとも面倒な大きな岩の処理だったり、伐採伐根が一瞬で出来る存在がいるのだから、便利で仕方がないだろう。
そのため……名前だけは結構売れてしまっている。
「刀月様、お話を聞く限りではまだ独り身と聞きますが、どうですか? 儂の孫なんぞは」
おっと……面倒な話になってきたぞ……
下心が皆無というわけではないだろうが……言葉にはそれ以上に世話になった恩人に恩返しがしたいというニュアンスで言ってくるので、実に面倒なことになってきた。
と思っていたのだが……
「孫は十になったばかりですが、器量がよく身内のひいき目を見ても実に可愛らしい子で、料理もよく出来ます。いかがですかのぉ?」
……まずい、ぶっ飛ばしてやりたい
俺の力ではたくだけでも昇天しそうな年配の方なので当然するつもりはないが……気持ち的には今にも拳を堅く握りそうになってしまう。
どうやら未だ俺の幼女趣味というのは、根強く残っているようだ。
未だ女を作ろうともしないため、ある意味で仕方ないかも知れない。
さらに言えば……一億歩譲って、男色家よりはマシだと思えた。
いや、マジで五十歩百歩か?
と、俺がどう反応していいか困っていると……横で腹を抱えながらも必死に笑うのをこらえている褐色ポニーがいる。
ぶっ飛ばしたくて仕方がなかった。
「ぶっ飛ばすぞ孫策?」
「ご、ごめんなさい。で、でも……おかしくって。ぷ、あ、あはは! だめ、こらえられない!」
悪気がないのはわかっているが、悪気がないから何でもして言い訳ではない。
気分が悪くなるのは当然のことだろう。
まぁこの程度で本気で怒るほど俺も子供ではないのだが。
結局褐色ポニーが自身のお抱えの姿絵師を派遣することで話は落ち着いた。
最初は恐縮していた老夫婦だったが……今度二人が作った飯をごちそうしてもらうことで、費用の代わりとしていた。
褐色ポニーにごちそうできるのが何よりも楽しみなのか、老夫婦は姿絵が出来ることよりも、褐色ポニーが遊びに来てくれることを楽しみにしながら帰路についていった。
「少し用心が足りないんじゃないか?」
老夫婦の姿が見えなくなるまで笑顔で手を振っていた褐色ポニーに、俺は苦言を呈する。
今のこの流れで話をするのは……老夫婦の家に行くことも反対することになってしまうが、さすがに言わないわけにはいかなかったので、俺は嫌々ながらも口にする。
「確かにそうかもしれないわね」
お、意外に冷静
てっきり怒るかと思ったが……特段怒ることもなく、冷静に分析している様子だった。
となると逆にそれでも何故ここまで隙だらけな事をするのか……その考えを聞きたいので、俺は褐色ポニーの言葉を待った。
「でもお年寄りと接してもらうのは貴重だと思うの。私が知らないことをたくさん知っているから。話をしてるだけでもとても勉強になるわ」
「ほう」
「それに……あの人達がいるからこそ、今の私たちがあるのよ。だから、敬うのが、私に出来る恩返しだと思うの」
「まぁたしかに」
先人がいるからこそ、今の人がいる……この世界がある。
今の自分がいる。
当たり前のことであり、ある意味で当然のことなのだが……それを忘れてしまうことが多々ある。
親がいて、祖父母がいる。
そしてそれよりも前の世代がいるからこそ……今の自分がいる。
決して老人だからといって侮って良い理由はないのだ。
まぁ……老害もいるにはいるが……
これについては老害に限らず全ての世代で他人に害する存在はいる。
要するに……人に迷惑を掛けて平然としているクズはくたばれば良いと思うのが、俺の思想だった。
閑話休題。
「それに誰しもいつ命を落とすのかわからないわ。だから……思いを受け継いで伝えて生きたいって思うのは、誰もが思うことじゃないかしら?」
「……それがわかっているのなら護衛を付けろ」
「そうするとあまり気軽にみんなと話せなくなるから……考えておくわ」
正直な話……怒鳴り散らしたい気持ちだったが、しかしさすがにこの話の流れで怒鳴るわけにもいかないだろう。
そして極端な話……上の危機管理が足りないのであれば、部下が動くしかない。
その部下というのは俺の事であり……文官の連中に良い人材がいないか聞くだけは聞いておくとしよう。
やれやれ……なんというか、誰かの部下になるってのは初めての経験だが、大変だなぁ……
「というか刀月はどうしてここにいるの? 何かしてたの?」
露骨な話題展開とわかっていたが……これ以上言っても無駄だと思った俺は仕方ないので話題転換に乗ってやることにした。
「食材と市場の相場視察だ」
「へぇ。そんなこともしてるのね?」
「相場がわからなければぼったくられるだけだからな」
特に俺の場合、呉に仕えているということで結構な賃金をもらっている。
裕福なやつから少しでも利益を得ようとするのは……ある意味で当然の思想なのでそれを責めるつもりはないが、かといってぼったくられるのを由とするほど俺もお人好しではない。
故に市場視察は定期的に行っていた。
「真面目ねぇ」
「お前が不真面目なだけだと思うが?」
「ひどいわね。私は何だって真剣にやってるわよ!」
「遊びもほどほどにな」
ここで言っても無駄だとわかったので、俺は仕方なく……本当に忸怩たる思いで豚の餌やりをするという、褐色ポニーを見送った。
本当に危機管理意識を少し刺激しないと危ないと……再確認した。
かといって俺がやるとなぁ……これ以上警戒されてもあれだしなぁ……
何か良い手段はないものか?
そう考えるも……妙案は浮かばなかった。
頭脳労働担当に……丸投げしようかなぁ……
俺が頼りに出来る頭脳労働担当は……呂蒙とノブと妙手娘である。
しかし三人とも忙しくしている。
そんな状況下でこの中で、もっとも頼みやすいのは……
妙手娘かな
一応対外的には部下扱いなので問題ないだろう。
上司が部下に無茶振りするのは、どこでも一緒なのである。
※ これはパワハラに該当すると思う
読者のみんなはくれぐれも部下を大切にしてあげてね!
まぁ……後輩ではなく部下と言えるほどの地位の人が、俺の小説なんて読んでないと思うけど!
By作者(一時期パワハラでひどい目に遭ってました(遠い目))
さてと……どう頼むかねぇ……
ない知恵を絞ってもろくな事にならないだろう。
とりあえず丸投げはさすがにあれなので、相談に乗ってもらうことから始めようと思う俺だった。
そんな事があった日からしばらくした時だった。
褐色ポニーが暴走したのは。
「賊の討伐に行っただと? 盟主自ら?」
俺がその話を聞いたのは、ちんちくりんの昼飯を作り終えて俺自身が飯を食べ終えた……とある日の昼下がりだった。
近隣で賊が出た……袁術家との合併を快く思わない豪族子飼いの賊……らしい。
その討伐に向かったらしい。
盟主自ら向かうのは今回の場合は豪族をおとなしくさせるために必要なことなのだが……戦闘である以上少々心配なのは事実だった。
褐色ポニーが戦上手なのは知っているし、今回の相手はただの賊だ。
負けることを考える方が難しく、さらに褐色妖艶がついて行っている。
心配は心配だが……大丈夫だろう。
というか、大丈夫と信じるしかないか……
出立した以上……命令されてもいないのに俺が出張ればそれこそ命令違反だ。
俺の知識は以下略なので、俺の世界における孫策が、いつ、どこで、誰に……殺されるのかは詳しくは……毒殺なのは知ってる……知らない。
そして性転換しているこの世界では本当にどこまで俺の世界の歴史が一緒かは謎だが……まだ死なないと信じておくしかないだろう。
まぁ仮に死んだとしたら……どうにもならないが……
そんな少々薄情なことを思いながら仕事をしていた。
「とーげつ。草むしりおわった」
「おーすまん。んじゃ、次は俺と一緒にここに畝を作ってもらっていいか? ある程度形を作ってくれたら後は俺が整える」
「ん。わかった」
大陸最強クラスの武将を……草むしりといった農作業をさせる。
諸侯が知ったらびっくりすること請け合いだったが……当人がやる気なので俺としてはありがたかった。
入れ墨娘はすでに簡単農作業……畝を作る等……は出来るようになっていた大助かりだった。
褐色ポニーの賊討伐出立より早数日。
何事も起きることなく、俺は本日の業務に邁進していた。
本日の業務は俺がこの都で栽培している畑の手入れだった。
刀村からいくつかの作物を持ってきて、この都でも栽培している物だ。
俺の直轄管理であるため、他の連中は入ることも許可していなかった。
「刀月! 恋殿にこんな事をさせるとは何事ですか!」
「黙って仕事しろ。働かない奴に飯を食わせるつもりはないぞ俺は」
入れ墨娘がいるところにはパンダ帽子ありとでもいうのか……なんだかんだ文句を言いながらも俺の仕事を手伝う幼子。
最初は本当に邪魔するだけだったのだが……入れ墨娘が黙々と働いていること、そして俺の餌付けが効いたのか、こうやってたまに俺に叫んできたりするが、仕事を手伝うようにはなっていた。
まぁ飯抜きにしたのもでかかっただろうが……
働かざる者食うべからず。
といっても、パンダ帽子は頭は良いので施策にそれなりにいい案を出してくれたりする。
さすがに幼い故にまだ荒い部分もあり、採用されることはあまりないが……幼さ故に将来性を期待されている。
ただし、それでも仕事をしなければ問答無用で飯抜きにしたり、お説教はする。
そんな教育ともいえることをしながら、本日の農作業に精を出していると……遙か先に褐色ポニーと褐色妖艶の気配を俺は察知した。
おや……お帰りのようだが……? 何か気配がずいぶんと荒々しいな?
他の連中の行軍状況から察するに、帰陣しているだけというのは想像ができるので、間違いなく非戦闘状態のはずだ。
だというのに、褐色ポニーの気配は今から敵陣に突っ込むのではないかと思うほどに、戦意が漲っていた。
そして気のせいでなければ……褐色ポニーはこの都に入ってきて一直線にこちらに向かってきている。
やれやれ……何があったのやら
農作業で曲げていた腰を伸ばしつつ……俺はやむを得ず手にしていた鍬を手放して、道具運搬に使用しているねじり金棒に手を伸ばした。
いくつもの節としてねじったこの金棒は……物運びに実に便利な代物だった。
また鍬の先端にある楔を外して、俺は取っ手と金属部分を分離させる。
鍬の取っ手には木刀を使用しているので、金属部分と取っ手を分離すれば木刀として利用できる。
取っ手の木刀を用意して腰の帯に差した。
「とーげつ?」
「む? どうしたのですか? まだ仕事は終わってないのですよ?」
「来客。やむなく休憩だ」
俺が深々と溜息を吐きながら、休憩所としてほぼ中心部に設置している屋根付きのベンチの側へと移動する。
ベンチの側には、俺が休憩中とかに訓練が出来るように、ねじり金棒が十分に振ることが出来る広場を設けている。
最初こそきょとんとしていた入れ墨娘とパンダ帽子だったが……近づいてくる戦意に入れ墨娘がすぐに気がついて、パンダ帽子を後ろへと下がらせる。
何故自分が庇われたのか理解できなかったパンダ帽子だったが、すぐにその理由を理解した。
馬蹄の音が響いてくる。
街中もなりふり構わず速度を出して走らせたのだろう。
荒々しく嘶く馬と共に……褐色ポニーが駆けてくる。
その後ろに……褐色妖艶が必死に付いてきているのが目に見えた。
馬蹄の音すらも置き去りにするかのように……俺を視界に収めた瞬間に、猛烈な殺意が俺を貫いた。
非常に危険で興奮している盟主に苦笑しつつ……その戦意を受け止めると言わんばかりに、俺はねじり金棒を両手で大きく振り回して肩へと乗せる。
その俺の目の前で……褐色ポニーが馬を止めて下馬して、俺を睨み付けてくる。
「……勝負しなさい」
「勝負って。お前なぁ? 帰陣してすぐに特攻とか……他にやることあるだろ?」
盟主として反乱してきた連中に知らしめるための賊討伐。
それが終われば報告なり今後の方針を決めなければいけないと言うのに……こいつはそれら全ての責任をほっぽって、俺へと文字通り特攻してきた。
さすがに口上もなしに本当の意味で特攻をしてきたわけではないが、いくら興奮しているとはいえ全く持って褒められたことではない。
呆れるしかなかったが、今のこいつに言っても無駄なのはわかっていた。
しかし一応臣下として忠言をしなければいけないだろう。
「それで? 一応言わせてもらうが、素直に戻って執務に戻る気は無いんだな?」
「あなたが私の相手をしてくれたら……それでもいいわよ!」
ほい、言質を取りました!
食い気味に襲ってきた褐色ポニーの剣撃を……俺はねじり金棒にて受け止める。
!!!!
実に荒々しくも澄んだ金属音が、辺りの空気を震わせる。
その金属音に、俺は素直に感心していた。
あれま……結構いい剣だな……
初めて俺の得物で褐色ポニーの得物……南海覇王という名の剣……受け止めて驚いた。
聞いた話では呉の盟主に代々受け継がれてきた剣らしい。
刀鍛冶としての俺からしても、それなりに良い音色を響かせていた。
だが俺が鍛えた刀には遠く及ばず。
そして……力量についても、俺に遠く及ばなかった。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
風を切り、凄まじい速度と力で振るわれる剣。
その全てを……俺はねじり金棒で何ら問題なく捌いていた。
しかも……ねじり金棒の末端を持った状態で。
半ばを持つほうがよほど振りやすいのだが……しかし興奮しているだけの褐色ポニーが相手ではこれで全く問題がなかった。
!!!!
体事突っ込んできた体当たりのような剣撃を、俺は同じような姿勢で受け止める。
そのため鍔迫り合いのような体勢になり、一種の膠着状態へと陥った。
「舐めてるのかしら? 本気を出してくれないと収まらないのだけど?」
「舐めるに決まってるし、本気を出すまでもないし、阿呆の興奮を収めるつもりもない」
「……言うわね」
「言いたくもなる。俺に本気を出させたいなら……もっと精進することだな」
あえて拮抗させていたのをやめて、俺は四肢に力を込める。
気力のみの使用だけでも十分だった……頭に血が上った阿呆の相手を本気でするのも馬鹿らしい……ので、俺は力のみ全力を出してその頭を大いに冷やすことにした。
「ほい」
かけ声こそ適当で気が抜けるような感じだが……気力を使用した俺のねじり金棒の払いだ。
接触状態から一瞬にして全力を出した俺の払いは、褐色ポニーを吹き飛ばした上で体勢を崩させるのには十分すぎた。
押されたため後方へとバランスを崩しながら、横っ飛びに吹き飛んでいく褐色ポニーに俺は一瞬して接近し、大上段に振り上げたねじり金棒を思いっきり褐色ポニーへとたたきつける。
「!?」
バランスを崩し、吹き飛ばされたと言っても武将の褐色ポニーだ。
無防備のまま喰らうようなへまをしなかったが……南海覇王で防御するのが精一杯で、横っ飛びの状態から思い切り地面にたたきつけられる形になった。
「がはっ!?」
後頭部を打つようば無様を晒すことはなかったが……思い切りたたきつけられて肺の空気を残らず吐きだした。
衝撃で目をつむってしまった褐色ポニーの首元へ……俺はねじり金棒を持って行って、勝利宣言を行う。
「おい盟主様? この場で俺が殺す気なら……お前はすでに死んでるんだが、その辺どうお考えか、俺に教えてくれないか?」
「くっ……」
ここまで完膚無きまでにたたきのめされれば、さすがに頭も冷えたのだろう。
悔しそうに顔を歪めているが、先ほどまでに不細工な殺気と戦意が消えている。
少し冷静になったと見るべきだろう。
!!!!
そんな勝利宣言をしている俺に向けて、いくつもの矢が放たれる。
周囲に庇護対象がいなければねじり金棒か素手で払ったのだが……パンダ帽子に間違っても当てるわけにも行かないので、やむを得ず俺は全ての矢を片方の手で全てつかみ取っては地面に捨てる。
五人張りの弓にあやかってか五射されたが……その全てを問答無用で防いで、最後の一射だけは相手へと返す。
放たれた時と同じ速度で飛来する矢を、俺に射てきた存在は難なく腰の剣を抜剣して払った。
ほぉ? こいつが剣を振るのを見るのは初めてだが、やるようだな……
「見事じゃな刀月。」
放たれた矢と同じ程度の速度で返した矢を剣で払ってから、俺に矢を射てきた存在……褐色妖艶の黄蓋が実に嬉しそうに笑みを浮かべてそう俺に声をかけてくる。
そんな嬉しそうな褐色妖艶とは正反対に……俺は深々と溜息を吐きながら、褐色ポニーから一歩退きながら言葉を返す。
「どいつもこいつも血の気が多いな、おい。しかもあんたは口上もなしだが……武将としてそれで良いのか? しかもお前は二度目だな、黄蓋」
「確かに。だが……儂も策殿に充てられて滾っておるのじゃ。そんな儂の相手をしてくれても良いと思うが?」
「お前も報告はしたのかよ?」
「してきたよ。策殿が暴れるのでそれを止めてくるとな」
「それで通じたって事は……」
「お察しの通りよ。たまにあるのよこういうときが。まぁ策殿もまだ若いという事じゃな」
人のこといえね~だろ、お前さん
盟主を止めに来たというのは嘘ではないのだろう。
実際こいつは盟主が俺にやられるまで、戦闘に割って入ってこなかったことは事実。
俺に褐色ポニーの相手をさせて、ガス抜きをさせたのは間違いない。
だが俺と褐色ポニーとの戦闘を見て、自分もガス抜きをしたくなった……ということだろう。
やれやれ……これだから戦闘狂の連中ってのは……
面倒だと思うことも事実だが、俺自身も戦うことを好いている。
自らよりも強者がいるのであれば……そしてそいつが好意を抱けるような人物であれば、純粋に勝負をしたくなる気持ちは十分に理解できる。
それに……こちらとしても少し余裕が出来たのは事実だった。
ならば、俺自身の感覚を取り戻すのもかねて、戦闘を行うのも一興というものだろう。
というよりも……俺自身も対人戦闘がおろそかになっている事は事実だった。
せっかくいい練習相手も出来たことだしな……
言うまでもなくそれは入れ墨娘だ。
入れ墨娘自身あまり戦うのは好きではないようで、入れ墨娘から戦いを申し込まれた事はなかった。
俺自身もさすがに嫌がる相手を無理矢理戦わせるのは嫌だったので、無理強いはしなかった。
しかし側で戦っていれば入れ墨娘も戦いたくなるかも知れない。
俺としても戦力の強化は良いことなので、入れ墨娘の相手も行って戦力を強化したかったのだ。
お前ら二人には悪いが……入れ墨娘を焚きつける餌になってもらおう
その過程でこの二人とも戦うので、この二人としても悪い話ではないだろう。
まぁ……お仕置きはするがそれは後にして……
「んで? どうするんだ?」
「ふむ? どうとは?」
「このまま続けるってのなら構わない。だがその場合、すでに俺に負けた孫策は当然として、負けたらそれなりのペナ――罰は受けてもらうがそれでいいな?」
「ほう? 罰とな?」
「俺の仕事妨害してるんだから当然だろう?」
そう俺自身も戦うこと自体嫌いじゃないし、ようやく対人訓練も出来る程度に余裕も出来てきたのだ。
こうして農作業も行っているが、あくまでもそれは俺の直轄管理地のみで、他の一般的な田畑は街で契約した奴に任せている。
袁術に仕えている……と街の連中は思っている……俺が、一般的な農家の連中に契約を持ちかけた時の反応は今でも忘れられない。
まぁ以前の執政がだいぶあれだったしな……
労働には対価が無ければいけない。
俺としてはただ働きなんぞさせたくないので、報酬の支払いは絶対だった。
元がひどいことも相まって……ひどく恩義に感じてくれて、一生懸命仕事に励んでくれていた。
たまに珍しい料理も振る舞っているので、それも得点が高いようだ。
契約農家のおかげでだいぶ楽が出来ており、また俺がこっそり夜中なんかに刀村に戻って……台車一台分ぐらいの食料であれば運搬に造作もなかった……食材も確保している。
村の連中の食料奪うわけにもいかないから、俺の秘密兵器が主なのであまりやりたくないが……
契約農家の仕事のおかげと、へそくりを崩しているため、正直この二人に妨害されたところで底まで痛い訳ではない。
しかもせいぜい一日……半日程度の遅れは俺が頑張れば遅れを巻き返すことは十分に可能だ。
しかしそれとこれとは話が別なのだ。
人に迷惑をかけておいて……人の仕事を邪魔しておいて、何もないというのは俺が納得できない。
確かに賊の討伐で興奮していることは事実なのだろうが、それが暴走をしていい理由にはならない。
さらに言えばまだ突然襲いかかってこないできちんと……きちんと?……声をかけてきたためまだ俺も怒ることはしなかったが、もしもパンダ帽子がいるこの状況で文字通り「問答無用」で斬りかかって来た場合は、本気で叩きつぶしていただろう。
俺もいらだっていることで少し冷静じゃないな……
自ら思考を巡らせたことで、俺も少し冷静じゃないことに気づいて、俺は一度深呼吸をして大きく息を吐き出した。
逆に言えば少し怒る余裕が出来てきたということだろう。
その変化にありがたさを覚えつつ……俺は少し呉の問題点を考えていた。
まぁ身内に甘いというか……甘すぎると言うか……
盟主自ら出陣した。
そして帰陣しても報告にも行かずに俺に特攻してくる。
宿将という昔から仕えている褐色妖艶の様子と証言から言って、この興奮状態は初めてではない。
確かに興奮もするだろう。
だが……それで全てを放っておいていい理由にはならない。
嫌な経験を思い起こさせやがる……
褐色の肌というのが……嫌な思い出を、実に深く思い出させてくれる。
それは俺が未熟以外の何物でもないということなのだろう。
同じ轍を踏んで欲しくないという思いもかねて……教育した方が良いかもしれない。
あと甘やかすのが良くない……
前に褐色妖艶と褐色知的眼鏡の会話も聞いたことがあったが、甘い。
確かに褐色妖艶は間違いなく気分屋に近いところがある。
本人が望むように仕事をさせるのがもっとも良い仕事をするのだろう。
だがそれでも規律は必要だし、やって良いことと悪いことがある。
今回の件は……甘やかしと、俺への口上なしの攻撃……度が過ぎている。
「罰則が怖いなら……しっぽ巻いて逃げても良いぞ? あぁ、もしも挑んでくると言うのなら、兵装の使用はどうぞご自由に?」
「言うたな、小僧!」
あえて挑発したのだが……どうやら弓では俺に勝てないと判断したのか、弓を肩にかけて俺に剣で斬りかかってくる。
さすがは実戦経験が豊富なだけあって、洗練された動きだった。
弓が一番得意なのは間違いなさそうだが、それでも剣にしてもかなりの実力を誇っている。
総合的な実力は間違いなく褐色妖艶の方が上だろう。
だが……興奮状態と言うことを考慮しても、褐色ポニーの方が
荒くはあるが……勢いがある!
逆に言えば褐色ポニーはまだ技術が拙く、力任せ。
一長一短というか……俺も含めてまだまだ未熟ということ。
このまま稽古をつけるのも良かったが……しかし今回は罰則の意味が強い。
以前の入れ墨娘との戦いも見ている故に、このまま押し切れるなんて甘い考えはないだろうが……直にたたきのめした方が良いことは間違いない。
故に俺は褐色妖艶にあわせて最長にして最大、今の最強の得物である……ねじり金棒を一度宙へと放り投げた。
俺の行動を訝しむ褐色妖艶だったが、俺が腰に手を持って行こうとしているのに気づいて、すぐに俺の行動を阻害するため、腰元へと剣を突き込んでくる。
だがこれは囮。
俺は突き込んできた剣先を腰に添えた両手で掴んで動きを止め、その剣を体事引く。
剣を手放す暇も無かった褐色妖艶は、俺に引き込まれて前傾姿勢となってしまう。
前傾姿勢になり、胸部が前に出てきているので……俺はその胸部に対して、思いっきり引き込んだことで褐色妖艶に突き出す形になっている右肩で、体当たりを行った。
「!?」
胸部から思いっきり体当たりをされたことで、息をすることも出来なかっただろう。
悲鳴を上げることも出来ず、褐色妖艶が地面へとたたきつけられる。
たたきつけられた褐色妖艶が苦しそうに顔を歪めた。
勢いに耐えきれずに手放した褐色妖艶の剣の腹で、俺は思いっきり褐色妖艶のデコを叩いた。
!!!!
実に鈍い音が、褐色妖艶のおでこから鳴り響く。
褐色妖艶の剣もそこそこいいもののようで、俺が本気を出していないとはいえ、俺の一撃に耐えて見せた。
しかし、武器の主はさすがに意識を保てなかったようで、目を回していた。
俺はそれに対して、溜息をつくしかなかった。
「呂布。すまん。水筒持ってきてくれ」
「ん」
気絶までさせすぎたのは反省すべき事として、自分の中で×を付けて……俺は入れ墨娘に水筒を持ってくるようにお願いする。
持ってきてもらった水筒の中身の水を俺は左手で持つ。
そして左手を風翔の能力を使って絶対零度まで下げて、中の水を急速に冷やしてから……容赦なく伸びている褐色妖艶の顔にぶちまける。
「!? くっ!?」
「さっさと起きろ」
腐っても宿将と言うべきか……水をかけてすぐに状況を思い出して咄嗟に右手を伸ばしていた。
恐らく普段寝床の側に置いてある剣の方へ手を伸ばしたのだろう。
だがここは褐色妖艶の寝床ではなく、剣もすでに没収しているので手はむなしく空を掴むだけだった。
「さて、盟主に宿将が一対一とはいえ敗北。つまりやろうと思えば俺は呉の乗っ取りが出来る訳だが……そこをどう思う? 負け犬の二人?」
「「……」」
敗者の二人は無言……俺に正座させられている……だった。
無言なのは俺が乗っ取りなんて考えてないのがわかっていることもあるのだろう。
もしくは慣れない正座で膝が痛いのかも知れない。
足を痺れさせるまで正座をさせても良いのだが……あまりに生産性がない。
故に俺は説教したい気分だったが……説教よりも罰を与えることにした。
といってもこの国において重要な要職に就いている二人を、罰とはいえ入れ墨娘と同じような仕事をさせるわけにはいかない。
であれば何が罰となるのか?
簡単だ。
信賞必罰
そして……相手が何をもっとも嫌がるのか? それを考えるのが戦の基本である。
いや、戦じゃないけど
酒好きの二人が罰を受けることになったのだ。
ならば答えは簡単だった。
といっても準備にすこし手間取るので、今日罰を下せないのが、実に締まらないが……
とりあえず二人は再度説教。
そして説教とは別に二人に約束させた。
きちんと仕事をこなしたのであれば、こちらとしても勝負を仕掛けてくるのはやぶさかではないと……
これについては俺にも責任があったので、こういわざるを得なかった。
ただし仕事の妨害を何度もされるのは困るので、きちんと約束はさせた。
そして予定通りというか予想通りというか……後世に名を残した武人である呂布が、俺の戦闘を見て全く心が動かないと言うことはあり得なかった。
「とーげつ。私も……戦いたい」
「オーケ――失礼。了解だ。お相手頼むよ」
「ん」
気力と魔力を併用する俺には当然叶うことはないのだが……俺としても鈍った対人戦闘の勘を取り戻すのに大いに役立ってもらった。
入れ墨娘としても、俺と戦えるのは楽しかったようで、後日も何度か相手をすることになった。
そして……この勝負から数日後。
「ほい、鯖味噌定食に刺身と醤油……そして俺の酒だ!」
そういいながら配膳して俺が取り出したのは、俺の最強の秘密兵器、日本酒だった。
褐色ポニーと褐色妖艶に突っかかられた数日後。
俺自ら夕食を作ると立候補して食事を用意。
もちろんこの場には大人だけではないので、お子様にも喜ばれる菓子も用意した。
酒も俺がこの街で造っている秘蔵の物を出してきた。
ほぼ完璧である。
そして当然……これは罰のため……
「刀月……あなたには血も涙も無いのかしら?」
自分の仕事を放置して、俺の仕事を邪魔しにきた二人には俺が用意した料理ではなく、他の一般兵が食べているのと同じ食事を用意した。
さすがに武士の情けとして、俺が調理をしたので一般兵の食事よりも格段にうまいのだが……俺が丹誠込めて作った食材を調理した料理に勝てるわけもなく、酒も用意していなかった。
「血も涙もあるに人間だ。ただし普通の人間じゃないことは知っているだろう? 仮に普通だろうがなかろうが信賞必罰はこの世の摂理の一つ。安易に仕事もせずに突っ込んだ己の未熟さを呪うが良い」
「小僧……貴様、儂にも同じ罰を下すというのか?」
「言ったはずだ、罰は受けてもらうと。それを言ってなおお前も俺に挑んで負けたのだ。別段守らなくても構わないし、それこそ二人とも俺よりも上司である故に、命じてもらっても構わないが……その場合俺の二人に対する「信頼」は失われるがいいか?」
「「ぐっ」」
酒に合う料理に、酒に合うつまみ。
それが目の前にあって、他の連中は飲んでいるというのに、自分たちは飲めない。
特に酒に合うように少し濃いめの味付けにしている。
さらに言えば褐色ポニーは一度飲んだことがあるので拷問にも等しい罰だろう。
歯ぎしりして血涙流さんばかりに酒を飲んでいる面々を睨み付けていた。
「脅してどうする!」
そんな褐色ポニーに、俺は厚手の布でくるんだ小石を指で弾いてお説教。
デコに当たったため、褐色ポニーは文字通り頭を吹き飛ばされてひっくり返った。
この場にいるのは罰を与えている褐色ポニーと褐色妖艶の他には、褐色知的眼鏡におっとり眼鏡、そしてちんちくりんと甘やかし短髪のみだ。
その中で……俺はこの場にいる人間の事を子細に観察しており、知りたい情報を手に入れていた。
全く……予想していた通りだが、甘いなぁ……
罰を与えるつつも、それだけではなく他のことにも手を回しておく。
一つのことだけをやっていたのでは、こちらとしても問題がある。
その課題が少しずつ見えてきた。
前途多難だ……
せっかく敵のしっぽを掴んでも行動できない自分に歯がみしつつ……俺は食事を行った。
5尺の古刀が欲しいなぁ・・・・・・・
遠い目w