荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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今回はちょいと下つーか、エロつーか

まぁそんな感じの描写が結構あります

表現も結構過激というか、直接的な物がありますが他意はありません

その辺重々ご承知くださるようお願いします




酒と飯に警邏と子供

「再度……平和だ」

 

ここ最近は大きな出来事も荒事もなく……本当に日々の忙しさに忙殺されている毎日だが、それでも荒事も戦もないから実に平和と言っていいだろう。

本日の業務も例に漏れず土木工事だった。

最近は料理人というよりも完全に土木工事の方が、仕事における比重が多くなってきている気がしてならなかった。

 

まぁ何もしないでいるとか絶対嫌だからどうでもいいけど……

 

ニートとかはさすがに嫌なので、仕事があったほうがいいのは間違いなかった。

しかし歴史として……もっと言ってしまえば授業として、歴史を勉強していると乱世というのは日々が殺伐としているというか、もっと毎日が荒れ狂っているような気がしていたのだが、いざ当事者として歴史にいてみると案外平和な日々の方が多い事に驚いていた。

 

まぁそれだけ治世が優秀と言うことなのだろうな……

 

戦がなくても争いは起きる。

飢饉による食糧不足、災害などで住処を追われた等々……理由は様々だろうが、戦だけが争いではないのだ。

だがそれがないこの呉という国は、実に文官達が優秀であり仕事をきちんとしているということなのだろう。

 

戦が始まった後よりも、平時の方がよほど大事だという考え方は……信長だったかな?

 

俺の知識は以下略。

だが間違いなくいざ戦が始まるときに慌てているようでは全てが遅い。

食料……つまりは兵糧の備蓄に、兵士の育成、指揮官の育成、武具の整備、軍需物資。

そして何よりも……情報。

いざ戦争を行おうとすればやることはそれこそ多岐にわたるだろう。

何事もそうかもしれないが、始まってからでは遅いのである。

 

まぁだからこそ俺も土木工事に精を出しているわけですが……

 

出していると言うよりも出させられているといった方が適正かもしれない。

多少の知識はあれど……本格的な土木工事は俺もそこまでわかっているわけではない。

故に指示通り仕事をこなしているだけなのだ。

いつでも思うが、俺は間違いなく兵士タイプだろう。

 

肉体労働専門ってこったな……

 

といってもとりあえず今日の土木工事は終わった。

まだ昼になったばかりだ。

本日は土木工事が主で飯の準備は指示されていない。

午後休暇というわけではないが……少しは気を緩めても問題ないだろう。

久しぶりに自分の飯でも作ろうと考えていると……見知った気配に気がついて、俺は思わず足を止めた。

 

……褐色妖艶?

 

今俺がいるのは飯屋が集中しているところ。

そして褐色妖艶の気配が……どこか気色ばんでいるのを感じて、俺は呆れて大きく溜息を吐くしかなかった。

 

確か……今日は演習じゃなかったか?

 

宿将故にあまり心配することはないだろうが……それでも仕事をほっぽっているのはあまり感心できることではない。

俺はやむなくそちらへと足を向けて……自らの予想が当たって大きく再度大きな溜息を吐いた。

 

「何をしている……黄蓋」

「む、その声は刀月か?」

 

オープンカフェというべきか……語彙がないがともかく店の軒先で、褐色妖艶はテーブルの一つを陣取っていた。

酒器を片手にしたままこちらへと振り向き、俺を認識して機嫌が良さそうに笑っている。

そして酒器からは酒気が漂ってくるので……飲むまでもなくその器には酒が入っていることが察せられた。

 

昼間から酒とは……良いご身分だなおい……

 

しかも机には所狭しと並べられた料理も並んでいて、そのほとんどが食べ尽くされている。

酔い具合からも考えるに、そこそこ飲んでいるようだった。

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁ~」

「昼間から酒とは、良いご身分だな」

「人生の伴侶を愛しているだけのことよ」

「伴侶だぁ?」

「佳き飯、佳き酒。それらを彩る少しばかりの荒事があってくれれば、儂としては申し分がない。そういうものじゃろう?」

 

顔を赤くしながら人生を語る宿将。

この場面を褐色知的眼鏡辺りが見たらどうなるか……見物である。

 

あまりストレス溜めさせたくないんだけどな……

 

「それは個々の感性によるな」

「ほっ!? 若造が、いっぱしの口をきくのう」

 

ここで経験値では絶対に勝てないって言ったら……怒るかなぁ?

 

年上でしかも乱世の人間だ。

荒事に関しては間違いなく俺よりも経験が多いだろう。

俺は濃い経験もしているが……それでも絶対数では勝てる道理もない。

しかし褐色妖艶もさばさばしているが、女性には変わりない。

あまり年寄り扱いすべきではないだろう。

だが言うべきことは言わねばならないだろう。

 

「んで? 昼間から酒飲んでて良いのか? 確かこの後演習じゃなかったか?」

「そんなもの、酒を飲んだ後でもどうということはない」

「まぁ確かにお前さんなら問題なくやりそうだが……道徳という倫理をもっと重んじろ?」

「かぁ~~~、やかましい男じゃのう。細かいことばかりいっとらんで、お主も付き合わぬか?」

「あぁ?」

 

めざとく俺を見つけていた店員から器を渡される。

そして断る間もなく、目の前の酔っぱらいは俺が手にした酒器に酒を注いできた。

 

「おい、俺は飲むとは――」

「無粋なやつじゃのう。儂の酒が飲めんというのか?」

 

うわっ……完全に面倒な酔っぱらいだ……

 

正直今すぐ帰りたい気分だったが……酔っぱらいというのは放っておくのも面倒なのだ。

やむなく俺は一杯だけ付き合うことにした。

 

「これだけだぞ?」

 

このままではこの店に言いように使われてしまう可能性もあるため、俺は一応店主を呼んで釘を刺しておいた。

名前を利用したら承知しないぞと。

俺は良く悪くも有名人なのだが……この店の店主はその辺もわかっていたのか、それとも道徳がきちんとわかっているのか、笑いながら了承してくれた。

実際後日来てみたが、俺が来たことを公言している様子は見受けられなかった。

信頼できる店として、今後俺がちょくちょく能力を利用してこの時代の飯を視察に来るのだが……それはまた後日の話。

 

「ほう……悪くはないな」

 

そして注がれた酒を飲んで、俺は素直に感嘆した。

当然俺が満足する出来ではなかったのだが、しかしこの世界に来てから普通にうまいと思えた酒だった。

すでに黄蓋が手を付けている料理の匂いを嗅いでみても、そこそこいい感じなのはわかった。

店主はどうやら人柄だけでなく腕前も確かなようだった。

 

「ほう? あの刀月がそんなことを言うとは、意外じゃの」

「俺をなんだと思ってる? うまけりゃ普通にうまいと言うわい」

「それもそうか。まぁ確かにお主の料理に酒よりは劣るだろうが……うまいじゃろ?」

「あぁ」

 

疲れていたこともあってか、俺は普通に酒と飯をいただく事にした。

といっても、腹を満たすつもりはなかったので、黄蓋が食べていたものをつまむ程度だが。

 

「あまり偉そうな事を言いたくはないが……あまり酒を飲み過ぎないようにな。体にもあまり良くないしな」

「この程度なら、赤子でも飲んでいるわ」

「そら嘘だろう」

「うむ……さすがにそれは言い過ぎじゃな。というか、もう戻るのか?」

「むしろお前はまだいるのか?」

 

まるで俺が帰るのを引き留めようとする黄蓋に、心底呆れながら俺はそう返すがさすがは常習犯の酔っぱらい。

俺の嫌味など毛ほども感じていないようだった。

 

「少しは話に付き合ってくれてもよいじゃろう?」

「酔っぱらいの相手をするのはごめん被りたいのだが?」

「この程度では酔ってるとは言わぬよ」

「酔っぱらいが言う言葉が信用できるか」

「良いから付き合っていけ!」

 

立ち上がり帰ろうとすると、何故か切れだした黄蓋に思い切り手を引かれるのだが……しかしその程度で俺を倒すことなど出来るわけもなく、むしろ逆に引っ張ってやる。

どうやら少しは悪戯心があったようだ。

 

「ほう、さすがじゃな。なかなかいい体をしておる」

「むしろこの程度で俺を倒せると思っていたとは、心外だな?」

 

どこか少し剣呑な雰囲気になりつつある俺と黄蓋。

無論この程度で怒ることはないだろうし、俺も冗談で言っているだけなのだが……相手が酔っぱらいなのが面倒でしょうがなかった。

 

暴れたりしないだろうな?

 

制圧するのは簡単なのだが……黄蓋は腐ってもこの国に長年仕えた宿将だ。

それがいくらそれなりに怪人として名が通っているとはいえ、新参者の俺に簡単に取り抑えられてはあまりいい印象を住民に与えないだろう。

と、内心で少し冷や冷やしていたのだが……さすがに酔っぱらいとはいえ黄蓋もバカではなかった。

 

「何、儂もこの程度でどうこう出来るなど思っておらぬよ。むしろ逆に常在戦場と言うべきか……儂を相手にしても油断してないのに素直に感心したのよ」

「まぁ信用してない訳じゃないが、俺自身もまだ未熟だからな」

「ほう? お主ほどの男でも己を未熟というのか?」

「驕り高ぶるよりは良いだろう? それに……俺よりもすごい奴を、俺は少なくとも10人は知っているからな」

 

じじいに親父に……騎士王、えせ執事、槍のバイト戦士、長身の元女神、魔女新婦、精霊の守護者、相棒、神父。

神話の存在がいるので多いのは当然かも知れないが……その神話の中に混じって普通の人間が三人もいることの方が、俺としてはびっくりだった。

 

じじいは恐らく規格外として……三撃同時は本当に絶技だったし、あの神父は全盛期だったら間違いなく勝てなかっただろうな……

 

むしろ俺が二人に勝てたのは奇蹟に近いだろう。

というよりも、十回殺し合って九回殺されるところを……運良く一度目に勝利を持ってこれたという方がしっくりくる感じだった。

 

まぁ……二度目が通じるかは、謎だがな……

 

全て力任せで振るった、俺の業。

恐らく次は通用しないだろう。

 

下手すっと受け流し三連を普通にやられそうな気がする……

 

今思い出してもゾッとする相手である。

俺が勝てない相手というのは、やはり興味があるのか……今まで話していたことよりも遙かに食いついてきた。

 

「ほう!? お主が認めるほどの存在が十人もいるのか!? その話、詳しく聞かせてくれぬか!?」

「……そうしても良いかもしれないが、まずは仕事をした方がいいと思うが?」

 

普段ならば気づいているはずだろうに……酔っぱらっているのと俺の話に興味をそそられているからか、背後の存在に褐色妖艶が気づいていない。

褐色妖艶の背後にいるのは……恐らく今この場でもっとも恐ろしい存在、褐色知的眼鏡こと、周瑜だった。

その目は普段よりもさらに細くつり上がっている。

 

まぁ兵に示しを付けるはずの宿将が、昼間から酒飲んでればそら怒るか……

 

「仕事よりもお主の話よ!? お主が認める存在の話を聞きたい!?」

「それは今度してやるから……仕事に戻った方が良いと思うが? 周瑜に怒られても知らんぞ?」

 

ここで俺は失策をした。

名前を告げない方が良かったのだ。

具体的な相手を述べたことで、褐色妖艶に話題の種を与えてしまい、褐色知的眼鏡の怒りの業火に、さらに燃料をくべる形になってしまった。

 

「別段冥琳に言われても何も問題ないわい。そもそも周家のご令嬢は今でこそ、ああして威張っておるがな? 昔は泣き虫じゃったのじゃ。よくいじめられていての。儂が良く助けてやったものよ」

「あ~~~~~」

 

無駄に火傷を負ってしまっており、さらに悪口を言われてしまっている、背後の褐色知的眼鏡に俺は目でわびておく。

それが通じているのかどうかはわからないが……まぁ悪口を言われて気分が良いわけもなく、さらに目がつり上がり、眉間に皺が寄ってしまう。

 

「それだというのに、あやつは恩も忘れおって、偉そうにしおってからに。全く……儂はあやつをあんな風に育てた覚えはない!」

「私も、あなたに助けてもらったことは覚えておりますが、育てられた覚えはありませぬな?」

「……ん?」

 

先ほどまでの威勢はどこへやら。

幻聴だと思っていたのか、思いたかったのかはわからないが……褐色妖艶は一度首をかしげ、俺の視線を追っていき、背後を振り向いて固まった。

褐色妖艶の視線の先には……それはそれは実に皮肉を顔に浮かべた、褐色知的眼鏡の姿があった。

 

「偉そうな物言いをしていたとは私も気づかず、申し訳ありませんでしたな。これからは気をつけるようにいたしましょう」

「……」

 

一発で酔いが醒めたのだろう。

先ほどまで気色ばんでいた雰囲気が一瞬にして霧散し……冷や汗をかいているかのように、褐色妖艶の体温が少し下がったように感じられた。

しばしそうしていたのだが……何故か俺の方へと振り向いて、褐色妖艶はぽつりと呟いた。

 

「のう、刀月?」

「何だ?」

「もしや儂は虎口に飛び込んだ兎か?」

「いや、もう息の根止められた後だろ? この状況でよくまだ生きていると思えるな?」

「なるほど……すでに死に体ということか?」

 

実に苦々しげに顔を歪める褐色妖艶。

それに対して……実に清々しい笑みを浮かべて、褐色知的眼鏡が死刑宣告を告げる。

 

「さて祭殿? 観念されましたか? これからお話しさせていただきたいのですが、よろしいか?」

「いや、……え、遠慮させ――」

「刀月」

「ほいほい」

 

本当に逃げることはないだろうが、しかし実際に逃げられては面倒になるので、褐色知的眼鏡は俺の名を呼ぶ。

意味はすぐに理解できるので、俺は懐から財布を取り出して少し多めに支払い代金を机に置き、一瞬にして褐色妖艶の首根っこを掴んだ。

 

「ここでは迷惑になりますな。場所を変えましょう。刀月、城まで丁重にお連れしろ」

「ほ~い」

「と、刀月貴様! 離せ!」

「嫌だよ。ここで逃がしたら俺が怒られるじゃん」

「というよりも何故お主が儂を拘束するんじゃ! お主も酒を飲んでおっただろ!?」

「俺は土木工事の仕事上がりで、午後は特段指示を受けてないので事実上休みだ。といってもやることは山積みだからやることはやる。今のはちょうど昼飯みたいなもんだな。どこかの誰かみたいに仕事をほったらかして飲んだくれていた訳じゃない」

「謀ったの! 刀月!」

「誰も謀ってないっての。己の職務放棄を呪うんだな」

 

ぎゃーぎゃー騒ぎ立てるがしかし俺の拘束から逃げられるわけもなく、仮に逃げても無駄なのはわかっているのだろう。

最初こそ騒いでいたが、最後には素直に連行された。

そして城にたどり着き俺は自分の作業に戻ったので……褐色妖艶がどれほど怒られたのかは知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~~~疲れた……」

 

今日も土木工事にいそしむ俺。

最近は本当に土木工事の頻度が高すぎる。

指示される仕事の六割は土木工事になってきている。

ちんちくりんも俺に料理をさせるよりも、その間土木工事をさせて方が財政が潤うというのをわかっているようで、最近はちんちくりんからも工事の指示を出される始末だった。

ちんちくりんが頑張っているのはすぐにわかることなので、俺としてもやぶさかではないため本気で工事を行うのだが……こうも毎日工事を一日中するとさすがに疲労も溜まるものだった。

水浴びをして俺は厨房へと向かっていた。

さすがに疲労が溜まってきたので、飯をしっかり取ろうと思い……土木工事の配給ではなく自ら調理をしようと思ったのだ。

 

「おうお疲れのようじゃの、刀月」

「おうお疲れ、黄蓋」

 

そんな厨房へ続く廊下の途中で、俺は黄蓋に声を掛けられた。

 

「なんじゃ、お主にしては珍しく覇気がないの?」

「ここ数日ずっと一日中土木工事した上に、夜は袁術の飯の下ごしらえだぞ? 疲れもするわ」

 

ちなみに料理をしなくなったといっても、あくまで俺が一から十まで作らなくなっただけで、料理の下ごしらえやら準備は行っていた。

焼くだけで食べることの出来る料理なんかを用意して、翌朝調理の手順を木簡にしたためて部下にお願いしているという感じだ。

これは俺の文字の読み書きの良い練習にもなっていた。

さらに言えば俺は自らの畑も部下に任せているのだが、それもある程度報告書を見た後に指示を出したり、場合によっては夜に畑の様子を見に行ったりもしている。

正直やることが膨大すぎててんてこ舞いだった。

 

「お主の土木工事は一度見たことがあるが……よくぞあれだけ動けるものよな? して……それをほとんど連日か?」

「まぁしょうがないだろう。俺ほどあほみたいな動きが出来る奴いるわけないし、俺を動かせばそれだけ呉が潤うんだからな。俺も一応呉に仕えているんだから、こき使われるのもやぶさかではないさ」

 

ぐぅぅぅぅぅ~~~~~

 

と、話をしていると、俺の体が餌を求めて腹の虫を鳴らした。

別段恥ずかしくはないのだが……実にタイミング良く鳴ったものである。

 

「なんじゃ? 腹が減っておるのか?」

「まぁな。最近体に良いもの食べてなかったから自分で飯作ろうと思ってな」

「ほう、今からお主が飯を作るのか?」

 

あ、なんか面倒なことになりそうだな……

 

悪戯でも思いついたのか、ニヤリと笑った褐色妖艶に俺は内心で溜息を吐く。

と思っていたのだが……すぐにこれが失礼だと言うことがわかった。

 

「ちょうどよい機会じゃ」

「何が?」

「儂が飯を作ってやろう」

「……はい?」

 

突然の申し出の意味がわからず、俺はただ阿呆のように言葉を紡ぐことしかできなかった。

そして俺の返事も聞かず……決定事項とでもいうように、褐色妖艶は厨房へと歩いていく。

俺もこのまま呆けているわけにも行かないので、付いていくように厨房へと向かっていく。

 

「何のつもりだ?」

「何、たまには部下をねぎらってやるのも良かろうと思ってな。お主の土木工事のおかげでだいぶ助かっていると、冥琳から聞いておるしの」

 

何故かはわからないが、別段断る理由もないので俺は素直に言葉に甘えることにした。

といっても、今は時間的に昼飯時。

褐色妖艶も飯を食うかも知れないので、俺自身も飯を作る事にする。

前掛けを身につけて、俺と褐色妖艶は下ごしらえを行って調理を行っていく。

そこで少々意外だったのが……褐色妖艶の手際が実に様になっていたことだった。

というよりも普通にレベル的には上の部類に入る。

その辺の質の悪い店等足下にも及ばない技術はあるようだった。

 

「意外だな。料理できるんだな?」

「失礼じゃな。自分の面倒も見れぬやつが、部下を率いることなど出来るはずもなかろう?」

「ならもう少し酒を飲むのを抑えるんだな」

「それは出来ない相談じゃな。というよりも、お主はつまらん男だな?」

「何だ藪から棒に?」

 

一緒に調理をしながら、何故か突然つまらない男呼ばわりされたので、俺は手を止めずに顔を褐色妖艶へと向ける。

 

「あまり意外そうにせんからじゃ。意外そうに呆ける顔が見たかったというのに」

「そんな理由で飯作るのか?」

 

どうやら悪戯心はあったようだ。

だがそんなくだらないことだけでここまでしっかりと料理はしないだろう。

慰労が入っているのは間違いない。

その好意は素直に受け取るのが筋だろう。

で、出てきたのが……

 

「出来たぞ」

 

どん!

という異音が聞こえてきそうなほど、チンジャオロース山盛りの器が机に置かれる。

さらに炊かれた飯も、何故か丼に盛られて俺の前に置かれた。

匂いがいいので、間違いなくうまいだろうが……量がおかしかった。

 

まぁ食えるけど……

 

「うまそうだな。ちょうど良かった。俺は汁物だからこっちのも食ってくれ」

 

俺が作っていたのは魚介の出汁をふんだんに使い、複数の種類の貝も入れた特製のトマトスープだ。

スープといってもほとんど水を入れずトマトの水分と他の野菜……ほうれん草やジャガイモ……から出てくる水分で煮たので、栄養価も高く、塩を控えめにしているので体にも優しい。

 

「ほう、実に面白い香りの料理じゃな? しかもずいぶんとドロっとした汁じゃな?」

「体にいいぞ。味も悪くないはずだ。では、いただくとしよう。いただきます」

「うむ、いただくぞ」

 

互いに手を合わせて感謝を捧げていざ褐色妖艶の作った飯を食うと……うまかった。

というよりも、本当にそこらの店など目じゃない味をしていて俺は思わず感嘆した。

 

「うまいな。正直驚きだ」

「ほう? お主にそういってもらえると、作った甲斐があるの」

 

褐色妖艶としても褒められて悪い気はしないのだろう。

機嫌良さそうに俺が作ったスープを飲んで、驚いた。

 

「ほう!? これは濃厚じゃが、出汁もしっかりと味わえてうまいの!? さすがは刀月じゃな!」

「料理で負けるわけにはいかないからな」

 

一応料理人だし……

 

自分の世界では料理人を名乗ったことはなかったが、それでも飯はこだわっていた。

モンスターワールドに冬木では本当に料理人として生きていたので、料理人としてもそこそこ日々を重ねたのは間違いない。

その代償として……本職が少しおろそかになっているのが不安でしょうがなかった。

 

鍛造がなぁ……今のなまった腕で俺の世界に戻ると、もっとも自信のある食い扶持がなくなってしまう……

 

刀村でも思ったが……本当にやばいくらいに腕が落ちていた。

といっても自分の世界の時よりも腕は上がっているのだが……モンスターワールドの時とは比べるべくもない腕前になっている。

どこかで大量に鍛造出来れば良いのだが……今の状況ではそれも難しかった。

 

よほどやばい状況にならない限り……鍛造を金儲けの手段にはしたくないからな……

 

大量に作って安く売れば金は手にはいるが……それは俺の矜持が許さなかった。

しかし仮に……別の世界に言ったとしても自由に鍛造できるかはわからない。

この世界ならばまだ時間さえあれば鍛造自体は可能だ。

どこかで出来る事を祈るしかないだろう。

 

「どうした刀月? 箸が止まっておるぞ?」

「おっと、失礼」

「飯を食いながら考え事をするのはあまり感心せんぞ?」

「その通りだな。失礼した」

 

目の前に飯を作ってくれた人がいるというのに、そっちのけで物思いにふけるのは良いことではないだろう。

俺は素直に謝罪して、飯を食った。

 

「うむ。素直なのはいいことじゃな」

「からかうな」

 

酒を飲んでいる訳ではないので、普通に会話を楽しみながら、俺と黄蓋は飯を食った。

食後にお茶でも飲もうかと湯を沸かそうと鍋に手を掛けたのだが……その前に黄蓋が手を伸ばそうとしたものを見て、俺自身手を止めざるを得なかった。

 

「こら、まだ仕事中だろう? 前にも言ったが仕事してるときに酒を飲むな」

「よいではないか? 別段酒を飲んだ程度で仕事をおろそかにするほど弱くはないぞ?」

「お前の場合、酔ったからじゃなくて基本的に仕事をおろそかにしているだろう?」

 

やるときはやるのだということは知っている。

実際兵の調練をしているときのこいつはまさに鬼気迫るというよりも、もはや鬼と言って良かった。

歴史に名を残すのは伊達ではないということだろう。

だがそれを差し引いても……普段の仕事に対する気持ちが緩い。

酒を飲んだ方が調子が出るのはある程度事実なのだろうが……何というか若干アルコール依存症なのではないかと疑ってしまうほどである。

 

「ついでに言うのであれば儂は午後がぽっかり空いて予定がないのでな」

「予定がない? そうだったか?」

 

俺自身忙しい事も相まって、別の人間の予定を完全に把握している訳ではない。

だが宿将のこいつが暇というのはなにか違和感があった。

 

しかもぽっかり空いたって……そんなことあるか?

 

と訝しんだのだが、少し先からズンズンと擬音が聞こえてきそうな感じで近寄ってきている存在に気づいて……俺はその言葉が嘘でもないが本当でもないことを何となく察した。

 

「じゃからこの前の話の続きをじゃな?」

「ほう? 祭殿にはこれから街の警邏の仕事をお願いしていたはずですが?」

「ぬっ!? その声は冥琳!?」

 

さすがに酒を飲んでいないのですぐに相手を察したようだ。

だがすぐに警戒を解いて、実に憎たらしそうな顔で笑った。

 

「別段問題のあることはしておらんぞ? 酒も飲んでおらんし、警邏の仕事はきちんと明命に頼んである」

 

あらま……本当に一応大丈夫な状況ではあるんだな?

 

尾行娘にお願いしたというのが果たしてどのようにお願いしたのかによるが……褐色妖艶は良くも悪くもカラッとしている存在だ。

無理矢理お願いしたのはまぁ想像に難くないが……それでも上司として嫌みったらしく強硬に命じた訳でないことは何となく察せられた。

 

「ならば明命に依頼した理由をお聞かせ願いませんか?」

「む? それは別によかろう」

「良くないからこそ、こうして伺っているのです。何かご不満があるのですか? あるのでしたらおっしゃってください。全ての要求をのむことは出来ないでしょうが、それでも改善する努力はいたします」

 

うむ……こいつは本当に良い奴だなぁ。だからこそ、体に負担かかるんだろうけど……

 

本心から、改善をしようと思っている気持ちが伝わってくる言い方だった。

方々色んなところに気を遣うからこそ……こいつは人に好かれるし頼られる。

そしてそれによってその影響が体にしわ寄せとしてやってくると言うことなのだろう。

 

どうしたもんかね? まだ試作段階なのだが……マジで最強の料理で少し時間を稼ぐか……

 

しかしあの料理は予算がかかる。

何日飲ませればいいのかはわからないが……華佗を呼んでからくるまでを考えると、それなりの日数になるだろう。

 

まぁそれなりの仕事はしてるから金に関してはあまり困ってないんだけど……気持ち的にね……

 

さすがにそれなりの金額が飛ぶとわかっているので、怯んでしまう気持ちがないわけではなかった。

俺は実に庶民というか、貧乏くさいと言うことだろう。

と、俺が実にみみっちいことを考えていたのだが……その間も褐色妖艶は未だに答えを渋っていた。

 

「不満はない。ただ……」

「ただ?」

「?」

 

豪放磊落な性格の褐色妖艶がここまで言い渋るのも珍しい。

褐色知的妖艶は真剣な面持ちだったが、俺としても興味をそそられたので、黙って褐色妖艶の言葉を待った。

だが……

 

「…………言いたくない」

「……祭殿」

 

え~~~~~言いたくないんかい

 

「言いたくないと言ったら言いたくないんじゃ」

 

何というか実に子供じみた言い訳をしている。

これにはさすがに褐色知的眼鏡も、怒りを通り越して呆れたのか……はたまた別の感情があるのか、怒るわけでも怒鳴るわけでもなく、ただただ小さく溜息を吐くだけだった。

 

「そこまでおっしゃるのであれば、無理にはお聞きいたしません。ですが……警邏には出ていただきますよ?」

「明命に頼んだのは結構前じゃからすでに出ておるはずじゃ。儂が無理に出る必要はあるまい」

「それならご安心を。私から指示が出るまでは待機しているようにといってあります。今頃城門で私の指示を、首を長くして待っているはずです」

「むぅ」

 

おぉさすが……相手を立てつつも、やるべきことはきちんとさせる上に、無駄がない

 

本当に心優しいいい女であると、俺は褐色知的眼鏡の評価をさらに改めることになった。

 

「刀月は確か、午後は急務はなかったはずだな?」

「あぁ特段ない。久しぶりに料理の研究でもしようと思ってただけだ」

「なら一人ではあれだから、祭殿と警邏を頼めるか? 疲れているところすまない」

「お前ほどじゃないさ」

 

本心で言ったためか、あまり警戒されずに済んだ。

さすがに部下の二人にこうして包囲網を敷かれては逃げるに逃げられず、また逃げられないと悟ったのか……褐色妖艶は渋々と警邏へと出かける事になった。

 

「全く冥琳めぇ。本当にかわいげのない娘に育ちおったのう」

「こらこら。陰口言わない」

 

そしてやってきた街の警邏。

宿将自らやることではないかも知れないが……逆に宿将が警邏に出る事が出来るというのは大いに喧伝効果になるだろう。

というよりも間違いなくそれを狙っていると考えられた。

宿将ほどの存在が警邏に出る余裕があるという事実。

その意味を褐色妖艶もわかっているはずだというのに、ここまで警邏を嫌がる理由がよくわからなかった。

それこそ、警邏をしながら酒を飲んでいても、見た目に変化がなければばれることもないため、言うなれば酒を飲みながら仕事が出来るというのに。

故に、先ほど渋っていた理由を再度聞いてみることにした。

 

「どうしてそんなに警邏に出るのが嫌なんだ? 本来良くないことだが……それこそ酒を飲みながら警邏をしようと思えば出来なくはないだろう?」

「警邏が嫌だというわけではない」

 

ならなんでだ? という意味を込めた視線を褐色妖艶に向けるが、良いあぐねて視線を逸らす。

本当にここまで煮え切らない態度を取るのは実に珍しい。

警邏が嫌ではないと言うことは、警邏をしてる時に起こる何かがいやという意味なのか?と考えていると、少し先にいる子供達の姿を見かけ……あちらもこちらに気づいたようだ。

 

「あ~! 黄蓋様だ~!」

 

先頭の男の子が気づき、声を上げる。

その声につられて周りの子供達が同じように褐色妖艶を見つけ、満面の笑みを浮かべた。

 

「な!? もう見つかったか!?」

「はい?」

 

変にうわずった褐色妖艶の声に俺が驚き横に顔を向けるが……そのときにはすでに褐色妖艶は子供達に背を向けていた。

まるで逃げ出すかのようだった。

いや実際逃げるつもりだったのだろう。

だがそれよりも早く、その行く手を遮るようにして子供達がワラワラと集まってきていた。

 

「黄蓋様!」

「こうがいさま~」

「ぬぅ……」

 

あっという間に囲まれて、さらには抱きついてくる子供もいて、褐色妖艶は身動きがとれない状況になってしまった。

 

「黄蓋様! 今日はどんなご用できたの?」

「こうがいさま!」

「用というかの……いや、儂はじゃな?」

「黄蓋様! 遊んで~」

「え~黄蓋様のお話が聞きたい!」

「いや、話と言われてもじゃな? 儂はお主らが面白いと思えるような話は知らぬぞ?」

 

うぁ、超新鮮

 

恐らく振り払う事も出来ない存在故に、どうして良いかわからないと言ったところだろう。

褐色妖艶は困ったように固まったまま動くことが出来ないようだった。

 

「どうしたら黄蓋様みたいにつよくなれるかな?」

「それは鍛錬あるのみじゃな」

「鍛錬って?」

「鍛錬というのは――」

 

子供の純真さには勝てないのか、それとも律儀なのか……褐色妖艶は次から次へと質問が飛んでくるが、それに対してきちんと答えていた。

だからこそ……こうして子供に好かれるということなのだろう。

宿将ということで人気があるのはある意味で当然なのだろうが、それでもここまで子供に好かれるというのは、こいつ自身の人柄と言ったところだろう。

 

「えぇい刀月! いつまでも見てないで助けんか!?」

「いや、助けろと言われてもなぁ?」

「えっ!? とうげつって……とうげつさま!?」

 

おっと、俺に興味が移ったぞ?

 

と思うが別段不思議ではない。

前にも孫はどうかとか寝言を言われたばかりだ。

土木怪人という話は呉に行けば誰でも知っている噂話である。

そしてそれが噂ではないのは、土木工事に一度でも従事していればすぐにわかる話である。

 

「あなたが刀月様ですか!?」

「お~そうだよ。ちなみに俺のことはどんな風に聞いてる?」

「はい! すごく力持ちですごくはやく動けて、呉のために……ぼくたちの暮らしのために工事を行ってくれてるって、お父さんが言ってました」

 

あぁ、やっぱりそんな感じね

 

とりあえず悪評ではないので気にする必要性はないだろう。

注意が俺にそれたことでほっとしている褐色妖艶を見るのは少し面白かった。

俺としては普通に子供相手をして、質問にはきちんと全部答える。

そしてしばらくしたら新しい遊び……といっても昔ながらの日本の外での遊び方だが……を教えて遊ぶようにし向けて、子供達とは別れた。

 

「あ~~~ひどい目に遭ったの」

「そうか? 普通に慕われているんだからいいんじゃないか?」

「それはそうじゃが……かといってあんな風にまとわりつかれては怖くてたまらんわ」

「怖い……か」

 

その言葉の意味は何となく察せられた。

幼い子供というのは……ある意味で本当に怖い。

 

「下手に体を動かして、拳が当たるかもしれぬ、蹴飛ばしてしまうかも知れぬ。そうなってしまってはあの小さな身体じゃ。怪我をして泣いてしまうかもしれんだろう」

「確かに」

 

ある程度力の制御が出来なかったときは、俺も結構苦労したのでその辺の面倒事は良く理解できた。

 

「泣き出した子供というのは手が付けられん。言葉は通じぬ、周りの子供も何故か泣き出す……そうなっては儂としてもどうすることもできん」

「確かになぁ……」

「なんじゃ意外じゃな? 刀月も子供は苦手か?」

「それはむしろの俺の台詞なんだがな。苦手というか……まぁそこは黄蓋と一緒だよ。怖いかな。というか何故あそこまで好かれてるんだ?」

 

率直な疑問をぶつけてみる。

子供が苦手というのであれば、普段から接することはなかったはず。

宿将と言うことで有名であっても、平民の子供と接する機会があるとは考えにくい。

 

「ここらで暴れた馬鹿者を一人のしてやったのだ。そのとき泣き出した娘がいてな」

「ほうほう」

「他の者は事後処理に忙しく、儂しかその娘を相手できるのがいなくてな。必死になだめていたら、何故か懐かれたのじゃ。しかもその様子を遠巻きに見ていた子供にも何故かなついてくる」

「まぁ子供は素直だからな」

「そういうお主は慕われている……というよりも憧れておるようじゃったな」

「現場を見てなくても親から語られたのに憧れただけだろ」

 

子供達がいなくなったので、ようやく仕事に戻ることが出来たので、俺と褐色妖艶はそんなくだらないことを話しながら警邏を行った。

その後は特にハプニングが起こることもなく、とりあえず平和に仕事をすることが出来たのだが……途中途中で酒を飲みながら仕事をする褐色妖艶に、俺は呆れるしかなかった。

 

と、それで終われば楽だったのだが、さすがは酔っ払い。

面倒な事に話題が変わった。

 

「それにしても刀月よ? お主本当に女に興味はないのか?」

「何だよ藪か――突然?」

 

ほろ酔いになった褐色妖艶と警邏を続けていると、実に面倒な言葉が飛び出てきて、俺は露骨に顔をしかめた。

だがそんな俺の感情など知ったことではないのだろう。

というよりも、歴戦……つまり年の功……と言うこともあって、実に遠慮なく突っ込んでくる。

 

「いやなに。前から思っておったが、お主は本当に儂や策殿、冥琳などの、呉の娘に色目を向けてこんからな。自分でこういうのも何じゃが、儂もまぁ、他の連中よりは年を取っているいわゆる年増だが」

「自分で言うなよ。色んな意味で」

「まあ良いから聞け。年増とはいえそこそこ体には自信があるぞ? それは儂よりもひよっこである策殿や冥琳や他の連中も言葉にこそ出さないが、そこそこ自信があるじゃろう」

「それに関しては否定できる訳がないな。孫策も周瑜も、そして黄蓋、あんたも十二分に美人だ」

 

これについては俺も否定する気はなかった。

粗食とはいえ生きるのに必死な連中だ。

その必死さが体に活力を与えているとでも言えばいいのか……今のところ俺が出会ってきた武将、知将は全員が高レベルな水準の美しさを持っていた。

無論好みはあるだろうが……それでも十分に美女といっていい連中が多い。

 

「そんな儂らを前にしても、お主はほとんど下卑た目を向けてこん。ならば本当に噂に聞く童女趣味なのかと思えば、さきほどの幼子達を前にしても実に見事なあやし方じゃった」

「子供がかわいいと思うがそれだけだ。欲情などするわけないだろう」

 

むしろそんな幼子に手を出そうとする外道を殺す仕事をしていたのが俺なのだ。

純粋に子供は可愛いと思う。

未来の……可能性の塊だ。

そんな子供達に対してそんな目を向けるようになったのなら……俺は腹を切ることを選ぶ。

 

「うむ、故に儂としては少々心配でな?」

「……聞きたくないが一応聞いておこう。何をだ?」

 

「お主、もしや不能なのか?」

 

聞かなきゃよかった……

 

心底……本当に心の底から俺は深い深い溜息を吐いた。

しかし俺のそんな様子などどこ吹く風……褐色妖艶はさらに続けた。

 

「いや、これでも一応心配しておるのじゃぞ? お主とて若い男に代わりはない。なら滾ることもあるじゃろう?」

「……答えたくないんだが」

 

無論俺としても若い男。

何も感じないわけではない。

だがそれ以上にやりたいこと、やらなければいけないこと、絶対にしなければならないこと。

それらが多すぎてそんなこと等している余裕も暇もないのが、理由の一つであることは事実である。

 

「別段誰もが股を開くわけではないが……少なくとも策殿はお主の事を憎からず思っていると思うぞ? さらに言えばお主の部下だった亞莎なんかは、お主が閨に誘えば恥ずかしがりこそすれど、内心で嬉しいとは思うが?」

「股って……お前、もう少し言葉をだな?」

「選んでも選ばんでも言うことは一緒じゃから別に良かろう?」

 

酔っぱらっているのかは謎だが……面倒な話題が続いていく。

だが厄介なことに、こいつは本当に俺のことを心配している様子なので、問答無用でぶった切ることも出来なかった。

 

「儂とてお主ほどの男であれば、お主がよければ食われても良いと思っているぞ?」

「だから言い方」

「さらに言えば、少しでも下卑た目線を向けてくればその気があるのだとこちらとしても安心できるのだが……それもなく、童女趣味でもない。ならば男色家かと思えば、そうとも思えぬ。何がお主をそこまで追い詰めておる?」

 

あ、尋問入ってんのか……

 

褐色知的眼鏡と一緒で尋問が入り出したので、俺は思考を切り替える。

この場を適当に誤魔化すことは可能だろう。

酔っぱらっているため、たとえ俺が何を言って褐色妖艶が何を聞いたとしても……酒を飲んで酔っぱらっていた褐色妖艶に、全ての責任を押しつけることも不可能ではない。

だが、確かに多少は酔っているとはいえ、前後不覚になるほど飲んでいる訳ではない。

しかもいくら酒を飲んでいるとはいえ真剣に聞いてきている存在に対して、不誠実な事はしたくなかった。

 

まぁ酔ってるのが……ちょっと引っかかるがな……

 

「追い詰めている訳じゃない」

「ほう?」

 

俺が真面目に答えると察したのか……褐色妖艶が雰囲気を変えて、俺の言葉に耳を傾けてくる。

こいつも呉の重鎮。

俺が一体何をしでかすつもりなのか、気にならないと言えば嘘になるのだろう。

俺はそんな褐色妖艶の疑問に答えるように、内心を吐露する。

 

「他の奴から聞いているとは思うが、俺の最終目的は俺の故郷に帰ることだ。だが……現状どうやって帰るのか検討も付いてない状況だ」

「妖術が必要らしいの?」

「あぁ、恐ろしいことにな」

 

そこだけは二人に対しての皮肉を込めて、戯けて言ってみせる。

だがそんなことなどどうでもいいのだろう。

先ほどの下世話な話を振ってきた同一人物とは思えぬほど、褐色妖艶は真剣に俺の話の続きを待っていた。

 

いつもそうしていればいいのに……

 

そんな普段になく真剣な様子の褐色妖艶……まぁ呉にいる変な男を警戒しているから当然といえば当然だが……に内心で苦笑しながら、俺はさらに言葉を続ける。

 

「まぁ帰宅方法はともかくとして。俺は帰る。これは何があっても絶対だ」

「ほう、断言しおったな」

「あぁ、どうしてもぶっ飛ばしたい奴が二人ほどいるんでな。まぁ出来るかどうかは別問題としてな」

「……その二人というのはもしや」

「察しが良いな。俺が以前に言った、俺よりもすごい奴の内の二人だ」

 

片方は恐らく俺の想像が正しければ……親父以上に普通じゃない。

それを知ることが出来るのはいつになるのかはわからないが……どちらにしても俺がやることは変わらない。

研鑽し、あの二人組をぶっ飛ばすほどの実力を身につける。

それだけだ。

 

「まぁ目的としては実にありきたりかも知れないが、俺の目的はあくまでも故郷に帰ることだ。果たさなければいけない約束と責任がある故にな」

「ふむ、なるほど」

 

俺の目的を直に聞いて、先ほどまで少々険しかった褐色妖艶の雰囲気が和らいだ。

というよりも弛緩したといった方が良いかもしれない。

手にした酒器から酒をあおって……褐色妖艶は疑問を口にした。

 

「してそれが、どうして女を抱かない理由になるんじゃ?」

「……何?」

 

今度は俺が疑問符を浮かべる番となった。

そんな俺の反応が心底意外というか……半ば呆れるようにして褐色妖艶は再度酒を口にする。

 

「いや、お主の目的はまぁわかった。冥琳からも聞いていたが実際に聞いてもそれが嘘でないことはわかった。じゃが、それが女を抱かない理由にはならないと思うが」

「いや、話聞いてたよな?」

「無論じゃ」

「なら言うまでもないだろう。俺は帰るんだ。いつになるかはわからないが……俺としては遅くとも数年内には帰りたいと思っている」

「ふむ。まぁ確かに約束があると言うからにはそんなに時間を掛けるわけにはいかんな」

「だとしたら、抱くわけにはいかないだろ?」

「だから何故じゃ?」

 

俺の言いたいことが本当にわかっていないのか……褐色妖艶は本当に不思議そうに首をかしげるだけだった。

俺はそんな褐色妖艶に少し苛立ちながら……というかこんな話を往来でするのもどうなのだろうか?……言った。

 

「仮に抱いて……出来たらどうするんだ?」

「? 生めば良かろう? 儂でよければ良いぞ? お主であれば、儂も問題ない。生めば儂も少しは童の扱い方がわかるかもしれんしな」

 

ら、楽観的というか、何というか……

 

酔っているとはいえ嘘じゃないのは話しぶりからすぐにわかった。

そして本気で言ってきているからこそ……俺はこの場で膝が抜けるほど驚いたのだが、何とか踏みとどまった。

 

「いや、だから俺は数年内には消えるつもりなんだぞ? 仮に、子供が出来たら俺は責任を果たすことが出来ないだろう?」

「責任じゃと?」

「子供を作ったら育てるのは当然の責任だろう?」

 

抱いたら出来る。

やれば出来る。

当然の帰結である。

やったら出来る。

無論出来ない事もあるだろう。

調べていないが、この時代の避妊というのがどの程度のものかわかっていない。

結構適当な可能性もある。

子供が出来るメカニズムは詳しくはわかってないだろうが、最低限の知識はあるはずだ。

 

入れて中で出せば出来る……位はわかってるだろう

 

現代でも100%完璧な避妊というのは出来なかったはずだ。

故に遙か以前の時代であるこの三国志時代では、避妊技術も未熟のはず。

 

まぁ仮に100%避妊が出来たところで、やるつもりはないけど……

 

と、俺の考えを言うのだが……俺の言葉を聞いて、褐色妖艶は実につまらなさそうに顔をしかめて、鼻で笑った。

 

「なんじゃそんなことを気にしておったのか、尻の穴の小さいことをいうの」

「……言い方を考えろ?」

「先にも言ったが言い方を変えたところで言っている意味は変わらんわい。存外……つまらない男なのじゃな、刀月」

「……何?」

 

さすがにバカにされるとは思っていなかったので、今度は俺が顔をしかめる羽目になった。

並んで歩いていた足を止めて、俺は褐色妖艶へと目を向ける。

そんな俺の事など知ったことではないというように、褐色妖艶はそのまま歩いてさらに酒をあおった。

 

「お主の言うこともわからんでもないが……お主ほどの男がそれをいうのはつまらんな?」

「無責任が面白いとでもいうのか?」

「そうは言っておらぬ。無論この街にも孤児はおるじゃろう。抱いて子を成しておきながら無責任にも育てぬ男親、女親がいるのは事実じゃ。それが愉快などという気はさらさらない」

「だった――」

 

 

 

「じゃが……子供を育てるのが責任を果たしたと言うことではないと、儂は思うが?」

 

 

 

足を止めて、少し先で顔だけを俺に振り向いて褐色妖艶は朗らかに笑いながらそう言ってくる。

その言葉の意味がわからず、俺はさらに顔をしかめながらも、褐色妖艶の言葉を待った

そんな俺が可笑しいのかどうかはわからないが、褐色妖艶は先ほどとは打って変わって……どこか優しげな表情で俺に話してくる。

 

「子を成したのであれば確かに育てるのが普通じゃろう。じゃが……自らの子の成長を見守ることの出来る親というのは、存外そう多くはない」

「……それは」

 

戦乱が続く時代だ。

男は徴兵されることが多い。

故に、褐色妖艶の言うとおり子供の成長を見ることの出来る親というのは、ほんの一握りかも知れない。

 

だが……しかし……

 

確かに時代が時代だ。

褐色妖艶の言うとおり、子を育てたくても育てることの出来ない親は数多くいただろうし、いるだろう。

だが俺はそうではない。

よほどの事がない限り、俺は死ねないという自負と自信と指命がある。

だから……子を成した場合、責任を取るのが筋のはずだ。

そんな俺の様子が可笑しいのか、褐色妖艶は実に朗らかに笑った。

 

「子は放っておいても勝手に育つものじゃ。お主がどこから来たのかは知らんし、帰るというのも知っておるが……それでもそれが女を抱かない理由には少し弱いと、儂は思うがな?」

「だが……」

「無論、お主の言うことも正しいと思うぞ? 女を孕ませたのであれば男として責任を取るべきだとは思う。だが……子を育てることだけが、責任の取り方ではないと思うぞ」

 

言っている意味がわからず、俺はさらに顔をしかめて褐色妖艶へと視線を投じる。

そんな俺の様子が笑えたのか、嫌味なく褐色妖艶は笑っていた。

 

 

 

「育てるのも大事だが……それ以上に大事なのは生き様じゃろう。己の子に自らを貫く強さを見せる。それも一つの責任の取り方じゃと、儂は思うぞ」

 

 

 

己の信念を信じて、己が道を貫く……

 

簡単なようでこれほど難しいことはない……

 

 

 

己が何者であるか?

 

 

 

これほど身近で、単純で……難しい問いはない……

 

その答えを求めて……

 

もしくはその答えを見つけるのではなく……

 

見つけたと錯覚したいがために……

 

人は何かを成し……

 

もしくは狂っていってしまう……

 

 

 

どれほど嘘がうまかろうと……

 

 

 

どれほど人を誤魔化すことが出来ようと……

 

 

 

己だけは誤魔化せない……

 

 

 

無論己を誤魔化すことも出来るだろう……

 

 

 

だがそれでも……完全に誤魔化すことは出来ない……

 

 

 

俺はそう思っている……

 

 

 

だが……否、だからこそ、ただ己の生きる道を見せるだけが正しいとは……

 

 

 

 

 

 

俺には思えなかった……

 

 

 

 

 

 

「だがしかし……それでは……」

 

肯定することが出来ず……かといって完全に否定することも出来ず、俺は褐色妖艶から目を背けてしまう。

そんな俺の姿を見ながら……褐色妖艶は快活に笑って見せた。

 

「何、これは儂の考えよ。前にも言うたと思うが、佳き飯、佳き酒。それらを彩る少しばかりの荒事があってくれれば、儂としては申し分がない」

 

それを証明するとでも言いたいのか……褐色妖艶は再度酒器をあおって実にうまそうに酒を飲んでみせる。

確かに……人生を楽しんでいるという意味では、呉でも屈指の人物かも知れない。

無論宿将として、呉の重鎮としてやることはやっている。

だが他の場面では好き勝手やっているのも事実だ。

楽しいことばかりではないが、苦しいことばかりでもない。

そんな言葉が……今の褐色妖艶にはぴったりだった。

 

「責任なんて気にせずに、お主が抱きたいと思えば抱けば良いと思うぞ? 無論無理矢理抱くのは駄目じゃが、お主がそんなことをするとは思えん」

「それはまぁな」

 

 

 

「ならば楽しめ、刀月」

 

 

 

「楽しめ?」

 

 

 

「どういう数奇な運命かはわからぬが、今お主は間違いなくこうしてこの場に立っておる。呉の人間として仕事をして、他の者から好かれて頼りにされている。今でも十分楽しんでおるじゃろうが、お主がやりたいようにやればよいと儂は思うぞ……」

 

 

 

己のやりたいようにやる。

それがある意味で一番幸せな事なのかも知れない。

だが……それを俺がして良いのかと問われれば、俺は即答することが出来なかった。

 

人殺しで、慕ってくれた存在を捨てていく存在が……好き勝手にやって許されるのか?

 

その問いかけが……俺にはどうしても思考から切って捨てることが出来なかった。

 

 

 

「まぁすぐには変えることはできんじゃろう。少し考えてみればよい。お主のやりたいことであれば……よほど糞みたいなことでない限り、皆喜んで力を貸すじゃろう。そして抱きたいと言えば大概の奴は抱かれると思うぞ?」

 

 

 

雰囲気を払拭したかったのか、それとも酔っぱらい故か……からかいながら褐色妖艶が戯けるようにして自らの体を両の手で抱いて、艶めかしく体をくねらせた。

 

「何も後先考えずに抱けと言っているわけではないが……英雄色を好むという言葉もある。最低限の責任を果たせば、お主の好きにすれば良いと思うぞ。お主の献身を考えれば、呉の人間を一人二人孕ませたとしても、孕んだ女の方が責任持って育てると儂は思うぞ?」

「だが……」

「えぇい、口答えせんでよい! 儂が言いたいのは、お主の考えにも賛同できるが、あまりこちらの気を揉ませるでないと言いたいだけじゃ!」

 

話は終わりということなのだろう。

俺が言葉を返す前に、褐色妖艶は俺に背を向けてヒラヒラと手を振ってみせる。

 

「後は儂一人でもよい。しっかりと仕事はするから安心せいと、冥琳には言っておいてくれ。お主はこの後少し考えてみても良いのではないかな? たまには仕事の手を抜いたとしても、誰も文句は言わぬよ」

 

そういって俺の返事を聞く前に褐色妖艶は警邏へと向かっていった。

俺はそんな褐色妖艶の……黄蓋の背中をただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

俺が……望むこと……

 

 

 

故郷に帰りたい。

それは間違いなく俺の純粋な願いだ。

帰って責任を果たしたい。

約束を守りたい。

これも間違いなく俺の望み。

 

だが……それだけなのか?

 

帰ってやることはいくらでもある。

あの二人をぶっ飛ばす。

己の腕を磨く。

それだけでも一生を賭けてなお境地に至れるかも謎なのだ。

 

俺は……

 

ひょんな事から積み重ねてきた時間の重みを見せつけられて、俺は思わず考え込んでしまう。

どうすればいいのか?

何を成せばいいのか?

 

その言葉が……しばらく俺の頭から離れることはなく、しばらく俺は道の往来でバカみたいに……

 

 

 

立ちつくしていた。

 

 

 

 

 

 

ふむ、埒外な存在とは思っておったが……存外青いところもあるのじゃの?

 

刀月と別れて、黄蓋はそんなことを思いながら酒をあおりつつ、警邏を続けていた。

道行く人々を見ながら……親に手を引かれて歩いている子供を見つめながら、黄蓋は己の下腹部を優しく撫でた。

 

しかしこの年増に嬉しいことを言ってくれる……美人と言われたのは果たしていつぶりかの?

 

先ほどの刀月の言葉に、刀月がきちんと自分の事を女として見てくれている事を知って、黄蓋は自分でも意外なほどに嬉しく思っていた。

青いところはあれど、それでも自分よりも圧倒的強者で、人格を見ても問題がなく、外見も悪くない男に女として見られて、黄蓋は嬉しいと思っていた。

 

「久しぶりに、そんな気分になってしまったのう」

 

自らが昂ぶっているのを必死に抑えようと思っているのか、黄蓋は気づかぬうちに酒を飲むペースが上がっていた。

というよりも、足りなくなって酒を買い足しているほどであった。

 

「見所は十二分にあるあの男なら、この身をゆだねてもよい。しかし……あやつも頭が固いのぉ」

 

先ほどの問答を思い出して、黄蓋は笑った。

ある意味で嬉しかったのかも知れない。

自分よりも隔絶した実力を持つあの男が……存外に若者らしい悩みを持っていたのが。

そんな刀月を想って……黄蓋は愉快そうに笑った。

 

「まぁあやつがそういう気になるように、儂なりに頑張ってみるとしようかのう」

 

初めてではない。

だが……自らが抱かれても良いと思えた存在が初めてなのは事実だった。

ならば……自らも本気を出すのはやぶさかではないと……

 

 

 

黄蓋はそう思って、快活に笑った。

 

 

 

「となるとどうしたもんかのう? 何かあやつが夢中になれる事でもあればよいのじゃがな? しかしそこそこ自信を持っていた料理も、あやつに勝てんしなぁ」

 

どうすればあの男を堕とせるのか?

堕とすというよりも、あれだけ頑なに女を抱こうとしない男に、その気にさせるにはどうすれば良いのか?

それを考えながら黄蓋は酒を飲みながら警邏を続けた。

 

 

 

ちなみに……

 

 

 

刀月に言ったとおり、酒を飲みながらではあったがきちんと警邏を行い、数件荒れ狂っていた愚か者を取り締まったりしたりして、さらに子供からあこがれの目を向けられるのだが……このときの黄蓋にはそんなことなど知るよしもなかった。

 

 





どうでした?

ちょっと表現があれだったかな?

本当に侮蔑とか馬鹿にしてるとかそういうのはないので!

後はさすがに今後の展開を考えて、ちんちくりんこと袁術のルートを書くかどうか悩んでます

また少し時間かかると思うのでよろしく
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