荒野に轟くねじり金棒の凪払い(仮)   作:刀馬鹿

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投稿が遅れて申し訳ありません

少々私事でごたごたがありまして、全ての事にやる気をなくしておりました

ですが漸く少しエンジンがかかったので投稿しました

まぁいつものごとく全然進まないんですがw

それでもよければお読みください




投獄と護送

鉄を磨いていた。

色々と持ち込んだ物の中には手入れ道具もある。

ねじり金棒はこの世界に来てから鍛えた物故に、専用の道具があるわけではない……というか専用の道具なんて手ぬぐいと油程度で十分……のだが、手入れをしない理由はないので、適当な布を水で濡らしてねじり金棒を拭いていた。

 

こびりついた……血を拭くために。

 

 

 

まぁ……大して付着してないんだけど……

 

 

 

力任せに振ったとはいえ……いや力任せに振ったからこそ、ほとんど付着してないという方が正しいだろう。

ねじり金棒は確かに幾重にも段差がある故に、こそぎ落とそうと思えば出来なくはない。

だが段差が鋭利ではない……刃物ではないので当たり前だが……ので、力任せに振るえばこそぎ落とす前に吹き飛んでいる。

鎧を纏っている奴はいないようだったが、毛皮を纏っている奴が多く、ねじり金棒で打撃されたところで打撃箇所から血が出るわけがない。

吐血したところでその前に吹き飛んでいる。

 

 

 

だが……俺の一撃で体が半分に分断されて死んだ奴がいたのも事実だった。

 

 

 

……ほとんど血の臭いもしなかったのだが

 

戦闘や活動の影響に直結すると言っても良い五感の一つに気づかないほど、俺は怒り狂っていたのだろう。

もしくは俺の怒りに狩竜が呼応していたのか?

 

俺の怒りに狩竜が呼応したのか、狩竜に俺が呼応したのかは……わからんが……

 

これは言い訳かも知れない。

確かにあのとき……俺は激情に駆られて怒りにまかせて暴れ回った。

久しぶりだったから、あれほど怒ったのも事実だろう。

狩竜の煌黒邪神が何か悪さをしたのも、可能性としては捨てきれない。

だが……それでも俺が怒りに逆らわず周囲の全てを否定して、暴力を振るったのは事実なのだ。

 

未熟だなぁ……

 

今は吐き出したがために安定しているが……暴れていたときはマジで危なかった。

 

 

 

真面目に……自分が自分でなくなるほどに……

 

 

 

怒り狂っていた。

ゆえにこそ……ただ怒っただけではないと思うことになった。

確かに久しぶりで、怒り狂っていた。

ぬるま湯に浸かって、精神安定の修行を怠っていたのもあるだろう。

だが、それでもあそこまで怒りにまみれたのが……不思議でならない。

 

あれ以来それなりに精神修行も積んだのだが……

 

外的要因……というか自分ではなくよそに責任を押しつけるのは、全く持って褒められた事ではない。

しかし……五感すらも狂うほどに怒り狂ったのは、さすがに俺自身首をかしげるしかなかった。

 

道化眼鏡が何かしたのか?

 

精神防御の修行も積んでいるには積んでいるが、異世界に飛ばされてからは……というかこの世界に来てからは、戦闘に関連する事に関しては本当に修行が出来てない。

呪術において、道化眼鏡は間違いなく今までの敵を見返しても、トップクラスだ。

その敵から精神攻撃を受けていた場合……程度にもよるだろうが、抵抗できるのか自信がなかった。

 

しかし……本格的に外道な手段に出てきたな……

 

俺自身の未熟さも反省すべきだが……相手の戦法と外道さについて、見誤っていたのは間違いなく反省すべきだ。

相手が一番何を嫌がるのか?

それを考えるのが戦争であり戦いだ。

それに対して、敵は実に効率的な一手を仕掛けてきたと言っていい。

 

ホントに……致命的なまでに有効な一手だった……

 

思い出すだけでも、はらわたが煮えくり返るほどだ。

よもや敵の傀儡術が、あれほど常軌を逸していたとは想像できなかった。

操れる数が多いだけでなく、質も相当高いというのは驚きだった。

しかも道化眼鏡はその場にいなかった。

遠隔による傀儡。

呪術に関しては、全く勝てる未来が思い浮かばない。

これで本人を目の前にして他の連中に傀儡術をされたら……目に映る人物全て操れたとしても俺は驚かないだろう。

 

そして……その一手で俺は致命的なミスを犯した……

 

不殺の戒め。

これを再び破ってしまった。

一度目は平行世界という……俺と同じあの世界にはいないはずの存在。

もう一人は……恐らくすでに死人だったと言っていい存在。

そして最後の一人は……人ではなかった。

人ではないから殺して良いという……そんな身勝手な理論を言うつもりはない。

だが明らかに……この世全ての悪(アンリ・マユ)は通常の生命ではない。

そして言い訳をするのであれば……絶対的にどうしようもない理由があった。

殺さなければいけないという……大義名分があった。

正義の味方を気取るつもりはないが……あの時の殺害は、絶対的に正しいと言えるだろう。

 

 

 

その全てが……戒めを破るに足る理由があった。

 

 

 

だが今回の殺害は違う。

敵が巧妙に隠していたという理由はあるし、殺そうと思って殺したわけではない。

それでも……俺が何の理由もなく人を殺してしまったのだ。

これ以上人を殺したという責任を負うわけには……いかないというのに。

 

相変わらず……この地に骨を埋める気はないしなぁ……

 

モンスターワールドでは、諦めて覚悟を決めなければいけないと思っていた。

何せ平行世界に飛ばすという……実におかしな芸当を身内がしているとは、思わなかったのだから。

だが冬木に移動し、さらにこの世界にきた。

あの二人が一体何を考えているのかはまだ確信に至ってないが……平行世界を移動できると言うことは、つまり帰ることが出来ると言うこと。

ならば俺は自らの世界で決めていた自らの命題のために、命がけで挑んでいくという当初の目的から変える理由がどこにもない。

平行世界ということでけっこう好き勝手やっている……品種改良の種子を植えて商売するのは、歴史に大きなゆがみを及ぼすのは目に見えてる……が、最低限の節度と仁義と道徳は守らなければ、本当の意味で外道になってしまう。

それは……後継者関係の事も、当然のように含まれている。

 

まぁ時代が時代なので……本当に種だけでもくれと、本気で言ってるんだろうけどな

 

それもある意味で良いのかも知れない。

本人がそれでいいと言った上で俺が同意するのならば……ぶっちゃけ姦通するのも悪くはないのだろう。

だが……さすがにそれは俺には躊躇われた。

 

考えが古いのかもしれんが……いやこの場合かなり新しいというか遙か未来の考えになるのか?

 

と、実に下らない事を思考してしまう。

現実逃避に他ならなかった。

しかし……考えるといっても真面目に悩ましい問題ではあった。

それはすなわち……

 

俺が全ての陣営から離れて、単独行動をするべきかどうかを……

 

道化眼鏡が俺の周りに対して、外道な方法をしてくると言うのは今回証明されてしまった。

俺がいなくなったところで攻勢をやめてくるとは思えないが……それでも被害にあう可能性は低くなるはずだ。

もしくは逆に、俺が足手まといのそばから離れるのを嫌って、もっと過激に傀儡術をしてくるか。

後者はほぼないと思っていた。

あれほど強力で致命的とも言える傀儡術を気軽に利用できるのであれば、今までしてこない理由がない。

余力がないのは、ほぼ間違いないと見て良いだろう。

 

そして……俺と同じ平行世界の人間とは……

 

 

 

『まぁあの男はあなたほど出鱈目ではなかったですがね。ましてやこちらにも同じ……というよりもうり二つの男がいたのは驚きでしたが……』

 

 

 

奴はこういった。

うり二つの男という情報だけだが……男で特徴的な人間は、俺を除けば今のところ三名のみ。

北郷と貂蝉と卑弥呼だ。

そして俺ほど出鱈目ではないというのならば……貂蝉と卑弥呼は除外していい。

あいつらも俺と同レベルの怪物だからだ。

ならば……残りは北郷のみ。

俺ほど出鱈目……という風に、俺と比較していると言うことは、俺と何かしら共通点がある奴のことを言っていることになる。

武力的な意味合いでないのであれば……後はもう平行世界という共通点しかない。

北郷にうり二つというのなら……間違いなく平行世界の話だろう。

『あの男』と言っていたので確信は持てないが……それでも可能性としてもっとも高いのは北郷だった。

何故平行世界を渡ってきたのかは謎だが……今この世界で行っている外道なことと、北郷に邪魔されたという台詞から考えても、ろくな事はしてないだろう。

そしてこれがもっとも大きな理由だが……北郷は間違いなく平行世界からの来訪者だ。

これだけそろえばほぼ間違いなく、あの男とやらは北郷で決まりだ。

それはいいだろう。

だが……そうなると目的がわからない。

 

平行世界を越えてきてまで……何がしたいんだ?

 

敵の目的が不明だ。

狩竜が反応したこともあり、黒い陰に似た何かがこの世界にあるのは間違いない。

その黒い陰を使って何かをしたいのだろうが……そうなるとわざわざ平行世界からこちらにきた理由がわからない。

 

それとも……順序が違うのか?

 

黒い陰を利用しようとしているのは間違いないだろう。

平行世界から飛んできたのもほぼ間違いない。

そうなると、黒い陰を持ってこの世界に飛んできたのか?

それとも飛んできたこの世界に黒い陰があったのか?

という事になるが、恐らく後者だと思われた。

なぜならば、扱いがあまりにも雑と言うか……一度しか利用していないからだ。

仮に飛ぶ前から持ってきていたとすれば、もっと御していなければおかしい。

 

いやそれとも飛ぶのに力を使って制御できなくなったか?

 

考え出せばきりがない。

そして堂々巡りになってしまっている。

そう思い、俺は一度大きく深呼吸をして……一端頭を空っぽにした。

状況を整理するために。

 

まずは、現在地。

五胡とは目と鼻の先の至近距離。

恐らく俺にとっての敵地の最前線。

 

戦力。

未だ刀全てが抜けないが……それでも気力と魔力は使用可能。

また、古龍の能力も使用可能。

 

敵。

未だ謎が多いが、今回大きな進展。

敵は平行世界からの異世界者。

黒い陰に似た何かを利用しようとしていると思われる。

敵の呪術は俺が足下にも及ばないレベル。

五胡にいる可能性が大いに高い。

 

だが……五胡は間違いなく陽動だろうな……

 

今回の一件で敵は大きく動いた。

どこにいるのかは謎だが……何度も同じ方面から攻撃してくるのは得策ではない。

そして……俺の推論である、黒い陰を御するのを失敗しているないし探っているのであれば……今回あちらも大いに戦果を上げたことになる。

 

俺の暴走で……何かしら得る物があっただろうしな……

 

御する途中、そして俺に何かしら術を仕掛けていた場合……あちらは十分に手応えを覚えたはずだ。

ならば五胡でこれ以上何かをする必要性はないだろう。

正しくは……すぐに動かす必要性がないと言うべきだろう。

 

五胡が敵の本拠地……これはほぼ間違いない。

 

俺が鏖殺した連中の体を何とか冷静に見れば、答えは自ずと出てくる。

あれほどの責め苦をし、さらに俺の怒りに当てられて尚……

 

感情を表に出さなかった人。

 

それだけの傀儡というか人を人形にすることが出来るほどの状況を、五胡で築いているのならばそれを手放す理由がない。

歴史で三国志がどうなったかは俺は知らない。

だが……確か五胡が何かしら絡んでいた気がする。

 

いや、本当に勉強って大事ね……

 

まさか勉強が大事と言うことを……異世界で痛感するとは夢にも思わなんだ。

しかし性別が違ったり黒幕がいる以上、どこまで俺の世界の歴史が通用するかはわからないので、偏見なしで対応できるとプラス思考でいたほうがいいだろう。

 

戦果は敵の姿を見たこと、敵の力量をそれなりに把握できたこと……か……

 

これから俺がどう動くべきなのか考える必要性がある。

というよりも考えざるを得ないと言ったところだろう。

何せ、今回俺は大きな軍紀違反を犯したのだから。

 

最悪……斬首かなぁ?

 

同盟しているとはいえ他国の最前線の城にて、城の主の許可も得ずに勝手に出撃。

これが呉であればまだ言い訳できただろう。

だが他国の城から勝手に出撃したのは……あまりにもまずい。

軍紀はしっかりと保たねば、それは崩壊の発端になる。

何かしらの処罰は下されるのは間違いない。

そして最前線での勝手な行動というのは……かなり重たい罪だ。

 

五胡の連中退かせたから帳消しにしてくれるといいんだが……

勝手な行動したが、功は大きい。

何せ一人で敵軍を追い払ったのだから。

罪と功。

どちらも決して軽くはない。

故にどう処罰されるのかがわからない。

 

そして処罰次第で……俺は三国全てを敵に回す恐れもある。

 

斬首だったら……逃げるしかないしなぁ……

 

俺は俺のために動いている以上、死ねと言われて素直に死ぬことはしない。

故に斬首であれば逃げるし、逃げることは絶対に出来る。

だがその場合……いくら客将扱いとはいえ呉の顔に泥を塗ることになり、また処罰から逃げた存在である人間を、魏は色んな意味で絶対に受け入れず、そして蜀であっても迎え入れるわけがない。

そのため、逃亡というのは間違いなく三国の協力を得ることも、利用することも出来なくなると言うことに他ならない。

敵の攻撃手段が妖術だけでないことがわかったので、こちらとしても人海戦術は手札にしておきたいところ。

しかし三国からつまはじきにされてしまっては……それも敵わなくなる。

 

新興国家ってもなぁ……

 

出来なくはないが、大きくなるのに時間がかかりすぎる。

漸くしっぽを掴んだ以上、そんなに時間をかけたくないのも事実だった。

 

まぁといっても、処罰の内容は俺としては推し量ることしかできないし……待つしかないか……

 

ある意味でちょうど良かったかも知れない。

何も気にせず、考え事と手入れが出来る状況というのは、久しくなかった。

ともかく……人事を尽くして天命を待つほど大げさではないが、今の俺にはどうにもならない。

 

黒幕がちょっかいかけてくるまでは、おとなしくしておきますかね……

 

現実逃避というか……久しぶりの休暇と開き直って俺はだらだらすることにした。

 

 

 

 

 

 

「五胡からの侵攻があったってホント!?」

「桃香様、落ち着いてください」

 

蜀の都、成都。

その城の王の間に駆け込んできたのは、主である劉備だった。

別の場所で視察と会議を行っていたのだが、急報を聞いて駆けつけてきたのだ。

すでに五胡の襲撃から数日が経った日の昼である。

侵攻され壊滅の憂き目にあったのだが、刀月がそれを一蹴してしまった。

本来危機が去ったため早馬で届ける理由はあまりないのだが、刀月が軍紀違反を犯したと言うこともあり、その処遇のために早馬で情報が届けられたのだ。

危急と言うこともあり、王の劉備より先に軍師である諸葛亮が中身を確認し、街の有力者達と会議を行っていた劉備へと使いを出して呼んだのだ。

先に書状を読むこと、また劉備を呼び出すと言うことはかなり異例なことなのだが……その辺り劉備は全く気にしていなかった。

また内容が内容なので、街中で話をするわけにはいかなかったという理由もあるにはあった。

 

「状況は!?」

「と、桃香様、とりあえず落ち着いてください。侵攻されたのは事実みたいですが、城に被害は出てないそうです」

「被害がない?」

 

その言葉に劉備は荒々しく繰り返していた呼吸を整えながらも、首をかしげるしかなかった。

五胡が小競り合いというか……何度も小規模な攻撃をしてきたのは事実だった。

だがその全てが「侵攻」と呼べるほどの規模ではなかった。

そのため今までの書状では侵攻という言葉は使われたことはなかった。

しかし今回その言葉が使われたということは、それほどの規模の敵が攻めてきたと言うこと。

だからこそ防衛の城がとんでもないことになっていると思い、必死になって走ってきたのだ。

何故被害が出なかったのか?

そう考えて……思い当たる人間が一人いることに、劉備は気がついた。

 

「もしかして、刀月さんが?」

「……はい」

 

今までと違う侵攻という規模の攻撃。

だが防衛の城も先日までと違うところがあった。

 

刀月の存在である。

 

刀月がなんとかしてくれたのだと劉備は楽観的に考え、とりあえず被害がないことが嬉しいと言うように笑みを見せたが……すぐにその顔が再び疑問に曇る。

まだ諸葛亮からの報告を全て聞いてないからだ。

先に書状を読んだ諸葛亮がむずかしい顔をしている。

それだけで、何かしらの問題が起こったことは想像に難くなかった。

 

「……朱里ちゃん、書状を見せて」

「はい」

 

一度深呼吸をして、劉備は改めて王として……軍師の諸葛亮に指示を出す。

それに逆らうことなく、諸葛亮は手に持っていた書状を渡した。

渡した後も、非常に厳しい表情をしている諸葛亮の表情に不安を覚えながらも……劉備は毅然とした態度で書状を読んでいき、驚きに目を剥いた。

 

「え……刀月さんが出陣して軍紀違反?」

 

思わず口にした言葉。

その言葉に、諸葛亮の側でおどおどしながらたたずんでいた鳳統も、沈んだ表情をしている。

むずかしい問題なのだから、それも当然といえば当然だったが。

しばし無言で書状を読み進めた劉備。

そして書状を読み終えると……二人と同じようにむずかしい表情をする。

 

「……軍紀違反かぁ」

 

思わずというように……劉備の口からそんな言葉が漏れ出ていた。

軍紀違反という意味では……蜀は平和だったのだ。

蜀は新興国家だ。

それも乱世をどうにかするという義によって興った国だ。

最初は義勇兵から出発したこともあり、軍紀違反を犯すような人物がほとんどいなかったのだ。

元々自分たちも貧しかったという事もあって、略奪や横領が基本的になかった。

また最前線で立っている武将が、厳格とも言える関羽と言うこともあって、違反を起こすことが出来なかったという理由もあった。

 

「軍紀違反って……基本的にどうすればいいのかな?」

 

そのため、どのように処罰をすれば良いのか、劉備には全くわからなかった。

 

「程度にもよりますけど……今回の場合現場の総大将である翠さんの許可も得ずに勝手に出陣したので、それなりに罪が重くなります。勝手な出陣をしたことで被害などが大きく出た場合は最悪な状況ですが、今回の場合で言えばそんなに重くはないと思います」

 

鳳統が一般的な回答を口にする。

総大将の許可を得ずに勝手に出陣した。

これは確かな事実だ。

だがそれによって壊滅的な被害を被ったのかと言えば……そんなことはなかった。

今回の刀月の出陣の仕方は、門を開いて出て行ったわけではなく、城壁の上から飛び降りての出陣だ。

門が開かれたことで敵がなだれ込むきっかけを作ったわけでもないので、最悪の場合は勝手な行動をした将一人という事実でしかない。

 

「今回の内容が正しいのであれば……数日牢に繋ぐ程度で問題ないと思います」

 

しかしそれはあくまでも……

 

「ですがそれは蜀の人間が起こした場合は……ということです」

 

自らの言葉を否定するように、鳳統がそう言葉を重ねた。

そして今回の勝手に出陣したのが誰なのかを改めて認識して……この場にいる三人全員が溜息を吐かざるを得なかった。

 

「刀月さん……だもんね。今回の軍紀違反って……」

「はい。厄介なことに他国の人間の刀月さんです」

 

諸葛亮は自らに再度聞かせるように、事実を口にした。

蜀の人間ならば、それ相応の処罰を下して話が終わる。

だが今回の軍紀違反は刀月……他国の人間だ。

そう簡単に処罰を下すわけにはいかないが、罰しないというのもあり得ない。

だがしかし厄介なのが……刀月のおかげで城が壊滅しなかったという揺るぎない事実があった。

ほぼ間違いなく、刀月がいなければ城が崩壊し……そしてその事実を知らぬままにこの成都まで敵がなだれ込んできて、蜀は滅んでいた。

そう考えられるのが容易なほどの、戦力だった。

それを防いだという功績はかなり大きい。

 

文字通り、存亡の危機を救った英雄なのだから。

 

「過度に厳しく罰せば同盟に支障を来す恐れがあるし……緩すぎれば軍紀違反が常態化する恐れもあるよね?」

「それは間違いないです。だから細心の注意を持って対応しなければ……」

 

押し黙ってしまった諸葛亮の代わりに、鳳統が劉備に答える。

一番の頭脳である諸葛亮が、主である劉備の言葉を返す余裕がないほどに、頭脳を働かせている状況だった。

無論主である劉備も考えるが……そう簡単に妙案が浮かぶほど頭脳明晰ではなかった。

決して馬鹿ではないのだが……今この場にいる三人の中では間違いなくもっとも知略に欠ける存在だろう。

 

「しゅ、朱里ちゃん。罰を与えなければいけないのは間違いないけど……果たして刀月さんが受けてくれるかな?」

「それは大丈夫。刀月さん、物事はキチンとしている人だから……あまりにも無理難題でないならキチンとしてくれるはずだよ」

 

鳳統の心配を、劉備ははっきりと否定した。

劉備とて刀月とそこまで親しいわけではない。

だがそれでも……人を見る目がある劉備のその観察眼は正しく、また劉備の人を見る目に関しては、蜀の人間は誰もが疑っていなかった。

 

「そうですね……それは私もそう思います」

 

諸葛亮も劉備の言葉を否定する気にはなれなかった。

今までの功績やら人柄を鑑みるに、責任感がある人間だと言うことは察することが出来る。

無責任になろうと思えば絶対になれる……それだけの力を有しているので横暴に振る舞うことが出来るという意味で……が、それを明らかに嫌っている節があるからだ。

その時点で人格について疑う余地もない。

そしてそれを鑑みるに……今回独断行動を行ったのには、理由があるのだという考えに至るのは、そうむずかしいことではなかった。

 

「とりあえず……独断行動に出た理由を、聞く必要性があると思います」

「そうだね。それは間違いないと思う」

 

諸葛亮の言葉に、劉備は大きく頷いていた。

そして言葉を発した諸葛亮が……腕を組み顎に手を添えて、深く考え込んでいる姿を目にする。

劉備自身、己に力がないことは熟知していた。

勉学の師である廬植(ろしょく)から出来る方であると褒められたことはあるので、決して無能と言うことはないとも思っていた。

だが……全てにおいて突出した物がないことも、重々自覚していた。

 

武力、知力。

 

この二つが他の二国の王である曹操、孫策と比してどちらも劣っているということも。

そんな己がこうして三国の一つとして国をまとめられているのは、まごう事なき仲間がいるからだということを、痛いほど理解していた。

そして……そんな頭脳においては、三国の頭脳陣営の中でも突出していると、断言できる諸葛亮が頭を悩ませている。

それだけにこの問題がどれだけ重いと言うことが、馬鹿にでもわかると思っていた。

 

だが……この案件に関しては、劉備の心はすでに決まっていた。

 

 

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃん」

 

 

 

悩んでいる二人へと声をかける。

しかし先ほどと違い……その声は確固たる意志を感じさせる声だった。

それに気づいてその場にいる諸葛亮、鳳統は……はっとしたように劉備へと視線を投じる。

その視線の先には……普段の優しげな雰囲気とは一線を画し、真剣な表情をした劉備の顔があった。

 

「今回の案件が、私たちにとっても初めてといっても良い……本当に重い軍紀違反ってことは十分理解しているよ」

 

無論、今までの蜀にも汚職なり軍紀違反が皆無だったわけではない。

だがそれでも、これほど重い状況の軍紀違反は今までなかった。

 

「はい」

「さっき朱里ちゃんが言ったように話を聞く時は、刀月さんだけでなく翠ちゃんや愛紗ちゃんにも話を聞かなきゃだし、二人にも出席して欲しいと思ってる」

「はい」

 

 

 

「その上でお願い」

 

 

 

そこで言葉を切り……劉備は一度目を閉じて自らの思いを反芻した。

 

本当にそれでいいのか?

 

間違っているのではないか?

 

自問自答する思い、間違っているのではないかという恐怖。

 

様々な思いがその胸に去来する。

 

それでもなお……劉備は今の自分の思いが間違ってないと……

 

そう信じて……言葉を紡いだ。

 

 

 

「今回の一件……私に預からせてくれないかな?」

 

 

 

まごう事なき王命だ。

だが劉備にそんなつもりはない。

強制するつもりはない。

 

心から……お願いをしていた。

 

その真摯な思いと言葉、その態度を見て……

 

二人は何も言わず、ただ居住まいを正して静かに頭を下げた。

 

 

 

「「御意」」

 

 

 

そしてその後……ある程度の方針を固めて、諸葛亮が文をしたためて早馬で、翠達へと書状が渡された。

その手紙には……

 

 

 

 

 

 

「護送しろだぁ?」

 

牢屋にやってきた呂蒙と尾行娘。

二人はすぐさま俺の牢の前で跪いて頭を垂れた。

そして呂蒙から聞いた言葉に……俺は思わずそのままオウム返しのように言葉を発していた。

 

「はい……」

 

数日の監獄生活は……実に久しぶりに退屈な時間だった。

罰と言うこともあり一日一食。

それもかなり簡素な飯。

牢も別段狭いわけでもない……一応将などのある程度お偉いさんを捕らえておくような座敷牢みたいな牢屋だった……のだが、それでもねじり金棒を振り回せるほど広いわけもない。

 

荷物もあるし……

 

その上台車などの荷物もあるが、なんとか筋トレする程度のスペースは出来ていた。

日課……手応えを感じてはいないのだが、習慣で毎日刀達に気を込める作業……もあるし、俺のやばい荷物を放っておく訳にはいかないからだ。

だが今俺がいるのは牢屋である。

一応トイレはぼっとん便所みたいになっていたこともあって、最低限の清潔さはあったがそれだけだ。

行水など出来るわけもなく……今の俺は間違いなく、ここ数年でもっとも薄汚い状況にあるだろう。

 

ヒゲも伸びたしな……

 

しかも俺以外に牢屋に放られている人間もいない。

そのため……柵ごしの呂蒙が臭いなどで不快に思っているのは想像に難くなかった。

 

まぁそんなことはどうでもいいか

 

久しぶりの会話ということもあり、実に無駄な反応をしてしまった。

それを反省しつつ……俺は今呂蒙から伝えられた言葉を考える。

 

護送……ということはまだ囚人というか、そういう扱いということか……

 

護送とはいくつかの意味があるが……今回の場合はその中でも『囚人などの人物を、保護、監視しつつ別の場所に移送する』という意味になるだろう。

そして別の場所……つまり俺の送り先というのは当然……

 

「一度成都に帰るって事だな」

「……そうなります」

 

呂蒙は実に沈痛な面持ちでそう返してくる。

尾行娘は何故か知らんが、跪いて顔を下げたまま微動だにしていなかった。

尾行娘は謎だが、呂蒙に関しては俺の数日の不摂生……まぁせざるを得なかったのだが……が祟ったことに対して顔をしかめている……

 

というわけではないだろうな……

 

1%も入ってないとは思えないが……そんな簡単なことではないだろう。

良くも悪くもため込むというか……考え過ぎてしまう呂蒙のことだから、俺が今こんな状況になっていることにたいして、思うところがあるのだろう。

 

あまり気にしなくて良いんだがな……

 

独断専行というか、勝手な行動をしたのは間違いなく俺なのだから。

しかも今回のは本当に重い。

マジで処刑もあり得るレベルだ。

 

というかそれもあるから……気に病んでんのかね?

 

尾行娘に関しては俺に刃を向けたこととか、完全に操られてしまったことだろう。

それぐらいしか尾行娘がここまで悲観する理由が見あたらなかった。

そしてその場合……敵の外道度がさらに上がる結果になる。

 

操ってても意識はあるんだな……

 

俺への嫌がらせで意識を保ったまま、尾行娘に傀儡術を使ったのだろう。

確かに相手の嫌がることをするのが戦争だが……それにしてもあまりにも外道すぎたことをした場合は戦争犯罪ということにもなりかねない。

 

その辺の道徳は……現代に比べて半々ってところだろうなぁ……

 

まだ歴史的に見ても世界が育ってない時期だ。

そしてそれは人も同じであり、外道な手段をすることもあるだろう。

現代と違い情報の遮断が容易だからだ。

捕虜の虐殺なんかもやろうと思えば出来る。

村々の略奪なども、簡単に行えるだろう。

現代では情報の遮断がむずかしく、また他国の情報も手に入れることが出来る。

そのため捕虜虐殺などは国際社会が許してくれないが……戦争ではなく違法組織などが高度に外道なことをすることもあり得るわけで。

 

 

 

結局……人も獣と同じだな……

 

 

 

もっと正しく言えば、人も獣なのだ。

 

「同じ」という……そのように扱うではなく……

 

 

 

まごうことなく……人も獣なのだ。

 

 

 

特に顕著なのが俺の前回の激昂状態の時だろう。

怒り狂ったあのときの俺は間違いなく獣だった。

 

いや……暴れるだけで生産的な行為を出来てないから獣以下だな……

 

獣における殺生というのは弱肉強食の世界であり、他の命を糧にして己を生きていくための殺害行為だ。

怒り狂い……ただ殺しただけという行為をするはずもなかった……。

 

 

 

一応……快楽のためではないからまだ俺も「人」であると思いたいな……

 

 

 

俺は人だ。

 

どれだけの力を持とうと……

 

どれだけの技を持とうと……

 

どんな……心であっても……

 

 

 

俺は人だ。

 

 

 

人でなければ……ならない……

 

ゆえにこそ……言わなければならないことがあった。

 

 

 

周りに人もいないし……ちょうどいいか……

 

 

 

気を遣ったのかそれとも信用しているのか……蜀の人間は今この場にいない。

密談しようと思えば出来る状況にするのは、あまり褒められた事ではないが……俺がいるからいてもいなくても、あまり関係がないと思って配置してないのだろう。

 

牢屋なんて破ろうと思えば簡単に破れるし……

 

その辺がわかっているからこそ、俺や呉の心証を悪くしないためというのが、蜀の人間がいない理由だろう。

その配慮に感謝しつつ、俺は沈んでいる二人に言葉をかける。

 

 

 

 

 

 

「あまり気にするな、呂蒙」

 

護送されると言われても、刀月様は淡々とその事実を受け入れた。

護送されることになってしまったのは、刀月様の軍紀違反。

これは間違いない。

だけど、あのとき刀月様が出陣しなければ、今この城が無事ではなかっただろう。

そんな刀月様の立場を、微妙な立場に追い込んでしまったのは……間違いなく私の失態だった。

 

「……しかし」

 

だからこそ……刀月様の言葉に、私は返す言葉が見つからなかった。

今回の軍紀違反はかなり重い。

下手をすれば、本当に斬首だってあり得なくはない。

その場合、恐らく刀月様はいなくなってしまう。

 

私の前から……いなくなってしまう……

 

 

 

それが恐ろしかった。

 

 

 

刀月様が罰を受けるような状況を、招いてしまったというのに。

処罰から逃げれば……恐らく他の誰もが、刀月様の登用をすることはなくなるだろう。

刀月様の……命の恩人に対して恩を返すどころか、罪人にしてしまった。

 

だけどそれ以上に……私はこの方がいなくなることを恐れていた。

 

 

 

先日……刀月様の姿を見て、怯えたくせに……。

 

 

 

そんな自分勝手な自分に気づいて……動揺したし落胆もした。

だけど……それでもこの方がいなくなってしまうなんて、考えたくなかった。

 

「お前のことだ。どうせ今回の件は己が失策したと考えているんだろうが、はっきり言う。今回は明らかに向こうが一枚上手だった」

「それは……そうかも知れませんが……」

「それと……お前達ならわかるだろうが、今回の五胡の進撃は俺の敵が相手だった。無理もない」

 

……やはり

 

刀月の言葉で、呂蒙は自分の考えが正しかったと判断した。

そしてそれは同じく、この場にいる周泰も一緒だった。

今まで戦に直接関わることで、刀月が動いたのは反董卓連合の呂布との戦の時のみ。

そのときも……明らかに尋常ならざる異常な何かを、呉だけでなく誰もが感じていた。

そして今回の出陣は、将との一騎打ちではなく出陣しての単騎駆けだ。

刀月を動かす確たる何かがあると、二人が思い至るのも難しいことではない。

だがそれがわかったところで……呂蒙はもちろん、周泰も己の失策を払拭することは出来なかった。

 

「まぁ今回の軍紀違反は重いから、それなりの罰は下されるだろう。だが俺が非常に扱いにくい人間な上に、功労もある。恐らく最悪の事態は免れるだろうよ。だから気にするな」

「ですが……」

「それと、先ほどから固まってる周泰」

「は、はい……」

 

「敵の妖術は間違いなく相当なレベ……腕前だ。お前が気に病むことはない」

 

武においては間違いなく、大陸最強と言って間違いない刀月の言葉。

そのため刀月の言っていることは本当なのだと……慰めではないのだと、二人はわかった。

 

それ故に……それは彼女たちにとって、本当に何の慰めにもならなかった。

 

呂蒙は命の恩人でもあり、秘密を明かしてくれていたという、特別な意味を思っていた。

頼りにされていることもわかっていたし、それに十全ではないにしても、応えられていると思っていた。

だからこそ……今回の失策は心に刺さった。

 

周泰としても己の感情に気づいてないが、それでも優しくしてくれた存在であり、何よりも頼りになり、初めて自分を捕らえてくれた存在だった。

そして囮に使いつつも、それでも己のことを思って怒ってくれたことも、呂蒙より聞いていた。

 

二人とも初めて意識している男という存在だった。

 

 

 

刀月は。

 

 

 

そんな刀月が処罰を下される状況に陥らせてしまったことが……本当に辛かった。

 

 

 

そんな二人の心情を完全に察している訳ではない。

だが二人を囮に使ったという負い目もあるうえに、刀月としても二人はそれなりに大事にしている存在だった。

それが自らの事で胸を痛めている状況というのは……あまり好ましくない状況であった。

 

まぁ……仕方ない……

 

囮に使ったことも事実。

さらに言えば自分の敵である黒幕が出張ってきたのであれば、間接的とはいえ間違いなく原因は刀月という事になる。

その状況で何もしないのは……刀月としても良いとは思えなかった。

 

「今回の件で罪を問われるのは間違いない。だが俺の功や他国の人間と言うことを考えれば、さすがに斬首はあり得ない」

「それは……」

「それに相手は劉備だ。あの良くも悪くも甘い人間といえる劉備なら、斬首は命じてこないだろう。ナナの件もあるしな」

 

実に最低なことを言っているが……自覚しているからこそ、刀月はあえて口にした。

二人の意識を逸らすという意味もあったからだ。

実際二人は刀月の言葉に、少し驚いたように目を丸くしていた。

それはそうだろう。

周りに人がいないとは言え、他国の人間をここまで舐めて見るというのは、普通は出来ることではない。

しかも言っている相手が、今現在牢に繋がれている状況なのだ。

確かに牢に繋がれていると言うよりは、繋がれてやっている状況と言うことは二人も理解していたが、それでも罪を犯したからこそ牢に入っている訳なので……その上でここまで図太い発言をするとは、思っていなかったのだ。

 

「そして……今回で二人も理解したと思うが、敵は強大だ」

 

その言葉に……二人は刀月の雰囲気が変わったことを察して、居住まいを正した。

刀月があからさまに敵と言ったのが……今回が初めてだったからだ。

また、今回の五胡の件で刀月の敵が強大と言うことは、すぐにわかった。

特に周泰に至っては、傀儡術で実際に意識がありながら操られたのだ。

敵が常軌を逸していることは、文字通り体で理解していた。

 

「恐らく……敵が強大と言うことを理解しているのはこの場にいる三人だけだ。状況が理解出来ない以上、上の連中に言ったところでそこまで信じてもらえないだろう。故に……水面下で動くしかない」

 

正しくは呉の首脳陣は多少は理解しているのだが……実際に黒幕の連中の手練手管を見ていない。

これでは相手がどれだけ厄介であるかを理解するのは無理というものだろう。

 

「しかし……それは……」

「呂蒙が懸念するのももっともだ。水面下とはいえ上の連中に黙って行動するのはむずかしい。故に二人は……とりあえず心構えだけはしておいてくれ」

「それだけ……ですか?」

 

周泰が不思議そうに、そういった。

それはそうだろう。

心構えの有無は確かに大きいが……具体的に行動を起こしていない以上、何もしてないのとほとんど変わらない。

だが……現時点ではそれ以上の事が出来ない事までは、理解できていなかった。

呂蒙は理解しているのか……悔しそうに顔を歪めている。

そんな二人を見て、刀月は苦笑して言葉を続けた。

 

「当たり前だ。何せ黒幕が敵だと認識でいているのは俺達だけだ。そんな状況で表立っても隠れても……行動するのはむずかしいだろう?」

「それは……それはそうですね」

「ついでに言っておくが……相手は恐らく監視の術も使用できる。あからさまな行動を起こすのはかえって危険だ」

「監視の術……ですか?」

「確定じゃないがな」

 

呂蒙の疑問の言葉に、刀月はいらだたしげにそう返すことしか出来なかった。

そしてこれは刀月も知らないことだが……確かに黒幕である于吉には監視というよりも、遠見の術があり定期的に監視はしていたが、まだ于吉としても大事の前の小事でしかない今の状況をそこまで重要視しておらず、あまり頻繁に監視はしていなかった。

 

「まぁともかく今回の件は、敵の実力が垣間見ることが出来たことで由とする考えだ。そしてこのことについては、現況お前達しか知らない。もしもの時は役だってくれ。頼む」

 

頼む。

その言葉は二人に衝撃と同時に喜びをもたらした。

何せ刀月が人に頼み事をすることなどほとんどないのだ。

呂蒙は何度か頼まれたことはあったが、しかし戦闘に直接関係すること……また刀月の敵に対しての頼み事というのは初めてだった。

故に、二人は自然と刀月に向いて跪いて、深々と頭を垂れていた。

 

「「御意」」

 

まるで主に対してするような言葉だった。

実際二人はこの一件で、刀月の役に立つために精進すると、心に決めた瞬間だった。

そんな二人の思いをキチンと受け止めつつ……内心刀月は少し焦った。

 

……なんか逆に面倒事になりそうだなぁ

 

二人がさらに覚悟を決めた感じがして……刀月は逆に内心で冷や汗をかいていた。

だが二人を利用したこともあってあまり強く出れないというか……水を差すのも微妙と思ってただただ苦笑するしかなかった。

 

しかし後に刀月は……この二人によって救われる。

 

二人を傷つけて……

 

そのことをこの三人が……

 

今時点で知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

そして俺が護送に同意……要するに暴れないでくれって言う意味だろう……したことで護送されることになった。

一応牢馬車に積まれた上で連行される。

俺はおとなしく馬車に入って移動中もおとなしくしていた。

また俺が連行されることになったので、連帯責任というわけではないが呉の応援部隊も一緒に戻る。

さすがに他の兵士の目もあるので、牢には何も私物を持ち込めてない。

そのため俺の荷物は全て呂蒙に任せた。

先の失態……ではないんだが……もあってか、ものすごく気合いを入れていた。

それは尾行娘も同じで、馬に引かれる台車の後ろにぴったりと張り付いて、誰も近づけないようにしている。

 

気にしなくて良いのになぁ……

 

どちらかというと、この状況で黒幕に襲われたらやばかいかもしれない。

何せ即応出来ないからだ。

ただ……恐らく大丈夫だと俺は判断していた。

一週間ほどの牢屋生活でも、黒幕が一切行動を起こさなかったのだからだ。

俺からしたらこの状況で襲われた方が面倒……周囲の連中が色んな意味で邪魔……だが、どちらが手を出しやすいかなど考えるまでもない。

 

まぁ……出てきたらそのときはそのときということで……

 

無責任なようだがまだ俺は処分前。

あまり動くわけにも行かないだろう。

そう考えて俺はやることもないので牢の中で、ごろんと横になった。

 

しかしまさか、ほとんどの部隊を撤収させるとはな……

 

少々驚いたが、今回の件で五胡がそれなりに痛手を被ったと判断し、主立った蜀の部隊も成都に戻ることにしたことだ。

情報の伝達だけは絶対に出来るように監視は徹底するように、残った部隊に厳命し蜀の連中も帰還だ。

だが今回俺が護送されると言うことで、あまり明るい雰囲気ではなかった。

特に義勇軍時代の連中もいたこともあって、今回の護送に納得のいってない連中も多く、また俺が護送されている……つまり行軍中の食事があまりよろしくないこともあって、片側ポニーが実に大変そうにしていた。

 

気苦労が多いなぁ……

 

と、実に無責任なことを勝手に思っている俺だった。

そんな俺の思考が読めたのか、片側ポニーがものすごく鋭く俺を睨み付けてきた。

事後処理とか色々大変なのだろう。

その上で俺の面倒事も神経を使う。

片側ポニーも人が良い。

嫌われてはいないと思うので、俺のことでやきもきしているのだろう。

親しくしている奴は、そう考えてくれているのは何となくわかった。

 

逆に言えば……そこまで親しくない奴は俺を警戒してるのもわかっていた。

 

 

 

まぁ……当然だわな……

 

 

 

全員が俺が五胡の連中を吹き飛ばしたのを見ているわけではないだろうが、それでも皆無であるはずがない。

特に軍師である賈駆が、それはそれは警戒した目線を向けてくる。

馬超はそれなりといったところだ。

以前にも親交があって、武人と言うことで俺の強さと己の命を救ってもらったという思いがあるからだろう。

馬岱は本当におっかない者を見る目の中に……わずかばかりの好奇心が見え隠れしているところが、けっこう末恐ろしいと思えてしまった。

 

まぁ俺もだが、得てして武人というか……道を極めようとする人間はやっぱりおかしいわな

 

料理、武術、鍛造。

これら三つが俺にとっての命題であり、生きる意味でもある。

それのためならば……よほどの外道行為でない限り大概のことはしてしまうと、俺は断言が出来た。

武を極めようとしている連中も、大概が同じ思考回路だろう。

だからこそ……俺の圧倒的な武を見てそこまで否定的に見れないという、ある種の呪いのような物がかかってしまっている。

 

一応俺が外道じゃないというのも、理由の一つだろうが……

 

どれほど武が強くとも、そいつが外道であればそいつの武は認めても、武人としては見ることは出来ないだろう。

本当に……呪いといえるようなものだった。

だからこそ……俺は呉でうまくやれていると、言って良いのかも知れない。

呉と蜀を比較というか……実際に見てみてわかったが、呉は完全に戦闘集団だ。

もっと正しく言えば……武将や軍師が一定レベル以上に戦うことが出来る。

強さ的に言えば、褐色ポニー、褐色妖艶が双璧をなしてもっとも強い。

次に褐色襟巻きで、褐色ロングと尾行娘はほぼ一緒。

呂蒙とおっとり眼鏡もほとんど同じだが……恐らく一般兵や普通の武人程度なら普通に良い勝負が出来るだろう。

唯一というべきか、完全に戦うことが出来ないのは褐色知的眼鏡だ。

しかし褐色知的眼鏡も最低限の護身は出来る……といっても褐色知的眼鏡の場合は武人でも少々危ないが……だろう。

対して蜀は……軍師が完全に軍師だ。

ミドリボンにその妹分の魔女リボンは論外。

賈駆は護身は出来る感じだが……少しでも屈強な男であれば恐らく話にもならない。

素人娘は論外レベル。

そして武が至上主義……とまでは言わないが、ともかく武に対してかなりの情熱やら思いが大きい呉という国だからこそ、俺はけっこう好き勝手やれたのかもしれない。

 

改めて考えると……消去法で呉に客将として仕官したのだが、大当たりだったのかもな……

 

好き勝手やったぶんだけ奉仕もしているつもりだが、今後は少し俺も客将といえどももう少し奉仕した方が良いかもしれない……と一瞬考えたが、そうすると連中がつけあがりそうだったので、その考えは速攻却下した。

そんな自分の状況を客観的に見ながら……俺はとりあえずおとなしくしていた。

本当に、護送されているのに実に暢気な物だった。

しかし俺の恐ろしさを再確認したためか、表だって文句を行ってくる輩はいなかった。

まるで腫れ物を扱っているような状況である。

 

さてさて……どうなる事やら……

 

しかしそんなことなどどこ吹く風。

何というか完全に開き直った俺はのんびり……幸い黒幕はおろか、賊の襲撃もなかった……と、牢屋馬車に揺られて成都へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

成都に戻ってきたのは夕刻間近だった。

それはつまり一般的な人は寝る時間だ。

だが武将なんかは、これからもばりばり仕事をする。

俺も本来であれば色々と忙しいのだが、今の俺は罪人。

真っ先に牢屋へと放り込まれた。

面白いのが、俺の荷物が手を触れてはいけない物だとわかっているようで、俺の隣の牢屋に置かれていることだ。

まさにアンタッチャブル。

触れるな危険! といった感じである。

他の連中は五胡の報告やら俺のことで、話し合いを行うのだろう。

会議室にほぼ全ての主立った人物が集まっているのが、気配でわかった。

 

さて、蛇が出るか鬼が出るか……それとも龍が出るか?

 

なんとまぁ実に不思議な状況である。

なんといいうか……本当に不思議な気分だった。

逃げようと思えば逃げられる。

天下を取ろうと思えばすぐに取れる。

黒幕だけを追いかけて……殺しにだって行ける。

 

何もかも忘れて……ひたすら俺の修行だけをすることも出来るはずだ。

 

だというのに……その全てを俺は実行せずに、こうしておとなしく檻に繋がれている。

それは元々だった。

力を有しているし、技もある。

俺自身が強者であるという、確かな自信と自負がある。

だがそれで全てを己の思い通りにするつもりはないし、今までもしてこなかった。

それは、文明も文化も未熟なこの世界においても、変わらなかったし変える気もなかった。

 

それは俺が人でありたいと願うからだ。

 

そのため……俺は異世界では不殺を誓っていた。

 

何せ俺は絶対にその世界から消える。

 

死ぬのではなく消えるのだ。

 

そんな俺が人としてもっともしてはいけない行為……殺人を是とするわけにはいかなかったからだ。

 

 

 

だが……冬木に続いて、俺はこの三国の世界でも人を殺してしまった。

 

 

 

それも……俺を殺すためだけに人体を歪にいじられてしまった、人々を……。

 

 

 

未熟だなぁ……

 

 

 

正直なところ、俺自身まだ心の整理がついていなかったので、このとき何もなかったのはある意味でちょうど良かったと思えた。

呂蒙と尾行娘に対しては、劉備の人柄も鑑みてというか信頼しているというか……まぁ無理難題は言ってこないだろうという、舐めた考えもあったのも事実だった。

 

 

 

しかし……そこで俺は知るのだ。

 

 

 

確かにぱっとしないと言えなくもない。

 

だがそれでも……歴史に名を残した存在の事を軽視しすぎていた。

 

 

 

そして……大事なことを、教えてくれたのだ……

 

 

 





もうちょい……多分後二話くらいかな?
かなり書きたい箇所まであと少し
がんばりま~す
時間はかかるでしょうが、終わらせるつもりはありますので~
今後もよろしくです
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