荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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久しぶりの投稿
遅くなって申し訳ない
コロナがなかなか厄介ですね
くれぐれも皆様お気を付けください

おかげでなかなか遊びに行けませんねぇ
仲間内での遊戯王も去年結局片手で数えるほどの日数しか出来なかったなぁ
というかそろそろ刀屋に行きたい
新しいのを見たい

そんな事を愚痴りながら・・・・・・書いてますw





成果

 

 

気配を感じ、村の連中に後押しされて俺は城へと跳んだ。

だがさすがは後の歴史に名を残す呉。

すでにある程度の迎撃態勢を整えている状態だったが……肝心の王がまだ来ていなかった。

 

何やってんだ?

 

軍人でもない俺が軍議に加わるのもおかしい話なのだが……一応呉に仕える存在として、なにかできることはいかと思い、はせ参じる。

すでにあらかた会議は終えているのかすでに出陣していているのが多く、人はまばらだった。

 

「とーげつ」

 

入れ墨娘が俺の姿を見て声を掛けてきた。

側にはパンダ帽子もいる。

 

「状況は?」

「ん。出撃だって言われた」

「場所は?」

「先頭なのです。恋殿の実力をもっとも発揮するにはそれが一番。くく、呉の皆もわかってきたようなのです」

 

ふんぞり返って嬉しそうに鼻を鳴らすパンダ帽子。

連携訓練も多少は行っているがまだ万全じゃない。

そして入れ墨娘の実力があまりにもぶっ飛びすぎているので、周りの連中があわせづらいのも正直なところ。

パンダ帽子を側に付けたのは、完全に突進しないためのストッパーの役割も果たしているのだろう。

突っ込みすぎればパンダ帽子も危険にさらす。

その辺を踏まえての布陣と見た。

だが二人には申し訳ないが俺が聞きたいのは全体的……というよりもこの国のトップの事だ。

ちんちくりんはすでに前線に向かっているようだ。

この国は同盟の上に成り立っている。

片方が出ないわけにはいかないだろう。

それは褐色ポニーもわかっているはずなのだが、何故いないのか謎だった。

 

「お前らほどの実力を持った連中を遊ばせるわけもないしな。気をつけて」

 

二人にそういって、俺は他に知ってそうな奴を探す。

そして、もっとも話しかけやすい呂蒙がいたので、俺は呂蒙へと近寄った。

 

「状況は?」

「!? 刀月様! 遅れてしまっておりますが、すでに軍は展開を進めております。前線には冥琳様と祭様が出向いて指揮を執っております。ですが……肝心の雪蓮様がまだ来られていないのです」

 

だろうな……外にいないし

 

城壁の外にいないので、間違いなくまだ陣地には行ってないだろう。

さらに外側……つまり曹操の部隊はほぼすでに展開が終えている。

状況的に圧倒的に不利なのだが……何故かここまで展開しておきながら曹操が攻撃をして来ない理由がよくわからなかった。

そしてそれ以上にわからないのが……この危機的状況下で未だ所在が不明な王である褐色ポニーだ。

 

何をしてるんだ?

 

さすがにどこかでさぼって寝ているということはないだろうが、あまりにも行動が遅い。

そして思いつくのが、先日紹介されたばかりの先王にして母親である、孫堅の墓前だ。

出陣を感じ取って祈願でもしにいったのかもしれない。

故にやむなく迎えに行こうと考えて気配を探って……俺は再び固まった。

 

……何があった?

 

「呂蒙、すぐにお前も前線へと向かえ。孫策は俺が連れて行く!」

 

呂蒙の返事も聞かず、俺は来たばかりだったが再度外へと飛び出していった。

他国からの侵攻……つまり外へ向けすぎて内側へと気配を向けるのを疎かにしていた。

俺の油断も大きいだろう。

まさか首都であり中枢部とも言える都市部に、細作が来ているとは予想できなかったのだ。

 

いや、予想しなかったというのが正しいか……

 

どちらにしろ油断していたことに代わりはない。

ともかく手遅れになる前に……俺は褐色ポニーの元へと急いだ。

進んでいる道から察するに、どうやら直接城壁の外へと向かっているようだった。

それも……なるべく人目に付かないようにしながら。

気が乱れている事も相まって、どのような状況になっているのか考えるまでもなかった。

 

ったく

 

己の迂闊さ、褐色ポニーの迂闊さ……全てに内心で悪態を吐くがそんなことはどうでもよかった。

ともかくすぐに駆けつけて見てみなければわからない。

そして、気力と魔力を併用し、気と魔力の足場も形成して文字通り最短距離を突っ走り……褐色ポニーの眼前に着地した。

そして、褐色ポニーの二の腕から流れる血を見た。

 

 

 

 

 

 

全く……どうして場所がわかったのかしら?

 

朦朧とする意識をつなぎ止めて城門へと向かっていた。

最後の仕事をするために。

民を不安にさせたくないから、なるべく人通りが少ないところを進んでいた。

だというのに……本当に憎たらしく厄介な男は、私の眼前に降り立った。

 

「……何か手伝えることは?」

 

わかってて……言ってるんでしょうね……

 

一応止血はした。

だけどそれでも体の熱さは引かなかった。

間違いなく毒矢だったのだろう。

それをどうして察しているのかはわからないけど、正直どうでもよかった。

 

刀月だしね……

 

そう思うと同時に、結局こいつに勝つことが出来なかったこと。

こいつの酒もほとんど飲むことが出来なかったこと。

 

そして、私を見させてやると意気込んでいたあの日のことが……死ぬ間際だからかまるで昨日のように思い出せた。

 

あれだけの武を誇った存在。

それだけじゃなく何もかもが吹っ飛んでいた存在だった。

でも……結局こいつを本気にさせることが出来なかった。

そう考えると……それが悔しいし、心残りだった。

 

「……そうね、なら、手を貸してもらえないかしら?」

「悠長なこと言ってるようなら、まだ余裕か?」

「ふふ……そう見える?」

「冗談だ」

 

厳しい表情のまま刀月は、そういって私を抱き上げた。

横抱きにされたため、刀月の肩に私の頭が乗るような形になる。

私の体が冷えているからか……本当に刀月の体が温かかった。

その温かさが……しみじみと感じられて、思わず泣いてしまいそうになった。

 

「揺らさないようにする。飛ばすからそんなに時間はかからん。意識を保ってろよ」

「えぇ……お願いね」

 

刀月ならきっと、本当にすぐ送り届けてくれるだろう。

そして人目に付かないように気も遣ってくれる。

だから私は安心して身を委ねた。

眠るわけにはいかないけど……それでも暖かさが心地よくて思わず目を瞑る。

一瞬飛び上がるときの勢いを感じたけど……後は驚くほどに揺れることも風も感じることもなかった。

だけどそれも本当に一瞬で、すぐに動きが止まると……刀月が私を揺り起こした。

 

「着いたぞ」

「……ふふ、本当に早いわね」

 

もう少しこの温もりを……最後になるであろう、温もりを感じていたかった。

あまりにも早く到着したことに、私は恨みがましさ半分、驚き半分でそんな言葉を口にする。

そんな私には何も言わず、刀月は私を降ろすと静かに脇に控えた。

すると先ほどまで私に気づいてもいなかったはずの周りの兵士達が、まるで突如として顕れた私に驚いている様子だった。

 

本当に……この男は……

 

何をしたのかはわからないけど、それは問題ではない。

埒外な存在に内心で苦笑しながら、私は王として……毅然として歩いた。

今も体の熱さはなくならない。

正しくは……熱さがなくなっていっているのが、何となくわかった。

それが意味することを自覚して、少しだけ悲しかった。

だけど……それでもこの場で倒れるわけにはいかなかった。

 

出陣前に……無様な姿を晒すわけには行かないわね

 

「行くわよ、刀月」

「御意」

 

刀月を連れ立って歩いていく。

全ての兵が私の様子を見て息を呑み……すぐに察して道を空ける。

そして最前線へと行く少し前に……私の大事な仲間達が私を迎えてくれて、兵士達と同じように私を見て、息を呑んで顔を歪ませる。

 

「姉様!」

「出陣するわよ。蓮華。そんな情けない顔をしないの」

「ですが!? まずは治療を!」

 

愛する妹が私の身を案じてそう提案し、泣いてくれる。

それが不謹慎にも嬉しくて思わず微笑んでしまいそうだった。

だけど、今はそんなことは出来ない。

私は孫呉の王。

 

孫策なのだから。

 

「孫呉の王として……あなたにその言葉の重さを見せなければいけないのよ。治療は……それが終わったら受けるわ」

「……約束ですからね」

「えぇ。だから部隊に戻って。みんなと共に、私の背中をしっかりと見ているのよ」

「……はい」

 

苦渋に歪ませ、さらに目尻に涙を浮かばせながらも……それでも蓮華は部隊へと走っていった。

その背中を見つめて、きっと大丈夫だと……私は確信した。

 

まだまだ未熟だけど……大丈夫よね……

 

きちんと部隊へと戻ったこと。

そして、私の容態を見て察していながらも、王としての責務を優先した私の決断を見たこと。

そして……なにより……

 

「雪蓮」

 

私の大事な相棒に……仲間がいるんだものね

 

蓮華の次に歩み寄ってきたのは、私の本当に大切な人である、冥琳。

 

「……いつまでも保つの?」

「わかる?」

「……あぁ」

「保たせて見せるわ」

「……わかった」

 

小さく頷いて、冥琳と祭は部隊へと戻っていった。

そんな悲しそうな顔をして欲しくなかった。

でも不謹慎だけど、冥琳が私を慮ってくれたのが嬉しかった。

 

「……孫策」

 

最前へと向かうと、そこにはすでに袁術がいた。

この国は同盟国として立っている。

その片方の一番上である袁術ちゃんがいるのはある意味で当然だ。

側にはいつも通り、張勲が控えていてそちらも辛そうに顔を歪めていた。

二人の顔は……私の傷を見て非常に悲痛な表情をしている。

意外だと思った……ううん、そういったら失礼なのかも知れない。

意外に思ってしまったことは事実。

けどそれは驚きと共に嬉しいことだった。

 

刀月が最初同盟というか……無理矢理この子と部下である張勲も一緒に同盟するようにし向けたときは、殺してやりたいと思った。

確かに刀月の言うとおり諸侯として正しい行動ではあった。

だけど正しいからといって全てが飲み込める訳じゃない。

母様の呉を……疲弊させたのは間違いなくこの二人なのだ。

 

でも……仇ではないことも事実だった。

 

そして我慢しつつ袁術と接してみれば……刀月の言うとおりただの子供であることがよくわかった。

まだ思うところがないと言えば嘘になる。

だけど……それ以上に優秀な事も事実だった。

さすがは腐っても袁家の血筋に連なる者といったところだと、正直認識を改めていたくらいだ。

受け入れ始めていた自分がいて……私はそのとき思わず苦笑してしまった。

 

そしてこの瞬間が最後になるなら……言っておかなければいけないことがあった。

 

「次の王は蓮華……孫権になるわ。それは良いわね」

「……うむ。わかっておる」

「そう……なら、安心かな。それから……私が号令を出すわ」

「それがよかろう。妾の分も、しっかりと頼むぞ」

 

すんなりと受け入れられて少し驚いたけど、それだけだった。

反董卓連合から戻ってきた袁術が……必死になって施策を行っていたのを知っている。

反董卓連合の後のため……何が影響を与えたのかは考えるまでもなかった。

そう、あろう事かあの男は……許可を取りに行ったのは私じゃなくてこの袁術ちゃんなのだから。

確かにあのときはまだ間違いなく袁術の方が影響力は強かった。

だから仕方ないと思いつつも……もやもやしていた。

 

私を見させてあげるって意気込んでたのに……結局私が見てるだけで終わっちゃったわね

 

袁術ちゃんも影響を受けた……刀月と呂布の一騎打ち。

あのとき見た、刀月の強さは異常だった。

そしてその前……反董卓連合が集まっていた陣地で見た、刀月の横顔。

そばにいるはずなのに、この場所を見ていない。

 

私のことを……きちんと見てない。

 

私の事なんて武力的にも、女としても見てないことがわかって。

それについて腹を立てた。

本当の意味で、私が刀月という存在を意識したと思った。

だから……何とかしたかった。

だけど、どうにも出来なかった。

日々に忙殺されて……ううん、言い訳は良くない。

私では振り向かせることが出来なかった。

酒を飲ませてもらうために何度も挑んだ。

だけどその全てを軽くあしらわれて……。

もちろん諦めてたわけじゃない。

それでも……結局最後まであの男を振り向かせられなかった。

王としてではなく。

 

孫策としても

 

雪蓮としても

 

何より……一人の女として……

 

見てもらうことは出来なかった。

 

思うことはいっぱいあるけれど、最後の務めだけは果たさなければならない。

 

 

 

唯一見てくれた「王」として

 

 

 

だから……私は最後の責務を果たすために……

 

 

 

歩みを進めた。

 

 

 

「呉の将兵達よ! 我が盟友達よ!」

 

 

 

本来舌戦という……大将同士の口上による情報収集と戦意高揚を目的とした話を行うのが通例だけど、今の私にそんな余裕はなかった。

だから……曹操が私を見つけて舌戦のために歩んできているのはわかったけど、それでも私はそれを待たず自ら声を張り上げる。

 

 

 

「今、愚かにもこの地を欲し、無法にも大軍で攻めてきた敵がいる! しかも敵は卑劣にも我が身を消し去らんと刺客を放ち、我が身を毒で侵した!」

 

 

 

私の腕の血と言葉で曹操が驚いているのが見えた。

その顔を見れば、曹操が命じたのではないとすぐにわかった。

そして私の言葉に兵士が動揺しているのもわかった。

その動揺を抑えるために……私は天に届かんと声を上げる。

 

 

 

「我が身は毒に侵され、もうこの命がつきるだろう! だがこの孫伯符! ただでは死なん!」

 

 

 

ただで死ぬわけにはいかない。

その思いが……今にもつきようとしているこの命を、この体を奮い立たせてくれる。

 

 

 

「我が身、我が魂魄は永久に皆を……この呉の地を守ろう!」

 

 

 

「愛すべき仲間よ! 我が友よ!」

 

 

 

「我が命を燃やし! ここに最後の大号令を発す!」

 

 

 

「我らが呉を荒さんと向かってきた敵を討ち滅ぼせ!」

 

 

 

それが私の最後の仕事。

まさに全ての力を込めた私の怒号は……私の大事な兵士と将の雄叫びが塗りつぶし、全てを滅ぼさんと走り出し、敵へと刃を振るった。

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ!? 誰が孫策を殺せと命を出した!?」

 

ある意味で誰よりも驚いたのは、孫策を正々堂々と潰そうと軍を率いてきた魏の王、曹操だった。

孫策の様子と鬼気迫る様子を見れば、孫策の口上が嘘でないことは誰もがわかること。

そしてそれは……自らの信を置く部下達も一緒だった。

誰もがそんな命令を出すわけがない。

曹操が望んだ一戦を、暗殺などという外道な手段で汚すわけがない。

そして急ぎ調べて事情がわかった。

黄巾の乱より徴兵した粗悪な兵が、功名を急ぐあまりに独断で暗殺を企てた。

即座にそのもの達の首を刎ねるように曹操が命じ、すぐに退却の指示を出した。

こんな誰もが望んでいない戦を続けるのは……誰よりも曹操が納得できなかったからだ。

だがこの状況……自らの主が卑劣にも暗殺されたことを知って怒り猛る呉の兵が、仇を滅ぼすために走り出した。

犠牲が出るとわかっても、それでも曹操はこの戦を続けるつもりはなく、また身を守る以外攻撃を行うことを禁じた。

弔いの使者も出そうと指示を出すが……その前に敵が自らの軍と接触する方が早かった。

魏の兵は未だ動揺が大きかった。

正規兵の動揺がある意味で致命的だった。

何せ自らの王が暗殺を企てたかもしれない……という衝撃があったのだ。

しかしそんなことは、最前線に配置されている徴兵されたばかりの兵士としては、たまったものではない。

事情はそれぞれだが、のし上がろうという思いを胸に抱いて入隊した。

だというのに今下された指令は撤退であり、しかも自発的な攻撃を禁止するという……最前線に配置された兵士に死ねと言っているのと同義であった。

無論曹操は死ねと言っている訳ではない。

だが結果的にそうなってしまっている。

 

そして死んだ兵士にとって……大儀もくそも関係なかった。

 

 

 

 

 

 

 

……これが、戦場か

 

前線で……俺はそれを見ていた。

風に乗ってやってくる……血の匂い。

人だった物から流れ出た赤い血潮が……この辺一体の空気を赤き血の臭いで染めるには十分すぎた。

そしてそれと同時に……死の臭いが、俺の体を蝕んだ。

 

正しくは……俺の左腕が震えていた。

 

 

 

……なんだ?

 

 

 

驚き、思わず左腕を見つめてしまう。

だがすぐに震えている事の意味がわかり……俺は左腕から視線を外して、死んでいく連中へと視線を投じた。

多くは間違いなく魏の最前線の連中だった。

呉の兵士達の猛攻を防ぐことはしても、そのほとんどが反撃らしい反撃をしてこなかった。

そもそもにして包囲がほぼ完成し、さらに軍の出撃が後手に回っている呉を相手に、撤退するという理由が本来はない。

確かに王の死と、王自身が死の淵に立たされながらも咆えた事で、こちらの士気は否応にもあがった。

だがそれだけだ。

圧倒的とまでは言わないまでも不利な状況であるにもかかわらず、ここまでこちらが一方的に押し返せるほどの状況ではない。

 

だが……その相手が曹操ということであれば話は別だった。

 

曹操は間違いなく一人の将として、一人の王として……素晴らしき好敵手として孫策に戦いを挑んできたのだろう。

そしてその理由の一つに……俺が絡んでいるのも否定は出来なかった。

 

まぁ……経済上で俺の存在というのはバカに出来ないからな

 

土木工事と加工品と行商。

最近めっきり俺自身が行商を行うことはなくなったが、それでも経済学的に言えば結構脅威にはなっていただろう。

そこを曹操が意識して攻めてきたのかは謎だが……ともかく暗殺という手段で勝利を得るつもりはなかったのだろう。

故にこそ……こうして撤退のみを行っている状況だ。

気高いとも言える行為といえなくもない。

だが……そんなことなど魏の最前線の兵士と、呉の側からすれば知ったことではないだろう。

 

さて……果たして今回の暗殺、どう見るべきか?

 

意図しないことなのは間違いない。

曹操の態度。

今の魏の動き。

それらを加味すれば、どう足掻いても暗殺を企てたのは将まで行かない。

普通に考えれば功を焦った一般兵が勝手にやったと見なせるかもしれない。

しかしそれが……呉の首都で行われたということで、少し疑問が残る。

 

腐っても三国の内の一国の呉の首都に……ここまで簡単に細作の侵入を許すだろうか?

 

俺としても、俺が狙われていたのであればもう少し周りを警戒していた。

だが狙いは孫策。

俺もさすがに全ての将の身辺を四六時中警戒している事は出来ない。

また戦闘関係に加わるつもりはないので、俺としては細作の探索や調査をするつもりはなかったし、行っていない。

仮に俺の警戒を抜きにしたとしても、首都に細作が潜り込んできたのは事実。

出来なくはないだろうが……呉の中枢部の首都まで、簡単に侵入できるかと思えば何とも言えない。

 

護衛を付けろともっと進言しておくべきだったか……

 

恐らく普段通りだから矢を射られた時に、孫策は一人だったはずだ。

このとき護衛の有無で、細作の実力をある程度は知ることが出来ただろう。

 

まぁ護衛が誰かにもよるけど……

 

強い護衛……最低限尾行娘程度の実力は欲しい……を突破できた場合は、黒幕と判断することも出来た可能性もある。

だが今となっては後の祭りだ。

この場合……暗殺を企てた細作が黒幕であるという悪い方向で考えて行動すべきだろう。

 

まぁまだ何も出来ないが

 

未だ孫策は王として……追撃を続ける兵士達を鼓舞すべく、懸命に立っている。

王の威光と覇気を……周囲に向けて発して、誰よりも戦っていた。

今のままでは肩を貸すことも出来ない。

戦場に立って、兵達を鼓舞している王に肩を貸すなど……兵達の士気を下げることにしかならない。

 

故に……孫策の体に触れることが出来ない。

 

正直今すぐこの場から離れてとある物をとってきたかったが……予断が許せる状況ではない。

ならばこいつから離れるわけにはいかないだろう。

 

早く……終わってくれ……

 

今ならまだ間に合うはずだ。

何とか出来るはずだ。

だから……俺は少しでも早く終わることを願った。

 

どっちかはわからないが……仮に黒幕が裏で手引きをしていたのなら、俺も完全に無関係とは言えないからな……

 

という言い訳のもと、俺は自らの気持ちに正直になって、行動を起こすことを決めていた。

 

 

 

 

 

 

勝敗はすでに決した。

といっても勝負も糞もない。

ただの怒りにまかせた突撃と、自らの失策が招いたことによるただの撤退。

怒りを燃料にしてもそれが無限に続くわけがない。

故に……呉もある程度追撃を終えたと同時に攻撃をやめた。

怒り猛り狂った後に残るのは……どうしようもない悲しみだった。

それは無理もない。

戦乱の世だ。

死など日常茶飯事で、常に隣にあると言っても良い。

だがそれでも……自らにとって大切な人がいなくなることを、喜ぶ人間は一人もいなかった。

悲しみと無力さにうちひしがれながら……将兵達は自らの王の元へと歩んだ。

そして……自分ではどうしようもない現実を目の当たりにして……

 

 

 

涙を流した。

 

 

 

「姉様……」

 

自らの眼下にいるのは……力なく倒れて跪いた刀月に抱えられている、敬愛すべき姉の姿がそこにあった。

その側には……自らの妹でもある孫尚香の姿もあった。

妹の顔はすでに泣き崩れていた。

妹の泣き顔を見て……孫権も同じように涙を流しそうになったが……

それは必死になって抑えた。

今は泣く場合ではない。

姉にそんな姿を見せるわけにはいかない。

だから……きつく唇をかみしめて、孫権は跪いて冷えていく姉の手を取った。

 

「待ってたわ……蓮華」

 

いつもの覇気もなく、ひょうひょうとした声でもない。

力ない姉の声。

こんな声を聞くのが初めてで……孫権はもう本当に最後なのだと、そう悟るしかなかった。

 

「蓮華……曹操は?」

 

こんな時でも……こんな時だからこそ、孫策は王として言葉を発した。

その言葉の意味がわからない訳もなく……孫権はかみしめている口を何とか動かして、報告をする。

 

「みんなで力を合わせて、追い払いました」

「なら……ひとまずは安心かしらね」

「姉様……約束の治療は?」

「ふふ……残念だけど……、私、お医者さんは嫌い――ごほっ」

「姉様!?」

 

咳き込む姉の姿は、本当に弱々しかった。

だがそれも当然だ。

もうじき先王孫堅の元へと旅立つのだと……誰もがわかっていた。

 

「蓮華……」

 

心配する孫権の手を、孫策は優しく握って……朦朧とする意識をしっかりとつなぎ止めて、まっすぐに愛すべき妹の目を見つめた。

そのまっすぐな瞳を見るのが辛かった。

だけど逸らすわけにはいかなかった。

これが最後の会話になると、わかっていたのだから。

 

「呉の未来は……あなたに掛かっているわ」

 

これほど重い言葉はない。

これほど悲しい言葉もない。

王として生きた姉。

王としてしか生きられなかった姉。

普段ひょうひょうとしている姉が、心から王でいることを望んでいたのかは、この場で聞くことは出来なかった。

だがどちらにしろ、姉は姉としてではなく……王として死ぬことを選んだ。

その気高さと重さが……孫権は何故か悲しかった。

 

「見守っているわ、蓮華……小蓮」

「姉様!」

「お姉ちゃん!」

「冥琳……いるかしら?」

「もちろんだ。どうした?」

「二人を……お願いね」

 

王であり友であり、もっとも愛すべき存在からの願い。

それを聞くことが、何よりも悲しかった。

だがそれでも、それを断る理由はどこにもなかった。

故に……周瑜も涙をこらえて、頷いた。

 

「わかったわ」

「ふふ。素っ気ないわね」

「性分だからな」

「刀月……」

「何だ?」

 

もっと言葉を掛けたい。

だけどもう自分の命が散ろうとしているのは本人である孫策が誰よりもわかっていた。

だから……最後にこの場でもっとも強く頼れる存在に、最後のお願いを口にした。

 

「あなたにも……お願いして良いかしら? みんなを……お願い……」

 

誰もが認めざるを得なかった。

少々不気味であり、うさんくさいと思いながらも重用していた。

刀月。

この男が頼りになると。

信頼もしていた。

 

そして一人の女として……惹かれていた。

 

今際の際の最後の願い。

その願いを男は……

 

 

 

「断る」

 

 

 

ただ一言、そう返していた。

その言葉には、誰もが絶句した。

誰よりも……願った孫策が。

 

「何……で?」

「王として最後まで立っていた。誰よりも戦っていた。それは素直に認めよう。だが……それが本当にお前の願いなのか?」

「何……を?」

 

刀月は焦っているのか、普段よりも口調が早かった。

そのことに誰も気づくことはない。

何せ断った上で、本当の願いなどという……実に意味のわからないことを口にしている。

そのことに怒っても良いはずだというのに、断ったことの衝撃が強すぎて、周りは誰も言葉を発せなかった。

 

「毒矢を受けながらも奮い立っていた。鼓舞し、王として役目を果たした。その胆力は素直に認めよう。だが……お前個人としてはどうなんだ? 王としてではなく、孫策個人としては?」

「!!!! ぶ、無礼者! 姉様に、なんてことを!」

 

 

 

「黙っていろ孫権! 俺は今孫策と話をしている!」

 

 

 

先ほどの孫策の鼓舞の声と同等……いや、それ以上の重さのある言葉だった。

その言葉で……孫権に追随しようと口を開こうとしていた周りの兵に将は、言葉を発することが出来なかった。

そんな周りの様子など知ったことではないとでも言うように、刀月はまっすぐに……自らが抱えている孫策へと、視線を向け続ける。

 

「どうなんだ? 心から……腹から言葉を発してみろ? 孫策としてではなく、己の真名で言ってみろ」

 

その言葉は……険しい表情とは違い、どこか優しい声色だった。

だからなのか……決して言葉に出来ない……

 

王としてではなく……

 

孫策としてでもなく……

 

 

 

一人の人として……

 

 

 

雪蓮としての言葉が……

 

 

 

こぼれてしまった

 

 

 

「私だって……生きていたいわ。みんなと……一緒に……」

 

 

 

悔しかった。

もっと生きていたかった。

愛すべきみんなと共に。

だがそれもこんな半ばで、卑怯者の凶刃に掛かって死ぬことが悔しくて悲しくて……一筋の涙がこぼれていた。

 

その言葉を聞いてか?

 

その涙が頬を伝い……刀月の手を濡らしたからか?

 

刀月は……穏やかに笑った。

 

 

 

「その言葉が聞きたかった」

 

 

 

 

 

 

生きたい。

その言葉を言わせるのが何よりも大事だった。

生きようとする意志。

諦める訳でも、投げ捨てたわけでもない。

ただ……純粋に願うこと。

 

生きたいと……。

 

 

 

それを本人が言わなければ……

 

 

 

生きたいと思わなければどうにもならなかった。

 

 

 

といっても……だいぶきついが!

 

すでにだいぶ時間が経過している。

何とか側にいて……すぐに手を貸せる状況に……

 

触れることが出来る状況になってから、少しでも命を延ばせるように……

 

俺は必死になって気力を送っている。

だがそれでは根本的な解決にはならない。

未だ褐色ポニーの体には毒が蝕んでいる。

故に元凶をぶっとばさなければどうにもならない。

すぐに抱きかかえていた孫策を俺は地面に寝かせた。

そして俺はすぐさま命じた。

 

「呂蒙! 周泰!」

「「は、はい!?」」

 

「呂蒙は俺の部屋に行って、俺の黒背嚢を! 周泰は俺の秘蔵の酒を持ってこい! 場所は助に聞け! 俺の命と言えばすぐに理解できる!」

 

黒い背嚢……リュックサックの事だ。

いくつもあるが、俺が自室に保管していつでも利用できるあるいは取り出せるように置いているのは、一つだけだ。

黒い背嚢と言ってわかるのは、俺ともっとも行動を共にしている呂蒙だけ。

行商で何度か持って行ったこともあるからだ。

さらにこんなこともあり得ると思って、リュックサックの開閉方法、また中身についても問題がない物については使い方も説明している。

そして俺の酒については……少し重いが足の速さを優先して周泰に頼むしかないだろう。

ともかく……一秒でも時間が惜しい。

 

「急げ!」

「「はい!」」

 

普段俺がここまで明確に命ずることないので二人とも驚いている様子だったが、それでも俺の鬼気迫る言葉に震えながら返事をして慌てて駆けだしていく。

 

「孫策、失礼するぞ」

 

本来許可を取ってからだろうがそんな余裕はない。

俺は一言断りだけを入れてから……胸と腹が見えるように、孫策の服を引きちぎった。

自らの主君の服を引き裂く。

しかも相手は女な上に王。

これを好意的に捉えることは絶対に出来ない。

故に……

 

「!? 貴様!」

 

俺のすぐ側にいる褐色ロングが腰の剣の柄に手を掛ける。

このまま放置すれば斬りかかられるだろう。

だがそれを止める時間すらも惜しい。

というよりも……ここからは俺はもうある意味で何も出来なくなる。

 

間に合え!

 

剣を抜いた褐色ロングが構える。

それを目にしながらも俺は左手を矢傷の上、右手を丹田……へそよりも少し下辺りの腹部……に手を乗せて、全力で気力を解放し褐色ポニーに注ぎ込む。

俺の全力で気力を解放する。

だだ漏れている分もあるが、今は精密な制御をする余裕がない。

故に……周りに俺の気力が漏れるとわかっていても、俺は全力で気力を解放し続ける。

漏れたその気力が、淡い光となって……俺と孫策を淡く照らし出した。

そして照らし出したその瞬間に……俺の右肩に、褐色ロングの剣が迫る。

今相手をしている余裕はない……だが放っておけば、再度攻撃してくるかも知れない。

面倒だったので……俺は言葉も掛けず周りの被害も考えず、右手で剣を掴んで思いっきり握った。

 

「!?」

 

本気ではなかったのだろう。

実力が未熟と言うこともある。

だがどちらにしろ、剣を押しても引いてもほとんど動かすことが出来ず、孫権が驚いているのがわかった。

そして一瞬力がゆるんだ瞬間に……俺は思いっきり引っ張って剣を奪った。

 

「次邪魔したら、殺す」

 

剣を投げ捨てつつ、殺気すらも込めて俺は吐き捨てる。

正直これだけで侮辱罪として処断されても文句は言えないが……それどころでない。

ともかく邪魔をされては敵わない。

そしてこれ以上殺気をあてるなどの……他の事に気を遣っている余裕はない。

この後攻撃されても俺は反撃どころか、気壁による防御すらも出来ないだろう。

だが俺の手元から光が漏れているのを見て、誰もが絶句しているのか、これ以降俺が攻撃されることはなかった。

 

まさに消えようとしている命の灯火を前にして……他の事に気を取られている余裕などあるわけがなかった。

 

持ってくれ!

 

すでに死に体だ。

むしろ死なない方が不思議なほどに毒が回っている。

それを何とか押しとどめているのは、俺の気力による強制的な治癒だ。

気力を送ることで体の治癒力を無理矢理上げているのだ。

だが己の体ならいざ知らず、他の人間にそれをやるとなるとかなりの集中力が必要で、何よりも気力がどんどんとなくなっていく。

俺自身も正直……死にそうになりながらも治療を行っている状況だった。

 

 

 

だが……それでも!

 

 

 

死なせたくない。

 

死んで欲しくない。

 

生きていて欲しい。

 

その思いが、俺を突き動かしていた。

 

自分にとってその思いが一体どういう意味なのか?

 

その衝動がどういう意味なのか?

 

何も考えていなかった。

 

だがそれでも……

 

死なせたくない。

 

死んで欲しくない。

 

 

 

生きろ!

 

 

 

ただ……そう思ったが故の、行動でしかない。

 

 

 

だからこそ……俺は必死になって動いた気力を送り続ける。

 

己がここに……

 

 

 

この場にいる意味が……

 

 

 

あると信じて……

 

 

 

 

 

 

まだか!?

 

 

 

 

 

 

ただそれでも俺がどれほど頑張っても……

 

俺が出来るのはここまでだった。

 

どれだけいっても……

 

どれだけ死力を尽くしても……

 

 

 

俺は所詮……

 

 

 

『俺』でしかない

 

 

 

だから……早く……

 

 

 

来て欲しい

 

 

 

そう思っていた……

 

 

 

「刀月様!」

 

 

 

その俺の気持ちが届いたのかどうかはわからない。

だがそれでも確かに来た。

どうにかのばすことが出来る物が来てくれた。

その声が尾行娘の声だと認識する前に、俺は咆えた。

 

「桶の中身を孫策の傷にぶっかけろ!」

 

信じるしかなかった。

間違いなく……俺が丹誠込めて作った、酒を運んできてくれているのだと。

丹誠を込めた。

それはすなわち……俺が気と思いを込めた物体であるという事。

ならばその酒が……

 

俺がつくりしその酒が……

 

 

 

得物を除いた他の全ての物に比べて……

 

 

 

気が込めやすいと……

 

 

 

疑うわけもなかった……

 

 

 

「は、はい!」

 

俺の言葉に素直に応じて……尾行娘は全て褐色ポニーの傷口へとぶっかけた。

 

これならば!

 

液体の優れたること。

それは……物体との密着性に他ならない。

そして尾行娘がぶちまけた液体もただの液体ではない。

 

俺が丹誠込めて作った……

 

 

 

酒だ!

 

 

 

酒造りだけではない。

 

土から。

 

肥料から。

 

水から。

 

米作り。

 

精米。

 

麹造り。

 

そして……それらを全てあわせての酒造り。

 

その行程全てに俺は全身全霊を注いだ。

 

故に……他の物よりも遙かに俺の気が浸透しやすい。

 

また酒による殺菌作用。

 

これらを全て含めて酒を起用する。

 

だがそれでも根本的な解決にはならない。

 

当然のように未だ褐色ポニーの顔は血の気が薄い蒼白だ。

 

このままでは遠からず死ぬだろう。

 

だから……どうしても薬が必要だった。

 

人体実験済みの……薬が。

 

 

 

まだか!? 呂蒙!?

 

 

 

本当に周囲に気を配る余裕がない。

 

仮に今、空間転移で黒幕の連中に襲いかかられたら俺は無防備にも殺されるだろう。

 

だがそれは周りの連中が少しは時間を稼いでくれると信じている。

 

故にこそ……俺は完全無防備になるとわかっていても、治療を行うと決断したのだ。

 

 

 

「刀月様!」

 

 

 

俺が周りの連中に己の命を預けている状況で……もっとも聞きたかった声が聞こえてくる。

 

その瞬間に、俺は矢継ぎ早に指示を出す。

 

 

 

「背嚢の口を開けて薄茶色の巾着を取り出せ! その中に暗い群青色の透明な小瓶が入ってる! それを孫策に飲ませろ! 最悪中身を手で掬って口の中に突っ込め!」

 

 

 

むちゃくちゃな命令だった。

本来であれば、王である褐色ポニーの口に手を突っ込むなど、それこそ万死に値するだろう。

だが俺自身もう余裕がなかった。

すでに七割近い気力を失っている。

これ以上気力を消費すれば俺自身も危ない。

だからこそ……命を救うという大義名分もあってか、無茶な命令をしていた。

 

「で、です――」

「もう時間がない! これ以上だと俺も死ぬ!」

 

余裕がない故に、俺も死ぬことも伝えた。

実際……これ以上は本当にまずいのだ。

故に……躊躇われている余裕はない。

さすがに俺も死ぬというのは他の連中も予想外だったのだろう。

だがそれでも、俺が本気で言っているのは呂蒙が理解した。

すぐに瓶の蓋を抜いて、褐色ポニーの口へ流し込むが……すでに飲み込む力すらもないのか、飲もうとしない。

故に……無理矢理口の中に瓶を突っ込んで本当に無理矢理胃へと流し込んでいた。

そして……一瞬動きを止めた褐色ポニーだったが、すぐに目を見開き……

 

 

 

何故か寝っ転がりながらガッツポーズをし出した。

 

 

 

「「「へっ!?」」」

 

さすがに奇怪な行動をした褐色ポニーに対して、周りの連中がきょとんとしていた。

そしてもっとも驚いているのは褐色ポニーだろう。

体を起こして……だが体力がほとんどないから実にゆっくりとした動きだったが……驚きを口にする。

 

「え? 私……」

「姉様!?」

「お姉ちゃん!?」

「雪蓮!」

 

もっとも近しい三人が驚きと喜びに声を弾ませる。

そして……他の将も驚きながらもそれ以上に喜んでいた。

俺はそれを見届けながら……呂蒙から薄茶色の巾着、ポーチから別の薬を取り出して飲んで体を動かしていた。

 

か……間一髪……

 

正直……冷や汗ものだった。

何せ本当に生きているのが不思議なほどの状況だった。

間違いなく致死毒だ。

それを打ち込まれてむしろよくぞ戦闘が終えるまで持っていたものだ。

褐色ポニーが生きていられるかが賭けだったが……持ってくれたのは本当に助かった。

 

人体実験のおかげか……

 

俺が褐色ポニーに飲ませたのは……モンスターワールドで手に入れた解毒薬だ。

俺自身も一度命を救われた薬。

魔力を用いた蒼火竜の猛毒すらも解毒した薬だ。

いくら強力とはいえ、普通の世界程度の毒に負けるわけがなかったのだ。

そして人体実験とは「腐ってないか?」、俺が刀村に住んでいた……そのときは村の名前はない……時、流れてきた連中に、文字通り毒味させたのだ。

 

結果として本当に手遅れな連中を除けば、誰一人として腹を下すことはなかった。

 

もちろん他の奴に試す前に俺自身でも試していた。

しかし俺という人間はある意味で人体実験の意味がない。

色々と頑丈になるように修行を行っていたことと、この世界の人間ではないからだ。

ともかくとして問題なく体を動かし、そして今も呆然としながらも、周りを助かったことを喜んでいた。

毒の脅威さえどうにか出来れば、後は体力を回復させればどうにかなるだろう。

 

人体実験の成果で……無事に事なきを得たわけだな……

 

そして毒の脅威が去った今……次にまずいのは自分自身の状態だった。

 

ま……まずい……

 

だだ漏れしても放出を続けたため、体からほとんど気力が失われている。

すでにレッドゾーンに至っているレベルである。

今の俺は間違いなく最弱の状態だ。

周囲に気を配る余裕がない。

 

「刀月様! 大丈夫ですか!?」

 

そんな俺を心配するのは、俺ともっとも付き合いが長い呂蒙だ。

ほとんど感覚がないが……倒れそうになっている俺を呂蒙が支えてくれているのが、それとなく察せられた。

立っていることすらも知覚できないほどに、本当に余裕がない。

今の俺が意識を失えば、近寄られただけで防衛本能で反撃……殺害……する可能性がある。

故に……俺は周りの声を聞く余裕もなかったため、自身の状況を最優先した。

 

「呂蒙……これを孫策に渡して飲ませろ。薬だ」

「は、はい!」

 

ポーチに入っていた回復薬を呂蒙に渡し、俺は狂走薬を一気に飲んで体を動かす。

そして……問答無用で自分の意見を口にする。

 

「後……数日休みをもらうと言っておけ」

「? はい?」

「俺は……少し出かけてくる。助と格には普段通り仕事しろと伝えろ」

「え!? な――」

 

何で出かけるのか? そう問いたかったのだろう。

だが……俺自身そんな余裕がなかった。

無理矢理体力を回復させて俺以外に人が存在しない場所へと……俺は自身を避難させる。

これほど衰弱している状況では……俺の周囲に誰かがいれば俺が休むに休めない。

何とか死にかけまではいってないので……ランポスの大軍を一人で討伐し、意識を失ったときよりはマシだが、今は周りに気を遣う余裕がない。

故に俺は……返事を聞く前に残された気力と魔力を使用して疾駆し、飛び上がった。

近くの山の麓に……蜂蜜を取るためのちょっとした拠点を設けているのだ。

といっても雨風がしのげる程度の小屋だ。

だがそこで重要なのが、俺の周囲に誰もいないことだ。

周囲が森であるため大量の人員が動員されても、木陰などの盾もあるし、立体的に移動するのも楽だ。

俺一人であればどうとでもなる。

黒のリュックサックにはモンスターワールドのポーチの他に、サバイバルナイフ、拳銃、現代の携帯用食料に水が入っている。

最悪の事態を想定して……リュックサックにはそう言った便利な代物を入れておいたのだ。

回復するまでは、持ちこたえることが出来る代物が入れてある。

 

俺は俺の命を優先する。

 

故に……単独行動を取るのが最適解だった。

だから……俺は何とかまだ動ける内に一人きりなれるところへ急いだ。

能力を使うほどの余裕もないため気力と魔力による疾走だったが、何とか拠点へとたどり着く。

後は携帯食料を無理矢理食べて、モンスターワールドの薬を飲んで……壁に背を預けて右手に拳銃、左手にサバイバルナイフを持って意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「数日間の休み?」

「はい。刀月様はそういってどちらかに出かけてしまわれました」

 

呂蒙からの報告を聞いて、今まさに命を救われた孫策は首をかしげた。

誰もが諦めた。

そして他の誰よりも、毒を喰らった孫策自身が諦めていた。

だというのに、まさに奇跡が起こったのだ。

刀月が持っていた薬を飲まされたことで、孫策は一命を取り留めた。

その礼を言う前に、刀月は五日間の休みを言い残して姿を消した。

その行動の意味がわからないため、残された連中としては誰もが首をかしげるのは当然といえた。

だが刀月が正常ではないことは、だれもが理解していた。

わずかに見ることが出来た刀月の顔色は……孫策から見ても真っ青を通り越して、もはや土気色というほどに血の気を失っていたのだから。

 

休みってことと、部下に指示を出していたから……このままいなくなるって事はないんでしょうけど……

 

いなくなる心配はしていない。

だがそれでも、どうして傷を負い、さらに衰弱した状況で姿をくらませるのかがわからなかった。

衰弱しているのは刀月が倒れそうなほどになっている姿を見ているので、それは誰も疑っていなかった。

そう思ったのだが……すぐに孫策は答えに行き着いた。

 

あぁ……そういうことね……

 

刀月が敵視している存在を警戒しているのだと、気づいた。

それについてはしょうがないと、孫策自身が理解した。

何せ刀月が苦戦するほどの相手。

間違いなくその相手を警戒して刀月は一人になるためにどこかに出かけたのだろう。

 

だが……理解はしたが「納得」出来るかという意味では……

 

 

 

話は別だった。

 

 

 

全く……あの男は……

 

助けられたのは紛れもない事実。

感謝しても仕切れないほどに感謝している。

恩義も感じている。

 

だが……自らを守るためとはいえ、こちらを一切信用してないことが、腹立たしかった。

 

「亞莎」

「は、はい!?」

「行き先に心当たりはあるかしら?」

「え、えっと……跳んでいった方角から察するに、刀月様が蜂蜜を採取している一番近い森に行かれたのだと思います」

「蜂蜜の? そう、森……ね」

 

刀月の心配は理解出来た。

そしてもしかしたら邪魔をしてしまうかというのが、孫策としても気がかりではあった。

だが……それでも命の恩人を放っておくことは出来なかった。

 

「明命」

「はっ!」

 

そばで控えていた呉でもっとも頼りになる細作を呼び出す。

孫策の声色で真剣な命令であることを理解しているのだろう。

すぐさま呼び掛けに答えて孫策の前に跪いた。

 

「亞莎に一番近くの森を教えてもらった後に、その森に出向いて刀月の様子を確認してきなさい。薬と水、刀月の即席食料を持ってね」

「はっ!」

 

森の中での行動であれば、周泰を上回る存在は呉にはいない。

訓練で刀月に敗北はしたけど、あれは規格外過ぎて、孫策としては勝ち負けについては考えていなかった。

何より……信頼できる部下だ。

孫策の命令が……あまりにも無理だとしても、理解してくれる。

 

「刀月が休みを要求した上に、一人になるために出かけた。これは恐らく外敵を警戒しているということ。だからあなたが捕らえられるという事だけは、絶対に避けて。「もしも」の時は……わかるわね?」

 

その言葉に……誰もが驚いているのが、孫策もわかった。

だけど……これは確認しておかなければならないこと。

何せ刀月は警戒して一人になったのだ。

ならば、その足を引っ張ることをするのだけは避けなければならない。

 

「これは命令だけど……「もしも」の覚悟がないなら、拒否してもらっても良いわ」

「いいえ、行かせてもらいます!」

 

周泰は命令の意味がわかっていながらはっきりとそう返していた。

侮辱したつもりはない。

細作として働いてもらっている周泰にその覚悟がないわけがない。

だけど……刀月の敵は刀月同様に普通じゃない。

念押しも込めて、言っておかなければならないことだった。

 

「馬に乗っていってすぐに追って」

「はっ!」

 

そして……孫策はもっとも刀月を心配している呂蒙に声を掛ける。

 

「亞莎。心配だとは思うけど、足が速い明命にまずは行かせて様子を見てもらいましょう。その後あなたも部隊を率いて追ってもいいから」

「は、はい」

 

誰よりも刀月を追いかけたいのは、付き合いがもっとも長い呂蒙だと孫策も十分に理解していた。

だがそれでも場所が森だ。

そして刀月が一人になるために、それなりの距離がある森へと行ったのは容易に想像できる。

何より……刀月は今弱っている状況だ。

距離もある上に、森を歩くのが不得手な人間がいっては、逆に捜索に向かった存在が怪我をしかねない。

また刀月が警戒している存在が、手を出してくる可能性も考慮すれば、森の歩きに慣れていたり、捜索が得意な人間が行くのが当然だった。

とそこまで考えて……孫策は自らのすぐそばに、呂布が近寄ってきているのに気がついた。

もっとも最前で敵を屠ったはずだというのに、息を切らしてないだけでなく汗すらもかいてない様子だった。

特に力の込められてないその瞳が愛らしく感じながらも、しかしあまりにも恐ろしい存在だと、孫策はわかっていた。

だが、呂布のその表情は……淋しそうだった。

 

「どうしたの?」

「……恋も、行っていい?」

 

その申し出は呂布という人物を見れば意外であったが、刀月との関係性を考えれば意外でもなかった。

そこまで感情を表に出さないのが呂布だが、情が厚いのは孫策も知っていた。

自らを慕っている陳宮や部下達。

さらに呉の将達に袁術の部下達。

自分とあまり接点のない存在にも気を遣っている姿は見かけたこともある。

そして何よりも……自分の家族を救い、受け入れてくれた刀月に特別懐いているのは、誰もが知っていた。

戦闘力で言えば刀月を除けばもっとも頼りになる存在だ。

だが……まがりなりにも刀月と普通に切り結んでいた相手が敵にいる。

その敵からしたら、刀月が弱っている今が絶好の好機。

さすがにこの状況で敵が何もしてこないとは……孫策も思ってない。

それを考えてこそ、刀月も森に一人で向かったことは、孫策もわかっていた。

 

だからこそ……行かせるべきでないことも

 

「気持ちはわかるわ。でも今は堪えて。これ以上、あの男に借りを作りたくないわ」

 

借りを作りたくない。

本音であり詭弁でもあった。

本音を言えば、今すぐ自分が向かってお礼を伝えるのと……頼ってくれないことに対する怒りをぶつけたいと思っている位なのだ。

だがそれは出来ない。

王としても。

孫策として。

 

一人の女としても。

 

刀月の側に駆け寄るには、最低限自分の命を守る事が出来るか……

 

 

 

最悪自刃する覚悟と、それが出来る立場の存在でなければならない。

 

 

 

そう孫策は思っていた。

 

そのとき……呂蒙が孫策の側で跪いた。

 

「し、雪蓮様。お願いがあります」

「……何かしら?」

「明命だけで行かせるのが間違いないと思います。けれど……小屋の場所は奥まっている場所にあります。探すのも容易ではないと思います。ですから……よく知っている私と一緒に明命が行くのが最適だと思います! ですので……私にも行かせてください!」

「……私が明命に命じた事の意味。未熟とはいえ軍師である亞莎がわかってないわけがないわね? それでも行くのね?」

 

念のために確認しなければいけないこと。

刀月が人を死ぬことに対して忌避にも近い感覚を持っているのは、わかっていた。

刀月が作った村……刀村が出来た経緯を、孫策は呂蒙から聞いていた。

流れてきた民達を受け入れた。

それだけならまだあの男の出鱈目ぶりを見れば、わからないでもない。

他者を養うほどの余裕があったのだから、労働力として助けたのもわからないでもない。

 

だけど……刀月が持っていた薬を使って人を助けたことには、驚いた。

 

薬とは貴重な物だ。

王である孫策だっておいそれと使えないほど高価だ。

だというのに、刀月はただ人を助けるという理由だけで……薬を振る舞っていたという。

今の孫策の治療についてもそうだ。

孫策に射られた矢に塗られていた毒は……間違いなく致死毒。

その毒を完璧に解毒した先ほどの薬は……権力者であれば喉から手が出るほど欲しいはず。

それこそ、先ほどの解毒力なら、都市が一つ買えるほどの金を出す者がいても不思議ではない。

その薬をあっさりと使ったのだ。

確かに権力者である孫策を助けるのは、わからないでもない。

呉の王。

その命を助けたと言えば……褒美は望むままと考えても不思議じゃない。

だけど……あの男がそんな打算やら褒美を求めて薬を使ったのではないのくらい、孫策にもわかっていた。

 

ただ助けたかった……

 

これだけじゃないかも知れない。

 

助けられたことで意識してしまっている……孫策自身の願望が入っていることは、孫策本人としても否定できなかった。

 

そしてその助けたかったという理由に……「女として大事ではない」ことも、わかっている。

 

でも、そうであっても、刀月は孫策を助けた。

 

王でもなく。

 

孫策でもなく。

 

 

 

雪蓮として。

 

 

 

だから……そんな男の足かせになるような事を、孫策としてもしたくなかった。

未熟と言いはしたが、呂蒙がすでに軍師として十分な働きをしていることは、孫策自身も十分に理解していた。

だから、死なれてしまっては呉としても不利益なのは間違いない。

だが……それ以上に刀月に負担を掛けたくなかったのだ。

もしも……刀月の様子を見に行かせた時に殺されてしまっては、顔向けが出来ないからだ。

そしてそれはまだ良い方だ。

 

もしも人質に取られてしまったら?

 

そうなれば刀月の動きを止めるには十分すぎる。

特に……親しい呂蒙が捕らえられた場合、刀月がどう動くかわからない。

最悪……刀月の動きを止めるのではなく、王の命を対価に取られた場合……

 

刀月が自らを殺しに来るかも知れない事も、孫策は考えた。

 

あのあまりにもおかしな男の凶刃が……自らに……

 

 

 

呉に振るわれたら?

 

 

 

そのとき止めることは出来ないと、以前にも思った。

呂蒙を行かせるとは、そうなるかもしれないという可能性を上げる。

行かせるべきではない……そう思う自分がいたにも関わらず、孫策は呂蒙にも許可を出したいとも思っている。

何も考えてないわけではないし、きちんとした理由がある。

 

だけどそれ以上に……

 

 

 

行かせてあげたいという気持ちが大きな事は、孫策自身否定しきれなかった。

 

 

 

どうするべきかしら?

 

 

 

呂蒙の言うことも理解できた。

もっとも付き合いが長いため、恐らく刀月がどんな場所に小屋なんかを建てているかわかるはずだ。

普段の相手であれば周泰が追跡出来るのを疑ったりしないのだが……刀月が相手ではそれも難しい。

刀月の余裕のなさから考えて、一刻を争うかも知れない状況。

あまり悩むわけにも行かなかった。

 

逆に考えて……刀月にとってももっとも親しい亞莎を行かせるのが安全かしら?

 

楽観的な考えかも知れないが、刀月のところに着くまで無事だった場合……もっとも強い刀月の側に行かせるのが安全かも知れない。

それに考える時間も惜しかったので……孫策は仕方なく呂蒙にも許可を出した。

 

 

 

そして……その決定を下したときに、意識せずに強く拳を握っていた。

 

 

 

その握り拳を作った感情を理解して……孫策は内心で笑っていた。

 

 

 

部下に嫉妬する自分に……呆れながら。

 

 

 

しかしそれを表に出すわけにはいかなかったので、必死になって顔が表情を変えることを自制した。

一瞬だけ息を呑むようにして感情を整えて、孫策はあらゆる物を飲み込んで、顔を上げた。

 

「雪蓮……本当に大丈夫なんだな?」

「えぇ冥琳。心配かけてごめんね」

「全く……お前の破天荒ぶりに付き合わせるこちらの事も考えてくれ。だが……何よりも、嬉しいことだ」

「姉様、それでも万が一ということもあります。それに腕の治療もしないと! 医者にいってもらいます」

「蓮華、さっきも言ったけど私お医者さん嫌――」

「そんな馬鹿なことを言ってる場合ですか!?」

「そうだよお姉ちゃん! ぜ~~~~ったいに、連れて行くからね!」

 

愛すべき妹たちの声が、触れてくれたぬくもり。

聞けることが嬉しくて、温かさを感じることが嬉しくて、孫策は思わず泣きそうになってしまった。

みんなでやるべき事をやるために、城へと戻っていく。

 

一人になってしまった刀月がどうなっているのか……孫策としては後ろ髪を引かれる思いだった

 

だけど、助けてもらったこの命で……

 

しなければいけないことがあるのだから

 

 

 

 

 

 

 




ようやくネタが出せたよ
モンハンのガッツポーズw
これのネタ、仲間内でももう随分前なんですよねぇ
それこそ就職してすぐぐらいかな?
年取ったなぁw

そろそろモンハンライズが出ますね~
久しぶりに携帯「出来る」ハードでのモンハンですね
いつもの連中とも話をして全員がスイッチ買いましたわw
俺ともう一人は持ってましたが、二人は購入
結局アイスボーンやってないから久しぶりだなあ
うまくできるかしらw

残りの話も頑張って書いてますのでよければタマによんでいただけると嬉しいです
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