5/19(火)は23:30まで残業で、誤字脱字の確認が無理だった
皆様いかがお過ごしでしょうか?
よもやこのような事態になるとは誰も想像できませんでしょうが、
少しでも暇つぶしになれば幸いです
何よりもコロナを罹患しないことが最高の予防です
みんなの力で乗り切りましょう!
「白蓮ちゃん! 久しぶり!」
「久しぶり、桃香。相変わらず元気そうだな」
なごやかだなぁ……
領地へと入るための関所にいた兵士に通行料を支払った上で、賊を引き渡した俺はそのまま三人娘について行くことになった。
領主である公孫賛に会いに行くので、俺も一緒にどうかと誘われたので、ありがたくその誘いに乗った。
別段領地についた瞬間にすぐに別れてもよかったのだが……それでも街の中を散策してこの世界の常識をある程度入手しようと思ったのだ。
幼子が心配だったというのもある。
おそらく俺を誘ったのはいろいろ思惑があってのことだというのは十分理解していたが……別段急ぐ事もないためついていき、公孫賛の個室へと案内された。
そして挨拶もそこそこに、久々の再会に二人は嬉しそうに会話を弾ませていた。
親しく、なにより嬉しそうに話すその様子から言って、どうやら公孫賛とやらと知り合いというのは本当だったようだ。
いや、そら嘘つくわけないか……
公孫賛はどうやらこの幽州の州牧とやらのようだった。
州牧とは、州のトップのようでかなり偉いらしい。
そこまで偉くなっているなんて知らなかったと、素人娘が驚いていた。
だがそれでも素人娘と知り合いということで謁見を許されて、今に至った。
素人娘としては、地方とはいえお偉いさんと仲がいいのは……恐らくそんなこと考えてないだろうが……行幸だろう。
公孫賛にしても片側ポニーにちみっこもいるから戦力としてもかなり強化される。
悪い話じゃない。
公孫賛……正直知らん
前にも言ったが俺は知識が多い方じゃない。
サバイバル知識等は豊富だが、歴史に詳しい訳じゃない。
三国志はせいぜい三国の主要な人物の名前……ぶっちゃけ友人がやってたゲームに出てきた人物……しか知らん。
故に目の前で素人娘と親しげに話をしている存在が、俺の世界で男だったのかどうかは……知るよしもなかった。
だが歴史を紐解いても、俺の世界は基本的に男尊女卑だ。
おそらく男だろう。
つまり……この公孫賛という存在も俺の歴史と違い「女」としてこの世に生を受けているということなのだろう。
頭が痛くなってきた……
後ろの方で、思わずため息を吐いてしまった。
またぞろ気が遠のきそうだった。
「どうしたのだ、おにいちゃん」
「……何でもない」
ちみっこが心配してくれたが、説明できるわけもないのではぐらかした。
ちなみに幼女は片側ポニーのそばでじっと不思議そうに二人のやりとりを見ている。
俺とちみっこのやりとりが二人にも聞こえたのだろう。
「と、つもる話はまた後だな」
公孫賛が一度話を切った。
そうして居住まいを正し、公孫賛は自ら名乗った。
「改めて、
人情があり、組織もしっかりしていて仕事もこなしている……優秀な人物なのは間違いないようだな
俺たちの報告を受けているということ。
友人関係とはいえきちんと礼を述べること。
さらにもてなしまでしてくれるということは、財政的にも余裕があると言うことだ。
また幼女はいくら洗濯しているとはいえ、かなりぼろぼろな格好だ。
それでもいやな顔一つしないというのが、素人娘の知り合いだけあってお人好しであり、優しい性格をしているのだろう。
総合的に判断して、さすがは州の一つを任されるだけはあると言うことだろう。
だが……
何というか……特徴がないのが特徴という感じの人だな……
初対面の女性を前にしてこう分析するのも非常に失礼だが……何というか、強烈な印象がなかった。
ぶっちゃけ華がない。
仕事も出来るし、見た目と気配から察するにそれなりに出来る……といっても片側ポニーには及ばないようだが……が、それだけだ。
見た目も平均以上なのは間違いなく美人の部類に入るのだが……俺の個人的感想を述べれば、三人娘よりも可愛いないし美人ではない。
全てにおいて……妙手にはなれるが達人にはなれない感じだな……
ものごっつ失礼だったが、それが俺からみた公孫賛……妙手娘に対する正直な感想だった。
「それで桃香……後ろの三人にその小さな子供は?」
「うん、紹介するね! 妹分の関羽ちゃんと張飛ちゃん。それで男の人は刀月さん。刀月さんは旅の人みたい」
「旅の人……か」
まぁ怪しむよね……
素人娘に紹介されて俺を見る目は……間違いなく検分する視線だった。
格好が非常にあれだからだ。
ちなみに今の俺の服装は最悪の事態も想定した、実戦仕様……Gパン、Tシャツ、黒の革ジャン、コンバットブーツ……の服装だ。
全てにおいて気を込めながら制作し、手入れの際に気も再度込めている特注品である。
しかし当然現代衣服のため、目立つ。
衣服屋に行ってこの世界の衣服を仕入れたかったが……金がないのでそれも出来なかった。
かといって三人娘に借金するのは嫌だったので、まだ現代衣服しかなかった。
革ジャンは、過去の世界でも、目立つ物
至極当たり前の話だった。
むしろ三人娘が俺を連れてくれたのがおかしいくらいである。
「それとこの子は、ナナちゃん」
しゃがみ込んで幼女の肩を優しく抱きながら、素人娘は俺たち全員の紹介をしてくれた。
それにあわせて俺たちもそれぞれが名乗る。
だが幼女……ナナは喋ることが出来なかった。
「? どうした?」
自己紹介がないことに、純粋に不思議に思っているらしく、公孫賛が首をかしげて言葉を促すが……ナナは話すことが出来ず、素人娘にしがみついた。
ちなみにナナというのは喋れない幼女のとりあえずの呼び名だった。
名無しの権兵衛……名無しからとってナナ
男だったらゴンちゃんとかでもよかったのだが、幼女の名前としてはあまりよくないのでナナにしたという、実に安直な呼び名だった。
「その子は俺が保護したのですが……盗賊に奴隷のような扱いをされていたのです。おそらく元々は喋れると思いますが、心に傷を負っているため……。平にご容赦を」
「……そうか、それはすまなかった」
幼女に笑顔を向けて敵意がないことを示しながら、公孫賛はそういって頭を下げた。
本当に人がいいようだ。
「そう堅くならないでくれ。民を守ってくれたおまえたちは先にも言ったように客人だ。食事も用意させているから、後の話は食べながらにしよう」
「ごはん!?」
つまらなそうに話を聞いていたちみっこが、実にわかりやすく飯に反応していた。
その実に欲望に忠実な反応に、片側ポニーが頭を痛めていた。
だがそれも無理からぬことだといえる。
賊がいることも相まって実に強行軍だったため、ろくに食事もとれていない。
正直俺としても飯が食えるのはありがたかった。
「部屋は後で案内させる。何か必要な物があったら言ってくれ。それと風呂も用意させているから後で入るといい」
おいおい、マジで大盤振る舞いだな
風呂と言えば簡単だが、この時代は電気もガスも水道もない。
風呂釜に水を入れて、薪で火を興して湯を沸かす。
並大抵の労力では、風呂に入れる物ではない。
よほど公孫賛は素人娘が来たことが嬉しかったのだろう。
俺も風呂には入りたかったが……その前にやるべきことがあった。
「公孫賛殿、早速で申し訳ないが粗悪な物でかまわないので、男物の服をいくつか譲ってもらえないだろうか? 持ち合わせがない故、明日になってしまうが労働という形で払わせてほしい」
「ふむ……確かにその衣服は目立つな。すぐに用意させよう」
ありがたいことで
公孫賛も怪しんではいるのだろうが、それでも素人娘が連れてきたことと、賊を討伐したことである程度信用してくれているということなのだろう。
俺の願いをすぐに聞き届けてくれた。
そして当然衣服の着方などわかるはずもなかったが、それも教えてもらいつつ着替えと風呂をすませて食事が用意された部屋に行くと……見知らぬ女性が二人いた。
「食事の前にこちらも人を紹介したい」
と公孫賛が言ってきたため再度自己紹介と相成った。
「あたしは馬超。字は孟起。母の馬騰の名で天下を見て回る旅をしている。よろしくな!」
馬超? 馬超も確か男の武将……いや、もう深く考えるのやめよう……
もうあまり深く考えないことにした。
それがこの世界で生きていく上である意味もっとも上手な過ごし方と思えた。
「馬岱だよ! 翠お姉様……馬超の従兄弟でお姉様同様この伯珪さんのところで客将やってるんだ! よろしくね!」
馬岱は知らん
俺の知識は以下略。
元気よく挨拶してきた幼さの残る少女を、俺は若干失礼ながら半ば呆然と見ていた。
好感の持てる明るい女の子だったが……俺の世界では男かもしれないと考えると、少々思うところがなくもなかった。
そしてそれぞれが自己紹介をすませて食事をいただいた。
料理人として実に興味深い料理だったが……まぁ味については致し方ないだろう。
まだまだ未熟だしな……
料理人の腕以前の問題として……調理技術が未熟なのだ。
当然調理する道具も未熟。
そんな中現代人の舌が肥えた俺が食べれば、不満が出るのは当然といえただろう。
うまかったが、俺ならもっとうまく作れたと断言できるのは……俺にはその全てを補う方法が存在しているからだ。
故に……調理知識を頭の中で回転させ、分析しながら食事をいただいた。
食事中は素人娘と妙手娘が思い出話に花を咲かせていた。
ちみっこは食事に夢中で……備蓄を全て食い尽くすのではないかと不安になるほどの勢いで食っている。
「ほら、ゆっくり食べればいい。誰も怒らないし、とったりしない」
「……ぅ」
そんな状況では、素人娘が相手できないため、片側ポニーがナナの相手をしていたのが少々驚いた。
ナナも最初こそ目の前に出された料理の豪華さ等に驚いていたが、必死になって食事をしていた。
そしてそのフォローを片側ポニーがしており……口についた汚れを拭いてあげるとかほぼ母親みたいな事まで……、ナナ自身もこの数日を共に過ごしたおかげで片側ポニーに慣れた様子だった。
これならいけそうだな……
少々心配だったが、三人娘がナナの面倒を見てくれそうだった。
押しつけるようで申し訳なかったが、それでも男の俺を恐れている以上、俺が連れ回すのは無理だ。
この時代に孤児院のような施設や制度があるとは思えないので、このまま三人娘に預けることになるだろう。
そこらはまた後日正式にお願いすることにする。
すぐにでも旅立てればよかったのだが……ここで俺は己の失策を思い知ることになった。
ここが異世界であると同時に……中国大陸であることを失念していた
疲れていたこともあり、食事の後は解散となった。
俺は無理を言って城の中に預けていた台車を、俺の部屋のすぐそばの中庭に置かせてもらった。
いくら認識阻害をしているとはいえ、手元に置いておかないと安心できなかったからだ。
わずか数日しか経ってないというのに……疲れた
体力的にではなく精神的にだ。
ナナが怖がらないように元盗賊どもを俺が連行していた。
最初に脅したのがきいたので逃げ出す馬鹿はいなかったのは幸いだったが……しかしやはり荒れくれ者を連れて回るのは、正直面倒だった。
だがそれもすでに終え、さらにナナの面倒をお願いすることも出来そうな状況になった。
俺としては朝に仕事をもらってすぐにでも去ろうと思っていた。
このままでは義勇軍に取り込まれかねない
俺が実力者だと言うことは、すぐにでも妙手娘も知ることになるだろう。
何せあの片側ポニー……関羽が武力で負けた男だ。
黄巾党との戦では是が非でもほしいはずだ。
だが俺は不殺を貫く以上、自ら無理難題……仮に軍に編成されて戦うことになったとき、殺さずに敵と戦うなど困難この上極まりない……に飛び込むつもりはなかった。
故に逃げる。
土木仕事を一日二日やれば衣服代にはなるだろう
と……思っていた。
そう思っていた夜が……俺にもありました……
「黄巾党?」
実に間抜けというか間延びと言うか……気が抜けそうな発音で素人娘が妙手娘の言葉を復唱していた。
俺は多少……本当に多少だが黄巾党が何なのか知っているので、素人娘の言葉に思わず膝から力が抜け落ちそうになってしまった。
「あぁ。桃香たちが捕まえてきた賊。黄色い布を巻いていたのに気づいたか?」
「そういえばそうだったのだ」
「黄巾党。各地で暴れ回っていると話には聞いているが、規模はどの程度なんだ?」
「私たちも完全に把握できている訳じゃない。わかっているのは神出鬼没であること、そして黄色い布を巻いているということ。そして張角という名の首領がいることだけだ」
一晩経った翌日。
早速会議ということに相まって、俺もその会議に参加した。
素人娘に妙手娘、ちみっこに片側ポニーが話をしているが……俺は四人が見ている地図と、すぐそばに置かれた木簡を見て固まっていた。
……よめねえ
漢語だった。
いや読めてないので「漢語であると思われる」が正解だろう。
言葉が通じるため油断していたが、ここは中国。
当然使用されている文字は漢字だが……漢語のため、まったく読めなかった。
読める漢字があっても意味が違うしな……
言葉が通じるから油断していた。
物語よろしく言葉が通じるので読み書きも出来ると期待していたが……そこまで甘くなかったようだ。
まぁ……いいか……
仕官するつもりなら問題だが、俺は当然仕官するつもりはない。
故に俺はとりあえず文字の読み書きは後回しにした。
「白蓮ちゃん。私たちにも手伝えることあるかな? 義勇軍を募集してるって聞いて私たちきたんだけど」
「あぁ、話は聞いてる。大歓迎だ。北の盗賊討伐を手伝ってほしい。馬超と馬岱は別の場所にすでに出向いてもらっている。小さいところは大変でな」
「わかったよ、白蓮ちゃん!」
「了解した」
「わかったのだ!」
各々が元気に挨拶をする中……この中で一人正反対の意見を言うのは少々気が引けないでもなかったが、俺は普通に発言した。
「すまんが俺はそれにはついて行かないぞ」
「何?」
俺の言葉に意外そうな声を上げたのは州牧である妙手娘だった。
予想通り片側ポニーから、俺の話を聞いていたのだろう。
そして驚いていたのは他の三人も同様だった
戦力として当てにされていたのだろうが……それに関して俺は拒否した。
「俺には俺の事情がある。俺は戦闘行為を極力したくないのでな。もちろん仕事はするが武力として当てにしないでくれ」
「しかし刀月……。関羽に聞いたぞ? それだけの力を有しているのに……」
「土木工事なんかで使ってくれてかまわない。だが戦闘行為はお断りだ」
妙手娘の言葉が言い終える前に、俺はきっぱりと拒絶した。
俺の意志の強さと、そして客人に無理強い出来ないという面子があったのだろう。
妙手娘はため息を吐きながらそれを承諾した。
「安心しろ。俺の土木工事は並じゃないぞ。一日で十人分の仕事をしてやるよ」
「ほう……いったな」
当てにしていた戦力が、大きなことを言ったので困らせてやろうという考えだったのだろう。
妙手娘は実に挑戦的な笑みを浮かべて俺に仕事を回してくれた。
そしてその仕事は……
本当に土木工事だな……
現場に来て思ったことはそれだった。
州牧近くの川の治水だった。
曲がりくねっている川を少しでもまっすぐにする土木工事だった。
治世してるなぁ……
と、普通に有能な妙手娘に感心しつつ……俺は気力と魔力を使用して全力で仕事を行った。
「音超えの土掘り!」
まずは土掘り。
当然重機なんぞあるわけもないため、全て完全な人力だ。
俺は妙にテンション高めに叫びながら、木製のシャベルを使用して一瞬でほかの連中よりも早く土を掘っていく。
「「「うぉぉぉぉぉ!?」」」
「怪力!」
穴を掘ってて巨大な岩が出てきても何のその。
一人で直径5mはある巨石を持ち上げて集積所まで高速で走って運んでいく。
「「「えぇぇぇぇっぇ!?」」」
「一閃!」
また土掘りの担当箇所が終わると、すぐ側の森の伐採も命じられた。
渡された斧を振って一刀で太い木の幹を一斧両断。
ほかの手慣れた木こりでも、一時間ほどかけて一本ぶった切るのを、俺は一秒で一本の木をぶったぎり、倒れてくるまでの数秒の間に枝落としを完了させ、一人で集積所まで軽々と運んでいく。
ついでに巨木の根っこをべりっと引っこ抜くことも忘れない。
この一連の動作がわずか10秒程度。
「「「ありえねぇぇえ!?」」」
十人前でも軽かったかな?
とまぁ……かなりの労働力として周囲を圧巻させていた。
気力と魔力があるため、当然の結果と言っていいだろう。
俺の土木工事での仕事は妙手娘にも報告されて……戦闘よりも頼りになると認識されたので、次の日も土木工事の仕事をお願いされた。
何せ遠征にいってもその大部分が移動に費やされる。
そんな遠征時間よりも、工事で作業させた方がプラスになるのだ。
結構な現場の手伝いをお願いされてしまった。
当然複数の現場ではあまりにも時間がかかるので、要所のみの手伝い……巨石が多くて工事が進まないところや、木々が鬱そうとしているところ等々……だったが、それでも十分貢献したと言っていい。
だがそれでも工事で二週間ほどかかることがすぐにわかったので、やむを得ず俺はしばらく滞在することになった。
衣食住だけでは対価としては足りないので、俺は文字の読み書きを教えてもらうことにした。
また休憩時間は市場を見回って、このあたりの相場と売っている物を把握。
現場での話は市場にも伝わっているらしく、一躍有名人になってしまった。
「あんちゃん、あんたすげえな!」
「今度一緒に飲みに行こうぜ」
等々、親しくしてくれた人が結構な数いた。
そして俺が依頼された工事が一段落すると、三人娘たちが出撃して一度帰ってきたので出迎えて……まだ幼く、男が怖いナナを一人にするわけにはいかないため、素人娘がやむなく連れて行っている……再度失策をした。
怪我をしていた兵士の治療を行ってしまったのだ。
現代知識は医療に関しても十分に注意すべきことを失念した。
負傷兵の医療室までついていって絶句したのだ。
なんと血止めしている布をとると……汚れたままの患部がでてきたのだ。
そして衛生という概念が出来たのがつい最近……近代……だったということを思い出した。
そのためずいぶんと兵士が苦しそうにしていたので、気力で治療を行った。
気力といっても相手の気を活性化させるためのもののため、目立つような治療にはなってなかったが……それでもみるみるうちに顔色がよくなっていったのは、医師としても驚きのようだった。
愚かだった……
死ぬことはなかっただろうが、それでもだいぶ苦しそうにしていた兵士を治療して、幾人もの兵士に感謝されてしまった。
それが妙手娘と片側ポニーの耳に入り……二人に戦闘行為はなしでいいから同行してくれと頭を下げられてしまった。
工事についてももっとも面倒な案件……巨石撤去や、木々の伐採抜根……は一段落していたので、俺としても俺でなければ進まない仕事がない状況だった。
片側ポニーとしては、素人娘とナナを陣地に残していくのがどうしても心配らしい。
まぁ片側ポニーとちみっこは最前線に出るだろうしな……
義勇軍とはいえ男の中に無力な女と幼女では、心配するなという方が無理かもしれない。
俺が軍医のような立場で陣地に残っていれば、万が一陣地が襲撃を受けても素人娘とナナは安全だと考えたようだ。
打算的だが……ナナを見捨てるわけにもいかないかぁ……
本当はいきたくなかったが、しかしナナを助けた責任と、近いうちに押しつけることを考慮して、俺はやむなく賊討伐に従軍した。
またその際俺は素人娘のそばで、ナナに従者としての知識を教える限り教えた。
孤児院がないため、このまま素人娘と行動をともにするのなら、最低限の仕事が出来なければいけない。
故に素人娘の身の回りの世話や、炊事洗濯といった最低限の知識を素人娘を介して教えた。
意外と言ってはあれだが、素人娘も基本が出来ていたので助かった。
元は町娘というから……まぁ当然か……
素人娘と協力してナナを教育していく。
文字の読み書きは従軍中も暇な時間を見て、素人娘が俺とナナの面倒を見てくれた。
また従軍の役割は完全に軍医と護衛のつもりだったのが……出された料理があまりにも無味乾燥すぎてぶちぎれた。
「こんなの食ってられるか!」
と、料理人魂に火がついて……俺は
足りない物は現地調達を行って料理を振る舞った。
当然俺が持ち込んだ台車にある現代の調味料は一切使用していないが……そんなものは腕と知識だけでどうとでも出来た。
「うまい!」
「なんだこりゃ!?」
食事はただのエネルギー補給……と割り切るしかなかった食事が一転して団らんの場となってしまった。
こうなるともう止まらなかった。
医療行為に護衛に食事。
相当貢献したと言っても過言じゃないだろう。
貢献しすぎてしまったと……言ってよかった。
まずい、抜け出せなくなるかもしれない……と若干不安になるほど慕われてしまった。
しかしそれも当然といえた。
何せ医療行為で救われた命が多々あり、さらに料理がうまい。
この時代……というかこれから遙か未来に至っても、従軍中の食事というのは本当にエネルギー補給のことしか考えてない。
栄養バランスも悪く、なによりまずい。
本当にまずい……恐ろしいほどにまずかったのだ。
……雑でした
時代を考えれば当たり前だが。
その食事を劇的にうまくした……といっても食材が限られており、食材自体もそこまでおいしくないので俺としてはかなり我慢していたが……とあっては、兵から慕われない方が無理という物だった。
従軍に伴ってある程度貢献したら旅に出るとは伝えているので、抜け出せなくなることはないだろうが……俺自身が後ろ髪を引かれてしまうかもしれなかった。
まぁ……旅に出ることは間違いないがな……
別段自ら人に嫌われる行為をするつもりはないが、それでも居心地がよすぎるのも考え物といえるだろう。
また長居しすぎたことも事実だった。
実に数ヶ月……いるからなぁ……
従軍と一言言っても、一日二日で終わるような物ではない。
千人規模の軍隊の移動だ。
全員が馬に乗っているわけではなく、ほとんどが徒歩だ。
当然一度の従軍は十日から二十日ほどかかる。
何度も従軍すれば必然長くなる。
騎乗もできたが、俺は自らの足で動いた方が即応できるので徒歩で従軍していた。
それも兵士と距離を縮めることになってしまった。
すでに五度ほど従軍しているので顔見知りも多くなっており、親しくしているやつもそれなりにいた。
「刀月さん、今回が従軍終わりって本当ですか?」
「あぁ。俺は元々旅人だ。今のところどこかに仕えるつもりはない」
「このまま一緒に義勇軍として戦いましょうよ!」
「断る」
馴れ馴れしい奴というか親しい奴は、実に無遠慮に俺にそんな事を言ってくる。
今回で最後の従軍にすると妙手娘にも伝えており、渋々許可ももらっている。
妙手娘としても俺のことは手放したくなかったらしいが……それでも最初からそう時間をおかずに消えると約束していたので、本当に渋々だったが最後には納得してもらった。
その話がどうやら従軍中の劉備隊……義勇軍をまとめた新設の部隊であり、名前の通り素人娘の部隊……にも伝わっているらしく、歩いていても、陣地を張って休憩しても、いろんな奴らが俺にこのままいてほしいとお願いに来ていた。
そのことごとくを俺ははねつけたが。
あ~~~~~~疲れた
気疲れの多い行軍だった。
行軍の際は驚くべきことに俺専用の天幕が用意されており、俺はこの隊の隊長である素人娘のすぐ隣の天幕で一人、夜を過ごしていた。
結構いい扱いを受けているが……まぁ地位的に言えば結構なところにいるしな
隊長は素人娘。
副隊長は片側ポニー。
その下に俺がいたりする。
地位なんぞ面倒なだけで正直いらなかったが、それでもほかの連中からしたらそれだけの働きをしてしまったと言うことだろう。
やれやれ。現代知識で引っかき回すってのはあまりやっちゃいけないんだろうが……まぁ異世界だから別にいいか?
タイムパラドックスなどを考えると避けた方がいいのだろうが……この世界はどう考えても俺の世界の過去の時代ではない。
そう考えればある程度割り切ってもいいだろう。
すでに時刻は深夜。
今回は盗賊討伐が空振りだったため怪我人が出ることもなく実に平和な行軍といえた。
そして従軍するたびにこの世界……というよりもこの時代の貧しさをひしひしと感じてしまった。
廃村となった村は多々あり、襲われた村、飢餓で人が死に絶えた村。
あまりにも悲惨だった。
唯一の救いはそれなりに時間が経過しているため、腐った遺体がなかったことぐらいだろう。
そんな村を見るたびに、素人娘が本当に悲痛な表情をしていた。
もちろん片側ポニーにちみっこ。
そして兵士たちも。
俺もその一人だった。
実際にこんな貧しい時代にくるとは予想しなかったから……少々こたえるな
現実世界にも貧しい村はいっぱいあった。
だがそれでも……全員が全員飢餓で骨と皮になっている村はまれだった。
ましてや貧しさが原因で滅んだ村を……俺は目にしたことがなかった。
紛争なんかで爆破された村はよく見てたんだが……な……
どうやらモンスターワールドに聖杯戦争のほぼ丸二年。
た紛争地域に行くことがなかったこともあって、俺もだいぶ耐性が落ちているようだった。
当然それで動けなくなるということはないのだが……それでも前よりも心にくるものがあった。
まぁ……それが普通か……
耐性がなくなったと見るべきか……それとも正常に戻ったのか。
それはわからなかった。
だがそれでも止まれない理由があった。
帰らないとな……
己の世界に責任を果たしに帰る。
それは俺が己に課した責任だ。
そのために幾人もの人と別れてきたのだ。
止まるわけにはいかず、止まる気もなかった。
気弱になってるな……気合いを入れるか
すでに深夜のためあまり声を出すことも出来ないが、それでも俺は己がすべきことを行うだけと気合いを入れて……従軍するに伴って行っている作業を、天幕の中で進めていた。
従軍に伴った食材探しの時などに、まっすぐに伸びた丈夫そうな樹木を見つけて、俺は気力を使用して太い枝を折って運び込んでいた。
天幕の中で周囲にばれないように注意しつつ、俺は紫炎の力を発動し、枝の中の水分を完全に蒸発させる。
そして堅くしまった枝を作り上げて、スローイングナイフで長い杖を作り上げていた。
突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにもはずれざりけり……神武不殺の真骨頂
文字の読み書きの授業がないときや深夜等に、天幕の中で杖術のための棒を制作していた。
といっても俺が今制作しているのは槍のように長い六尺ほど……杖術は乳切木といって、己の乳首あたりの長さで切った杖を使用する……の棒だった。
転ばぬ先の杖にもなるし長い棒は道具としても重宝する。
すでに何度かの従軍で、六本ほどの棒や杖に木刀を十本ほど、作成を終えていた。
今回刀が使えないための護身具であり苦肉の策だが、最悪薪にしてもいい。
そうして俺が黙々と棒を作成していると、不意に天幕の前までやってくる気配をとらえた。
その気配から俺は誰がきたのかすぐにわかったのだが……しかし用件がわからなかった。
「刀月……起きているか?」
それなりに覚悟を決めてきたのか……片側ポニーは天幕の入り口前で俺を呼びかけてきた。
当然起きていたので、俺は一度作業の手を止めてもう一つ椅子を用意した。
「あぁ」
「少しいいか?」
「かまわんよ」
何をしにきたのかは疑問だったが、別段断る理由もないので俺は片側ポニーを招き入れた。
槍こそ持っていなかったが、それでも何か覚悟を決めた様子だったので……俺も居住まいを正した。
ささっと作業していた机を綺麗にして、椅子を勧める。
「お疲れ様だな」
「……それはお互い様だろう」
賊討伐と一言で言えば簡単だが、やっていることは人殺しだ。
また賊と言っても中には腕の立つ者もいないわけではない。
片側ポニーには遠く及ばないだろうがそれでも自らの大儀のため、槍を振るって賊を殺すのが疲れないわけがないだろう。
明日の昼前には妙手娘の幽州に帰陣するとはいえ、何が起こるのかわからない。
休憩時間を割いてでも俺にところに来たのは何か話があってのことだろう。
俺は片側ポニーが話を始めるのを待った。
「この前の話なのだが……」
この前の話?
だがそう待たずに片側ポニーは口を開いてそう言ってきた。
一瞬何の話かわからなかった俺だが……すぐに何の話か察した。
貸しの話か……
俺がこの世界に来て初めて三人と出会ったあの日。
この世界の常識を知らなかった俺がうっかりと……前にも言ったが人前で軽々しく大事にしている名を呼ぶのはどうかと思うが……真名を呼んでしまった日の見張り番のときの話だろう。
真名を読んでしまった無礼の代わりに、貸しを一つ作るという。
つまり何かしろということか?
貸しの話で真っ先に思いつくのがこのまま義勇軍に参加しろ……というのが思い浮かんだが、しかし片側ポニーの真剣な表情を見れば、そんなある種卑怯なことではないことがすぐにわかった。
片側ポニー……関羽は俺の目をまっすぐに見つめてこういってきた。
「今は余裕がないためできないが……いつか機会があったら私と仕合をしてもらえないか?」
「仕合だと?」
関羽の発言があまりに意外だったため、俺は思わずオウム返しのように言葉を繰り返していた。
仕合。
関羽の真剣な態度と表情を考えれば、真剣勝負のことを言っているのだろう。
仕合の意味はわかるのだが……何故貸しの内容をそんなことにしてきたのかはわからかった。
俺、何かしたか?
別段真剣勝負をするのは気持ち的……刀が抜けないため俺は本気が出せない……には問題なかったが、仕合を行うという結論に至った理由がわからなかった。
しかも今すぐじゃなく……機会があったら?
この従軍を最後に俺が抜けることは片側ポニーも承知のはず。
ならばこの場で勝負を挑んできてもいいものだが……いつかの機会にという。
俺が死ぬことはないが……まだこの世界のことが完全にわかっているわけではないのでおそらくだが……片側ポニーが死ぬことは十分にあり得た。
片側ポニーが歴史的にすごい人物であることは、俺の世界の歴史で多少は知っている……といっても、俺は俺の世界における関羽がいつ、どこで、どのように死ぬのかは知らないのだが……が、それでもこの世界とは違うため参考適度にしかならない。
またこの世界における関羽の強さは、恐らく武将クラスで言えば平均的な強さと俺は考えていた。
俺が知りうる限りの知識で出会った武将は劉備、関羽、張飛、馬超だ。
劉備に関しては俺の世界でもそこまで強くなかったと認識しており、実際素人娘も弱い。
だが張飛や馬超については、この世界の二人にすでに出会っている。
さらに馬岱もあわせた三人と比較しても、片側ポニーが飛び抜けて……この三人の中では間違いなく関羽が一番強いが……強い訳ではない。
よってほかの国の武将たち……魏と呉……も片側ポニーと同等であると考えていた。
恐らく呂布がもっとも強いのだろうが……呂布がどこで死ぬとか俺は知らん
ほかの武将たちも同程度の腕であると仮定すれば……片側ポニーが敗北によって死ぬことはあり得ないとは言い切れない。
異世界であるため俺の世界の歴史は参考程度に考えるが、片側ポニーも人だ。
死ぬときは死ぬだろう。
正直わからないことが多すぎる上に、刀が抜けないため断ろうとも考えたが、それでもまっすぐに見つめてきたその瞳に宿った強固な意志を感じ取って、俺はその願いを拒否する気にはならなかった。
何を考えているのかはわからないが、それでも俺との仕合に何かを模索していると感じ取ったからだ。
まぁ……最悪木刀でもいいか
真剣に挑んできた相手に木刀で戦うのはあれだが……それでも抜けない以上は我慢してもらうしかないだろう。
何か思うところがあってのお願いのようなので、できればこちらも本気で相手をしたいが……そこはそのときの状況次第だろう。
「わかった」
想定外だったが真剣な願いであり、また別段無理難題でもないため、無碍にするつもりはなかった。
俺の返事に片側ポニーは静かにうなずいて、すぐに席を立った。
「周囲を見回ってくる」
「……よろしく」
陣地を張っているので当然見張りも立っており、周囲の様子を見に行く必要がないことは俺がもっともわかっていたが、どうやら片側ポニーは先ほどより盗み聞きをしだした存在に気を遣って席を立ったようだ。
本当は休んだ方がいいのだろうが、俺は無粋なことはせず、見回りをお願いした。
まぁといっても? 絶対に何かあったらすぐに駆けつけられる位置に待機はしてるんだろうけど
俺は男で、今盗み聞きをしている存在は女だ。
故に当然間違いがあることもあり得なくはない……実際あり得ないのだが……ので、いくらある程度信頼できても警戒するのは当然のこと。
また今から話をするのは片側ポニーが慕っている存在で、なおかつ自分を守ることすらも難しい力量しかない主君なら、心配するのも当然だろう。
本当に……苦労人だなぁ……
天幕より出て行くその背中に苦笑しつつ、俺は盗み聞きしていた人物が天幕の入り口へと移動したのを感じて……そしてそのままその人物は固まった。
……まぁ入りにくいんだろうな
気配から言って素人娘一人。
先にも言ったが、俺が襲うつもりなどない全くないが、男と女であることに代わりはない。
当然間違いがあることもあり得なくはない……しつこいかもしれないがあり得ない……ので、いくらある程度信頼できても男一人の天幕に入るのは勇気が必要だろう。
やれやれだ……
俺はそんな素人娘に苦笑しつつ、紫炎の力を使用して火を興し……天幕の中でも火が使えるように、金属の箱を作成してもらい、それに竹の節をくり抜いた煙突をはめた……鉄鍋を用いて湯を沸かす。
さすがに茶などは貴重品のため持ち出せないためただの白湯だが……それでも何もないよりはましだろう。
「いつまでそうしているんだ? 隊長」
「!?」
すでに深夜のため、あまり声を出さなくても十分に聞こえる距離だ。
俺の呼びかけに、天幕の入り口から実に驚いている様子がひしひしと伝わってきたが……それでも相手にも準備が必要だと思い、俺はせかすことなく静かに待った。
「え、えっと……わかってたんですか?」
「まぁな」
やがて覚悟が出来たのか、素人娘……劉備が天幕へと入ってきた。
俺はそんな劉備に対して別段言葉を多く発することもなく、椀二つに白湯を注いで一つは俺の前に、もう一つは空席の椅子の前へとおいた。
「その……少しいいですか?」
「かまわんよ」
椀を二つ用意しているのでわかってはいるのだろうが……それでも確認しておきたいという気持ちの表れなのか、劉備は時間がほしいと俺に確認をとってくる。
数度の従軍、今回で俺が抜けるということ、さらに劉備自身の雰囲気、俺の歴史の劉備の知識で何となく話の内容が読めている俺は、静かに劉備が椅子に腰掛けるのを待った。
三国志を詳しくない俺だが……それでもいくつか知っていることはあるからな
三国志というよりも歴史的知識が少ないが、それでも劉備がどのような人物だったのかはわかっている。
俺の世界の歴史でという前置きはつく上に、男女という違いはあるが……いやこれはだいぶ大きな違いか?……それでも恐らくそう変わらないだろう。
これから劉備が何を言おうとしているのかも理解できた。
「刀月さんは……本当に天の御遣い様じゃないんですよね?」
すでに何度も言っているが、それでも確認したいのだろう。
確かに天の御遣いではないが、それでも俺はあまりにも万能過ぎた。
料理に医療、なによりも身体能力。
俺が今目にしている武人は関羽に張飛、馬超、馬岱だ。
俺が知りうる限りの有名でかつ強力な武人だったと言われているが、正直全員が束になってかかってきても、俺は軽くあしらえる。
俺が知る限りでは三国志最強は呂布だったと思うが……関羽の力量を考えると、恐らく負けることはないだろう。
俺自身が天の御遣いは否定しているが、あまりにも超人過ぎて天の御遣いであると思えてしまう。
天の御遣いと名乗れば……天の御遣いに「なれて」しまう。
劉備にそこまで打算はないだろうが、それでも天の御遣いと思いたいのかもしれない。
すがると言うよりも、再度の確認という意味合いだととれたので、俺は怒るわけでもなく呆れるでもなく……だが淡々と一言で否定した。
「違う」
天の御遣いであることを拒絶する意味合いもある。
俺の否定と拒絶の意味がきちんとわかっているのだろう。
劉備は俺の一言の否定に気を悪くするでもなく、ただ残念そうに苦笑していた。
「やっぱりそうなんですよね」
わかっていたことだが残念なことに変わりはないのだろう。
劉備は俺に一言お礼を言ってから、白湯を一口飲み込んだ。
俺はただ何をするでもなく、そんな劉備を見つめていた。
「なら刀月さんはどこから来たんですか?」
「……遠いところだ」
真名すらも知らないことで、俺がこの大陸の人間じゃないことはわかっているはずだし、そう伝えている。
ただただ確認するように言葉を紡ぐことに、思うところがないでもなかったが……こいつも真剣になって言葉を紡いでいるのがわかったので、俺はただただ劉備が言い出すのを待っていた。
知っている故先回りするのも手だが……それではこいつの気持ちが浮かばれん
「刀月さんは今回で幽州から出て行くって話ですけど……これからどうするんですか?」
「……正直どうしようかよくわかっていない」
これは本音だった。
とりあえず何をすればいいのかもわからないので、この従軍が終わり次第あてどなくこの大陸を見て回るのも面白いだろう。
幸いにして今のところこの世界で危機を感じるような要素はない。
魔力の濃度から鑑みても、少なくとも古龍のような生物がいるとは思えなかった。
刀が抜けない状況で「古龍」と対峙するのは……対処可能だが面倒だしな
「だったら……このまま私たちと一緒に義勇軍に参加しませんか!?」
ようやく決心がついたのだろう。
劉備は飲み終えた椀を強く握りしめながら、俺をまっすぐ見つめてそういってきた。
俺はその瞳から目を逸らさずに……まっすぐに見つめ返す。
「私は……この大陸を平和にするために、誰かがやらなくちゃいけないことだと思うんです」
「……」
「税金も重くて、盗賊たちもいっぱいいます。みんなが安心して暮らすために世の中を……もっと平和にしたい。平和に暮らせるような場所に出来たらって思ってるんです」
拙く、文にもなっていない、まだまとめ切れてもいない言葉。
思いだけが先走り……思わず口にしているという感じだった。
だが、その言葉には真摯に、真剣に、心から……この大陸を平和にしたいという思いが溢れ出ていた。
「平和にしようっていいながら……愛紗ちゃんや鈴々ちゃんに戦うことをお願いしているのも、おかしいってわかってます。でも何もしないままじゃ! 虐げられている人たちは虐げられたままだから……」
口惜しそうに顔を歪めて……悔しそうに劉備は自らの手を握りしめる。
確かに力はないのだろう。
初めてあったときの盗賊相手でも、この娘は一瞬にして敗北するだろう。
「愛紗ちゃんや鈴々ちゃんが力を貸してくれたから、私はいまここにいます。私は……自分に出来る限りのことをしたいんです」
まだ自信はないのだろう。
その言葉は俺に言っているというよりも、自分に言い聞かせているかのようだった。
何かができないかと自らを守る力がないにもかかわらず、立ち上がったのは賞賛に値するし、行動を起こすということは純粋に尊敬できた。
俺には力がある。
長くきつい修行の果てに身につけた力は、この大陸では無敵を誇る……現状で絶対とは言い切れないが……と言っていい。
俺はどうあっても力がある故、気持ちはわからないが……それでも能力だけでなく、修行にて培ってきた全ての力を失ってなお、悪党を前にして立ち向かえるのかどうかは、絶対に出来ると言い切れる自信はなかった。
だが……
「二人に迷惑をかけているのはわかってます。だけど私は私に出来ることを力の限りしたい! この大陸を平和にするためにも! だから刀月さん!」
「あなたの力を……私に貸してくれませんか!」
揺れながらも、それでもまっすぐにみつめてくるその瞳には、弱々しくも確かな強さを持った意志の炎が揺らめいていた。
まだ時代が浅い故に、政治等の力は絶対的だ。
そんな中、ただの一個人に過ぎない小娘が、こうして立ち上がるのは相当の胆力が必要だろう。
頼もしい味方がいるのも助けになっているのだろうが、それでもこの娘の胆力は好感が持てた。
だが……俺の答えは決まっていた。
「申し訳ないが、それはできない」
「! どうしてですか!?」
会ってからも何度もそのうち別れると言っていた故に、断られることは予想していたのだろう。
だがそれでも一緒に義勇軍に参加してほしいと思った。
まだ知り合ってから日は浅いが、素人娘は俺が有用であり有能である……それだけで、こうして誘いをかけているわけではないことはわかっていた。
兵士や幽州の人たちともうまい人付き合いをしていたのも、勧誘してきた理由の一つだろう。
ただただ優しい娘なのだ。
そうでなければ己の身を守る力量すら持たないこの娘が……己が天下を取ると言った大望ではなく、ただただ平和にしたい、笑顔を増やしたいという理由で腐敗を正すために立ち上がるなど、出来るわけがない。
俺自身も、劉備……この素人娘には好感を覚えていた。
だがそれでも……どうしても俺にはこの義勇軍に参加したくない理由があった。
「お前の人を救うために立ち上がる……それは本当にすごいことだと思うし、尊敬もする」
「……」
「だが、前から言っているとおり俺は旅人だ。まだこの大陸のことをよくわかってない」
「それなら……」
「そしてこれが一番の理由だが……俺はお前の考えに心から賛同することが出来ないんだ」
天下太平のために立ち上がる……ってのがな……
人々を幸せにするために立ち上がる。
それは本当にすごいことだ。
素晴らしいことだと思う。
また劉備が卑下している、自らに戦う力がないから自分と志を同じくする強者を戦わせることに、嫌悪感を抱いている訳でもない。
だが俺は……人のために天下太平を目指すという、それが好きになれなかった。
所詮俺も俗物ってことだな
歴史に名を残した偉人の一人、劉備。
俺が知りうる限りの俺の世界の劉備も、人のために立ち上がった人物だったはずだ。
関羽や張飛もその劉備に賛同した情に厚く、義を重んじた。
そんな人物と違って、俺はその考えに……あまり賛同したくなかった。
俺は俺のために生きている。
俺は未熟者であり、その未熟な己を押してまで、赤の他人に手を伸ばすことは出来なかった。
悪人殺しをしていたのは人を救うためだったが、それでもそれと同じくらいに自らの修行のためにという意味合いもあり、そして何よりも重要なのが俺は悪人殺しをしたかったという立派な動機があった。
無論殺人狂というわけではなく、クソ野郎を一人でも減らしたかったのだ。
後は純粋にこの世界を見て回りたいというのもあるが、それ以上に何をすればいいのかを考えないといけない
まだこの世界で何をしなければいかないのかがわかってない。
命題もわからない状況で自らを縛る状況に陥りたくなかったのだ。
ぶっちゃけ、このまま義勇軍に参加した場合なんかの役職が任されて、自由に動けなくなりそうなので拒否したいというのも、正直な理由の一つだった。
自分の意志と同じように……俺の意志も固いことがわかったのだろう。
劉備は悲痛な顔をしたまま、ただ俯いてしまう。
俯くときに……少し涙くんでいたのを見つけてしまった。
……しかし劉備が女とか……本当にやりにくいな、おい
これが男だったらさっさとたたき出すのだが……しかし女にそこまで手荒なことは出来なかった。
別段フェミニストではないが、それでも意を決して俺のことが必要だと言ってきた娘を、このままにするのは何となく良心の呵責があった。
やれやれ……
しょうがなく俺は再度劉備の椀に白湯を注いで、落ち着くための時間を少しとり……言葉を紡いだ。
「別段俺がいなくてもお前は間違いなく、この義勇軍の隊長だ。そして義勇軍がいなくても、関羽に張飛という大事な妹分がいる」
「……」
「そして昔なじみとはいえ、公孫賛もお前のことは認めており、助けてくれている。俺は一緒の隊として従軍したことはないが、馬超や馬岱も力を貸してくれたと聞いている」
馬超に馬岱。
騎乗兵としてはこの大陸に名を轟かせている涼州馬家の一族らしい。
現在の当主である馬騰には、あの関羽すらも敬意を表しているという。
その娘が力を貸してくれたというのだ。
「人の話をきちんと聞いて、そして自らの理想を押しつけることもなく、相手のことも尊重する。そしてお前のその持ち前の優しさが、人を惹きつけているし……助けたいと思うのだろう。だから自分が戦う力がないと卑下することはない」
俺が断った理由を否定するわけでもなく、自らの考えを押しつけるでもなく、尊重した。
俺が言った言葉の意味を、思いをきちんと劉備は理解した。
自らに戦う力がないのに隊を預かっている。
それが劉備としては心暗いことだったのだろう。
俺の言葉に、劉備は俯きながら首を横に振った。
「でもそれは……無責任じゃないですか?」
「確かに戦う力がないのに人を戦わせている事実は変わりないだろう。だが……それは俺だって一緒のことだぞ?」
「え?」
刀月さんの言葉に私は驚くと同時に、少し不愉快に感じてしまった。
愛紗ちゃんすらも圧倒し、認める強さを持った人が……戦う力がないなんて。
私の気持ちがわかっているのかいないのかはわからないけど……刀月さんは苦笑しながら言葉を続けた。
「もちろん俺には戦う力がないわけではない。だが俺は自らの事情で戦っていない。確かに前提は違うかもしれないが、お前と一緒で戦っている訳ではない。そうだろう?」
「それは……そうかもしれないですけど」
確かに刀月さんは私たちと一緒に賊討伐に出ていながらも、自らは戦っていない。
でもそれでも戦えることには変わりない。
私が不満なのがわかっているのだろう。
刀月さんは笑った。
「へりくつ過ぎたか? でも本当のことだ。俺は戦える力があるのに戦っていない。ある意味お前よりも質が悪いと思わないか? 強い癖して戦ってないって」
「そんなこと……」
「実際、義勇軍の中には俺が戦わないことに不平不満を口にしているやつもいた」
その言葉に、私はなぜかぎくりとしてしまった。
私は直接聞いた訳じゃないけど、愛紗ちゃんがそういっていた兵士がいたと言っていたから。
別段私は責めるつもりなんてなかったし、一緒に来てくれたことが嬉しかったから気にしてなかったけど……本人の口からそう言われると、なぜか心が痛かった。
「まぁ別に気にしてないからそれはどうでもいい。強いくせして戦わないことに文句を言うのはしょうがないことだろう。実際に俺はお前と一緒で戦っていない。それどころか……俺はお前の読み書きの生徒だぞ? 隊長の貴重な時間を割いてもらっている」
「それは……そうですけど……」
「さらにいえば、俺は男を恐れているという理由で、ナナをお前たちに押しつけている」
今までのひょうひょうとした言葉と違って……その言葉にはひどくつらそうな響きが混じっていた。
ナナちゃんについては仕方ないことだと思う。
ナナちゃん自身は刀月さんを慕っているみたいだけど……それでも体と心が男である刀月さんを恐れて近寄れていない。
刀月さんは明言してないけど……ナナちゃんを救ったあの小屋の中はひどい有様だった。
正直……私も手伝っているときに吐き気を催した位だった。
そんな状況下で過ごしたナナちゃんが、どれほどつらかったのかなんて想像も出来ない。
それにナナちゃんについては初めて会った時から、男を恐れているナナちゃんの面倒を見ることは出来ないので、面倒を見てほしいとお願いされているから、別段気にしていなかった。
もしかしたら刀月さんが一番つらかったのかもしれない。
助けた子供に……避けられてしまっている事実に。
「あの子を助けたのは俺だ。だが俺ではどう足掻いてもあの子を救ってあげられない。だからそれをお前に助けてもらっている……俺に出来ないことをお願いしている」
出来ないこと……
その言葉で、はっとなった。
刀月さんが何を言いたいのかわかったから。
私が理解したことがわかっているのだろう。
刀月さんは苦々しく笑うのではなく……小さく微笑んでくれた。
「俺は戦えるが戦わない。その代わり医療に料理が出来るが、小さな子供一人救うことが出来ない。だがお前なら子供を……ナナを救ってあげられる。そんなお前のために力を貸してくれる人がいる。ならそれでいいんだよ。出来ること、出来ないことがあるのは人間なら当然だ」
手に持った椀の中の白湯を見ながら……刀月さんは独り言のように呟いていた。
まるでその小さな水面の先に写った……別の何かを見ているかのように。
「自分がすべきことに対して、必死になってやればいいさ。そして自分が出来ないところを他の人に助けてもらう。同じように自分もその人が出来ないけど、自分が出来ることをしてあげればいい。それが人って生き物だろう」
一度目を閉じて……刀月さんは寂しげに微笑みながら肩をすくめていた。
暗いはずの空間なのに……その姿はあまりにも眩しく見えた。
何かを乗り越えてきたのだと……わかったから
その眩しくないはずなのに眩しく見えたその姿が……すごく頼もしく見えて……
だけど……どうしてだろう?
どこか寂しげに見えたのは私の気のせいだったのかな……
俺の言葉を聞いて、劉備は先ほどのふてくされたかのような態度が霧散していた。
俺が言いたいことはわかったのだろう。
確かに戦う力はないかもしれない。
だがそれはしょうがないことなのだ。
人間全てを持っているわけがない、不完全な生物なのだから。
それでも足掻いて、藻掻いて……前に進んでいくのが人間という生命なのだ。
だから、自らに出来ることを一生懸命にやっていれば、他の人から好かれるし、好いたからこそ助けたいと思う。
人と人とが支え合って、人……か
どこかの教師が言っていた言葉だ。
まぁ本来「人」という文字は象形文字で、人が足を踏み出したのを横から見た姿を漢字にしたものであって、支え合う姿を漢字にしているわけではない……というのは有名な話だと思う。
いやそんなことはどうでもいいか
どうやら迷いは吹っ切れたらしく、劉備は笑顔で俺にこういった。
「私、頑張ります! 自分に出来ることを必死になってがんばって……誰かのために出来ることをします!」
「それでいいと思うぞ」
「はい!」
「明日も早い……。もう休んだ方がいい」
「はい! お休みなさい!」
説教じみたことを言う俺自身に失笑しつつ、俺は笑顔で劉備に……素人娘に休むように促した。
お節介だったと思えるし、またどの口がいうのだろうかと……本当に心の底から己のことを嫌悪したが……
まぁ……たまにはな……
明日にも去るはずだというのに実に面倒なことになったような気がする。
だがもう過ぎてしまったのは事実故……ため息をつきながら、俺も作業を続ける気にならなくなって、寝た。
そして次の日に従軍を終えて、妙手娘に報告を行い、俺は旅立ちの準備を行った。
旅に出るので保存食の買い込み、衣服の調達、包丁や洗濯板の日用品。
水を保存するための瓶等を買い込んだ。
「世話になった」
従軍より次の日……俺は城の前で見送りに来てくれた三人娘に妙手娘、そしてナナと別れを告げていた。
「本当に残念だが……またこのあたりに来たらよってくれ。歓迎する」
「感謝する、公孫賛殿」
素人娘の知り合いというだけだったため、最初こそ怪しんでいた妙手娘だったが、それでも俺の仕事ぶりでそれなりに信頼を得たようだ。
最後に握手をして笑顔で別れることが出来る。
「ばいばいなのだお兄ちゃん! また会ったらおいしいご飯、期待しているのだ!」
「ほいほい」
警戒心がないのか動物に近いのか……ちみっこは最初から最後まで裏表のないのである意味接しやすかった。
「……いつか、頼む」
「……おう」
片側ポニーはなんつうか……何か思い詰めている感じがしたが、悪い様子は見受けられなかったのでとりあえず真剣勝負をする約束を忘れず、そして必ず応えることにした。
「いろいろありがとうございました」
「なに、俺は何もしちゃいないさ」
「そんなことないです!」
素人娘からはずいぶんと信頼されたようだ。
昨日の説教じみた行為も無駄ではなかったということだろう。
そして最後に……俺は素人娘の足にしがみついている、ナナへと目を向ける。
「――ぁ」
何かをしゃべろうとするが、言葉にならなかった。
そして自分が信頼している存在がすぐそばにいるというのに……その小さな身体が小刻みに震えている。
それは仕方のないことだった。
だから俺は静かに、ゆっくりとしゃがみ込んで……ナナへと静かに手を前に差し出した。
「!?」
それすらも恐ろしかったのだろう。
ナナは素人娘の陰に隠れてしまった。
そのまま俺はただ静かに……ナナが素人娘から顔をのぞかせるまで待った。
そして顔をのぞかせたナナに……俺は可能な限り優しい笑顔で、こういった。
「いつか……俺と握手をしてくれな? 約束だぞ?」
その言葉に……ナナは何とか勇気を振り絞って、小さくうなずいてくれた。
これだけ元気に動けるならきっと大丈夫だろう。
赤の他人ですら救いたいと願う、優しいお人好しの素人娘のそばにいるのだから、あまり心配はしてなかった。
「では失礼する」
そうして俺は旅だった。
ちなみに時刻は夜だったりする。
何でかって?
また総出で見送られそうで嫌だったからだよ……
工事現場の連中が押し寄せてきそうだったので、寝静まった時間を狙っての旅立ち。
ものすごく既視感のある旅立ちとなってしまった。
夜逃げパート2……ふっ……
自分の奇怪な行動に苦笑しつつ、俺は幽州の地から旅立ち……ひたすら東を目指すことにした。
別段深い理由はなかったが、東に向かえばそのうち海に行き着く。
そうすれば生活に困ることはないだろう。
塩を作って魚を捕って……とりあえず人との関わりを断って修行するかなぁ……
前回と違って魔力濃度が濃い。
濃いと言っても現代社会よりはという前置きがつくが、それがもっとも修行には適していると言って良い。
モンスターワールドほどではないが現代よりも魔力濃度が濃いこの世界では、ある意味もっとも魔力の……古龍の能力の慣熟訓練を行うのにうってつけといえるだろう。
またこの世界なら最悪人に見られても世界中に情報が拡散することもない。
その代わりと言っては何だが……下手すると仙人としてあがめられるか、妖術使いとして討伐されるかだが……
そのときは逃げればいいだろう。
実に適当な計画だったが……それでも方向性はある程度定まった。
さて……どうなることやら
不安と期待に胸を膨らませず……俺はただただ走っていた。
そのときはまだ気づいていなかった……。
この世界にも明確な敵がいるという……その事実に。
どうでしょう?
刃夜がようやく
無敵主人公(笑)
汚名返上、名誉挽回になる時がきたのか!?
こうご期待!