二週間ほど休みました、申し訳ない
先々週はFGOのBOXガチャが忙しかったもので
ようやくすべての鯖を最終再臨までできて、さらに貯金と種火の貯蓄もできましたw
んで、先週は太刀運搬袋が佳境に至っておりまして
こちらもおかげさまで完成させるに至りました~
太刀袋の出番は月末なのですが、九割以上完成していると完成させたくなるじゃないですか?
さて話を本編にしますと、今回も好感度上げの話です
本編進まないのであしからず~
あ~~~~~仕事した……
本日の俺の仕事は土木工事の関係で、捻れ曲がった川を少しでもまっすぐにするものだった。
川といってもさすがは中国大陸の広大な川。
しかも呉の本陣は海に近いこともあって、本当にでかい川なのだ。
故に毎年水害もしゃれにならないこともあって、本格的に工事することになったようだ。
噂の土木怪人が俺という事を知ってから……褐色知的眼鏡こと、周瑜の行動は早かった。
最初は確認の意味もかねてたいしたことのない工事から作業を命じられた。
故に……俺は普段通りに工事を行った。
そのときの褐色知的眼鏡の驚愕した顔は、見物だったな……
何せ大の大人が数人手をつないで輪を作って、ようやく囲めるほどの巨石を俺は楽々一人で持ち上げるのだ。
褐色知的眼鏡だけでなく、周りの連中も驚いていた。
また大の大人一人では手が回すことが出来ないほどの巨木も……俺にかかれば10秒もあれば枝落としに抜根も出来るのだ。
そしてその俺が伐採した木を加工して地面に打ち付けるのも早々に終わる。
地面を少し掘っておき伐採した木の先を尖らせ、尖らせたのとは反対側を持って飛び上がって、掘った穴に入れる。
後は他の連中にも手伝ってもらって、立ち上がっている木を縄で固定してもらって、後は俺が何度も上から垂直に殴れば他よりも早く木を打ち付けられるのだ。
他にも多くの案件があるが……俺の有無は工事においては絶大な影響力がある。
土木工事においては実に頼りがいがあると言って良いだろう。
そのため、えっらいこき使われる事になってしまった。
まぁこき使われている理由は……驚いた周瑜が少しおかしくて笑ってしまったことが原因だろうが……
悪気はなかったが笑ってしまって少し怒らせてしまったのは事実だ。
無論それだけではない……というよりも圧倒的に呉のためを思っての事は間違いない。
俺が工事を頑張ればそれだけ呉が潤うのだ。
重機がないこの時代……土木工事というのは本当に一大事業と言っていい。
その一大事業を年単位で圧縮できる可能性があるのだから……褐色知的眼鏡としても俺を利用しない手はないのだろう。
戦闘しないから気が楽で良いわ……
こちらとしても土木工事は疲れるが……俺が疲れる位に体を動かせるために、俺としても体力作り兼持久筋を鍛えるための良いトレーニングになるし、何より気が楽だった。
最近よくちょっかいをかけてくる褐色ポニーや褐色妖艶との模擬戦。
一対一で俺に勝てるわけもなく……だいたい軽くあしらって終わるのだが、この二人が結構しつこい。
しかも間違っても怪我をさせるわけにもいかないので、気を遣う。
入れ墨娘はまだ普通の武将であって重鎮ではないので、気が楽だし……俺自身が結構訓練になる相手なのでめんどくささよりも楽しさの方が上回っていた。
まぁそれはともかくとして……
そうして俺が体を動かしながら街を歩いていた。
時刻はすでに夕暮れ。
ここはまだ都故に帰りに一杯引っかけるという文化もあって、田舎とは違い飲みの客もいて活気に満ちあふれていた。
「刀月様! こんなところ!? 一緒に飲みませんか?」
「いや、い~よ。俺は帰る」
「刀月様! うちの店で飲んでいかれませんか!? お安くしますよ!」
「利用しようとする奴の店にはいかん。頑張って研鑽してくれ」
そうして歩いていると工事なんかで知り合った連中やらが俺を誘ってくれる。
俺の工事の光景はそれはもう……常識からかけ離れた光景なので、周囲の人間の反応はいくつかに分かれる。
一つは感動して何か異様に慕われる。
あまりにもおかしすぎるので驚かれて引かれる。
天上人!? とかいって何故か崇められる。
どれにしてもめんどくさい……
しかもそんな変人なり怪人の男は呉の重鎮から信頼し、重用……こき使われているともいう……されている。
さらに俺自身別段偉ぶるつもりもないので、普通に接することが出来る。
故に、ある意味慕われるのも無理はないのだが……中には先ほどのように、俺の料理がすごいことを知っている奴は、俺を店に誘って「あの刀月が来店した!」と箔を付けようとする奴もいるので油断ならない。
というかされてうんざりした……
そのため、俺がこの世界の飯を食って料理の味を確認する際は、能力すらも使用して俺自身を隠蔽する必要があった。
だが今はそんなことをする必要性もなく、工事で疲れているので能力を使用したくない。
人通りが少ないところいくか……
何度か工事を手伝って俺を認識している人間が多くなったこともあり、人通りが多いところは少々面倒になってきた。
そのため俺はやむなく人通りが多いところを避けて裏道へと足を運ぶと……偶然本屋を見かけた。
さらにその店から褐色知的眼鏡が、抱えるほどの書物を持って出てきたではないか。
勉強か……えらいな……
この時代というのは紙が貴重なのだ。
故に現代の本屋のように、マンガや小説といった娯楽の物はほとんどない。
絵本のようなものもあって無くはないがそれこそ少なかった。
故に本屋は専門的な知識の本がほとんどだ。
いや、本が貴重というのもそれはそれで重要なことではあるのだが……
もっと重要なことは……周瑜の護衛が一人もいないことだった。
呉の重鎮たる周瑜が、護衛の一人も連れて歩けよ……
全くもって褒められたことはないではないが……褐色ポニーも一人でプラプラと街を歩く姿を見かける。
だが褐色ポニーはまだ武人故にある程度の心配はしなくていい。
しかし褐色知的眼鏡は文官だ。
恐らく兵士どころか、この時代の成人男性に襲われる場合でも、少々危ういだろう。
そこらを少し……進言した方がいいかもなぁ……
半ば客将として仕えている俺の言葉がどこまで採用されるのかは謎だが……それはともかくとして、貴重な本をそれなりの数持ち歩いているのに、女の一人歩きはあまり良くないことだろう。
「一人か周瑜?」
だから俺としても、声をかけずにはいられなかった。
「? 刀月か?」
振り向き俺の姿を確認して、褐色知的眼鏡は少し驚いたようだった。
恐らく人通りの多くない本屋といった、あまり一般的に好まれない道に俺がいたからだろう。
一瞬イラッとしたが……特段反論する理由もなかったので、甘んじて受け入れた。
「珍しいところで会うな」
「まぁそれについては否定しないが……護衛は?」
半ば呆れながら、俺は褐色知的眼鏡にそう問うた。
だが気配からもわかるが護衛がいない。
少々抜けているというか、いくら膝元とはいえ油断が過ぎるだろう。
「腐っても呉の重鎮で名軍師ともあろう周瑜なら……護衛くらいはつけて出歩け」
俺はそう言いながら、両手で抱えている書物を丁寧に……しかし半ば強引に奪い取った。
その俺の行動に一瞬褐色知的眼鏡はきょとんとしていたが……すぐに苦笑した。
「優しいんだな」
「優しいんじゃない。お前らが少々抜けてるだけだ。真面目な話、護衛ぐらいはつけろ。特にお前以上に……孫策に」
「それは……まぁ私もよく言っているのだが……」
聞くようなタマじゃないか……?
言わんとすることはわかったので、俺と褐色知的眼鏡は二人して溜息を吐くしかなかった。
しかし俺としては褐色ポニーだけでなく、褐色知的眼鏡に対してもである。
ちょっと……危機管理意識が欠如しすぎかなぁ……
本格的にまずくなる前に少し提言すべきだと……気持ちを新たにした。
しかしそれを今言ってもしょうがないだろう。
知的褐色眼鏡の様子から言って今は恐らくオフの時間だ。
オフの時間を邪魔されるのは俺としては我慢ならないので、提言はこの程度にすべきだろう。
「ところで……この大量の書物は何だ? といっても、軍師たるお前さんの事だから、勉強のための本だとは思うが?」
「その通りだ。私も大軍師などと呼ばれているが、所詮は一人の人間に過ぎない。蓄えた知識の中から、どれだけ的確に状況に応じた知識を選ぶことが出来るのか……それが知謀という力にすぎない」
ほう……参考になるな……
本当の乱世に生きた存在……後生まで名が残る周瑜の考え。
一兵士に過ぎない俺だが……大局を見ることが出来なければ意味がない。
兵士だからといってそれに甘んじているのはあまりよろしいことではないだろう。
そこで俺も少し意見を伺った。
「しかしそうなると自分が知らない状況に陥ることもあるだろう? その場合周瑜としてはどうやって乗り切る? こうやって知識を深めているのはよくわかるが、それでも限度があるだろう?」
「ふむ……刀月の言うことはもっともだ。その場合私としては類似の物をいくつも頭に浮かべて、それらから適合するものを選んで頭の中で再構築する」
「ふむ……そうなるとどれだけ知識を詰め込むかということか……」
「そうなるな」
「だからこれだけ大量の本を読むと言うことか?」
「まぁそうだな。私も一人の人だから、知識を蓄えるのに必死なのだ。まぁといってもそれだけでは絶対に対応できない状況に陥ることもある。だから蓄えた知識に自分の直感なども信じて指示を出すこともあるな」
なるほど……蓄えるだけでなくやはり己の直感も必要と……
抱えるほどの量だ。
10冊以上の本が俺の手元にある。
金についてはこいつ自身、相当の高給取りのはずだから問題はないだろう。
俺が心配するのは、護衛を連れてないことと……もう一つあった。
気が乱れているんだよなぁ……こいつ……
わずかに体の中に淀みのような物があって、それが気の流れを阻害している……そんな気がした。
俺の現実世界にいたときも医療の知識が多少あったのと、気が使えることで多少の医術は使えた。
今は老山の力を手に入れたことで、前よりも気の流れがよくわかるようになった。
まだ小さな淀みだ。
しかしこいつの年齢を考えると、あまり楽観は出来ないだろう。
時代がずいぶん昔ということを差し引いても、あまり良いことではない。
周瑜がどのように死ぬのか俺は知らないのだが……放置して良い案件ではないだろう。
最悪……華佗を呼ぶのが無難か?
以前に会った華佗を思い浮かべる。
この時代に消化に悪いという事を認識できる存在。
医者としてかなり優秀なのは疑いようがない。
またもし華佗が医者として偽物であったとしても……あの感じから言って恐らくそれはないだろうが……俺がいるので何とか出来るだろう。
だが医療については俺も自信がないので、万全を期すためにどうにかして華佗を呼ぶのも手だ。
噂を流すことも考えると……少し急いだ方が良いかもしれないな
噂というよりも……俺が華佗を呼んでいるという事を言伝で方々に伝えてもらうしか伝達手段がなかった。
最悪は俺が華佗の気を探して飛び回っても良いのだが……そうなるとどうしても俺が長期にいなくなることになるので行うのは難しい。
最悪の事態に陥ってからそれをしていては……どう考えても手遅れになるだろう。
それもやるとして……まぁ今は別にいいか……
全てを棚上げにする事になるが……今すぐ何かが起こる予感もない。
噂は近々流すとして、俺は仕方なく護衛兼荷物運びを行うことにした。
ただ、一応釘は刺しておくことにする。
「弟子……といっていいのか? 呂蒙と一緒でお前も勉強にどん欲なんだな。勉強することは良いことだし、それがこの国のためにもつながるのだが……体はいたわってやれよ? 最悪は俺が強引に寝かしつけにいくぞ?」
「ほう? 興味があるな? 土木怪人の刀月様は一体どのように夢に誘ってくれるのかな?」
男女と言うこともあって……恐らくそういう意味合いで言ってきているのだろう。
だが本気で言ってきていないのは、ニヤリと不敵に笑う顔と目で丸わかりだった。
別段ふざけて乗っても良かったのだが……軟派な奴と思われたくもないので、真面目に答えることにする。
「からかうな。俺の寝かしつけ方は簡単だ。気絶させるか、整体で疲れを癒してリラ――気持ちよく自然に寝かしつけるか、薬で強制入眠のどれかだ」
「何だつまらない男だな? 整体はともかくとして、強引に寝かしつける手段が多いとは。それでは夢見ごこちも悪そうだな?」
「しょうがないだろ」
夢ねぇ……疲れているからかあまり夢は見ないなぁ……
やることの多さと責任の重さ……責任の重さは村長を辞めたことでだいぶ軽くなったが……故か、最近は夢を見ることは少なくなっていた。
それだけ体が休息を欲していると言うことだろう。
故に、思わず夢を見ないことが不思議と……、不思議で不可思議な俺の現状そのものが夢であるように思えてしまった。
「しかし今考えると……俺もずいぶんへんてこな状況になったなぁ」
「ほう? 変とは?」
俺は最近の俺自身の事を振り返ってしまった。
刀を鍛えに海を渡って、帰る途中に飛ばされた異世界修行。
モンスターがはびこる世界。
次の世界は現代ながらも、俺の住んでいた現実世界とは別の平行世界。
魔術という……呪術の出来事に巻き込まれた。
まるで……
「いや、まるで今の俺の状況が、胡蝶の夢のようだってね」
少し違うが……異世界に飛ぶと言うことがあまりにも奇天烈すぎて、思わず口走ってしまった一言だった。
夢を最近見ないこともあって……まるで今の俺の状況が夢の中の出来事であると思えてしまった。
そして、そんなことを言ってからふと……不安になった。
胡蝶の夢って……この時代にはすでにあったんだったか?
俺の知識は以下略。
少々不安に思ったが……すぐに周瑜が驚きの声を上げることで事なきを得た。
「博識だな。胡蝶の夢を知っているのか?」
あ、よかった、あるのね……
※胡蝶の夢は中国の戦国時代(紀元前476年~)に生まれた思想
戦国時代の始まりの年については諸説有り
三国志時代は184年~263年
by作者
「博識と言うほどのことじゃないさ。それこそ、大軍師の周瑜に比べれば」
「博識じゃない……か」
うん? 何か言いたいことがありそうな感じだな?
俺の言葉にどこか警戒する色をにじませる褐色知的眼鏡に疑問を浮かべつつ……しかし特段反応することもなく俺は黙って相手からの言葉を待った。
やがて考えがまとまったのか、それとも言葉を口にする気になったのかは不明だが……ともかく褐色知的眼鏡が俺に対して疑問をぶつけてくる。
「博識ではない……と、刀月は自らを卑下するか、私からすればお前の知識の方が空恐ろしいぞ?」
「ほう? それで?」
周瑜が何を言いたいのか……ある程度察しは付くが、こういうのは吐き出させるのが大事故に、俺は先回りせずに相手に言わせることにした。
前からこいつは俺を警戒している……俺の所業を考えれば当然と言えば当然なのだが……のはわかっていたので、ここらで少し友好度を深めておくのも悪くはないだろう。
もしもの時に動いてくれないとかになっても困るしな……
「お前の持つ知識……菓子や料理、それに農耕、そして私は見ていないがお前の村は、非常に画期的だったと雪蓮から聞いている。今建築しているお前の村の住人達の移住先である街も、お前の口出しした技術がすごすぎて、街の大工達が驚いた事も聞いている」
あらま、意外に情報を仕入れていらっしゃる……
「さらに言うなら、それだけでも異常だというのに……お前は呉で最強と言って良い雪蓮と祭殿の二人と、一対一の勝負をして勝利している」
「一対一だからだろ? 二人とも武将であって一個人である武人じゃない」
と、一応持ち上げておくが、二人については正直武将としてもそこまでだと俺は思っていなかった。
褐色妖艶については歴戦の勇士であるが故に指揮能力もあることは俺自身認めているが、妙手娘ほどの飛び抜けた物を持っていないように感じられた。
俺自身が出来ないということもあるが……それほどまでに俺は妙手娘の騎馬隊の指揮について驚愕したのだ。
ちなみに俺も馬には乗れる……それなりの腕前しかないけど……
そして褐色ポニーは完全に武人だ。
仕方なく武将をやっているだけなので、あまり指揮能力が高くない。
だがカリスマがあることで、それらの欠点も相殺している感じだな……
王家の人間として育っているため、生来から気概が違う。
特にこの乱世の時代であるゆえに、責任感もそれなり……護衛を付けないところとかでマイナスと考える……にあるので、それがカリスマに拍車をかけているといったところだろう。
「確かに二人とも指揮をする関係上、以前ほど鍛錬を行えていないのも事実だ。だがそれを差し引いても……私はお前の方がより、優れていると思うがな。それこそ……刀月こそが天の御遣いだと言われても、私は信じるな」
げぇ!? さすが周瑜と言ったところか……
俺が天の御遣いにもなれてしまうことを、骸骨ツインテは間違いなく理解している。
何せ天の御遣いである自らの部下、北郷一刀と同郷の存在なのだから。
さらに言えば、最近こそ現代衣装を身に纏わなくなった俺だが、この大陸に来たばかりの頃は着ざるを得なかったこともあって、現代衣装を纏ってそれなりに活動している。
また北郷と普通に会話した事もあるため、天の御遣いと言われる北郷と普通に意思疎通が出来たという噂は流れていると考えてもいいだろう。
そうなると、俺のことを警戒している周瑜が、俺の噂話を集めていないわけがないため、これらの噂はすでに仕入れていると考えて良いだろう。
しかも北郷と話をしたのは事実だから嘘じゃないしな……
かといって俺自身が天の御遣いを容認するわけにもいかない。
俺としては天の御遣いなんぞになりたいと思っていないのだから。
しかも魏にいる北郷の噂が正しいのであれば……
種馬はごめんだ……
北郷はどうやら……天の御遣いであるという事を存分に利用されているようで、子を孕ますことを命ぜられているようだった。
王朝が滅びておおっぴらに天の御遣いであると言うことが出来るようになったためだろう。
天の御遣いの子を宿したというのは、大いに喧伝効果となる。
しかもその天の御遣いを抱えているのは最大派閥になる魏の曹操だ。
最終的には魏が大陸を統べるはずなので……乱世を収めるために天から降臨したという言葉も、あながち嘘でも無いと言えるだろう。
まぁ褐色知的眼鏡も、そこまで腹黒いことは考えてないだろうが……
俺が天の御遣いになれることは、間違いなく周瑜は理解している。
だが俺がそれを嫌がることも恐らく察しているはずだ。
天の御遣いうんぬんについてはもちろん考察しているだろうし、多少は実行に移す事も計算しているだろうが、それを実行に移すかどうかと言われれば微妙だろう。
相手が俺だからだ。
最悪逃げるし……
強硬手段に出た場合……俺がいなくなることも想定しているはずだ。
この問答はどちらかというと天の御遣いにするというのではなく、俺が天の御遣いになりたいのかどうかを確認している意味合いが強いと言えるだろう。
身ごもるって事はつまり……そういうことだしな……
そしてもっとも警戒しているのは、自分の大事な相方に手を出されないのか? だろう。
実際、やろうと思えばやれる。
天の御遣いは別にしても、恐らく「本気の勝負」などといって戦いに誘えば、褐色ポニーは喜んで俺と勝負をするだろう。
そして勝った見返りに体を要求した場合……心から望むことはないだろうが、生理的、心理的嫌悪から断られることは恐らくない。
つまり、尋問されているのである。
今、俺は……
大事な主君を思うこいつからしたらある意味で当然といえるだろう。
そしてこちらとしても……肉体関係を結ぶのはごめんだった。
だが……
やられっぱなしってのも……癪だな……
「天の御遣いねぇ。確かになれるかもしれないな」
仕返し程度は許されるだろう。
仕返しといっても、言質を取られても面倒なので……念のため、言葉を濁して明言はしないでおくことを忘れない。
「っ」
「だが……なりたくはないし、なる気もない。そうだな……」
そこで一度言葉を切り……俺はあえて目線を、褐色知的眼鏡の体へと向ける。
しかし本当にただ見つめただけで、下卑た視線にならないように注意を払った。
「なる気になったら、真っ先にお前に相談しよう。それこそ……体に相談してもいいが?」
ニヤリと……下卑た笑みではなくからかうような感じの笑みを浮かべて、俺はそうからかった。
バカでもない限り俺がどういいたいのかは理解してくれるだろう。
しかも相手がバカとは対極にいるといっていい、大軍師の褐色知的眼鏡の周瑜であれば、俺のこの言葉の真意を十分に理解してくれるはずだ。
「ふふ……そうだな。そうしてくれると助かるな」
狙い通りというか、俺の言いたいことはわかってくれたのだろう。
これで俺が暗に体目当てではないことはある程度わかってくれたと信じたいが……そう簡単に信じることはできないはずだ。
この程度の駆け引きで相手の事を完全に理解できたら、争いなど起きるわけもない。
というか……
いや、冗談なのはわかってるけどね? 少しお前ら軽すぎやしないかね?
そうしてくれると、というのは……先に自分から手を出して欲しいと言うことなのだろう。だが、なんというか……少し性に関して軽すぎでは無かろうか?と俺は思ってしまう。
しかしそこはまだ死ぬことが多い……戦、飢饉、病気等々……この時代の世界で生きているのだから仕方ないのかも知れない。
そこらの感性は……まだ理解できないなぁ……
というよりも、理解できるわけがないのだ
戦であっても
飢饉であっても
病気であっても
俺はそう簡単に死ねない
死なないわけにはいかないと言うこともあるが……それ以前に俺は「強者」であるが故に、最悪の状況に陥る事がほとんど無いのだ
病気だけが少々不安が残るが……それも秘密兵器があるからどうとでもなると……
俺はこのとき……愚かにもそう思っていた
「本気にするぞ?」
「私はいつだって本気だが?」
「嘘吐け全く。本当に、大した人物だよ、周瑜は」
「そうか? 先にも言ったが私からすれば刀月の方が大概だが?」
先ほどとは違って、少し冗談の色が濃い。
少しは警戒が薄れたと言って良いだろう。
「どういう意味だ? バカにしてるのか?」
「まさか。生きるだけでも難しいこの時代に、そこまで自由奔放に生きていられるのはそれこそすごいことだろう?」
「……絶対褒めてないだろ?」
まだ互いに知り合って間もない。
しかもこの時代、裏切りや間諜が日常茶飯事の世界と言って良い。
そして何よりも……「死」が本当に、身近な時代。
油断するわけにはいかないのだろう。
それは俺にも当てはまることで……そして今回教えられた。
いや、教えてくれたのだろう。
存外……優しいことで……
あまり派手なことをしすぎるな警告をしてくれたのだろう。
何せ天の御遣いになれると知れれば……利用してくる者が出てきてもおかしくない。
またすり寄ってくる者も出てくる可能性も大いにあり得る。
自分の利便性を優先するあまり……少し気がゆるみすぎていたかな?
少し反省するが……しかしある程度必要なことでもあるので、俺としてはあまり改善するつもりはなかった。
後ろ暗いことはないので別段そこまで気にする必要性はない。
しかも今の会話で……相互に今後どのようにしていくのかを確認したといっていい。
俺自身あまり派手なことをしすぎなければ……少なくとも褐色知的眼鏡が俺を天の御遣いとして利用することはないだろう。
そして俺自身あまり調子に乗りすぎなければ……こいつも嫌がらせをしてくることはない。
まぁ今後は気をつけることとしよう……
互いに暗黙の了解を行ったと俺は認識して、努めて明るい声を出して話題を変えることにした。
「というか……これも仕事の内なんだろうが、よくこんなに読めるな?」
「まぁ趣味の一つでもあるからな」
「さすがだわ。俺ももう少し読めるようにならないとなぁ」
「そういえば、最低限の読み書き程度は出来るとは聞いてるが……刀月から報告書があがってきたことがないな?」
「う……すまん。部下にお願いしている」
その部下とは……ノブである。
最低限の読み書きは何とか出来るようになったが……しかし一つの報告書を上げるのに他の文官の数倍の時間がかかってしまう。
故にノブに時間を割いてもらって俺の分の報告書も上げてもらっていた。
見返りというのもあれだが……その分ノブからの力仕事などは基本的に断ることはせず、たまに料理も振る舞っている。
それでも自らが上げるべき報告書をノブにやらせているのは事実だが……
「あぁ、あの文官か。あいつはなかなか気骨があるな」
「ほう? 周瑜のお眼鏡にかなうのか?」
「別段偉そうなことを言うつもりはない。ただ、さすがあの袁術の下にいた文官と言うことだろうな。ずいぶんと忍耐力があり、仕事もそれなりに早い。部下は間違いなく優秀だということだな」
否定できないところが痛いなぁ……
部下が優秀という言葉の時に、俺の事をからかうように見つめていたので俺のことも言っているのだろう。
咄嗟に反論しそうになったが……報告書を部下に書かせている時点で何も反論が出来ない俺だった。
「うるせーよ」
「冗談だ。だが……文官として言わせてもらえるのなら、報告書くらいは自分でかけた方が良いだろうな」
「……善処します」
肩をすくめながら俺は頷くしかなかった。
その姿が面白かったのかどうかは謎だが……幾分か雰囲気が柔らかくなりつつ、周瑜は朗らかに笑っていた。
そしてたわいもない会話をしながら……俺と周瑜は帰路に着いた。
そんな土木工事の帰り道があってから数日後。
俺は午前の畑仕事を終え、さらにちんちくりんの食事が終えたので、ようやく自分の飯の時間になったため、城内の台所へと向かって歩いていた。
「ふ、あぁぁぁ~ぁ」
畑仕事のためそれなりに疲れた事もあり……俺はあくびをかみ殺しながら、本日の自分の飯の献立を考えていた。
午後は特段急ぎの仕事はないため、久しぶりに料理の練習でもしようかと歩いていると……中庭に見知った気配を感じて、思わず足を止めた。
褐色ポニーと褐色知的眼鏡の二人組……
二人がいるのは位置的に城内の中庭だ。
皆無というのは無理だが、他よりも危険は少ないと考えて良い。
そして二人の気配から察するに……非常に高揚しているのが察せられた。
仲の良い二人が中庭で昼時からたむろしている……まぁ察せられるが……
将全員の予定を把握している訳ではないが……褐色知的眼鏡がいることから察するに、今日は二人ともオフなのだろう。
そして気分の高揚から考えるに、中庭で酒宴を開いていると考えられた。
このままだと酔っぱらい二人とエンカウントすることになるだろう。
と……これだけを考えればこのまま回れ右をして、別の道から台所へと向かえばいいという話になる。
本来であれば俺もそうしていただろう。
まぁ……ねぎらいも
恐らく、まだ大丈夫なはずだが……少し心配なのは事実。
そして俺は
一応助けるつもりだから、イーブンに……
ならないだろうなぁ……
別段そこまで考えなくても良いような気がしないでもなかったが……しかし利用していることは間違いないため、自分的に思うところが無いわけではなかった。
だが……それでも俺はそれを選択する。
この状況を利用するという、選択肢を……
さて、となると何が良いかな?
この時代の酒もきちんと飲んでどんな味なのかは把握済みだ。
そして俺の酒が飲めないことをやっかんで、酒乱どもが当てつけのように飲んでいる姿もすでに何度も目にしており……そのためどの店の酒を買ったのかもある程度把握できていた。
日本酒は俺の秘密兵器な上に、俺の物だしね~
日本酒については何度も飲ませろとせがまれたのだが……俺自身貴重なことも相まって、あまり振る舞いたくなかった。
味にまだ満足してないと言うこともあるにはあるが、倹約している方が大きい。
ケチと何度も言われて腹が立った……まぁ実際ケチだが……ので、俺に勝てたら飲ませてやるという話になった。
勝つと言っても、俺を完膚無きまでに叩き潰すのは不可能なため、俺にまともな一撃を食らわせたら飲ませるという条件になっている。
だがこれでもかなり厳しい条件であると言わざるを得ないだろう。
そして当然だが……賭け事の勝負で手を抜くような事は一切しなかった。
さてさて……この街の酒に合うつまみとなると……
ビールにすらも届かない度数の酒のため、現代人の俺からしたらあまりにも弱い酒だ。
となるとあまり濃い味付けにしなくても良いと考えられるが……しかしさすがは貴族とも言える連中の呉の人間。
味には結構うるさかった。
というよりも舌が鋭敏と言って良いのだろう。
俺の料理を食べたことによって舌が肥えた。
元々味にもうるさい上に舌が肥えたたため、料理には結構うるさくなっている。
かといってあまり濃い味付けは
さて……となると……
しかもあまり飲ませすぎても……明日の政務に差し支えたらアウトである。
最悪は強引に寝かしつけるが……休みの日の幸せなオフの飲みにそれをするのはさすがに無粋だろう。
酒ほどではないが……贅沢品でも作ってやるか……
色々と考えた結果として、この時代としては実に贅沢な品物を……出してやることにした。
「こ~ら。冥琳ったら。せっかくの休日なんだからそんな怖い顔しちゃだめよ♪」
「怖い顔? 私は普段通りだぞ?」
刀月の予想通り……珍しく今日は孫策と周瑜の二人そろっての休日だった。
休日といっても、二人とも一国の主と重鎮だ。
完全なオフと言うことはあり得ない。
だが……それでも昼間酒を飲む程度の時間を何とか作り上げたのだ。
そしてもちろん……他国の侵攻や、一揆といった緊急事態が起こった場合は休日返上ということになるが、それが起こることはなかった。
「怖い顔してるわよ。せっかく時間を作ったんだから、もっと楽しく飲みましょうよ」
「本当にな。もう少し雪蓮が政務に精を出してくれれば、私も少しは休めるのだが……」
「う……。それは申し訳ないと思ってるけど……」
言葉を詰まらせる自らの主にして戦友であり、親友である孫策の困った顔を見て、周瑜は苦笑するしかなかった。
政務に精を出して欲しいと言うのは間違いない。
ただ……周瑜自身がそこまで政務に取り組む主の姿を想像出来なかった。
そしてそれ以上に……周瑜自身がもっと孫策を自由にさせてあげたいと思っていた。
王としての重圧。
周瑜から見てもあまりにも偉大すぎた前王の孫堅。
そして……その孫堅の死後、呉をいいように使ってきた袁術。
大事な家族であり、庇護すべき妹たちを人質に取られた。
そんな状況下で、袁術に下ったと民衆達は孫策を軽んじ、反旗を翻す者達もいた。
その反旗を翻した者達を……袁術の命で討伐しなければならなかった。
それがどれほど孫策に負担をかけてきたのかは……誰よりも側にいて、誰よりも長い時間共に戦ってきた周瑜は誰よりも知っていた。
だからこそ、全てを取り戻すために……必死になって準備を進めていた。
だがその全てを……一人の男が台無しにした。
周瑜も理解している。
どんなに袁術の兵の質が、呉の兵の質よりも劣っているといっても、戦を行えば間違いなく財政や兵站に負担をかける。
争わない方が良いことは重々承知していた。
だがそれでも影で……孫策が苦悩していた姿を見ている人間としては……
思うところが無いわけがなかったのだ。
「ひょっとして……まだ刀月の事疑っているの?」
そんな感情が顔に出ていたのかも知れない。
孫策の指摘に、周瑜は思わず内心でぎくりとして咄嗟に誤魔化そうとしたが……なにげに鋭い自らの主に、正直に内心を吐露した。
酔っているのかも……知れないな……
「まぁ……疑ってないと言えば、嘘になるな……」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。前にも話したでしょ? 刀月の秘密」
「確かにこの前聞いたが……武人でない私からしたら、どうしても信用できなくてな……」
「それはそうかもしれないけど……。でも相当まずい秘密のはずなのよ? 自分の得物が使えないっていうのは」
孫策より聞いた刀月の得物の話。
全てが使用できない状況だということ。
孫策より他の人間には黙っているように命じられて教えられた秘密だった。
確かに武人にとって得物は自らの命と同義。
それは周瑜もそれとなく理解している。
そしてそれほどの重要な秘密を明かしている誠実さも理解していた。
だがそこで厄介なのが……
「まぁといっても……刀月が本気で殺す気になれば、素手で十分でしょうけどね」
「それがな……」
あっけらかんと、まるで他人事のようにとんでもないことを笑いながら言ってくる主に内心で頭を抱え……実際に頭が痛くなったのか周瑜は眉間に深い皺を寄せていた。
孫策の言うとおり、厄介な事は刀月の異様な実力だった。
最初は孫策より話で聞く限りであったため……信じることが出来なかった。
孫策と黄蓋が負けたという事実。
呉の最強の武将二人を軽くあしらったというのは、それほどまでに脅威だったのだ。
そして……先日の反董卓連合での呂布との一騎打ち。
正直な話、それすらも周瑜からしたらほとんど理解できていなかった。
だがそれでも……刀月と呂布の二人が、あまりにも隔絶した実力を有している程度は、さすがに理解が出来た。
しかし大陸最強と名高い呂布との一騎打ちですら……刀月は余裕があるのが見て取れた。
刀月は自らの得物を使用していないにもかかわらずだ。
それほどの実力を有した男の目的が修行に故郷に帰ること? ……とてもではないが信じられん
刀月の目的も、孫策より伝え聞いていた。
だがそれも周瑜は信じることが出来なかった。
しかも武勇だけでなく……刀月は料理に調味料の作成、土木工事に農耕、あげくに都市開発すらも手がけることが出来ていた。
その内の料理に関することでは……呉どころか大陸全てを見渡しても、刀月の料理を越える物を作る存在はいないと断言できるほどに、その作られた料理はあまりにも美味だった。
あらゆる事で異常な存在の目的が修行と帰郷。
しかも見返りに特段何かを要求している訳でもない。
これでは確かに疑心暗鬼になるのも仕方がないという物だろう。
厄介な男だ……
前に周瑜が刀月に問いただした時も、刀月は少なくとも天の御遣いについて否定をしなかった。
周瑜はその言葉の意味を十分に理解していた。
天の御遣いになることも出来るというのに、ただただ毎日真面目に仕事を行う姿。
さらに兵からの報告で方々に色々と気を遣っているのも聞いていた。
悪い奴ではない。
むしろ好感の持てる存在だと周瑜もわかっていた。
だが、周瑜個人ではなく……呉の重鎮である軍師の周瑜としては、どうしても警戒せざるを得ないのもまた事実だった。
これなら……もっと単純な男でこちらの体や、地位などが目当てと言ってくれた方が、よほど信じられたな……
実際、魏にいるという魏が天の御遣いと喧伝している北郷一刀なる存在は、魏の将兵達を身籠もらせるのが仕事の一つであると、細作より報告を受けていた。
男として魅力的な命令であることは、異性であり女でもある周瑜にも理解は出来た。
だからこそ刀月もそれと同じようにわかりやすければいいのにと……半ば八つ当たりのような考えを持ってしまう。
そしてそういう考えをしてしまうのは、安心したいからだった。
だからこそ自分の体も暗に差し出したのだ。
だというのに刀月は、周瑜からの提案、自らが疑っているという事……それら全てを見抜いた上で軽く流して見せた上に、露骨に気遣って話題も変えてくれたのだ。
好感を持てる男を……仕方がないとはいえ、疑ってしまう自分が嫌な者に思えてしまう。
そんな自分を飲み込みたいのか……少し荒々しく、手にしていた酒を周瑜は飲み干した。
あらら、考え過ぎちゃってるかな? でも……しょうがないわよねぇ
それが周瑜とともに酒を飲みながら、自らの親友を安心させようとしている孫策の正直な気持ちだった。
なにせ孫策自身……刀月の事を完全に信じている訳ではないのだから。
いや、信じてない訳じゃないんだけどね……
実際周瑜に話したとおり、孫策としては非戦闘時とはいえ自らの得物を差し出して来たあげく、自らがその得物を使えないことを告白してきたことは、内心でかなり好意を抱く行為だった。
故に、この話をしたのは黄蓋と周瑜の二人のみであり、他の武将どころか……妹達にすらも教えていない事実だった。
だが、周瑜にも言ったとおり、そこで厄介になるのが刀月の圧倒的なまでの実力だった。
よもやあそこまで化け物じみているとは……さすがに想像出来なかったわ……
呂布との一騎打ち。
あれは間違いなく孫策の生涯においてもっとも実力を有した者同士の、隔絶した勝負だった。
恐らく、呉の将全てが束になって殺しにかかったとしても……刀月を殺すことは出来ないと、孫策は分析していた。
それほどの力を有しているからこそ……その武はあまりにも危険を孕んだ力だった。
刀月が人格的に問題ないことは、孫策自身が把握しおり、さらに部下に厳しくも優しいという報告を孫策は受けていた。
だがそれはあくまでも「平時」であるという条件がつく。
もっと正しく言えば、刀月が「冷静」であり、かつ「理性」がある時はという考えも出来てしまうのだ。
ならば理性を失ったとき……その力の矛先はどこへ行くのか?
またもっと言ってしまえば……
これから堕落しないという保証はどこにもない。
初めて感じた、刀月の憎悪……あれが本当に恐ろしかった……
呂布と戦い仕留めた後、刀月は突如として飛来した何者かと戦っていたのを、孫策のみならず呉の武将は把握していた。
だが、その飛来した何者かは現れたときと同じように消失した。
そしてその戦いが……呂布との戦いすらも凌駕した戦いということも、呉の将は理解していた。
そして最後に放たれた……刀月のあまりにも重い憎悪。
物理的に体中に何か重石が乗せられたと錯覚するほどだった。
そう……あのとき初めて浴びたのだ。
刀月の……
真の憎悪と……
「殺意」を……
もしも仮にあの憎悪と殺意が、自分たちに向けられた場合……それを御すことが出来ないことは、十分に理解していた。
呂布との戦闘、そして……刀月が明確に憎悪を向けた謎の何者かとの戦い。
この二つの戦いを見るだけでも、刀月が大陸でも群を抜いて強力な武人であることは疑いようがない。
だが……それほど強力な武人を、完全に手なずけることが出来ない。
これがあまりにも恐ろしかった。
勝てるのかしら……?
もしも、刀月が理性をなくし……
もしくは憎悪を抱きその力の矛先を、自らの国……
呉へと向けられた時に……
止めることが出来るのか?
それがあの戦いを見てから、そんな不安が孫策の頭から離れることがなかった。
「何しかめっ面で酒飲んでんだ? 周瑜に孫策?」
突然の第三者の声……しかも今まさに色々と考えていた男の声に、周瑜だけでなく孫策もびくりと体を震わせて声がした方へと体ごと顔を向ける。
そしてそこには聞こえてきた声に違わず……刀月の姿があった。
何をそんなに驚いているんだか。まぁ……聞こえてたから予想はつくが……
調理を終えてそれとなく忍び寄って……今回は能力を使用していない……二人の会話を聞いていた。
といっても地力の聴力のみだったが、普通に聞こえる声量だったので、普通に聞こえていた。
まぁ確かに……体差し出しても何の反応もしない男ってのも珍しいだろうな……
英雄色を好むという言葉もある。
無論俺は、俺自身のことを英雄などと、心底嫌いな存在だと思っていないが……それでも強者というのは異性に対する欲求、つまり性欲を満たしやすい存在であることは十分に理解している。
特に時代が時代なので……力さえあれば異性を手に入れることはそう難しいことではないだろう。
その力と権力を求めて……寄ってくる異性。
もしくは自身の力で……強引に、無理矢理に、異性を得る。
史実でも、そういう英雄はいるのだから。
まぁ、俺には責任負えないから手を出さないってだけなんだがね~
無論性欲は俺にもある。
だがその欲求よりも理性……責任の方が遙かに重いのだ。
だから手を出さない。
出したくない。
故にこそ俺は、最大の欲求である修行と帰郷を優先していると言っていい。
いや……仮に性欲を優先できたとしても、手を出したかどうかは謎だが……
※ 甲斐性がないともいえる……
そんな情けない話はともかくとして……俺は半ば仏頂面で酒を飲んでいる褐色知的眼鏡に苦笑するしかなかった。
それに対して、さすがはめざといというか……同じく俺を警戒しているはずだというのに、褐色ポニーはひと味違った。
俺の手に持っている盆に目が吸い寄せられており、すでに目をきらきらと輝かせていた。
まぁ匂いもそれなりにするから、興味をそそられるのも当然なのだが……
そんな二人の様子に俺は苦笑しつつ、調理してきたつまみを机へと置いた。
つまみはこの時代においてはかなり貴重なものだという品を用意した。
滋養強壮にいいバターをふんだんに使った長いもの醤油焼き。
さらにこの時代、油はマジで貴重だが……そこは植えれば豊作になる俺の畑より仕入れた、菜種油を使用して多種多様な品種改良された野菜の素揚げを持ってくる。
脂肪をとりすぎてもあれなので、ウーロン茶を煎れてくるのも忘れない。
お冷やも完備。
そしてこれはとっておき……俺が大事に冷凍してしまい込んでいたアサリを、この時代の酒で酒蒸しにしたものを大皿に盛ってきている。
……豪勢すぎた
と、俺が少し奮発しすぎたことに反省する……そのおかげで俺の昼飯は改良する飯玉の試作品のみになる……事になってしまった。
露骨な賄賂になってしまうが……これで少しは心証が良くなることを期待して、その辺は割り切ることにした。
「何を飲んでいるのか知らないが体に良い物をたべて……なさそうだな」
実に脂っこいものとか、果実があるがそれだけだった。
もう少しまともな物を食えばと思うのだが……果実はこの時代最高級品だ。
十分贅沢なのだろうが、そのぶん体に良くない。
「薬食同源って思想をしらんのか?」
「? 何それ? 冥琳知ってる?」
「知らないな?」
あれ? この考えって元は中国じゃなかったっけか?
極端な話、栄養バランスを考えて、食べ過ぎなければ体を壊しにくい体を作れるというものである。
料理とは薬であり、人を生かすための技術であると言って良いだろう。
※ちなみにこの薬食同源という思想は、中国における
明の時代は1368~1644年となっているため、三国志時代(180頃~280頃)よりも遙か未来の思想になる
by 作者
まぁいいか……
俺の知識は以下略。
しかしこの薬食同源という考えも、この時代では満たすのが難しい。
何せそもそもにして、需要と供給が釣り合ってないのだから。
当然だが、この時代は現代よりも遙かに人口は少ない。
だがそれ以上に、食料が少ないのだ。
三食……それも贅をこらした食事を食べられるのは特権階級のみだ。
平民は三食どころか一食すら食事をとるのが難しいはずだ。
そして特権階級も、高級品を腹一杯に食べるのが贅沢だと考えている。
これでは体を壊すのは道理だと言って良いだろう。
ついでに言えば、平民は余裕のある存在でも二食が普通。
日本でも江戸時代以降にようやく三食という食文化が根付いた。
これは油が入手しやすくなったことで、平民も夜明け~夕方の生活リズムから、朝から夜の生活リズムをすることが可能になった事による変化だという。
油が安価に手にはいると言うことは、夜に灯りがあるため読書などが出来るため、三食になったようである。
三食食事をとってても……栄養バランスがおろそかだったり、それ以上に過労な上に睡眠不足ならなおさらな……
俺は内心で溜息を吐きながら……二人に目を向けるしかなかった。
俺がどこまで力になれるかは謎だが……出来れば目の前で親しい奴が死ぬのを見るのはごめんなので、俺なりに頑張ってフォローをすれば良いだろう。
「まぁいいや。とりあえずつまみも体に良い物を食べなさい。あ、味付けは薄めだから塩も置いておくが……塩を付けすぎるなよ? 体に悪いから」
「わかったわ」
「あと、水も置いておくからこれも食事をとりながら飲むように。氷水だから冷えててうまいぞ」
「氷だと? この時期にどうやって?」
「それは周瑜。以前に袁術に見せた精霊から授かった鉱石を使ったのだよ」
実際は能力を使用しております。
「あと飲み過ぎないようにな。体に響くぞ」
「え、えぇ……っていうか」
「ふん。お前もずいぶんと、お節介な奴だな」
「うるさい周瑜。ならもう少し……
「っ」
俺の最後の言葉に、周瑜は本当にわずかに動揺した。
幸い酔っていたことと、俺の料理と言葉に思考を向けていた孫策は、周瑜のわずかな動揺に気づくことはなかった。
自覚症状があるなら……ちょっとまずいかもなぁ……
体内の気がよどんでいたのは知っていたが、本人がそれを自覚しているのはまずい。
病気というのは、もちろん罹らないことがもっとも良いが、次善として自覚症状がない段階で病を見つけて治療するのがいい。
当然といえば当然だが……早いに越したことはないのだ。
自覚できてしまうということは、それなりに病状が進行していると考えていい。
しかし俺自身サバイバル等の治療知識はあるが、さすがに内科などの医療知識はほとんどない。
となると自然的にこの時代の医者を頼ることになる。
そして俺が今現在知りうる知人の中で、信頼出来る医者と言えば……華佗しかいなかった。
だが華佗を呼ぶとあいつも呼ぶことになるよなぁ……
筋肉モリモリ三つ編み野郎の貂蝉が、どうしても脳裏をちらついて仕方がなかったが……さすがに命の天秤にかけて負けるはずもなく、俺はやむを得ず華佗を呼ぶ算段を付けることにした。
といっても……噂を流すしかないのだが……
この時代、文を届けるというのはもちろんある。
商人なんかに金を持たせて頼むのが主流だ。
だが時代が時代なので、その商人が盗賊に襲われて手紙が紛失する可能性が大いにある。
また俺自身華佗が今現在どこにいるのか知らないので、手紙の出しようがない。
噂でどこどこに向かった程度はわかるのだが、逆を言えばそれだけだった。
であれば……確実性は劣るが下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦でいくしかあるまい
噂程度でしか知らないのならば、こちらも噂を流せばいい。
呉にいる刀月が華佗に助力を求めていると。
時間もかかるだろうが、数を打つ分だけとぎれる可能性は低いと言って良いだろう。
また最悪は「刀月が華佗を探している」だけでも伝われば良い。
俺は良くも悪くも目立ったので、少しでも噂を探せば俺が呉に仕えているのを知るのはそう難しいことではない。
しかしその間に病状が進行してしまっては意味がない。
そこで俺が頑張るとするともっとも手っ取り早いのが気と魔力を用いた整体医療なのだが……いきなり無防備に体を預ける整体を行うのは、信頼が高くないので難しいだろう。
となると次善策は……
料理……だよなぁ……
俺が育てた作物で、俺が栄養バランスを考えながら飯を作る。
これしかないだろう。
……いや、料理も命題の一つだからいいのだが……俺、元は何屋だったかなぁ(遠い目)
※ 本職は鍛造と暗殺
何か無駄にやることが増えて嫌になってしまいそうだが、死なれるよりは良いだろう。
一つ小さく溜息を吐いて、俺は肩をすくめる。
「まぁたまの休みに小言をいう男はそろそろ失礼するよ。だがあまり飲み過ぎないようにな」
「飲み過ぎないように、刀月の酒を飲ませてもらうってのはどうかしら?」
「却下だ。俺に一撃でも与えてから寝言をいうんだな」
「む~」
可愛らしくふくれるが……ふくれるだけで終わるのは酒を飲んで気分が良いからだろう。
先ほどの体に関わることを言ったことでより警戒を強められてしまったかも知れないが……必要なことなので由としよう。
そして俺は今度こそ、二人に背を向けて自分の仕事へと戻っていった。
本当に……油断ならない男だな
先日私が言ったことを、あちらも警戒していると思えた。
だというのに、私が知らない思想に、恐ろしいつまみを差し入れしてきた。
忠告したにもかかわらずに……だ。
恐らく気を遣ってくれたのだろう。
だがそれでも……こちらのことを明確に把握されているとは思わなかった。
どこまでわかっているんだ?
私自身、まだ体に淀みを感じた程度だ。
実際に、周りの親しい者達は誰も気づいていなかった。
もっとも近しい……雪蓮さえも。
だというのに……あの男は気づいた。
しかも……こうして気遣った物まで差し入れしてきた。
そして……私が知らない思想を口にした。
私自身全てを知り得ている訳がない。
どれだけ知識を詰め込もうと私は一人の人間でしかないのだから。
本当に不思議な奴だな……
何を考えているのかはわからない。
だが、この差し入れだけを見れば……悪い奴ではないのだろう。
酒にあうつまみに舌鼓を打ちながら、その程度で終わらせるというのは、私も酔っていると言うことなのだろう。
まだ警戒を解くわけにはいかないが、恐らくもうあいつがこの場にくることはないだろう。
ならば今だけは……何も考えずに、こうして雪蓮と飲んでいたい。
そう……思った。
いかがでしたかね?
久しぶりだったのでちょっと緊張していたりw
最近また少し忙しくなってきたので、毎週更新は厳しくなると思います
ですが完結はさせたいと思ってますので、ご感想などいただけるとうれしいです!