今回ちょい短め
「平和だ……」
それは俺が畑仕事を終えて、城の外で大量に食事を用意しながら口に出た一言だった。
本日は晴天で実にすがすがしい日である。
そんな俺は、今日は珍しく一人で作業を行っていた。
よく行動を共にしている入れ墨娘とパンダ帽子は、特訓相手として孫策や黄蓋に拉致されていった。
何でも、そろそろ俺の酒を本気で飲みたくなったらしく……俺を打ち負かすためなんだという。
入れ墨娘としては俺についてきたそうだったが……パンダ帽子もおっとり眼鏡と呂蒙に連行されたため、心配だったのか素直に連行されていった。
ちなみに二人が連行されたのは入れ墨娘を将軍とし、パンダ帽子が軍師として戦う仮想の敵として、大規模演習を行うためらしい。
入れ墨娘が突出して強いが、しかし一騎当千の武将だけではどうにもならないことを、入れ墨娘……特にパンダ帽子にわからせるための演習なのだろう。
パンダ帽子も光る物があるのだが、いかんせん幼い。
おごり高ぶっている訳でもないが、入れ墨娘と一緒に自分……パンダ帽子……が組めばそれだけで勝てると思っている節がある。
それを負かしてパンダ帽子に勉学の大切さをわからせるための演習と言って良いだろう。
そして俺に命じられた本日の仕事は……演習後の軍の連中の腹を満たすための食事の用意だった。
まぁ……簡単だけどね……
軍事演習の後に食すということも相まって、質よりも圧倒的に量を求められる。
むろん手を抜くつもりはない……俺が作った食材に、俺の調理が合わさるのだ。
その時点で……大量に作られた料理であっても、この時代の飯としては破格の味になるのは間違いない。
まぁ作ってるのなんて、たいそうな物じゃないしな……
しかも作る物はいわゆるクソでかい鍋で作る煮物料理だ。
よほどへまをしなければ素材が良いぶん、まずくなるはずもなかった。
本日の演習後の献立……それは……
にぎりめしと、豚汁である。
にぎりめしには鮭に昆布と言った体に良い物を。
そして豚汁の出汁には魚のアラを使っており、にんじん、ゴボウ、ジャガイモだけでなく、ネギに白菜も入れているという大盤振る舞い。
そして演習の連中の飯となると……超大量に量が必要になるのだが、俺はそれを一人で準備を進めていた。
まぁ火の番には、人員を割いてもらっているが……
しかもすでに準備を終えており、後は米が炊きあがるのと、豚汁が煮えてできあがるのを待つばかりである。
ある意味で炊きあがってからが戦場だったが……それはさすがに幾人か手伝いを依頼していた。
といっても握るのは俺の仕事でもっぱら配膳が仕事だが。
まぁさすがに配膳つーか配給までするのは骨が折れるしな
といっても後は本当に待つしかない。
遙か遠くで演習をしているのは気配でわかっている。
そして本当に驚くことだが……さすがは入れ墨娘事、呂布。
陣形からいって、押されていることは間違いないのだが……なんと驚くべき事に一点集中の突撃陣形で、孫策と黄蓋の軍を突破しかけている。
さすがに突破までは難しいだろうが、不利な状況で突撃してきたその策に、呉の連中が慌てているような感じがした。
いやはや……本当にすげぇわ
確かに俺は個の戦力としては大陸最強だろう。
だがこの時代の戦というのは……間違いなく数と数のぶつかり合い。
数をそろえた上で練度を、装備を……優秀な人材をそろえていく。
実際俺がこの時代の戦場に出てどれだけ役に立てるのかは……正直微妙といえるだろう。
いや……俺が本気で殺しにかかれば、まぁ本当に単騎で突撃して敵の大将殺して即終了なんだがな……
気力と魔力、そして能力を使用できる俺が敵の大将を殺しに行くのは簡単だった。
何せ……開戦と同時に電磁投射で特攻すれば良いだけだ。
ようやく短距離ならある程度体が慣れてきたしな……
長距離の場合はさすがにその分加速しなければならないため、加速後の反動が凄まじく……着地してから少し体の気の流れを調えてちょっとした治療をしなければならないが、短距離であれば、すぐに動ける程度には慣れてきていた。
まぁやる気ないから殺らないけど
殺る理由もない。
だがもしも……黒幕の連中である左慈と于吉達が何か卑怯な手を使ってこの世界の連中を操り人形にして立ち向かってきた場合は、覚悟を決めなければならないかも知れない。
不殺の戒めを……破ることを。
まぁ、すでに一度破っているわけだが……
『貴様は、まだ生まれてもいない存在を、この世から消滅させる……殺すのだ』
それは、ただの言葉すぎない。
だがそれは自らの実力不足のために、どうしても斬らなければならなかった男が最後に遺した……
呪いでもあった。
あのときほど……自分の実力のなさを呪ったことはなかったな……
そう、あのときあの神父を切り捨てなければ、俺は間違いなくこの場にいない。
あの地底深くで孵ろうとしていた
それだけの重さがあった。
憎悪があった。
全てを殺すだけの……力があった。
死ぬわけにはいかなかった。
死にたくなかった。
だから俺はあの神父を切り捨てて……この場にいる。
未熟……
過ぎ去った過去をどうすることは出来ない。
だからこれは……己の未熟さを呪うだけなどただの時間の浪費でしかない。
それだけ余裕が出来たと、思うべきなのだろう。
はぁ……要修行ってことだなぁ……
俺は気分を変えるために、顔を洗ってくることにした。
火の番については手伝いに来てもらった人間に任せて、中庭の井戸を目指す。
すると……先ほどまであまり気にかけていなかった気配に、俺はようやく気がついた。
この気配は……
先ほどまで俺が注目していたのは軍事演習だったが……数が多い中で武将がいる状況のため、俺自身気配察知の訓練になっていた……近くに意識を向ければそこに実に未熟な気配を感じ取った。
未熟なのはしょうがないが、その気配は真剣そのもの。
本気で打ち込んでいるのがよくわかったので、俺は素直に感心して……その場へと訪れた。
たどり着いた中庭で、俺は高台からその二人を見下ろした。
そこには……
「やぁぁぁぁぁ!」
裂帛の気合いを込めて振るった斬撃を、軽くいなされている褐色ロングと、主の攻撃を無表情でさばいている褐色襟巻きの姿があった。
「闇雲に、斬りかかればいいわけではありません。蓮華様」
「えぇい……その余裕を今日こそ崩してみせるわ!」
斬りかかる姿は真剣そのもので、気合いも十分だが……いかんせんまだまだ未熟。
というよりも未熟なのはわかりきっていたが、無駄が多い。
俺から言わせればまず剣を振るうための基礎である体が出来ていない。
それが俺の二人の訓練を見た感想だった。
「熱くなるのは蓮華様の悪い癖です。確かに熱くなればそれだけ剣に威力と速さが生まれますが、それ以上に心が乱れて隙が多くなります」
ほ、意外だ……結構理論的に特訓をつけているな……
この二人は俺を嫌っているのが目に見えてわかっているので、俺としてもあまり近寄らないようにしていた。
故にこの二人のことを多くは知らない。
気配と気である程度二人の実力は測っていたがそれだけだ。
次女である褐色ロングは、偉大な姉が大きな壁となって写っているのだろう。
それに追いつこうと必死になっているのが、端から見てもわかった。
逆に褐色襟巻きはその必死になっている主に対して、実に冷静に剣をさばいている。
気配から言って細作であると思っていたし、それは間違いではないのだろうが……理詰めで訓練を施せる人間だとは思っていなかったので、少々意外だった。
「言わせて……おけば!」
軍事演習の事は褐色ロングも聞いているはずだ。
その演習に呼ばれないことを気にしているのかも知れない。
実際の理由としては今回の演習は、肩慣らしというか……入れ墨娘も加わったことで再度の編成を余儀なくされたため、まずは入れ墨娘とパンダ帽子の実力を実際に測ることが主目的だ。
だがしかし、未熟故に自分は演習に呼ばれなかったと焦っているのかも知れない。
未熟なのはその通りなのだが、しかし褐色ポニーが褐色ロングに望んでいるのは武ではないのだ。
といっても……もしもの場合は自分が王にならなければならないという重圧と責任があるため、武も鍛えておきたいというのが褐色ロングの気持ちなのだろう。
未熟であり、そしてあまりにも近くに比較対象がいる。
だから……焦ってしまう。
焦るため……その気持ちに勢いがありすぎて、空回る。
熱くなってしまう。
「やぁぁぁぁぁ!」
呼気と共に、言葉を放つ。
それなりに切れない舞踏といえた。
しかも何度かフェイントも入れている。
勢いも重さも遠くから見ても、十分な威力を持っていると言って良い。
だが……それはあくまでも一般的な武将レベルでしかなかった。
「それを諫めているのです……蓮華様」
「ちっ」
どうやらおきまりの連携のようだ。
その全てをことごとく褐色襟巻きは軽く受け流している。
攻撃が当たらなかったことで、褐色ロングは軽く舌打ちをしながら後退した。
「熱くなるのは孫呉の血と言えるでしょう。ですが……蓮華様のそれはあなた様を危険にさらしかねない」
お~~~~本当に忠臣なんだな、こいつ……
褐色ポニーと同じような気の発し方だ。
褐色襟巻きの言うように恐らく孫家の連中は気が荒いと言えるのだろう。
だが実力に見合っておらず、その気性をうまく使いこなせていない。
それを諭そうとしているのだろうが……言葉だけで止められたら苦労はない。
「子供扱いを……するな!」
その時点で子供だぞ……褐色ロング
と、俺が思うが念話が出来ない俺の思いなど、褐色ロングに届くわけもなく……怒りによって勢いを増したが、その分精細さに欠ける攻撃では、褐色襟巻きに届くわけもない。
「……ふぅ」
お~~~お~~~褐色襟巻きも煽るなぁ……
「呆れて溜息か!? その余裕が……私としては不愉快だ!」
確かにその通りだが……その言葉も十分失礼だと思うのだがなぁ……
部下とはいえ教えを請うている……訓練に付き合ってくれている相手に対する言葉ではないと思える。
といっても、褐色襟巻きは褐色ロング……呉の臣下だ。
立場的には間違いなく褐色ロングが上なので、ある程度は許容すべきだろう。
さらに言えば、俺の部下って訳でもないし
若く青い二人が斬り合う姿を遠目からじっと見ている俺も、「失礼」という意味では人のことは言えないだろう。
「では……参ります」
その言葉と共に……攻勢に出る褐色襟巻き。
速さも勢いも重さも……遠目から見てもわかるほどに歴然とした差がある。
とたんに褐色ロングは防戦一方となってしまった。
「くっ! だが……死中に活を見いだすのが孫呉の剣! 喰らえ!」
いや、それはあかんやろ……
と思うが結果は予想通り。
死中に活というのはある程度実力がなければ意味もなく……その実力を褐色ロングは有していない。
故に、結果は見るまでもなく……
!!!!
激しい音と火花を散らして……褐色ロングが手にしていた剣が、褐色襟巻きの攻撃の勢いに耐えきれず吹き飛ばされる。
そしてそれは……少し遠くから観戦している俺へと飛んでくる。
ほう……
間違いなく狙ったであろうその挑発を……俺はあえて動くこともなく、そして手で受け止めることもなく、体に展開した気壁であえて受けた。
!!!!
「!?」
よもや回避もせず、手で受け止めもしないと思わなかったのだろう。
俺の存在に気づいていた褐色襟巻きが、俺の方へと視線を向けて驚いているのが見て取れた。
しかし気壁で防いだため、特段何が起こるでもなく……剣は甲高い音を立てながら俺に弾かれて宙を舞う。
その剣を……俺は飛び上がって宙でキャッチしつつ、褐色ロングの側に着地した。
「!?」
「入寺……刀月……」
褐色ロングは俺が側に来たことに驚き、褐色襟巻きは何故か俺の名前を呼んだ。
どうやら褐色襟巻きと違い、褐色ロングは俺の存在に気づいていなかったようだ。
褐色ロングは確かに武人として「戦える」人間だが……「武人」ではない。
こいつが内政的な意味でどこまで有能か俺は知らないが……武力だけで言えば実に中途半端な実力だと言って良い。
そこで厄介なのが姉の存在なんだよなぁ……
この褐色ロングの姉……褐色ポニーこと孫策はマジで傑物と言っていい。
三国のトップと、俺は全員対面したことがある。
出会った順で言えば、蜀の素人娘こと劉備。
魏の骸骨ツインテこと曹操。
そして俺の主である褐色ポニーこと、孫策。
劉備は戦闘力皆無で……内政もそれなりだという話を聞いている。
曹操も完全に傑物の類で戦闘に内政、さらに料理も出来るようだが……俺の感覚から言って間違いなく武人としては一級の連中と比較すれば、数段劣る。
つまり……トップとしてあらゆる面で、褐色ポニーは実に有能な王だと言っていい。
まぁ、さぼり癖と責任感の若干の欠如がたまに傷だが……
それを主と仰ぐ立場は楽だろうが……実の妹としてはたまった物ではないだろう。
何せもしもの時は……自分が次の王になるのだ。
そしてこの時代のもしもというのは……基本的に死別という事に他ならない。
死んだ存在と比べられるというのは、結構きついものだろう。
何せ、もう死んでいる以上決して超えることは出来ないのだから。
それになにより他人がなんと言おうと……自分が納得できないだろうな……
しかしその孫策もまた……前王である孫堅の背中を追い続けているというから、本当に妹の褐色ロングとしては、立つ瀬がないと言えるだろう。
三女である褐色ツインテは王家に連なる者としての自覚はあるが、良い意味で武人としての自分を諦めている。
最低限の戦闘は出来るが、自分が強くなる必要はないと考えている。
その割り切りの良さと……女として実に強かな点は、姉二人よりも数段飛び抜けた優秀さと言って良い。
バカにするつもりは全くないが……本当に残念ながら中途半端なのだ。
褐色ロング……孫権は。
しかも……今日の演習に呼ばれてないと思ってるんだろうなぁ……
本日の軍事演習。
主立った人間で呼ばれていないのは褐色ロング、褐色ツインテ、褐色知的眼鏡、褐色襟巻きに尾行娘だ。
褐色知的眼鏡は内務があり、尾行娘は細作の任務に出ている。
つまり、武将として前線に出る事が多い連中が、荒野で軍事演習を行っている。
そして他の連中は己の任務をきちんとこなしている。
その演習に呼ばれなかったのが……歯がゆいのだろう。
中庭で自分の護衛である褐色襟巻きと訓練を行っているのは焦りからだ。
まだ割り切れてないと言うべきなのだろう。
う~ん、嫌われているからあまり接触するつもりはなかったのだが……
嫌いな相手の忠告を素直に聞くとは思えなかった。
しかし同じ未熟な己を呪う者として……アドバイスが出来ればと思わなくもない。
そして何よりも……先ほどの勝負はあまりにもいただけない。
主従共にな……
さらに嫌われそうだが……それも一興だろう。
ここまでくればいっそのこと……嫌うことによって意識をさせて少しでも反面教師として存在するという考えも悪くない。
故に俺は側に着地したことで、主従共に警戒をしている二人に嘲るでもなく戯けるでもなく、淡々と……言葉を口にする。
「力む気持ちはわからないでもないが、一戦一戦を大事にしろ。実戦では一対一なんてことはほとんどないんだ。目の前の相手だけしか見てないなら剣を持つな」
俺が手にしている孫権が使用していた剣は真剣だ。
一歩でも間違えれば相手を殺してしまうかも知れない。
真剣で訓練していたということは……「そういうこと」なのだと思う。
命を賭ける……覚悟がないわけではないのだろう。
だがそれでも……心構えがあまりにもお粗末すぎる。
故にこそ、態度こそ淡々としていたが……言葉を特に選ぶことはなく、少し厳しく諫めることとした。
「!? どういう意味だ?」
予想通り、褐色ロングが実にいらだたしげに俺に問うてくる。
それに対して褐色襟巻きは多少なりとも俺の言いたいことを理解しているのか……いらだたしげに顔を歪めているが、特段口を挟むことはなかった。
保護者?のお許しも出たので、俺は淡々と特に感情を乗せることなく、言葉を続けた。
「言葉通りの意味だが? 実戦とはすなわち戦だ。その
「「!!」」
さすがに今の言い方には我慢ならなかったのか、褐色襟巻きが収めている剣の柄に手を伸ばす。
その手が柄に触れる前に……俺は制止する。
「憎悪を持ってその柄に手をかけるというのなら……
「っく」
訓練で真剣を使う割には……剣に対する考えがおざなりだな……
真剣を……人を殺すことの出来る得物を相手に向けると言うこと。
それがどれほど重いのかこの時代の人間だったらわかると思うのだが……あまりにもなじみがありすぎて、逆にすぐに手が伸びてしまうのかも知れない。
……やれやれ。不肖の弟子未満を思い出すなぁ
ボウガンを野生動物に向けて、初めて自分がやろうとしていることを認識した恩人を思い出して内心で苦笑していたが、俺の顔は厳つい表情のままである。
「未熟故に鍛錬をするのはいい。だが、闇雲に、がむしゃらにやるだけでは意味がない。もっと自分がどういう立ち位置で剣を振るうのかを考えて鍛錬を行った方が効率的だと思うが?」
「……それは」
まぁわかってないってことはないんだろうが……気持ちが逸っているって感じか……
俺の言わんとしていることはわかっているのだろう。
だがそれでもどうしても比較対象がいる分、焦ってしまう。
だがはっきり言って……こいつが最前線に出る事はないからなぁ……
少し方向性を見せてやるべきなのかも知れない。
故に俺は……仕方なく、宙でつかみ取っていた褐色ロングが使用していた剣の柄を持った。
そして軽く剣を振るい……褐色襟巻きへと向き直った。
「別段偉そうに講釈垂れるつもりはない。ならば訓練で感じ取ってもらうべきかな? さて……かかってこい、甘寧」
向き直るだけで俺として構えることはしない。
構えるに足りない。
だが……それでは褐色ロングの前で剣を振るう意味がない。
故に俺は……褐色ロングと同じ構えをする。
「少し休んでいろ。手本を見せてやるよ」
「休んでいろ……だと?」
なにやら勘に障ったようだ。
だがしかし、俺は特段声を返すつもりはなかった。
が……愚かにも突っかかってくる。
「常在戦場の心持ちで鍛錬しなければ意味がないだろう! 敵が休むのを待ってくれるとでも言うのか!?」
「言ってることは立派だが……はっきり言ってやるよ。お前はそこまでの域に達してない」
「なっ!?」
「確かに常在戦場という考えは理解できる。だがそもそもにしてお前は武将として戦えるレベ――段階におらず、さらに言えば先にも言ったが……お前が最前線で戦うなんて事はあり得ないんだよ。これが戦場における鍛錬だというのなら、本当にお前は見当違いの訓練をしている」
「き……貴様……」
「甘寧。口で言ってもわからないらしいからさっさとかかってこい」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす一歩手前の褐色ロングを放置して、俺は褐色襟巻きにかかってくるように促した。
どうやら褐色襟巻きは俺の言いたいことをきちんと理解しているようで、先ほどと同程度の攻め方で俺へと斬りかかってくる。
俺はそれに対して特段自ら攻撃をするのではなく、受けるかいなすかのみを行い……受けたり流した時の合間合間にあえて周囲を見て、後退をしていく。
それをしばらく繰り返し……最後に俺は褐色襟巻きからの攻撃で剣を手放した。
手放した事で、弾かれたように飛んでいく剣を尻目に……俺は弾かれたことで上にある両手を勢いよく振り下ろして、褐色襟巻きへと掌打を放つ。
「!?」
最後の攻撃は少々意外だったのか……驚いたように褐色襟巻きが後方に下がることで俺の打撃を回避する。
打撃を放ったと言ってもあくまでも
敵を吹き飛ばす程度の威力しかない。
その掌打は避けられた事でむなしく空を切るが……相手も引いたことで間合いが開き、逃げる隙が出来る。
その瞬間に俺は先ほど同様褐色ロングの脚力で脱兎のごとく逃げだし、弾かれた剣を拾い上げて停止し……振り向いてその剣を緩やかに褐色ロングへと放り投げた。
「以上がお前が戦場で行うべき戦闘だが……質問はあるか?」
「戦闘だと!? 今のが私のとるべき行動だというのか!?」
「ならば問おう、孫仲謀!」
そこまで大きな声ではない。
怒鳴る必要はない。
ただ幾ばくかの気を声に乗せて……俺は孫呉の王に
「お前の役目は敵と戦って勝つことか?」
「当然だ! 私は孫家の人間だ。勝たなくてはこの乱世でどうやって生きていけるというのだ!」
「その勝利は……お前が戦働きをして得るものなのか?」
「……何?」
「お前がもっともすべきことは、最前線で戦うことでも、強くなることでもない。まずは死なないことだ」
ひどい言い方をすれば……身代わりが何人もいる。
この国は。
もしもの時は妹が……大事で大切な妹が跡を継いでくれる。
そういう一種の甘えが……上の二人にはあると言っていい。
特に……長女たる孫策には。
これも本来ならば、こいつではなく長女である孫策に言うべき言葉なのかも知れない。
今度長女にも説教をせねばならないだろう。
もしくはこの俺の言葉が……他の二人にもつながることを願って、少しきつくいうことにしよう。
「お前は一兵士でなく、武将でもない。武勇を誇り散ることが許される立場だとでも思ったのか?」
主君を守るために殿につき、追撃を断つ。
もしくは、主君のために敵将を討ち果たし……自らも息絶える。
武将であればそれが許されるだろう。
総大将がそんなことが出来るわけがない。
ある意味で死よりも過酷な敗北という恥辱を受け……生き恥をさらし
己が下した命令に殉じた自軍の兵士の死体を踏みつけ……
人だったものから流れ出てきた血の海を渡って……
それでもなお……逃げなければ……
生きねばならない。
それが、一国の王という存在なのだ。
「呉を生かしたいというのなら……まずは己が生きることを考えろ。確かに鍛錬で己の腕を磨く必要もあるだろう。だがそれ以上に……生きるための技術を磨け。武将として姉よりも劣っていると理解しているのなら、他の物で埋めるための努力をしろ」
「それがお前の戦いだ」
もっと具体的にひどい言い方をすることも出来たが……さすがにそこまでやるのは酷という物だろう。
だがそれでも……少し自覚させる必要性はあるかも知れない。
ちょうど演習をしていることも手伝って……俺は今こいつがもっとも意識している物へ意識を向けさせる。
「その辺が理解できないようでは……外の演習に出るのはまだまだ先だな」
「!? 貴様……」
侮辱されたことは十分に理解しているのだろう。
だがそれでも……俺に勝てないのもわかっているのか、歯がみし睨み付けてくるがそれだけだった。
そして……俺としても説教じみたことをしてしまったこともあって、少し罪悪感もある。
未熟さを自分なりにどうにかしようとしているのに、その姿が自分にも映ってしまって半ば八つ当たりのようなことになってしまっている。
ここらでガス抜きしておくかなぁ……
一度俺と戦闘をさせた方が今後のためにもなるかも知れない。
しかしいくら何でもすぐに俺と戦うわけにはいかない。
それに先ほどから言っているようにこいつが戦う必要性は薄いと、俺は思っている。
ならば……とりあえず今は、こいつに対する訓練は戦闘ではない方が良いだろう。
「……何のつもりだ?」
「何? 絶対的な強者と相対した時に体が動けるように……少し訓練をしてはどうかと思ってな」
「……舐めているのか」
「舐めていない。未だ熟してないから未熟と書く。俺だって未熟だった時はあったんだ。というか今もあらゆる面で未熟だわ」
これは本心である。
だが、武勇、料理、農耕等々で、相当いかれている俺が言うと皮肉にしか聞こえないだろう。
だがそれでもいい。
というよりも……さすがにそこまでしてやる義理も義務もない。
「武勇における先達者として……死なないように稽古をつけるのだって、悪いことではないだろう」
野外での調理している最中だったため、ねじり金棒は手にしていない。
だが得物は常に持ち歩いている。
俺は腰に下げていた大振りのナイフをシースから抜きはなって、軽く構えた。
「実力が上の相手に戦うのは、甘寧との訓練で慣れているだろう? だから俺がやるのは真逆の訓練だ」
「真逆?」
「!? 蓮華様!」
「すなわち……圧倒的格差のある相手からの殺気を当てられて、動くようにするってことさ」
言葉を言い終えると同時に、俺は殺気を二人に対して当てた。
これは褐色ロングだけではなく、褐色襟巻き対しても訓練になる。
もしも……あの道化チビが襲ってきた場合、最低限体が動かなければ意味がない。
入れ墨娘……呂布があの力量だったことを考えれば、恐らく三国での争いにおいてこいつが真の意味で窮地に陥ることはほとんどないだろう。
入れ墨娘も十分に強いが……他の武将全てを一瞬にして殺すほどの隔絶とした差はない。
つまり仮に入れ墨娘が突貫してきたとしても、肉の壁があり、さらに武将がそれなりにいる呉は、王を逃がすことは十分に可能だと言うことだ。
だが、その王自身が恐怖で動けないでは話にならない。
そして最悪の場合……入れ墨娘以上の脅威である道化チビ相手に逃げなければならないかもしれない。
故に、恐怖に慣れておく訓練は必要だろう。
「「!?」」
俺の殺気に当てられて、二人とも顔を歪めた。
褐色ロングは必死に自制しているようだが、恐怖が顔ににじみ出ている。
だが動けないわけではないらしく、必死に手にした剣を俺へと向けてきている。
褐色襟巻きも恐怖で少し体がすくんでいるのは事実のようだが……もしも主に襲いかかろう者ならば命に代えても殺してやると言わんばかりに、俺を睨み付けてくる。
うーん、ふたりともまだ堅いが、初日だしこの程度で良いか
本当は一応かなり手を抜いた状態で戦闘訓練も行いたかったのだが……しかし今は結構きつめなことも言ったこともあって、二人の心証もあまりよろしくない。
ここは焦らずに引くべきだろう。
いつ相手が動くかわからない状況ではあるが……俺がいる状況であるならば、それなりに何とか出来るだろう。
仕方なく俺は殺気を引っ込めて……自分の仕事を思い出す。
そろそろ煮えた頃かな?
超特大鍋もそろそろ煮えてくる頃だろう。
俺としても良い暇つぶしになったが、俺の本日の仕事はこいつらの相手ではなく、軍事訓練後の配給だ。
そろそろ仕事に戻るべきだろう。
「外の連中の飯を作ってるんだが、良かったら食べに来てくれ。量はしこたま作ったからな」
「「……」」
あらま、無反応。まぁしょうがないか
俺は完全に無視をされたが軽く肩をすくめて、仕事へと戻っていく。
その際……俺の姿が見えなくなるまで二人が俺への警戒を解かなかったことを、俺は素直に感心した。
それからしばらくして……俺は食材を求めてはるばる海へとやってきていた。
海の幸が食べたいという……呉の連中とちんちくりんのわがままのため、俺は海から食材を取ってくるように言われたのだ。
取ってくる……といわれても別段俺が漁に出るわけではない。
俺が船に乗って漁が出来ることはすでに知られているが、しかし俺の漁法は誰にも教えていない。
船を持っていない俺に命じられたのは要するに食材を買ってきて調理しろということだ。
まぁ……遠く離れた海沿いの街まで行ってこいとか、結構な命令だが……
俺の移動方法こそ呂蒙以外誰も知らないが……俺が長距離を早馬よりも早く移動できることは、周知の事実。
故に命じられても別段嫌ではないが……未だ電磁投射による移動は慣れていないため、体にかかる負担は大きかった。
まぁ飛んでるととこ見られるよりは……マシか?
ちなみに電磁投射だと着弾時に必然的に土埃が舞うので、その際に人目の着かないところに何とか移動して……体を整える必要性がある。
最悪見られることも想定して、俺が電磁投射で移動する際は、全身をローブで隠した上……帰り道の風呂敷にもなる代物……仮面も付けているので問題なかったりする。
そんな苦労をしながらやってきた港町なのだが……いかんせんまだ沖合に出るほど航海技術はなく、さらに言えば漁法も未熟。
何度か来ているが、たまにしか俺のお眼鏡にかなう食材はなかったりする。
まぁ時間が必要だからこそ……電磁投射をする必要性がないにもかかわらず、電磁投射で早めに移動してきた訳だが……
最悪は……網と入手した魚を入れるためのクーラーボックスもどきは持ってきているので、海に素潜りして電撃をするのも悪くはないだろう。
そして結果として……そうすることにした。
まぁしょうがないか……
それを見越してすでにいくつもの道具は持ってきており……ぶっちゃけ最初から泳ぎたかったこともあって、素潜りする気満々だったりする。
さてと、ちょっと離れてと……
人目が着く街から少し離れて、俺は沿岸に移動し……荷物や着替えを認識阻害の術で隠した後、道具をいくつか持って沖合へと水面を駆けていった。
そうしてしばらく海を泳いで結構な魚やら貝やらを入手する。
そんなことを結構な時間を行って、俺はとりあえず昼飯を取ることにした。
といっても食材は現地調達であり、いくつか漁で手に入れた魚なんかを売って炊かれた米を入手して、持ってきていた調味料と漁師飯を作って適当に飯をすませていると……見知った気配が先ほどの港町に訪れたのを察知した。
そしてその気配がいたことで……本日の業務の事を俺はある程度察することが出来た。
なるほど……主はこっちか……
食材調達も入っているのは間違いない。
だがそれと同じくらいに、気配に対する慰労に、俺と気配の間を取り持とうとしたのだろう。
きちんと王様してるじゃん……なら責任感も王様として欲しいもんだ
有能なのは間違いないのだが、いかんせん少々ちゃらんぽらんなのをどうにかして欲しいものである。
それについては今後の課題にするとして……俺としても帰宅することも考えると、あまり悠長なことはしてられないだろう。
さっさと飯作って帰るか……
まだこれからお偉方の晩飯を作るという、実に重要な仕事が残っている。
そこまで急ぐ理由はなかったが……しかし逆に急がなくても良い理由はない。
ならばさっさと終わらせるべきだろう。
そうして俺は能力を見られては困る調理を行って……港へと向かい、とある人物へと接触する。
「お疲れ様だな孫権」
「!? 刀月!?」
能力等も何も使わず普通に近寄り、声を掛ける。
俺がいたのが意外だったのか、純粋に驚いた褐色ロングだったが……すぐに眉間に皺を寄せる。
褐色ポニーと違い護衛が二人、側に控えていた。
俺のことは知っているようで別段警戒されることはなかったが……褐色ロングと護衛が、俺の手にした大きめの鍋へと視線を投じる。
「……何をしているのだ?」
「飯を作りに」
「誰の?」
「孫権……と、甘寧とその部下達か?」
今まさに船着き場に向かってきている軍船に、褐色襟巻きの気配も感じ取り、俺はその名前を加えておく。
事実上、呉で二番目に偉い存在である褐色ロングがこの場にいるということは、恐らく視察か何かだろう。
軍船が向かってきていることを考えると、恐らく海上演習の視察。
軍事機密だろうが……まぁ俺もそれなりの立場にいるから咎めようにも咎められないってところかな?
三国において、もっとも水軍が充実しているのが呉だったはず。
何せすぐ側に海もあってでかい河もある。
演習場所に事欠くことはないだろう。
といっても軍事機密をそんなほいほい色んなところでするわけにもいかないだろうから、演習及び水軍の拠点はある程度限られた場所にしかないだろうが。
「水軍の軍事演習の視察か?」
「……あぁ」
否定しても意味がないとわかっているのだろう。
俺の言うことを肯定したくはないだろうが、渋々孫権は俺との会話を続けてくれる。
上の人間にここまで気を遣われてそのまま帰るわけにもいかないため、俺としても内心で苦笑しながら孫権と会話を続ける。
俺自身、こいつに部下の褐色襟巻きはきらいじゃないしな
決していい雰囲気ではないが……険悪でもない状況で俺と孫権は船が港へと接岸するのを待った。
近づいてくると、それなりにでかい船というのがよくわかる。
無論俺が知っている巨大な船……タンカーとか……に遠く及ばないのは間違いないのだが、それでもこの時代の船としてはでかい部類に入るだろう。
「……何故貴様がここにいる?」
さすがは忠犬……他意はない……というべきか。
褐色襟巻きがこちらに気づいた瞬間に慌ててこちらへと近寄って警戒心を露わにしてくる。
そんな隊長の姿が珍しいのか? 水兵達がこちらに注目しているのがよくわかった。
「蓮華様、ご視察ですか?」
「えぇ」
「この者は?」
「それは私にも……」
「おいおい。いくら何でも完全な邪魔者扱いはひどいだろ?」
褐色ロングはそれほどでもないようだが、しかし褐色襟巻きは間違いなく俺がこの場にいること自体に嫌悪感を抱いている。
何というか、ここまでくればいっそ清々しいと思えるほどだった。
褐色襟巻きがここまで慌てるのがよほど珍しいのか、後方の連中の水兵達がずいぶんと驚いている様子だった。
その様子を……後方に振り返ることなく察した褐色襟巻きが、顔を向けることもなく鋭く指さした。
「誰が休んで良いと言った?」
うっわ……こわ
割と真面目に純粋にドスの利いた声で言うものだから、実に恐ろしいものだった。
褐色ロングに対しては親愛の情もあって、実に丁寧な指導をしていたがこちらが素なのかも知れない。
「す、すいやせん!」
怖いのは間違いないのだろう。
部下達は速攻で持ち場へと戻っていく。
だが、恐れているのは事実のようだが、一瞬だけ恐縮するがすぐにこちらを興味深そうに顔を出して見てくる。
そんな部下の姿に、褐色襟巻きは溜息を吐いて首を横に振った。
「礼儀を知らぬ者達で……申し訳ありません」
「よい。仮にも主と噂の人物がこの場にいるのだ。気にもなろう」
噂?
と一瞬思うも、俺が噂にならないわけがないのは自分自身重々承知しているので、特段言葉を発することはなかった。
「この程度で気を散らすことが問題だと思うのですが……」
「厳しいな思春は。少しは私に対して甘くしてくれているのを、部下にも分けてやっても良いのではないか?」
「というか……こんなのんきに話をしていて良いのか? 訓練じゃないのか?」
訓練と確認したわけではないが、わざわざ国のお偉いさんが来ている状況だ。
何かしら行ってもおかしくないと思ったのだ。
水軍で訓練と言うのが一体どういうものなのか俺としては興味があったのだが……俺の言葉に二人はきょとんとしてしまう。
「訓練?」
「訓練ならばすでに行っているが?」
「ん? そうなのか?」
意外そうにする褐色ロングと褐色襟巻き。
俺としてはこれが訓練とは理解が出来ず、首をかしげることしかできなかった。
そんな俺の様子がおかしかったのか……珍しく褐色ロングがおかしそうに苦笑して説明してくれる。
「一度海軍を動かせば安くはすまない。あらゆる状況を想定して基礎的な操作を反復練習するのが一般的なのだ」
「ほうほう」
「おおかた素人らしく船から船に飛び移っての戦闘訓練を想定したのだろう。だが平時から船同士で模擬戦などといった、派手な海戦演習はしない」
「やかましいわ」
「水兵の一番の仕事は船の操作だ。理にかなっているだろう?」
「確かに」
普通に教えてくれる褐色ロングと、とげとげしく嫌味を言ってくる褐色襟巻き。
その二人の温度差に今後の二人に対する態度をどうすべきか考えながら、俺は素直に講釈を聞いていた。
「なるほど、実に参考になった。感謝する」
少しの時間俺に対して講義をしてくれた二人に俺は素直に感謝する。
現代の感覚と違いすぎるのは当然だが、それを事前に知れたのは実に良いことだろう。
「それで……さっきから気になっていたのだが、そのでかい鍋は何だ?」
「あぁこれか? 差し入れの食材」
先ほど自分の漁師飯を作るのに使用した鍋には、大量の魚のアラを醤油で煮込んだ物が入っている。
醤油を薄めずに煮込んでいるのでこのままでは塩辛くて食べられたものではない。
ので……
「おい水兵」
「へ、へい?」
「大量の汁物が作れる鍋はないか? 持ってきてくれ」
手近にいた水兵に鍋を持ってくるように指示を出し、さらについでに野菜も少々取りに行かせた。
持ってこさせたでかい鍋に先ほど煮込んだ物を投入し、持ってこさせた水を入れる。
さらに持ってこさせた野菜を刻んで投入し、煮込めば……
「ほいアラ汁」
結構な量の魚を捌いたので、アラも相当量あった。
それを利用して作ったアラ汁だ。
醤油はまだまだ貴重なため、俺がいる場所でしか作られていないため珍しいのだろう。
醤油の独特な香りに興味を示して……水兵達が次々にこちらに興味を示しているのがわかった。
「飯作ってきたから昼飯にでも食ってくれ。俺も仕事に戻るよ」
「仕事? 何をしに来たのだ?」
「これも仕事の一つだ。気づいたのは今さっきだがね」
「さっき?」
「晩飯の食材を取ってこいとのお達しだったのでな。それだけじゃなく慰労も入ってるんじゃないかと勝手に思っただけだ。もしかしたらこれは仕事に入ってないかも知れないが……まぁ大した物じゃない。遠慮せずに振る舞ってくれ」
俺はそうして自分の鍋等を軽く洗って残りは丸投げして撤収した。
盟主である褐色ポニー直々の命令でやってきた俺が、二番目に偉い褐色ロングに配膳をお願いする。
これはこれで問題かも知れないが、しかしトップが自分たちを気に掛けてくれているというのは、部下としては嬉しい物なのだ。
そしてそんな部下へのフォローを俺が行えば、俺の心証も良くなるという……なかなか考えられたものだと言えるだろう。
俺の疲労度があまり考慮されてないのがあれだがな……
とんぼ返りで海まで行ってこいとか……普通に考えて鬼畜以外の何物でもない指示である。
無論俺がそれを出来るのを知っているのだから出した指示なのは間違いないし、また明確に俺に対して慰労を指示しなかったのは、きつかった場合は行わなくてもいいという意味合いなのだろう。
言葉にして命令すればそれは間違いなく指示であり命令だ。
あえて言外にすることで、明確化しなかったと言うことだろう。
後は……俺がどう動くのかも試したかったのかも知れない。
そこまで腹黒なことを考えているのかはわからないが……
特に褐色ポニーは良くも悪くもまっすぐで単純だ。
そこまでのことを考えるとしたら……相方の褐色知的眼鏡の方だろう。
といっても、あちらも俺のことを憎くて試しているわけではないだろう。
なんというか……やること多いというか、考えること多くてめんどくさいなぁ……
身内に対する能力の把握に素行調査というか……内面調査。
兵士の訓練、国の運営。
さらに俺はしてないが、お偉方はそれとは別に敵国の情報を調べたり、対策を練らなければならない。
まさに怒濤の日々と言っていい。
それをさぼれば文字通りの消滅だ。
必死にもなるという物だろう。
現代だと……さすがに消滅させるって事はもうさすがに難しいからなぁ……
仮に現代で戦争が起きた場合……大規模な戦闘行動になり、どちらが勝利するにせよ、敗北するにせよ、さすがに国際社会的に虐殺というか、敵国を完全に消滅させることは出来ないだろう。
消滅までいかないにしても属国扱いも難しいはずだ。
国際社会がそれを認めるわけがないからだ。
仮にそれを可能にするとすれば……隔絶した絶対的な戦力がなければ成立しない。
それこそ……世界中の全ての国を敵に回しても圧倒出来るだけの戦力がなければ。
マンガみたいな話をすれば……ジェット戦闘機が航空における最強戦力な状況で、その国だけが光速移動が可能な戦闘機とか文字通りビームライフルとかを全ての武装に配備できたりすれば勝てるだろうなぁ……
ビームは文字通り光なのだ。
撃った瞬間には当たっている。
それを全ての戦闘機や戦車等に配備できれば相当な脅威だ。
またビームなどが使用できると言うことは、それに対する防御などもあると想定できる。
ビームを防ぐ防御兵器もあるのなら……かなり強力な軍を所有していると言って良い。
今適当に考えたが……ともかく隔絶した力を持っていなければ、殲滅も虐殺も属国も不可能だ。
そしてこれが重要だが……倫理がある。
道徳がある。
何よりも……同調圧力という名の協調がある。
少し偏見かも知れないがな……
同調圧力は少々違うかも知れないが……しかし現代の本格的な戦争行動というのはあまりにもリスキーだ。
何せ間違いなく最強の戦略兵器は……核爆弾なのだから。
核爆弾の厄介なところは撃った後の放射能だ。
核保有国が一斉に全ての核爆弾を発射した場合は……間違いなく地球が滅ぶだろう。
そのあまりにも容易に想像できる危機意識が……戦争を遠ざけているのも事実だった。
だが……この時代は違う。
倫理もある。
道徳もある。
だが……それ以上に力による絶対的な暴力がある。
死人に口なし……が本当にまかり通る時代だ。
何せ防犯カメラ等の記録媒体がない。
やろうと思えば力でどうにか出来るのだ。
個人であれ……群体であれ。
ならば……憎き敵国に勝利した場合どうなるかなど想像に難くない。
だから必死になるわけだが……
荷物を片付け、下処理をしている食材をしまいながら……俺は木の上に飛び上がり、港の方へと目を向ける。
高低差的にもかろうじて水軍の訓練を見ることが出来る。
当然ながら必死だった。
もしかしたら明日には戦争になるかもしれない。
出撃命令が下り、敵を……人を……
殺しに行かなければならないかもしれない。
戦争を行うと言うことは当然自分も死ぬかも知れないと言うこと。
死なないというのは、運も大いに絡む要素だが……運に絡まない絶対的な要素は訓練による自己鍛錬だ。
相手よりも自分が強ければ殺されない。
実に単純にして簡単な事実だ。
自らが死なないため、隣人を死なさないため……自らの国に住む愛する人々を守るために、必死になって訓練を行っている。
まぁどれほど訓練しても……死ぬときは死ぬんだが……
しかしどれほど訓練をしても運次第ではあっさりと死んでしまうのが人間だ。
かといって訓練をしなくて良い訳もない。
矛盾というか……むなしいな
こんな時代があることも。
俺がこうして考えていることも。
そんな益体もないことを考えながら……俺は帰路へと着いた。
後は黄蓋(祭)を書いたら本編を進めると思います
ほかのキャラが好きな人には申し訳ないですが・・・・・・
あまりにも時間がかかりそうでw
よろしく~