一月ぶりになりまして失礼しました
ちょっと仕事で超絶なポカをやらかしまして凹んでました
そのためというわけではないのですが、今回短めで0.9万字程度です
呂蒙の話をどうするか悩んでいるのですが、ともかくこっちができたので先にあげちゃいます
夜。
呉の城内の一室にて。
そこには……主立った将達が集まって、実に神妙な表情を浮かべていた。
出席者は呉の王、孫策。
呉の軍師、周瑜に陸遜。
呉の宿将、黄蓋。
さらにこの国でツートップの一人である袁術とその補佐役である張勲が、蝋燭のみの灯りの部屋で、円卓に腰掛けて会議をしていた。
そして、その内容は……
「そろそろ……本格的に刀月に勝ちたい!」
と……実にくだらない内容だった。
勝ちたいというのは……純粋にただの力比べに寄る戦いにおいてである。
その上で刀月に勝つ必要性があるのだ。
なぜならそうでなければ……
「じゃな。そろそろ刀月の酒が飲みたいしの」
本当に……全く持って、下らない内容だった。
その内容があまりにも下らないことについて……内心で辟易していると言うべきか、呆れていると言うべきか?
周瑜と陸遜は苦笑しており、張勲に至ってはもはや興味もないらしく、眠そうにしている自らの主である袁術の頭を撫でてあやしている真っ最中だった。
「大事な話よ、これは」
キリッと、本当に真剣に……孫策と黄蓋は至って本当に真剣なのだ……孫策は自らの相棒とも言える存在である、周瑜へと視線を投じた。
周瑜としても思うところがないわけでもなかった……この真剣さを普段の政務に少しでも向けてくれればという、当たり前の感情……が、それでも刀月に勝つと言うことに関しては悪いことだと思ってなかったので、考えるのはやぶさかでもなかった。
「まぁ確かに大事ではあるが……こんな夜更けにやらなくても良いのでは?」
「良いでしょ? さっきまで真面目な会議をしてた後に少し時間を掛けるくらい」
「まぁ構わないが……それで、何か策はあるのか?」
「それを話し合うんでしょ冥琳♪」
どうやら策がないということで、芝居がかった仕草で周瑜は肩をすくめる。
そして酒も飲めないために本当に全く持って興味のない袁術は、あくび混じりに適当に話をするだけだった。
「わらわは酒を飲んだことがないからの。そんなにうまいものなのか?」
「あなただって刀月のお菓子がすごいのは知ってるでしょ? 酒も造ってるけど、他とは比べものにならないわよ」
「ふむ。なるほどの」
刀月の菓子がすごいことはある意味で誰よりも知っているのは袁術と言って良いだろう。
何せ刀月が作った菓子やら料理やらをもっとも食しているのが袁術なのだ。
だがそれでも自らが飲めない酒についてのためか、ほとんどやる気が起きないようだった。
「七乃~? 何かよい案はないのかえ?」
さっさと終わらせたいと思っているのだろう。
自らがもっとも信頼する張勲に、けだるそうに案を出せと指示を出す。
張勲としてもそこまで興味がないようなのだが、それでも袁術からの言葉のためそれなりに真剣に考え出した。
「う~ん、そうですねぇ。あの人に勝てばいいのなら、いっそこちらがもっとも得意な事で勝負すればいいんじゃないですかね?」
「得意なことだと?」
同じ軍師として興味があるのか、張勲の言葉に反応を示したのは周瑜だった。
「はい。算術などなら刀月さんにも勝てるのでは?」
「確かにそうだが……。算術勝負であいつが乗ってくるか?」
勝てばいいと言う話ではないのだ。
何せ作っている刀月としても、あまりおおっぴらに出すことが出来ない酒なのだ。
おおっぴらに出せないというのはいくつかの理由があった。
一つとして現時点では満足のいく酒が出来ていないこと。
二つにこの食料が潤沢ではないと言える状況下で、自らの命題である酒造りをあまり本格化するのに躊躇があるため、生産量が少ないこと。
三つとしては、生産量が少ないため自分が飲みたい……そもそも自分が飲みたいから作っているので当然だが……からだった。
それらの事情は察してはいるのだが……それでもあの味を知ってしまっては魅力に感じて何とかして飲みたいというのは仕方のないことだった。
「他には~近々工作員の訓練に付き合ってもらうのはいかがです~?」
「!? なるほど、それなら刀月も乗ってくるかもしれんの」
陸遜の言葉に、もっとも食いついたのは黄蓋だった。
二人とも対工作員の訓練を行う予定の人物だからだ。
そしてこの場にはいないが……呉でも随一の細作が工作員として訓練に参加する手はずになっていた。
呉随一の工作員は、それこそ歴戦の勇士でもある黄蓋ですらも一度も勝てたことがないほどの手練れだった。
故に……彼女ならば。
そう考えた。
そしてその訓練に刀月を同行させることが決まり、この場はお開きとなった。
そして数日後。
なんか唐突に訓練に同行を命じられたが……なんでだろうね?
唐突と言っても昨日の時点で通達は受けていた。
何でも対工作員の訓練とのこと。
具体的には潜入してきた工作員……つまりは細作を捕らえるのが訓練の内容らしい。
逆に細作側は捕らえられないようにするのが訓練とのこと。
また、あくまでも訓練ではあるが細作を捕まえるか、細作が討伐側を全員戦闘不能にするかのどちらかでしか終了にならないらしい。
訓練参加者は褐色妖艶におっとり眼鏡に一般兵達。
訓練場所は近くの森林で、すでに工作員は身を潜めているようだ。
その工作員が誰なのかは教えられていないが、訓練の内容から言って一人しか該当者はおらず、そしてその該当者が森の中にいるのを気配で感じ取っていた。
予想通り……尾行娘か……
よほど気配の消し方を知っていない限り、俺にとってこの訓練に参加する意義は、全く持ってない。
だが気配がわかるなどのことは教えていないので、訓練を受けさせられるのはそれもしょうがない。
戦闘する訳ではなく、あくまでも捕縛するのが目的のため俺が前から言っている「戦闘行為はしない」ということには抵触しないからだ。
と思っていたのだが……
「明命が相手ならそれなりに勝機はあるかの?」
「どうでしょうね~。明命ちゃんならやってくれる気がしますが~。でも私たちも自分がやられないようにしないといけないですよね~」
「確かにの。明命だけが勝っても意味がないからの」
勝つ? なにかはわからんが何かしらやましいことはあるようだ……
ひそひそ話をしている褐色妖艶とおっとり眼鏡の声も、俺は能力で普通に聞いていた。
そして勝つという言葉の矛先が俺に向いているのが察せられて……話の内容を理解した。
あぁ……俺に勝って酒が飲みたい訳か……
それしか思い浮かばないがほぼ間違いないだろう。
正攻法……俺との一対一の勝負……では勝てないと思って搦め手できたということだろう。
俺の酒が絡んでいる上に、しかもなりふり構わなくなってきているので、正直今すぐ投げ出したい位だが……これは一応正式に訓練に参加しろと命じられている。
この場から逃げる訳にはいかないだろう。
まぁ訓練である以上……俺もある程度本気でやるか……
しょうがないので俺も真面目に行うとしよう。
といっても俺が本気になったらすでに勝敗は決している。
故に俺自身の訓練ではなく尾行娘に訓練をつけると思って、割り切ってやるべきだろう。
となるとどうやるのが一番良いかな?
と尾行娘に対してどうやって始動すべきが考えていたら、隊の一番後ろに尾行娘が華麗に忍び寄って、その後一名の意識を狩って再度姿をくらました。
おぉ!? 結構見事な手際だな!?
ちょっと内心で俺はびっくりした。
そして一拍遅れて何かが倒れる音が響き……全員がそちらへと目を向けて驚いた。
すでに一名……気絶した兵士が倒れていたのだから。
だが俺はそんなことよりも……何故か倒れた顔に書かれた文字の方が気になった。
『一番にやられました。えへ』
と実に可愛らしい文字だが、かなりきつい落書きだった。
「始まったか!? 明命の狩りが!?」
「はぁ? 狩り?」
「そうです! 皆さん~、密集陣形!」
狩りの意味の内容がわからず俺が呆けていると、普段よりも少しキリッとしたおっとり眼鏡が、鋭く的確な指示を出して全周囲を警戒しだした。
置いてけぼりにされている俺は陣形の外にいるので、倒れた兵士に近寄って顔の落書きを触ってみるが……何故か落書きが拭えなかった。
……え? まさか油性ペンとか言わないよな?
「気を抜くな刀月! 明命の狩りは恐ろしいぞ!?」
「まぁ、何となく察せられるけど……あれか? もしかしなくてもこの落書き、しばらく消えないのか?」
「そうじゃ! 顔のいたるところに落書きをされる。そしてそれは当分の間とれない代物」
「ふむ……」
「落書きされた顔で街を通って城まで戻らねばならんのじゃ。仲間に負けたという、実に不名誉な屈辱を味わいながら」
まぁ確かに……この落書きを鑑みるに結構きつい罰であり、訓練だな……
俺自身が察知できるのであまり警戒していなかったが……この倒れた兵士を気絶させた手並みは実に見事なものだった。
そしてそのときの周囲の対応から考えると……尾行娘の襲撃に気づいたのは俺のみだった。
褐色妖艶すらも気づかなかったと言うことは……この時代の細作としては実に優秀といっていいのだろう。
対してこちらの陣営は数はそれなりに整っているが……将すらも気づけていない。
さらに言えば現在の場所は森。
身を隠す場所もトラップを仕掛ける場所も腐るほどある。
この勝負……普通に考えて……
詰んでるな……
俺がいなければ詰んでいる。
正しく言えば俺がいても詰んでいる。
何故か?
俺は訓練と言うことと、罰ゲームの内容……さらに搦め手を使ってきたことに対して少し思うところがあったので、単独行動をするつもり満々だったのだから。
要するに……
すまんな……見捨てさせてもらう……
と、俺は内心で周りの連中に対して合掌をしながら……一人ですたすたと森の奥へと歩いていった。
「む、刀月!? どこへいく!?」
「どこへいくも何も……捕まえるのが訓練なんだろ? なら探しに行かないとどうにもならんだろ?」
「む……確かにその通りじゃな」
「そうですね~。ここで固まっていても駄目ですね~」
「それでは~小隊単位でいきますか~?」
「うむ、そうしよう」
「俺は単独で良いか?」
「む……。うむ、よいぞ」
単独or小隊率いた時にどちらが、「俺が言い訳出来ないか?」を考えたな……
小隊を率いた場合、部下のせいで敗北したと言い訳が出来ないでもない。
だが単独の場合……間違いなく俺個人の責任だ。
一瞬返答に詰まったのが、それを考えたのが容易に想像できた。
「では~、しばらく索敵したらこの地点に戻ってきてくださいね~」
褐色妖艶とおっとり眼鏡がそれぞれ部隊を二つに分けて索敵を開始。
そして俺は単独行動と言うこともあって……さっさと森の奥へと向かっていった。
他の連中がいない状況の方が、俺としてもやりやすいしな
一応指導するつもりなので、教えやすい位置に移動する。
単独であり、俺の移動速度のためあっという間に後ろの連中を突き放し、周囲に全く人気がいない場所まで足を進めた。
……まずい、食材探しがしたくなる
山菜やら木の実、近くに川があるのが水気を含んだ空気が流れてくることから察せられるので、食材を探して一人キャンプがしたくなる。
というか……
するか……
捜索隊だけでなく、尾行娘からも結構距離を取ったので、恐らくあちらを片付けるまで少し時間が掛かるだろう。
ということで俺は魚でも捕ろうと思い、小川へと向かった。
すごい……あれだけの時間でここまで走り抜けていくなんて
全ての兵士を一切の容赦も呵責もなく……無慈悲に気絶せしめた周泰。
そして最後の一人である刀月を狩るために、刀月が遺した足跡を辿っていた。
あまりにもわかるように足跡がのこされており捜索自体は容易だった。
だが……その距離があまりにも長いために驚くしかなかったのだ。
整備もされてない道をここまで早く……これは、強敵です!
普通じゃないことは誰もが知っていた。
刀月の土木工事は、もはや一種の見せ物にもなっているほどで、刀月が土木工事をする日は見物人が押しかけるほどなのだ。
刀月の跳躍を一度でも見れば誰もが異常な存在だと気づく。
数百メートル離れたところから見ても、人が飛び跳ねているのがわかるからだ。
周泰もその様子は何度か見たこともあったが、それはあくまでもある程度整備がされた地面での話。
今回のように、整備されておらず、また獣道すらもほとんどない場所を移動するのがここまで早いとは、周泰としても予想外だった。
そしてこの状況でここまで瞬時に移動できたことが……刀月が山道の移動においても素人でないことが容易にわかる。
故に引き締めようとした。
のだが……すぐに違和感に気づいた。
火を……興してる!?
煙の匂いが、明命の鼻に届いた。
確かに刀月は細作を……己を見つける側であるため、目立つ行動を禁じられている訳ではない。
だが……それでも自らの居場所を堂々と晒すとは、周泰としても予想外だった。
脳内の地図を思い描いて、火を興しているのが川辺であることに気づき……周泰は川辺が見渡せる場所へと移動した。
そして……火を見つけた。
驚くことに……すでに魚を串に刺して焼いている状態だった。
……ここまで行動が出来たとは
と呆れるやら感心するやらと思っていて気づいた。
火を興したのは間違いない。
現に今もたき火が燃えており、側に刺された魚の串が火にあぶられた良い匂いを漂わせている。
川辺に近づき、魚を捕獲し、火を興して魚を捌いて串に刺して調理をした。
そこまでの姿はまるで手に取るようにわかるほど明瞭に痕跡が残されていた。
だというのに……火を興したはずの人物がどこにも見あたらず、また火元から離れた痕跡すらも全く見つけることが出来なかった。
!? 一体どこに……
「普段は見つけられることもなく一方的に狩ってきたんだろう」
「!?」
どこからか声が聞こえてきた。
だがそれがどこかわからない。
木々に反響してか……あるいは小川のせせらぎのせいか?
普通に森にいるよりも他に音がある場所だった。
ここに至って初めて……
周泰は自分が誘い込まれた事に気づいた。
「だがたまには狩られる側になるってのも緊張感があっていいだろ?」
狩られる側。
それを強調するかのように……所々で突然いくつもの大きな音が響く。
大きいと言っても大した大きさではない。
成人男性がやっと持ち上げる事の出来るほどの岩が、木々に当たった音がいくつも響いたのだ。
それに驚き……思わず周泰は身を固くし、じっと息を潜めて辺りをうかがう。
「驚きを隠したのはなかなか良いが……驚いている気配がだだ漏れだぞ? もっと心も静かにしないと鋭い奴には場所が知れるぞ」
それを証明するかのように……周泰が見下ろすための足場の木の枝に、小石がものすごい勢いで投げられ、枝に当たった振動を周泰へと届ける。
「!?」
それによって位置が察知されているのがすぐにわかり……周泰は慌てて別の木の枝に飛び移ろうとした。
そしてその枝に着地するその寸前に……その木の枝に同じように小石が投げられた。
「!?」
「いくつかのポイ――場所をすでに見つけていたのは褒められるが、先にも言ったが意識が表に出すぎだ。意識がどこにいっているのかわかる相手とやりとりする場合、どちらがより自分の行動の意志を表に出さずに行動できるかが鍵になる」
それを証明するように、さらに周囲の枝に石が投げ当てられる。
その枝全てが……周泰がいくつか移動先の候補としていた枝だった。
「意志の隠し方が本当に大事なんだぞ。その証拠に……俺の声は聞こえていてもどこにいるのかまるでわからないだろう?」
刀月の言うとおり……周泰は声も出している刀月の姿を捉えるどころか、全く気配すらも感じることが出来なかった。
そして刀月が明らかに本気で隠れていないことは……声を出すことと、石を投げ込むことで明らかだ。
そしてそれどころか……
指導をしてくれてる!?
「よ~し。今から行くぞ?」
そんな間抜けな声を出して……とたんに刀月の位置がはっきりとわかった。
なんと驚くことに……三度移動した今いる枝が生えた木の根元に刀月がいた。
「これが気配を……自らの意志を何も考えずにさらけ出した状態。先ほど周泰が気絶させてきた連中とほぼ同じ状態だな」
「!? どうして!?」
咄嗟に出た言葉はいくつもの意味が含まれていた。
何故この木の根本にいるのか?
そして何故唐突に気配を晒したのか?
その回答がすぐ真下から……告げられる。
「この木の枝にくるように周泰を移動させた。枝に石を投げ込んだ順番でこの木に誘導したと言うことだ」
誘導!?
言っている意味はわかったが……あまりにも理解できないことだったので周泰の思考は大いに乱れていた。
それは焦りとなって身体の機能を低下させ、その低下がさらに周囲へとより明瞭な気配となって、周泰の位置を知らしめる。
「よく俺を見ておけ? これが……意志をうまく隠して、真に気配を断つということだ」
何でもないことのように言うと……本当に刀月の姿を捉えるのが難しくなった自分に気がついて、周泰は驚きに目を見開いた。
確かにそこにいる。
姿も見えている。
だというのに……一瞬でも目を離した瞬間には消えてしまいそうなほどに、その姿はどこかとらえどころのないようだった。
そして……瞬きをした瞬間に、本当に刀月の姿が消えて……
「ほい捕獲」
そんなあっけらかんとした声が真後ろから響いて驚いて飛び上がって……落ちそうになったところを刀月に首根っこを掴まれて助けられた。
「結構修練しているようだが……まだまだ意志と気配の隠し方が甘いな。もう少し訓練すれば細作としての技量がもっと上がるぞ?」
「あ、あぅ~」
もはや完膚無きまでに捕獲されてしまい、まさにぐうの音も出ない状況だった。
しかも落ちそうになったのを助けてもらった。
孫策や黄蓋といった上の人から何とか勝つように命じられていたというのに……勝負にならず指導してもらうことになってしまって、周泰としてはどうしようもなかった。
「上から何とか俺に勝てとか言われたんだろ? 安心しろ。お前の責任じゃないから」
「!? わかっておられたのですか!?」
「まぁ何となくな」
首根っこ掴まれたまま枝から飛び降りて川辺へと着地した。
その着地の衝撃がほとんどなくて……周泰は再度驚いた。
そしてその瞬間に……驚いていて着地の体勢になってない状態で首を離されたために、無様にも着地が出来ず地面に突っ伏した。
「あぅ!?」
「え? おいおい、大丈夫か? すまん」
悪気はなかったようだが、それでもこけてしまったのは事実だったので、周泰としても少しむっとしてしまう。
そんな子供のような反応をしてしまってすぐに態度を改めるのだが……そんな周泰を見て刀月は可笑しそうに笑っていた。
「そんな顔も出来るんだな。よかったよかった」
「な、なにがですか?」
「悔しいと思えているのが良いって事だ。教えがいがあるよ」
そういいながら刀月は先ほどから焼いている串に刺された魚を一つ取ると……周泰へと向けて差し出す。
まさかくれるとは思っていなかったので、思わず周泰はきょとんとしてしまう。
その様子に刀月は再度深い笑みを浮かべて……どこか淋しそうに……火元にくるように手招きした。
「気絶した奴をほっぽっておくわけにもいかないが、まぁ魚を食べるくらいは時間があるだろう。食べたら帰ろう。んで、お仕置きする奴にはお仕置きしないとな」
からからと実になんでもないことのように言っているが……そのお仕置きの内容がそれとなくわかってしまった周泰としては、あまり笑えなかった。
またぞろ酒を欲した人たちに対して実に嫌がらせのように目の前で飲んだりするんだろうなぁ……と思うがしかし敗者として何も言うことが出来ず、周泰は黙って魚を食べてそのおいしさに驚いた。
「うまいか?」
「はい! とってもおいしいのです!」
「そらよかった」
穏やかに微笑むその姿に……どこか自分ではなく遠くを見ているのがそれとなくわかって、周泰は何故か心がモヤモヤとするのを感じ取って、自分自身に驚いた。
どうして?
「さて、食ったら行くぞ~」
魚一匹食べるのに対して時間が掛かるわけもなく、あっという間に食べ終えてしまった刀月がそう言ってくる。
少し考え事をしていたためまだ食べ終えてなかった周泰は、慌てて残りの魚を食す。
その間に刀月は、あまり急かすつもりがないとでもいうように、ゆっくりと火の始末を行っていた。
「慌てて喉に詰まらすなよ?」
「はいなのです!」
急かさないと口で言っているのに……どこか自分から設けたこの場から逃げ出したい。
そういっているような気がして、周泰はさらに心がモヤモヤとするのを感じ取っていた。
そんなに自分といたくないのかと……そう思ってしまう自分自身を意外に感じながら、周泰は魚を食し終える。
そして刀月が気配を断つこと、意識を消すことの要訣をいくつか口頭で説明しながら歩いた。
少しでも技術が身につくようにその話を周泰は熱心に聞いていた。
その後二人で気絶した連中を揺り起こして帰還した。
その際、刀月は兵士だけでなく将の陸遜と黄蓋の二人の胸元に落書きされた内容……存在価値は巨乳のみ、乳に栄養行き過ぎ……と、実にさんざんな内容が描かれているのを見て、顔を少し引きつらせていた。
ひがんでるのか? うらやましいのか? わからん……
負けることはないとは思っていたが……それでも負けなくて良かったと、刀月は密かに胸をなで下ろしていた。
ちなみに罰の内容とは……酒を使った料理が食べたくなった刀月は、もっとも酒を飲みたがっている二人を正座で並べさせて、目の前で料理酒として酒を使ったのだ。
そのときの二人の慟哭は……ちょっと一般市民には見せることの出来ない物だった。
さすがにその料理は二人にも食べさせており、その味に二人も驚いてはいたのだが……やはり酒として飲みたかったのは事実なのか、その日からやたらと刀月に対して勝負を挑む頻度が増えたのだった。
師走ですねぇ
皆様いかがお過ごしでしょうか?
インフルエンザだけじゃなくコロナも今まずい状況になってますので、ご自愛くださいね~