荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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遅れまして申し訳ない
いやぁ、新しい刀買ってしまって
それを運搬するための刀入れを作るのに裁縫してたら楽しくってw
色々作ってたら楽し買った物でw
そのおかげで左手人差し指の指先がタコみたいに成ってしまって感覚が変な状態にw

話の内容については今回も私の親友、TT氏に助力を請いました
相変わらず便利キャラだなぁ
中身は個人的に良くできてはいると思います




餌付け

「お初にお目に掛かる、刀月殿。私は趙雲。この砦の総指揮を任されている者だ」

「……あ、失礼。性は入寺、名を刀月と申します。先ほど迎えにあがっていただいたのがまさか趙雲様とは。知らぬ事とはいえ失礼しました」

 

一瞬言い淀んだ後に、何故か少しだけ視線を下げてから私の目を見てくる。

その動きでどこを見たのかはすぐにわかったのだが……その視線とその一瞬の沈黙が、非常に気になった。

 

……初めての反応だな

 

動きやすいという意味合いも多いが、この服装は非常に役に立つ服だった。

初対面の男は、大概私の体を見てから顔をゆるめる。

その時点でどんな感情を抱いているのかすぐにわかる。

女の将であったとしても……侮蔑な視線を向けてくればそれだけでも十分人柄を謀る材料になった。

だが……今回の視線は今まで覚えたことのない反応だった。

 

……なんだ?

 

見たのは間違いない……だがそれだけだ。

その後の感情が……一切相手から漏れてこない。

あまりにも「無」だった。

初めての事で逆に私が困惑した位だった。

 

「お初にお目に掛かります、刀月様。私は黄忠と申します。援軍に応じてくださって、誠にありがとうございます。是非お力を貸してください」

「……あ、失礼。ご丁寧に。刀月と申します。力になれるように頑張ります」

「ご謙遜を。朱里ちゃんの書状にも刀月さんの事について書かれておりました。是非ともお願いしますね」

 

そしてそれは紫苑に対しても同様だった。

黄忠、真名を紫苑。

蜀に入る前からこの近辺の地を治めていた武将だ。

弓においては間違いなく蜀で随一の腕前だ。

また知にも長けており、軍師としても仕事をしてくれる。

その紫苑の特徴は……妖艶さだった。

蜀では将の中で唯一契りを交わして、一人の女児をもうけている。

夫には先立たれてしまったが、年上という事と、未亡人故の艶があり……また何よりも母性溢れる実に女らしい女だ。

兵が馬鹿話で良く抱いてみたいという話を耳にするが……あの乳を見れば納得だ。

私も男であれば間違いなく求愛しているだろう女性。

しかし刀月はその紫苑を前にしても……私と同じような反応だった。

何故か胸を一瞬だけ見て一度固まって……その後は何故か完全に感情が露出しなくなる。

 

何も感じてないのか?

 

感じてないからこそ、表に出てこない。

その可能性はあり得なくはない。

だが胸に対して反応している以上、それはないと思えた。

 

そうなると……逆に完璧に隠しているのか?

 

一瞬男色家ということも考えたが、それにしても感情の露出がなさ過ぎる。

これほど完璧に感情を隠すのは私では無理だ。

それだけでもこの男が異様なのがよくわかった。

 

「おにいちゃん! また何かご飯つくってなのだ!?」

「張飛。それは後で作ってやるけど……少しは将としての自覚を持てよ」

「刀月様! ご無沙汰しております! お元気でしたか!?」

「おう、久しぶり。義勇軍以来か? 少しは出世したか?」

「はい少しは! 刀月様、またごはんを食べさせてください!」

「義勇軍出身のお前らは、挨拶の次に言うことはそれしか言うことないのか!?」

 

さすがに名前までは覚えてないようだが……義勇軍から親しくしている様子の奴もいるようだ。

これは俄然に興味を抱いた。

 

……それも気になるが、勝負も出来たらよいのだが

 

愛紗を軽くあしらったという実力。

そして、恋を圧倒したことと、恋と戦っていたときの異様な力。

是非とも武を交えてみたいと思っていた。

故にこそ……感情を露わにしない以上に、何故戦わないのかが気になった。

そんなことも考えるが……まずは目先のことを考えなければならない。

今もっとも困難な状況に陥っているのだ。

援軍が一人のみというのは心許ないのは事実なのだ。

兵の士気が高まったというのは嬉しい誤算だったが、ともかく敵がもう一度攻めてくる前に作戦会議をしなければならない。

そして状況を説明した刀月の第一声が……

 

 

 

 

 

 

「なんともいえんなぁ」

 

それが現況を話されて発した俺の返答だった。

 

「できない?」

「いや出来ないと断言はしないが……あのな呂布? お前は俺をなんだと思ってるんだ?」

「……ふしぎな、ひと?」

「……まぁそれは否定できないが」

 

結構切羽詰まっている状況のはずだというのに……この娘が絡むと無駄に和やかになってしまう気がしてならない。

それは俺だけでなく呂蒙に尾行娘も同じで……驚いたことに蜀の連中も同じ様子だった。

特に背丈の高い妖艶な女性……雰囲気と衣服が褐色妖艶と似ている……の黄忠がひときわ入れ墨娘に対して庇護欲を覚えている様子だ。

今も入れ墨娘に向ける笑顔が……こう非常に母性愛溢れる笑みだった。

 

しかし……本当に並行世界なんだなぁ……

 

趙雲に黄忠。

どちらも有名な武将だ。

この二人は知っていた。

といっても俺の知識は以下略で、基本的に友人とやったゲーム程度の知識しかない。

趙雲はゲームにも出てきてる上に主人公扱いだったので、相当強い程度は認識している。

黄忠もゲームに出てきているが老将だったはず。

 

いや確かに他の連中よりは年上っぽいが……この見た目で老人とは思えないしな……

 

ぶっちゃけ非常にエロい。

乳のでかさも相当だが……それ以上に驚きなのが脅威の胸囲をしているのに、谷間が丸見えになる菱形の切れ込みが服に入っていて、真ん中が丸見えだ。

褐色妖艶も同じく真ん中に菱形の切れ込みはあったが、まだ小さめの切れ込みであり胸の肌が露出している面積は小さかった……が、こいつのは谷間が丸見えだ。

でかい乳房だというのに、そのでかい乳房の谷間を完全に見える隙間が空いている。

どうしてこんな衣服で歩いているのか……正直理解が出来ない。

また未亡人らしく、娘が一人いるらしい。

老ではないにしろ年上なのは間違いなさそうだった。

時代をさかのぼればその分年齢の感覚も下がっていく……日本の平安時代の平均年齢は貴族で30歳、40歳ともなれば老人扱いなのだ……ので、もしかしたらこの妖艶寡婦(かふ)……黄忠……もこの時代では老人なのかもしれないが、俺からしたら20台は十分若い。

しかもこの体に顔、艶に未亡人故の妖しさ……実に男が惹かれる魅力がある。

 

 

 

寡婦(かふ)

 未亡人の意味。古代中国では夫に先立たれたら妻も後を追うみたいな感覚だったのだが、あえて後を追わないことを自称する謙遜だった。昨今では自称の意味合いが薄れ、一般的な他称として用いられている(wikiより)by作者

 

 

 

趙雲についても同様で、こちらは左を前にしてあわせている、和服を改造したような感じのへんてこ衣装。

胸も上部分が丸まる開いている上に、こいつもそこそこでかい。

衣服の形状から……まさに今にもこぼれそうな感じで非常に目のやり場に困る。

 

あぁ……性別反転に慣れてきた自分が嫌だ……

 

そしてそれ以上に、衣服の奇抜さになれ始めている自分がいるのが、少し思うところがあった。

和服もどき……趙雲……の衣服も、呉の連中からしたらまだ結構おとなしい方なのだから笑えてしまう。

尾行娘はともかくとして、呂蒙も意外に……尻回り……肌が出ている。

というか二人ともふんどしだけで、ズボンなりスカートをはいてないので足の付け根どころか見ようによっては尻が見えるのだ。

上半身の露出は他の呉の連中に比べればましな部類だが……非常に派手なのは間違いない。

しかしその程度で乱れるほど未熟ではない。

だがある意味で乱れてしまう要因があった。

趙雲、黄忠。

この二人はどちらも男だ。

 

俺の世界では……

 

俺の知識は以下略なので、詳しくは知らないが男だったのは間違いない。

知らない武将ならば何とも思わないのだが……趙雲はイケメン、黄忠は老将というイメージが俺の中で定着しているので、普段の連中よりもどこか感情抑制に少し手間取って、変な印象をもたれたかも知れない。

 

まぁいいか……

 

そんな俺の感想は置いておくとして……ともかく俺が呼ばれた理由を確認し、入れ墨娘だけでなく蜀の人間も交えて会議を行った。

そして入れ墨娘からの依頼が……書状にも書いてあったとおり、象の対処をお願いしてきた。

そしてその対処については……完全に俺に丸投げだったのだ。

 

「とーげつ。おっきいのを、どうにかして」

 

である。

 

どないせいっちゅ~ねん

 

といいたい気分である。

確かに老山の力のおかげで動物に懐かれやすくなったが……それでも何でもかんでも好かれるわけがない。

俺が面倒を見ない野生動物達は、普通に俺を襲ってきたりしている。

また龍脈を司る力を有している老山の力も、四六時中発動していることなんぞ出来ないし、しようと思ったこともない。

正直な話、どうなるか完全に未知数といえた。

 

「あの刀月様。本当にどうにも出来ないのですか?」

 

呂蒙も俺が象をどうにか出来ると思っていたのか、それとも膠着している状況を打破するための希望があると思ったのか……俺に確認をしてくる。

俺の出鱈目加減をよく知っている呂蒙ですら縋ってくるので……本当に結構やばい状況なのかもしれない。

 

まぁ……象ってだけででかくて怖いのに、それが戦用に調教された象が襲ってきたらなおさら怖いか……

 

「うーん。正直俺もわからん。呂蒙はよく知ってるだろうが、俺自身動物は好きだし、動物からも好かれやすくはある。だが曲がりなりにも敵が攻城兵器として調教した動物なのは間違いないだろうし……相対しないと何とも言えないなぁ。まぁたぶんどうにかできるし、どうにかするわ」

 

戦闘には参加しないが……象をどうにかする手段はいくらでもある。

おそらく動物なので餌付けでどうにか出来る気がする。

それに最悪は殺気をまき散らせばどうとでもなる。

しかし厄介なのが数なのだ。

象の問題を除いたとしても、相手の数は把握しているだけでも五万を超えているらしい。

こちらは一万を少し上回った程度。

むしろ砦に籠城しているとはいえ、象を相手にしながらよくぞ持ちこたえた物である。

 

「大きな動物もそうですが、地の利が完全にあちらに有利に働いていて、迂闊に動くことが出来ないのです。しかもあまり抵抗をせずに籠城だけしていると、近隣の村なんかを襲うので、気を休める事が出来ません」

「さらにいえば、討って出ようにも森林故に身動きがとりづらい。しかも森で進軍していると体調不良を訴える者が多くてな。地の利と体調不良が合わさって、討って出ることも難しい」

「なるほど」

 

妖艶寡婦と和服もどきがこの地でもっとも長くいる。

そのため補足説明も行ってくれた。

何というか……言っては何だが本当に蛮族という感じのイメージがぴったりになっている。

 

まぁそれはこちらの都合だけどね~

 

しかし南蛮からすればこちらは侵略してきた外敵でしかない。

自衛のために武力を行使するのは当然といえる。

だがそこで不思議なのが、数、象という強力な質、あげくに地の利まで揃っていて……何故膠着しているのかが謎だった。

確かに砦故に攻めるのは困難だろうが、それを跳ね返すのが象のはずなのだが。

 

「こちらとして唯一の救いなのが、敵の攻撃が突撃だけということなのだ」

「……マジで?」

「まじで? どういう意味だ?」

「失礼、趙雲殿。突撃だけしかしてこないというのは本当ですか?」

「あぁ」

 

なるほど……それなら膠着も理解できる

 

それなら砦がある分こちらが有利だろう。

象についても入れ墨娘が抑えているのでそこまで脅威になり得ていない。

膠着するのも無理はない。

だが、先ほどからすれ違っている兵士達を見れば……こちらに余力があまり残されていないのはすぐにわかった。

心身ともに疲労しているのがよくわかった。

しかも援軍も俺だけだ。

俺のことをよく知っている呉の連中ならいざ知らず、この砦の主戦力である蜀の連中にはそこまで大きな影響力はない。

となると……やはり俺もそれなりに仕事をしなければ、さすがにまずい状況だと言うことだろう。

 

まぁ……象はどうにかしようかね……

 

象がどうにか出来るかは謎だが、体調不良については問題解決出来るだろう。

それだけでこちらとしては討って出る事が出来るはずだ。

 

「まぁともかくあちらが攻めてきたらこちらも対処せざるを得ないでしょう。戦闘に加わることは出来ませんが……まぁ象については何とかします」

「出来る……と考えて良いのだな?」

「それはもちろん。なんとかします」

「……わかった」

 

総合指揮官として「出来るかもしれない」という希望的観測に縋るのは悪手なのだが……それほど余裕がないということなのだろう。

ずっと閉じこもってろくに体を動かすことが出来ず、未知の巨大な生物の恐怖に晒されていれば士気が落ちるのも無理からぬ事。

しかも援軍も俺一人のみ。

呉の援軍も数が多いわけではないので焼け石に水だ。

この状況では……さすがに俺も動かないわけには行かないだろう。

 

……とりあえず荷物は全部認識阻害をするとして、得物はねじり金棒とコンバットナイフに木刀かねぇ

 

三国の歴史にあまり介入はしたくないのだが……ここには呉の将も多くいる。

呉の連中に関しては……あまり大けがをされても俺としても寝覚めが悪い。

不殺は破らないとしても……少し武力的に手を貸すこともやむなしだろう。

 

まぁ別段封印されている訳じゃないから使えば良いんだろうが……

 

そんな事を思いつつ、俺がどう動くべきかを、会議を行いながら考える。

とりあえず象を俺がどうにかすることが出来るという前提の元、会議が行われた。

これで駄目ならば最悪は撤退も考慮に入れなければならないようだ。

 

あまり気軽なことは言えないが……どうなるかな?

 

不安は残るが……最悪は殺気で動きを止めることは出来るはずだ。

そして俺が別個で警戒しなければならないのが……黒幕の連中だ。

以前は森の中で仕掛けてきた。

今回は森林というよりも……密林と言っていい感じだ。

人目にも気付かれにくいために……何か仕掛けてくることも考慮しなければならないだろう。

 

まぁともかく……怪しまれない程度には動くかね

 

同盟国といっても他国だ。

普段通り好き勝手動くことは出来ないだろう。

呉であれば王である褐色ポニーにある程度好き勝手やらせてもらえるのだが、蜀でそれが出来るとは思えない。

俺の行動で同盟関係に亀裂を走らせるわけにもいかない。

 

魏との決戦前に……何か問題を起こすわけにはいかないからな……

 

俺が歴史的に読めるのはほとんどない。

俺の知識は以下略なので、呉と蜀が同盟を結ぶことと、赤壁の戦いが起こること程度しか知らない。

そしてそれしか読めないため……それにしか布石を打っておらず、またそれ以外に手のだしようがない。

うまくはまることを祈るしかない。

 

とりあえずまずは目先の事か……

 

やることが普段よりも面倒な事になっているので、少々めんどくさかったが……それでもやらないわけにも行かないので、俺はとりあえず今後どう動くのか方針を頭の中で固めた。

軍議については守るべきことだけではなく、討って出ることについても進められた。

討って出る場合は俺としては戦闘に参加するつもりはないので、そこは明言しておいた。

しかしそれでもアドバイザーとして従軍することまでは否定しない。

そして編成をどうすべきかという話になる。

 

「私が斥候として出させてもらえたら、嬉しいです!」

 

珍しく尾行娘が自発的に提案してきた。

尾行娘としては本領発揮のチャンスなので……是非とも進軍したいといったところだろう。

尾行娘も頑張っていたようだが……鬱憤は溜まっている様子だった。

尾行娘を斥候として出すことに対して計算するが、さすがに進軍中であれば……疑いの目もかけられないと俺も判断出来た。

蜀側も尾行娘の力量を知る良い機会でもあるし、役に立てば信頼関係も築きやすい。

呂蒙もその辺を理解しているので、止めることも発言を下げるように言うこともなかった。

 

「ふむ、周泰殿の腕前は我らも話には聞いている。その手腕を発揮してくれるのは心強い」

 

総指揮官として、趙雲があえてそう発言してくれる。

尾行娘の微妙な立ち位置を理解してくれているという、あちらからの意思表示だろう。

 

「! ありがとうなのです!」

 

それは尾行娘もわかったようで、実に元気よく返事をしている。

 

「それで……刀月殿としてはどのように考えますかな?」

 

試すような口調でそう言ってくる和服もどきに、俺は内心で苦笑するが……俺は別段軍師ではないので、真面目に手堅く考える。

そして……自分なりの意見を主張する。

 

「指揮官が出て行く訳にはいかないから……蜀より討伐司令官として黄忠殿。斥候に周泰。戦力として呂布と陳宮。大きな生き物の対処を俺がするでどうか?」

 

一番無難編成だろう。

蜀からの兵士がどんな感じで編成するかによるが、こちらはほぼ総戦力だ。

南蛮がどんな感じの連中かはまだわかってないが……一番問題のない編成だと思われた。

俺がいる時点で死ぬことはあり得ないのだが……万一の事も考えて呉の一番偉い人間でもある呂蒙を置いていくのがもっとも良いだろう。

 

「ふむ……確かにそれがもっともいい編成か」

「周泰を先行させれば相手を的確に捉えてくれるはずだ。また最悪そんなに強くなければ……周泰に捕縛させるのも悪い手ではないと思う」

 

以前の訓練を鑑みればあながち間違いでもない。

あちらとしてもこちらとしても被害が出なくて実にスマートな考えと言えたが、尾行娘を単品で出撃させられないもどかしさが、何ともいえなかった。

と、真面目に考えているというのに……和服もどきが俺が切れそうになる発言をしてくれる。

 

「ほう? 噂に聞く土木怪人も幼子には弱いのか? それとも童女趣味は真実なのか?」

「趙雲殿? 次それ言ったら侮辱したと捉えて正式に抗議するからな?」

「何だつまらん。手合わせしてくれないのか?」

「喜ぶじゃん。意味ないだろ」

 

こいつも戦闘が大好きな奴なのはそれとなく察していたので……戦闘については入れ墨娘に一任しよう。

というかその辺まで相手してたら面倒でしかない。

俺としてはそんなに何かをするつもりはなかった。

しかしそこで一抹の不安を覚えるのが、片側ポニーと仕合の約束をしていることだ。

良くも悪くも最低限一回は勝負をしなければならない状況に陥っているので……それを見て闘志を燃やした連中が襲いかかってこないか心配だった。

 

まぁ今はとりあえずいいや……

 

問題の先送りは良いことは一つも生まないのだが……いま考えるべき事ではないので俺はとりあえず目先のことを考える。

そしてもっとも重要な事を伝えなければいけないことを伝える。

 

「以前に行軍したときに腹を下した兵が続出したといってましたね?」

「はい。それが本当に問題で。水に毒があるため、南蛮はやはり野蛮な土地だと騒ぐ兵もいて……迂闊に動けなくなりました」

 

当時の事を思い出しているのか妖艶寡婦が苦々しい表情をしている。

確かにこの時代では……そう思うのも致し方ないことだろう。

討って出てどうにかしなければ……この地に留まり続けることになる。

俺としてもさっさと本拠地である呉に戻りたいのもあるので……この地での足踏みするのも避けたい。

故に、未来の知識を披露した。

 

「毒ではないですよ。水の中にいる寄生虫が悪さをしているだけなので、決して毒ということではないです」

「きせいちゅう? 虫ですか? ですが虫なんて入っていなかったのですが……」

「目に見えないほどの小さな虫が悪さをしているので。また他にも細菌なんかも悪さをしているので、俺の指示通りの物を作っていただきたい。濾過装置というのですが」

 

わき水が悪さをするわけがない。

わき水に含まれる人体に害のある物が悪さをするのだ。

だが植生、気候、文化……あらゆる物が違うために目に見えない物は、自分たちが理解できない何かが悪さをしていると信じてしまうのだろう。

実際は科学の力でどうとでもすることが出来るのだ。

 

「構造的には樽の底に穴を開けて、下から順に、小石、木炭、砂か砂利、そして目の細かい布を設置して上から水を入れて濾します。それともっとも重要なのが煮沸することです」

「煮沸……ですか?」

「虫やら細菌というのは熱に弱いので。ですから行軍には食事以外にも薪が必要になってきます。また暑さもありますので、食料が駄目になりやすいので短期決戦がよいかと」

「ふむ……なるほどな」

 

寄生虫やら細菌のことを突っ込まれては面倒だったが、その辺は何もいってこなかったので助かった。

疑問よりも利を見る方に重点を置かざるを得ないといったところか。

後は純粋にさっさと戦を終わらせたいのだろう。

俺の意見が採用されて、討伐隊の編成は妖艶寡婦、軍師としてパンダ帽子、斥候に尾行娘、武将として呂布で部隊が編成された。

俺もアドバイザーみたいな立ち位置で従軍する。

薪が不足して体調不良者を出しては俺の立場が面倒なことになるので……薪を使用しつつ紫炎の力を使用することになるだろう。

 

薪節約だな……

 

あとは細々したことを決めたり、情報共有も行った後に、一度解散となった。

解散となってから俺は許可をもらってから砦の中を見て回り、さらに秘策も用意することにした。

変な疑いをかけられてもあれなので、誰かに付いてきてもらうようにお願いした。

一般兵にお付きになってもらって……平はこの砦には不慣れ……一通り地形を頭の中にたたき込んでおいた。

そしてそれと同時に……敵の兵が砦から見えて、絶句した。

 

「……もしかしてあれが敵兵なのか?」

「はい」

 

お付きの兵士に確認をすると……嫌なことに肯定をされてしまった。

斥候というか、こちらを見張っている人間が、見た目完全に幼い子供でしかなかったのだ。

しかも珍妙な格好をした。

ビキニ的な感じで衣服を纏っているところから……おそらく女なのだろう。

男もいるようだが、こちらも幼い子供という感じ。

しかしびっくりなことに、気はある程度成熟している。

少年兵でも少女兵でもない可能性があるのだ。

つまり……あんな愛らしい見た目で身体的には成熟している可能性もあるわけだ。

 

あの見た目じゃそら戦いにくいわ……

 

戦闘時に気配やら表情が豹変する可能性は捨てきれないが……子供と見まがうような見た目では攻撃しづらいだろう。

少年兵がめんどくさいということは、俺自身が一番よくわかっている。

まさか逆に子供の兵士のような奴と、異世界にきてまで戦う羽目になるとは思わなかった。

 

まぁ初めてじゃないけどさぁ……なるべく戦いたくないな……

 

偽善的な意味でも、武を封じている意味でもだ。

精神的にくる物があるので……なるべく避けたかったが、現実に敵としているのなら何とかするしかない。

偽善だが、俺が直接戦うわけではないということが唯一の救いと言うところだろう。

話を聞いた上での作戦がうまく行けば……おそらく戦うことなく争いは終わる。

というか敵が子供の兵士っぽく見えてしまった以上……終わってくれることを切に願った。

そう考えながら過ごして夜になった。

さすがに何もしないわけにも行かないので……俺は料理人として仕事を行った。

といっても籠城している状況なのであまり料理らしい料理を振る舞うことは出来ず、ともかく調理員として仕事をするくらいだったが。

状況は兵もわかっているのだが、それでも俺の料理を食べられないのは残念がっており、無事に戦が終わったら飯を振る舞ってくれと俺の料理を食ったことがある奴がそう言ってきた。

 

死亡フラグ……

 

と思いつつも、明日に希望を持つのは悪いことではないので、俺はそれに対して苦笑しながら頷いておいた。

出来れば士気を挙げる意味でも今すぐ料理を振る舞ってやりたかったのだが、まだ敵が攻めてくるかもしれない状況下で、宴会……俺の料理はそうなるパターンが多い……なんぞ出来るわけもない。

色んな意味で速く終わらせてしまいたい物である。

とりあえず一通り地形と砦の構造を頭に入れて、秘策を準備してから俺は部屋に篭もる。

一応武将ではないので見張りを免除してもらった形だ。

だが緊急事態の場合はその限りではないことを言い渡された。

 

まぁそらな……

 

象が夜行性だったかどうかは覚えてないが……たぶん違う気がするのでおそらく大丈夫だろう。

警戒するとすれば黒幕の連中であり、また俺が部屋の都合上完全に休まる事が出来ないのが、面倒だった。

だが明日の秘策を使用する意味ではある意味で都合がよかったので……俺は能力を使用して行動を開始する。

一通りの準備を終えた後……俺は自分の体質的に熟睡は出来ないので体だけを休めた。

 

 

 

 

 

 

そうして夜が明ける頃になって……森の方で動きがあったので、俺は体を起こしていた。

どうやら敵が動き出したようだった。

しかも気配から巨大な奴も何体かいる。

間違いなく象を使用してきたのだろう。

そのうち呼び出されるのは間違いないが……呼び出される前に行くのも不自然なので俺は部屋の中で柔軟体操をして準備をしながら待機していた。

 

まぁといっても……得物を身に付ける程度しかできないわけだが……

 

秘策は既にいくつかの箱に入れていて準備が完了している。

後は念のため得物を身に付けておく。

暴発しても面倒なので拳銃は当然なし。

ただ明らかに武器と見える物を身に付けていて警戒されてもあれなので、ナイフを忍ばせておくほどにした。

後は水筒やらを身に付けておいてしばらく待っていると……砦がにわかに騒がしくなった。

そして……

 

「パオォォォォン!」

 

鳴き声が聞こえてきたので……間違いなく象だと俺は断定した。

 

さて……行くか……

 

さすがに鳴き声まで聞こえたら動いても良いだろう。

俺は呼び出しがかかる前に箱を数箱持ったまま部屋から飛び出して……見渡せる場所へと行った。

 

普通に象か……

 

異世界ということで少しだけ心配していたが……動物園で見るような普通の象だった。

超巨大だったり、足が四本以上あったり、鼻が一つじゃないことも想定していたのだが……とりあえず問題なさそうだった。

問題があるとすれば……象の上に乗っている不可思議な存在だった。

 

 

 

 

「にゃははは! ぶっ壊すじょ!」

 

 

 

……帰りたくなってきた

 

象の上に乗っている存在……不可思議な生物を見て俺は気が遠くなるのを感じていた。

なんかよくわからない生物だ。

小柄。

猫耳っぽい何か。

武器はハンマーつか打撃武器つか……なんか肉球パンチみたいな巨大な打撃武器っぽい。

背丈は俺の半分ほどなのに、武器は俺と同じくらいの大きさだ。

衣服は毛皮を加工しているのだろうが……なんか上を纏ってない感じがする。

いやなんというか、ローブみたいに肩周りとかを覆ってるんだが……丈が短いせいで胸下くらいまでしか隠れてない。

気配から言って女っぽいんだが……何でか知らないがそのローブの下には何も付けてない様子だ。

腹は丸見え。

腰も超ミニのスカートのみ。

他にも同じような格好をしたのが象の後ろやら象の上に乗っているが、ひときわ良い格好をしており、武器も他と違って手が込んでいる……他のやつは本当にただの棍棒……ので、おそらく先頭の象に乗ったのがリーダーだろう。

無駄に装飾が立派な象に乗っていることからも間違いないだろう。

 

……まぁともかくまずいから行くか

 

今まで抑えていた入れ墨娘がまだ出てきてない。

しかし敵も、早朝を狙ってくるぐらいの思考回路はあったようだが、他に戦術らしき物は見あたらなかった。

気配を探っても後方に控えているだけで、自分たちが突撃する番を待っているだけだ。

周囲に散会やら回り込むといった戦略も戦術もあったものではない。

そして今回出てきたのは……あのリーダーらしき存在が関係しているだろう。

 

ま、ともかく……

 

「刀月様! おいででしたか!? あの象たちを何とか!」

「おう、行ってくる。趙雲殿には出陣したと伝えておいてくれ」

「へ!?」

 

近くで俺に気付いた兵が俺に何かを行ってくるが、俺はそれを聞き終える前に城壁から跳んだ。

着地場所はあのリーダーの象がいる前……つまり砦の大門前だ。

象がいてはよほど堀を大きく作っておかなければあまり意味がないだろう。

象の数は10頭ほどだ。

これだけの数を持ちこたえていたのは……間違いなく入れ墨娘のおかげだろう。

 

うまくいくといいけど……

 

さすがに象が相手では被害も甚大になるのが目に見えている。

へんてこな娘は、あれだけ目立つ存在を気付いていながら報告しないのはあり得ないので、おそらく今回初めて攻めてきたのだろう。

今までと同じ感覚で対応していたら被害が甚大になる可能性がある。

さっさと出ておくべきだろう。

 

!!!!

 

地響きの音でいやがおうにも目立つ。

それは狙ってやっているので良いとして……さすがにこの程度では、調教されたであろう象は驚いてはくれなかった。

だが、注目を集めることでこちらに立て直す余裕が出来たために……俺はあえてゆっくりとした動作で立ち上がった。

 

「にゃ、なんだじょお前は!?」

 

リーダーとおぼしき奴が随分と舌っ足らずな声で吼えてくる。

その声色も子供と同じような感じで……非常にやりづらい。

これでは入れ墨娘が苦戦したというのも、わからないでもない気がした。

 

まぁ俺は直接戦わないから……良いか……

 

まさに偽善。

だがそれでも……自分で決めたことなので俺は武を使わないつもりだ。

故に、俺は特段威圧することもなくゆっくりと立ち上がった。

 

「我が名は刀月。蜀の同盟、呉の客将。南蛮の者達よ。この砦は蜀との境界線。これ以上攻め入るのであればこちらも黙ってはおれん。大人しく降伏しろ」

 

戦いが始まってすらもいない状況でいきなりの降伏勧告。

普通に考えればあり得ないことだが……俺という存在がいるのはなかなかに大きな障壁となっていると考えて良いだろう。

そして相手の突破力にして最大の力を持つ……象を潰す。

 

ただしつぶし方は……俺的にだがな……

 

今のところ俺が戦争行動において武力を行使したのは一度だけ。

それも黒幕の連中が関わったときのみ。

黒幕の連中が関わらない限りは、この世界の問題でしかないので、俺としても積極的に関わりたいとは思ってない。

故に……俺は昨夜用意しておいた秘策を取り出した。

それも厳重に警戒していて……俺はこの時のために、わざわざ砦に着いたその瞬間から、風翔の能力を使用して、匂いが外に漏れないように気をつけていた程だった。

 

 

 

とくと見るが……現代科学が作り上げし、品種改良の秘奥義を!

 

 

 

無駄にテンションを挙げつつ……俺が取り出したのは何のことはない。

 

 

 

焼き芋だった。

 

 

 

わざわざ風翔の力を使用して、匂いが南蛮の方に向かうのを完全にシャットダウンした物だ。

詳しいことは知らないが……確か象は非常に嗅覚が優れていたはず。

確かあの犬の二倍の嗅覚を有しており……一キロ先のわき水の匂いを感知するほどだという。

故に。砦に到着して話を聞いたその時から……俺は風翔の力で持ってきていた食料の内でもっとも甘みの強い食物の匂いを閉じこめていた。

調理する時……といっても熾火でじっくりと焼いただけだが……も匂いが漏れないように煙も遙か上空まで飛ばして霧散させたほどだ。

さらにだめ出しで、俺は僅かに老山の力に少しだけ魔力を込める。

殺意も圧も出さない。

ただ老山の力を少しだけ解放したに過ぎない。

宿しているだけでもそれなりに安心を覚える老山の力。

それを少しでも解放すれば……動物としてはこれほど安心できる物はないのだろう。

故に……

 

「パォォォォ」

 

戦用に調教されたとはいえ、その程度に負けるほど小さな力ではないのだ。

先頭にいた一番立派な装飾が施された象が、俺との距離が一番近いこともあって興味を示して……俺に近寄ってくる。

 

「にゃ、にゃにゃ!? どうしたじょ祝融!?」

 

一番立派な先頭の象に乗ったへんてこな獣っぽい幼女……最早「獣妖女」とでも言うべき存在が驚いている。

しかし祝融と呼ばれた象に、さらに後方にいる象たちも俺に近寄ってきて……俺が手にしたさつまいもに鼻を伸ばしてくる。

ちなみに昨夜焼いて焼き芋にした物だが……熱そのものはさましている。

焼き芋を与えて良い物か判断に悩むが……一つくらいであれば問題はないだろう。

 

……数が足りてよかった

 

一応相手が象と言うことでそれなりの量を持ってきているのだが、それでも数が少ないと意味がない。

幸いやってきている象は全部で十頭であり、一頭二個程度であれば与えることが出来そうだった。

 

「ええい! 戦うじょ!」

 

獣妖女がそう吼えるが……祝融に象は動かない。

それどころか……俺が祝融が伸ばして来た鼻にさつまいもが迫ると、一度上に上げて言葉を口にする。

 

「待て」

 

ただ一言口にしただけ。

それだけだ。

しかしそれだけで……全ての象がぴたりと動きを止める。

さらに俺は空いている左手を右手と同じようにゆっくりと振り上げて……万歳のポーズをする。

非常に滑稽な姿勢だが……すぐに「座れ」という思いを込めて腕を左手をゆっくりと下げる。

すると……全ての象が跪いた。

 

「にゃ! にゃんだ!?」

 

これには南蛮の連中だけでなく、砦の連中も驚いているのがわかった。

そしてそれは……実は俺も同じだったりする。

 

老山の力って……意識して使ったことなかったがこんなにすげーのか?

 

動物に好かれやすくなった程度は認識していた。

気候が感知しやすくなったり、気配を敏感に感じられるようにもなっていた自覚はあった。

だが、龍脈の力を司ると言っても、他の古龍と違って具体的な現象とも言える属性がないので、魔力の炉心ぐらいにしか考えていなかったのもあって、老山の力として利用してことはなかったが……あまりにもうまくいく物でびっくりした。

 

いや、マジで驚いた……

 

ある程度予測していた俺が驚くのだから……周りの連中からしたら驚くのは当然であり、しかも自らが使役する象が自分たちの言うことを聞かなくなれば警戒もするだろう。

 

「き、きさま、一体何者にゃ!?」

 

そんな中で動けるのはやはり大将としてそれなりに強いからか、ともかく獣妖女が象の上から飛び降りてきて、俺の前に立ってへんてこな武器……肉球ハンマーって感じ?……を振りかざして俺に向けてくる。

しかしその程度は俺としては怖くも何ともないので……ただ普通に答えた。

 

「さっき言ったろ。俺は刀月。呉の客将」

「ご? しょくの人間じゃないのかにゃ?」

「蜀とはまた別の国だな」

「ふにゃん! ならお前も美以達がおいしい物を食べるのを邪魔する敵なのにゃ!?」

 

あぁやっぱり……そんな感じなのね……

 

あまりにも予想通りだったので……俺は二つ目の秘策をとりだした。

空になっている右手を懐に忍ばせ、文字通り取り出したのは……何の変哲もないケーキである。

これも匂いをある程度シャットダウンしていたので……俺はそれも解放した。

するとすぐそにいる獣妖女がいち早く反応して……俺の右手に目が吸い寄せられる。

 

「にゃ!? なんだじょその良い匂いのする物は!?」

 

獣妖女がそう言ってくってかかってくるが……俺はそれを華麗にスルーする。

そして、非常にゆっくりとゆったりとして動きでそのケーキを口元に持って行き、芝居がかった仕草でゆっくりと口に含めて咀嚼して飲み込み……一言。

 

「うまい」

 

ただそう言った。

実際俺が作った物なのでそれなりにうまかった。

 

「うまいのかにゃ!?」

「まぁ俺が作った菓子だしな」

「かしっていうのにゃ!? 美以にもよこすんだじょ!」

「でもこれ完成品じゃないからなぁ」

 

正しくは改良の余地というかバリエーションを増やせるという物で、完成してないわけではない。

しかし、見たこともないおいしそうな物が未だ完成品じゃないというのは、南蛮の人間からしたら驚愕だろう。

俺の言葉を聞いた獣妖女も、予想に違わず驚いて……目を見開きながらも、興味津々といった感じで俺の顔を見てくる。

 

「そんなにうまそうなのに完成してないんだじょ!?」

「そうなんだよ。これに南蛮の果実が加われば完璧なんだよなぁ……」

 

これについては昨夜……部屋に篭もった後に俺は霞皮の能力を使用して夜の森へと一人で密かに出かけていたのだ。

そして匂いと植生を頼りにしながら走り……俺は目的の品を見つけていた。

 

黄色くて細長い果物……バナナである……。

 

 

 

まぁバナナがあるとは思ってなかったから、見つけたときは俺もびっくりしたんだが……

 

 

 

南蛮の土地には……現代でもよく見る果物である、バナナにリンゴやブドウなどが普通に自制していたのには俺は普通にびっくりしていた。

 

 

 

※ この物語はフィクションです

少し調べましたが、当時の果物については調べきることが出来ませんでした

ただ南蛮の土地は現実世界における雲南省とされているようなので、そこで栽培されている果物を持ってきました

原作でも普通にバナナあったし、その辺突っ込まないでくれると嬉しいです by作者

 

 

 

ケーキに入れることの出来る果物があれば良いと思って探しに行けば……まさかのバナーナである。

これほど万能果物もそうない。

故に俺はこの作戦を結構したのだ。

 

第一作戦「あまい香りのする品種改良されたさつまいもを焼いて象を堕とす」

第二作戦「ケーキを作って会えて未完成と良い……完成品を作る協力をさせる」

 

この二つである。

バナナの特徴を言うと、すぐに獣妖女が兵糧として持ってきていた物を自らとってきて、俺に渡してくる。

そのため、俺は自分が食べたものとは別のケーキを取り出して、物々交換を行った。

 

「にゃにゃ!? おいしいのにゃ!」

「うん、バナナだ」

 

品種改良がされてないので味は劣るし種もあるが、味は間違いなくバナナだ。

ならば……どうとでも調理して使うことが出来るだろう。

 

「美以さまずるいのにゃ!」

「トラもたべたいにゃ!」

「たべたい……ふぁぁぁぁ」

 

なんかよくわからん三人娘が俺のそばに群がってくる。

まさに菓子に群がる子供そのもので……俺としては苦笑するしかなかった。

 

「もうないんだよ。それに敵に食べ物をあげることは南蛮でもしないだろ?」

「それはそうだじょ! だから美以たちはしょくを倒しておいしい物をもっと食べるんだじょ!」

「でも蜀を倒すと、このケーキを作る俺も蜀から帰らないといけないから、もう菓子も食べられないし、完成したケーキも当然食べられないなあ」

「にゃにゃ!? それは困るんだじょ」

 

……なんか幼子に悪いこと吹き込んでるくそ野郎な大人になった気分だな

 

というよりも、まさにそれになっているので内心で俺は逆の意味で笑うしかなかった。

だがそれでも……五万もの大軍を相手に戦うよりはマシだろう。

故に俺は必死に自分の嫌悪感を抑えつつ……丸め込む。

 

「蜀も南蛮とは仲良くしたいと思ってるんだ。だから戦うのはやめて、交易をするのはどうだ?」

「こーえき? とはなんだじょ?」

「物々交換と一緒だよ。南蛮にある珍しい果物と、蜀にあるおいしい物を交換する。蜀にとっても南蛮にとってもいいことだろ?」

「なるほどにゃ! なら美以達もこーえきをするんだじょ!」

 

よしうまく丸め込めた!

 

しかし俺はあくまでも客将。

蜀の方針を知っているし、素人娘が断るとも思えないが独断をするわけにはいかない。

故に素人娘に話を通して正式に国交を結んでもらう必要性があるだろう。

 

「なら象たちにこの芋をあげるし、さらに残りのお菓子もあげるから今日は帰ってもらっていいかな?」

「にゃ? 今すぐこーえきするんじゃないのかにゃ?」

「偉い人に決めてもらわないといけないんだ。一番偉いのは君だろ? 君以外の人が南蛮の事を勝手に決めたら怒るだろ?」

 

気の大きさから言って、間違いなくこいつが一番強い。

こいつが乗っていた、祝融という名前の象に唯一装飾があることからもそれは伺える。

また俺の周りに群がっている三人娘もそれなりだ。

一番強いのはこの四人だろう。

しかも自分のことを美以と名乗っているこいつは……ぶっちゃけ気の大きさで言えば結構強い。

気の大きさだけでは実力ははかれないが……おそらく呂蒙と戦ったら呂蒙が負けるだろう。

なにげに相当な強さを誇っている。

 

「その通りだにゃ! 美以は南蛮大王猛獲はとっても強いのにゃ!」

 

……あ~~~~~こいつが猛獲なのね

 

あきらめが悪い「男」だったはずだ。

史実では確か七回敗北することでようやく諦めたはずだ。

ゲームの知識しかないのでどうやって七回負けたのかは知らないが……ともかく七回負けてようやく己の敗北を認めた、実に面倒な存在だった。

 

ゲームでも何度も復活して面倒だったしねぇ……

 

それはともかくとして……この人なんだが獣人なんだがよくわからん存在が、猛獲らしい。

そのことで再度機能が停止しそうになるが、俺はそれを堪えて何とか頭を働かせる。

 

「だから蜀の偉い人と一度話をして欲しい。それでいいかな? その間俺としてもどんな果物があるのか知りたいから南蛮を案内してくれたら嬉しい」

「案内したらさっきの菓子の完成品を食べさせてくれるにゃ!?」

 

目をキラキラと輝かせながら、期待の篭もった目を向けてくる獣妖女。

その目があまりにも純粋すぎて……思わず胸を押さえてしまいそうになるがぐっと我慢した。

俺はそれに頷いてから……少し考えて呼び出す人間の名を呼んだ。

 

「黄忠殿!」

「は、はい!?」

 

この状況で自分の名前が呼ばれると思ってなかったのか、城壁の上で驚きつつも俺に返事をしてくれる。

 

「蜀の将として南蛮大王猛獲と話をしてもらえないでしょうか?」

「え!? ど、どういうことですか?」

「それもお話ししますのでどうかこちらまでおいでください。南蛮としても敵意はないようなので」

「わ……わかりました」

 

他国の将を一人敵の大将の前まで呼ぶのは失礼かもしれないが、俺がいるので仮にいきなり襲いかかってきても問題なく対応が出来る。

ただ象が跪いたままでは妖艶寡婦としても話しにくいだろう。

砦から出てくるまでの間に、俺は象たち一頭一頭にさつまいもをあげつつ、下がってもらうようにお願いした。

 

「にゃにゃ! 美以達の象をここまで従わせるなんて! しかも菓子まで作れるから、とうげつはすごいじょ!」

「すごいのだ!」

「ちょうだいにゃ!」

「すごいのにゃ」

 

群がる子供のような連中の相手をする。

何というか……本当に邪気がないのでこっちが戸惑ってしまうほどだ。

そんなやりとりをしていると、妖艶寡婦が砦から一人でやってきた。

兵士達からは護衛に付くようなそぶりを見せていたが、妖艶寡婦がそれを断っていた。

 

「我が名は南蛮大王猛獲なんだじょ!」

「あらあら、実にかわいらしい王様ね。私は黄忠。蜀の将をやってるわ」

 

娘に重ねているのか、それとも相手があほだからか……柔和に笑いながらそんな言葉を妖艶寡婦が言ってくる。

実際先ほどまで開戦一歩手前だったはずだったのに、そんなそぶりすらも見せない。

本当に切り替えの速さが子供のようだ。

ともかくとして俺はどんな状況か説明をする。

といっても端的に言えば、この南蛮達を餌付けした、ないし餌付けする予定としか内容はないのだが。

 

「こうちゅーがしょくで一番偉い人なんじゃないのかにゃ?」

「いいえ。私もこの砦のいる中では偉い方だけど、一番偉い人は劉備っていう人なの。その人に話をしてもらうようにお願いするから、その時またお話しさせてもらって良いかしら?」

「もちろんだじょ! その代わり、おいしい物たべたさせてほしいんだじょ!」

 

その言葉に、妖艶寡婦が俺の方をちらっと見てくるので、俺はそれに頷いておいた。

また別段俺が用意しなくても文化が違うので食事の文化も当然異なるのだ。

普通の食事でも十分興味を引くことが出来る。

何ら問題はないと思えた。

その辺は後で伝えれば良いだろう。

 

一通り話が終えて安心しきっていたのだが……獣妖女からこんな提案が下されてしまった。

 

「さっきの菓子の完成したのを早く食べたいにゃ! だから今から果物を一緒に取りにいくにゃ!」

「あ~~~~~いいよ」

 

一瞬悩んだが友好的になるのはまずいことではないだろう。

そのため俺はそばにいる妖艶寡婦をちらりと見て無言で見て意志を確認し……頷いてくれたので許可をもらって出発することになった。

ただ俺だけではまずいので……

 

「平はいるか?」

「は、はい!?」

 

まさか自分が呼ばれるとは思ってなかったのか、俺が呼ぶと驚きながら慌てて返事をしてきた。

城壁の上にいたようだ。

好都合だったので、俺は象の上にいながら平に指示を出す。

 

「すまんが外に出てきて付いてきてくれ」

「え、えぇ!? 私がですか!?」

「気持ちはわかるが頼むわ」

 

俺のような人間を監視の目から外すのは得策ではない。

身の潔白を証明してくれる人間が必要だろう。

俺の元にやってきた平が獣妖女と挨拶をして……まず最初に俺を、象が鼻で上にのせてくれる。

最初こそ攻撃かと一瞬だけ砦の連中が慌てていたが……特に問題もなく俺が象の上に乗った。

 

「おぉ。いいなこれ」

「そうだにゃ! 祝融に乗れるのはとってもすごいんだじょ!」

 

えっへんと自慢してくる獣妖女に、俺は思わず笑みを浮かべてその頭を軽く撫でてあげる。

するとあちらとしても気分は悪くなかったのか、嬉しそうに喉を鳴らしていた。

 

お前は猫か!?

 

と思うがそれを口には出さなかった。

そして次に平の番になったのだが……怖がってまともに鼻に近づけなかった。

やむを得ないので俺は一度上から飛び降りて、問答無用で平を抱きかかえて象の上に飛び乗った。

 

「えええっぇぇぇ!?」

「暴れるなよ。落ちたら怪我するぞ?」

「で、ですが刀月様!?」

「変なことしなきゃ暴れないって。最悪は落ちても怪我する前に拾ってやるから」

「そう言う問題じゃありません!?」

 

俺の跳躍に耐えてはいたが、どうやら未知の生物は恐ろしいようだ。

それについてはしょうがないが、そこは堪えてもらうことにした。

 

「では黄中殿。申し訳ないが平と餌探しに行くのをお許し願いたい」

「え、えぇ……それはかまわないわ」

 

俺の跳躍力に驚いているのか、妖艶寡婦が驚きながら俺にそう返事をしてくる。

きちんと許可を取り付けて見張りもいるので、俺は半ば観光気分で祝融の背に揺られて森の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「な……なんなんだあの男は?」

 

もう絶句するしかなかったのか、何とか絞り出すかのような声で……そう呟いたのは趙雲だった。

朝に敵襲の知らせが鳴ったと同時に飛び起きて、すぐに得物を持って城壁を駆け上がったというのに……その時には既にほとんど終わっていたのだからそれも無理からぬ事だろう。

途中で感じた凄まじい何かを感じて、思わず動きを止めてしまったのも、事の顛末を見ることが出来なかった要因の一つだった。

それは他の将達も同じで……見張りとして城壁にいた一般兵以外、刀月と猛獲のやりとりを見た者はいなかった。

ただ何とか駆け上がった将達が見たのは……巨大な生き物を跪かせている上に、敵の大将である猛獲と戯れている姿だ。

しかも今までの膠着状態がなんだったのかというように……あっさりと交易による国交を結んでしまった。

状況を確認するために、見張りに出ていた兵士に事の顛末を聞き、さらに残された黄忠とも話をした他の将達だったが……聞いても意味がわからず、固まるしかなかった。

 

「ほ、本当に出鱈目な人なのね」

 

これには当事者の一人と言えなくもない、黄忠も同じ意見のようで頭に手を当てている。

驚いているのは呉の将達もそうだったのだが……しかしこちらはまだ理解できるところが多かったのか、驚きつつも頷いているのがほとんどだった。

 

「さすがは刀月様です」

「流石なのです! お猫様も懐いているから不思議ではないのですが……それでもあんな大きな生き物にも好かれるなんて、驚きです!」

「うん。さすが、とーげつ」

「むぅ。さすがにこれはちんきゅーも驚きなのです」

 

誰もが普通に納得しているのが……蜀としては理解できなかった。

 

一番刀月の出鱈目具合を知っている呂蒙。

なんだかんだ二番目に刀月の事を知っている周泰。

謎のフィーリングで刀月の事を察している呂布。

自らが敬愛する呂布が慕う上に認めているのが気にくわないが、象に少し興味がある……乗ってみたい……のであまり強く言えない陳宮。

特に呂蒙は、ほぼ初対面の動物に好かれる姿を見るのは初めて……村で畜産している姿や、農耕時の牛の操作等は見ているが、初めての場面ではない……なのだが、動物を自在に操ったり、世話をしている姿はよく見ているのであまり不思議に思っていなかった。

そんな呉の将校達を見て……蜀の将達はなんだか可笑しくなって笑うしかなかった。

 

「とりあえず桃香様には……どう報告した物かな?」

「そうね……。報告するのも難しいし、猛獲ちゃんと約束をしちゃったから話をしてくれると嬉しいのだけれど」

「それは……そうだな」

 

黄忠からの言葉に、趙雲も同じ思いだったので否定することはなかった。

説明が難しいと言うこと。

また主である桃香の考え方からして、直接話をしたいと考えるだろう事はわかりきっていたことなのだから。

国の主をわざわざこちらまで呼びつけるのも、通常考えるのであればおかしな話なのだが、相手が一番上の立場の者が話をするといっている以上、上下関係のない状態で他の者が話をするのは褒められたことではない。

それに一度来ることで南蛮の問題がおおかた解決することを考えれば、全く持って無駄足ではない。

いってしまえば無血にて国同士の争いを治めたのだ。

それは賞賛される以外の何者でもなく……また刀月という人間の一端を垣間見ることの出来る出来事とも言えた。

 

存外……優しい男なのだな……

 

蜀としても、刀月という男は当然注目していた。

また蜀のトップで最古参である劉備、関羽、張飛が供に旅をしたことがあるということもあって、噂話や情報を集めている存在でもあったのだ。

趙雲としても、以前の呂布との一騎打ちから個人的に調べてもみたのだ。

その結果として、村人を救ったりだとか、呉でも一般民達と仲良くしている等の話を耳にしていた。

また話を聞く限りでは、今のところ人を殺したことがないとも聞き及んでいる。

今の顛末を見ていた一般兵から聞けば、それが嘘でないことがよくわかった。

 

一人しか援軍がこないので、どうなるかわかったものではなかったが……

 

もしも刀月に対処が出来なければ、本当に撤退も有り得たのだ。

また、趙雲はわからんことだが……もしも今の戦いで刀月が象を止めていなければ、間違いなくこの砦は崩壊していた。

砦が機能しなくなってもおそらく武将がそれなりにいるので退けることは出来ただろうがそれだけだ。

砦は放棄せざるを得なくなり、防衛戦は大きく後退していたことだろう。

 

「むぅいいなぁ! 鈴々も乗ってみたいのだ!」

 

そんな中、素直に自分の感情を吐露している張飛がいて……その無邪気さが色々と考えていた趙雲としては良い意味で気が抜けるものであり、ふっと一度息を吐き出した。

 

あまり考えても仕方ないか……

 

ともかくとして何とか事なきを得たことは事実であり……趙雲趙雲すぐさま行動を開始することを決める。

 

「とりあえず……さすがに今日中には戻ってくるだろうから、果物を取りに行っている間の報告を受けてから桃香様に文を出そう」

「そうね……それがいいと思うわ」

 

同じ蜀の武将として共通認識を作り、念のため進めていた討伐隊の出陣の準備を取りやめるように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

さすがは南蛮。

すげー蒸し暑かった。

だがそれでも俺としては耐えられないことはなかった。

日本の夏は暑いのである。

ただ平が非常に暑苦しそうだったので、鎧を脱ぐように指示しておいた。

森林のど真ん中で鎧を脱ぐのは避けたかったようだが、矢程度なら俺が対応できると伝えると……少しだけ考えて大人しく脱いでいた。

何とか出来ると判断したのだろう。

順応能力が高い奴である。

そして象に揺られながら俺は匂いを頼りに果実を可能な限り入手した。

一日中果物を探すわけにはいかなかったのが、それでも数が多かったこともあって結構な量の果物を採取することが出来た。

なるべく数が多い菓子を作るようにすればそれなりの日数持つだろう。

終始おっかなびっくりしていた平だったが、それでも獣妖女が顔と名前は認識するようになっていた。

俺以外にも顔なじみを作っておくことは悪いことではない。

 

平としたら……災難かもしれないが……

 

象が怖かった場合……今後南蛮に対する大使みたいな役割を任じられた時は大変かもしれないが、俺はその辺は考えないことにした。

俺と平に採取した果物を砦まで運んで、明日また果物を持ってくるので対価においしい物と交換すると簡単に約束をする。

俺が帰ってきたときに迎えにきた……俺と平の報告を聞くため……妖艶寡婦とも少し雑談をしてから、獣娘は嬉しそうに帰って行った。

 

「明日果物持ってくるにゃ! おいしいもの作ってまってるんだじょ!」

「ほいよ~」

 

なんか気が抜ける……実際気が抜けている……感じの挨拶をしてくるので、俺も普通に返事をしておく。

そんな俺の姿を見て、妖艶寡婦が可笑しそうにくすくすと笑い出した。

 

「どうしました?」

「いえごめんなさい。色んなところからすごい人だって話は聞いてたのだけど、こんなに出鱈目なのは予想も出来なかったからつい可笑しくて」

「まぁ俺も今回の件については……俺も途中で思わず頭が痛くなりましたよ」

 

対外的に見れば侵略して来ている南蛮だが、その内容はただただうまい物を食べたいだけという、何とも気の抜ける話だ。

しかも目の前の菓子に釣られてあっさりと釣れてしまうのがもう本当に笑える。

蜀としても、あんな子供のような連中と戦うのは避けたかっただろうから、悪い話ではないだろう。

しかし、いくら最終的に決断しなかったとはいえ、勝手に話を進めてしまったのはわびるべきだろう。

 

「結果的には事なきを得たとはいえ、勝手な判断を下してしまって申し訳ありませんでした」

「そうね。確かに大きな生き物に対する対応はあなたに任せたけど、それでも話をまとめる前に私も呼んで欲しかったわね」

「おっしゃるとおりで。本当に、申し訳ない」

 

というか、今回の案件、大問題と言ってもいい。

いくら俺が素人娘の考えを理解しているといっても他国の人間なのだ。

結果論で全てを語るのはさすがにおかしな話なので、俺としてもこの点は素直に謝るしかなかった。

 

「ですが、私としても、南蛮の人たちとは争いたいとは思ってませんでした。それにおかげで桃香様にとっても嬉しい報告が出来る。こちらについては間違いなくお礼を言うべきでしょうね」

「いえ……」

 

ちんちくりんと同じような手法で丸め込んだのであまり罪悪感はない。

また仮定が間違っていた事は事実だが、それでも素人娘にとってもこの問題解決が最良なのは間違いない。

喜んではくれるだろう。

そして俺としても南蛮の果物が手にはいるのであれば願ったり叶ったりである。

 

とりあえず……何とかなって助かったわ……

 

象がどうにか出来るのかが課題だったが……老山の力もうまく作用してくれたおかげで助かった。

俺としても老山のすごさに改めて感心していた。

それになによりも……自分が直接関わることになった戦場で、血が流れるのを避けられたことは喜ばしいことだった。

 

偽善でしかないけどな……

 

そんな自分の行いを反芻して……軽く内心で己のことを嗤っていた。

嗤いたくもなる。

偽善でしかない己の行動を。

 

まぁ良いか……とりあえず問題が去ったことを喜びますか……

 

そんな己の行いを嗤っているよりは建設的な事を考えるべきだろう。

当分の間は普通に食事を与えていれば満足するだろうが……それでも菓子についてはすでに一度見せびらかしている上に、食べさせてもいる。

大量に作れる物を作って与えておかないと、面倒なことになりかねない。

 

明日からまた大変なことになりそうだ……

 

以前のプリン騒動とはまた別のめんどくささを覚えつつ……俺は妖艶寡婦と供に砦へと戻った。

そして事の顛末と今後の話をするために、一度将達で会議を行う。

象を従えていた感じだったのには皆が驚いていた。

しかし一応交易を行うことで争いが起こらない事は好ましいことは間違いなく、また俺が食べていた果物であるバナナも興味を抱いていたため、南蛮との対応については予定通り交易相手として今後はやりとりを行っていくことになるだろう。

 

「ところで刀月」

「なんだ?」

「どうして私ではなく紫苑を呼んだのだ?」

 

面倒だったのがこの問答だった。

真面目に考えれば砦の総指揮官である和服もどきを呼ぶのが当然であり、和服もどきを自分ではなく妖艶寡婦を交渉相手として呼ぶのを質問してくるのは当然だった。

一応まだ気心しれていると言うほどの仲ではないため……取り繕って話をする。

 

「深い意味はありません。ただ相手が子供みたいな存在故に、黄忠殿の方があちらも話しやすかったと思ってのことです」

 

正しくは……なんか嗜虐的な匂いがするので遠ざけたのが本当だった。

しかしさすがに「なんかいじめそうな気がしたから遠ざけた」と直接敵に言うわけにはいかないだろう。

 

「そうですか。しかし残念ですな」

「……何がです?」

「あの感じからいって……実にイジメがいのありそうな奴ですな。是非とも私も一度遊んで……ゴホン、話をしてみたい物だなと」

「だだ漏れてるぞ」

「おや、これは失礼」

 

本気なのかふざけているのか……そんなことをのたまってくるが、俺は面倒だったので放置することにした。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「とうげつ! 果物もってきたんだじょ! さっそくこーえきするじょ!」

 

象やら部下達と供に砦にやってきて、獣妖女がそう大声を上げてきた。

ある程度予測はしていたので、俺は既に朝から準備を進めており……また蜀の人間達も一難去ったことで少し休みたかったのもあって、普通に俺が煮炊きを行っていた。

討伐に向かうために準備していた分をそのまま南蛮の連中に振る舞う物として、俺が調理をしていいと許可をもらっていた。

兵達に南蛮の連中の分とかなりの量を作らなければならないので、入れ墨娘の部隊で行軍中に手伝ってくれていた連中にも助力を頼んで大量に料理を作っている。

といっても蜀としてはありふれた食事を用意しただけだ。

だが食文化がまるで違うのでそれでも十分すぎるインパクトを与えるし、また俺が一工夫して調理するので蜀の人間からしても感動を与えて楽しく飯を食べていた。

 

「ほいよ~。みんなの分あるから喧嘩すんなよ~」

 

南蛮の連中に配膳するのは……見た目も相まってなんか保育士の気分だった。

だが意外なことにも争いは起こることなく、みんなで仲良く料理を食べていた。

また菓子を振る舞う……量が必要だったので大量にクッキーを作成する……のもうまくいったが、やはり南蛮の果物を使った菓子というのが食べたいらしい。

しかし材料が足りなかったので、俺はある提案を行った。

 

「これだと量が足りないから、今から一緒に森に行って果物を取りに行かないか?」

「それでみんな菓子がたべれるのかにゃ?」

「まぁ何とかするわ」

「ならいこうじょ!」

 

獣妖女からも許可をもらったので、俺は獣妖女案内の元南蛮の森で果物採取を行うことになった。

ただその際は蜀の人間にも来てもらわないといけない。

そのため平をよぼうと思ったのだが……

 

「こうちゅーも一緒に来るじょ!」

「えぇ?」

 

思わぬ指名に驚く妖艶寡婦だったが……提案を断るのもまずいと判断してか、驚いたことに指名を受けていた。

一応武器こそ持っているが……護衛はなしである。

 

「……いいんですか?」

「えぇ。この様子ならきっと大丈夫かと。それに……」

 

そこで一度言葉を切って、何故か知らんが俺を見てくる妖艶寡婦。

その笑みには普通に笑みで……何の裏もない感じだった。

 

「あなたがいるから武力的には問題ないでしょう?」

「まぁそうですが……」

「なら良いじゃありませんか」

 

将としてそれで良いのかと……少し悩む俺だったが、妖艶寡婦の言うとおり問題はないのは一応事実なので、その提案に乗っておいた。

 

 

 

そして果物を取りに行くのだが……戻ってきたら大変だった。

こっちのお子様チームが俺と妖艶寡婦に詰め寄ってきたのだ。

何でも象に乗りたいとのことで。

明日の菓子やら飯の仕込みの準備もあるというのに……こちらの子供達もあやすことになって少々骨が折れて辟易した俺だった。

 






べ、便利すぎる
やっぱり色んな属性の魔法みたいなの使えるのって便利だわ
しかも他に魔法みたいなの使える奴いないしねこの世界
実力も化け物じみてるからそら強いよ


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