あまり話が進まない
どうしよう・・・・・・
マジで今までの作品の中でもっとも長くなるかもしれない
何を固まっているのだ?
一段落してようやく話ができる状況になったというのに……目の前の怪しげな姿をした男は、我らの名前を聞いた瞬間に固まった。
そして実に不躾な目で我らを見た後……なぜかうつむいて顔に両手を当てて硬直した。
「どうしたのだ、お兄ちゃん?」
そんな固まった怪しげな男に鈴々は何の警戒もなく近づいていく。
まだ完全に互いを許しきっていないにもかかわらずその警戒心のなさ。
だからこそ私がしっかりしなければならないのだが……
いや、この者が悪党でないことはすでにわかってはいるのだが……
盗賊が住み着いているということで依頼を受けてここにきたが、すでにこの怪しげな男に盗賊たちは全員行動不能にされていた。
しかも驚くべきことは、盗賊たちに外傷らしい外傷がなかった。
一人だけ額に打撲後があった盗賊がいたが、それ以外は全て無傷だ。
いったいどうやって盗賊たちをたった一人で無力化したのかわからない。
さらに
先ほどに光は……この男が発したのか?
三人で思わず惚けてしまった窓より漏れでていた不思議な光。
信じがたいことだが状況的に、この男が発したと考えるのが妥当だった。
また衣装も見たこともなく、さらに光を反射する妖しげな荷車。
これで怪しむなという方が無理というものだろう。
しかも……
真名を知らない様子だった……
我らの自らの魂の名前。
よほど信頼した相手でしか呼ぶのを許さない真名を、この男は普通に呼びかけに使った。
私が激情に任せて槍を振るったのを軽くあしらいながらも、悪意を持って呼んだ態度ではなかった。
そう、この私をこの男は軽くあしらった
別段私が大陸最強だとうぬぼれているわけではない。
曹操殿の元には夏侯淵や夏侯惇。
西方の馬超に呉の孫策殿といった強者がいると聞いたことがある。
また大陸最強と呼び声が高い呂布もいる。
だが私も決して弱くはない。
だというのにこの男は私を素手で完全に制して見せた。
それもこちらを傷つけるつもりことなく。
どれほど隔絶した実力差があるのか、私には想像すらもできなかった。
え~~~~~~~っと~~~~~~~落ち着け……大丈夫だ、問題ない
問題大ありだったが、それでも問題ないと自身に一番強い暗示をかけなければならなかった。
ありのままに今俺の身に起こったことを話そう。
異世界に飛ばされた。
荒野を走り抜けて森の小屋にいた盗賊を昏倒させ、幼女を救出。
そして三人組の少女がやってきて名前を呼んだら斬りかかられた。
当然それを防いで、素人娘に幼女をあやしてもらい、その間に盗賊を行動不能に縄で縛った。
供養も行った。
そしてようやく落ち着いて話をすることになり、自己紹介という流れになった。
それはいいだろう。
作業の時もどうしていいかわからないが、それでも名前を呼ばなくても作業はできたため、別段問題はなかった。
当然それもいいだろう。
だが……今の自己紹介にはあまりにも問題がありすぎた。
ないわけがなかった。
ないわけがなかったのだ!
女……だと?
目の前の少女三人はそれぞれをこう名乗った。
関羽、張飛、劉備……と……。
俺の学業成績は中の中という……実に中途半端なレベルであり、さらに日本史専攻だ。
決して知識が豊富なわけではなく、世界史も疎い。
だがそれでも三国志を知らないわけではない。
友人がよくアクションゲームやってつきあってたからな
懐かしい俺の友人を思いつつ、俺は頭を抱えたい気持ちになった。
三国志。
おそらく世界的にも有名な話なのではなかろうか?
詳しくは知らないがそれでも三国……蜀、魏、呉が中国大陸で覇権を相争った歴史であることは知っている。
そして武将が山ほどおり、一人一人を全て知っているわけではないが、それでも主要な人物はある程度知っている。
知っているといっても得物がなんだとか、どんな人物だったと考えられているといったことで、実際の戦働きとか、功績などの歴史的に詳しいわけではない。
だがそれでも……これだけはいえた。
関羽、張飛、劉備は、全員男のはずなのだが……
そう男だ。
関羽に至っては美髯公といわれていたという話を聞いたことがある。
そうひげだ。
それも美しく大層なひげ。
ならばどう考えても関羽は男のはずだ。
当然張飛も劉備も。
俺の知る限り男であるはずなのだ!
だが……目の前の三人は間違いなく女であり、そしてそう名乗った。
偽名ということも考えられなくはないが、しかし三人の態度から鑑みて偽名ということはないだろう。
となると三国でいうところの蜀の有名武将は、歴史的に男と考えられてきたが実際は女であったと……いうことになる。
と思っただろうな……以前なら
確かに有名な歴史の人物が男ではなく、女であるという説は少なからずある。
上杉謙信が女であったという説もあるそうだ。
だが問題はそこではなく、俺が修行中の身であるということだった。
そこは経験があるというべきか……自分が納得できる明確な理由があった。
俺はどういう訳か祖父と親父に異世界に飛ばされて修行を強制されている。
そう「異世界」だ。
モンスターワールドはいわずもがなであるが、先の世界……聖杯戦争が起こった冬木の日本も、俺が生まれ育った日本ではないことがわかっている。
平行世界という考えがある。
可能性の数だけ世界があるのだと。
故に……俺は今回異世界の三国志時代の中国大陸に迷い込んだということだろう
劉備に関羽に張飛が女の世界に……。
もう自分でも笑うしかなかったがしかしここで笑ったところでただの怪しい……格好からいってもう手遅れだろうが……男になってしまう。
俺は何とか……何とか異世界ということで己の感情を飲み込んだ。
飲み込まなければ先に進まず、何より貴重な情報収集源だ。
ここである程度話を聞いて状況を把握しなければ、命取りになりかねない。
落ち着け……まだあわてるような状況ではない
内心相当とまどっていたが、それでも命に差し迫る問題ではない。
故に、俺は一度大きく息を吐き捨てて……自らも名乗った。
「自己紹介、感謝する。俺の名前は……」
そこで少し逡巡したが……俺はすぐに自らの行動方針に従って名をあかす。
「名は刀月。姓は入寺。旅の者だ」
俺は本名ではなく、いくつか使用している偽名の一つ……入寺刀月の名を使った。
どの世界にいっても行動指針は決まっていた。
俺の目的はあくまでも己の世界に帰ることだ。
またぞろ出て行く世界だから偽名でいいだろう
この世界では真名があるという。
そう考えれば別段偽名でもかまわないと考えたのだ。
まぁこの世界だと偽名というよりも通り名といった方がしっくりくるかもしれないが……
そんなことを考えながら、俺は気持ちを切り替えて三人娘と話を開始した。
予想通りか……
ある程度話を聞いた結果……というよりも名前を聞いた瞬間にある程度状況は把握できていたが……実にやっかいな状況であることがわかった。
まず三国志の超有名武将の名前が出ていることからわかるように、ここは中国大陸。
そして俺がいやな予感を抱いた盗賊たちの黄色い布は、予想通り黄巾党の連中らしい。
正しくはまだ黄巾党という組織というか、農民反乱が本格化しておらず、叛意を抱いた貧しい農民たちが略奪行為を行っている状況のようだ。
黄巾の乱前となると……三国時代前だったか?
確か友人がやっていたゲームでは黄巾の乱が発端で三国時代に移ったといっていたが……どうもその辺はあまりわかっていない。
とりあえず俺の世界よりも遙か以前の歴史であることだけは理解できた。
つまり……
俺は未来物の固まりってことになるなぁ……
身につけている衣服に電子機器。
くすねた拳銃。
表に出してあるアルミニウム製の台車、台車に乗せている装備。
そして自らの得物……日本刀。
全てが遙か未来の品物だ。
あまり使用しない方が無難だろう。
刀は……なぜか使用できない状況だが……
三人と話し合う前に俺は自らの得物たちを再び確認した。
すると全ての得物が抜刀できなくなっていた。
封絶も最初に言葉を交わして以来、意志らしい意志を見せない。
そしてもっとも驚くべきは狩竜が完全に沈黙していることだ。
確かに冬木の町に行ったばかりの頃はおとなしかった。
だが完全に沈黙していたわけではなく、脈動のようなものは常にあったし、聖杯戦争が始まってからは確実に生きていると断言できた。
だが今はうんともすんとも言わない。
完全に眠っているというか、眠らされているというか……ともかく何も感じなくなっていた。
煌黒邪神龍が宿った……狩竜がだ
この世界に送っているのは俺の祖父と親父と考えられる。
となると祖父か親父のどちらか……もしくは最悪その両方が、強大な力を有していると仮定できる。
異世界送還に、邪神の封印……
荒唐無稽がさらに加速したが……そこはとりあえず放置する。
いったい、何が起きているのやらと思わなくもなかったが、そこで異世界修行ということで俺なりの仮説を立ててみた。
得物が全て抜けなくなった。
スローイングナイフなどの大量生産品や消耗品として認識しているものは当然使えたが、しかし俺がもっとも信を置く刀が封印されているのだ。
ならばこの世界での修行は……
殺すな……ということなのか?
それが俺の予想だった。
三国志時代。
それはまだ無法者が多くいた時代だ。
当然だ。
まだ法らしい法がなかったといってもいい。
というよりも正直この時代は強者が支配する時代だ。
良心が正しさではなく、強さが正しいのだ。
またこの時代はまだ相当貧しいはずだ。
故に貧しさ故に村を襲うなんてこともある。
無論それだけが理由ではないだろうが、それでも襲う理由としては貧しさが一番強い理由ではないだろうか?
俺が心底憎悪している弱者の命を己の悦楽と金のために搾取するくずはそうそういないだろうが……それでも弱者をいたぶるのが趣味のくそ野郎だっているはずだ。
だというのに俺の得物……刀たちは全てが沈黙した。
気を送っても抜くことができないどころか反応すらもない。
かといって死んでいるわけでもなく、ただただ眠っているかのようだ。
盗賊がいるこの世界で……
力が支配する……力で支配できるこの世界でだ
先ほどの片側ポニー……関羽との相対を考えるに、おそらく俺はこの世界で覇者となれる。
気と魔力の併用による身体能力。
これだけでも十分驚異的だというのに、なぜか刀は抜けないのに能力は使用できたのだ。
刀が抜けなくなったと把握してからも、三人の話し声を聞くのに風翔の力を使用していた。
刀が抜けなくなったことで使えなくなったのかと少々不安になっていたが、そんなことないようだった。
あまりにもちぐはぐな封印といえるだろう。
何せこの世界は科学技術が未熟で、妖術や仙術があると考えられている時代だ。
そんな世界に本物の妖術が使える人間が、その能力も封じられずに足を踏み入れたのだ。
いや、もしかしたらほかの連中も妖術とかが使えるのかもしれないが……
仮にこの世界の連中も妖術が使えるかもしれないと仮定したとしても……それが古龍の力を超えるとは思えない。
無論俺も未熟者故、古龍たちほど力を使用できるわけでもないが、それでも人を殺すには十分すぎる能力だ。
つまり古龍の能力を使うだけでも、俺は十分この世界を支配できると言っていい。
当然するつもりはないが、「できない」と「しない」では結果が一緒でもあまりに大きな差がある。
まとめると
心身ともに問題なく、気力も魔力も問題なく使用可能。
刀は抜けない。
能力使用可。
時代はおそらく三国志時代。
異世界に修行として飛ばされている。
これらの要点を鑑みるに、俺はおそらく殺すことを禁じられて、能力の修行という意味でこの世界に転がされたのかもしれない。
異世界であり現代よりも魔力は濃密だが、それでも魔力濃度で言えばモンスターワールドとは比べるべくもない。
悪党も跋扈するこの時代に、直接的な得物を封じられたのに能力が使用できる。
このちぐはぐな封印が、修行と考えればあながち間違っていないように感じられたのだ。
またぞろ面倒な……
刀が抜けなくなったことで何となく違和感を覚えた。
だからこそ俺は盗賊たちを一人残らず生かしたまま捕縛したのだ。
殺してはいけないのだと……そう思ったから……。
ちなみに修行の内容こそ的外れではなかったが、「不殺」という考えが大きな間違いであったと……俺は自らの手痛い失態とともに、遙か先に知ることになる。
「真名を持たない……だと?」
「あぁ、今いったとおり俺は大陸の人間ではない。故に真名というのを持たないんだ」
にわかには信じがたい話だった。
こうして問題なく意思疎通もできる男が真名を持たない存在などと。
我らの常識では到底考えられないことだった。
だが身につけている衣服やあの光り輝く荷車を見れば、その言葉が嘘ではないのだとそう思えた。
「もしかして天の御遣い様なんですか?」
「桃香様……」
どうやら未だ桃香様は諦めきれないらしく、今度は本人に直接御遣いではないのかと問いただしていた。
先にも曹操殿が召し抱えたといったばかりだというのに、どうやらまだ諦めがつかないらしい。
まぁ桃香様の思いの強さを考えれば……ある意味で当然か
今は貧しい時代だ。
強き者が幅をきかせて弱者を従える、慰み者にする。
それはある意味で仕方がないのだと……私は思っていた。
いや、あきらめていたといってもいいかもしれない。
だがそれでも全てが許せるわけがなかった。
だから自分にできることをと思って、自らの武を持ってそれなりに頑張っていたつもりだった。
腕には昔から自信があったため、自らの武で悪しき者を退治してきた。
だがそれではだめだったことを、桃香様に出会って思い知らされた。
いや、真に強くなれたと……そう思えたのだ。
力を持つことの理由、使い方。
それらを示してくれたのは、ほかならぬこの方だったのだから……。
鈴々も同じ気持ちであり、桃香様のために戦い、夢を後押ししようと誓ったのだ。
あきらめるでもなく、悲観するでもなく……ただこの乱世を救いたいと強く願い、立ち上がったお方。
だからこそ桃香様は天の御遣いにこだわるのだろう。
だが……わかっていたことだが……
「天の御遣い様? なんだそれは?」
男……刀月から返ってきた言葉は純粋な疑問だった。
その言葉に桃香様はがくりと本当に残念そうにうなだれてしまった。
突然天の御遣いといわれ、さらに否定したらうなだれられてしまったため、刀月が実に困惑しているのがすぐにわかった。
故に私は、桃香様が求め、我らも捜索していた天の御遣いのことを話した。
この乱世を救い、この大陸に平和をもたらす存在であると
その話を聞いた瞬間に刀月は実にうさんくさそうに顔をゆがめて、心底いやそうに首を横に振った。
「悪いが俺は悪人殺しの人殺しだ。そんなご大層な存在じゃない」
その言葉にさらにうなだれる桃香様だったが、私は少し好感を抱いた。
悪人殺しの人殺し。
この男は確かにそういった。
悪人を誅罰するのをためらいはしない。
だがそれでも人殺しを行っていることに代わりはないのだ。
それでもなお、力を振るわけなければいけないその矛盾に自らを冷静に見つめているのがわかったから。
だからこそこの男のあり方が気になった。
その強さも知りたくなってしまったのだ。
これが私がこの男を意識してしまった瞬間だったのだろう。
天の御遣いねぇ。そんなご大層な存在の訳がない
素人娘の言葉と、片側ポニーの話を聞いて俺は内心鼻で笑っていた。
この娘たちを馬鹿にしたわけではない。
この乱世に生まれ育った存在としては、そんな都合のいいものを信じたくなる気持ちも無理からぬことなのだろう。
ただそんな都合のいいものが存在する訳がないことを、異世界の存在とはいえ未来を知っている俺は知っている。
そんな存在がいるのなら、あの子の足が不自由になることも……
命を落とすことになることにもならなかったはずなのだから……
そんなご都合主義な存在と同列視されるのはごめん被る
素人娘が私利私欲のためではなく、本当の意味でその天の御遣いとやらを求めているのは理解できたが、それでもそんな存在に担ぎ上げられてはたまったものではない。
俺は即座にそれを否定した。
俺の言葉にうなだれている素人娘には申し訳なかったが、嘘を吐くのもいやだったし、嘘を吐く理由もないので撤回はしなかった。
「さて自己紹介も終えたことで今後のことについて相談したいが……そちらに何か考えはあるか?」
「そうだな……とりあえず私たちに盗賊たちの討伐を依頼した村には報告に行くべきだろう」
「なるほど、それで盗賊たちはどうする?」
このまま野に放ったところで、また別のところで盗賊と化すのは目に見えている。
かといって殺すのも今の俺は極力したくなかった。
確かに殺しても問題はないだろう。
供養することになった女性も、殺すことを望んでいるとも思える。
だがそれでもこの世界にそこまでの悪人がいるとは思えなかった。
貧しい時代だと認識している。
特に黄巾党の連中……まだ党まで至ってないと思われるが……も貧しさ故に、生きるために盗賊になったのだ。
情状酌量の余地が皆無とは思えなかったのだ。
そこで非常に助かる発言を、素人娘が発してくれた。
「盗賊さんはこの近くに白蓮ちゃんの領地でお城があるので、引き渡します」
白蓮ちゃん?
と、ここで名前を気軽に発する愚かなことはさすがに控えた。
おそらく真名であることは予想してしかるべきだったからだ。
「公孫賛殿。この幽州の地の領主であり、義勇軍を募っているお方だ。私たちはその義勇軍へ参加するため公孫賛殿のところへ向かっている途中なのだ」
素人娘の話の確認の意味もかねて、そして俺にもわかるように気を遣ってくれたのだろう。
片側ポニーが発言の内容を補完していた。
義勇軍か……
「公孫賛殿はたしか、桃香様のご学友でしたか?」
「うん! 白蓮ちゃんはすっごく優秀な成績をしてたんだよ!」
……脱線しているような気がする
義勇軍というのは間違いなく黄巾の連中をどうにかするための兵士を募っているのだろう。
それに参加するというのは、俺が知る限りの狭い知識の劉備の行動と何ら齟齬がなかったのですんなりと理解できた。
つーかちみっこは?
しばらく言葉を発していないちみっこに目を向けると……黙っているのではなく眠そうにして話を聞いていないことがわかった。
こちらもあまり体力を無駄に消耗したくはなかったので、一度咳払いをして話をまとめることにした。
「ともかく明日は村への報告とその子の保護の依頼。そして盗賊たちを劉備殿の知り合いに引き渡すために領地へと向かうということでいいか?」
三人娘……といっても一人はほとんど寝ているので実質二人だが……に確認をとってさらに今後の方針について話をした。
そして話がまとまると俺は見張りについて提案した。
「見張りについてはどうする? 女ということもあるし、おそらくその幼子は男である俺を怖がっている。故に俺は外で休もうと思う。見張りを行ってもいいが、そちらからも見張りを出してもらった方が安全だと思うが?」
当然だが、出会って数時間しか経っていない男のことを、信用する方が無理があるというものだろう。
だから俺を見張るという意味でも、誰かしら見張りを立ててもらった方が無難だった。
俺としても無実を証明してくれる存在がほしかったのも事実。
ましてや三人は全て女だ。
片側ポニーとちみっこはまだどうにかなるだろうが、素人娘は先ほどの盗賊相手にも負けるだろう。
当然俺に勝てるわけもなく、警戒するのが当然といえる。
まぁ束になってかかってこられても、当然勝てるのだが……
無論俺がこの三人娘を襲うつもりはさらさらない。
だがそれを他人である三人娘に納得させるのは無理な話だ。
故に見張りを提案したのだが……
「そうかな? 鈴々は別にお兄ちゃんを警戒することはないと思うのだ」
眠そうにしていたちみっこだが、先ほど片側ポニーに起こされて復活して、すぐにとんでも発言を宣いやがった。
……おいおい
「鈴々。そういうわけには……」
「あ、私もそう思うよ、愛紗ちゃん」
「……桃香様」
いや、おまえら……信頼してくれるのはうれしいが、いくら何でも警戒心が薄すぎだろう……
信頼してくれるというのはうれしいことだがそれでも男相手に警戒心が薄すぎる。
俺が性欲旺盛の性交大好きの猿だったらどうするというのか……と思ったが、今は何を言っても俺に不利になりそうだったので、俺は肩をすくめて無言を貫いた。
「二人して……いくら何でも警戒心がなさ過ぎます!」
苦労してるなぁ……
激昂する片側ポニーだったが、二人はそんなことなどどこ吹く風だった。
俺としては片側ポニーの意見に賛成だったので……ある意味で一番無難な意見を出した。
「まぁ二人は信頼してくれてるのもあるから、ある意味で見張りには不向きだろう。関羽殿は……一人で一夜の見張りはできるか?」
「造作もない。おぬしが悪い人間でないことは理解しているが……そこまで信用したわけではない」
おや意外……
片側ポニーの言葉に少々驚きつつも、見張りをしないというのは話がおかしいので、俺は片側ポニーの意見に同調し、二人で見張りをすることになった。
話が決まると俺はさっさと外に出て野営の準備を始める。
近くに小川があったので小屋の中から瓶を拝借し、水を確保して小屋の中の連中にも分ける。
小屋にあった薪をいくらかもらって外で火を興す。
小屋に鍋があったため鍋に水を注いで湯を沸かす。
非常事態ではないためインスタント製品は一切使用しない。
現代物は極力使わない方がいいだろうな、緊急時をのぞいて
先ほどペットボトルの水を幼女に飲ませるときも、正直飲んでくれるか怖かったが飲んでくれて助かった。
また火を興すときも能力は一切使わずに原始的な方法で火を興した。
薪に細い枝を突き立てて摩擦熱で火を興す「きりもみ式」のやり方だ。
慣れているので速攻火を興してこうして火に当たって……半ば途方に暮れていた。
なんかある意味もっとも遠い世界に来た気がする……
モンスターワールドは実に魅力あふれる世界だった。
冬木は現代社会のため、正直普通に帰ってきた感じがあった。
だがこの世界は……あまりにも受け入れがたい事実が重すぎる。
劉備に関羽に張飛が女……もう何の冗談なのかと……
いや当然女であるのが悪いと、三人を馬鹿にしているわけではないのだ。
三人は立派にこの世界に根を下ろし生きている。
劉備は弱いようだが、関羽と張飛は俺の世界と同じでかなりの実力を保有している。
だが……それでも……
心と頭がついていかない……
これが正直な思いだった。
もっとも現実離れしていたのは間違いなくモンスターワールドの世界なのだが……この世界の常識は俺の世界の常識と隔絶していたため、もっとも精神的にきつい世界だった。
まぁそれでも俺がやることは変わらないのだが……
異世界に飛ばされているのが修行と考えられるため……俺なりに仮説を立ててみた。
異世界から別の世界に……この時点で半ば自らの世界に帰るのを諦めている気がしないでもないが……いくためには、何かしらの修行の成果を修めるか、この世界の問題等を解決すればいいと考えられた。
異世界で修行をさせられていると仮定して、モンスターワールドと聖杯戦争の状況を考慮するに、それが一番しっくりくるためだった。
古龍の討伐に聖杯の処理が課題というか……修行の到達点だったんだろうな
モンスターワールドは古龍と煌黒邪神龍の討伐。
冬木では聖杯に眠っていた怨念の始末。
これらが問題点であり、俺はモンスターワールドでは邪神討伐を行い、冬木の聖杯戦争では地の底の怨念を吸収した。
しかし修行とはいえ神に挑ませるとか……どういう神経してるんだあの二人は
自らの肉親の恐ろしさにため息しか出なかった。
だがそのおかげで俺はいくつもの得難き経験と力を手にしたのだから、一方的に恨むこともできなかった。
あの頂に行けるかどうかは……俺次第だがな……
刃渡り五尺の野太刀を三撃同時に放つ絶技。
あの剣技は……とても一朝一夕で真似できるものではない。
だが気力も魔力も使わずにあの頂に至った馬鹿がいたのだ。
ならば俺も決して届かないとは思えなかった。
やることは多々あれど……やりがいはあるな……
火に当たりながら俺は前世界の相棒のことを思い出し……苦笑しつつ白湯を口に含んだ。
若干しめった空気ながらも、真夜中になって尚肌寒い程度ですむ気候から察するにおそらく今は春なのだろう。
いや、まだ温暖化の問題が起こってない世界のはずだから……もしかして夏なのか?
地球温暖化が起こる前の世界的気候など知るはずもないが、それでも現代よりも一年を通して気候が低かったことは想像に難くない。
※この辺つっこみ出すと切りがないし、書きづらいこともあるのである程度現代準拠で
いきますのであしからず by作者
だが絶対に冬ということはないだろう。
真冬でも別段問題なく過ごせたが、まだ拠点を入手してない状況での体力消耗を避ける意味ではありがたかった。
まぁ今は考えても仕方ない……か……
現実逃避ということは重々承知していたが、それでも今は少し何も考えたくなかったので、ただただ火が燃える様子を静かに見つめていたかったが、やることがあったので俺は作業を始める。
素早く台車のリュックから紙とペンを取り出して気を込めながら文字を書く。
そしてその紙を台車に貼り付けて、認識阻害の術を発動する。
これで今度台車を見るやつは、台車をあまり意識できなくなる
光る台車と言うことでかなり目立つので、かなり強力に術を唱えておいた。
これで少しは目立たなくなるだろう。
すでに見られた連中にはあまり効果はないが、増えないだけマシである。
術を強力に唱えたのは他にも理由があった。
印刷紙はまじでやばいよ……マジで……
確かこの時代は紙がかなり貴重品のはず。
記憶が確かなら木簡……文字を書くための細長い木の板……が主流のはずだ。
何とか他の連中に見られる前に術を唱え終え……紙はA4印刷紙、ペンは油性ペンのため見られたらそれはそれは面倒なことになる……背後より視線を感じて俺は気づかれない程度に苦笑した。
監視と言うよりも、観察って感じが強そうだな
視線に込められた感情が恐怖や敵愾心といったものではなく、興味の色合いが濃かったので、おそらく俺という不可思議な存在のことを、警戒しつつも興味があるのだろう。
俺は白湯に口をつけて飲み干して、一言つぶやいた。
「飲むか?」
「……いただこう」
おや意外だ。いらんというと思ったが……
陰からこっそりこちらを監視していた関羽に声をかけたら、意外にも拒否されなかったことに驚きつつも、俺は小屋から引っ張り出してきた壊れかけの椀に白湯を注いだ。
「お疲れ様だな」
「……それはお互い様だろう」
白湯を受け取ったからといって全面的に信用したわけではない。
また白湯も俺が飲んでいるから問題ないとわかっているのもあるのだろう。
しかし多少の距離はあれどそれでもこうして話ができるのはありがたかった。
「先ほどはすまなかったな」
「? 真名のことか? きちんと謝罪も受け取った。そこまで気にすることはない。知らなかったのでは無理もないしな」
まぁそれに関しては同意しますがね!!!!
片側ポニーの言葉に神妙に頷きながらも、心の中では心の底から叫んでいる気持ちだった。
真名を軽々しく読んだことは確かに俺が悪いだろう。
先に名乗ってから相手の名前を確認すればよかったのだ。
だがそれでもいいたいことはあった。
真名とか大事にしてるなら……軽々しく人前で呼ぶなよ……
と思うのも無理からぬことだと思いたい。
勝手に呼んだのは俺が悪いが……それでも人前で名前を呼び合っていれば、それが名前であると考えるのは自然のはずだ。
この世界の常識的には普通の名前を確認するのが当たり前なのだろうが……それでも真名を大切にするなら人前で軽々しく呼び合わないでほしい。
まぁ……異世界の人間の俺がいうのもあれだが……
「あの二人が相方だと、苦労してそうだな」
「……否定はしない」
俺の言葉に片側ポニーは実に頭が痛そうに、顔を歪ませて深々とため息を吐いていた。
だがそれでも二人のために己が体を張るのだろう。
この片側ポニーからは実に二人に対する信頼が見て取れた。
当然その逆も。
義勇軍に参加する道すがら、困った人のために体を張るのは容易なことではない。
しかも三人の装備を見る限りではそこまで自分たちにも余裕がないはずだ。
それにも関わらず人のために尽力できて、汚れた幼子を心から安心させた素人娘等は実に好感が持てた。
さすがに何もしないのは……まぁ俺の気がすまんなぁ
「先ほどの詫びに何か俺にできることはないか?」
知らないとはいえこの世界の常識からすれば非常識だ。
殺す気がなかったとはいえ、俺に槍を向けてきた時のこいつの怒りは本物だった。
その怒りをただ知らないですませるのは、正直居心地が悪かった。
「? 先にも言っただろう。別段気にしていないと」
「だがそれだと俺が気持ち悪いんだ。何かあるか?」
「ふむ……何度も断るのも失礼か……。そうだな……」
しばらく考え込む片側ポニーだったが、すぐに顔を上げて一言つぶやいた。
「貸し一つ……ということでどうだ?」
「貸し一つ?」
「そなたが悪人じゃないことはわかったが、それでもまだ信用も出来ない。だからいつかこの時の貸しを返してもらう……これでどうだ?」
またぞろ面倒なものを……
しかしからかっているそぶりは見受けられず、片側ポニーなりに真剣に考えての回答だったようで、俺はそれに対して了承した。
知らなかったとはいえ無礼を働いたのは事実で、俺がそれに対して贖罪したいといったのだから、俺がそれを断るのもおかしいというものだろう。
もちろん、あり得ない内容を要求された場合は断るが、それについては心配ないだろう。
まじめなやつだしな……
そこからは別段話をするでもなく、ただ静かにたき火をして夜を明かした。
そして空が白みだした頃に……他の二人も起き出してきた。
「おはようなのだ! 愛紗、おにいちゃん!」
「おはよう、愛紗ちゃん、刀月さん」
「おはようございます、桃香様。鈴々も」
「おはようさん」
四者四様の挨拶を交わす。
先に三人は村へと報告に向かってもらった。
俺は小屋に残って未だ気絶させている盗賊たちの見張り番だった。
幼女はまだ眠っていたが、しかし俺と盗賊の男しかいない空間に置いておくわけにはいかなかったので、片側ポニーにおぶってもらい村へと向かっていった。
そしてしばらくして帰ってきた。
幼女も起きたようで、素人娘に手を引かれて歩いている。
しかし……三人とも悲痛な表情をしていた。
「声が出ない?」
「うん。何度か言葉を発しようとしてるんだけど……声が出せないみたいで」
「様子から見て元々声が出せないようではないようなのだが……」
まぁ精神的な問題だろうな
救出したときの状況から察するに、考えるまでもなかった。
本当にひどい状況だったのだ。
正直俺が数時間助けるのが遅れたら、おそらくこの子も死んでいただろう。
幼い故に、まだ生命力そのものはあるため、何とかなった。
だが心まではどうにも出来なかったのだろう。
まぁこの時代だと、まだ心の病とかはわかってないだろうが……
「おそらく、あまりにもひどい出来事が起こったために、心を閉ざしてしまったのだろう」
「心を……閉ざした?」
素人娘が本当に心配そうにしながら、言葉を繰り返していた。
俺はそれにうなずきつつ……簡単に説明した。
「あまりにも心に負荷をかけてしまったのだろう。故に体にその無理が顕れてしまっているというところだな」
「そんなことがあるのか?」
「そこを信じる、信じないは任せるが……ともかく今は一時的にしゃべれない病にかかったと思えばいい」
医術はある程度かじったが、当然専門家ほどの知識があるわけではない。
だがそれでもこの子の心が癒えなければどうにもならないだろう。
というか……連れて帰ってきたのは……
「んで、この子を連れ帰ってきたのは……養う余裕がないと言われたのか?」
それしかないと確信して言ったのだが……予想通りのようだった。
三人が気まずそうに顔を伏せてしまった。
今は貧しい時代だ。
いくら幼子とはいえ、声が出せなくなった子を養うほど余裕はないだろう。
かといって我々としては放り出すわけにもいかず……当然結果は決まっていた。
公孫賛のところまで一緒に行くことになった。
男を恐れているのはわかっていたので、素人娘に手を引いてもらう。
先頭を片側ポニー、後ろに素人娘と幼女。
そのだいぶ後ろを俺の台車が続き……俺の右手には盗賊たちを縛った縄が握られていた。
問題はないと確信していたが、遊撃隊としてちみっこを自由位置に指定した。
このような隊列……隊ではないが……で、俺たちは公孫賛の領地へと向かっていた。
雨でなかったのが実に幸いだったと言っていいだろう。
最初こそ連行されるのを心から嫌がって逃げだそうとして怒った盗賊たちだったが……その怒鳴り声に幼女が怖がったので、俺が全員の腹を悶絶するが気絶
「もう一度幼子を怖がらせたら……両手両足ちぎってその辺に捨てるぞ?」
ちぎってというのは文字通り握りつぶすことだ。
その言葉が嘘ではないと証明するために……俺は気力を用いて一抱えはありそうな樹木に右の手のひらを添えて、そのまま指を食い込ませて樹木の真ん中に穴を開けた。
さらに左手には自らの頭ほどの岩を持ってそれも同様に握り砕く。
さすがの力に盗賊たちだけでなく、三人娘たちも絶句していた。
故に縄につながれた盗賊たちはビクビクとおびえながら……俺の後をついてきていた。
あ~~~~~面倒
たまに幼子を俺の台車に寝かせて休ませつつ……その際は俺ではなく片側ポニーが台車を引いて、俺は離れていた……ほぼ休みなしで歩き、何とか数日で公孫賛とやらがいる領地へとたどりついた。
いかがでしたかね?
次の話あたりから刃夜の肉体的な性能の本領発揮です
う~ぬ
続き書いているのだが、端役の原作キャラの話を細かく書くべきか悩み中