自分でびっくりしました
色んな意味で
遅筆で申し訳ありませんが、完結目指して牛歩でがんばりま~す
暇つぶしに読んだ上で感想いただけたら嬉しいです~
予定通りの日程で、俺は成都と江都を往復できていた。
刀村跡地で食料の加工を行って自身の食い物を補充。
それから呉へと向かった。
そしてこちらの狙い通り……妙手娘が蜀へと出発する前に、呉へとたどり着くことが出来ていた。
「もどったぞ~」
「兵から戻ったという報告を聞いたが……本当に戻ってきたとは」
「相変わらず出鱈目な人ね」
「お疲れ様です~蜀はどんな状況になってますか~?」
褐色知的眼鏡に褐色ポニー、そしておっとり眼鏡の三人が会議を行っている褐色ポニーの執務室へと入ると、三人がそんなことを言いながら出迎えてくれる。
登城する前に兵士に連絡をしておき、報告が上っている間に俺は刀村の連中の様子を遠目から見るだけ確認しておいての入室だった。
後できちんと行く予定だが、刀村の連中はとりあえず問題なさそうだった。
「同盟は問題なく締結された。まぁこれはすでに報告が来てるとは思うが。予想通り人手不足だったようでほぼ即決だったな。ンで各方面に人が散らされて仕事していた感じだな」
ちなみにだが、呉への報告はこれが初めてではない。
数回は報告するために一般兵を早馬で報告に向かわせている。
だがまだ同盟締結して間もないためまだ道中の安全や経路が確定していない。
そのため情報漏洩を恐れて大した情報を書いた書簡のやりとりはしてないのだ。
よって重要な情報を記載した書簡の報告書というのは、これが初めてだったりする。
もう少し呉にも余裕が出来て信頼できる将や部隊が派遣可能になれば、もう少し報告なんかが出来るようになるだろう。
「していた? 過去形ということは何かしらの仕事は終えたということか?」
言葉尻で目敏く意味を察した褐色知的眼鏡が、俺にそう質問してくる。
俺としても説明するのは当然としても、とりあえずは呂蒙の書状を見てもらう方が良いだろう。
「そうなるな。取り合えずこれが預かってきた呂蒙の書状だ」
「拝見するわ」
一番偉い王様に渡す。
むずかしいこともあるが、俺も中身については見ていない。
というよりも見れるわけがない。
立場上間違いなく呉の派遣部隊の大将は呂蒙だ。
実質相当影響力を持った俺といっても立場はあくまでも客将。
そんな俺が大将が呉の王宛に書いた書簡を見れば処罰を下される。
時代的に下手をすれば斬首だしね……
褐色ポニーはそれを受け取って中身を読み始めたのだが……読み進めるたびに顔が歪んでいき、最後には実に呆れた表情をして、俺を見てくる。
「この書状にはあなたが南蛮をたった1日で平定したって書いてあるんだけど……本当?」
「「はい?」」
書かれた内容を確認する褐色ポニーの言葉に、他の二人が素で変な声を上げている。
言っている意味がわからないという感情故だろう。
呉も他国の情報を仕入れるため、細作を尾行娘以外にも各方面に放っている。
そのため南蛮がどんなところか多少は情報を仕入れている。
仮に仕入れていなかったとしても、他国とのいざこざを1日で平定するなんて普通は可笑しい。
そして俺自身も南蛮に関しては正直よくわかってないが、ありのままを話しておく。
しかし実際に見なければ信じられない事柄があまりにも多かった。
そのため俺としても説明しても説明にならず……かなり難航した。
だが最後は結局
「まぁ刀月ならありえなくはないか」
「刀月だしね~」
「刀月さんですから~」
それでいいのか呉のトップ陣営
そう思うが……俺も正直説明が面倒になったのでとりあえず納得してくれたことを喜ぶべきだろう。
褐色知的眼鏡が書状を用意してくれる事になった。
「というか刀月がこんなに早くこっちにこれるなら……公孫賛に連絡のやりとりをしてもらう必要性はないかしら?」
「そうだな。公孫賛の戦力は貴重だ。その分を別の事に回させてもらったほうがいいだろう」
それはやめて欲しいなぁ……
褐色ポニーと褐色知的眼鏡がそう言って、俺が頼みの綱にしていた妙手娘の派遣が見送られることになって俺は激しく落胆した。
妙手娘自身の武はそこそこだが、騎馬隊の指揮と実力に政治としての実力者である妙手娘がこちらに派遣されてきたら、仕事を押し付ける……他の連中のお守り……つもり満々だったのだが、さすがに無理なようだった。
ただそれでも旧交を温める機会くらいは与えるべきだろう。
「まぁ一度くらいは呉に派遣してやってくれ。劉備とは仲がよかったから、袁紹に攻められて心配しているはずだ。少しは交友を温めた方が公孫賛も劉備も喜ぶ。それに俺だけが連絡するってのもあまり良いことではないだろう?」
「なるほど。確かにそうね。刀月が出来ないことも有り得るから、試験的な意味も兼ねて公孫賛には何度かそちらに行ってもらうことにするわ」
一度は普通の手段で連絡を取っておかなければ、万が一ということもある。
その辺をふまえての事だろう。
こちらとしては心の安寧のための手段が廃れなかったのでほっとしていた。
書状に書かれるのは最悪の事……蜀ないし魏の細作に見られること……を想定し、呉の内情はほぼ書かず、呂蒙と尾行娘には俺から口頭で伝達を行うことにした。
といっても呉としても大きな事件は起こっておらず、調練に内政に力を注ぐことが出来ているようだった。
だからこそ客将の俺からの口頭伝達というやり方が出来るとも言える。
自然災害の被害が少ないのが大きいと言う。
自慢ではなく事実として、俺の土木工事がかなり貢献していると言うことである。
「刀月も、なんだかんだで優しいからしょうがないけど、あまり力を発揮しないでよね?」
「まぁ……約束は出来ない」
「でしょうね」
土木工事をやり過ぎても蜀が栄える遠因になってしまうため釘を刺されるが、国同士のごたごたは一般民には到底関係のないことなので、その辺はどうしても一般民の悲痛な顔とかを見てしまうと……俺としては力を貸してしまう。
それが褐色ポニーにもわかっているのか、一応言ってきただけのようだった。
「刀月が帰ってきたじゃと!」
そうして俺が報告をしていると、激しく音を立てながら執務室に入ってきたのは褐色妖艶だった。
少し肩で息をしている。
気配で察知していたので、結構急いで帰ってきたのは知っていた。
しかしわざわざ兵の調練していたはず……城壁外に気配があって、周囲におびただしい気配があったためそう判断……だというのに、肩で息を切らしながらこちらに来る理由がわからなかった。
と、言えば嘘だった。
どうせ戦う相手がいなくて退屈してるか、酒を飲ませろのどっちか……いや両方か
「今すぐ勝負せい!」
「……祭殿。あなたはまだ兵の調練の途中のはずですが」
「そんなことはわかっとる! やることはきちんと指示を出しておいたわ!」
おや一応その辺はしてきたのね……まぁだからって駄目だけど……
褐色知的眼鏡が書状を準備しながら呆れつつ、一応苦言を呈すがその程度では止まらないとわかっているのか、最早諦めているらしく非常に顔が穏やかだった。
そしてそれと同時にその穏やかな顔のまま、俺に視線を向けてくる。
どういう意味だよ……
読心術はさすがに会得してないのでわかるわけもないのだが……しかしこの興奮具合と残された呉の将を考えれば、褐色妖艶が何を言ってくるのかは想像が容易だ。
そしてそんな褐色妖艶を見て褐色知的眼鏡が何を考えて俺を見てきたのかは、考えるまでもなかった。
「おぬしが戻ってきたと言うことは、おぬしの酒をかけて勝負を挑むことが出来ると言うこと! 勝負せい刀月!」
「まぁ気持ちは理解できないでもないが……少し落ち着け」
「落ち着いていられるか! お主がいない間にお主の村の連中を囲って酒を飲もうと思ったら、誰もが頑として譲らん。最近は調練ばかりで飽き飽きじゃし、賊が出てもわしが出るほど歯ごたえのある相手がおらぬ。溜まる一方じゃ!」
聞き捨てならない言葉を聞いたが……まぁそこは後で問い詰めよう
一応俺が作っている日本酒は、刀村の連中が移住してきた一角に加工所と保存の蔵を作って俺専用の設備として建築させてもらっている。
そこで俺が時間を見て自分のために作っているだけであり、中に入ろうにも簡易な結界を施しているので俺以外に入れる奴はいない。
ただ対外的に俺以外に見張りを立てる必要性はあるのでその辺は助と格にお願いしている。
そしてその二人を買収することが出来なかったのだろう。
恩義があるとはいえ将の一人の脅しにも屈しないとは……恐れ入る。
今度褒美をやらんとな……
そして戦う事については相手がいないのだろう。
残された呉の陣営の中で、武将と言える奴は褐色ポニーと褐色襟巻きしかいない。
そして褐色ポニーは先日俺が叱ったこともあって、仕事をしているためあまり戦うことが出来ず、褐色襟巻きは褐色妖艶を満足させる腕を持ってない。
かといって盗賊は褐色襟巻きが討伐してしまうし、出張ったとしても褐色妖艶を満足させる相手が野にいるわけもない。
確かに溜まる物は溜まるだろう。
「確かに今は大きな戦に向けて力を蓄えるべき時。それはわしも重々承知しておる。じゃがそれにしたって日々の潤いがないのは人としてつまらんものじゃ。そうおもうじゃろ刀月?」
「否定はしないな。俺も酒造りは俺の憂さ晴らしのためってのがもっとも大きな理由だし」
得物が封じられているし、刀も満足に打つ暇もない。
戦う相手については、小次郎以上の好敵手など存在しない……と断言しても言いレベルであり、最低でもサーヴァントクラスの連中がいないと、俺としても戦いで満足することは出来ないだろう。
俺の命題の三つの内二つが出来ないとなれば、後は残されたもう一つの命題である料理なんかで憂さ晴らしをすることになるが、食材が満足にないので食材作りから始めなければいけない始末。
飲むことでストレス発散にもなるので、酒造りは色々な意味で今の俺に適した作業と言ってよかった。
「そうじゃろ!? ならお主の腕と酒を知る者として、お主と酒をかけて一戦交えたいというのは当然の流れという物じゃ!」
鬱憤が溜まっている事で自分が何を口走っているのかわかっているのかいないのか、ともかく興奮しながら立て続けにへりくつみたいな事を言ってくる褐色妖艶。
俺は呆れつつも人ごとでもない……俺も鬱憤が溜まっている、酒蔵を買収しようとした……ので、一応話は普通に聞いていた。
将って事は……結構もらってるはずだよな?
そこで思いつくのが……俺が最近金欠気味であるという事実だ。
そして先ほどの台詞……囲うというのは買収するという意味に他ならず……
「ねぇ祭?」
「なんじゃ策殿?」
「今の台詞……まずいこと言っているって自覚ある?」
褐色ポニーが見かねてか、助言というか苦言を呈していた。
褐色ポニーが言っているまずいというのは、あくまでも買収しようとしたことを俺に言っていることを指しているのだろう。
買収そのものが悪いと言っているのではないのは、苦笑しているその表情でわかる。
まぁこの時代、汚職って普通だしな……
俺も買収の内容によっては悪いとは思わない。
そして今回の内容も、そこまで悪いことではないだろう。
問題があるとすれば、一点のみだ。
俺の酒蔵を相手にしていなければ……の話になるが……
褐色ポニーがわざわざいってきたことと、そして言われた内容で少し冷静になったのか、褐色妖艶が反芻するように首を傾げて……すぐに固まった。
自分が何を口走ったのかを思い出したのだろう。
こんなこと以前にもあったな
以前は仕事中に酒を飲んで褐色知的眼鏡に大目玉を食らったときの事だ。
あのときは俺が連行を補佐する役割だったが……今回補佐は必要ないだろう。
「刀月」
「何だ、周瑜」
同じ事を思い出しているのかは謎だが……ともかく褐色知的眼鏡が俺に声をかけてくる。
何か言おうと口を開こうとしていた褐色妖艶の出鼻をくじいた形になっており、また褐色知的眼鏡のある種の妖艶な笑みを見れば狙ったのだろう。
そしてその笑みを見て……俺も同じく面白く笑った。
そんな俺達二人の顔を交互に見て……褐色妖艶が顔を歪ませる。
「策殿」
「なあに? 祭」
「この場合どうすべきじゃろうか?」
「そうね。私の分まで鬱憤発散してきて?」
「何故疑問的な言い方なのか?」
「出来たらいいわねって意味で」
二人の強者がどちらも敵意を向けてきているのだから、歴戦の勇士である褐色妖艶としても怖いことは怖いだろう。
俺としてもまだどうしてやるかは思いついてないので、ここはわざわざ声をかけてきた褐色知的眼鏡の言葉を待ってみることにした。
「今回は酒と武が目的であり、どちらも刀月の案件だ」
「その通りだな」
「酒については以前罰則を与えたため同じ事では効果が薄いだろう。だが私としても、祭殿がこれ以上鬱憤を溜めて何かやらかさないか心配でならない」
確かに褐色知的眼鏡の言うとおり、以前褐色ポニーとやらかした時に目の前で料理酒として使うという暴挙にも近い行動を取って、二人が発狂せんばかりに内心で憤らせたこともあった。
そして武については、俺もわからんでもないのでこれ以上ため込んで爆発されても困るというのは一理ある。
特に褐色妖艶は血の気が多いし、重鎮でもあるから起こした問題の内容によっては示しも付かなくなってしまう。
「おい冥琳! 言うに事欠いてやらかさないとはいくら何でも無礼――」
「黄蓋」
「……なんじゃ刀月」
「今のお前に発言権はない。黙ってろ」
「……うむ」
「うむ? 今どういう状況かわかってる?」
「……はい」
途中で言葉を挟んできた褐色妖艶に、俺は圧を込めた上で睨みつけて黙らせる。
結構威圧したため、さすがの褐色妖艶も素直に従った。
「そこで罰を与えつつ、発散も出来る物で考えてはくれないか?」
「まぁ俺としても別段それほど怒っている訳じゃないが」
実害がないので怒ってないだけだ。
俺の言葉を聞いて褐色妖艶が少し顔をほころばせるが……俺はギラリと、多少大袈裟に目線を鋭くして褐色妖艶を睨みつける。
手心を加える気はないという意思表示である。
ただ……それも一部の話を聞いてからでなければいけないだろう。
「とりあえず保留で良いか?」
「? 保留とは?」
「食材の補充と様子見を兼ねて刀村の連中に会いに行く予定なんだ。それで話を聞いてから結論を出すので良いか?」
「なるほど。もっともな話だな」
買収しようとしたという事実だけを言葉にすればそれまでだが、その買収の仕方によって罰の度合いは変えなければならないだろう。
極端な話、ただ一緒に飲もうと誘う程度であれば問題ではないし、逆に大袈裟に言って助と格の家族を人質にとって脅していれば大問題だ。
まぁ褐色妖艶の性格から、大きな問題行動はしてないとは思うが……
ともかく双方の話を聞くべきだろう。
とりあえず処罰の件は保留にして、俺は一度刀村の連中が済んでいる区画に移動する。
無論褐色妖艶には訓練に戻るようにいっておく。
「刀月様!」
「刀月様! お疲れ様です! 蜀から戻られていたのですか?」
「さっきな」
村の連中が移り住んだところに行けば、俺を見つけた瞬間に群がってくる。
慕われるのは別段悪い気はしないのだが、最近あまり会えてないこともあって必ずこうなるのが面倒だった。
しばらく相手をしていると、きちんと連絡がいったのか助と格がこちらに向かってくるのがわかったので、俺はとりあえず群がってきた連中を仕事に戻した。
食うに困らない程度に裕福な生活を送っている連中ではあるが、それでも働ける時間帯は働かなければいけない。
働かざる者食うべからずである。
「刀月様、ご無沙汰しております」
「刀月様! お帰りなさいませ! 元気ですか!?」
「おう、助に格。お前らも元気そうで何よりだ」
出迎えてくれたツートップの二人も嬉しそうに笑顔で出迎えてくれた。
蜀に行くことは伝えていたので帰ってきたのを純粋に喜んでいるのだろう。
普段であれば何か問題がないならば立ち話程度ですませて仕事に戻ってもらうのだが、今回はしなければいけないこともある。
「刀月様。少しお時間よろしいでしょうか? 御報告したいことがありまして」
立ち話もそこそこに助からそう提案をしてくれる。
きちんと報告をしてくれるつもりで何よりである。
試したわけではないが、これで何もいってこなければ何かしら考えなければいけないところである。
「わかった」
助の家に案内されて話を聞くと、案の定どこかの我慢弱い将軍の話になった。
そして予想通り……杜撰というか豪快というか、実に褐色妖艶らしい買収の仕方だった。
「酒を一緒に飲んで騒ごうだぁ?」
「騒ぐとまでは言いませんが……一緒に飲んでみたいだろという感じで。一応賄賂としてお金もいくらか掴まされそうになりましたが」
普通に買収だな……
あの快活で裏でこそこそするのが大嫌いな褐色妖艶がここまでするのだから、よほど鬱憤が溜まっていたということだろう。
さらに話を聞いてみても別段脅すといったことはしてこなかったようだ。
「おぬしは飲みたくないのか!? それでも呉の男か! と、怒鳴られはしましたが、別段怖くはなかったので」
怖くない時点で本当に怒鳴ってるだけなんだな
腐っても武将……というか将としては間違いなく歴戦の勇士だ。
本気で怒鳴っていれば一般人であればそれだけで縮み上がるだろう。
さすがにそれぐらいの分別はわきまえたと見るべきか。
しかし見事に汚職だなぁ……いや、時代を考えれば当然というかぶっちゃけ逆に常識なんだけど……
この時代、ちょろまかそうと思えばいくらでもちょろまかせるしごまかせる。
むしろ買収なり賄賂がない方が時代を考えれば異常なのである。
俺自身も、自分が関わっているところ以外の事情はよくしらないが、あまりそう言った話は聞かない。
異世界故か、それとも呉が結構歴史のある国で、快活な褐色ポニーに褐色妖艶をして豪快と言わしめる王だった孫堅が偉大だったためかは謎だが、ともかくあまり汚職関係を聞かない。
俺が関わるところは、俺の食材なんかはかなり高級であるためその類の話は多いようだが、俺に恩義があることと、俺を怒らせたら恐ろしい事になるのがわかっているので……誰もが清廉潔白とまでは行かないまでも真面目に仕事を行っていた。
締め付けすぎるのも問題だが……緩すぎるのも問題だねぇ
どちらにせよ褐色妖艶が買収しようとしたのは事実であり、その買収に応じなかった……色んな意味で応じれなかったのもあるだろうが……のも事実。
とりあえず刀村の連中には褒美を与えるのは当然にしても、褐色妖艶には何か罰を考えなければならないのだが、その時俺は当初の罰を思い出した。
……ちょうどいい、脅し方も普通に脅しただけみたいだし、俺もそれで行くか
久しぶりにこいつらに話せて思い出したこともあったので、俺はそれで行くことにした。
刀村の連中には近々褒美として料理やらを俺が作ると約束しておいた。
しかし金が少し心許ない。
かといって褒美なのに質素なのはいただけない。
そのためどこかから金を巻き上げる必要性がある。
思い出したことと、金を鑑みて……
「罰が決まった」
夜。
褐色ポニーの執務室に俺は先ほどのメンバーを集めて宣言した。
執務机の椅子に褐色ポニーが座り、そばに褐色知的眼鏡におっとり眼鏡が控える。
褐色妖艶は机と部屋の扉の中間点辺りで正座をさせている。
そして褐色妖艶と机の中間に、俺が双方が見られるように横になって立っている構図である。
「それで、一体どんな罰を与えるつもりだ?」
弁護人……というわけではないだろうが、軽すぎてもやりすぎても周りに示しが付かない。
故にその辺の塩梅をきちんと判断してくれるだろう頼もしい人材……褐色知的眼鏡よりそんな質問がとんでくる。
「正直、酒を飲まさないということも考えたのだが、それは一応以前同じような罰を孫策と供に下している。それに俺がいないと飲めないことは事実だ。俺がいなくなってまた問題を起こされてもこちらとしても面倒だ」
「ふむ、なるほど」
「一理~、ありますね~」
飲めなくても代用品があればまだ我慢できるだろうが、日本酒の代用品なんぞこの時代には存在しない。
普段飲み慣れた酒では代用品になるわけがない。
せめて度数だけでも強い酒があればまだ代用できただろうが、さすがの俺も日本酒以外の酒を醸造しているほど時間的余裕はなかった。
しかしこの言い方では飲ませてもらえるかもしれないという考えに行く可能性があるので、そこは明言しておく。
「といっても俺も俺自身が楽しむために作っている酒であるので、依然として俺にまともに一撃を与えられたらというルールには代わりはない。決闘というか仕合についても締め付ければ暴れる可能性もある。これも普通にそのままでいく」
「では酒なり仕合については特段変更を加えないと言うことか?」
「ただし完全に同じでは意味がない。罰は与えるにしても以前とルール……失礼、規則が同じではゆるんでしまう。よって、今後は一切手心を加えない。手加減は元々してなかったが、酒が絡んでいれば一瞬で勝たせてもらう。また何かの祝い事であっても、よほどの祝い事でなければ出すことはしない」
俺の言葉を聞いて、褐色妖艶だけでなく褐色ポニーすらも絶望的な表情をしていた。
仕方ないとも言える。
仕合は出来るが、酒が絡めば俺が瞬殺すると明言したのだ。
事実上決闘で酒を飲むことが出来なくなったと言っているのと同じ事。
また酒が絡んだ決闘では、瞬殺されるので武を発散させることも出来なくなったのだ。
決闘とは別に、酒は今まで多少は手心加えたり我慢できなかったときは少し飲ませるくらいはしていたが、それがなくなったのだ。
悲痛な表情をするのも無理はない。
というか今までが少し甘やかしすぎたのはあったかもしれない
しかし飲めなさすぎてもあれなので、言葉ではこういうがたまには飲ませておかなければいけないかもしれない。
ただ俺としても酒は結構重要な部類に入るので、それは飲ます飲まさないは俺の尺度でかまわないだろう。
「そして重いのは間違いなく買収だ。事情聴取をしたところ、本当に問題のある行動はしてないようだが、それでも呉の将たる黄蓋が、平民を脅したという事実は結構重い」
「それは~確かに~。そうかもしれませんね~」
「どうした雪蓮? あまり顔色が優れないようだが、何か心辺りでもあるのか?」
「!? や、やぁねぇ冥琳。そんなこと……ないわよ?」
言いよどんだって事は考えてはいたくらいってところか?
さすがに以前叱ったことで少しは改めているのだろう。
また俺関係で変なことをすると面倒なことになるとわかっているのも大きいと見て良い。
未遂であるのなら罪に問うことは出来ないし、するつもりもない。
とにもかくにもまずは褐色妖艶の罰についてだ。
「とりあえず端的にいうと、酒を賭けた決闘の場合は一切手加減しない。今までたまに飲ませてがそれをなくす。また、俺に挑んでくるのも無制限では仕事にも支障を来す。俺も少し懐が寒くなってきたので挑戦権にはある程度の金銭をいただくことにしよう。後は罰を与える。こんなところだろう」
こうは言うが、挑戦に金銭が必要になった位であまり変わってないと言えなくもない。
罰金を取ることも考えたのだが……実害を受けてないのにそこまでするのはさすがにやり過ぎなのでそれは控えた。
「ふむ、私としても問題ないと思う。穏、お前はどう思う?」
「私も~特に言うことはないかと~」
「こら穏。少しは擁護せんか」
「黄蓋。発言を許可した覚えはない。黙っていろ」
「ぬ、ぬぅぅ」
二人の頭脳派も問題があることはわかっている……酒が飲めなくなったのとほぼ同義……が、それでも今は厳しくいったほうがいいので、何も言わないのだろう。
また俺自身が結構きつめにいっているので、何かしら考えがあることは二人もわかっているのだろう。
「んで罰についてだが……懐かしいことを思い出したので飛ばす」
「「「飛ばす?」」」
言っている意味が理解できるわけもない。
むしろこれだけでわかったら読心術を身に付けているのか疑うレベルだ。
とりあえず罰をこのまま与えることにしたので、全員で外へと移動した。
荒野へと出て、俺は褐色妖艶と向き直って、何も言わずに背後に立った。
そして脇の下に両手を入れる。
「なんじゃ刀月? 背後に回った上にわしの脇に手を入れるとは? 盛っておるのか?」
馬鹿な事を抜かしてきたが……そんな馬鹿な発言には取り合わない。
「ではいってらっしゃい」
「な―――」
何? とでも言いたかったのかもしれないが、俺は発言も許さないとでも言うように高く高く褐色妖艶を上へと放り投げていた。
あまりに突然の事で、そばで見ていたはずのおっとり眼鏡も一瞬ぽかんとしていたが……慌てて上を見て驚いていた。
「な、なんですかそれぇ~~~!?」
珍しく慌てた位だ。
それも無理がないと言える。
いわゆるノーロープバンジーだ。
刀村でも行った折檻方法の一つである。
しかし今回は将ということも相まってさらに高くしており感覚だが、六百メートルほどの高さ……634m「ムサシ」でスカイツリーの高さ……まで投げて、地面に激突する寸前に風翔の力や紅炎の力を用いて激突死を阻止する。
しかも今回はさらに恐ろしいことになるように、途中で風を操作して頭が下に来るようにしており、顔面から落ちるようにしておいた。
遙か彼方に飛び立った褐色妖艶。
そんな様子を見て……残った二人はあきれかえっていた。
「一応聞いておくが……どうにかできるのだな?」
俺の想像の埒外さを一番理解している褐色知的眼鏡が、眉間を抑えながら少し怖い声でそういってくる。
呉の大事な将が死ぬかも知れない状況に陥っているのだからそれも当然といえた。
「もちろんだ。これで落っことして激突したらさすがに死ぬだろ? そんなへまはしない」
「というか……あなた……。どんな力してるのよ?」
「まぁそれは今更だろう?」
「それは……そうかもしれないけど……」
褐色ポニーが俺と上を交互に見ながら……実に呆れたように大きく溜息を吐いていた。
俺が色々と身体能力がぶっ飛んでいるのはよくわかっているだろうが……ある意味で武とは直接関係のない部分で俺の身体能力を経験しているのは呂蒙を除けば褐色妖艶が初めてかも知れない。
罰なので別段罪悪感はないのだが……落っこちてきている褐色妖艶がどう感じているのか、見物であった。
まぁ……気配からいってけっこう恐れている感じだから想像に難くないが……
そんな会話のやりとりとしていると、そろそろ受け止める準備をしなければまずい高さになってきたので、俺はまずは風翔の力を用いて緩やかに速度を落とす。
といっても落ちている褐色妖艶に気づかれない程度にするため、けっこう上の方からやらなければならなかった。
ただこれは刀村でも良くやっていた物でなれた物だった。
「~~~~~~~~~~ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」
落ちてくる褐色妖艶。
手を伸ばして腰を持てるように空間を空けて……その空間に腰が入った瞬間に手を入れて俺の手首、肩、腰、膝、足首で殺し切れてない衝撃を吸収し、とどめとばかりに顔が地面に接触する寸前で、受け止めた。
「どう?」
「……き、きさま……」
これで喜ぶようだったら新たな罰を考えなければいけないところだったが……どうやら効果は抜群だったようだ。
声が震えている上に小さい。
普段の覇気が見る影もなくかなり萎縮してるのがよくわかる。
さすがの猛将も、ノーロープバンジーには勝てなかったようである。
そこで……
「ではもう一回」
「!? ま――!?」
待てと言いたかったのだろうが、これは罰である。
待てと言われてやめるなぞ有り得ず、また俺の酒を不正に飲もうとしたのだ……慈悲はない。
「うわぁ~……刀月さん、もしかして~怒ってます~?」
「まぁ割と?」
そんな俺を見ておっとり眼鏡が少し引いていた。
もちろん残りの二人も同様である。
確かに結構きつめの罰であるのは間違いないので引いてしまうのも無理からぬ事だし、また褐色妖艶が恐れていることから鑑みても恐ろしいことはよくわかるだろう。
まさに、効果は抜群だ! である。
二度目の折檻も落っことすようなへまをするわけもなく、二度目も無事にかえってきた褐色妖艶。
さすがに意地とプライドがあったのか、粗相をすることはなかったが……帰り際は真面目に腰が抜けたのか、歩くどころか立つこともままならず、俺がおんぶして帰ることになった。
よほどおそろしかったのか、普段であればおんぶによって女性をもっとも如実に体現している双丘ネタでからかってくるだろう褐色妖艶が、人肌を求めるというか安定を求めるためか文字通り俺にしがみついてきていた。
意外に思いつつも、ノーロープバンジーなので無理もないと思い、俺もからかうこともわざと落とそうとしたりする悪ふざけはしなかった。
城に戻るまでの間に気弱な娘みたいな姿を晒すことになったことも、罰になったと言えるだろう。
そして満足に動くことも出来なかったので、次の日に仕合と酒を賭けた決闘と相成ったのだが、昨日の件で逆ギレしてきた……まぁ無理もないかもしれない……褐色妖艶が真面目に殺すつもりでかかってきたのだが、俺に勝つことは出来なかった。
しかし怒りがマックスで高まっているので普段よりもしつこく、しかもあの手この手で攻めてくる。
普段なら俺もあまりにもしつこかったらあれだが……溜めた鬱憤発散と、昨日の発散も兼ねて結構付き合った。
すると仕事を途中で切り上げてやってきた褐色ポニーも混じってきて、結構な時間二人の相手をすることになった。
ただ全力での勝負なのでさすがの二人も半日程度でダウンして、仕事に戻っていった。
しかしそれでも結構な数の挑戦をしてきたので、そこそこ俺としても金が潤ったのは嬉しかった。
といっても結局別の生産的な事に金つかんだろうけどな……
あまり私的なことに使えない……鍛造不可、娯楽もない……のだが、金はあって困る物ではない。
得られるときには得ておくべきだろう。
そしてやむを得ないので、俺は手桶一つ分だけの酒を、褐色知的眼鏡に渡しておいた。
「時期は任せるが……本当にそれしか渡さないから慎重にな?」
「全く。どんな戦よりも面倒な事を頼んできたな刀月。まぁ礼は言っておこう」
戦闘的には発散できたが酒的には全く発散できてないので、最終兵器として渡しておいた。
ただ俺のためというスタンスは変わってないので、ほとんどの物は俺の物である。
あちらでも飲みたくなってきているので樽で何個か持って行くことにする。
蔵に付いてはあちらで少し許可をもらって新設すれば良いだろう。
そして酒を渡すついでに、褐色知的眼鏡の体調についても確認しておいた。
「体調は問題ないか?」
「あぁ、刀月と華佗のおかげでな」
俺の診療で見ても、気がよどんでいる気配は微塵もない。
当然といえば当然だが華佗は既に旅立った後だった。
華佗の性格上、問題がないと確定したのは間違いない。
きっと今頃別の場所で医療を行っているのだろう。
護衛についても最強クラスの奴が二人もいるので問題がない。
まぁとりあえず大丈夫そうで安心した……
そうして他にも問題がないことを確認し、俺は二日ほどで呉を出ていた。
書状の中身については、俺が内政に携わっていないのであえて触れなかった。
そういった諸々すべきことを行った。
そして俺的にはここからが本番といえた。
成都まで後一歩というところで、俺は近くの森に寄って認識阻害の術を荷物にかける。
そして、ナイフと拳銃のみを装備し、五胡へと向かったのだ。
ナイフと拳銃にしたのは懐に隠す事が出来るので軽装に出来るためだ。
格好が目立っても意味がないので衣服は普通にした。
だが単身で下手をすれば黒幕の領地に入ることもあり得なくはないので、リュックサックは普通に持って行くことにした。
ただ念のため、蜀でおもしろがって買った仮面を身に付けておく。
まぁ転ばぬ先の杖、石橋を叩いて渡るみたいな感覚だが
能力を使うので、俺を見ることすらも叶わないようにして最高級の隠密行動をする予定だ。
しかし念のため、姿を見られて面倒なことになってもあれなので、仮面は装備しておく。
そうしてやってきた五胡近辺の蜀の領地。
当然といえば当然だが……国境がないのでだだっ広い荒野があるだけだ。
特段特徴もないただの荒野。
俺はとりあえず情報を得るために、後々向かうであろう蜀の将が五胡対応のために建設した城へと向かった。
「蒲公英。騎馬隊の様子はどうだ?」
「問題ないよ~。ただやっぱりみんな不気味に思ってるみたいだから、士気は決して高くないよ」
現在時刻は夕方。
既に日が赤くなり、太陽が完全に落ちるまであと僅かという時間である。
この時代の夜の光源は、月明かりか蝋燭の火、松明などに限られる。
執務室であれば蝋燭の火で十分だが、行軍における手持ちの光源は松明のみに限定される。
大量の行軍は相当困難なことであり、夜に行動することは軍事的においてもよほどの火急でもなければ行われることはない。
必然的に城で警戒態勢のまま待機となる。
状況的に余裕があれば士気も高くなるだろうが、先日の相手が人間に思えないという一種の不気味さを感じる相手との戦だ。
士気が上がるわけもなく、また連戦と長期にわたる戦で精神的にも疲れている。
むしろ援軍もなしに持っていることを褒めるべき状況である。
「敵の狙いが未だによくわからないわね。あれだけの規模の軍を率いてながら、やることはこちらをもてあそぶかのように、攻撃と略奪を繰り返す日々。私たちに後方支援がないことはばれているにしても、あまり策としていいとは言えないわね」
俺が城に侵入し、さらに執務室の位置を把握した後、外の窓から内部の様子を盗み聞きしていると、軍師とおぼしき発言をしている奴の声が聞こえてくる。
ミドリボンの話ではここにいるのは馬超、馬岱、そして董卓の懐刀の賈駆。
ミドリボンが一瞬言いよどんだ事からも董卓自身もいるだろうと考えていたのだが、今盗み聞きしている執務室の中には四人の人間がいるのは確かだが、武将の馬超と馬岱よりも強い奴はいなさそうだった。
賈駆と董卓って武将だっけ?
俺の知識は以下略な上に、ゲームでの知識しかない。
確かゲームで董卓を倒した記憶があるのだが……武将だか文官だかも覚えてない。
ついでに言えば室内には気配的に女性とおぼしき四人のみ。
仮にこの四人……五胡対策の総大将とも言える馬超の執務室にいることから確定だろうが……の中に董卓もいると仮定すれば、この世界では女であると想定するべきだろう。
それに慣れてきた自分がなんかやだ……
と思わなくもないが、正直どうでもいいことなのでとりあえず放置。
また軍師とおぼしきやつの発言も、これといってあまりいい情報はなかった。
ようするに防戦一方であまり敵地深くに侵攻していないと言うことだ。
あまり敵の領地に深く入りこんで殺されても叶わないから当然だ。
また素人娘の考えで侵略をするという思考があるわけもない。
どちらかと言えば侵入されないために対処しているだけで、軍が深く入り込む理由は薄い。
細作が情報を持ち帰っていれば話は別だったのだろうが、帰ってきた奴がいないのでより不気味に思えているといったところだろう。
さて……んじゃま行くとするか
あまり期待はしていなかったが予想通り、何もいい情報を得ることは出来なかった。
だがそれでも良い情報がないことは確認できたのでそれで良いとする。
後は自分の目と耳と足で探せば良いだけの話である。
まぁ……その程度で簡単に足を掴ませてくれるほど容易な相手ではないだろけどな……
一日二日、何の手がかりもなしに動いたところで何か相手の情報が得られるとは俺も思ってない。
たとえば現代における情報の入手であれば、敵の建物で表に公表してない隠し部屋なんかを気配で感じ取れれば、そこに大なり小なり後ろめたい事があるんだろうと思うことも出来るし、片っ端から調べればあるいは情報の入手だけは出来るかもしれない。
ただし今回については建物どころか人すらも見かけないような果てしない荒野での調査になる。
何かしらのヒントなんかもない状態で、闇雲に探す上に相手は俺のことをきちんと意識している。
ほぼ確実に情報の入手は不可能と見て言い。
むしろ時間の無駄と言えなくもないが……俺が体を動かすという意味合いもあるにはあるので完全に無駄にはならない。
まぁ有益とも言えないが……
ともかくぐだぐだ考えても仕方ないので、俺は夜の内に五胡のそこそこ中まで入っておくため、月明かりだけの荒野を疾走した。
そして丸1日と半日荒野をかけずり回ったが、予想通り情報を得ることはなかった。
ただ俺が能力を使用しながら超長距離の行動が出来たため、能力を使用した訓練にはなった。
動き回ることでストレス発散にもなった形ではあったが……それだけであった。
というか、刀が振れなかったからよりストレスが溜まった……
正しく言うのであれば、荷物にしかならないので刀入れを携行していなかった。
行軍には確実に持ち歩く得物達を持っていない事で、ある意味で訓練にならなかった。
さらに言うのであればそれによってより「刀が使えない」事を自分自身が意識してしまって非常にもやもやしてしまった。
しかしだからといってどうにか出来るわけでもない。
だがある意味で収穫とも言えたこともあった。
何せ俺が相当走り回ってにも関わらず、人っ子一人見かけなかったからである。
さすがに俺の力を用いてなお、全く人を見かけないのはいくら何でもおかしい。
何かやましいことがあるのと言っているようなものだが……
何かがあるのは間違いない。
単独で動いている時にそれを把握できなかったのは、少々口惜しいものだったが……さすがに完全に勝手な行動をするわけにはいかない。
やむを得ない事ではあるので、意識を切り替えて俺は成都へと帰還した。
「お疲れ様です刀月様!」
「お帰りなのです、刀月様!」
「おう、ただいま二人とも」
出るときと違い、成都の城壁少し手前で地面に降り立ち、走って城門に近寄って報告を挙げてもらって城に入った。
境界線に備えられた城には寄ってないのだが、寄ろうと寄るまいと早馬よりも早く移動できるので意味もない。
だが、さすがに首都に飛び越えて入っては大騒ぎになってしまう。
そのため慣れるまではこうして一応正式なルートから入っていくべきだろう。
そして城へと入った時に出迎えてくれたのは、呂蒙と尾行娘だった。
二人とも体調に代わりはないようだ。
二人で一緒にいるのは細作疑惑対策のためだろう。
気配の位置からして、調練をしていたのをわざわざ城まで戻って出迎えてくれたようだ。
素直に嬉しいと思えた。
「あっちは特に問題なさそうだった。こちらは変わりないか?」
「はい、問題ありません。諸葛亮さんからお願いされて呂布隊と模擬戦や合同演習なんかを行っておりましたが、大きな問題はなく練度を上げることが出来ています」
二人から報告を聞いて特段問題ないことはわかった。
あまり長々話すわけにも行かない。
褐色知的眼鏡からミドリボン宛の書状も預かっているので、それを渡しに行かなければならない。
会話をそこそに切り上げ、そして夜に一度集まって会議をする段取りをしてから、俺は謁見をさせてもらった。
「戻りました」
「お帰りなさい! 刀月さん!」
「本当に半分の日程で戻ってきたのか? 江都まで、馬を飛ばしても相当な日数がかかるはずだが……」
元気に挨拶をしてくれるのは素人娘、疑わしい感情を隠すことなく向けてくるのは片側ポニーだ。
無理からぬ事なのでその辺はしょうがないだろう。
そして証拠を示す物は、蜀に対して渡す書状である。
「嘘言ってどうする? これが書状だ」
「拝見します」
俺は褐色知的眼鏡より預かっていた書状を、ミドリボンに手渡した。
ミドリボンから素人娘へと手渡されて、中身を一読してから片側ポニー、ミドリボン、魔女リボンの順で読んでいく。
中身は基本ノータッチだが、同盟を続けていく上での話なんぞが書かれているのだろう。
特段眉をひそめたりとかはしていなかった。
現時点ではまだ共通の敵がいるので、あからさまに喧嘩を売るようなことはしないだろう。
「確かに受け取りました。刀月さんもお疲れのことと思いますので、今日はお休みしていただければと思います。明日は土木工事に従事していただき、明後日は調整して五胡に向かう前の軍議を開かせていただきますので、出席をお願いします」
「了解です」
「出来れば後でナナちゃんにも会いに来てくださいね」
「それも了解」
本当はあまり疲れてないのだが、一応今の俺は呉から直接蜀に走ってきた体になっている。
休みをくれるというのであれば、自由にさせてもらおう。
幸い金は巻き上げたばかりで潤っているしな
飲み歩きをしても俺を満足させる店なんぞあるわけもないので、とりあえず持ってきた食材とかを保存する場所とかを考えることとしよう。
城の外れにでも許可をもらった上で簡易の蔵なんかを設営するのがもっとも良いのだが……そうなると俺が留守の時なんかに悪さをする奴が出てくるかもしれない。
そう考えると、ダミーと本物を分けて作っておく必要性があるだろう。
みんなが見えてわかっている蔵なのに、誰も物が盗れないってのは逆に問題だしな……
結界術を使えばおそらく盗める奴は出てこない。
武将の連中が豪快に破壊行為に出れば話は別だが、そんなことするわけもないし一般人では破壊も困難になるはずだ。
変に目立っても面倒なので、本物の蔵はこっそりと隠れて建設しておこう。
休みと言ってもやることは多いわけだ……
それに他の連中がどんな状況かも確認して置かなければならない。
黒幕の連中が何かしているかもしれないからだ。
とりあえずそんなことを考えつつ、俺はミドリボンに蔵を建設する許可をもらっておいた。
許可が下りたので俺は街に繰り出して木材を購入して、適当にダミーの小屋を指定された場所に組み立てておく。
本来他国の人間の倉庫を建設するのを許すのは可笑しい話なのだが、サイズが大きくない……精々現代社会における一般家庭の倉庫程度の大きさ……のと、俺が相手のために、断り切れなかったのもあるのだろう。
ダミーの小屋の中に何入れておこうかねぇ……
組み立てながらそんなことを考える。
そしてあっという間に倉庫の建築を終えると、俺は再び街へと繰り出して気配を頼りに顔を合わせてない連中の様子を見に行く。
入れ墨娘にパンダ帽子、ちんちくりんは特に問題がないようだった。
一応近々五胡に遠征に行く準備は進めているらしく、半ば休日のような状況ではあった。
ただ入れ墨娘はその強さもあって、兵の調練だけでなく武将連中にもよく手合わせを依頼されているようだ。
俺もそろそろ言われるかな?
片側ポニーとの仕合がいつになるのかは謎だが……俺が蜀にいる内に挑んでくるのは明白だろう。
しかし今だに何故真名を呼んでしまった詫びが仕合なのかは……よくわかっていなかった。
それまでに抜ければ良いのだが……
未だ抜けない刀達。
そして未だ尻尾すらもつかめない黒幕の連中。
呉と蜀でそれなりに親しくなった人間達。
大陸の行く末。
何よりも……俺がこの世界で何をするべきなのか?
考えることは山ほどあるが、ともかくやるべきことをやっていくしかないだろう。
五胡がどのような場所かは既にリサーチを終えている。
何もないだだっ広い荒野のため過ごしやすいと言えば嘘になるが、それでも南蛮みたいに熱帯ではないので食材が駄目になりやすいといった嫌悪感がない分楽だろう。
準備については俺の嗜好品の補充は既にすませているので、俺は他の連中を喜ばせるための食材やら材料を得ておくことにした。
また午後三時くらい……体感時間……にナナのところに顔を出して、ちょっとしたお茶菓子を差し入れに、ナナが入れてくれたお茶を戴いてリハビリを行っていた。
この子も……早く治れば良いのだが……
未だ傷の癒えないナナ。
男性があまりいないというのも、一種の弊害として作用しているのだろう。
蜀の人材状況をよく知らないが、上の方に意見が言えるほどの人材で男性がいないのだろう。
優しい素人娘と片側ポニーのことだから、ナナを慮って男性を遠ざけているのもあるだろう。
だがある程度俺以外の男にも慣れなければ生きていくのが難しくなる。
単純な話、世界は男女で大体半分だ。
男と触れあわずに生きていくのはこの先難しくなるだろう。
今後の課題か……
何処までやれるかはわからないが、命を救い面倒を見るのを素人娘にお願いしたとはいえ、ある程度の責任は果たさなければいけないだろう。
そんなことを考えつつ、特段ハプニングが起こることもなく、平穏に次の日を迎える。
そして土木工事を行って……この時も平が俺の監視役になったので、スムーズに移動して難所の仕事を終えることが出来た……汗を流し、次の日。
ようやく会議となり、俺は呼び出しを受けていた。
俺以外にも遠征へと向かう連中は全員が顔を合わせている。
「五胡に向かうのは以前からお願いしていたとおり、この人員で向かってもらうことになります。南蛮同様、厄介な案件をお願いしてしまって申し訳ありませんが……是非とも皆さんの力を私たちに貸してください!」
口火を切ったのは素人娘である。
王なのでそれも当然といえる。
そしてミドリボンから現状の説明を受ける。
ヒットアンドアウェイとでも言えばいいのか、攻めてくるには攻めてくるのだが、侵略するための大規模な部隊ではない。
攻めも引きもうまいため、非常に統率がとれている相手だという。
また人形かと思うほど感情を露わにしないのでその不気味さも、五胡の手強さに一役買っているといったところだろう。
……さて、今度はさすがに手を出してくると思うが
俺が捜査して何も出てこなかった事を考えれば、五胡の連中に黒幕の奴らがちょっかいを出しているのは間違いない。
ただその場合、俺が単独で五胡に侵入したとき何故攻めてこなかったのかという疑問は残る。
俺が単独で行動している際は、能力使用に制限がかからないため警戒していたとも考えられるが……それでも単独の時に手を出す方が遙かに簡単なはずだ。
もしくは何か絡め手で俺を周りの連中から孤立させて何かを狙っていることも考えられるが……いくら何でもやり口が回りくどすぎる。
警戒するに越したことはないのだが……あまりにも鈍重過ぎて相手の正気を疑うレベルだ。
何があろうと食い破るだけ……と言えない状況なのも少々痛い事実ではあるが……
刀が抜けないことで俺自身が万全の状態ではないため、何があってもはね除けると言えない状況でもある。
刀が抜ければ全力が出せるので、よほどの事態にならなければ追い詰められることもない。
刀が抜ければ絶対に大丈夫! というほど圧倒的な実力ではないが、少なくとも抜けないよりはあらゆる事に対応できると言っていい。
何が来てもいいように準備だけは疎かにするつもりはないのだが……ともかく心構えだけは四六時中ゆるめるつもりはなかった。
常在戦場か……疲れるんだけどねぇ~
しかし幽鬼体というか突然出現する兵も相手にはいるので、夜も警戒を解いてはいない。
常在戦場は異世界に飛ばされて幽鬼体を見てから常にしているが……それでも気を引き締めるつもりで俺は今後の予定を再確認しておく。
「南蛮に行かれた時とは違って、袁術さん、そして私たち蜀から愛紗さんとその部隊と一緒に援護に行ってもらいます。未だ敵の全貌もつかめておらず手探りの状態です。ですから……そこで斥候として周泰さんに、五胡の様子を探ってきて欲しいのです」
ほう、意外だ……俺から提案するつもりだったのだが……
ミドリボンの提案に、俺は驚いていた。
確かに呉と蜀のどちらの陣営で見ても、斥候としてもっとも優秀なのは間違いなく尾行娘だ。
「はいです! 頑張ります!」
尾行娘としても少し驚きなのか意外そうにしていたが、すぐに将として顔を引き締めて元気に挨拶をしている。
細作としての能力は群を抜き、さらに武将としてもそこそこの腕を持つ。
おそらく普通の相手であれば、何かしらの情報を持ち帰ってこれるだろう。
しかし同盟国とはいえ他国の人間の将だ。
しかも斥候として出す以上、尾行娘と同等の能力を持った人材以上の奴が同行しなければ足を引っ張るだけだ。
蜀に尾行娘と同等の能力を持った人間は、おそらく存在しない。
つまり、呉の人間に単独行動をさせるという事を暗に許可を出したことになる。
なかなか思い切ったと言えるが……ともかくまず各方面の問題解決を優先したということなのだろう。
まぁこいつを単独行動にするのはあれだから……蜀の人間の心情も鑑みて俺も動くとしよう
「ならば俺もその索敵に付いていって良いか?」
「刀月が……偵察を? 出来るのか?」
「あぁ。俺も索敵にはそこそこ自信がある。それに不気味な国に一人で行かせるのは俺としても心苦しい。それに俺も一緒に行った方が、蜀としても安心だろ?」
片側ポニーの胡散臭い目線に苦笑しつつ、俺は色んな意味を込めてそう言葉を放っていた。
不気味な国に一人で行かせるのは危険のため、護衛として行くこと。
そして「蜀としても安心」とわざわざ前置きをすることで、暗に変なことはしない……とって返して蜀に対しての細作……と言うこと。
さらに尾行娘としても単身で動かないことで、自分の身の潔白を証明できるという利点もある。
悪い提案ではない。
しかし俺の細作としての腕を知らない蜀の人間がいぶかしむのも無理からぬ事。
そのためもっとも簡単な判断材料を教える。
「いぶかしむのもわかるが任せてもらおう。俺は曲がりなりにも周泰を訓練で捕まえたことがある人間だぞ?」
「!? そ、それは本当でしゅか?」
「あぁ」
細作として優秀なことを知っているミドリボンが、俺に噛みながら確認を取ってくる。
それに対して俺は事実なのでただ頷くだけだ。
尾行娘も事実なので否定する意味もないので、黙って頷いているだけだった。
他にも報告で知っている呂蒙も否定しないので、俺が細作としても使えることを認識出来て……蜀の連中は呆れていた。
「お前は……本当に何でもありだな」
「何でもありは少し失礼な気がするのだが……」
「言いたくもなる。武も調理も斥候も全てが相当量の実力者だと……こちらとしては何を思えばいいのかわからなくなってくる」
なんか哲学的な物言いだな片側ポニー
呆れ果ててもはや溜め息すらも出ないという感じなのか、ただただ呆れた顔をする片側ポニーに俺としても思うところがないことはなかったが……確かに全てがぶっ飛んでいることは事実なので否定することも出来ない。
とりあえず問題にならない程度に斥候として仕事をすべきだろう。
まぁそれだけが俺が立候補した理由では……ないがな……
一人で斥候に行かせないのが大きな理由だが……それでも俺としては下心があることも否定できないので、あまり褒められた事ではないので、内心で自虐をしていた。
何せ俺は尾行娘を……囮にしようとしているのだから。
あからさまな釣りに乗ってくるとは思えないがな……
尾行娘という「足手まとい」がいる状況で果たして相手が何かしてくるのかどうか?
これが知りたいのだ。
尾行娘を知らず知らずのうちに囮に使うのだから褒められたことではない。
それも呉や蜀のために利用するのではなく、俺の目的のために利用するのだ。
もちろん尾行娘を護衛するという意味合いもあるにはあるのだが……それ以上に囮の意味合いが強かった。
とりあえず、知らぬ内に利用するとはいえ、利用する以上は無事に帰さないとな……
よほどの奇策でなければ対応しきれないことはないと思うが……それでも警戒を緩めずに頑張るべきだろう。
「はぇ~~~~。刀月さんって本当に何でも出来るんですね」
「何でも出来る訳じゃない。俺だって一人の人間だ。自分が出来ることが出来るってだけだ」
「その出来ることが異様に多すぎる気がするが……」
「修行の成果の賜物だ」
この場にいる蜀の人間で、素人娘と片側ポニーだけは俺の事を以前から知っている。
そのため他の蜀の人間よりも俺がしてきたことは知っているので、どちらも感心し、片方は感心すると共に呆れていた。
俺としては修行があまりにも鬼畜だったから出来るようになっただけに過ぎない。
多才と言えなくもないが、逆に言えば全部が中途半端だ。
一本筋が通った何かを得るために、日々努力を怠るわけにはいかなかった。
具体的には刀の鍛造と武術、そして料理なんだが……
そこで俺的三大欲求がほとんど満たされてないことを再確認して、内心で少し暗くなったが会議の途中なので態度に出すことはなく、内心で笑うしかなかった。
他に会議として……面白いと思ったのは俺達呉をほとんど城の防衛隊として残し、蜀の連中が総攻撃を仕掛けに行くという作戦だという。
理由として相手も騎馬隊がいるという理由と、徒士でも移動速度が速いため、追撃するには騎馬隊の方が都合が良いのだ。
蜀には馬超率いる騎馬隊がいるのだが、今まで城の防衛もあって全力を出すことが出来ていなかった。
しかし呉が城の防衛を引き受ける事で、騎馬隊の戦力を攻めに転じることが出来ると言うことである。
同盟国とはいえ他国の連中に城の守りを任せるのだからなかなかに大胆と言って差し支えない。
肝が据わってるな……
騎馬隊の連携は徒士の連携よりも遙かに難しい。
そして呉も派遣部隊で騎兵隊はあまりいない。
ならばいっそ完全に分断した方が都合が良い。
一枚岩でないのだから即席の連携よりは遙かに高度な戦術が使える。
また他国の兵を危険にさらすよりは、損害が出たときに言い訳も立つ。
大胆すぎる気がしないでもなかったが……素直に感心した。
まぁ何かしら釣ることは出来るだろうから、全く動かないと言うことはないと思うのだが……
黒幕の連中が絡んでいた場合、何かしら動きはあるはずだ。
それが果たして斥候として出ている俺のところなのか?
その後に来る蜀の騎馬隊なのか?
もしくは呉が詰めている城の方なのか?
呉の江都、蜀の成都という可能性もなくはないが……こちらは距離が多くあるため、余力がない可能性を含めると、非常に薄い気がした。
来てくれると良いが……対応できるだろうか……
こちらもあちらも……互いに互いの底を把握しきれていない。
もしかしたら余力がないというのも相手のポーズかもしれない。
気を引き締めて行くべきだろう。
さてさて……何が出るのやら
どうしても執筆するのに充電期間というかやる気というか……まぁそんなのがありまして
気長に続きを待っていただければ~