荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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明けましたね
おめでとうございます
投稿が遅れて申し訳ない
今年も細々とやっていこうと思います

コロナがまた猛威を振るってきました
皆様くれぐれもご自愛ください


事後処理

無事に南蛮を平定し終えた。

しかしそれでそのまま安泰と言えるほど蜀は楽観できる状況ではない。

会談と宴を終えた次の日にすぐに仕事と相成った。

今度は五胡への援護となり、今その会議を開いている最中だった。

参加者は、呉からは派遣される予定の人員である俺と呂蒙。

蜀からは素人娘とミドリボンと魔女リボン、片側ポニーだった。

南蛮の砦に行っていた蜀の他の将達は、本日は休みとなっている。

呉の他の将達も長い南蛮での砦勤めをいやしている。

尾行娘、入れ墨娘、パンダ帽子の三人には俺が小遣いを与えておいた。

各々もそれなりの金を蜀からもらっているので、おそらく足りなくなることはないだろう。

呂蒙だけが休めていない形なので、俺が後で十分にねぎらう予定だった。

 

「人員としては、砦に最初に向かわれていた皆様に刀月さん。また袁術さんが参加を希望されています」

「袁術が? 何で?」

「せっかく遠方まで来たのだから現地にも向かっておきたいとの事です」

 

おぉ!? ちんちくりんが成長している!?

 

ミドリボンからの説明に俺は感激していた。

おそらく俺のそばにいることで菓子が食えるという下世話な計算もあるだろうが、それでも現地に行くことに意味を理解している。

それが知れただけでも、俺としてはこの派遣にちんちくりんが来たのは意味があったと真面目に感動していた。

 

「こちらとしてはあいつも政務が出来るので喜ばしいが……それで良いか?」

「こちらとしても問題ありません」

 

何も言わないって事は……何かあるんかな?

 

政務が出来るのであれば喜ばしく、文官は何処も不足しているはずだ。

しかしそんな状況にも関わらず外に出すのだから……ちんちくりんを外に出すのは何か事情があると見て良い。

 

まぁたぶん……あいつ自身じゃなくて周りが問題なんだろうな……

 

腐ってもあいつは元々ものすごい名家だ。

にも関わらずあいつは子供だ。

よからぬ事を考えるバカもいるのだろう。

少し放置しすぎていたのもある。

ここら辺であいつ自身のガス抜きもしておくべきだろう。

 

「五胡の対応については現在、馬超、馬岱……賈駆の三名が対応をしています。その援護に向かってもらいたいのです」

 

今一瞬言いよどんだな? というか賈駆って確か、連合の時に二つめの門に詰めていた董卓の懐刀じゃなかったか?

 

以前の連合時に二つ目の虎牢関で指揮を取っていたはずだ。

俺は直接顔を見ておらずその後のごたごたで意識を割く余裕はなかった。

捕らえられたという話は聞いてなかったが、どうやら蜀に流れていたようだ。

 

まぁ骸骨ツインテが捕まえていたら、よほど有能でない限り手柄として利用するか……

 

言いよどんだのはおそらく、言うべきか悩んだと言うこととおそらく董卓も蜀にいて、一緒に五胡に向かっているのだろう。

あのお人好しの素人娘が軍師だけ生かすとは考えにくい。

むろんあまりにもあれな存在であればそれも無理だろうが……何となく違うような気がしていた。

黒幕が何かしらしていたことも考えると、たぶん董卓自身もそこまで悪人ではないのだろう。

その辺は会ったときのお楽しみに取っておく。

他の二人は、顔も名前も覚えていた。

 

馬超と馬岱は顔合わせくらいはしたことあるな……元気にしてるかね?

 

妙手娘のところで何度か顔合わせをした二人だ。

どちらもそれなりの武将と言うことで何度か勝負を挑まれたが、互いに忙しかったこともあって、勝負どころか会話もあまり出来なかった奴らだ。

二人とも元気娘というか、快活で実にさっぱりとした二人だったと記憶している。

従姉妹である馬岱は悪戯娘っぽい感じではあるが、性格自体は問題がなかったように思える。

 

「五胡っていうのは五つの部族の総称なんです」

「五胡は後漢王朝の西部に接する国で、最近では国境線でその存在が散見されてます」

 

そう俺が思考している間も、素人娘とミドリボンの説明は続いていた。

馬超達の故郷である西涼連合が以前より対策を取っている謎の国。

戦力も規模も全てが不明らしい。

何故なら細作が全て消されているからだ。

 

「数名の細作を何度か五胡には送っているのですが、今のところ誰一人として帰ってきた者はいないのです」

 

帰還者が0?

 

その時点で俺は引っかかりを覚えていたのだが……その会議の最中に……俺としては実に聞き捨てならない単語を耳にした。

 

「さらに侵攻に対抗している将の話によれば、五胡の兵達が人間じゃないみたいな感じらしいです」

「何?」

 

その言葉に、俺は思わず普通に反応してしまった。

引っかかりがあったということもあるだろう。

だが……明らかに「人間ではない」というのは、気にならないわけがなかった。

 

「それは本当か?」

「は、はい。何でもほとんど感情らしい感情を出すこともなく、ただただ攻撃だけをしてくるような感じで。かといって戦略がないわけでもない。まるで操り人形のようではっきり言って不気味であると」

「……操り人形、ですか?」

 

同席している呂蒙もミドリボンの説明でどこから空恐ろしさを感じたのか……顔を歪めている。

実際見なければ何とも言えないが、ともかく何かしらあると考えて良いだろう。

ただ気になるのが、もしも仮に五胡の連中を黒幕がどうこうしているのであれば、三国の中で悪さをするのではなく、別の国に移った点が少し気になった。

 

まぁいいか……

 

行き当たりばったりな気がしないでもないが、それでも今頭の中でどうこう考えても意味がない。

故に俺は現地に行ってから考えることにした。

ともかく不気味に思える相手故に、気をつけるように注意をされた。

そして蜀からは今回片側ポニーが五胡に向かうと通達された。

 

「さすがにずっと成都を守っているだけというのもな。少し体を動かしておきたい」

 

南蛮が片付いたので現在将にも少し余裕が出来た状態だ。

妖艶寡婦と和服もどきがお留守番になるようだ。

妖艶寡婦だけでは接近戦的な武力が弱いだろうが、和服もどきがいれば問題ないとの判断だろう。

また、五胡に将を四人も送ってなお未だ問題が解決してないところからも、何かがあるのは間違いないので、呉ばかり将を行かせるのは得策ではないと判断したのだろう。

しかし五胡の対応についても、余裕があるわけではないが火急というわけでもない。

故に少し準備期間を設けることになった。

南蛮が予定よりも早く終わったこともあるため、呉の俺達にも少しばかりの猶予が出来た。

そのため俺は会議が終わり次第、呂蒙を俺が与えられた部屋に招き入れて会議を行う……

という体でねぎらっていた。

 

「呉の総大将、お疲れ様だな」

「いえ! 私なんて、武将の皆様の苦労に比べれば……そんなにお役に立ててないです」

 

まぁ……完全否定は出来ないか……

 

呂蒙は文官だ。

正しくは戦うことの出来る文官といったところか。

同盟を結んだといっても他国の将のため、事務仕事などはほとんど任されていない。

呂蒙がもっとも輝くのは文官仕事なのだが……機密事項もあるのであまり仕事を割り振ることが出来ない。

確かにそう言う意味では武官の方がよほど仕事をしているだろう。

 

まぁ施策で役に立っているようだが……

 

それに呂蒙は呉の派遣に対する総責任者という重荷がある。

日々精神をすり減らしてないか少し不安だったが、問題はなさそうだった。

今は街であちこちうろついている尾行娘の存在が大きいのかもしれない。

 

同年代の友人というのは結構貴重だしね~

 

仕えている年月は尾行娘の方が遙かに長いが、その辺はあの尾行娘自身が気にしていない。

年齢が近いこともあって親友というような間柄だ。

人見知りの呂蒙にそんな奴が出来たのは喜ぶべきだろう。

 

「確かにそうかもしれないが……あまり気にするな。お前がいないとこっちとしてもどうにもならん」

「そんなことないです!」

「俺が総大将になれたら楽なんだろうが……それが出来ないのは間違いなく俺のわがままだ。許してくれ」

「そ、そんなことないです! 刀月様のおかげですごく助かってます!」

 

客将故に大将を任じられない。

それが褐色知的眼鏡の考えだろう。

そしてそれは正しい。

なれなくはないがその場合、客将に総大将を任せたと言うことで諸侯に舐められるし、そんな相手と蜀が同盟を結ぶことも出来ない。

俺が正式に呉に任官すれば良いだけの話なんだが……いくら帰るために旅をしているとはいっても、正式に任官していれば緊急事態時に帰ることは出来なくなる。

それを避けたいがためだけなのだが……そのために呂蒙に負担をかけさせてしまっているのは申し訳なく思っていた。

 

「ま、ともかく少し休憩しろ。慣れない南蛮の気候で疲れてもいるだろうし。はいお菓子」

 

本日のお菓子はどら焼きである。

小豆が手に入ったので持ってきていた砂糖を使用して作った。

金はそこそこもらっているが、さすがに砂糖を買うほどの金はなかった。

南蛮とかの奴らを相手にする際も俺の個人的な備蓄を使用したので、材料が少し心許なくなってきているが……呂蒙に振る舞うのは全く持ってかまわなかった。

 

「い、いただけません! 刀月様のお菓子だから、絶対にお高いはずです!」

 

甘い香りがすることもあって、高いことはすぐに見抜いたところは流石呂蒙だろう。

しかしなんだかんだで視線が釘付けになっているので、説得力は0だった。

そんな生真面目な呂蒙が可笑しくて、俺は苦笑するしかなかった。

 

「良いから食え。俺も食う」

「で、ですが……」

「安心しろ。以前ちょろまかして作った物と違ってこれは完全に俺の自腹だ。世話になっている呂蒙に菓子を作るのくらい、俺からしたら当たり前のことだ。気にしなくて良い。食べてくれないと俺が困る」

「うぅ。その言い方はずるいです刀月様」

「大人はみんなずるいのさ」

 

けらけらと締まりなく笑いながら俺は先にどら焼きを口にする。

お茶は残念ながら緑茶ではないが、一応暖かいお茶を用意してある。

茶葉の発酵についてはさすがに一朝一夕には行かず、今も修行中だった。

 

さすがにお茶を作ったことはないからなぁ……

 

いつでも飲めるときはそこまで気にしていなかったが……いざ飲めなくなると飲みたくなる。

しかし残念ながら緑茶はまだ完成に至っていない。

お茶も近代になるまではかなりの高級品だったので、出来るようになったら一儲け出来るのだが……それはまた後日で良いだろう。

やがてようやく観念した呂蒙がどら焼きを口にして、満面の笑みで食べ尽くした。

といっても砂糖がそこまでなかったのと、ちんちくりんにも菓子を作ってやらなければならないので、俺と呂蒙にそれぞれ二つしか用意できなかった。

 

やはり補給と様子見、さらに報告も兼ねて一度戻れたら戻るべきか……

 

蜀の領地内で俺が人を集めて食材加工所を作れたら楽なのだが……俺の食品加工関係については褐色知的眼鏡に固く禁止されているし、蜀の連中もさすがに警戒するだろう。

となるとやはり定期的に戻らなければならない。

そして大義名分として……書状を俺が届けるというのがもっとも簡単だった。

 

呂蒙なら……俺がいけることについてすぐに理解できるだろうし

 

呂蒙は俺の事をもっとも知ってる。

能力を使えばそれこそすぐに呉に戻れることが出来ることを知っている。

報告すること自体は間違いなく重要なため、その書状をしたためてもらう必要性があるだろう。

 

「さて、南蛮に続いて五胡の対応に向かうことになったわけだが、成都に戻ってきたこのタイミ――ゲフン! この時期を逃さずに呉の連中に報告すべきだろう」

 

本来であれば呉にいる公孫賛が連絡係として月に一度はこちらと呉を往復する予定だった。

だが今回南蛮が早く平定できたこともあり、一度こちらから先に連絡をしようと呂蒙は考えたのだ。

俺達が五胡に行く前に報告をするためだ。

五胡が南蛮と同じく簡単に平定できるとは限らない。

故に、一番呉に近い位置にある成都にいる間に、俺が報告に向かうのだ。

 

「はい、おっしゃるとおりです。そしてその報告について、刀月様にお願いしてもいいでしょうか?」

「無論だ。そしてその書状について何だが……」

「わかっております。お任せください、刀月様!」

 

まぁ言わんでもわかるか……

 

俺が一人でかっとんで行くのが何よりも早く安全であること。

そしてその書状をしたためるのについて、俺がうまくできないこと。

この辺を呂蒙がわかってないわけがなかった。

それに総大将が呂蒙なのだから、報告書も呂蒙が書くのは仕方のないことでもある。

 

「ついでに刀村の加工所で物資を補給してくるから、以前の行商姿で行く。何かして欲しいことはあるか?」

「そ、そうですね……特にありません」

「本当か? 遠慮しなくて良いぞ? むしら作って欲しい菓子とかあるなら、材料の関係もあるのでいってくれたほうが嬉しいんだが?」

 

ない袖は振れない。

俺の好きな言葉である。

 

「正直に言うと……」

「?」

「以前食べたにんじんけーきと、でざーとぴざなるものが食べたいです」

 

遠慮がちに長い袖で口を隠しながらそんなことをいってくる。

顔を真っ赤にしているのが、隠しきれてない。

実にかわいらしい物である。

 

「了解。頑張るとしよう。それでお疲れのところ済まないが、書状の準備をお願いして良いか?」

「はい! もちろんです。今日中に仕上げます」

「済まないが、頼んだ」

 

呂蒙に頼っているのもあれなのだが……移動に関しては仕事と考えて良いので、その辺は割り切っておく。

 

移動については普通にするが、少し日数調整はした方がいいだろうな……

 

蜀の連中に俺の能力を教えるわけはないので、実際の日数よりもかかったことにした方が無難である。

南蛮砦まではひとっ飛びしたが、今回は成都と江都の往復だ。

普通に考えれば数日で行き来が出来るわけもない。

それが出来ると知っているのは呂蒙だけだ。

 

まぁそれでも全力を出してないんだけどな

 

呂蒙はある程度知っているとはいえ、さすがに全てを教えている訳ではない。

俺が全力を出せば、おそらく普通に一回で江都までいける。

所要時間も数時間足らずだろう。

しかしその場合は台車も持って行けないのであまり意味がない。

書状だけならよかったが、俺としても食材の仕入れをしておきたい。

 

味噌とか醤油な……

 

となると以前の行商スタイルになるが、呂蒙がいないため能力について隠す必要がないのでその分早く帰ることが出来るだろう。

そしてその空いた時間で、俺は自分の時間が持てるわけだ。

 

まぁ遊ぶ訳じゃないけど……

 

仮に通常であれば早くとも片道7日で往復14日かかるとした場合。

行商スタイルで往復1日が実際の到着時間。

さすがに早すぎるので蜀には往復7日かかると説明。

呂蒙には3日と説明すれば問題はないだろう。

報告やら何やらで江都で1日は取られるので、呂蒙に伝えるのは計4日だ。

となると2日間は完全自由に行動できると考えて良い。

 

刀村にもいかないとな

 

海辺で俺が熟成させるために地下蔵(認識阻害の結界付き)の食材を取りに行くのと補充。

そして江都の刀村にも顔を出しておくべきだろう。

 

さて、そうなると少し準備をしないとな……

 

また、何となく旅行ではないのだが、せっかくなので土産物があっても罰は当たらないだろう。

俺はその辺も兼ねて成都の街に繰り出すことにした。

 

というか、なんだかんだで成都の街に行くのって初めてだな……

 

蜀に来てからも仕事が忙しかったので、休暇らしい休暇は初めてである。

土産物を見るついでに下町の味を楽しむのも一興だろう。

そう思って俺が街に出ようとしたのだが……その前にちんちくりんに見つかった。

 

「む、刀月ではないか」

「おう袁術。お疲れ」

「戻ってきたのなら妾に菓子を作ってくれんか? 最近面倒なことばかりであまり楽しみがないのじゃ」

 

面倒だが……こいつも結構大変っぽいしな

 

袁家の人間として面倒なことは間違いない。

先の会議でも名前が上っていたが……最近は仕事らしい仕事も出来てないのかもしれない。

憂さ晴らしはさせてやるべきだろう。

 

「街に行くつもりだったんだ。俺、街に繰り出すの初めてでな」

「む? そうなのかえ? なら妾が案内してやってもよいぞ?」

 

ふふん……と、実に上から目線でそんなことをいってくる。

上からといっても子供故の「自分が出来ることを誰かにしてあげる!」という感じのやつなので全く不快ではない。

むしろこいつの目線から見て街がどんなものか、興味がわいた。

 

「お願いして良いか? その代わり道中食いたい物あったら俺が出そう。菓子ももちろん作る」

「む!? 本当かえ!? 約束じゃぞ!」

 

文字通り飛び跳ねて喜ぶちんちくりんに苦笑しつつ、俺とちんちくりんは街へと繰り出した。

その際親衛隊達が付いてこようとしたがちんちくりんが頑として拒否した。

俺がいるのだから問題ないと。

親衛隊の連中も、俺の非常識さはよく知っているので素直に頷いてくれた。

ただ服装で目立つと面倒なので、服装だけは市井の衣服に着替えてもらった。

そんなやりとりがありつつやってきた成都の街。

首都だけあって街は栄えており、人や商人が数多くいて活気に満ちていた。

人が多いということは働き口があると言うことである。

また行き交う人々の顔が笑顔だった。

 

「田舎の割になかなか栄えておるじゃろう? この前妾が出した施策がきちんと働いておるようじゃの」

「ほう? どんなことをしたんだ?」

「うむ! それはじゃな!」

 

嬉々として自分が行ったことを語り出すちんちくりん。

実際話した内容は実にきちんと施策になっており、仕事をきちんとしているのに俺は真面目に驚いた。

その仕草に体躯がまだ子供故に侮ってしまう気持ちがどうしても出てしまうのだが……腐っても乱世に生きる名家の存在。

実力があるのは間違いなかった。

 

「はっはっは。わたしはかちょーかめん!あくはさかえた、ためしなし!」

「くそー、でたなかちょーかめん!」

 

街の子供たちが、ごっこ遊びをしている。

子供が遊んでいられるというのも、実に平和な証拠と言えるだろう。

そして貧乏な者もいないという証左とも言えた。

 

しかしかちょー仮面って何だ? 「かちょう」か? 漢字がわからん

 

駆けていく子供達のごっこ遊びのごっこが何の対象かわからないが……興味もないので深く考えるのをやめる。

その子供達が親とおぼしき人にたしなめられている。

人通りが多いところで走り回るなといったところだろう。

そんな様子を……ちんちくりんは全く感情を見せない平坦な顔で、見つめていた。

 

……そういやこいつの親ってどうなってんだろうな?

 

乱世故に親がいないというのは別段珍しくもないだろう。

しかし名家のこいつの親が早くにいないのは少し疑問が残る。

下に付いた奴がくそ野郎でちんちくりんを傀儡にするために謀殺されたとは……下にいるのが甘やかし短髪故に考えにくい。

 

まぁもしかしたら甘やかし短髪がそんなクズども駆逐した後……という考えも出来るが……

 

ただ、親子の姿を見て思うところがないといえば嘘になるのだろう。

今の空虚とも言えるその表情が、それを如実に物語っている。

 

やれやれ……俺も子供には甘いなぁ……

 

意識を強引に断つために、俺はちんちくりんの体を持ち上げて肩車を行った。

 

「わ!? わわっ!? な、なんなのじゃ!?」

「別にはぐれたら面倒だと思ってな」

「む! 失礼じゃぞ刀月。わらわをそこらの幼子と一緒にするでない」

「それは失礼お姫様」

 

そうは否定するが、肩車をやめろとは言わない。

というよりも普段よりも高いところにいるから面白いのか、喜んでいる気配を上から感じる。

誘拐とかされても面倒なので、俺はこのまま街を歩くことにした。

 

やはり、土地柄か……見慣れない物が多いな……

 

所変われば品変わる。

これはまさに至言である。

結構面白いものが多くあった。

相場をきちんと調べてから適正価格で購入し、呉の連中の土産を確保。

さらに道中買い食いなんかをして、ちんちくりんの慰労を行う。

 

「うむ! 粗野だがなかなかうまいの! 刀月! もう一本買うてくれ!」

「いや、別のも食べようぜ。あっちのうまそうだ」

「む! 刀月がいうのなら間違いなさそうじゃな! いってたも!」

「ほいほい」

 

そんなやりとりをしつつ、俺とちんちくりんは街を練り歩いていく。

すると、後方より接近してくる存在を俺は感知した。

そしてそれは人混みの中をまるで猫のようにすり抜けてくると、俺に素早く接近してきてひっついてきた。

 

「とうげつだにゃ!」

 

べったりというかなんというか……俺の背中に張り付いてきたのは獣妖女だった。

その後方から三人の側近の獣娘、尾行娘に入れ墨娘、パンダ帽子。

さらに妖艶寡婦と、少しふてくされてる見知らぬ子供がやってくる。

 

「刀月様! お疲れ様です!」

「とーげつ」

「む……いやな奴がいたのです」

「あら刀月さん。奇遇ですね」

「奇遇なのはそうかもしれませんが……面白い団体ですね」

 

面白いとは思うが不思議とは思わない集団だった。

尾行娘はともかくとして、入れ墨娘と獣妖女は妖艶寡婦に随分と懐いている。

文字通りの母性が魅力的だったのだろう。

そしてふてくされている子供は璃々だった。

ふてくされてるのはおそらく……久しぶりにお母さんと会っているのに引率で独り占め出来ないからといったところだろう。

 

まぁ妖艶寡婦も人がいいから、頼られたら断れないというか……いや本人が世話焼きをしたかったんだろうな

 

面倒見がいいので、おそらく世話を買って出たのだろう。

金は渡しておいたので、おそらく妖艶寡婦の懐にダメージはいってないだろう。

 

「そちらの子供が黄忠殿のお子様ですか?」

 

先日の宴には参加していたが、正式な挨拶はまだしてなかった。

とりあえず俺のことも自己紹介しておくべきだと思って、そう問いかける。

 

「はい、そうです。璃々。刀月さんにご挨拶して」

 

と言われるがむすっとして俺を見ようともしない。

そんな様子の我が子に少し慌てる妖艶寡婦だが、その程度何のこともない。

実に子供らしくて笑みを浮かべる。

俺はちんちくりんを一度降ろして膝を折って目線を合わせる。

 

「初めましてお嬢さん。俺は刀月。お名前を聞かせてもらって良いかな?」

「璃々は、璃々っていうの」

「それ真名だろう? 真名じゃないお名前は?」

「黄叙」

「そうか、これから宜しくね」

 

そう言いながら俺はちんちくりんが暴れたときのために念のため持ってきていた蜂蜜飴を取り出して、黄叙と名乗った子供の目の前に差し出した。

 

「!? ふわ、きれ~。これな~に?」

「これは、飴っていうお菓子だよ?」

「!? こんなにきれなのにおかしなの?」

「あぁ。蜂蜜がおいしくなるように果汁……果物の絞った汁なんかも入れて作った甘くておいしいお菓子だ」

 

俺の台詞に黄叙だけでなく回りの連中も驚いていた。

かなりの透明度を誇っているので見ようによっては宝石にしか見えないからだ。

そしてそんな見た目の物が菓子というのだから、驚くのも無理はなかった。

蜂蜜に火を通し、さらにレモンモドキの果汁を少し入れて冷やしたものだ。

見目麗しい方が評判も良いので、透明度も高くなるように気を遣った一品である。

これ一粒でもこの時代ではかなりの高級品になるだろう。

 

「お近づきの印にこれをあげる」

「いいの!?」

「と、思うのですがよろしいですか黄忠殿」

 

さすがに疑われないとは思うが、念のため確認はしておく。

他国の将の愛娘だ。

誘拐や毒殺等……不穏なことは可能性が大いに高い存在だ。

俺のことは多少なりとも知っているとは思うのであちらも疑うことはないだろう。

また1歳未満の子供に蜂蜜を食べさせるのは危険だが……どう見ても赤子ではない。

特に問題はないだろう。

 

「それはもちろんですけど……良いのですか? 蜂蜜といえば相当な高級品では」

「問題ないです」

「おおありじゃ! それは妾の蜂蜜ではないのかえ!?」

 

いつからお前の蜂蜜になった

 

ちんちくりんが予想通り反応したが、その言葉には俺としては呆れるしかなかった。

確かにちんちくりんに蜂蜜を卸してはいたがそれはあくまでも「俺が作った蜂蜜」を卸していたものであって、ちんちくりんのものではない。

確かに一時期独占していたのでそう考えてしまうのも無理はないかもしれないが、それでもあまり良い考えではないだろう。

 

「お前のじゃないだろ? というか……お前自分で恥ずかしくないのか? 自分よりも小さな女の子にあげようとしている飴を取り上げるのか?」

「む!? それは……そうじゃが……」

「安心しろ、お前の分もあ――」

「美以たちも食べたいじょ!」

 

おっと他にも幼子いたか~

 

食い物の話をしていて、獣妖女達が反応しないわけもない。

仕方ないので俺は全員に一つずつあげることにした。

多めにもってきたので助かった。

 

「ほれ周泰も」

「ふわっ!? 私もよいのですか?」

「お前も気を色々遣って大変だな。そのご褒美って訳でもないが」

 

尾行娘も本来は休みだが、しかし細作として単独行動は控えるためにこの面子と一緒にいるのだろう。

おそらく最初から全員が一緒だったわけではないだろうが、途中で合流してこの大所帯となったのだろう。

休みでも自由に動かない尾行娘の生真面目さに苦笑しつつ、菓子を与えておいた。

 

「うまいか?」

「とってもおいしいのです!」

 

もう満面の笑みでおいしそうに舐めているからあげたこちらも嬉しい。

そうして他の面子がおいしそうに食べていると……同じ子供であるもう一人が反応しないわけもなかった。

 

「むぅ、ねねも食べたいのですが……あいつのだと」

 

さらに普段俺を敵視しているパンダ帽子も、あまい菓子には反応している。

しかし俺に恵んでもらうのは少々嫌なようだ。

そんな様子を見かねたのか……手にしていた肉まんをもしゃもしゃと一定の速度で食べていた入れ墨娘が俺の裾を引っ張ってくる。

 

「恋にも、ちょうだい」

「おう良いぞ。二つやるからパンダ帽子もくえ」

「む! 貴様の施しなんて受けないのです!」

「ねね、そういうのはめっ」

「むぅ! しかし恋殿!」

「なら……いらない?」

「……いただくのです」

 

菓子一つで実に大騒ぎになっているが……致し方ないことでもある。

何せ食えるだけでも十分裕福と言える時代だ。

食べるだけで精一杯だというのに、甘味なんてとてもではないが相当な祝い事でもなければ庶民は目にすることすらも難しいだろう。

そういう意味では周りの目が少し痛かったが……明らかに普通の団体ではないので話しかけてくる猛者はいなかった。

 

「おいしい!」

「そいつはよかった」

「お母さんおいしいよ!」

「それはいいけど璃々。ちゃんとお礼を言いなさい」

「ありがとうお兄ちゃん!」

「いやいや」

 

機嫌が直ってほっとしている妖艶寡婦が、娘に気取られないように顔だけ向けて俺に頭を下げてくる。

別段たいしたことはしてないので、俺は笑顔で頷いておいた。

さらに、朝から面倒事を押し付けていたことがわかったので、お礼も兼ねて飴をもう一つ妖艶寡婦にあげた。

 

「よいのですか?」

「朝から子供の相手をしてくれたお礼です」

「刀月さんは朝から会議だったのですから、気になさらなくても……」

「まあ、それこそお気になさらず」

 

別段俺からしたら色んな意味……俺が甘味をそこまで重要視してない、養蜂でそこそこ量がある……で大した代物ではない。

確かに時代を考えれば貴重なのだろうが、俺としては別にその辺はあまり深く考えないようにしている。

そんな俺の出鱈目さがさらに伝わったのかきょとんとするが、妖艶寡婦も素直に受け取ってくれた。

 

「ほら璃々。刀月さんがもう一つくれたわよ」

「ありがとうおにいちゃん! けど、それはおかーさんが食べて」

「えぇ?」

「とってもおいしかったからおかあさんにも食べて欲しいの!」

「璃々」

 

あらま良い子だ

 

ほぼ間違いなく生涯初めて食べるであろう蜂蜜飴を、おいしいから母親にも食べさせてあげたいというその気持ちは、実に見上げたものである。

そんな姿を見ていると、他にも色々とあげたくなってしまう。

さらにさすがにあめ玉だけでは、朝からの面倒見の報酬としては割に合わない。

 

「どうです? そろそろ日も真上に昇ります。夜まで少し時間がありますので、よければ私が菓子なんかを振る舞いますが?」

「え? ですが……刀月さんが大変では」

 

と一応礼儀として断ろうとする妖艶寡婦だが……他の連中は俺の言葉を聞いて目を輝かせている。

この時点で断るのは不可能だろう。

かといって黄叙と妖艶寡婦が辞退するとなると、子供がかわいそうである。

 

「それでは……お言葉に甘えて良いかしら?」

「もちろん。提案したのは俺ですので」

 

そうして、この場の全員を招いて城で食事会を行うことにした。

皆がいるところなら、獣妖女達なんかをかかりきりで見る必要性もなくなる。

妖艶寡婦も休めるから一石二鳥だろう。

おこちゃま達も満足するはずである。

尾行娘もみんなでいればあらぬ疑いをかけられることもないだろう。

 

ある意味で一番苦労しているのはこいつかもなぁ……

 

呂蒙が総大将として忙しいのはある意味で仕方ないが、尾行娘も結構面倒な立ち位置といえる。

常に疑いの目を向けられ、疑われてしまうというのも骨が折れるだろう。

少しでもこいつを知ってもらえればそんなことはしないとはわかるのだが、それを蜀の人間全てにわかってもらうのはどだい無理な話だ。

少しずつ信頼を深めていけばいいだろう。

問題があるとすれば……この宴に参加できなかった他の連中が騒がないか心配だということである。

 

念のため参加できなかった奴らの分は別に作っておくか

 

最低でも呂蒙の分は作っておかなければならない。

そう考えながら厨房の使用許可をもらいにいったのだが……ちょうど会議中で書類の整理なんかも兼ねてなのか主要メンバー以外にナナもいた。

 

「みんなでお茶会するんですか! 私も参加して良いですか!?」

「桃香様! まだ政務が終わってないですよ!」

「でも愛紗ちゃん! 有名な刀月さんのお菓子だよ? 食べないと損だよ」

「それは……」

「それに、ナナちゃんもいるから療養も兼ねて、ね?」

 

男がいる空間に慣れさせると言うことだろう。

男であっても俺が相手ならば少しはナナも落ち着いていられるだろう。

そう言われては片側ポニーとしても断り切れなかったのか……やむなく今の議題を終えた後に合流することになった。

会議にはミドリボンと魔女リボンもいたのでそちらも参加だ。

 

大人数になったな……おい……

 

と思うが別段問題ないので、俺は持ってきていた蜂蜜やら砂糖をふんだんに使用……どうせ数日中に帰るので使い切るつもりだった……して、菓子を結構作った。

それがすこぶる評判だった。

さすがに人数が多く厨房には入りきらないので、やむなく中庭での開催となった。

竈とかは移動できないので、やむなく俺はちんちくりんをだましたときの不思議鉱石でごまかしたり、後は簡単に作れる菓子を大量に使っての調理となった。

 

呂蒙呼ばないとかわいそうだな……

 

と思っていたら気を利かせてくれたミドリボンが呂蒙を連れてきてくれた。

そのためほぼ全員が参加した形になった。

ただちみっこと和服もどきはこなかったのでどちらも少し分けておくことにした。

 

和服もどきはともかく、ちみっこが騒ぎそうだからなぁ

 

ちょっとした交流会としても大いに機能したと見て良いだろう。

昨日の宴会もそれに当たるが一部では酒も飲んでいたので、しらふかつ交易を交わすことにした隣人として、より交流しやすくなった形だ。

俺はそれを横目に見つつ……必死になって調理をしていた。

 

まぁ経験上、大人数になる気がしたけど……

 

荷車数台でそこそこ量の食材を持ってきたが、ほとんど使っていなかった……砦には速さ優先で一台分しか持って行っていない……ため、結構まだ残っている。

日持ちはするだろうが、それでも新しい物に変えておいて損はない。

そのため俺はけちることなく大盤振る舞いで食材を使用していく。

 

最近散財してばっかだなぁ……

 

褐色知的眼鏡の治療でかなりの金を使用した。

金というよりも置いておいた食材をかなり使用したといったところだ。

しかし散財したのは間違いない。

金は貯めておきたいのは、庶民故だろうか。

 

「その、刀月さん。大丈夫なんですか?」

「? 何が?」

「その……かなりの量を使われているみたいですけど……」

 

楽しんでいた呂蒙が、一区切り付いた段階を見計らって俺にそんなことをいってきてくれる。

呂蒙は俺との行商も経験しているので、どれだけの量を放出しているのかがよくわかっているのだろう。

値段について言えば、刀村は食材の種類が少ない故に、かなり破格の値段で卸していたのだが……今回は行商ではないため見返りの食材がない。

その辺を心配してくれているのだろう。

 

「別にかまわん。何とかなるだろ」

「そ、それはそうかもしれませんが」

「それにこの状況下で参加費よこせっていったら一気に冷めるだろ? まぁ楽しんでくれればそれで良いさ。それにおそらくミド――諸葛亮が多少は出してくれるさ」

 

これは打算でも何でもなく、ある意味で必然といえる。

俺からは蜂蜜、持ってきた保存食の果実。

南蛮の果実は、まだ調理の仕方が蜀の料理人達はわかってないので、調理費についてもこれの料理を用意すると手間がかかる。

貴重な食材に浪費。

これらを考えればさすがに費用負担0というわけには行かないことは、多少頭が回れば誰でもわかる。

同盟国とはいえ最低限の仁義は守らなければならない。

金だけでも出したいと思うのも当然だろう。

俺としてもぼったくるつもりはないが、少しはもらえたらと思う。

対価をもらう代わりといっては何だが、俺の渾身の腕で調理を行うのが筋だろう。

そしてその言葉に安心したのか……呂蒙が少し考える仕草をしてから、意を決したように言葉を発する。

 

「出来れば先ほどのくれーぷっていうの、もう一枚戴いても良いですか?」

「お前からリクエ――もとい要望とは嬉しいこと言ってくれるな呂蒙。ちょいと待ってろ」

 

なんだかんだ甘い物が好きな呂蒙は、金の心配をしつつも菓子を作ってと頼むと俺が喜ぶのをわかっているのか、リクエストを言ってきてくれる。

こいつからの頼みであれば俺としても断る理由はなかった。

 

「刀月様お疲れ様なのです! 亞莎もお疲れなのです!」

 

そうして二人で話していると、自分自身が猫っぽいことに気付いてない尾行娘が近寄って来た。

嬉しそうに甘味を食べて頬をゆるませている。

 

「明命こそ、お疲れ様。今日は猛獲さんの相手をしてくれてありがとう」

「いえいえ! 私としても楽しくお話させてもらったのです! なんか御猫様っぽくて私としても楽しかったです!」

 

仲良さそうで何より

 

互いに互いを大事にしあい、また互いが互いを守るためになるべく固まらなければいけない二人だ。

特に南蛮での砦の防衛では、尾行娘が呂蒙の心の支えになったのは容易に想像できる。

尾行娘としても、自分の潔白を証明する相手としては呂蒙がもっともやりやすいだろう。

そんなこんなで蜀に派遣される以前よりも、親密度が増したと思って良いだろう。

二人とも実に楽しそうに会話をしている。

 

「刀月さん! お疲れ様です! おいしいお菓子ありがとうございます!」

「喜んでくれたなら何よりだ」

 

俺がそばで二人の会話を聞きながら調理にいそしんでいると、単身で素人娘がこちらにやってきてお礼を言ってくる。

俺としては本当に喜んでくれれば嬉しいし、交流の場としても開いた甲斐があったという物である。

 

「それにしても驚きました! まさか本当に蜂蜜が量産出来てるんですね!」

「まあな。秘密だけど」

「もちろんです! 教えて欲しいなんて言いません!」

 

朗らかに満面の笑みでそう言って、さらにおいしそうにほおばる素人娘。

太るんじゃないか? と思わなくもなかったが、楽しい場面で水を差すのもあれだし、女性にそれを言うのはまずいのはわかるので、口を閉じておく。

食べ過ぎていたら注意すれば良いだろう。

 

「呉でもこんな風にお茶会みたいな物を開いてるんですか?」

「う~む。たまにな。呉のお偉方は甘味より酒に走るからな」

「刀月さん、お酒も造ってるんですよね!? 今度出来たら飲ませてください」

「酒に関しては済まないが……約束はしない」

 

他国の偉いさんの情報を引き出すかのような話題になっているが……おそらくこいつにそんな考えはないだろう。

俺としても答えられる質問に回答すれば良いだけの話で、まだ許容範囲内だろう。

事細かに説明すれば、懐事情を勘ぐられる可能性もあるので、あまりおおっぴらには言えないが。

 

「孫策さんってどんな感じの人なんですか?」

「酒好きで戦うのが好きだな。その辺はお前さんとは違うな」

「む、確かに私には戦う力はありませんけど、別にお酒が嫌いって訳じゃないですよ? むしろ結構好きだったりします」

「俺の酒は強いから、飲むのは結構危ないぞ」

「お酒が強い……ですか?」

 

あぁ、酒気が強い弱いもあまりないか……

 

弱い度数の物しか広まってないから、酒の度数が強いという概念もないのだ。

酒好きの呉の連中も俺の酒を飲むと大体すぐにダウンするので、おそらく素人娘もすぐにダウンするだろう。

呉ではあまり変貌する奴がいない……笑い上戸とか泣き上戸とか……ので、こいつに飲ませたらどうなるかある意味で見てみたくなった。

 

なんか若い娘を酔わせた姿を見たいとか……発想が完全におっさんだな……

 

俺も既に二十歳を超えた。

成人式に行きたいと思った事はなかったが、異世界で二十歳を超えるとなると……なんか思うところがないでもなかった。

 

「孫策さんとは少ししかお話出来ませんでしたけど……強いんですよね」

「そうだな。武将としても結構出来る人間ではある」

「そうですよね」

 

? 暗いな? 三国の王の中で弱いのを気にするようなタイプでもないだろうに

 

話をしていて何か思うところでもあるのか、声が少し沈んできたことに違和感を覚えるが……あまり突っ込んでもあれなので、俺は手を動かしながら素人娘から話をしてくるのを待った。

 

「孫策さんが、どんな考えをしているのか……聞いちゃ駄目ですか?」

「考えとは?」

「その……自分たちの国をどうしていきたいとか……」

 

大胆だな……

 

宴の最中だ。

あまり他者の会話を注目する状況でもない。

木を隠すなら森の中とは意味合いが違うが、ある意味で密談をしているとはとても思えない状況ではあった。

別段こいつにそんな黒い考えはないだろうが、それでも何か思うところはあるのだろう。

そしてある意味で俺が話しかけやすいこともあって、俺に話をしてきたのだろう。

 

なるほど、こっちが本命かな?

 

そんな打算があったかどうかはわからないが……ともかく俺としては答えられる範囲で答える必要性があるだろう。

 

あいつのスタンスをいうのも本当はよくないかもしれないが……

 

「あいつ自身は単純だよ」

「単純……ですか?」

「良くも悪くも楽しいことが好きで、自分にとって大切な奴に笑っていてほしい。それだけだ」

「そう……なんですか」

 

まぁこの程度ならいいだろう

 

素人娘もバカじゃない。

俺がどういう意味で言ったのかも理解している様子だった。

褐色ポニーは、身内が本当に大事な奴だ。

他は全てどうでも良いというような排他的な考えはないだろうが、あいつ自身が自らの野望や領土、富名声のために他国を侵略するような事はしないだろう。

そう言う意味を込めての言葉だ。

 

「ならやっぱり……出来ないかな……。みんなで大陸を治めて……」

 

……なんかすごいこと言ってるなぁ

 

僅かな風に流れてきた言葉を聞いて、俺は本当にびっくりしていた。

みんなで治めると言う意味が一体どういう意味かはわからないが……国の数、戦力差なんかを考えれば、みんなという意味はおそらく「三国」の事を表していると見ていい。

三国と言えば三つの国であり、そしてその言葉だけなら戦力が拮抗しているように思えるが、魏が最強である。

残りの二つの呉と蜀は勝てないからこそ同盟を結んだのである。

結んでようやく拮抗するが……拮抗する時点ではあまり意味がない。

魏が一枚岩に対して呉と蜀は二枚なのだ。

連携に国土の力、兵糧、武装等々……全てが分かたれてしまう。

一枚であれば足りなくなれば補充すれば良いのだが、二枚では仮に相手に渡すとなればどうしても上に確認する必要性が出てくる。

その確認で既に遅延が生じてしまう。

物資のやりとりですらそれだ。

戦となればもっと面倒なことになるだろう。

よほどうまく戦わなければ勝つことは難しいと言っていい。

 

みんなってのは連合国家を作るってことなんかね?

 

歴史に詳しいわけではないが、過去の歴史において同盟を結びこそすれ連合国家はなかったと思われる。

何せ連合とは難しいからだ。

呉はとりあえず自分たちが幸せであればそれでいいスタンスで、魏は大陸を統一する覇王を目指している。

そんな中で蜀、王である素人娘の考えは……以前はこの戦ばかりの大陸を平和にしたいという考えだった。

そして今……三国に絞られたこの状況で言い出したことは「みんな」だった。

この「みんな=三国」でなければ相当頭がお花畑だが……さすがにそこまでお気楽ではないだろう。

 

王として君臨しておきながらそれすらもわからないはずの暗君に、後生にまで名を残す連中が力を尽くすような事はしないだろう……

 

しかし仮に三国としたとしても……それも随分楽観的というか、実にあり得ない考え方ではある。

現代においての国同士の明確な連合となると真っ先に思い浮かぶのがEU連合だが、あれはあくまでも経済的な連合関係であって、各々の国で国の政治をやっている。

この三つの国家による連合が仮に成立すれば、同じような経済連合であればどうにかなるかもしれない。

だが……それは時代的に難しいだろう。

連合というは余裕があるが故の連合なのだ。

余裕というのは国で考えれば最低限富んでいるという思考で良いだろう。

余裕=富んでいるというのは、最低限国に危機が訪れても国単体で対処できるという事が条件とも言える。

現代で言えば、日本全土で不作が続くような事はないが、仮にあったとしても金はあるから輸入などで対処が出来る。

 

ただ……この時代の不作というのはいわゆる飢饉だ……

 

しかしこの時代は飢饉で国そのものが滅ぶほどの大事だ。

飢饉が起これば国が滅びる。

飢饉が起きても、国に余裕がないのがほとんどなので、内側から崩壊する。

そんな状況で他の連合諸国に気を配る余裕なんぞ、あるわけがない。

 

現代においては何か有事があっても、国が傾くような事がそう簡単に起こりえないからこそ、連合国家というのは成立していると言って良いだろう。

 

三国で連合を行っていても、もしも一つの国が傾けばたちまちバランスは崩れるだろう。

時代的に少しでも傾けば……他の二国が黙っていない。

手を差し伸べるよりも滅ぼしてその領土を得る……という思考に行くのは時代的にしょうがないと言える。

また連合国家が誕生し、うまくいったとしてもそれは最初だけだ。

今の志を持った奴がいなくなれば……ようするに世代交代……よほどその連合内が強固な何かがなければ連合は崩れ去るだろう。

 

上を見だせばキリがないのは……どこもそうか……

 

人間とは堕落する物だ。

楽に生きたい生物だ。

それはどうしようもないことなのである。

連合がうまくいけばそれはそれで相当すごいことだが……難しいだろう。

 

 

 

連合の有無にかかわらず、最後にどうなるかわからないけどな……

 

 

 

この後がどうなっていくかは俺も全く読めない。

最終的に魏が大陸を統べた程度しか俺は歴史を知らない。

 

 

 

※ 魏の司馬懿(しばい)の孫である司馬炎(しばえん)が265年に統一する

 

 

 

それもいつ統べたのかもわかってないのだ。

中国を統べるとなると相当規模がでかい話になる。

こいつらの代で統べるのも難しいレベルだろう。

俺の知識は以下略。

いつ統一したのかもわからない。

赤壁程度しか知らないので、この後こいつらがどうなっていくのかも知らないのだ。

 

まぁ……それまでにはいなくなるが……

 

この後どうなるのか俺はわからない。

歴云々もそうだが……それ以上にある意味で見物なのは今後のこの同盟の後だ。

呉も蜀も、魏という明確な敵が存在するために同盟を結んでいる。

仮に魏との戦いにて魏を滅ぼす事が出来れば……残るのは二国だ。

上の二人があまり好戦的ではないため、もしかしたらそのまま二つに分かれて互いに無干渉……となることも難しくないかもしれないが、どう考えても無理だろう。

 

そもそもそれ以前に……素人娘が魏を滅ぼすって事があり得ないか……

 

良くも悪くも優しい娘だ。

相手を滅ぼすことは望んでいない。

しかし自分が滅ぼさないからといって相手もそれと同じであるはずもない。

仮に魏を見逃せば……曹操はその屈辱をバネにさらに力を蓄えるだろう。

 

もしくは恥辱に耐えきれず自刃するか……いや、たぶんそれはないな

 

自刃するなら間違いなく自爆特攻するような感じで戦ってくるだろう。

そんな気がした。

知識を持つが故に、人は相争う。

己の矜持だったり、主のためだったり……理由は様々だが戦うことが本能の一つといえなくもない。

その上でどうするべきかを必死になって考えている……そんなところなのだろう。

 

あまり人ごとでもないんだけどな……

 

仮に魏を倒せば蜀とどうなるかはわからない。

俺は直接戦うつもりはないが……それでも無関係ではいられないはずだ。

もっとも近しい連中が相争うのを……俺は間近で見ることになる。

 

 

 

その時俺は……どうするのだろうか?

 

 

 

傍観するのか、関わることをやめて逃げるのか……それとも戦うのか……

 

 

 

その時にならなければわからないが……それでもどうすべきかは考えていた方が良いかもしれない。

呉と蜀が争うかもしれない状況で、俺がどう動くのかを。

 

関わった以上は、最低限の責任は果たさないといけないが……

 

俺が黒幕の連中をどうにか出来るのかは未だ謎だ。

それが果たしていつ出来るのかにもよるが……俺としてもこれ以上若い時間を俺の命題以外のことに使いたくはない。

長くとも数年内には決着を付けたい物である。

それを含めても、移動時間の報告で稼いだ日で……個人的に動くべきだろう。

 

手がかりについては……さっきの会議で少しあったしな……

 

五胡の連中がまるで人間ではないかのような存在だった。

あの白装束の幽鬼体の連中みたいなものなのかもしれない。

さすがに殺すと肉体が消滅すると言った、本当にファンタジーなことはないのだろうが……その場合は報告書に上げているはずで、時代的にもっと恐慌状態に陥っているだろう……それでも報告書にわざわざ記載するのだからよほど気持ちが悪い存在なのだろう。

 

……さてどうなるかな? 

 

宴を開いている最中だというのに……すごく真面目な考えをしている自分が少し可笑しかった。

だが、三国志が結構終わりの方に近づいている……三つの国のみになったからという心底安易な考え……気がするので、そろそろ俺も身の振り方は考えておくべきだろう。

大団円が出来ればそれが一番だが……そんな物がこの時代に起こるとは考えにくい。

それでも……俺自身に近しい奴には、幸せになってほしいものだ。

 

人殺しで……力があるにも関わらず力を行使しない俺が、望むべき事ではないかもしれないが……

 

「―――っ」

 

そうして俺が思わず手を止めて考えていると……すぐそばで何か気配を感じ取って俺はそちらに視線を向ける。

するとそこには、お茶を持って佇んでいるナナの姿があった。

考え事をしていたので、そばに来たのに気付かなかった。

そばといっても作業台として持ってきた机の反対側にいる。

手を伸ばしただけでは届く距離ではない。

だがそれでも……ナナが一人でここまで近づいてきたのには少し驚いた。

 

「どうした?」

「っ!」

 

俺が声をかけるが……男と言うことでナナがびくりと体を震わせたが、それだけだ。

その後……手にしていたお茶を机においてくれる。

 

「俺に煎れてくれたのか?」

 

そばに頼る存在がいないため、机においた後は自らの手を前で変に固まらせて佇んでいる。

逃げようとする己を必死に抑えて、留まっているのだろう。

手が固まっているのは……自らを守るために抱きしめようとするのを必死になって抑えていると思われる。

そしてこの場に留まる理由は一つしかない。

俺の言葉に、返答するためだ。

 

「っ」

 

何とか頷いて、ナナはあっという間に走り去っていってしまった。

こけるか心配になるほどだったが、何とか転ぶことはなく片側ポニーの足にしがみついた。

数歩後ろの距離で見守っていた片側ポニーは、もうそれはそれは穏やかな気配を発してナナの頭を撫でていた。

本当に親のような心境なのかもしれない。

 

まぁ素人娘の考えに同意する時点で、優しい性格なのは間違いないしな……

 

この時代にあれだけの強者でありながら、他者のために力を振るうことが出来るのは精神が出来ている証拠だ。

ある意味で素人娘よりも人間として出来ているといっても言い。

そしてこいつには……俺は一つ借りというか約束があるのだ。

真名を呼んでしまった詫びとして仕合を申し込まれている。

今のところそれを言ってくる様子は見受けられないが、たまに俺を見てくる視線が少し毛色が違う感じがするので、忘れている訳ではないだろう。

 

どうなるかなぁ……

 

とは思うが、とりあえず片側ポニーから申し込まれない限り俺から言うのも変なのでこちらから言うことではない。

待つことしかできない。

そんなことを考えつつ、俺は調理を必死になって行っていた。

 

 

 

 

 

 

宴が終わった後、予想通り騒ぎ出したちみっこに作り置いていた菓子を与えるのだがその程度で機嫌は直ることはなく後日料理を作る約束をさせられてしまった。

和服もどきはさすがにちみっこほど騒ぎ立てることはなかったがそれでもメンマをつくるように要求されたのと、酒を賭けて一勝負させられることになってしまった。

面倒は多いが、それで少しでも仲良くなれれば、それに越したことはないだろう。

 

 

 

最後には戦うことになるかもしれなくても……

 

 

 

 

 

 

「んだらば行ってくるな」

「はい、宜しくお願いします!」

 

宴を終えて一眠りして早朝。

俺は行商スタイルで待機していて、書状をもってきてくれた呂蒙と挨拶を交わしていた。

呉に報告書を持って行く手はずなのだ。

 

「気をつけて行ってきてくださいね!」

 

俺が書状を届けることは昨日素人娘やミドリボンに話していたからか、わざわざ素人娘とミドリボンが見送りに来てくれた。

見送りというのもそうだが……おそらく俺が出かけたところを見ておきたいというある意味での監視も含めているのだろう。

もしくは俺のばかげた移動方法を見に来たのか……色々思惑はあれど、わざわざ見送りに来たのは少し嬉しく思えた。

 

「なら予定通りの行くつもりだから宜しくたのむ」

「はい。それまでに調練や準備を進めておきます」

 

予定通りというのは文字通りの意味であり、これは事前に打ち合わせした呂蒙しかわかってない。

素人娘達に伝えたのは、俺が南蛮まで行った速度を計算に入れての日程。

呂蒙に伝えた日程は成都と江都を往復するだけの日程で、行商での移動速度。

ここまでが他の連中に教えた日程だ。

しかし本当の日程は全然違い、移動に能力をフル活用した移動速度のため、本来の日程とはだいぶ異なる。

先日も計算したが、2日は時間が出来るので刀村と、五胡に一足先に向かって様子を見に行くつもりだった。

 

それでしっぽを出してくれるとほど、甘くはないだろうけどね……

 

俺自身の予定としはまず成都より出て刀村跡地。

直線で行く上と能力を使う関係上呂蒙が考えているよりも早く着く江都につくためだ。

刀村跡地で食材を補充したり加工作業を行った後、江都に向かって報告をする。

刀村の連中、呉の連中の様子を見つつ、書状を書いてもらいそれを持って帰る。

その後はすぐには蜀に報告は向かわず、近くの森とかで荷物を隠蔽した後に五胡へ向かう。

 

1日程度だが……最悪は奥にいってみても……

 

得物はないが、おそらくやばい状況まで追い詰められることはない。

ならば一度五胡の中枢部まで一人で侵入を試みて何か俺独自の情報を掴んでおくのも悪くないだろう。

 

まぁ……予定は未定だからその辺は臨機応変にかな……

 

とにもかくにもまずは書状を受け渡すという任務をきちんとこなすべきだろう。

 

「では、行ってきます」

 

そう挨拶をしてから俺は走って助走を付け……飛び上がって成都の壁を越えて、荒野へとむかって跳んだ。

 

 

 

 

 

 

「何度見ても、出鱈目でしゅね」

「はぇ~~~。本当にすごいんだね刀月さんって。実際に見たの初めてだけど、みんなが驚くのも無理ないのかもね」

「劉備様と旅しているときは今みたいな事されなかったのですか?」

「一緒に行動することが多かったけど、こんな行動はしてなかったよ。というか呂蒙ちゃん。固いよ~。もっと普通にお話ししてくれると嬉しいな!」

「で、ですが……蜀の王様相手には無理です」

 

刀月が跳んでいった後に残された三人は、刀月のあまりの出鱈目加減に呆れていた。

唯一呂蒙は見慣れている上に体験もしているので特段驚いている様子はなかった。

仕方ないとはいえ移動に関することで偽りの日数を伝えているためか、少しだけ表情が固かった。

しかし元々人見知りということもあって不自然さはなく、劉備も諸葛亮も特に気にしていなかった。

 

「確かにこれなら、成都から江都までの日数が徒歩なのに馬よりも早く着くのは納得ですね。以前の南蛮に向かうときも同じような行動でしたし」

 

日数に付いても常識的には考えられない行動を目の当たりにしているので、ある意味で疑う事が出来ないというのもあった。

また偽りの報告で伝えられた日数でも、情報の伝達速度が異様に速い上に確実に相手に伝わる……一般兵では下手をすれば盗賊に殺されることも有り得るが、刀月に勝てる相手がいない……のも考慮すれば、かなりの労力負担が軽減される。

蜀としてもありがたい話ではあった。

 

ですが……この力がもしも戦いに用いられたら……

 

しかしそれでも、諸葛亮は楽観ばかりするわけには行かなかった。

刀月も考えていたことだが、同盟関係である今なら問題はないが、共通の敵である魏を倒した場合……蜀と呉の二国のみになる。

同盟を結ぶ前も結んだ後も、諸葛亮に鳳統は情報収集を欠かしていなかった。

その相手はいわずもがな、孫策と孫権の二人である。

二人とも、天下を統べることに極力興味がない事は知っていた。

だからこそ、もしも二国になった場合に自らの主である劉備と争うことなく平和的解決が出来ないかを模索しているのだ。

諸葛亮に鳳統の二人も、乱世が続くこの時代をどうにか平和にしたいと思い、そして劉備の思想に共感を抱いたからこそ尽力しているのだ。

 

だがそこでネックになるのが……刀月という存在だった。

 

あまりの強さを誇る存在。

二人は直に戦う姿を見たことはない……反董卓連合での呂布との戦いは、遠すぎて武将以外は見ることが出来ていない……が、関羽が手も足も出なかったということは本人から聞いており、関羽の武力をよく知る二人からすれば驚きだった。

蜀の最強戦力と言って過言ではない存在の関羽が手も足もでなかった。

これはつまり、もしも敵に回った場合……蜀には対抗すべき戦力を有してない事を意味している。

他に趙雲という猛者がいるが、冷静に分析すれば関羽とほぼ同程度の戦闘力しかない。

二人がかりであればあるいはと考えるが……それが楽観的だというのは先日の呂布との争いの結果が教えてくれる。

しかも厄介なのが、その呂布が刀月の下に付いているという事実だった。

呂布に懐いているため、陳宮も刀月の下にいるような物である。

それだけでなく、公孫賛が刀月に助けを求めて呉に入ったことも知っている。

また袁術を手なずけ、張勲ともそれなりの関係を築いている。

 

下手をすれば……新興国家を樹立できるほど人材が刀月の下にいた。

 

刀月という別格扱いの武。

その下に大陸最強と謳われた呂布がいる。

これだけでもかなりの脅威だったが、それ以上に諸葛亮に鳳統の両名が注意を払っているのは公孫賛だった。

公孫賛は、確かに武のみで考えれば正直そこまで強い存在ではない。

だが特筆すべき点は、その騎馬隊の圧倒的練度と強さだ。

騎馬隊の実力と練度は、涼州馬家の当主だった馬騰と拮抗しているレベルだった。

異民族と戦い続けてきたという意味で、二人とも破格の騎馬隊を有している。

そして曹操に馬騰が敗北したことで、騎馬隊においては事実上大陸随一の実力を有している。

孫策もその実力を大いに知っていたからこそ、刀月を頼ってきた公孫賛を呉に迎え入れたのだ。

その公孫賛は内政においても州を任させる程の手腕を持つ。

この二つが相当高いレベルだった。

 

欠点としては、お人好しであり油断をしたことだろう。

 

その点を突かれて、公孫賛は袁紹に敗北した。

しかしそれでもその手腕は大きく損なわれることもなく、呉の力になっていた。

 

人材は……かなり多い。それに、刀月さんの下にいるというのが……

 

現段階ではどうなるかはわからない。

だがそれでも考えながら進んでいくしかない。

 

今は大いに力になっている存在が……敵に回るかもしれないという最悪の未来を想定しながら。

 

刀月が戦うことを拒んでいることは知っている。

 

だがあくまでも拒んでいるだけで、出来ないわけではないのは、あの武を見れば誰もが簡単に想像できることだ……

 

対策を考えないのは愚か者のすることである。

何か手だてはないか? 二人は必死になって……頭を働かせるしかなかった。

 

 

 




長いなぁ……
いつか終わらせるために、頑張って書いていこうと思います

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