荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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早く戦争が終わることを心より願っています
またウクライナの方々、今回の件に無関係なロシアの方々が
心穏やかに過ごすことが出来ることも、心より願っています




出立

俺達、呉の派兵部隊。

そして片側ポニーの部隊は準備を終えて城へと出発した。

徒士ではあるが、なるべく早く問題を解決したい蜀として、駆け足で行軍していた。

一応国境線に派遣される部隊のため、精鋭とまでは言わないがそれなりに従軍経験のある部隊のため、行軍に支障はなかった。

俺がいるために何かしらの妨害なり嫌がらせがあるかもしれないと踏んでいたのだが……特段何かが起こることもなく、拍子抜けをしていた。

 

何もないに越したことはないのだが……

 

そう思う気持ちもあったが、いい加減何か変化が欲しいというのも正直な気持ちだ。

ついでに言えば目の前に何かがあるかもしれないという……淡い期待もあるがはっきりしないこの状況に苛ついてしまっていたりもした。

 

焦れた俺がしくじるのを狙っているのか?

 

考えることは多々あれど、ともかく何か変化が欲しかった。

しかしここで焦れずに済むかもしれないという気持ちがあったので、俺としては少し気持ちが楽というか、少しは穏やかでいることの出来る要因があった。

 

何を隠そう……賈駆の存在である。

 

 

 

たぶんだが……賈駆は黒幕と接触したことがあると思うんだよなぁ……

 

 

 

賈駆は董卓の懐刀。

そして反董卓連合で異様な気配を放っていた入れ墨娘と出会った、虎牢関の指揮をしていた存在。

入れ墨娘から情報を仕入れることはほぼ出来なかったが、しかし軍師である賈駆ならば、何か知っている上で俺に情報を教えてもらえるかもしれないという、淡い期待があった。

 

覚えているかは少し微妙だが……

 

何の痕跡も残さなかった黒幕の連中が、何もしてないとは考えにくいが何かしら得る物があればと言う、期待を抱かずにはいられなかった。

軍師であれば頭脳労働担当の存在のため、何か知っていると思いたかったのだ。

 

まぁ挨拶で会話は出来るはずだから……少しは得る物があるだろう……

 

そう悶々と考え事しながら行軍して……五胡の対応を行っている城に無事に到着した。

 

「翠、遅くなって済まなかった」

「そんなことないさ、愛紗。助かったよ」

「お久しぶりです愛紗さん!」

 

元気そうね……まぁ一週間足らずで憔悴するほど柔ではないか……

 

馬超と馬岱は援軍にやってきた片側ポニーと挨拶を交わしている。

先日俺が忍び込んだときから変化はない。

良くも悪くも何も起こっていないということだろう。

悪化しないことは良いことなので素直に俺は喜んでおいた。

片側ポニーと話をしていた二人が、片側ポニーが俺の方に手を伸ばしてくると、それに導かれて俺の方を向いてきて、笑顔を見せてくれた。

 

一応顔見知りではあるからな

 

そんな二人に俺は頭を軽く下げてから、俺からも歩み寄っていく。

 

「久しぶりだな刀月。公孫賛のところで世話になっていたとき以来か」

「お久しぶりです、刀月さん!」

「こちらこそお久しぶりだな、馬超に馬岱。元気そうで何よりだ」

 

といってもなんだかんだで忙しかったのであまり交流は出来ていなかった。

だが別段険悪になる理由もなかったので、食事などを共にしたこともあったので、今もこうして親しげに話をしてくれた。

 

しかし改めてこうして間近で見ても……この二人は実に陽の気が濃いな……

 

馬超に馬岱。

馬超はゲームにも出てきたので覚えている。

騎兵としてかなり名を馳せた存在だったはずだ。

そして名前とその気配の似通った感じが、馬岱も馬超と同じ一族だというのは間違いない。

 

まぁ一応教えてもらったから知ってるけどね

 

血縁関係ということは蜀の連中からも聞いている。

また妹分である馬岱に関しては、少々悪戯好きだという話も聞いていた。

 

「以前はあまり親好を深めることも出来なかったからな。出来れば今度手合わせをしてくれないか? 愛紗に勝った噂の土木怪人の腕を見せて欲しい」

「時間があればな。俺は斥候の役割を与えられているから、準備が整い次第出ることになるし」

「報告は受けているよ。私たちの騎馬隊でも調査は行っているんだが……悔しいことに全く成果が上がってない。頼んだぞ」

 

城の大将に任じられるだけあって責任感とかもあるんだな……少々馬鹿正直な気がしないでもないが、好感は持てるな

 

全てをさらけ出すのはよくないことだが、それでも素直に好感が持てるのはいいと思う。

他国とのやりとりではあまりよくないかもしれないが、部下としては非常にやりやすい上司と言える気がした。

 

「私も~! 愛紗さんに勝つなんて正直驚きだよ! 土木怪人っていうのも実際に見てみたいし! 是非私とも手合わせしてね! それが無理でも怪人は見せて欲しい!」

「こら蒲公英。いくら同盟国とはいえ他国の将相手に少し気安すぎるぞ。お前はもう少し将としての自覚を持て」

「は~い!」

 

何というか……見た目と気配通りの娘だなあ……

 

馬岱からは、ちょっとした薄黒い感情がにじみ出ているのが感じられた。

土木怪人と言うときもおもしろがっているのを隠しきれてない。

悪戯が好きな奴の気配と非常によく似ている。

かといってそれが嫌味に感じたり、不快に思えるようなものではない。

ムードメーカーとしては良いが、確かに将としては微妙と言っていい。

 

差し詰め元気娘に悪戯娘って感じだな……

 

二人と挨拶を交わしながらそう分析していると、その二人の後ろの眼鏡を掛けて帽子を被っている少女がいた。

気配から先日俺が侵入したときに軍師として会話をしていた人間だとすぐにわかった。

 

「刀月様。旧交を温めるのは良いのですが……その……」

 

おっとまずい……とりあえず挨拶もしないとな……

 

そうして俺が元気娘と悪戯娘と会話をしていると、後ろから呂蒙に声をかけられる。

一番偉いのは元気娘だ。

顔見知りで都合はよかったが、こちらとしても一番偉い奴に挨拶をさせるべきである。

 

「っと、まぁ旧交はまた後にするとして、こちらが呉の総大将である呂蒙だ。軍師のためこの城に残ることになると思うので、宜しく頼む」

「は、初めまして! 馬超様! 馬岱様! 呂蒙と申します! どうか宜しくお願いします!」

 

前よりはマシになったとはいえ、まだ人見知りの呂蒙が必死になって挨拶をしていた。

長い袖で顔を隠さなくなったのは成長と言えたが、その辺りももう少しフォローした方が良いかもしれない。

 

「こちらこそ宜しく、呂蒙。私は馬超。こっちは従姉妹の馬岱だ」

「蒲公英だよ! よろしくね!」

「は、ハイ! こちらこそ!」

「ちょっと蒲公英。さすがに他国の人相手にその挨拶はよくないわ」

 

お、なんか委員長気質って感じ?

 

先ほどから後ろで控えていた眼鏡を掛けている少女が、少しきつめともとれる声で悪戯娘をたしなめている。

きついとは少し言い過ぎかもしれないが、声の感じから言っても規律に厳しい感じの人だと思えた。

目線も普段から細めている感じで、すっと鋭い。

怒らせたら怖いタイプに思えた。

 

「初めまして呂蒙さん。刀月さん。私は賈駆。この城の軍師よ。宜しくね」

「こ、こちらこそ宜しくお願いします」

「こちらこそ」

 

やっぱりこいつが賈駆か……

 

事前情報と気配……明らかに武人ではない……からそれとなくはわかっていたが、やはりこの少女が賈駆のようだ。

確か賈駆も男だったと認識している。

しかしこれも既に慣れたこと。

さすがに落胆というか、なんというか……ともかくあまり気持ちは浮き沈みすることはなく、普通に挨拶を交わした。

 

「まぁといっても……私は一方的にあなたを知ってるんだけどね」

「? どういう意味だ?」

「私は虎牢関で指揮を執っていたから、特等席であなたと恋の争いは見させてもらっていたのよ」

 

あぁなるほど……確かにそらそうか……

 

虎牢関で指揮を執るとすれば城壁の上からだ。

もっとも見やすい場所で俺と入れ墨娘との戦いを見ていたのは間違いないだろう。

目立っていたと言えば間違いなく目立っていたはずなので、見ていたとしても全く不思議ではない。

 

といっても距離はそれなりにあったし、しかも俺と入れ墨娘の戦闘だから、見れてないとは思うが……

 

この子によほど「見る」力がなければ、俺と入れ墨娘の戦いは目で追えているとは思えない。

そして距離が離れているので顔を見ることも難しいはずだ。

それを証明するかのようにメガネ帽子……賈駆……が俺のことをじろじろと観察していた。

 

「普通の体躯と変わらないのに恋と戦えたって言うのは……どういう事なのかしらね? まぁそれを言ったら恋も相当なのだけど……」

 

理詰めの人かな?

 

「えい」

「詠ではないですか? 久しぶりなのです」

「恋に音々音もね。元気そうで何よりだわ。家族のみんなも元気?」

「……うん」

「そう、それならよかったわ」

 

ちっちゃい子なのにしっかりしているというか……お姉ちゃんキャラって感じ?

 

明らかに入れ墨娘より年下のはずだが、母性とは違う気配を漂わせて……なんか姉という感じの少女と言えた。

そして入れ墨娘の家族の安否を確認し、さらに本当に安堵している様子から人柄も伺えた。

この懐刀の人柄から、董卓も黒幕の連中に何かされていたのか、利用されていたのはほぼ間違いないと考えて良いだろう。

この城に董卓がいるのかは謎だが、俺としてはそのことはぶっちゃけどうでも良いので、メガネ帽子ともいずれ情報交換をしてみたい思った。

すると俺と考えは同じだったようで、メガネ帽子が俺に近寄ってきて質問をしてきた。

 

「恋と戦った後のあの変な格好したやつ……あいつとあなたは敵って事で良いのよね?」

 

小声でぼそりと言われたその言葉には……確かに黒い感情が含まれていた。

必死……とまでは言わないがそれなりに周囲に気を遣って外に漏らさないようにしているが、未熟なのかそれともそれ以上に恨んでいるのか?

ともかくそれなりに薄ら寒さを感じさせる声色だった。

 

そうか……利用されたと考えれば、こいつが黒幕の連中を憎むのはある意味で当然か……

 

黒幕の連中もさすがに記憶までもいじれなかったのか、あまり違和感がない。

何か呪術が掛けられている様子も見受けられない。

俺の呪術が未熟なので見抜けてない可能性もあるが……ようやく黒幕のことを知っている奴が出てきたんだから、それを見逃すほどバカではない。

仮に罠でも食い破れば良いだけの話である。

 

「もちろんだ。何か知っていたら教えてくれないか?」

「えぇ、もちろんよ」

 

俺の言葉に憎悪が発露されたのを見れば、どんな間柄かは一目瞭然である。

こちらとしてもようやく貴重な情報を入手できそうで嬉しく思えた。

そしてそれと同時に……この娘に関して注意をしなければならないことも理解していた。

 

何かしてこないとも限らない……

 

記憶をいぢるのが無理だったとしても、情報を持つメガネ帽子を放置するとも考えにくい。

大した情報を持ってないことも有り得るし、偽の情報を掴まされている可能性もある。

逆に俺がメガネ帽子に気を取られている隙に、別の何かを仕掛けてくるかもしれない。

変化するのは間違いないが……それがこちらにとって良い変化であるとは限らないのだ。

 

そして俺を嵌めてくる可能性も有り得る……

 

用心に越したことはない。

五胡の連中も黒幕が何かしら裏から手を回していると考えると、さすがに動きがあると考えていいだろう。

そうなると、こちらとしても準備をしておかなければならない。

 

情報は入手するとして、防御策も念のため施しておく必要性があるかな

 

到着したばかりですぐに偵察に行くとは思えないが、それでも俺が偵察に行く事は間違いない。

俺がこの城を離れている間に攻めてこられても面倒である。

故に……もっとも信頼の置ける奴に、対抗手段を施しておくことは間違いではない。

 

「とりあえず将はみんな一度軍議室に集まってくれ。現況の情報を共有したい」

 

城のトップである元気娘の声が聞こえてきて、一度黒幕については後回しになった。

少なくともこの中で、黒幕の事について直接知っているのは入れ墨娘とメガネ帽子と俺だけだ。

入れ墨娘と俺が戦った後、道化ガキと戦ったことは知られているだろうが、それでも道化ガキが具体的に誰かというのはわかっていない。

無論それはメガネ帽子も同じだろう。

 

俺もだけどな……

 

俺と同等の実力を持っているということで誰もが警戒しているが、あの戦い以来姿を見せていないので警戒するに警戒できないという状況なのだろう。

そのことについては俺も問われても何も答えられないので、助かると言えば助かるのだが。

 

さて……どうなるかな

 

そんなことを考えつつ、俺は元気娘の指示通り軍議室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「まずは現況の確認をさせてもらう」

 

現場の総責任者として元気娘がそう口火を切った。

書状である程度やりとりはしているだろうが、これからは文字通り命を預け合う間柄になる。

特に今回は呉と蜀の合同での軍事行動になる。

南蛮の時もそうだったが、あのときは南蛮の連中があまりにも阿呆な攻め方しかしないのと、俺が1日で平定した関係上あまり軍議を必要としなかったが、五胡は違うのだろう。

 

まぁ黒幕が絡んでるっぽいから当たり前だが……

 

「敵の戦力は騎馬隊が主だが、徒士の兵士もいる。驚くべき事は徒士の兵士も騎兵と同じくらいに動いてくるって言う不気味さだ。騎馬隊も徒士もこちらより数は劣っているが……兵の質があちらがよく、何よりも不気味さがこちらの兵の士気を下げている」

 

その辺は書状と特にかわりはないと……

 

「こちらとしても何とかあちらのことを探ろうと細作は出しているのだが……誰一人として帰ってきていない。そんな危険な仕事を、呉の周泰殿にお願いすると朱里は言ってたが……本当に良いのか?」

 

前回成都での会議の情報は既に早馬で届けているようだ。

これに対して呉の総大将である呂蒙を見ながらそう言ってくる。

確かに細作が誰も帰ってこないというのは、それだけ危険であると言うことだ。

何せ尾行娘じゃないほどとはいえ、細作は生半可な実力では選ばれることはない。

情報を得る諜報能力がもっとも重要だが、次に求められるのが体力、そして最後に戦闘能力だ。

細作というのは、情報入手、そして行動に気付かれないことがもっとも重要であり、次に重要なのがその手に入れた情報を一秒でも早く伝達することだ。

武力は本当に最終手段であるため、ぶっちゃけ必要ないと言ってもいいレベルなのである。

だが送り込んだ細作が誰も帰って事なかった事で、蜀の連中もある程度武力も備えた細作を送り出しているはずだ。

それでも帰ってこないというのは不気味でしかない。

そして何よりも危険だという事でもある。

 

「問題ありません。みんめ……周泰なら必ず私たちに情報をもたらしてくれます」

 

そんな不安というか不確定要素が多すぎる諜報活動。

それに送り出す人員である尾行娘の事を、呂蒙は心の底から信用しているのか返事に一切の迷いがなかった。

 

まぁ俺がセットで行くからというのもあるだろうが

 

尾行娘も細作としては一流の腕前だが、俺は能力の都合もあって比べものにならない。

体力も武力もぶっちぎり。

そして能力のこともある程度は知っている呂蒙は、俺が行くことに対して全幅の信頼を寄せているのだろう。

 

「それに刀月様も同行されます。必ず五胡の情報を得てきてくださいます!」

 

これも聞いていたのだろう。

城に詰めていた三人は特に驚くことはなかった。

しかしメガネ帽子は少し疑いの目を向けてくる。

 

「刀月さんが体力的にも武力的にもすごいことは、恋に勝ったことから疑う余地はないのだけど、細作は大丈夫なの?」

「それは全く問題ないのです!」

 

メガネ帽子の言葉を、同じく元気に否定したのは尾行娘だった。

ふんす! っとなんか鼻息荒くというか自信満々というか……ともかく非常に興奮しているような感じだ。

 

「私を捕まえることが出来たのは呉では刀月様だけです! むしろ私が必要ないくらいのお方です」

 

疑うのも当然だが、何度もこのやりとりをするのも面倒である。

故に俺は特に反応はせず、ただ一言返すだけだった。

 

「結果は出すよ。それで、いつ出ればいい?」

 

無駄話をしているのもあほらしい。

結果を出せばそれで良いので、俺としては時間をロスしたくなかった。

何せその分だけ俺の重要な情報共有時間が減るかもしれないからだ。

メガネ帽子がそれを察したのかは謎だが、それから反論してくることはなかった。

それを持って俺と尾行娘が細作として出ることが確定した。

 

「わかった。なら早速明日にでも出発して欲しい」

「日が昇ってからはあれだな、夜中に出るとしよう。それでも良いか?」

「わかった」

 

他に城の状況や兵の状況。

明日以降の陣形や調練などを行う事となった。

特に城の防衛を任されることになる呉の派遣部隊は、明日以降城に慣れる必要があるので蜀が攻める側となって防衛を行うと言った仮想戦闘訓練も行うようだ。

 

本城の防衛を任せるばかりか、攻守逆にするってのもなかなか肝が据わってるな

 

確かに呉から見て真反対に位置する城だが、それでも他国の兵に城の情報を与えるようなことをわざわざ行うのは相当なことだ。

それだけ五胡の連中が恐ろしいと言うことなのだろう。

 

マジでどんなのなんだ?

 

この程度で俺は不安にはならないが……逆の意味で不安になってくる。

三国志といえば相当有名な話であり、そして少なくとも将達についてはどれもが常軌を逸した実力を有している。

俺自身がさらにぶっ飛んだ人間だが、現代人でこの世界の三国の将に勝てる存在はそんなにいないレベルだ。

その連中がこれだけ不気味に思えるのは、確かに恐ろしい相手かもしれない。

 

それとも何か術でも使っているのか……

 

黒幕の一人の道化ガキを俺が圧倒したのはあちらも理解している。

ならばさすがに正面からの武力衝突にはならないはずだ。

搦め手で来るだろう。

 

ともかく接敵がまず第一か……

 

あまりにも情報がなさ過ぎる。

それを得てから行きたかった。

他にもいくつかの連絡事項……まずは互いに親睦&実力やらを確かめるための模擬戦を行う事の打ち合わせ、士気向上のためのちょっとした宴等々……が終えると、解散となった。

かといってすぐに話が出来るほど俺も他の連中も暇ではなく、仕事をしてからという話になる。

といっても俺と尾行娘は偵察が主になるので、その準備にいそしむことになる。

俺達の情報を元に作戦立案を考えているので、俺達が偵察に言っている間に模擬戦なんかを行うようだ。

 

うわぁ責任重大だぁ

 

と軽く考えるが……実際結構重要な位置づけなので少し緊張してしまう。

特に俺が軍事的行動に本格的に参戦するのはこれが初めてだ。

入れ墨娘との時は武力による足止め。

獣妖女との駆け引き。

俺が本格的な作戦行動で出張ったのはこれくらいであり、またどちらも供にその場限りの仕事だ。

今回の偵察はその後の作戦に大きく関わってくる。

現実世界でも偵察やら作戦立案なんかはやっていたことはあるが、ここまで大人数の作戦関係に関わる経験はさすがになかった。

 

まぁ現代戦とこの時代の戦が同じ類の作戦になるわけもないが……

 

装備が全く異なるので一緒になるわけもない。

そして俺も現代戦の心得はあるが、この時代の泥臭い戦がうまくできるわけもない。

仮に戦争行動を行うとしたら、連携なんぞ出来るわけもないし、俺に合わせることの出来る実力者もいないので、単身特攻で暴れ回るのがもっともいいだろう。

 

人殺しをしないので、俺が戦場に戦闘員として出向くことはないだろうが

 

人殺しをしない。

俺がこの世界において自分に課した決まり事。

得物が抜けないので「人殺しをしてはいけない」と判断したからだ。

しかし以前の二つの俺の戦闘に関わるような行動と違い、今回の偵察は間違いなく人を殺すことに関与する行動だ。

それに関して思うところがないわけではないのだが……しかし黒幕が関与している可能性が拭いきれない以上、この関与についてもやむを得ないと、俺は自分を無理矢理納得させていた。

 

詭弁以外の何物でもないな

 

また油断……というわけではないが、今のところ俺が「相手を殺さなければ己が危ない」というレベルの相手に出くわしていない。

黒幕の一人である道化ガキが多少手こずる程度の相手だ。

道化ガキが先兵であった場合、さらに強大な敵がいる可能性もないわけではないが……そんなのがいればもっと早くに投入してくるはず。

楽観的かも知れないが……それでも恐らく戒めを破ってまで俺が戦わなければならない状況になるとは思えなかった。

 

楽観的というか何も考えてないかも知れないが……ともかく大丈夫だろう……

 

そんな自分に呆れつつ、俺は会議が終えると準備を進める。

といっても元々潜入やら偵察といった事は慣れている。

また相方が尾行娘と言うこともあって、俺はリュックサックを使うのもあり……すでに見られているので……だと判断し、荷物を入れるのはそれに決めた。

ただし大きな問題があった。

 

刀どうするかなぁ……

 

抜くことが出来ない刀達。

これを持って行くべきか置いておくべきか判断に悩んだのだ。

俺が抜けない、褐色ポニーが抜けない、さらに他の連中も抜けなかったことから、抜けないのは確定していると思って良いだろう。

気を込める作業だけは習慣なので今でも続けているのだが……気が込められている手応えもない。

だからといってぞんざいに扱うわけがない。

先日俺が弱ったときに認識したが、依存している可能性がなくもない。

だがそれとこれとは話が別だ。

依存しようとしてまいと、そして抜けなかろうと、間違いなく俺にとってもっとも大事な物なのだ。

故に俺の手の届かない範囲に置いておくなんて事は有り得ない。

 

だが……抜けない以上余計な荷物でしかないことも事実だ……

 

偵察任務では身軽さを優先して最低限の荷物を持って行くのが定石である。

俺自身、現実世界で密偵をするときは、よほど困難な場所でない限りさすがに刀を持って行くことはない。

 

気力が使えれば得物なんていらないし、最悪気力を用いたナイフで大概の連中はどうとでもなるからなぁ……

 

まだ抜けるのであれば……最強の得物故に持っていくのもやぶさかではなく、また黒幕の連中を相手にする場合は、刀と同じような得物が欲しいので持って行くのだが、使用できないのでは所持するのを躊躇う。

鞘に収まっている状況のため、普段よりも少しだけ長い鈍器として使えなくもないが……さすがに抜けない刀全てを持って行く意味はないのだが……

 

変に扱われても怖いからなぁ……

 

認識阻害の術やらを念入りに掛けておいておくとしても……置いておくのは少し勇気がいる選択肢だった。

 

まぁ色んな意味でまずい得物である、夜月と狩竜だけは持って行くか……

 

結局、置いておくにしてもまずい奴は持って行かざるを得ないと判断し、俺は夜月と狩竜だけは手持ちで持って行くことにした。

抜くことは出来ないが、鈍器としては役に立つ。

本来鞘は鈍器扱いに出来るほど頑丈な物ではないのだが……気と魔力を込めれば十分に鈍器として役に立つ。

そしてどうせ持って行くのならば、刀入れに入れることの出来る刀は持って行くことにした。

 

四本入るから……夜月と蒼月と雷月に花月か……

 

金属製の刀入れに四本の刀を入れて背負う。

そうすれば多少の防具にも奈留だろう。

また道具運搬道具として、ねじり金棒も持って行くことにする。

そんなことを考えつつ、さらに荷物の準備を進めた。

といってもさすがに明らかに異質な物体……拳銃とか……を置いておくわけにも行かず、はっきり言って情けないことに密偵とは思えないほどの大荷物になってしまった。

それこそリュックサック二個分だ。

俺だからこそまともに動けるが、一般人であれば逃げても余裕で捕まってしまうほどの荷物量だ。

 

これを見られたら密偵としては落第点と思われるだろうなぁ……

 

自分の荷物を鑑みず、少し焦って偵察というか細作を願い出たのは軽率だったと……反省することになった。

だがしかし、失敗だとは思ってない。

細作が一人も戻ってこないということを鑑みれば、尾行娘を一人で行かせるのも得策ではないと思っているからだ。

 

今のところ細作が帰ってこなかったというある種不気味な話が出たのは、連合の時のみだしな

 

細作が帰ってこなかったのは今回が初めてではない。

一回目は連合軍が結成される前、董卓の様子を探る前に首都に細作を送っていたときだ。

そして帰ってこなかった原因としては……黒幕の連中が絡んでいると見ていいだろう。

 

黒幕は妖術使えるから……その辺の事がわからないやつらでは捕まるわ

 

妖術で監視をしているかもしれないし、俺と同じで気配がわかるのかもしれない。

ともかくとして細作が帰ってこなかったのは黒幕のところに侵入したからだと見ていい。

細作が帰ってこなかったから、五胡の連中も黒幕が関与してると考えるのは総計だ。

だが一度あったという事実がある以上、全くの無関係とも考えにくい。

 

まぁ半々ってところだな……

 

罠という考えもあり得たので出来れば一人で行きたかったのだが……それでは逆に相手がこちらに手を出してこないことも考えられたので、俺はあえて尾行娘と一緒に行くことにした。

はっきり言って囮である。

明らかなら足かせというか邪魔者がいることで、ちょっかいが出しやすい状況をわざわざ作り出した形だ。

これに乗ってくるのかは謎だし、逆に俺がいない城の方にちょっかいを出してくることもある。

それについても予防策を張っておくとして、まずは自分自身も囮として出せばあちらも何かしら乗ってくるだろう。

そうして荷物をまとめ終えると、俺は尾行娘に準備が終えた事を伝える。

尾行娘も準備は終えたようで、一度荷物を置いて二人とも準備が終えたことを上に報告することにした。

 

その時ついでに話が出来ればいいな

 

メガネ帽子とは話さなければならない。

唯一の情報源だ。

相手が何もしてないとは考えにくいが……相当の実力がなければ記憶をいじるのはかなり難しいはず。

少なくとも俺は全く出来ない。

仮に記憶をいじっていたとしても、それは相手の呪術の実力を確認できる事になる。

 

まぁ話が聞けた方がありがたいんだが……

 

とにもかくにも会話が出来なければどうにもならない。

はやる気持ちを必死に抑えつつ、俺は上がいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「よくわからない?」

「えぇ。あの連中が妖術を使って都にいる諸侯や文官に何かをしていたのはわかってるんだけど、妖術がどんな物かはさすがにわかってないわ」

「規模は? といっても……それもわからないだろうから、違和感を覚えた諸侯はどれほどいたんだ?」

「少なく見積もっても三桁はくだらないわね」

 

最低100以上って……それだけでも相当やばいわ

 

操ることの出来た人間が三桁以上。

令呪で繋がったような存在でもない、赤の他人と普通に遠距離での会話が出来たことも考えると……相当の実力を有しているのは間違いない。

メガネ帽子も記憶をいじられた様子は見られず、そしてメガネ帽子自身操られている様子も見られない。

 

まぁ様子を見る限りでは判断できないのも事実だが……

 

この操られてない感じが果たして相手の策略なのか、それとも本当に何もないのか?

その辺の判断も安易には出来ない。

呪術の腕前が俺よりも上だと言うことが確定した以上、決めつけるのは早計であり危険だからだ。

下手をすればとあるタイミングで、とある条件下でのみ傀儡として行動することも有り得るからだ。

 

呪術で操ってる訳じゃないが……俺もとある条件下で動くようにあいつらに指示出してるしな……

 

脅しを呪術でしたものの、脅しだけで呪術で行動をさせられるような高度なことを俺はすることが出来ない。

出来ればそれが訪れなければいいとはおもうのだが、それも呉と蜀が同盟した以上難しい状況になってきていると言わざるを得ないだろう。

 

元気だと良いが……

 

人の心配をする余裕があるわけではないが、一応脅して行かせているので心配はしてしまう。

また渡したお守りも今のところ反応がないので、問題ないと考えていいだろう。

そして、今は人の心配よりも自分のことを心配すべきだった。

他に似姿の絵を描いてもらい入れ墨娘の発言の裏付けにはなったが、結局のところそれしか情報がなかった。

呪術の相当レベルが高いこと。

そして身体的特徴の裏付けだ。

 

まぁ後は……自分でどうにかするか……

 

今回五胡に絡んでいるという保証もない。

逆に絡んでないという保証もない。

もう何がなんだかわからない。

 

考えてわからないならとりあえず行動するしかないなぁ……

 

そして唯一期待していた情報源もほぼ空振りと言うことを考えれば……相手から接触してくることを祈るしかないだろう。

接触などという生やさしい物ではなくとも、それをはね除けることは全く問題がない。

ただし俺一人ではないことと、城にも気を配る必要性はあるだろう。

そのため……俺はメガネ帽子と別れてから、一つの木片を取り出していた。

 

鉄のが良いんだが……今はあまり鍛えている余裕もないしな

 

鍛造する設備がない。

最悪は紫炎の力を使えば出来はなくはないのだが、それでは俺がしっくりこないのも事実だった。

以前に槍を鍛えたときに魔力を使用した炎のために普通の火よりもいい鉄が鍛えられる物だと思っていたのだが、結果はあまりよろしくなかった。

 

まぁとりあえず急務の役目だけ果たせればそれで良いか……

 

俺はその木片に「守」とサバイバルナイフで文字を掘ったあと、気力と魔力をそれなりの量を込めながら呪術を発動させる。

といっても俺が出来るのは非常に簡素な術のみ。

これも木片に掛けた呪文は、木片が割れることによって込められた気と魔力が破裂するというものだ。

 

とりあえずこれを呂蒙に渡しておこう……

 

気休めにしか成らないことはわかっていた。

何せ多少不自然になっているとはいえ、相手は100人以上の人間を同時に操っていたのだ。

呪術の勝負をした場合、明らかに俺に勝ち目はない。

そして相手が呪術を発動したその場に俺がいればまだ対処は出来るだろうが、その場にいなければ確実にお手上げだ。

つまり、仮に相手がこの城に俺がいない隙を狙って、黒幕が直接出向いて呪術を使われたら、恐らく俺が今作った木片を割ったとしても術の発動を阻害されて終わるだろう。

 

だがかといって……何もしないわけにもいかないからな……

 

幸いと言うべきか、ある程度電磁投射での移動もなれてきたところだ。

察知さえ出来れば対処は出来るだろうが……賭けになることは間違いなかった。

 

ある意味で今回が一番厄介だな……

 

久しぶりに感じる……俺に親しい人間が失われるかも知れないという恐怖。

現実世界ではそれなりに覚えた恐怖……家族は一切心配しなくて良かったが……だ。

モンスターワールドでも、冬木でも……賭けるのは全て己の命のみだった。

この女だらけの三国志の世界と他の二つが違うのは、明確な敵が存在しているという状況だろう。

無論どちらにも敵はいたが、基本的に俺本人を狙ってくるような敵だけだった。

搦め手のように、俺の回りの連中に手を出すような輩はいなかった。

今回の敵が都合良く……俺以外の連中を狙ってこない。

 

わけないよなぁ?

 

今回は今までとだいぶ状況が違う。

長期にわたって……それこそ年単位……この世界にいること。

明確な敵である相手が、恐らく生きた人間であること。

 

そして敵が呪術を使用して、赤の他人を操り利用することを何とも思ってない外道だと言うことだろう。

 

 

 

冬木の時も相手は生きた人間ではあったが、それでも基本的に本当に卑怯なことをしてくる連中ではなかったからな

 

 

 

士郎は良く悪くも真っ直ぐな男。

遠坂凜も清廉潔白というか単純というか……曲がったことが嫌いだった。

桜ちゃんも自らが虐げられた来たこともあり、通常時であればそういったことはしないだろう。

イリヤも術は使えそうな感じではあったが、外道行為を行うようなキャラではない。

言峰綺礼も、あまり親しいわけではないが、完全に無関係な人間をどうこうすることはなかったと思えた。

葛木先生も操るようなまねはしないし、出来ないだろう。

間桐慎二に呪術の技量があれば行っていた可能性はあるが……あいつにそんなたいそうな技量はなかった。

 

生きた人間というカテゴリで考えれば今までの敵はこんなもんか?

 

間桐臓硯については人間とは言えないので割愛すれば、人間の敵というのはこれだけだろう。

サーヴァントはいわば生き霊?みたいなものだし、卑怯な類をするとすればキャスターくらいだったが、少なくとも俺が見たキャスターはそれを行う余裕……魔力……がなかったようだった。

モンスターワールドは、人間同士で争っている余裕がない世界だったので敵対者もいなかった故に、冬木の街でしか今まで人間の敵がいなかった。

今回は最初からこちらのことを明確に敵対してきている奴が、最低でも二人いる。

片方はまだ声しか聞いていないが、間違いなく厄介なのはまだ姿を確認していないこちらの方だろう。

道化ガキは俺がよほど手傷を負ってなければ、負けることはない。

まだ手の内を隠している可能性はあるが……それはこちらも同じことだ。

能力を使用した戦闘というのはまだあまりしたことはないが、それでもそれなりの技量で使うことが出来るだろう。

 

能力自体は監視でばれている可能性はあるが、戦闘でも使えることはまだ相手に知られたくないからな

 

こちらの手の内を隠すことも考えて、俺は能力を使用しての戦闘訓練はまだ行っていなかった。

以前の二つの世界と大気の魔力(マナ)濃度が違うので、出来れば少しは行いたいのだが……そこはぐっと我慢していた。

さらに言えば俺はまだ全力を出してないのだ。

刀が抜けない故にどうあっても俺は本気が出せない。

都合良く敵と戦うときに抜けるように成るとは限らないが、それでもあちらに隠し玉があっても、こちらにも切り札があるというのはけっこう重要といえた。

 

この世界だと抜けないということもあり得るから……あまりあてにするわけにもいかないが……

 

そう考えると、もしかしたら刀が使えないことを想定した修行かも知れないと思えてきたが……考えてもどうにもならないことはとりあえず棚に上げた。

 

下手な考え休むに似たり……ってか……

 

この場合、下手な考えというのは己自身のことになってしまうが……あまり頭が切れる方ではないので別段そう間違ってないところが悲しいところだった。

そんな思考に自嘲気味に笑いながら……俺はお守りの作成を終えていた。

 

……お守りになることを祈ろう

 

俺がいるからあの黒幕の連中に狙われる可能性がある。

そう考えると俺がいないほうが国としては安全かも知れない。

結局わからずじまいだったが、もしも褐色ポニーに放たれた刺客が黒幕が差し向けていた場合、間接的ではあるが俺がいたから褐色ポニーが命を狙われた……という考え方が出来なくはない。

 

まぁそう考えても、結局相手の搦め手が卑怯なだけであって、あまり責任を覚えているわけではないのだが……

 

俺がいるから狙われたのも否めないだろうが、それでもそれが直接的に俺が悪いとは俺自身そこまで重く捉えていない。

確かに戦いにおいてある程度の行為は許されると思うが、それの度合いをあまりにも超越したやり方をした場合、相手に問題があると俺は考える。

戦争だからといって何もかもが許されるわけではないのである。

 

まぁそれも……状況次第ではあるが……

 

また思考がぐるぐると回り出したので、俺は握っているサバイバルナイフの柄を強く握って……しばらく力強く握った後にそっと力を抜いていった。

力んだ力を少しでも……発散できるように。

考えても仕方のないことならとりあえず考えず行動するのみ。

出発の前にできあがったこれを、俺は俺がこの世界においてもっとも信用している人物である呂蒙へ渡した。

 

 

 

 

 

 

「これは?」

「お守りだ。……一応」

「一応って、何で一応なんですか?」

「もしかしたら、これを持ってるせいで逆につけねらわれる可能性もあるかも知れないってことでな。だが……それでも、持っていて欲しくてな」

 

つけねらわれる……それはつまり、刀月様の敵であるあの不思議な人物の……

 

刀月様より渡されたのは、掌と同じ大きさの木の板だった。

板には「守」と彫られており、何か不思議な力を感じさせる物だった。

わざわざ刀月様がこうして渡してくると言うことは、何かしら不思議な物なのだろう。

刀月様が私や村のみんな、そして呉や蜀の人物に対してひどいことをしない人だと言うことはわかっている。

そして嘘を言わないことも……わかっていた。

 

確かに……あの不思議な人がこれを目印に襲ってくるかも知れない……

 

反董卓連合にて見た、刀月様の本当の力。

そしてその本気の刀月様と拮抗した実力を持っていた、不思議な格好の人。

突然現れて突然消えていった謎の存在。

 

恐ろしく、強い人だった……

 

私は武に関しては素人に毛が生えた程度の実力しか持っていない。

膂力は何故か昔からあったから戦えばそれなりに強いけれど、それだけだ。

技術を持っているわけではないから、武に打ち込んでいる人に勝てるわけがない。

そんな私が、刀月様と戦うことの出来た存在に狙われるかも知れないということ。

そしてこれを渡してくると言うことは……その時に刀月様はいないと言うことなのだろう。

その状況に陥ったとき……私はどうすることも出来ずに殺されるだろう。

そう思うと……心が寒くなるほどに、怖くなった。

 

それを防ぐための……このお守りなんだと思う……

 

だけど刀月様が、私を殺すためにこれを渡しているのではないことも……わかっていた。

今回、刀月様は五胡に向かう。

そのための物だと。

 

そして……それが全て善意でないことも何となくわかっていた

 

悪意を持って渡してきてないことはわかっている。

 

 

 

それでも……何かが起こって欲しいのだと……

 

 

 

心のどこかでそうあって欲しいと願っているのが、感じられた。

今回の偵察任務がそれを如実に表していた。

今まで一度も……刀月様は相手を殺さなければならなくなるかも知れない状況に陥るような状況に、自らが陥らないように立ち回っているように思われた。

それを可能とするのも、刀月様の圧倒的な技術力と、力だった。

あらゆる物を生み出すことの出来る、刀月様のあまりにも恐ろしい知識と経験。

そして土木工事などを一人で行うことの出来る、純粋な力。

 

さらに先日反董卓連合にて見せた、刀月様の圧倒的な武。

 

大陸随一の実力者と謳われたあの呂布の咆吼。

 

あの場にいた全ての者が恐怖し、私のような武をまともに行ってこなかった存在からすれば、身動きすらも出来なくなるほどの恐怖を抱かせた。

 

そんな相手に、刀月様は単身で立ち向かい……驚くべきことに相手を無傷で無力化した。

 

知、力、武。

 

この全てが合わさって、刀月様のある種の横暴が許されている。

 

 

 

あれほどの武を有した人間が……戦場に出ないという横暴を。

 

 

 

刀月様に考えがあるのはわかってる。

 

仮に刀月様が何も考えず、力を振るうだけで良いのであれば……間違いなく三国はすぐに支配される。

 

それだけの力を有していることを、私は知っている。

 

 

 

そしてその力が……ただの力ではないということも。

 

 

 

刀月様の力が、ただの純粋な武だけではないことを、私は知っている。

 

行商にて明かしてくれた、刀月様の不思議な力。

 

恐らくあれは、私以外に誰も知らないはず。

 

といっても私も全てを理解しているわけではない。

 

だけど、刀月様が教えてくれた、あの羽で……あんなに緩やかに落下していくことが出来ないと言うことは、わかっているつもりだった。

 

恐らく私が知っているその不思議な力の他にも、さらに別の不思議な力を持っているんだと思う。

 

その不思議な力を狙っているのか、それとも刀月様自身が目当てなのかわからない。

 

だけど、刀月様と戦っていたあの不思議な格好をしていた人に対して、刀月様はおぞましいほどの憎悪と悪意を向けていた。

 

そして……相手を明確に傷つけようとしていた。

 

そのすぐ前に、大陸随一と謳われた呂布との戦いの時も、余裕を見せて悪意を向けていなかった刀月様が。

 

その相手の情報を得るために、刀月様は、偵察任務を引き受けられたのだろう。

 

 

 

最悪の場合は……相手を殺さなければいけないというのに。

 

 

 

偵察において敵に位置を気取られたり、逆に位置を知られてしまうのは完全な悪手だ。

 

見つかっただけで、なにかしらの異物が紛れ込んできているのだと、わかってしまうのだから。

 

ならば悪手とわかりきっているが、見つかるくらいなら何もしない方がましだった。

 

そして万が一に見つかってしまった場合は……相手を殺さなければならない。

 

不思議な格好の人との戦いで、初めて見せた……冷ややかなほどの憎悪と悪意。

 

あれが感じ取れれば私にもわかる。

 

 

 

刀月様には実力だけでなく……殺したことの経験があると言うことが。

 

 

 

何故頑なにここまで戦いを避けるのかはわからない。

 

恐らく自らの故郷に帰ると言うことが関係しているのだと思う。

 

正直に言って私に刀月様のお考えはわからない。

 

全て善意で刀村の人々を……私を助けてくれたことではないこともわかってる。

 

だけど……それでも……

 

 

 

この人が、己の目的のために進むというのであれば……私は……

 

 

 

救われた命。

 

私を信頼して、秘密を明かしてくれた。

 

そしてこうして……私の身を案じてお守りを渡してくれること。

 

 

 

刀月様が思ってくれるというのであれば何を恐れる必要があるだろう?

 

 

 

そう思って……私はごちゃごちゃと考えていた思考を一度全て捨てた。

 

 

 

盲信かもしれない。

 

 

 

だけどそれでも……私は刀月様を信じると、ずっと前から決めているのだ。

 

 

 

 

 

 

「武運長久と、無事にお戻りになることを、心からお祈りしております」

 

 

 

 

 

何か……すごい覚悟を決められた気がしないでもない……

 

それが俺の、呂蒙が俺の手製のお守りを受け取ったときの態度と雰囲気を見て、感じた感想だった。

焦っている気持ちはある。

そして……お守りを渡したことでこいつが俺にとってそれなりに大事な存在であることを、喧伝することになる。

それを敵がどう捉えるのか?

それが知りたくないかと言えば……嘘になった。

 

だがそれでも……もっとも大事なことが中心にあるのだ。

 

 

 

……なんだかんだで、こいつが一番付き合い長いからなぁ

 

 

 

今までは年を越えることはなかった。

だが今回のこの世界ではすでに年以上の時間が経過している。

そして主要人物であり、かつ俺とともに行動をしている存在は、間違いなく呂蒙だった。

 

この時代の人間にしては……迷信的ではないというか……

 

今のところ、俺の能力を片鱗でも知っているのはこいつだけだ。

古龍達の能力を用いた力。

あまりにも便利すぎる能力。

未だ科学も化学も発達してないこの時代では、俺が能力を全てフル活用すれば間違いなく神として崇められるだろう。

 

薄ら寒いからごめん被るが……

 

信心深いというか、未だ知り得ない物を呪いや神の御業として考える時代の人間だ。

だというのに……こいつはその片鱗を見て、そして自らも体験しているというのに、変わらず俺に接してきている唯一の存在だった。

 

あれでごまかせているとは……思えないしな……

 

恐らく最初は本当にごまかせていただろう。

何せ普通であればあんな跳躍して、滑空するなど……この時代にはあり得ないことなのだから。

あり得ないからこそ……理屈が知られないと言うことでごまかせたとは思う。

だが、頭の切れるこいつが、子供だましのことをいつまでも信じているとは、思っていなかった。

ほぼ間違いなく気づいている……だというのにこいつは俺が最初に言ったことをキチンと守ってくれた。

故にこそ……俺はこいつを信用し、信頼していた。

色々俺自身思うところもある。

 

信用と称して……利用しているといわれたら、否定しきれない自分がいる。

 

 

 

だが……それでも……

 

 

 

「何を考えてるのか、何を思っているのかは、俺自身わからない」

 

 

 

時代が時代とはいえ……文字通り、死ぬ覚悟を決めているほどに信じてくれているこいつを……

 

真の意味で裏切ることだけはしないと……

 

俺自身、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

「それを渡すことが、俺がお前を不幸にするために渡してないことだけは、わかっていてくれ」

 

 

 

それが本当に俺の心からの思いだった。

 

確かに命の恩人ではある。

 

時代を考えれば……薬を与えたことも大きな要因だろう。

 

だがそれでも……俺を信じてくれていると言うこと。

 

俺の事情を、根掘り葉掘り聞いてない状況であるにもかかわらず……。

 

ならばこいつを裏切るようなことだけは、してはいけない。

 

それぐらいの良心は俺にも残っていると、思いたかった。

 

 

 

 

 

 

た、ただならぬ雰囲気なのです……

 

 

 

それが二人のやりとりを見た、周泰の思いだった。

出発の準備が整った旨を伝えるために、刀月を探していた。

なれない城で道に迷ったために時間が掛かってしまった。

そしてうろうろと歩き回って刀月を見つけた時……その側には呂蒙がいた。

周泰としても、呂蒙は特別な存在だった。

長年、呉に仕えているが……年が近い存在はいなかった。

唯一自分よりも呉に仕えたのが浅い甘寧に対しても、年が上ということと、河賊として各地を荒らしていたということで、自らよりも強いこともあって、あまり親しくなれる存在ではなかった。

無論嫌っているわけではない。

ただ……少し苦手なだけだったのだ。

昔から自分で考えて行動することが苦手だった周泰。

隠密が得意と言うことで重用されているが、自ら考えて行動することはほとんどなかった。

そんな状況で、入ってきたのが刀月と呂蒙だった。

呂蒙も頭が切れるが、それ以上に切れて知識も経験も豊富な周瑜と陸遜がいることもあって、自分と同じような立ち位置であると、そう思っていた。

互いにあまり気が強くないということ、年が近いこともあって、二人は仲良くなった。

 

だが……もっとも親しいと思っている存在が、刀月を前にして普段見せないような何かを感じさせる決意を見せていた。

 

そんな表情を見せるのが意外で……そしてその呂蒙を相手にして、刀月もどこか普段とは違った雰囲気だった。

 

 

 

自分に対して優しくしてくれる存在が……自分が親しいと思っている存在を大切にしている。

 

 

 

 

 

 

それを認識したとたん……周泰の胸に何かもやっとしたものが宿っていた。

 

 

 

 

 

? 何なのでしょうか? この感じは……?

 

 

 

初めてのことだった。

だからこそわからなかった。

基本的に自分よりも強い異性と会ったことがないことも起因していた。

言うなれば……周泰にとって初めて異性と認識した存在が刀月だったのだ。

己がもっとも親しいと思っている呂蒙。

この二人のただならぬ雰囲気が……周泰に今まで抱かせたことのない感情を、周泰の胸中に抱かせた。

 

それが一体どういった物なのか?

 

 

 

初めてのことであるために、周泰には知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

刀月が出発する時刻になり、私は出発前に会おうと広間へと向かっていた。

別段意識しているわけではない。

ただあの男がさらに規格外なことが先ほどわかって……それを確かめたい気持ちが強かった。

 

偵察もできるとは……本当にあの男はなんなんだ?

 

周泰殿の細作としての実力は、報告にもあがっていた。

我ら蜀の細作よりも遙かに優秀であるということ。

そして恐らく魏の細作よりも優秀であるということ。

 

さらに驚くべきことに、細作としてではなく将としても通用する実力を有しているということ。

 

細作に強さは必要ないが、しかし最悪の場合は戦闘を行って無事に逃げて情報を伝えなければ細作としては三流以下だ。

そして私が見た限りでは周泰殿は、我らともそれなりにやり合えるだけの実力を有しているように見受けられた。

恐らく本当に名が知れた将が相手では、周泰殿は勝つことは出来ないだろう。

私、鈴々、星、紫苑殿、翠、そして比較的実力が弱い、蒲公英にも真っ正面で戦えば周泰殿では勝てないと思われた。

だが逆に言えば、将でなければ恐らく負けることはなく、そして我らを相手にしたとしても、逃げに徹すれば逃げ切れることだろう。

俊敏に鍛えられたしなやかな体躯が、それを裏付けているように思えてならなかった。

 

その周泰殿を捕まえた? 一体どれだけでたらめなのだ、あの男は?

 

呂布との戦いで見た、あの異様な実力。

武だけではなく、周泰殿を捕まえることの出来る細作としての力。

さらに言えば……呂蒙殿の様子から見て、恐らくまだ何かあるように思えてならなかった。

 

さらに鍛冶も出来るということも、噂が流れてきていたな?

 

鍛冶についてはまだ確証に至るだけの材料がなかったが……刀月が相手であればそれもあり得なくもないと思えてしまう自分がいて、溜息を吐くしかなかった。

 

料理が出来て、土木工事が出来て、鍛冶も出来て、細作が出来る上に……武としての実力は大陸最強と謳われた呂布すらも凌駕する……

 

本当にあまりにも可笑しすぎた。

本当に、人ではないかと思えるほどの豪華さだ。

ただ噂ではあるが……魏に使えている天の御遣いと同郷の人間だという。

それも聞いて……納得出来る材料が私にもあった。

 

初めて刀月を見たとき……あまりにも奇天烈な格好をしていたからな……

 

光を反射する謎の衣服。

繊細な縫製に、上等な布を使った衣服。

さらに履き物も見たことがないもので、さらには何か……違和感のある荷車を引いている男だった。

あの格好を見てさらにあの男のおかしさを鑑みれば……天の国から来たと言われても、納得が出来るというものだった。

 

あれほど純粋に慕われている存在が断言している以上嘘ではないのだろうが……本当によくわからない男だ……

 

そんな益体もないことを考えながら広前へ向かうと……そこには今までよりも非常に何か鋭さを感じさせる刀月の姿がそこにあった。

 

……これは

 

雰囲気が絶対的に違った。

纏う雰囲気があまりにも違いすぎて、一瞬誰だかわからないほどだった。

ただ、身に纏う衣装が普段とあまりにも違いすぎたことと、他では見ない特殊な衣装と言うことで、それが刀月ということがわかった。

 

あれは……私たちと初めてあったときに見た衣装か?

 

小屋から発せられた謎の明るく暖かな光。

その光が消えて少ししてから、この男はナナとともに出てきたのだ。

他にもおかしなところはいくつもあったが、さすがに偵察に行くこともあってかあの不思議な荷車は持って行かないようだった。

だが……荷車と同じく不思議な感じのする長い湾曲した棒と、長方形の長い箱、そして、長い金棒は持って行くようだった。

さらに何故か……大きな背負子が側に置かれていた。

他にも細々した物が多々あったが……長い棒を二つも持っていき、よくわからない背負子もあるため、霞んで見えてしまった。

 

「そんな装備で行くのか?」

 

偵察にはあまりにも不釣り合いな装備だったので、思わずそう声を掛けずにはいられなかった。

すでに私が近づいていたことは気づいていたのだろう。

特に驚く様子も見せずに、こちらへと刀月が振り向いた。

 

「あぁ。こいつらを手放すわけにはいかないのでな」

 

私の言葉の意味がわかっているのだろう。

こちらが細かく言う前に先に言われてしまった。

公孫賛のところで世話になっていたとき、私たちの行軍中にもあれらは刀月が手放す姿をみたことがなかった。

よほど大事な物なのだろう。

 

「呂蒙、いつものことですまないが、残した荷物の管理を頼む」

「承知しました刀月様。他の方には指一本触れさせません」

「まぁ、手を出したら俺が本気で怒って……飯が食えなくなったり、目の前で極上の菓子を食べているのを見せつけられたり、俺が作った酒を俺が目の前で心底うまそうに飲んだあげくに、空高く投げ飛ばして足腰たたなくなるから、大丈夫だろうけど」

 

……最後が何を言っているのかわからないが、恐らくできるのだろうな

 

刀月の荷物については正直ものすごく興味はあるのだが、恐らくこの男は……自らの荷物に手を出した相手は誰であったとしても懲罰を行うのだろう。

それだけの力を有しているのだから。

どれだけ力があっても権力を持った者に対しては力を行使するのを躊躇うものだが……こいつは恐らく一切躊躇せずにするだろう。

 

「それはさすがに……特に最後のはまずいかと。陸遜様の書状で読みましたが、村で行っていた罰則を黄蓋様にもされて、黄蓋様も心底怖がっていたと聞きましたが」

「まぁあれはな」

 

猛将で名高い黄蓋殿が心底恐れた……だと!?

 

呉の武将、黄蓋。

猛将でありながら軍師としての才も持ち合わせた知将でもある。

その弓の腕前は大陸にも轟くほどの威力と射程、そして精緻さを持ち合わせている。

間違いなく、紫苑と同等の実力を有した猛者だ。

蜀でも名を聞き警戒もするべき相手である黄蓋殿が、刀月の罰則を恐れたというのは、衝撃だった。

 

「まぁそれを言わなくても俺の荷物に手を出すような馬鹿は……多分いないだろ。いたらキチンと報告するように」

「承知しました」

 

付き合いが長いだけあって、互いをとても信用しているのだな……

 

調べた限りでは刀月は末恐ろしいことに自分の村を興したらしい。

興したといっても結果的にそうなっただけのようだが……ともかくこの男に命を救われてそのまま居座った連中が増えたために、村になった刀村というものがあったようだ。

呂蒙殿もその一人で、呉に仕える前から刀月と行動を共にしている。

今でもこうして刀月が自らの荷物を預けることから、相当信頼していることが察せられた。

あの荷物については私や桃香様、鈴々だけに飽きたらず、ナナにすら触らせようとしなかったのだから。

 

「それほど大事ならば持って行くことは……出来ないだろうな」

「まぁな。大事なもの……であることは間違いなのだが、置いていく荷物はそれとはちょっとまた別の方向性のある代物だからな」

「別の方向性?」

「まぁ俺にも色々あるのさ。ただ、こいつらだけはたとえ相手が誰であっても、置いていくことは出来ない得物達だからな。こいつらは持って行く」

 

そういいながら刀月が目を向けたのは、細長い棒が二つと、細長い四角い箱、そして質素な袋に包まれたこれまた細長い棒状のものだった。

得物という言葉からも、それが武器を差しているのがわかった。

だが未だ刀月の得物を見たことがない。

もっと正しく言えば、こいつが戦っている姿はほとんど見たことがないのだ。

こいつが得物を持っているのは本人の言葉からもわかっている。

 

なのに何故使わないのか?

 

戦わないのか?

 

それは本気を出してないと言うことなのか?

 

いや、間違いなくそうなのだろう。

 

ただ得物を抜かないことには事情があるとしか思えなかった。

 

それが一体何なのか?

 

それを知りたいと思っている自分がいることに、私自身が驚いていた。

 

そして何よりも……

 

 

 

本気の勝負を、してみたい……

 

 

 

あのとき、ナナを怖がらせてしまった時に感じた、こいつの周囲の人物に対する気遣い。

 

ナナの安全を何よりも優先したこと。

 

そして事情を知らなかったが故に私の真名を言ったことで、私が激怒して何も考えずに斬りかかった。

 

その私を……圧倒的実力差があるとはいえ、こいつは周囲に気遣って取り抑えるだけで終わらせた。

 

そして今も色んなことに気を遣いながら、こうして色んな事をしている。

 

そこに何があるのか知りたくて……

 

 

 

その強さを得て……他者を気遣うことが出来るのかを、聞いてみたかった。

 

 

 

そして可能であれば、こいつの全力が見てみたいと……そう思った。

 

 

 

 

 

 

見送りに来てくれた連中と会話を行って再度作戦を確認し、俺と尾行娘は五胡へと出発した。

馬も隠れることを考慮して使用することはしなかった。

というよりも、俺と一緒に行くのだから……俺が足にならない理由がなかった。

 

「と、刀月様! すごいのです!」

「喋るな、舌噛んでも知らんぞ?」

 

俺が作った特製背負子の上で尾行娘が驚きの声を上げている。

さすがは細作として各地を走り回っているだけあって、高速移動と高所には慣れているようだった。

特段問題ない様子だった。

普段と違うのは滑空をせずに放物線を描くようにして飛び上がっているだけだったりする。

そんな状況で意外というか……考えれば当たり前なのかも知れないが、この背負子を使うときに呂蒙の雰囲気に変化があったことだ。

さすがにそれを見て本人に聞くような馬鹿なことはしなかったが……多分嫉妬だろう。

 

……めんどくさいなぁ

 

それを見て率直な感想は……非常に申し訳なかったがそれだった。

呂蒙こそもっともわかっているはずだというのに……まさかあんな表情をするとはちょっと思ってなかったのでびっくりだった。

 

まぁそれだけじゃないというか……わかっていても反応してしまうのが人間というものだが……

 

俺が男女のまぐわいを、警戒しているのを知っているのは呂蒙のはず。

何せ俺が刀村で一切色目を使ったことがないからだ。

やろうと思えばハーレムを築けたというのに。

そしてそれは呉に俺達が加わっても一緒だった。

将達が俺の子種を狙ってきても、俺は一蹴した。

 

いや直接的に狙われたことは……まぁそこまで多いわけではないのだが……

 

だから俺がこうして尾行娘を背負って行くのも効率を重視してということは、呂蒙だけはわかっているはずだ。

しかしわかっていても反応してしまったということなのだろう。

実際呂蒙は一瞬だけ目を見開いて反応して見せたが……すぐに普段通りの姿を見せていた。

 

心中動揺しているのはすぐにわかったが……

 

その辺りのケアも考えなければいけない。

別段ケアをする理由はないのだが……呂蒙に嫌な気持ちにさせたままというのは、俺がいやだった。

 

口説くつもりもないのに優しくするってのも……いいことではないんだがなぁ……

 

突き放すべきなのか?

道具として扱うべきなのか?

優しくすべきなのか?

 

そのうちいなくなる俺が。

 

 

 

まぁ最後には生命は皆死ぬわけだが……

 

 

 

そんな益体にもならないことを考えながら、俺は尾行娘を背負って静かに土埃を起こさずに五胡の大地を疾走していた。

 

 

 

ぐるぐる回って考えがまとまらなかった。

 

 

 

それがどうしてかはわからなかった。

 

 

 

このときの俺は気づいていなかったが、俺自身呂蒙の態度を見て少し動揺していたのだろう。

 

 

 

そしてそれ以上に……

 

 

 

何かが起こるのかも知れない……

 

 

 

そう本能的に感じていたのかも知れない。

 

 

 





あれだな
書いててあまりにも長々過ぎて嫌になってきたなw
本人自身w

短く書けたらと思うのですが……やはり下手だなぁ

長々続いてますが、暇つぶしになれば幸いです
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